FLEET COLLECTION ~艦CORE~   作:ARK-39

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今回はいろいろな人が登場します。
それでは本編を再開します。



#3

 鎮守府<佐世保>。

 鎮守府の中で一番資源力があり、故に主に研究を生業とする企業が多くの施設を構えている。

 その中でも、この鎮守府で最大の規模を誇るのは此処、「アスピナ機関」本社だろう。

「アスピナ機関って、あまり大企業ってイメー・・・ってあっ、ちょ、ちょっと待ってぇ~!」

 既に社屋内を一回りし、新たにレイヴンの指揮に入った艦娘・夕張は皆の置いてけぼりを食らいかける。

 彼女はその艦種を軽巡洋艦としながら、なんとすべての艦娘の装備を各種スロットに装備可能という恐るべき艦娘である。その欠点として、速度が出せないらしい。

 艦娘はその艦種別に装備できる物が違う。それが当然なのだが、夕張に限ってはその運用次第で「戦艦」にも「空母」にもなんと「潜水艦」にも出来てしまう。

「いやぁ、取材のし甲斐がありますねぇ!」

 妙に鼻息荒く目を輝かせるのは重巡洋艦の艦娘・青葉だ。

 彼女には”ジャーナリスト魂”が宿っているらしく、戦闘でもカメラは手放せない。

 他の提督の青葉達で”新聞”を作っていると聞いたことがある。名前は「青葉新報」だとか。

 かくいうレイヴンも、定期購読の契約を交わされてしまった。

 提督は無料だが。

「広くなければ、迷うこともないのに・・・不幸だわ・・・。」

 そう言いながらうなだれているのは艦娘・山城である。先程まで社屋内で迷子となっていた。

 扶桑型戦艦の2番艦である彼女の火力は勇ましいが、彼女には絶対的に「運」が足りていない。

 科学万歳の現代においても「運」は存在し、特に艦娘にとってはかなり重要な分類である。

 レイヴンの提督キャリアにおける初被弾は山城となってしまった。

 因みに初期艦の叢雲はいまだ無傷である。

「そういう時は、私を信頼してくれて構わないよ。後の<信頼できる>名は伊達じゃない。」

 山城にそう言うのは駆逐艦の艦娘・響だ。

 彼女は何というか、「見た目は子供頭脳は大人」という言葉が似合う。

 艦娘はその艦種によって外見の年齢が大きく違う。中身に至っては艦娘次第である。

 実際戦艦の山城を駆逐艦の響が慰めるその光景はかなり異様と取れる。

 そのうえ、彼女には一つ「悪癖」とも言えるものがある。

「千歳さん、もう一杯貰うよ。」

「おかわり?はい、どうぞ。」

 響が水上機母艦の艦娘・千歳から貰うのは、酒。それも渡した千歳本人も飲めないような

「響ちゃん、よくそんなに飲めるわね。スピリタス。」

 そう、響はかなりの「酒飲み」なのだ。

「これは薄めている、それにまだ3杯目だ。」

「あんたねえ、普通はこんな時に飲むもんじゃないのっ!」

 叢雲にも言われているが、今レイヴンの艦隊は”任務”を受諾するために社屋内の広い会議室にいるのだ。酒を飲む場所でも時間でもない。

「千歳さんもっ、あんまりあげないで下さいよ。」

「この程度なら支障は出ないわ。貴女もいかが?」

「要らないわよっ!」

 そして彼女、千歳もかなりの酒飲みである。

 千歳は所謂「お目付け役」であり、正式にオッツダルヴァから貰ったわけではない。ご法度に正式も何もあったわけではないが。

 明石から聞いた話だが、艦娘は体の構造が人間と違うので滅多なことでは酔うことはないらしい。

 そんなやり取りをしていると、仲介役と思しき男が部屋へ入ってくる。

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 任務の依頼内容は、はっきりと言えば単純である。

<<我社の資源採掘拠点が敵深海棲艦に奪取された。早期に奪回作戦を実行する。>>

 レイヴンはその為の陽動を行うという任務だった。

 任務受諾より4日、他数艦隊とともに3度出撃し2個の小規模施設の奪回には成功している。

 明日には大規模の拠点奪回作戦が展開される。

「おうっ!」

「おっと、ここで会いますか。」

 見慣れない艦娘と、えらく細身の提督がレイヴンに声をかける。

 彼等は、今回の作戦において最も重要な役を担う艦隊<フラジール>の<CUBE>と”試製”駆逐艦娘・島風である。CUBEは「アスピナ機関」の”専属提督”であり、主に島風のテストを行っている。

 島風はその圧倒的な機動力が特徴のテストタイプ艦娘であり、その弱点として装甲が薄い。

 艦娘には「F.R.O.M」の反応を利用して一時的に音速を超える「オーバードブースト」、強制的な方向転換を可能にする「クイックブースト」等、移動に関係する能力が幾つかあるが、島風はそれらを極端に特化させた調整が施されている。その動きは”消える”という表現が似合う程だ。

「明日の作戦、私はともかく、他の艦隊の動きが重要ですから、期待していますよ。」

「私みたいに迅く動いて、敵を引っ掻き回してよね。って、連装砲ちゃんどこ行くのー。」

 そして彼女には”連装砲ちゃん”という自律型の子機が3機存在する。島風の火力を補う為のデバイスであり、もう一つの主力である。

「島風、・・・これはプランD、所謂ピンチですね。」

 島風が”連装砲ちゃん”を追い駆け、CUBEもその後を追ってゆく。

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 レイヴンがアスピナの社屋内を歩いていると、見慣れない少女が向こうから歩いてくる。

 艦娘だ。艦娘だが、白衣を纏い、「アスピナの研究員」という事になっている様だ。

 艦娘はその外見で一発で判別がつく。長い銀髪のツーサイドアップは人間ではまず不可能な髪型だ。

「あなた、ちょっといいかしら。」

 彼女からそう誘われる。

 タブレットを確認。時間には余裕がある。

 偶には付いて行くのもいいだろう。レイヴンはそう考えていた。

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「あなたには、いい風が来ているかしら?」

 <天津風>と名乗った彼女は、唐突にレイヴンにそう言い放った。

「私の提督はね、自分に吹く風がちゃんと解っていたの。」

「だから、私もあの人に付いて行けた。」

「自分と、自分の艦娘に躊躇わないで、恐れないで、ちゃんと信じてみて。」

「そうすれば、きっとあなたの風が吹くから。」

 彼女はまるで詩を詠う天女の様に、レイヴンに言葉を綴った。

「・・・いいかな?」

 後ろからの男の声で、思わず見とれていたレイヴンが振り向く。

 その男はワイシャツ姿で、短めの無精髭、明らかに後天性の白髪を後ろで縛っていた。

 その眼はどこか悲しみを持ち、唯人でないことは確かだった。

「・・・!あなたっ。」

 天津風がその男に駆け寄り、腕に抱きつく。

「おっおい!」

「♪」

「やれやれ、・・・うちのが、世話になったようだな。

 <レイヴン>だったか、<ジョシュア・オブライエン>だ。」

 ・・・!

 レイヴンが改まろうとするが、

「いや、そう畏まらないでくれ。唯のアスピナの一研究員だ、今の私はね。

 それに、もうじき居なくなる。彼女を連れて、此処から離れる。」

 レイヴンは静かに彼の話を聞く。

「初めは、悪くなかった。だがここまでだ。私は”折れて”しまった。

 ・・・いや、此処までにしよう。」

 そして彼はレイヴンのもとから去った。

「お前は、折れるなよ・・・。」

 そう一言、言い残して。

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「似ているな、私と、”奴”に。」

「でしょ。」

「何時までくっついているんだ。」

「別にいいでしょ。」

「・・・。」

「私ね、」

「なんだ?」

「あなたと過ごすようになって、甘くなったみたい。

 彼にも、いろいろ言っちゃった。」

「確かに、珍しいな。」

「でもね、悪い気はしないわ。」

「じゃ、これからは<”甘”津風>かな?」

「・・・あなたらしくないわ、3点ね。」

「とほほ・・・。」

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そして日は明け、作戦の開始が近づいている。




読んでくださって有難うございました。

艦娘の性能は「アーマードコア・ネクスト」を”大きさだけ”人間サイズにしたイメージを持ってもらえると丁度良いです。空は飛びませんが、海上をドヒャア!します。
人間サイズのネクスト・・・。

天津風の途中のフレーズは、森下玲可さんより「あなたの風が吹くから」からです。いい曲ですよ。

次回は、一度目の大規模戦闘です。島風が主役でしょう。

-補足、というより蛇足- 今回は長いです。

レイヴン艦隊に5隻、新しい仲間が来ました。それぞれ、
夕張:もとより更に彼女の特徴を極端化。おまけにヲタクです。
青葉:性能は兎も角「青葉新報」という怪しげな”新聞”が気になる。
山城:火力がいい、だがそれをもって余りある不運をどうするか。
響:まさかのアルコールジャンキー。ちなみに作者は酒は飲みません。
千歳:お目付け役とかが似合いそう。尚オッツダルヴァは千代田未所持です。
という感じで進めます。響の酒ネタは友人からです。

更に、アスピナ機関所属の提督と艦娘を少し。

 島風と<フラジール>のCUBE
 これは読者にも「まぁ、そうなるな」位の組み合わせでしょう。
此処じゃなければ島風の活躍の場はないでしょう、間違いなく。
 ちなみに、CUBEの外見イメージは「新世紀エヴァンゲリオン」より「青葉シゲル」の髪の毛を紫気味にして、かなりガリガリにした感じです。

 天津風とジョシュア・オブライエン
 ジョシュアを登場させたくて、じゃあ艦娘はという場面において、天津風が思いつきました。
 私的には、お似合いの組み合わせだと思います。テストタイプで後継が島風なので立場的にもピッタリと当てはまりました。
 ジョシュアの外見イメージは読者に任せます。某イラストサイト等ではかなり素敵な彼のイメージが挙がっていたりしますので、参考にしてみてもいいかもしれません。

蛇足にまで付き合っていただき、有難うございました。
私の作品を読み続けてくださるのであれば、応援、アドバイス等いただけますと有難い限りです。

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