FLEET COLLECTION ~艦CORE~   作:ARK-39

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更新が遅くなりました。
それでは本編を再開します。


#6

 ドミナント:dominant 形容詞

 意味:支配的な、優先的な

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 かつて、この言葉をコールネームにして戦場に名を馳せた提督が居たらしい。

 「何故か公式の記録に一切残っていない為に、「幻影の提督」とも呼ばれています。

  活動期間は極めて短く、今から4年前の僅か8ヶ月間のみで扱いはMIA(戦闘中行方不明)。

  しかしその戦歴は、情報が正しいのであれば将官位まで余裕で昇進できる程です。」

 レイヴンの隣を歩きながら"アップルボーイ"は<ドミナント>の提督について熱く語る。

 やはり彼はそういった知識に明るい。ただのミーハーかもしれないが。

 <横須賀>の「カラード」本部軍事施設で、先の緊急戦闘の報告書を提出した後、レイヴンはアップルボーイと再会していた。

 どうやら彼もそれなりには任務をこなしているようで、その表情には少しだけ凛々しさを感じる様になった。

 今彼等はアリーナ演習場に向かっている。所属の艦娘達は既に到着しているだろう。

「同期が恐らく<佐世保>のオッツダルヴァ辺りだけど、・・・話し掛けられる相手じゃないよなァ・・・。」

 恐らく無理であろう。あの威圧感はアップルボーイでは失神するのが関の山だ。

「他に<ドミナント>並みの活躍をした提督と言えば、先の戦争、「リンクス戦争の英雄」であるベルリオーズやジョシュア・オブライエンに”アナトリアの傭兵”。

現役なら、現在唯一の将官提督であって提督の頂点、<横須賀>ランク1のハスラーワン<ナインボール>と、それを追うランク2<デュアルフェイス>のジノーヴィー。

後、謎多き<佐世保>ランク9の<ホワイト・グリント>・・・。」

 レイヴンも聞いたことがある超有名提督が彼の口から名を連ねる。

 ・・・ジョシュアに会ったことは黙っておこう。

「そして、僕達の半同期にして僅か半年で佐官提督まで昇進した現<横須賀>ランク3。

 コールネーム<ファシネイター>のジナイーダ!」

「と、私だ。」

 いきなりレイヴンとアップルボーイの会話に割って入ってきた男がいた。

 提督のようだが、改造された軍服はかなり個性的に仕上がっている。

「お前が<レイヴン>か、・・・成程。」

 その男はレイヴンを一通り流し見て勝手に納得する。

「紹介が遅れたな、私の名はエヴァンジェ、艦隊名は<オラクル>だ。

 アリーナは<横須賀>でランク7だが、まァ上の実力は把握しているさ。」

 自信家か、高慢な態度をとる。

「先の作戦、派手にやってくれたみたいじゃないか。あれには参加しようか考えていたんだが、別のを選んで正解だったよ。あれでお前が話題に上がれたのだからな。」

 そう言いながら近付いてくるエヴァンジェに思わず身構えるレイヴン。

「私と勝負しろ。あの動きが本当なら私と戦える資格がある。」

 アップルボーイが仲裁しようとするが、エヴァンジェは止まらない。

「なにタダでとは言わん。アリーナの"下剋上"なら、実力の証拠になる。」

 アリーナ演習におけるランクマッチにおいて、10位以内5位以下のランカー提督に対しランク外の提督が直接勝負出来る「下剋上システム」が存在し、勝てばそのランクの提督と入れ替わる事となる。

 普段はあまり活用されることの無い物だ。が、実際にそれは魅力的ではある。

「・・・!、そうこなくてはな!」

 レイヴンはその"挑発"に乗った。

「隊長、ここでしたか。・・・此方のは一体?」

 するとエヴァンジェの後方から男が近付いてくる。

 その男も提督のようだが、エヴァンジェの事を「隊長」と呼んだ。

「トロット、アリーナに演習の申請を出してくれ。"下剋上"だ。」

「!、隊長まさか」

「そうだ、彼が<レイヴン>だ。」

 そして、エヴァンジェはその提督と共に立ち去って行く。

「時が来たら連絡が行く筈だ。それまで艦娘の装備を整えておくんだな。」

 そう、一言言い残して。

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「遅かったじゃないか。」

 アリーナ演習場に到着すると、珍しくエルールが迎えてくれた。

 だが、その言葉は、不味い・・・。

「アリーナ戦の申し込みをしたらしいな。話は聞いている。

 既に明石が艦娘の調律を進めているよ。使うのは叢雲だろう?」

 見透かされているとも言えそうな位、彼女の対応は早い。

「そうそう"壽屋"に提督に宛てられた品物があるらしいから、行こう。」

 <レイヴン>宛てに壽屋の品物?ということは艦娘用の装備か。

 レイヴンはエルールと共に壽屋へ急ぐ事にした。

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「隊長、宜しかったのですか?」

 エヴァンジェの隣を歩く「トロット」と呼ばれた提督は、エヴァンジェに問い掛ける。

「なに、勝つさ。勝てば私の評価はより上がる。」

 エヴァンジェには自信があるらしい。

 しかも「下剋上システム」の性質上、彼は「新進気鋭の提督に"挑まれた"」立場にある。

 以外とこの男は頭が回るようだ。

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「で、これが提督宛の品物か。成程・・・。」

 エルールが端末で品物のチェックをしている。

「提督、叢雲の調律(チューン)が終わりました。・・・ってこれは!」

 明石が合流すると、早速提督に宛てられた品物に目が行く。

「<フォーミュラ>製の「マーヴ」と「モーターコブラ」じゃないですか!」

 共にかなり優秀な分類の握用武器である。

 「マーヴ」は装弾数こそ少ないが圧倒的な瞬間火力が脅威となるアサルトライフル。

 「モーターコブラ」は装弾数が多く、それでいて単発の火力もあるマシンガンだ。

 そして、あえて言えば叢雲と相性の良い企業製の艦娘用武装である。

「この2挺の組み合わせではもう叢雲に他の火器は握らせられませんね。」

 こう明石が言う程である。

 叢雲の装備スロットに入れる。右に「マーヴ」、左に「モーターコブラ」だ。

 そして叢雲のトレードマークたる近接武装「マスト・クラウドブレイカー」は格納させる。

 特定の艦娘の艤装には握用の小型火器や折り畳み式の武器を格納出来るスペースがあり、握用、椀用武器をパージして格納してある武器に切り替える事が可能である。

「後は提督が購入した物ですね。これらも幾つか装備させておきましょう。」

 叢雲のアセンブルが終了すると、狙っていたかのように連絡がきた。

 

<<艦隊<レイヴン>、<オラクル>の両提督と旗艦はアリーナ演習場へ。>>

 

 さて、行くか。レイヴンが現場へ向かう。

「提督、期待していますよ。」

 その後ろで明石はそう言ってレイヴンの背中を見送っていた。

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 叢雲が演習場に到着する。

 演習の場合は、専用のモードに切り替える。

 

 <<メインシステム、演習モードへ移行します。>>

 

 アリーナ演習場の戦闘ステージは幾つかあると聞いている。

 今回は・・・倉庫か。250×250×25m位の大型倉庫だが、普段の海上戦闘から考えるとかなり閉所のステージだ。床には海水が浸されている。そうでなくては艦娘は力を発揮出来ない。

 エヴァンジェの操舵する艦娘が現れる。軽巡洋艦の艦娘・天龍か。

「フフフ、怖いか?」

 怖いかどうかはさておき、装備はかなりの物を積んでいる。

「オレの装備が気になるか? フフフ・・・世界水準軽く超えてるからなァ!」

 あの特徴的な近接武装、通称「天龍刀」を右手に、左手には強力なリニアガン、肩に連装のグレネードランチャーと背部には軽量のレーザーキャノンと連射力の高い軽装リニアキャノンを装備。

 脚部は5発を同時発射するマイクロミサイルポッドと叢雲と同タイプのエッジブレードを追加装甲で固めている。

 そして、嫌でも気になるのが左腕に装備された物である。天龍も気に入っているようで、

「早くブッ放してぇなぁ・・・!」

 と意気揚々としている。

<<「MOONLIGHT」、これが選ばれた者の証だ。>>

 エヴァンジェから通信が入る、・・・ムーンライトか。

 一般販売されていない特殊な武器が同じ名前だったとレイヴンは思い出す。

 

<<それでは、演習、開始です。>>

 

 そして短い合図とともにレイヴンの初アリーナ戦が幕を開ける。

「天龍、出撃するぜ!」

「出撃するわ!」

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「天龍様の攻撃だ!うっしゃぁっ!」

 開始とほぼ同時に天龍が突撃をかけ、自慢の天龍刀で切りかかる!

「ッ!この・・・ッ!」

 叢雲は立て続けの三連撃をギリギリで躱す。

 すると天龍は一気に距離を開けて肩のグレネードを放り込む。

 叢雲は避けたが、水飛沫とグレネードの爆風で視界が奪われる!

「硝煙の匂いが最高だなぁオイ!」

 爆風の中からマイクロミサイルが飛んで来るが、これを頭部の迎撃オービットで撃ち落とす。

「怖くて声も出ねぇかァ?」

「ッ!ここからが、私の本番なのよ!」

「そう来なくっちゃな!」

 此方からもモーターコブラで牽制しつつ接近し、肩に装備を移動させた連装砲で攻撃する。

 天龍は余裕で躱すが、今の攻撃に当てる気はない。

「そこよ!」

「ンだと・・・!」

 天龍が直角に避けた対角線上へQB(クイックブースト)でさらに接近し、マーヴを当てる!

「クソがっ!」

 しかし引き際に天龍からリニアガンを食らってしまう。

 ダメージ具合は互角。という事は、元のAP(装甲値)差で叢雲の方が損傷は多い。

 レイヴンは叢雲を背部に搭載した<ローゼンタール>製の鎌のような見た目のチェーンガンで天龍から距離を開けようとする。

 しかし天龍はこれを躱して突撃をかけ、斬撃をかける。

 天龍刀による上段切り落とし、今度は叢雲に避ける暇はない!

「オラァッ!!」

「ッ!ハァアッ!!」

 鈍い金属の擦れる音と共に、火花が散る。

「な・・・に!?」

「悪くないわ・・・!」

 天龍の渾身の斬撃は、叢雲がなんとマーヴでいなしていた。

 実はこのマーヴという銃、銃身下部に空気抵抗対策として整流用のブレードを持つ。

 本来の用途はそれだけで良いのだが、条件次第では別の使い方が出来てしまう。

 この銃の近距離に対する適正と、全艦娘の中でも五指に入る近接戦に秀でた叢雲の特性によって、マーヴは銃から剣になる。

「これで、もっと戦えるわ!」

 叢雲が斬撃を払い、即座に天龍の腹部に蹴りをかます。

 相対的に距離の離れた天龍にマーヴの残りを撃ち込み、パージする。

 そして格納していた「マスト・クラウドブレイカー」に持ち替え天龍に接近し攻撃を畳み掛ける!

「ぐ・・・だがなァ!」

 幾つかヒットが入るものの、隙を突かれ天龍のレーザーキャノンが掠める。

 その間に距離を開けて体勢を建て直した天龍が左手のリニアガンをパージ。

 遂に「MOONLIGHT」から蒼白い光が溢れ出す。

「これこれ、こういうのを待ってたんだぜ・・・ゥオラァッ!」

 そして天龍がムーンライトを思いっきり振り回すと光がそのまま打ち出される!

「ちょっとっきゃあっ!」

 対応が遅れて叢雲はその光を食らってしまう!

 直撃は紙一重で避けたものの、APが今ので2/3になってしまった。

「オラオラ!ビビってんじゃねぇぞ!」

 今度は天龍がムーンライトに光の刀身を作ると連撃をかけてくる。

 あれに二度も当たってしまえば後はない。

 叢雲は斬撃を避けつつ、連装砲とチェーンガンを撃ち込むが相手もリニアガンを浴びせてくる。

 これが地味に痛い。リニアガンは被弾時に反動が強く、動きが制限される。

 その内に壁際まで追い詰められる。いよいよピンチかっ。

「フフフ・・・食らえっ!」

「!そんなんじゃ・・・!」

 壁際で油断があったのか、天龍の斬撃は単調だった。

 これを躱し、モーターコブラの弾幕をお返しに浴びせる。

 天龍はグレネードを放つが、これも躱す。

 そして叢雲が再度接近する。

 これで決めるッ!

 天龍の斬撃をいなし、もう一度蹴りを入れる。

 この時、先程は使わなかった新装備を使う!

「ぐっうっ!?」

 蹴りを入れながらの砲撃、「レッグキャノンType-3」。

 砲撃ではあるが、Type-3は散弾を発射する仕様である。

 そして散弾をモロに食らい反動で身動きが取れなくなった天龍をマストで突く!演習の場合、直接当てるわけにはいかないが、ヒットの判定で天龍のAPは下がる。

 最後に止めで左腕の魚雷を食らわせる!

「沈みなさい!」

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こうしてレイヴンの初アリーナ戦は下剋上が成立する結果となった。




読んでくださって有難うございました。

寝ぼけて投稿したせいで前書きと後書きがないまま更新されてしまうとは・・・。
というよりその状態で投稿出来てしまうとは・・・。

それはさておき、次回はレイヴンが祝勝会で千歳に誘われてどっかへ行きます。
・・・変な意味はありませんよ!?

-補足、というより蛇足-

また提督が現れました「隊長」ことエヴァンジェです。
扱いこそあれですが、まぁ彼らしくて?良いんじゃないでしょうか。
<オラクル>の旗艦は天龍。何て言いましょうか、そっくりな気がします。
特に自信過剰気味なトコとか・・・。

本編でのエヴァンジェの改造軍服について。
上半身は短く"詰め"られた上着を全開に、中は黒いタンクトップ。
下半身はまぁ「ビスマルク」の出身地の士官ばりの乗馬ズボン風(白)にロングブーツという時代錯誤っぷりです。
かっこいいかは分かりません。

蛇足にまで付き合っていただき、有難うございました。
私の作品を読み続けてくださるのであれば、応援、アドバイス等いただけますと有難い限りです。

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