FLEET COLLECTION ~艦CORE~ 作:ARK-39
それでは本編を再開します。
鹿威しが響かせる「かぽーん」という音は、ここに来てから既に6回目だ。
作戦会議が終了してすぐに、レイヴンの艦隊は有澤重工によって熱烈な歓迎会が行われた。
規模、迫力共に先の居酒屋「鳳翔」での一件を軽く越えた宴には「口封じ」の意が込められていたものの、どちらかというと本当に歓迎されていたモノだったとレイヴンは一人思い出していた。
今現在、レイヴンは有澤重工本社屋「グレートウォール」の本社車両にある来客用スィートルームに設備された"露天"温泉にて羽根を休めていた。
まさか現代において満天の夜空を温泉に浸かりながら眺められるとは思わなかった。しかも他の客に気を掛ける必要の無い仕様とは、流石温泉に並々ならぬ熱意をもつ有澤重工。"粋"である。
「まさか温泉に立体映像を組み合わせて露天風呂を演出するとは思ってませんでしたよ。」
・・・明石、そこは言わぬが掟よ。
<「大破壊」と呼ばれる厄災によって、人類は空を失った。>
幼稚園児も知っているこの世の"常識"である。今の人間の頭上には、鈍い灰色しか存在しない。
しかし、空を知らないわけではない。「鎮守府」居住層の天井には立体映像による空が存在し、本来の空とほぼ同じ事が出来るようになっている。天気予報と違う天気になることもある。
「私有澤重工ってグレネードと戦車のイメージしかなかったんですけど、
・・・星空見ながらおフロに入るのって、なんだか新鮮ですね♪」
あれ・・・明石、有澤は温泉の方が一般的に有名だぞ?
各鎮守府の居住層に有澤の経営する銭湯がある。見たことはあるハズだ・・・?
確かに露天風呂はなかったのだが・・・。
・・・思考力が低下しているのを認めるしかない、とレイヴンは思った。
原因は色々ある。だがその中でも止めを刺しているのは今の"状況"だ。
「はふぅー。癒されるー♪」
・・・そう、今レイヴンは明石と「混浴」と呼ばれる状態に、ある。
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「お湯の方ですが、人間と艦娘で分けて宜しいでしょうか。」
「その場合、此方は混浴という形になりますが。」
「かしこまりました。ではその様にさせていただきます。」
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今から数十分ほど前、レイヴンは部屋の仲居とそういう会話を交わした。
人間と艦娘ではお湯を分けた方が良いということを言われ、奨められた通りに分けてもらった。
混浴となると言われたのでエルールに聞いてみたところ、彼女は入らないと答えた。
そのため、意気揚々と露天風呂を満喫せんと勢い良く引き戸を開け、
「あっ、提督ーお先してましたよー。」
その先に、頭の上にタオルを乗せた明石と出くわす事となったのである。
そうだった・・・彼女も人間だった・・・。
普段主に夕張や千歳と一緒に行動しているせいか、明石が人間である事をレイヴンはすっかり失念していたのだった。結構な濁り湯だったことがせめてもの救いだった。
もしかしたら仲居側の配慮だったのかもしれない。
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「あつ、流れ星!芸が細かい!」
それにしても、彼女・・・明石には全く動揺の気配がない。至極普段通りなのが気になる。
はっきりいって状況は完璧だ。プライベートスペースで混浴の露天温泉。
確かに提督の素質としては強靭な精神が要求される。養成所の訓練では
<女性スパイからの色仕掛けに耐え抜け!>
という訓練もあり、そこで擬似的に混浴も経験している。"選定"に効果的だそうだ。
しかしレイヴンもオトコだ。記憶は無くとも知識と本能がこの状況の危険度を解っている。
・・・"間違い"ってェやつが起こりかねない・・・!
「ていとく・・・提督、どうしました?
あまり、元気に見えませんよ?」
明石に顔を覗き込まれていた。その距離約10cm。
それに全く気付いていなかったレイヴンは心底驚いた。それはもう、キャラを忘れる程に。
「アハハッ、提督なんか可笑しいですよ!
・・・なんなら私が修理しましょうか!?」
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「・・・よし、・・・よし、・・・準備完了。」
レイヴンと明石が入っている温泉からかなり離れた岩影に怪しい動きをする機影が1つ。
この距離ではレイヴンと明石からは確認出来ない。
「ここのところ惨敗続きでしたからねぇ。今回こそは撮らせて貰いますよ・・・!」
青葉だ。どうやらまだ諦めていなかったようだ。声が出ているのは彼女の癖だ。
青葉の執念は、凄まじい。
「明石さんが入浴して2分後に司令官が入っていくのを確認しています。
これを撮らずして青葉は青葉を名乗れませんよ。」
青葉がここぞというときに使う特製のカメラは夕張に調整してもらって絶好調以上だ。
今なら1マイル先の人の白髪1本までハッキリ撮れる!
「声を拾えないのが少々不満ではありますが・・・さて・・・!」
そして青葉は、その弄り倒され過ぎてまるで「スナイパーライフル」の如き姿となったカメラをレイヴンと明石が混浴している浴槽に向けた。
そしてそこには、青葉が想像していた以上の"獲物"があった。
「あや?やっ・・・やややっっ!?!?!?」
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「ほらほらぁ、患者は大人しくしてなさーい!」
なんと、レイヴンは浴槽の中で明石に追いかけ回されていた。
状況がおかしい?レイヴンもそれに同感である。
「えいっ!」
そしてついに明石に腕を掴まれてしまう。
もはやこれまでか!?
「・・・。」
すると明石は先程までの勢いが失せ、急にしおらしくなってレイヴンの腕に寄り添う。
こんな明石は全くの予想外であり、そのギャップはレイヴンを否応なしに明石に集中させた。
「わたし、・・・全くなかったんです。こういったことが・・・。」
そして明石はとつとつと言葉を紡ぐ。
「12の時には、私は既にアスピナの研究所にいました・・・。
艦娘調律師(チューナー)としての訓練を重ねていました。
それ以前の記憶は全く無くて、親の顔も覚えていない・・・ううん、知らないんです。
そして艦娘に必要な知識を叩き込まれて、艦娘調律師としての明石は完成しました。」
・・・そういう、事だったのか。
それなら、彼女の持っていた有澤のイメージも納得できる。
艦娘と一緒にいることが多いのはそれが彼女にとっての"普通"だったのか。
・・・!
そして、次に来るであろう言葉を考えたとき、レイヴンは数十分前の自分を責めた。
「"人間"っぽいこと、したこと無かったんですよ・・・。
だから提督の艦隊に配属されてから、私はすごく充実しているんです。」
そして明石はレイヴンの背中にもたれ掛かった。
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「ふーっ!ふーっ!」
その光景を"音が聞こえない距離"から見てしまえば青葉でなくても"勘違い"してしまうだろう。
((青葉、見ちゃいましたァ!!))
彼女は突撃取材その他諸々を必死に堪えながら鼻息荒めにシャッターを切っていた。
((まさか、まさかまさかこれ程のコトになっているとは・・・!))
そしてアングルを変えようと"カメラ"のスコープを覗いた。
((おや、何でしょうか?))
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「その・・・りが・・・ご・・・ざ・・・。」
<<ねぇイムヤー。>>
明石がレイヴンに何か告げているその直下。水中に彼女達はいた。
<<なによ?イク。>>
<<イク達肩身が狭い気がするのね。>>
イクとイムヤ。その本名は伊号19と伊号168。
彼女達は艦娘であり、その中でも最も特殊な潜水艦の艦娘である。
<<そうね、でも上がっちゃダメよ。何があってもね。>>
それを聞いたイクが中々に訝しげな表情で応える。
<<ナニがあっても?>>
イムヤがイクの方を見て・・・スグに向きを変えた。
<<とにかく!!
私達の任務はこのカップルの護衛よ。
・・・でも、こんなトコを狙うような奴っているのかな・・・!>>
イムヤの反応でイクも動く。
<<ナニかいたなのね?>>
<<方位指定距離修正座標算出対象確認・・・あちゃー。>>
<<どうしたのね?>>
かなり険しい表情を見せるイムヤにイクが寄る。
<<対象の位置だけど・・・、この空間にある34の対侵入者用スタングレネードの射線唯一の死角に陣取っているわ。得物はスナイパーライフル。距離的にも十分ね。>>
<<ってゆーことは・・・。>>
<<私達でやるしかないわ、準備・・・出来たわね。>>
イクは既に水中でも使えるBLITZ製のスナイパーライフルにマガジンをセットしていた。
マガジンには「鎮圧用硬化ゴム弾頭」とあった。
<<このてーとくはまだ気付いてないみたいだけど、どうするのね?>>
<<・・・ノロケは、後で幾らでもデキるわ。ここで死ななければね!
急速浮上!行くわよイク!>>
<<ターゲット確認。排除開始なのね!>>
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レイヴンは背中に当たる明石のその柔らかい感触で更に思考力を削がれつつも、何とか平穏無事にこの状況を打開しようと画策していた。
しかし、いよいよ限界が近づいていた。
レイヴンが間違った覚悟を決め、明石に手を回そうとしたその時!
「失礼しますっ!確実に仕留めるわよ!」
「狙ってくれって言ってるようなものなのね!」
突然湯槽から水柱と共に「スクール水着」を模した潜水装甲を纏った艦娘2隻が現れた
「撃つときは、6発なのね!」
そして青っぽい髪の毛の艦娘がスナイパーライフルの引き金を引き、6点バーストで放たれた弾丸が宵闇に吸い込まれたその直後!
「あやっ!あややややーッ!!!!」
聞いたことのある声による絶叫と同時にソレが転がり落ちる音が聞こえたのだった。
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青葉、ちょおっと深入りしすぎたようです?
読んでくださって有難うございました。
温泉回。如何だったでしょうか。筆者的にはかなり難航いたしました。
次回は、イムヤとイクの詳細回です。
-補足、というより蛇足-
はい、この作品のヒロインは明石です。
ACシリーズに置き換えると
レイヴン:レイヴン他プレイヤーキャラクター。
明石:オペレーター
叢雲:アーマードコア
となるので、叢雲には主に戦闘シーンで輝いてもらいましょう。
潜水艦娘登場です。
細かい事は次回に書きます。
蛇足にまで付き合っていただき、有難うございました。
私の作品を読み続けてくださるのであれば、応援、アドバイス等いただけますと有難い限りです。