理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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ようやく長かった麻帆良祭も終わりです


百一話 麻帆良祭終了

 周囲は明るいお祭り気分で賑わっていた。そんな一角で光にあまり照らされていない場所があった。と、そこへ突如光が発生し、一人の男が現れた。

 

 

「むっ……」

 

 

 それはあのスナイパー、ジョンだった。ジョンは自ら強制時間跳躍弾を受けることで、直一から逃げ延びたのである。そして、この場所へと転移して来たのだ。

 

 

「この俺が負けたとはな……」

 

 

 そんなジョンは、自分の敗北を思い返していた。長距離で広範囲に渡る、全方向への射撃すら可能な能力をもらったはずだった。それが超高速での遠距離攻撃により、あっけなく敗北してしまったのだ。まさか、あのような攻撃を仕掛けてくるとは、ジョンも思っていなかったのである。そうジョンが敗北を受け入れているところへ、何者かがやってきた。

 

 

「待ちくたびれたぜ!」

 

「……またお前か」

 

 

 それはやはり直一だった。直一はジョンが強制時間跳躍弾で逃亡したのを知っていた。なので、今回の事件を他の魔法使いに説明した後、この場所へとやって来て待ち構えていたのだ。その直一の姿をみたジョンは、見飽きたというような様子で、静かに息を吐いていた。

 

 

「今度こそ、おとなしくつかまってもらおうか」

 

「今度は一人ではないか……」

 

 

 先ほどは取り逃がしたが、今度は逃がさない。必ず捕まってもらうと、直一は言葉を発した。直一の速度を前に、逃げられる相手はいないだろう。さらに他の魔法使いたちも呼んでおり、完全にジョンを包囲した状態だった。ジョンは周りを見渡し、直一が自分を確実に捕まえにきていることを理解したのである。

 

 

「俺は雇われただけだ。見逃してはもらえんか?」

 

「そうはいかねぇ!」

 

「そうか……」

 

 

 だが、ジョンは往生際が悪かった。この期に及んで見逃してくれと、冷淡な声で言い出したのだ。そんなことは認められるはずもない。直一は当然NOと言った。雇われていたとはいえビフォアの仲間だったのだ。情報はいくらでも聞き出したいのである。NOと言われたジョンは、当然のことかと思いながら、低く小さな声で一言そうかと述べると、すばやく拳銃を握り自分の頭に突きつけたのである。

 

 

「な、何してやがる!?」

 

「逃げられんのなら、せめてな……」

 

「おい! テメェ!」

 

 

 まさかコイツ自殺する気では、周りの魔法使いも直一もそう考え動揺が走った。直一は大声で叫ぶが、逃げられないのならと冷静に語るジョンだった。これはマズイ。直一たちは別にジョンを生け捕りにするのが目的であり、命を奪う気はまったくない。こんなところで死なれたら、夢身が悪くなるというものだ。しかし、下手に動けば、すぐにでも自殺しそうなジョンを前にして、誰もが動くことが出来なくなっていたのである。

 

 

「フフフ、ではな、俊足の男」

 

「待て!」

 

 

 だが、ジョンは笑いながら別れの言葉を述べると、引き金を引き始めたのだ。ゆっくりと、ゆっくりと、死の感覚を味わうように、引き金を引いたのだ。それを見た直一は、自慢の加速でジョンを捕えようとした。それでもジョンの引き金を止めるには、少し時間が足りなかった。

 

 

「なっ!?」

 

 

 そして、弾丸は発射され、ジョンの頭部を打ち抜いたかに見えた。しかし、それは起こらなかった。いや、確かに異変は起きていた。目の前で頭部を撃ち抜いたはずのジョン周囲が、円を描くように歪んでいったのだ。

 

 それはまさに、強制座標転移弾だった。強制座標転移弾は、時間転移が可能だった超とエリックを封じるために使った弾だ。その弾を頭部に撃ち込んで、ジョンはこの場から消え去ったのである。

 

 消えていったジョンの居た場所を眺めながら、驚く表情のまま固まる魔法使いたちと直一。完全にしてやられたという心境だった。まさかこんな隠し弾まで用意していたとは。直一は敵ながら天晴れだと思いつつも、捕まえられなかった無念さをも感じていたのだ。

 

 

「チッ、やってくれるぜ。あの野郎……!」

 

 

 転移したジョンの位置を確実に知ることは不可能だ。この麻帆良内で転移すればわかるかもしれないが、外に出られてしまえばおしまいだからだ。さらに、あのジョンがそのようなミスを犯すとは思えなかった。ゆえに直一は、ジョンの捕獲を失敗したことに舌打ちしながら、次に会う時は容赦しないことを誓ったのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 さらに別の場所で一人の少女が立ち尽くしていた。何かを悩むような仕草で、祭りの雰囲気へ溶け込まずに、少し離れた場所で立っていた。それは千雨だった。千雨は元々大勢の人間に囲まれることを好んではいない。だが、離れた場所に居るのには、なにやら他の理由があるようだ。

 

 

「…………」

 

 

 千雨は先ほどの出来事を思い出しながら、腕を組んで悩んでいた。その出来事とは、あのカズヤが倒れたことだった。

 

 

『おい、これはどういうことだ!?』

 

『長谷川か……。説明する前に、コイツを寝かそう』

 

『お、おう。そうだな……』

 

 

 アジトへ戻ってきた、直一に担がれる法とカズヤを見て、千雨はかなり驚いた。一体どうしたというのか。この戦いにおいて、基本的に傷を負う様なことはないはずだ。なのにどうしてカズヤは意識を失い、法も自分で立てぬほどに疲労しているのだろうか。それを法へ聞くと、その前にカズヤを休ませようと言って来た。完全に意識を手放し、いまだ目覚めぬカズヤを安静に寝かした方が良いからだ。千雨もそれは当然だと思い、すぐさま医務室へと移動したのだ。

 

 

『これで大丈夫だな。俺も別の場所で休んでいる。何かあったら言え』

 

『すまない、直一……』

 

『気にするな。じゃぁな』

 

 

 医務室へ行きカズヤをベッドへ寝かせると、直一は邪魔だと思い別の部屋へと行こうと考えた。法は直一が肩を貸してくれたことへ感謝を述べ、それを聞いた直一は気にするなとニヒルに笑い、その場を後にしたのだった。

 

 

『で、一体何があったんだ?! アイツがぶっ倒れるなんて、どう考えてもおかしいだろ!?』

 

『そうだな。俺たちの能力の説明は、昔したと思うが覚えているか?』

 

『あ、あぁ……』

 

 

 そこへ千雨がどうしてカズヤがこんな状態になったのか、法に迫る勢いで問い詰めた。普段は冴えない男だが、喧嘩になれば生き生きしているのがカズヤだ。こんな風になるのは普通ではないと思い、何があったのか知りたかったのだ。法はとりあえず説明の為に、昔自分たちの能力を説明したことを覚えているか、千雨へ尋ねた。千雨はしっかりとそのことは覚えていたので、とりあえずそれを肯定した。

 

 

『カズヤの能力には大きな代償がある……。普段の能力なら問題ないんだが、腕が金色に輝いて大きくなるヤツ、アレを使うとこうなる』

 

『アレって、武道会でお前と戦った時のやつか?』

 

『そうだ……』

 

 

 自分たちの能力を覚えているなら話が早い。法はそこからさらに、代償があることを語りだした。黄金に輝く大きな腕、あれをカズヤが使うと気を失うと話したのだ。千雨は金色に輝く大きいヤツと聞いて、真っ先にまほら武道会でカズヤが見せた、あの力を思い出していた。それを法へ聞くと、そうだと言葉が返ってきた。

 

 

『カズヤの能力は不完全な部分がある。アレを使うと右腕が侵食され、激痛が伴うようになるんだ』

 

『な、何だと!? 聞いてねーぞ!?』

 

 

 そのカズヤの能力は不完全なものだ。その力を使えば右腕が侵食され、激痛を常に感じるようになる。法は静かにそう語った。千雨はその説明に、無意識のうちに叫んでいた。そんな代償があるなど、まったく話に聞いてなかったからだ。

 

 

『俺も教えていないし、カズヤも話す気などないだろうからな』

 

『何でだよ!?』

 

『これは自分の問題だからだ』

 

 

 だが、法は教える気もなかったし、カズヤも話すはずがないだろう。そう法が言葉にすると、どうしてだと千雨が叫んだ。何故教えてくれなかったと、怒りをあらわにしていたのだ。法はその怒り叫ぶ千雨の前で、静かに口を開いた。そう、これはカズヤや自分の問題であり、千雨には関係のないことだと、そう言ったのだ。

 

 

『で、でもっ、こーなるんなら使わなきゃいいだろう!? 何で無理してんだよアイツ!!』

 

『それがヤツだからだ。カズヤと言う男がそういうヤツだからだ、としか言えん……』

 

 

 だったら最初からそれを使わなければいい。千雨はそう叫んだ。どうして無理してまでそれを使ったのか、千雨にはわからなかったからだ。法はカズヤのことをある程度わかっていたので、それがカズヤだからとしか言えなかった。どんな無茶をしてでも戦う、それがあのカズヤと言う男だからだ。

 

 

『バカなのか!? アイツはバカなのか!? いや、バカだった!!』

 

『そうだ、あの男は本当の大バカだ』

 

 

 それを聞いた千雨はさらに叫んだ、カズヤは馬鹿なのかと。そこで、馬鹿かもしれないではなく、馬鹿だったことを額に手を当てて思い出したようだ。また、法もそこでカズヤを大馬鹿だと称していた。これほどのことが出来るのは、馬鹿ぐらいだと思ったのである。だが、千雨はそう叫んだ後、今度は下を向いて俯き、逆に落ち込んだ様子を見せたのだ。

 

 

『……どうした?』

 

『いや、無理させたのは私のせいかもしれないと思ってよ……』

 

『どうしてだ?』

 

 

 突然の千雨の沈みように、法はどうしたのかと尋ねたのだ。流石に突然落ち込みだすのは奇妙だったからだ。千雨はその理由を、ポツリと語りだした。無理をさせたのはもしかしたら自分なのではないかと、そう言葉にしたのだ。法はそれを聞いて、何故そう思ったのかと聞き返した。無茶したのはカズヤが悪いのであって、千雨が悪い訳ではないと法は思っているからだ。

 

 

『私がアイツに頼んだから。この戦いに巻き込んだから……』

 

『……確かにそうかもしれん』

 

『だ、だろ?』

 

 

 千雨はそう聞かれ、少し心苦しそうに理由を話し始めた。それはカズヤをこの戦いに呼んだから、カズヤがあの力を使って倒れたのだと、そう思ったからだと。法はその答えに、それもあると言葉にした。戦いに呼ばれたというのは確かに原因でもあると、法も少し思ったからだ。千雨はそれに反応し、そのはずだと言っていた。そのとおりだ、自分が悪いと、そう言いたげな表情で。

 

 

『だが、アレを使うことを選んだのはヤツ自身だ。それに、ヤツは全て知った上で使っている。長谷川のせいではない』

 

『だ、だけどよ!』

 

 

 しかし、あの力を使おうと思ったのはカズヤ本人だ。さらにあの力を使えばこうなることを、カズヤは知っていた。自分能力の反動がいかに大きいかを、カズヤは最初から全て理解した上で使ったのだ。ならば、倒れたのは千雨のせいではないと、法は説明したのだ。

 

 それに、呼ばれなくてもカズヤは戦っただろう。あの力を使った可能性もあっただろう。それを見越しての法の意見でもあった。それでも千雨は自分が悪いと思っていた。発端は戦いに呼んだことだ。呼ばなければ使わなかっただろうと、千雨は考えているからだ。

 

 

『それにそうだったとしても、アイツはそんなことを気にするタマじゃない』

 

 

 また、仮にそうだったとしても、カズヤはそんなことを気にはしない。アイツは必要だと判断したからあの力を使ったと、法は考えていたからだ。ならば千雨のせいにして、攻めることもないだろう。カズヤはそういうヤツなのだと、法は千雨へ語りかけていた。

 

 

『だから長谷川、お前が気にすることは何もない』

 

『そ、そうは言うが……』

 

 

 ならば気にしすぎてもしかたがない。あいつが全て選んだのだから、千雨が気負う必要もない。法は千雨を慰めるように、そう言葉にしていた。だが、千雨は今の話を聞いても、いまだ気にしていた。知り合いが戦いに呼んで倒れたのだ、どんな理由があるにせよ、呼んだ自分が悪かった。そう思っているのだ。

 

 その後、千雨は法に言われ渋々とこの野原へと移動してきたが、ずっと心ここにあらずといった状態だった。と言うのも、千雨は後夜祭よりもカズヤの看病しようとした。しかし、そこで法が、自分が残るからそれよりも後夜祭へ行って来いと、そう言ったのである。だから、法の言葉通りに後夜祭へとやってきていた。それでも、その後夜祭の最中でさえ遊ぶこと無く、少し遠くでそのことを考え悩んでいたのだった。

 

 

「私は……、どうすればいいんだ……」

 

 

 その先ほどの出来事を振り返り、千雨は一体どうすればよいのだろうかと、ずっと考えていた。それはエヴァンジェリンからの誘いのことでもあった。魔法を教えてやると言われた千雨だが、そんな非日常的なことはあまりかかわりたくないと思っていた。しかし、カズヤが倒れ寝込んでしまった。そのことで、大きく心が揺れ動いてしまったのだ。

 

 

「いや、そんなもんわかってるだろ……」

 

 

 自分はカズヤや法に何をしてやれるのだろうか。今のままでは何もしてやれないだろう。たぶん法はそんなことなど気にしないはずだ。カズヤも同じだろう。それでも千雨は、彼らの無茶を何とかしてやらなければと思い始めていた。アイツらはきっと、止めても無駄だ。馬鹿だからまた無茶をするだろう。法もだが、特にカズヤはコーラを飲んだらゲップが出るぐらい確実だ。

 

 

「だったら、やることはひとつだ」

 

 

 ならばそうなって今のようになった時、自分が出来ることを増やそう。エヴァンジェリンから魔法を教えてもらおう。そんなことは最初からわかっていたことだ。アイツらの喧嘩もだが、止めることは出来ない。それならせめて、治療ぐらいしてやれと、エヴァンジェリンから言われたではないか。だったらそうすればいい。カズヤの右腕が痛むのであれば、それを温和してやるぐらい、魔法だったら出来るはずだ。そう千雨は考え、エヴァンジェリンに魔法を教えてもらうことを決意したのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 野原の一角にある、長方形の岩の柱が並んだ奇妙な場所。その柱の上で空を眺める少女がいた。超鈴音だ。ビフォアの野望を打ち砕き、もう用は済んだ。だから元居た未来へ帰ろうと、そこでエリックを待っていたのだ。

 

 ただ、ビフォアは麻帆良の魔法使いに捕らえられ、幽閉されてしまった。なので未来に今すぐつれて帰ることは出来なかったようだ。そこへネギがやってきた。超が帰ってしまうと考え寂しげな表情をさせながら、超の立つ柱の近くにあるそれより低い高さの柱へ着地していた。

 

 

「全て終わったネ。 ネギ坊主……」

 

「超さん」

 

 

 ネギがやってきたことに気がつき、超はそのままの姿勢で静かに口を開いた。全て終わった。ビフォアは倒され麻帆良の魔法使いに捕まった。未来から持ってきた新聞記事も変わり、元の安全な未来の麻帆良となった。超の悠長な言葉を聞き、ネギは超の名を呼んでいた。

 

 

「……もう、帰ってしまうんですか……?」

 

「ああ……。ネギ坊主にも話したとおり、私はこの時代の人間ではないからネ」

 

「そうですか……」

 

 

 ネギは超へ、未来に帰ってしまうのかと悲しげに尋ねた。超はその問いを聞き、ネギへと向きなおしてしっかりと答えた。未来に帰るということを。全て終わったのだから、当然未来へ帰る。それは超にとって当然のことだ。

 

 それに未来の人間が2年間も過去で生活していたなど、普通はあってはならないことだ。ゆえに、すぐに帰ろうと超は考えていたのである。ただ、その考えはエリックから口すっぱく言われたことではあったが。また、ネギは納得しない様子で、小さく言葉をもらしていた。

 

 

「……もうすぐドクが迎えに来るネ。それでサヨナラになるヨ」

 

「超さん……」

 

 

 そして、もうすぐエリックがタイムマシンとして改造した車で迎えに来る。それに乗って未来に帰ると、超はそこでお別れだと語っていた。その表情は普段とかわらず冷静ながら小さく笑んだものだったが、内心はどう思っているかわからない感じであった。ネギは再び超の名を呼んだ。どう言葉にすればとどまってくれるだろうかと考えながら、今はそれしか出なかったようだ。

 

 

「あの、ひとつだけ聞きたいことがあります」

 

「何カナ?」

 

「あの人との戦いで使った魔法、それにあの杖は一体……?」

 

「コレのことカ」

 

 

 ただ、それ以外にも気になることがあった。そのことをネギは超へと質問しようと、言葉を発していた。超もネギの問いに、答えられるものなら答えようと、何が聞きたいかを聞き返していた。そして、ネギが知りたかったこと。それはあの超が使った魔法と、機械仕掛けの杖のことだった。それをネギが話すと、超はそっと一枚のカードを取り出し、それを杖へと変化させて見せたのだ。

 

 

「はい、あの魔法は僕たち魔法使いが使っている魔法とは、少し違う気がしました」

 

「流石我がご先祖サマ、なかなか鋭いネ」

 

 

 ビフォアも知っていたような素振りだったが、ビフォアは超がそれを持っていることに対して疑問を投げかけていた。ただ、ネギはそうではなく、魔法そのものについての質問をしたのだ。

 

 何故ネギがそれに疑問を感じたのか。それは超が使った魔法が特殊だったからだ。本来魔法使いたちが使う魔法は、基本的に精霊の力を借りるものだ。自分の魔力を用いて、精霊を操り攻撃、または防御などを行なうのだ。しかし、超が使った魔法はそのような感じではなかった。精霊を使わず、自らの魔力のみで魔法を使っていたのだ。それがネギにとって驚くべきことであり、興味があったのである。

 

 さらに、超が今握っている杖はなんともメカメカしいもので、奇妙な感じだった。確かに杖としての媒体ならば指輪だろうが問題ないのだが、そこに妙な違和感をネギは覚えていたようだ。

 

 そのネギの言葉に、超は非常に関心していた。あの魔法は確かに魔法使いたちが使うものとは別のものだ。それを見ただけで気がつくとはやはり天才、と思いながら小さく笑みを浮かべていた。

 

 

「では、やはり精霊を用いた魔法とは別の……?」

 

「そうヨ。一から説明すると難しい話になるので簡単に説明するネ」

 

 

 超の表情と言葉で、ネギは自分や魔法使いたちが使う魔法とは別のものだと確信した。そこで超は学会で研究を発表するように、ネギへとその魔法と杖について説明を始めたのだ。

 

 

「この杖は私の魔力を用いて、杖の中に記録されている魔法を使うことが出来る特殊なモノネ」

 

「そんなものが……。それも科学ということですか」

 

「科学と言われれば間違えはないカナ」

 

 

 その杖はデバイスである。デバイスは魔法を補助する装置だ。その中に記録されている魔法を、術者に使わせることも可能である。また、その内部に記録されている魔法は、基本的に術者の魔力のみを利用するものだ。つまり、魔力さえあれば誰だって魔法を使えるようになる、不思議アイテムということである。

 

 本来は”リンカーコア”なる器官が存在しなければ、そのデバイスを用いたとしても、魔法が使えないとされている。だが、魔力を生成する役目を持つ器官が”リンカーコア”なので、魔力さえ自己生成出来るのであれば、その魔法を使うことが可能だったのだ。

 

 その説明に、ネギは未来の科学なのではないかと思ったようだ。確かに科学と言われれば間違えないだろうと、超はその意見を肯定した。魔法をプログラムとして扱い呼び出すという動作は、明らかに科学的なものだったからだ。

 

 

「……私は元々魔法が使えなかったカラネ。この杖のおかげで魔法が使えるのダヨ」

 

 

 そして、超は元々魔法が使えない体だった。詠唱が出来ない体質だったのか、それとも精霊を操ることの出来ない体質だったのか、それはわからない。ただ、魔力はあるのに魔法が使えなかったからこそ、そのデバイスにて魔法を使うことが出来るようになったのだ。そのことを思い出しながら、ネギへとゆっくり自分のことを語ったのだ。

 

 

「そして、この杖は()()から頂いた大切なモノネ」

 

「そうだったんですか……」

 

 

 さらに言えば、その杖は偉大なる治癒師たるエヴァンジェリンから受け賜った宝物だ。未来の出来事であるがゆえにその名を出すことは出来ないが、偉人から貰った宝物だと、超は杖を両手で抱きながら穏やかな表情で話していた。

 

 質問の答えを丁寧に説明されたネギは、ある程度満足した様子だった。また、超が杖について最後に述べた時の表情を見て、その杖が本当に大切なものであり、大切な思い出だったのだろうと思ったのである。

 

 

「質問はそれだけカナ? さて、そろそろ迎えが来るはずヨ」

 

 

 その話が終わると、超は杖をカードへと戻し、それを懐へと丁寧にしまった。そして、それで質問は終わりなのかと、ネギへと再び尋ね、なさそうな様子を見て迎えがもう来ることを言葉にしていた。

 

 

「……超さん、せめて卒業までは、とどまってはくれないでしょうか……」

 

「……前も説明したが、私はこの時代の人間ではない」

 

 

 その超の言葉に、ネギは卒業までここに居られないのかと、そう超へと問い掛けた。超はネギの問いに、首を左右に振りながら、この時代の人間ではないと、静かに語りだした。やはり未来人である自分が、ここにとどまるのはいいことではないと、頑としてネギの要求を飲もうとしなかった。

 

 

「だけど……!」

 

「それに、私がこの学園を卒業しても、未来では意味がないネ。だから事件が終わったら、すぐに帰ることにしていたのダヨ」

 

 

 それでもネギは、超に卒業ぐらいしてもらいたかった。このまま居なくなってしまうのは、かなり寂しいことだからだ。しかし、超は首を縦に振ることはない。学園を卒業したところで、未来人たる自分には意味がないことだ。だから、事件が終わったならば、元に戻った未来に帰ると、最初から決めていたと口にしたのだ。

 

 

「……迎えが来たようだネ」

 

「超さん……!」

 

 

 すると遠くから車のライトが光って見えた。しかし、そのライトは奇妙なことに、空中で光っていた。それこそエリックが乗るタイムマシンである証拠だ。それを見た超は、ようやく迎えが来たと言葉をこぼした。ネギはこのままでは超が帰ってしまうと思い、なんとかしようと考えた。だが、やはりその方法や言葉が思い浮かばなかった。

 

 

「……ひとつ忘れていたヨ。コレを渡しておこう」

 

「こっ、これは退学届け……?!」

 

「未来へ帰て無断欠席になるのはしのびないからネ」

 

 

 何とか超を踏みとどめたいと考えるネギ。そこへ超が近づき、ひとつの封書を渡したのだ。そこには丁寧な文字で退学届けと記入されていた。つまり、超は本気で学園を去る気ということだ。超はこのまま未来へ帰れば、学校へ出席出来ない。それでは流石にまずいと言葉にしながら、それをネギへと手渡したのだ。

 

 

「超!」

 

「超さん……」

 

「……古、それにハカセに五月……」

 

 

 そこへ古菲と五月、そして茶々丸と葉加瀬が現れた。超包子の調理場を支配する、ふくよかな体系の少女の四葉五月だ。古菲は五月を抱え柱に立ち、葉加瀬は空を飛ぶ茶々丸に抱えられたまま、超を見ていた。突然の増援に、超は少しだけ寂しげな表情になっていた。やはり友人たちと別れるのはしのびないのだ。

 

 

「超……、故郷へ帰ってしまうって本当アルか……?」

 

「本当のことヨ。最初から決めていたコトだからネ……」

 

 

 古菲は突然の別れに少し困惑していた。そもそも超は戦いが終わるまで、こうなることを葉加瀬たちにしか話してなかったのだ。確かに、この麻帆良祭にて決着がつくだろうとは超も予測していた。しかし、それでもどうなるかまではわからなかった。ゆえに、帰るのはビフォアを確実に倒した後と考え、あまり他の人に話さなかったのである。

 

 そして、超はビフォアを倒したならば、すぐに未来へ帰ることにしていた。未来人である自分が、この場所にとどまり続けるのは危険なのだと、エリックから耳にタコが出来るほどに聞かされていたからだ。ならば、全てが終わった後、すぐにでも帰るしかないと、超はずっと考えていたことだった。

 

 超と古菲、二人が顔を合わせながら、何を話したらいいのやらと悩んでいるその時、またしても新たな増援が現れた。それはあの獅子帝豪だ。それだけではない、氷竜に炎竜、さらには3-Aのメンバーがその二体の腕や肩に乗せられて登場したのだ。誰もが超の帰郷は寝耳に水だった。本当なのかどうかわからないが、誰もが超が居なくなることを寂しく感じていた。

 

 

「超ッ!」

 

「獅子帝、それにみんな……」

 

 

 豪もまた、超と苦楽をともにした仲だ。未来から来た超は、豪の技術力に随分驚かされたことがあった。当然それは転生神の施しであるが、豪がもつ、その現代の技術を超越した科学力に超は興味を持った。基本的に豪は超の支援を受けることはなかったが、それでも茶々丸は豪との共同で開発されたものだったのだ。

 

 豪は超がひっそりと未来に帰ろうとしていることも、うすうす気がついていた。ゆえに、氷竜と炎竜に3-Aのメンバーをつれてきてもらったのだ。

 

 氷竜と炎竜に乗ったクラスメイトたちを見て、超はこの2年間を思い出していた。未来にて同年代の友人など居なかった超は、この2年間が非常に濃厚で楽しいものであったと、回想していたのだ。

 

 また、本当ならばひっそりと居なくなる予定だったのに、余計なことをしれくれたものだと、超は一瞬だけ豪を眼を細くして睨んだ。豪もそれに気がついたのか、苦笑しながらそれを受け流していたのだった。

 

 そして、クラスメイトたちも、静かに超を眺めていた。事情があるならば帰郷も仕方ないと考えつつも、欠けてはならないとも思いながら。

 

 

「超さん、もう一度考え直してください!」

 

「何度聞いても答えは同じヨ。私は自分の時代に帰る、それだけネ」

 

「超さん!」

 

 

 ネギは、超が少しだけだが別れを悲しく感じているのを見逃さなかった。今なら超を説得できるかもしれないと、考え直すよう叫んでいた。しかし、超の考えは変わらない。このまま帰るのが最善で、もっとも正しいことだからだ。それでもネギは諦めたくはなかった。超も自分の大切な生徒だからだ。 

 

 

「いい加減にするネ、ネギ坊主。あまりしつこいと女の子に嫌われるヨ?」

 

「で、でも……!」

 

 

 そんなネギに、超は突っぱねるような言い方で、しつこいと言葉にした。確かに自分を引き止めてくれているのは嬉しくない訳ではない。だが、やはり帰らないとならないと、超は思っているのだ。もはやネギも、そう言われてしまっては言葉を失うしかなかった。

 

 

「行かせてやろう、ネギ君」

 

「獅子帝さん……」

 

「ここで無理に引き止めるのは、彼女の決意に失礼だ……」

 

 

 そんな時、ネギの横へと豪がやってきて、その右手をネギの肩へ乗せていた。また、超の決意はゆるぎないものだと、豪は思っていた。だからここで引き止めるのも、超に悪いだろうと、ネギへと話したのだ。豪のその言葉に、ネギは超を引き止めることをやめようと考えた。彼女の意思を尊重するのも、教師としての仕事だと思ったからだ。

 

 

「……迎えが来るネ。もう行くヨ」

 

「超さん……」

 

 

 そこへ、エリックが乗る飛行する乗用車が、後数秒で到着すると言う位置まで近づいてきていた。超はそれを見ると、別れを惜しむように、もう行くと言葉にしていた。超はもうすぐいなくなってしまう。ネギは非常に寂しそうな表情で、超を眺めていた。

 

 

「……心配無用ヨ! 別にいつだって戻ってこれるネ!」

 

「本当……ですか……?」

 

「火星人、ウソつかないネ!」

 

 

 超は誰もが寂しそうにするのを見て、再び柔らかな笑みを浮かべ、いつでも戻ってこれると話したのだ。確かにエリックのタイムマシンであれば、いつでもこの時代に戻ることが可能だ。ゆえに、これが最後の別れではないと、心配するなと言ったのだ。ネギはその言葉に、嘘ではないかと聞いていた。未来に帰って戻ってこないのではないかと思ったからだ。そこで超は、お決まりの言葉を述べた。場を和ますように、嘘はつかないと言っていた。

 

 

「到着したカ」

 

「待たせたな、超」

 

 

 そこへ、とうとうエリックが乗るタイムマシンが到着した。そのタイムマシンは超の真後ろにて、宙を浮きながら停車したのだ。そして、超は自動的に上へと開いたドアへと乗り込み、クラスメイトたちを眺めていた。エリックは少々遅れた感じで、待たせたと元気そうに言っていた。

 

 

「五月、超包子を頼む、全て任せたネ」

 

 

 超はそこで、引継ぎを行なうように、五月へ超包子の全てを任せると口にした。五月もいつもどおりの表情で、任せてくださいと言葉にしていた。

 

 

「ハカセ、未来技術についての対処は打ち合わせどおりに……」

 

「大丈夫です。全てわかっています」

 

 

 そして、この時代に残してしまう未来技術のことを、超は葉加瀬へ話した。この前の打ち合わせどおりに頼むということだったが、葉加瀬も何度も言う必要もないと、静かにそう述べていた。

 

 

「茶々丸、ご主人サマを大切にネ」

 

「了解しました……」

 

 

 また、超は茶々丸へ、主人を大切にするよう言っていた。未来での恩人であるエヴァンジェリンの恩返しこそ、茶々丸と言う従者だからだ。そのことを理解している様子で、茶々丸は落ち着いた感じで肯定の言葉を口にした。

 

 

「獅子帝、短い間だたが楽しかたヨ」

 

「あぁ、俺もだ。また会おう、いつか星の海で」

 

 

 超は豪にも別れを述べた。長くはない付き合いだったが、豪の技術は面白いものだったからだ。豪もまた、別れならば笑って送り出そうと、普段の笑顔でまた会おうと言っていた。

 

 

「古、本当に古はいい友人だったヨ。2年間、本当にありがとう」

 

「超、それはこっちのセリフアル。今度会ったら、また手合わせをお願いするアル」

 

「……そうだネ、今度会たらよろしく頼むヨ」

 

 

 そして最後に超は、もっとも親しかった友人である古菲へ、感謝の言葉を述べていた。2年間と言う間だったが良くしてくれた古菲を、本当によき友人だと思っていたからだ。だから別れるのもしのびなさそうに、それでも表情は微笑みながら、超はありがとうと言葉にしたのだ。

 

 古菲もまた、超との別れを寂しく感じていた。ともに武術の研鑽を高めた仲だった。超というよき友人の別れはとても名残惜しい。だが、再び会える日に、もう一度手合わせ願おう。古菲は、超と同じように微笑み、そう言い放った。

 

 それを聞いた超はその約束を笑顔で了承し、その時は頼むと言っていた。約束を交わせた古菲は、満足そうな笑みで超の門出を眺めていた。超は古菲の表情を見て約束が交わされたことを理解すると、車内へと入ろうと行動した。

 

 

「……別れはすんだネ。戻ろうか、私たちの時代へ」

 

「……この雰囲気の中、非常に言いづらいんだが……」

 

「どうした? 何かマシントラブルでもあったカ?」

 

 

 車内の座席へと体を移した超は、エリックへと別れがすんだことを話した。そして、元の時代へ戻ろうと、寂しそうに述べた。友人たちと別れが済んだというが、やはりこの時代に心残りがあるようだった。そんなしんみりした空気の中、エリックは何かを悩む様子を見せた後、言いずらそうに口を開いた。一体何かあったのだろうか。超はエリックのその態度を見て、タイムマシンの不調でも起こったのかと思ったようだ。

 

 

「ワシは別に今すぐ帰るなど、一言も言っとらんぞ……?」

 

「……えっ?」

 

 

 だが、超の考えは外れた。エリックは別にすぐに未来に戻る気がないと言い出したのだ。その言葉に超はあっけを取られ、少しポカンとした様子で、数秒間口が閉じれなかった。いやまさか、あのエリックからそのような言葉が出るとは、超もまったく予想していなかったのだ。

 

 

「ワシはこの事件が解決したので、未来が無事に元に戻ったかを確認しに行くだけだ」

 

「だ、だが、私たちはこの時代の人間ではないネ! 全てが終わったのなら帰るべきでは!?」

 

「まあ、そうなんだろうがな」

 

 

 エリックはそこで、事件が解決したので一度未来に戻り、確認をすることにしたと、超へと説明した。超はそのエリックの説明に、不満げな態度で意見をしていた。

 

 自分たちは未来の人間でこの時代の人間ではない、なのですぐにでも戻るべきだと、そう話していた。これはエリックが前から何度も言ってきた言葉だ。どうして突然そんなことを言い出すのだと、超はまくし立てていたのだ。そんな様子を見せる超に、エリックは困った様子で確かにそうだと言葉にした。だが、その言葉の後に、続く言葉があったのだ。

 

 

「それに、未来から来た自分たちが過去の人間と接触するのは良くないと、ドクも言ってたではないカ!?」

 

「だが、勝手に学校に入学したのはお前だぞ? 最後までやり通すべきじゃないのか?」

 

「うっ」

 

 

 そうだ、未来人である自分たちが過去の人間に何度も接触するのは危険だと、時空連続体が破壊されて宇宙が崩壊すると、壮大に誇張したようなことを言っていたではないか。超はそう早口でエリックへとがなりたてたのだ。

 

 エリックはその超の意見に、もっともだと言う態度を見せながらも、反論した。最初に学校へ勝手に入学したのは誰だと、それは超、お前だと。もはやその時点で後戻りなど不可能、ならば最後まで学校を通い詰めろと、そうエリックは冷静に話した。

 

 流石にそう言われてしまっては、超も反論出来なかった。やってしまったのは自分なのだから当然だ。図星をつかれた超は、首を絞められた鳥のような声を出し、どう反論しようか迷いだしたのである。

 

 

「この時代、中学中退などしてみろ! 未来なんてあったもんじゃないぞ!?」

 

「いや、この時代で生きていくワケでもないし、卒業しても未来では意味がないヨ!?」

 

「意味がないことはなかろう。友人たちと卒業できる、それだけで意味があると、ワシは思うがね」

 

 

 そこへ追い討ちをかけるかのように、エリックは話し出した。中学中退とかありえない。普通なら社会進出すら危うい恐ろしい事態だと、エリックはそう叫んでいたのだ。超はそのエリックの叫びに、この時代で生きるわけでもないのに、それに何の意味があると思った。だからそれをエリックへと伝えた。

 

 確かに未来に戻ればこの時代で卒業した履歴など見せれるはずもない。あまりに意味がないことだ。だが、エリックは無意味ではないと、やさしい口調で述べた。それは友人たちとの思い出が出来るのだから、無意味と断言するにはおしいことだと。

 

 

「もう学校に名を刻んでしまったのだ。卒業ぐらいして来るんだ」

 

「……本当にいいのカ……?」

 

「本当は良くない。が、しかたあるまい。もう少しぐらい、ここで生活するといい」

 

 

 それに、既に学校へ入学した時点で、この学校の歴史に名が載ってしまった。もうそれはどうしようもないことだ。なら、もういっそのこと卒業ぐらいしておけと、エリックはそう超へと話した。

 

 超はそのエリックの言葉に、数秒間口を閉じた。その後、悩みながらも、本当にそんなことが許されるのかと、エリックに聞いたのだ。あの堅物のエリックが、そんなことを言ってきたのだ。本当にみんなと卒業しても大丈夫なのかと、不安げな瞳でエリックを見つめていた。

 

 その超の質問に、腕を組んでエリックは答えた。はっきり言えば悪い。良いはずがない。まあ、それでもしかたないだろうと、ふと小さく笑んで、それを許すとはっきり言ったのだ。

 

 いつでもこの時代へ戻ってきて会いにこれるということは、逆を言えばいつでも帰れると言うことだ。つまり、今すぐに帰らなくても、未来には簡単に戻ることが可能なのだ。何せこの時代にやってきたのも、全てエリックのタイムマシンによるものだ。わざわざ世界樹の魔力を使って時間移動する訳ではないので、別に今ではなくてもよいということだったのだ。

 

 エリックの許可に、超は感激した。まだ友人たちと一緒に居られる、一緒に卒業できる。そう考えただけで身震いしそうだった。ただ、それを表に出さぬよう、必死に抑えていた。それでも感涙だけは止められず、少し涙をその目にためていたのだ。

 

 

「そ、それじゃあ……」

 

「ネギ少年よ、すまないがもう少しだけ、超の面倒を見てやってはもらえんかな?」

 

「は、はい! 任せてください!」

 

 

 ネギはそのエリックの話を聞き、超はまだこの時代に残ることを悟ったようだ。そこへエリックが顔を出し、ネギへと超のことを頼むと、和やかな表情でそう言っていた。ネギもエリックの頼みを聞き、うれし涙を見せながらも、元気よく返事していた。本当に良かったと、心からそう思いながら。

 

 

「と、いう訳だから、車から降りるんだ」

 

「……けど、ドクはどうするネ?」

 

「さっきも言っただろう? ワシは未来が元に戻ったかを確認しに行くのだ」

 

 

 ならば車に超が乗っている必要はない。ここに残るからだ。エリックがそう言うと超は、エリックはこの後どうするのかと尋ねた。エリックも残るのか、それとも帰ってしまうのか、疑問だったのだ。ただ、エリックは一度未来へ戻り、元通りになった世界を確認すると再度言っていた。

 

 

「破いてきた新聞だけでは駄目なのカ!?」

 

「駄目ではないが、目視の確認は重要だ」

 

 

 確認というのならば、未来から持ってきた新聞の切り出しだけでは駄目なのだろうか。超はそのことをエリックに質問した。アレだけでも十分証拠になりえるからだ。エリックはその問いに、別にそれだけでも良いが、実際見て確認することは必要だと、超へ説明したのだ。

 

 

「そういうことだから、ワシは一人未来へ戻る。何心配はいらんよ、すぐに戻ってくるからな」

 

「了解したヨ……。気をつけて行てくるネ」

 

「任せておきたまえ! では、また!」

 

 

 だから一人、一度未来へ戻るとエリックは言った。しかし、すぐに戻ってくると、超を安心させるかのように、笑いかけながら話していた。超はエリックの意図を理解し、ならば無事に戻ってくるよう、笑みを浮かべて言葉にしていた。そして、超は車から降りると、エリックは任せておけと叫びながら、車の扉を閉め、そのまま飛び去っていった。すると、その飛び去った先ですさまじい轟音が発され、まばゆい光とともに飛行する車は消え去ったのである。

 

 

「……ということになたから、卒業までよろしく頼んだネ!」

 

 

 その消え去った方向を眺めながら、エリックの無事を祈る超。それを終えると、超はネギたちの方を向きなおし、笑顔で手を上げて元気に叫んだ。卒業までは、もう少しだけよろしくと、喜びながらそう叫んだ。

 

 

「超ー!」

 

「古!」

 

 

 そこへ古菲が飛び出し、超の名を叫んだ。超も同じく古菲の名を叫び、古菲が超の近くへと着地したのだ。

 

 

「これからもよろしくアル!」

 

「卒業までの短い間だが、こちらこそネ!」

 

 

 そして、二人は握手をしながら、まだ一緒に居られることを喜び合っていた。古菲は少し涙を見せながら、元気そうによろしくと言っていた。超も同じく、微笑みながらも卒業までの短い期間、もう一度仲良くしようと言葉にしていた。

 

 

「……これはもう、必要ないですね」

 

 

 それを見たネギは、感涙を受けつつ、超から渡された退学届けを二つに破り、懐へとしまった。流石にこの場所でポイ捨てをしないあたり、真面目なのだろう。また、ネギの後ろでもクラスメイトたちが喜びながら騒いでいた。

 

 また、豪も少し離れてその様子を眺めていた。腕を組んで、その美しき光景を目に焼き付けながら、この麻帆良を守れてよかったと改めて実感していた。

 

 氷竜と炎竜も同じ気持ちだった。騒がしくも友達思いの彼女たちを見て、友情のすばらしさをひしひしと感じ取り、二体とも自然と穏やかな表情となっていたのだった。

 

 

 そして、遠くでそれを見守るものがいた。それはあのカギだ。カギは超を出迎えることはなかったが、木の上からその場所を見ていたのだ。

 

 

「超のヤツ帰らなかったのか……」

 

 

 カギは超が未来へ帰らなかったことに、多少驚きを感じていた。本来ならば、ここで超は未来に帰ってしまうからだ。だが、それは起こらなかった。本来ならばイレギュラーな出来事であり、カギが不安がるだろう要素だったが、カギは不安など感じてなどいなかった。

 

 

「でも良かったなぁ……、良かったなぁぁ……」

 

「兄貴、泣いてるんですかい?」

 

「な、泣いてねぇやい! これは心の洗浄液だい!」

 

 

 むしろ、カギも超がいなくならなかったことに、感激して涙を流していた。このカギもやはり、超が帰ってしまうことを悲しく思っていたらしい。

 

 そのカギの肩の上で、カギが涙を流しているのを見て、カモミールが泣いているのかと尋ねていた。あのカギが滝のように涙を流し、鼻水で顔を汚しているのだから、少しばかり驚くのも無理はないというものだ。

 

 だが、カギはごまかす様に涙と鼻水を袖で拭き、泣いてなどいないと言い出した。さらにはいい訳するように、涙を心の洗浄液だと言い出したのだ。お前はどこのロボットだ。そんなカギを見たら、カモミールも何も言うまいと考え、タバコをくわえるのであった。

 

 

 エリックが未来へ旅立って数秒後、すぐさまエリックは帰還した。誰もがすばやい帰りに驚いたが、時間設定してタイムワープが可能なタイムマシンなので、当然のことだった。逆に言えばエリックは、ある程度の時間車を運転していたことになるのだが。そして、超はクラスのみんなと焼肉屋のJOJO苑で打ち上げを行い、朝まで楽しく過ごしたのであった。

 

 




長かった、本当に長かった
正直なところ、少し長すぎたかなと反省しています
もう少しコンパクトにまとめられればよかったかもしれません

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