FLEET COLLECTION ~艦CORE~   作:ARK-39

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段々1話における文字数が多くなっている気がします。
それでは本編を再開します。


#2

艦橋から外に出ると、オッツダルヴァ率いる艦隊<ステイシス>の拠点艦がすぐ右側面に見える。

 その規模はゆうにレイヴンの尉官用拠点艦の2倍といったところか。

 オッツダルヴァは佐官提督である為、艦娘の戦闘時同時運用は最大6隻までである。

 彼の拠点艦にドッギングを行い、乗り移る。

「気になりますね。ランク1の直接の呼び出し、しかも暗号で渡すというのは。」

 念のため、同伴に明石を選ぶレイヴンは自らをマヌケと悟る。

「それにしてもやっぱり大きいですね、佐官用拠点艦は。」

 彼女の眼は明らかに違うものを見ている。

「おっと。失礼しました。」

 明石が人にぶつかりそうになり、避ける。

「いいや構わんよ。・・・なんだ、お前も呼ばれたのか。私だけだと思っていたが。」

 男だ。レイヴンよりやや大柄で、その服装は提督のそれだ。

 そういえば、今回の任務ではもう1艦隊<ステイシス>に同伴すると書いていた。

「直接こうして会うのは滅多に無い、いい機会だ挨拶させてもらう。」

 そしてその提督は口上を述べる。

「鎮守府<横須賀>ランク10、艦隊名<ゲルニカ>のゲドだ。」

 ゲド、聞いたことはある。育成所で耳にした噂ではたしか・・・ホ、

「言っておくが、私は男色ではない。」

 え、そうなの。

「私はただ、戦場に女性は似合わないといっているのだ。例え艦娘であろうとな。」

 成程、そういうことか。

「男の艦娘が誕生すれば喜んで編入させるのだがな・・・なぜだ。」

 ・・・その言い方では誤解も生まれよう・・・。

 艦娘には女性型しかいない。

 それが当然である為に彼のように疑問を持つ者さえほとんどいない。

「まあ話が長くなったな。早く行きたまえ、用事があるのだろう。」

 そうだ、レイヴンはオッツダルヴァから呼び出されたのだ。

 こうしてはいられない。先を急ぐその去り際、

「戦闘で手こずる事があるのなら手を貸してやる。それが先輩の務めだ。」

 そう言っていた。

いろいろあるが、悪い人ではないのかもしれない。

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 拠点艦における執務室は汎用の部屋であり、提督によっては様々な姿となっている。

「入れ。」

 オッツダルヴァの執務室へ入る。

 彼の執務室は整然と整えられており、それでいて普段から使用している雰囲気を漂わせていた。

 要するに執務室らしい執務室である。

 その中央、提督が座るデスクにオッツダルヴァはいた。

 真ん中で分けられた髪型。その目つきは”善人”ではない事を十二分にアピールしていた。

 よく見ると顔の右半分、頬からおでこにかけて大きな傷がある。

「付き添いは此方へ。」

 彼の秘書艦娘である矢矧が明石を隣の部屋へ誘導する。

「ですが」

「・・・空気にもなれんか・・・」

 オッツダルヴァが椅子から立ち上がり、明石に接近すると不意にその体を担ぎ上げる・・・!

「えっ、ちょっ」

「ドアを開けていろ」

 そしてあろう事に、彼は明石を隣の部屋へ放り投げた。

 明石の決して小柄ではない身体が放物線を描く。

「きゃぁぁああぁぁ・・・」

 明石が投げ込まれる先には、いやというほど寝心地のよさそうな寝具があった。

 あれなら怪我もないだろう。

「さ・・・流石ね・・・ぇ。」

 それを矢矧は呆然と見る事しかできていなかった。

 

 そして、何食わぬ顔で椅子に座りなおしたオッツダルヴァはレイヴンに話をかける。

「さて、貴様を呼んだ事についてだが・・・。」

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「もふっ」

「なっ・・・何なんですか今のはぁっ!」

「あっ、危なかったじゃないですかっ!」

「もしこのベッドに落ちていなければ・・・」

「ン、このベッド・・・。」

「まさか・・・これはッ」

「「オーメルサイエンス」製<ライール寝具シリーズVer.28>・・・。」

「その愛称<水没ベッド>!!」

「その寝心地は正に水底に停滞するがごとく・・・。」

「故に通常販売を中止したレア中のレアモノ・・・ふぁっ」

「だっ・・・だめっ・・・あっ」

「・・・ZZZ・・・」

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「・・・。」

 今、オッツダルヴァは何と言った?

「もう一度言うぞ。」

 

「貴様に、艦娘をいくつか譲ってやる。」

 

「貴様の艦隊は現在叢雲1隻のみ。はっきり言って戦力として不十分だ。」

 オッツダルヴァから言われるまでもない。

「だが新米の貴様ではまだ数を揃えることが出来ない筈だと思ってな。」

 確かに新米の提督の資金では武器弾薬は賄えるが新たに艦娘を編入するだけの金はない。

「装備も満足に揃えられぬまま海域に放り出され、その辺の雑魚さえ仕留めきれない。

 くだらない敵に、くだらない味方。それらがする価値のない戦いをする。

 まるでファルス(喜劇)だ。」

 思い当たることも、無い訳ではない。

 新米の提督は本来拠点艦を貰い次第、<<航行海域上の敵の撃退>>という任務が入る。

 確かに、考え方では敵のいる海域に放り出されるも同然である。

 今航行しているこの海域も、佐世保に繋がる本来の海域ではない。

 安全が確証されていないのだ。

「貴様には似合わぬ<お遊戯会>だと思ってな。」

 つまりレイヴンはオッツダルヴァから評価されている、ということだろう。

「始末は「オーメル」が巧くやってくれるさ。」

 本来、提督間での艦娘の受け渡しは違法行為である。

 だが、それを帳消しにする事も、出来る。

 一部提督の中には特定の企業と”繋がり”が有る者がいる。

 それに、「オーメル」が本当であれば・・・。

「此方で持て余していたのだ。私の艦隊に”バラスト”は不要だ。」

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 話を終えて、レイヴンは明石を連れて帰るため隣の部屋に入る。

「ん・・・ぁ」

 そこには、見事なまでに寝ている明石の姿があった。

 その寝姿は、普遍的に可愛い分類に入るだろう。

 レイヴンは彼女を何とか半分起こしつつ、そのベッドを見る。

 <オーメルサイエンス>のマーク。

 やはりか、レイヴンは確信する。

 オッツダルヴァは、あの「オーメル・サイエンス・テクノロジー」と繋がっているのだと・・・。

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 レイヴンが明石を連れて執務室を去り、自らの拠点艦に戻る頃。

「良かったのですか。」

 オッツダルヴァに、矢矧が声をかける。

「ふん・・・。」

「提督は、ここ最近・・・変わっています。」

「・・・いずれ・・・」

 

「いずれわかるさ・・・。」

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 レイヴンがオッツダルヴァに呼び出されてから10時間後。

 オッツダルヴァがレイヴンに譲った艦娘がレイヴンの拠点艦へ乗り移る。

 

「どもどもっ、恐縮ですぅ!」

 

「・・・不幸だわ・・・。」

 

「よろしくね!」

 

「さて、やりますか。」

 

「はーい、お待たせ?」

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 鎮守府<佐世保>が、近づいている。




読んでくださって有難うございました。

本来の予定ではこの後に<佐世保>に着くまでに2回深海棲艦と戦闘をするのですが、
ストーリーを重視したいのでカットする事にしました。
ゲームとして想像すればその戦闘で”手こずる”と「干」から手を貸されます。

次回は<佐世保>に到着します。中々のメンツが揃っています。

-補足、というより蛇足-

オッツダルヴァの外見は、某テニス格闘漫画から「跡部景吾」を
「凄く悪人面にした」姿をイメージしてもらえればいいと思います。
べ様は中の人同じですから・・・。

蛇足にまで付き合っていただき、有難うございました。
私の作品を読み続けてくださるのであれば、応援、アドバイス等いただけますと有難い限りです。

追記:本編でレイヴンが貰う艦娘の変更がありました。
   変更前の艦娘に期待していた人にはすみません。

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