FLEET COLLECTION ~艦CORE~ 作:ARK-39
それでは本編を再開します。
注意。
いきなり不憫です。
#15
((此処ハ・・・。))
何処だか判らない。
周りが暗いが、自分の記憶には存在しない場所だ。
((・・・ッ。))
体を動かそうとして、静かに戦慄する。
動かせる"モノ"が、無い。
”あの”右腕は付いてはいるようだが動かない。
それに開けている筈の左目からも情報が入ってこない。
幸い、耳は両方健在だ。
((・・・フネ、カ・・・。))
どうやら船の内部らしい。エンジンと波の音、その他様々な音から更に軍艦と判断した。
「ん、起きたようね。」
突然声を掛けられた。いや、それが問題ではない。
ヒトが居たのに気付く事が出来なかったのは、それ程に損傷が激しいという事だ。
「ちょっ、と、大人しく待っていなさい。司令官を呼ぶわ。」
声は女性、女の子と呼ばれるのが相応しい位だが言葉遣いには大分高慢さが漂っている。
((艦娘・・・。))
「ま、言葉が通じるかは判んないけどね。」
そう言い放って艦娘はこの場所から出て行った。
((大丈夫ダ、チャント通ジテイル・・・。))
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「よぅし、138番から168番までの機能回復、188番と196番修復完了。
これで通常使用分の電子系はすべて生き返ったぞ。」
地上での大規模作戦から4日が経った。
2日前に海上に戻り、再び艦隊<レイヴン>は鎮守府<呉>へ舵を切った。
今、レイヴンは珍しく拠点艦のメインブリッジの方にいる。
「まさかあの要塞がこれ程のECMをかましてくるとは思わなかったが、相手が悪かったな。」
エルールが自慢げにキーボードを打ち始める。
「でもそれじゃ"検体"の情報がマズイんじゃないですか。」
「セレブリティ・アッシュArchitectフロイド戦隊シャノンジャー」から目を離さずに明石が問う。
ちなみに<横須賀>で夕張が仕入れたシリーズ最新作だ。
明石が言った"検体"・・・深海棲艦空母ヲ級の事である。地上大規模作戦中レイヴンが操る艦娘に突撃を仕掛け、単機でレイヴン艦隊を完全に封じ込み遂に仕留め切れなかった強者である。最後は、不運にも奴にとって味方である要塞の戦略級ビームレーザーに左腕と胸から下を焼き切られたが、それでも死ななかった為に鹵獲、という形をとった。深海棲艦の鹵獲は前例がない。
「あぁ、それならなにも心配は要らない。
この海域じゃナーヴス・コンコードは圏外で、私が直したのもこの船の内部用だけ。
一応更に万一に漏れたとしてもそれはダミー、偽の情報しか渡らない。」
エルールが小気味良くボードを弾く。
すると明石の目の前のモニターに何かが映し出された様で、それをチラと見た明石は納得する。
「で、そのヲ級が起きたわよ。・・・私は少し休むわ。」
そう言いながら叢雲が入ってきた。彼女がこの時間のヲ級の監視だった。
「よし!じゃあ行きましょっか、提督!」
明石が素早くしおりを挟みながら漫画を畳むと、「この瞬間を待っていたんだ」と言いたげな顔をしていた。彼女にとっても非常に興味のある事である。
「一応抵抗はしていないけど、いざって時は気を付けてよね。」
叢雲が気にかける。ただでさえ身体が無いのに今も生きている敵では、心配しない筈がない。
それに見た目が人型でもステレオタイプの敵よろしく「目からビーム」なんていうのもあるかもしれない。いや、実際に一部の敵深海棲艦は本当に「目」と思われるところからレーザーを放つ事が確認されている。ヲ級も顔は残っているのなら、警戒は怠らないようにしよう。
「ほら!早くしないと置いていきますよっ。」
・・・明石、船の内部なら余程出ない限りおいてけぼりなど発生しない。
そう思いつつもレイヴンは明石を追ってヲ級のいる部屋に向かう。
そういえば艦娘も夜戦の時には目を光らせる事が出来たな・・・。
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「「TEAM R-TYPE」謹製の艦娘応急処置用儀礼済包帯の巻かれ心地は宜しいですか。
滅多に使うものじゃないし、深海棲艦に効果があるのかは分かりませんけど。」
そう言いながらヲ級のいる部屋に桃色の髪の女性と白い軍服を纏った男が入ってきた。
その男がこの艦隊の”提督”である事と、そんな身分のヒトが自らの目の前にこうも無防備に接近したという事で、ヲ級が自らの状態を察するのに時間は掛からなかった。
「・・・降参ダ、ワタシニ攻撃スル手段ハ残ッテイナイ。」
「あれ、喋る事が出来たんですか。
しかも私達と同じ言葉でちゃんと通じます!?」
桃色の髪の女性が驚く。・・・あれ?
「イヤ、他ノヤツモコノ言葉ダッタロウ?・・・違ッタノカ?」
すると女性はヲ級と同じような表情になった。
「あの・・・、貴女が初めてです。
生きたままの状態で鹵獲された深海棲艦は。」
え。
「ホントウカ、ソレハ?」
「はい、倒すだけで精一杯だったので、研究もさほど進んでいないんです。
その上深海棲艦は轟沈状態に陥ると途端に形状崩壊を起こして塵になってしまう。
ですよね?」
まあ、質問に答えても罪は無い。
答えたところで、そこから変わるとも思えない。
「ソウダ、ソウナッタラ終ワリダ。」
「・・・答えてくれるんですか。」
「ソシテ、ソウナラナイ限リ、何度デモ再生シテ復活スル。」
女性が感心する。
「では貴女の右腕は何故義手に?」
「再生スル機関ガアノ狙撃デ破壊サレタラシイ。
本来ナラコノ状態カラデモ完全ニ元通リニナレル。
ダカラ、マダ死ンデイナイ。」
ヲ級は自身に巻かれた包帯を見る。
成程分からんが効くのだろう。
「コレモ効果ハナイ。」
女性は桃色の髪を揺らしながら一人納得する。
「まあ、見た目的にいいんじゃないですか。
流石にそのまんまは厳しいものがあります。」
ヲ級からも質問することがある。
「ソウナノカ。
・・・ソウ言エバ名前ヲ聞イテイナカッタナ。
少シノ間世話ニナルノダカラナ。」
「そう言えばそうでしたね。
では改めまして、私はこの艦隊<レイヴン>の艦娘調律師(チューナー)兼拠点艦副艦長。
名前は明石テムヤです。そして此方がこの艦隊の提督です。」
提督と言われた男が反応に困っている。
しかしこの提督なら負けるハズだとヲ級は思った。
何故か。
「男ノ艦娘ガ艦隊ヲ操ルノナラ強イ筈ダ。」
すると目の前の提督と明石は呆気に取られた顔をする。
「へ・・・。提督は人間ですよ?
艦娘は必ず女性ですから"艦娘"って呼ばれるんです。」
「アレ、ソウナノ。
・・・ヤハリ損傷ガ激シイノカモシレナイ。」
「たぶんそうですよ。」
明石はそういうが、ヲ級は納得できてはいなかった。
彼女の眼に映る提督と明石は、確かに「艦娘」と判別されているのだ・・・。
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「チナミニナンダガ、コノ船ハドコニ向カッテイルノダ?」
「ええと、鎮守府<呉>は<キサラギ>ですね。
深海棲艦を生け捕りにしろという任務がありました。
まぁ、命の保証はあると思いますよ。たぶんですが。」
「・・・スゴク嫌ナ予感ガスル・・・。」
読んでくださって有難うございました。
次回は鎮守府<呉>に到着します。ついにあの変態企業筆頭が御見えになります。
そしてこのシーズンがかなり厳しい艦娘も登場します。
-補足、というより蛇足-
ヲ級の不憫なお姿は某不憫が上手い人の影響です。
すまぬヲ級。
明石さんがすごくフランクにヲ級と接していますがそれが艦娘調律師(チューナー)の本領です。
蛇足にまで付き合っていただき、有難うございました。
私の作品を読み続けてくださるのであれば、応援、アドバイス等いただけますと有難い限りです。