FLEET COLLECTION ~艦CORE~   作:ARK-39

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「遅かったじゃないか・・・。」
「遅かったな、言葉は不要か・・・。」
それでは本編を再開します。


#7

「やりましたね!ランクインじゃないですか!しかも下剋上でいきなり<横須賀>のランク7!」

 演習を終え、レイヴンに割り当てられた控え室に戻ると、早速明石が出迎えてきた。

 この控え室にはモニターがあり、演習を観戦できる。

「もうネットでも話題が出始めているな。」

「こっちではもう情報探しが始まっていますよ。」

 エルールと青葉が「ナーヴス・コンコード」にアクセスしている。

 アリーナ演習は今回の様な突発的な場合でもカラードの運営が素早く対応してナーヴスの専用チャンネルで全世界に生放送される。この観戦料もカラードの運営資金の1つに数えられる。

「いい装備だなぁ「レッグキャノンType-3」。アレ、試してみたいな♪」

「良いでしょ、あれは私も気に入ったわ。」

 夕張は叢雲の脚部兵装が気になっているようで、先に戻っていた叢雲から感想を聞いていた。

「提督が私を壽屋に連れていかなかったので気になっていましたが良い装備選ぶじゃありませんか!」

 やめろ、お前を連れて行くとヘンなのを選びかねない。

「特にマーヴとモタコブなんて鬼に金棒をよく知っていましたね、提督。」

 ・・・そういえばあの二挺は誰から送られて来た?差出人を全く気にしていなかった。

「それはこちらから送らせていただきました。気に入ってもらえたようですね。」

 そう言って控え室に入ってきたのはいつかの大淀ラナ・ニールセンだった。

「カラードは期待の持てる提督には十分な支援を約束していますので。」

 何故だろう、あまり期待しない方が良いと考えるレイヴンであった。

「さてと、千歳さん。車は10人乗りでよろしかったですか。」

「ええ、丁度良いと思います。」

 何やら大淀さんが千歳に確認を取っている。車で、10人乗り・・・?

「実は提督の祝勝会をと思いまして車を用意してもらっていたんです。」

「それはつまり、呑めるって事かい!?」

 千歳の祝勝会発言に真っ先に食い付いたのは響だ。

 釣られて他の艦娘達も自然と聞き耳をたてる。

「呑めるどころかコッチじゃ有名なトコよ。」

 千歳が話を勿体振る。彼女の話し方は、巧い。

「居酒屋「鳳翔」って言ったら・・・!」

「「「「「「「!!!!!!!」」」」」」」

 千歳が言った店の名に反応しないのはレイヴンだけだった。

「ハッラショォォォオオオオーーーーーッ!!!」

「ま、まぁ当然の結果よねっ。」

「う・た・げ・だァー!」

「やりましたねぇ!」

「幸せだわ・・・!」

「まったく、良い仕事をするよ。」

「あの艦娘の鳳翔さんが経営しているという店ですか!?気になってたんですよ!」

 皆が思い思いの歓声をあげるお陰で流石のレイヴンも気になってくる。

 だが・・・なんだ?・・・艦娘・・・・・・鳳・・・翔・・・。

 AMSコードを引き抜く時の様な違和感をレイヴンは感じていた。

 きっと演習で集中したからだろう。

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 鎮守府<横須賀>。旧名、レイヤード・ボルトNo.1<ACE>。分類、複合階層型人工都市。

 その形状を簡単に言ってしまえばビンの"王冠"を想像してもらうと理解が早くなるだろう。

 構成は居住区11層、企業区10層、環境維持区5層の全26層。居住区の許容人口は約10億人。

 規模は海上部の表層面第一層だけで直径24km、天井高500m。350m地点には更に空中都市風の区画が存在する。

 人口は1億を超えるがその4割はカラードの関係者で、一般市民は第二層以下に暮らしている。

 この層はどちらかと言うと軍事施設と観光が主な役割である。

 今レイヴン達はそんな第一層のハイウェイを大淀さんが用意した10人乗りの車で疾走していた。

ハイウェイは第一層の外周を回るようになっており、中心部からも繋がっている。

 居酒屋「鳳翔」はアリーナ演習場やカラード本部軍事施設等がある第一層の10分の1を占める軍港のほぼ反対側にあるらしい。所要時間は12分というところだ。

車内では艦娘達女性陣が話に華を咲かせている。そして技術の発達で運転手を必要としなくなった車の後部座席でレイヴンは一人考え事をしていた。

 それは、レイヴンが控え室に戻る前の事である。

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「半年の実践の差をもってあれか、認めてやるよ。その強さ。」

 レイヴンがAMSルームから控え室に戻ろうとした所を、エヴァンジェが待ち伏せていた。

「それだけの力があれば、あるいは・・・。」

 後ろから、彼についていたもう一人の提督が足早にやって来る。

「隊長!なんという・・・。」

「構わんさトロット、ランクなど何時でも取り直せる。」

 やはりこの男、自信だけは相当のようだ。

「それより、だ。<レイヴン>、単刀直入に言おう。」

 エヴァンジェが少し改まって、レイヴンに話し掛ける。

「その力、私"達"に貸してくれないか。」

「ッ!隊長!」

「私は現在、特別戦術部隊を組織しようとカラードに申請しているところだ。

 部隊名はアライアンス。その編成にお前を加えたい。」

 部隊への勧誘とでも言うのか。

「隊長は私で、副隊長はこのトロットだ。」

「トロット・S・スパーだ。艦隊名は<バリオス・クサントス>で、<横須賀>のランク9だ。」

「演習とはいえ私に勝ったお前が加われば、戦術の幅はより広がる。提督としての使命をはたす」

「負けて尚吠えるか、醜態だなエヴァンジェ。」

 エヴァンジェの勧誘にいきなり横槍が入る。声は女性だ。向こうからやって来る。

「ジナイーダ・・・!私は提督としての使命を果たす為の組織が作りたいだけだ。」

「そうかな、私にはヒーローごっこにしか見えんぞ?提督のこの力はもっと孤高の存在だ。」

 そう言って女性はレイヴンの前に姿を現す。やはり提督だ。

 薄い紫の髪こそ儚げに見えるが、男性用の軍服を肩で羽織り、鋭い目付きとその佇まいには男性的面すら漂わせる。いにしえの表現なら"武人"と呼ばれるのだろう。

 ネックレスの先には紫の液体が入った綺麗な小瓶が吊られている。

「お前が<レイヴン>か、やはりな、そんな気がしていた。演習は見させてもらった。

 私はジナイーダ、艦隊名は<ファシネイター>だ。こいつと同期でお前の半年先輩になるな。」

 彼女はレイヴンが来たAMSルームへ行く途中だったようだ。

「この力は、自らを高みへ導いてくれるものだ。

 自分より弱い者と烏合の衆などやっていられない。」

 そう言って彼女はAMSルームへ消える。

「隊長、追いますか?」

「形は違えど味方だ。・・・引き上げるぞ。」

 エヴァンジェ達もその場を立ち去る。

「<レイヴン>、良い返事を期待している。」

 レイヴンにそう言い残して。

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「起きてください。降りますよ。」

青葉の声だ。どうやらレイヴンは寝てしまっていたらしい。

「車ではここまで、少し歩いたら着くわ。」

 千歳の案内で、歩いて居酒屋「鳳翔」を目指す。

「少し歩いた方が、いかにも居酒屋に行くみたいでしょ♪」

 歩いて30秒程、かなりそれっぽい物件が見えてきた。

 <居酒屋鳳翔>

 間違いない、到着した。

「いらっしゃい、艦隊<レイヴン>御一行ですね。」

 この店の店主にして軽空母の艦娘・鳳翔さんが割烹着姿で出迎えてくれた。

 店内へ入ると、カウンターの奥に階段と広めの座敷空間が顔を覗かせる。

 規模はそれなりのようだ。

「予約があったから、今日はあまりお客はいれていないの。

 その分賑やかにしていってくださいね。」

「お、賑やかにしちゃって良いのかい!?」

 厨房から顔を出したのは同じく軽空母の艦娘・隼鷹だ。

 その姿から此処の従業員のようだ。

「隼鷹さん、準備は終わって?」

「んなもんとっくにオーケーさ!」

 既に隼鷹は一生瓶を3本片手で掲げて準備万端だ。

「鳳翔さん、準備終わりましたよって、あら。」

 更に同じく従業員であろう重巡洋艦の艦娘・足柄が階段から降りてくる。

「貴方が予約の提督ね。ふーん、合格・・・。」

 何を言っているのだろうか、レイヴンには聞き取れない。

「さて、上に上がって、祝勝会といきますか!」

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「それでは、提督の破竹の活躍と今回のランクインを祝して乾杯!」

「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」

「パーッといこうぜ〜。パーッとな!」

「素晴らしいわ!みなぎってきたわ!」

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「て・・とく・・・そこ・・はもっときけ・・・ん・・です・・・ZZZ・・・。」

 3時間もすると、会場には死屍累々が完成していた。

 既に鳳翔さんが食器類の片付けを済ませており、艦娘達が寝てしまっているだけではある。

 鳳翔さんが宿泊を勧めてくれたので、レイヴンはお言葉に甘えることにした。

 酒が飲めないレイヴンをヨソに勝手に盛り上がって勝手に撃沈した艦娘達を会場に残し、レイヴンは階段を降りてカウンター席へ座る。

「お前が<レイヴン>か、優秀な戦士と聞いている。」

 カウンター席の奥にいたスーツにサングラスの男がレイヴンの隣に座る。

 レイヴンの格好は提督用の軍服姿であり、丁度黒と白の対となる。

「あら、カワテさん。いらしていたのですね。」

 そう言ってのれんをくぐる艦娘が一人。割烹着に手提げが妙に似合っている。

「鳳翔さん、お買い物行ってきました。」

「大鯨ちゃん毎度助かります。」

 タイゲイと呼ばれた艦娘は厨房へ入って行く。

「大鯨は後の軽空母龍鳳のプロトタイプだ。」

 カワテと呼ばれた隣の男が話し出す。カラードの関係者か、或いは提督か。

「大鯨は結局完成に辿り着けななくてな、だから彼女だけここで働いている。

 最近は女将の料理に追従するまでになって侮れん。」

 そして話題をレイヴンに振る。

「今回の女将の料理は良かっただろう。何時もより気合いが入っているからな。」

 最高、と言って差し支えないだろう。

 だが、レイヴンには1つ違和感があった。

 確かに、正しく"お袋の味"とでも言うべき勝手に懐かしくなるような物ではあった。

 しかし、レイヴンにはその味が余りに馴染む物だったのだ。

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 いきなりだが、レイヴンには過去の記憶がない。

 これはレイヴンに限らず、提督の中ではよく起こりうる現象である。

 育成所での過酷を極める訓練や、度重なる実践を潜り抜けるうちに、過去の記憶がいつの間にか思い出せなくなってしまうのだ。ひどい場合では、自分の名前さえ忘れてしまう。

 艦隊名の他に自分の名前を名乗る提督は多いが、彼らの名は多くが提督になってから自分でつけた第2の名前である。ある意味提督としての新しい人生が始まるのだ。

 その影響は味覚にも現れ、所謂お袋の味など覚えていられない。

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「お代はここに置いておく。」

 カワテが店を出る。

「<レイヴン>、感傷だが、別の形で出会いたかったぞ。」

 レイヴンは、その言葉を覚えておくことにした。

 何か、大切なことになるかもしれないから。

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 翌日、居酒屋鳳翔を後にした艦隊は、また"日常"へ戻って行く。




読んでくださって有難うございました。

最近投稿速度が遅れぎみです。なんとかせねば・・・。

次回は、地上が舞台です。

-補足、というより蛇足-

提督は年に二回新たに選出されます。
選出時期は四月と九月で、レイヴンは九月に選出されました。

艦娘も一応引退はあります。しかし、鳳翔さんはさすがに例外的です。
一応、それについての理由もありますがそれは追々・・・。

カワテ、いったい何者なんだ・・・。

もう知らない読者もいるかもしれませんが、<レイヴン>所属候補だった隼鷹さんが登場しました。ここに登場させるのが確定していたために、千歳さんに代わってもらいました。

蛇足にまで付き合っていただき、有難うございました。
私の作品を読み続けてくださるのであれば、応援、アドバイス等いただけますと有難い限りです。

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