FLEET COLLECTION ~艦CORE~ 作:ARK-39
それでは本編を再開します。
#8
<<まさかっ、敵艦隊がこれほどとは!>>
明石が言うのも無理はない。
レイヴンの艦隊は鎮守府<呉>に向かう最中に敵深海棲艦の中規模部隊と緊急戦闘を余儀なくされた。中規模と言っても各種各級で合計60隻は確認でき、空母級から発艦される航空戦力も含めると200は下らないだろう。
その上、敵の幾つかは赤や黄のオーラのようなものを纏っている。
俗にエリート・フラッグシップと言われる同種より強力に仕上がっている個体だという。
「ッ!やっだ・・・ッ!」
しまったッ!回避しきれずに叢雲が敵主砲の直撃を食らう。
そのまま機銃の餌食となってしまい、幾つかは体を貫通してしまう。
艦娘の異常な自然治癒力をもってしても塞がるまで断続的にダメージが蓄積される。
「火力がちょこっと足りないのかしら・・・!」
「回避できないとはね・・・。」
今回編成に入れていた青葉と千歳も既に中破、それ以上に消耗が激しい。
ジリ貧だ。
このままでは間違いなく海の藻屑と化してしまう・・・!
「やだ・・・ありえ・・・ない・・・。」
遂に敵の部隊長と思われる空母ヲ級が叢雲に狙いを定める。
万事休す、か・・・!
その時!
<<貴方達を助けに来た訳じゃないわ。私達もここを通りたいだけよ!>>
明石ではない女性の通信の後、砲身を向けていたヲ級の右腕が吹き飛ぶ。
狙撃だ。それもかなり正確な一撃だった。
ヲ級はたまらず後退する。それを合図に敵の統率が乱れる・・・!
<<提督!味方です。
照合は・・・<ローゼンタール>の部隊<ゲルプ・フィアツェン(黄色の14)>と出ました!>>
明石からも通信が入る。企業の戦闘部隊のようだ。
何はともあれ助かった。レイヴンは各艦娘に退却を促す。
<<主砲一斉射。それを合図に<デュアルフェイス>も出撃して頂戴。>>
<<了解した。<デュアルフェイス>出撃する!>>
先程の女性の通信がまだ残っていた。しかし良いことを聞いた。
<デュアルフェイス>、<横須賀>ランク2の艦隊が随伴していたのか。
<<久しぶりだな<レイヴン>。だが、あまりそうも言っていられんな。>>
そして<デュアルフェイス>の提督ジノーヴィーはこう言い放つ。
<<今この瞬間は、力こそが全てだ!!!>>
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先の戦闘を味方の"結果的"な救援もあって辛くも切り抜けた艦隊<レイヴン>は、その消耗度合いから企業<ローゼンタール>の戦闘部隊<ゲルプ・フィアツェン>とその随伴艦隊<デュアルフェイス>の下に身を置く事となった。
「"黄色の14"ということで思うところはありましたが・・・凄いですね!」
今、レイヴンの艦隊は拠点艦ごと<ゲルプ・フィアツェン>の旗艦「ギガベース」の格納庫へ搬入された。
「<All Rounder Mobillize Ship Fort>の頭文字をとって通称「アームズフォート」と呼ばれる企業の対深海棲艦用移動式拠点ですが、「アームズフォート」は本来シークレット扱いの秘密兵器なので私もあまり情報を持っていません。提督なら知らなくても何らおかしくありませんよ。」
明石が説明している内に、この"船"の第一艦橋へ着く。
「Willkommen(いらっしゃい)!
ようこそ<ゲルプ・フィアツェン(黄色の14)>旗艦ギガベースへ。」
出迎えてくれたのは、先の通信と同じ声を持つ淡い金髪の女性だった。
灰色に赤と黒のラインが走る軍服は彼女専用のものであろう。
「私は部隊長のシェリル・ヨハンナ・フォン・ジークリンデ・ビスマルク=ノーム。
階級は少佐。名前を呼ぶときは長いからビスマルクでいいわ。」
そう言って彼女、ビスマルクは後ろにいた提督に近付く。
「こちらの彼はもう知っていると思うけど、紹介するわ。
艦隊<デュアルフェイス>の提督ジノーヴィー。私達の方の作戦に参加しているの。」
「姿を見るのは初めてだな、<レイヴン>。私がジノーヴィーだ。」
「貴方の艦隊は<呉>に進路をとっていたようだけど、艦娘の損傷が激しいからこのままこの海域に置いていくわけにはいかないわ。
だから、依頼主に連絡を取って貴方達も私達の戦列に加えることにしたの。
当然報酬は約束されているから、いいわね?」
全く問題はない。
<呉>にも任務を受け取りに行くのが目的だった為、寧ろ手間が省けて幸運だった。
<<任務の受諾を確認しました。>>
有り難く受け取らせていただきます。
「Gut.(よろしい。)<ゲルプ・フィアツェン(黄色の14)>進路を南へ。」
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「こっちが通常兵器の格納庫よ。ついてらっしゃい!」
レイヴン達はビスマルクに連れられてギガベースを観光していた。
「無闇に探索でもされて危険なトコに入られたらたまったものじゃないから、私が直々に案内してあげる。こんなサービス滅多にしないから、貴方達は運が良いのよ?」
と、ビスマルクは言っていた。
「ん・・・明石さんあれってもしかして・・・。」
「・・・!、間違いないですよ夕張ちゃん!」
連れてきていた夕張と明石が何か見つけたのか、興奮している。
「流石に気がついたようね。そうよ、あれも今は私達の部隊の1つよ。」
それに気付いたビスマルクが得意気に話す。
「あの<サイレントアバランチ>もこの部隊に参加してたんですか!」
サイレントアバランチ・・・レイヴンも聞いたことがあるBFF社の精鋭アーマードコア部隊だ。
狙撃を専門にしている部隊・・・そうかっ!
「そう、貴方を助けたのもこの部隊の隊長よ。」
狙撃用の武装が施された専用機<048AC-S>が並ぶ最奥部には、更に独自の改修によって最早全く別の機体となった<048AC-S>が整備されていた。その奥で一人の男が作業を進めている。
風貌こそそこら辺の作業員であったが、レイヴンの直感はこう伝えた。
あの男が隊長だ。
「ほら凡人ぶってないで彼等に紹介されなさい。
スーパーエースのリヒテンヴァルト。」
「・・・あいよ。」
ビスマルクに若干高圧的に押しきられてその男が姿を見せる。
「<サイレントアバランチ>のリヒテンヴァルト。・・・凡人だ。」
「何言ってるのよ、アンタが凡人だったら他の人達はなんだって言うの?」
リヒテンヴァルトの凡人発言にビスマルクは納得がいかないらしい。
「提督以外で最も深海棲艦に対抗している人間なんだからそれっぽく振る舞っても良いのよ。」
「・・・俺より上手い奴が皆そう"馬鹿"をやって死んだだけだ。
今の地位だって強制的に押し付けられたようなもんでな。
・・・順番が回ってきただけだ。次が俺だ。」
「・・・強情ね。」
リヒテンヴァルトはそのまま奥へ行ってしまった。
「なんか、肝の据わっているというか、そんな人でしたね。」
「やっぱ狙撃手ってああゆう人が適任なんですかね?
あのド渋なカンジで淡々と確実にスナイプするのが想像しやすいんですが。」
夕張と明石が口々に初見の感想を話す。
明石、確かにスナイパーのイメージとしては悪くないが奴は極端だぞ?
「まっ、重い空気になってないで先に進みましょ。
回るとこ回ったら我が<ゲルプ・フィアツェン>自慢の夕食が待ってるわよ!」
「良いですね!」
「気になります!」
ビスマルクが上手くこの空気を和らげ、更に案内を進めるのであった。
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部隊<ゲルプ・フィアツェン(黄色の14)>が向かう先は、地上。
読んでくださって有難うございました。
事情と言いましてもさしたる問題ではないのですが、いかんせんまだまだ作業速度が速くならないものでして、結果的に更新が遅れてしまいます。
次回は、本格的に地上に上陸します。そして、お待ちかね?のあのお方が登場します。
-補足、というより蛇足-
ビスマルクが登場しました。先述の通り「人間」としての登場です。
名前は、声的によく似ている人と、名前の元になった鉄血宰相の妻から。
部隊名<ゲルプ・フィアツェン(黄色の14)>は、デザイン的によく似ている人から。
All Rounder Mobillize Ship Fort(どんな場所でも戦時下に出来る船型要塞)というややこしい名前を略すことでこの世界にも登場しましたアームズフォート。
当然ギガベース以外にもいると思いますが、カーチャンは・・・御免。
ジノーヴィーが再登場しました。プロローグ以来です。
実は#7の回想の後でジナイーダとアリーナマッチをしていました。
居酒屋鳳翔にて観戦・・・という場面も考えていましたが、勝敗を決めきれなかったので已む無く没にしました。
ちなみに勝敗が直接関係するのは下剋上される5位までであり、それ以上では一回の敗北では順位に変更はありません。
サイレントアバランチ登場です。<ゲルプ・フィアツェン>はローゼンタールの部隊ですが、それ以上にブリッツの所属なので他企業の精鋭部隊がいても不思議はありません。
ちなみに隊長は、筆者と交遊のある人が参考になっています。
蛇足にまで付き合っていただき、有難うございました。
私の作品を読み続けてくださるのであれば、応援、アドバイス等いただけますと有難い限りです。