ミュウツーとミュウ   作:イグのん

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アニメのみに登場したポケモンハンターJが登場します。
Jが好きな人はより一層楽しめるのではと思います。


孤高のポケモントレーナー

――私は誰だ――此処は何処だ?――

そう考えた頃が今では妙に懐かしく思える私が存在している。

 

 

私の名はミュウツー。

世界で一番珍しいと言われているポケモン『ミュウ』の遺伝子を元に人間によって生み出されたポケモン。

だが、私は何のために生み出された?

誰が生み出してくれと願った!?

 

 

気付けば果てのない自問自答を私は随分と長く繰り返した気がする。

嘗て私自身の手によって行った人間への逆襲。

今思えば意味があった逆襲だったのか、と疑問に思えてならない。

 

 

確かに私は人間によって創られたポケモンに他ならない。

だが本物であれコピーであれ、『現在』を生きている事に変わりはない。

そう、どのようなポケモンであってもそれは命ある生物なのだ。

それは私とて例外ではない。

 

 

2度に渡り、私にその真実を伝えてくれた傍らにピカチュウを乗せたあの少年。

少年のお陰で私は自らの問答にやっと答えが出せた。

私は生きている、そして私がまだ見た事のない世界を見て回る事も出来る。

 

 

――果てのない世界へ旅立とう――

その思いから私は仲間のコピーのポケモンと共に密かに暮らしていた『ピュアーズロック』を離れ、今は異郷の地方へと向かう船の甲板にいる。

船の目的地は『フタバタウン』、シンオウ地方に該当する小さな町だ。

 

 

思えばあの時、ピュアーズロックにいた仲間は皆が離れ離れに散って行った筈だった。

そんな私に付けてくる1匹のポケモンが今ここにいる。

しかしピュアーズロックで共に暮らした仲間ではない。

そのポケモンとは嘗て一度だけであるが敵対関係にあっただろう。

 

 

「――ミュウ?」

 

 

「気にする必要は無い。少し昔の事を思い出していただけだ」

 

 

「………ミュウ~、」

 

 

心配そうな視線を送りながら私の周りを浮遊するこのポケモンが私に付いてきた唯一のポケモン『ミュウ』。

全てのポケモンの遺伝子を持つ上にその高い知性からあらゆる技を覚え、永遠の生命力があるとも言われている。

 

 

「それにしても、お前とこうして旅をする事になるとは思いも寄らなかった。未来とは分からないモノだ」

 

 

なぜミュウが私と旅をしているのか――

そう思うと以前の私からは考えられなかった。

一度は敵対関係だった者と親しくなるという事など――

 

 

「ミュウ! ミュウミュウ~♪」

 

 

「何? 私と旅が出来て楽しい――だと?」

 

 

(コクコク)

 

 

「そうか……」

 

 

不思議な感覚だった。

遥か前に一度だけ感じたあの温もりを――。

『アイ』と夢の中で共に過ごした時に感じた心溢れる感情を――確かに私は今再び感じている。

決して幻想などではない。

私は友という存在の大切さをまた教えられたのだ。

 

 

『ボオオオォォォォーー』

 

 

考え事をしている最中に割り込んでくる船の汽笛により、ふと我に返る。

 

 

「やっと着いたみたいだよ~」

「あれがフタバタウンか……」

「ようやく到着か、待ちくたびれちゃったよ」

 

 

気が付くと先程までは人数が少なかったこの甲板も沢山の乗客で賑わっていた。

どうやら大勢の乗客が到着の汽笛を聞きつけて甲板へと出てきたようだ。

同時に今の今まで隣にいた筈のミュウの姿が見当たらないが、その原因にミュウツーはすぐに考えが及ぶ。

恐らく大勢の人が此処に来る事を見越して姿を消したのだろう。

ミュウに限らず伝説や幻とも呼ばれるポケモンは滅多に人目に触れないからこそ、その存在が希少となり、やがて伝説や幻と称されるようになる。

ポケモンによってはそこまでの経緯は様々だがこの一点に限り、共通している部分とも言えるだろう。

 

 

「間もなくか、…んっ? あの男……」

 

 

目的地間近になり、騒ぎ始める乗客の中に混じる妙な感覚がミュウツーの意識を傾ける。

随分前から視界の隅に時々入る同じ甲板で景色を眺めている紫の髪色をした一人の男。

何に見入っているように一歩も動かずに甲板から景色を眺め続けているのが妙に印象に残っていた。

何より周りの客とは雰囲気が明らかに違う。

シンオウ地方への観光目的で乗っている客も少なくない。

そんなこの船の中で唯一人、常に戦闘している時のようなオーラを身に纏わせている独特の雰囲気が感じられる。

感じから察するにポケモントレーナーのように見えるが……

 

 

「無闇に関係を作るのも得策ではない…か」

 

 

普通のポケモンならここで関係を築いていく事も躊躇わなかっただろう。

しかし、今此処に居るのはあらゆるポケモンより強い戦闘能力を目的に生み出されたポケモン。

また、強い力は存在を隠していても隠しきれるものではない。

その力を必要とする者がいずれは探し出してしまうからだ。

 

 

『力』そのものには善も悪も当然のごとく存在しないが、『力』を使う者の心によっては善にも悪にも傾いてしまう。

ミュウツーの持つ力は正に使い様によっては世界を滅ぼせる程のレベルであった。

 

 

「人間とはつくづく不思議な生き物だ」

 

 

そんな独り言を嘆きつつも干渉に浸るミュウツーだが、ふと気付き周りを見渡すと先程まで沢山いた乗客はいなくなっている。

考え事をしている内に殆どの乗客は下りてしまった様だ。

とは言えチラホラと何人かはまだ残っている所を見ると、自分達が最後という訳ではないらしい。

 

 

「行くぞ」

 

 

「ミュウ~」

 

 

姿は見えずとも傍にいるであろう相方に声を掛ける。

そして自分達が最後という事もあり、静まり返った船を静かに下りていった。

 

 

 

 

 

船を降りて周りに人がいなくなった事で再び姿を現したミュウの表情は実に晴れやかだ。

多分未知の場所を訪れた事への喜びというところだろう。

しかし着いた場所は比較的小さな町。

その町の名物という物や観光地があるという所ではないのか、町としては少々寂しくも見える。

 

 

「うおわあああああ~~退いてくれーーーっ!!」

 

 

だが、そんな安息な一時を脆くも打ち崩す大声がその場全体に響き渡った。

声の発生源は自転車に乗った一人の少年。

下り坂をもの凄いスピードを出しながら暴走している。

ああして叫び声を挙げている所を見るとブレーキに何か異常が発生したのか。

 

 

「そこのポケモン危ねえってばーーーっ!!」

 

 

並ならぬ速度で走っているせいか、自身でも止められないようだ。

この速度なら一直線にこちらに向かってくる自転車とミュウツーの距離もあと数秒も満たない内に無くなってしまうだろう。

 

 

ともかく、今は暴走している少年を助ける事が先決。

そう考えると同時にミュウツーは手を前に突き出した状態で静止する。

普通なら少年の言う通りに避ける事こそがベストな方法と言えるが、

 

 

「ぶつかるーーーっ!!! ―――って、おっおおおおっ!?」

 

 

さぞ少年も驚いた事だろう。

下り坂を走っているのだから本来なら進むに連れて速度は増すのが常識。

だが現実はそんな普通とは全く逆の結果。

そう、減速しているのだ、それはもう途轍もなく凄い勢いで。

物理の法則を無視しているのではないかと疑問にさえ思える不自然な急ブレーキが行き成り働いたのだから。

 

 

無論本人にも心当たりなどあろう筈がない。

何しろこれはミュウツーの仕業。

念力を使う事で徐々に増す自転車のスピードを一気に0へと持っていったのだ。

 

 

「何だよ! 何だよ!! 何だってんだよ!!!? こんな所を歩いてるなんて罰金だぞ!」

 

 

過失は完全に其方側にあるというのにそれを意も介さないような態度を取りながら詰め寄ってくる少年。

どうやら頭のネジが数本外れていると思って良いのだろうか。

 

 

「――って、おろっ? 見掛けないポケモンだなお前」

 

 

ミュウツーを見た途端に少年は首を傾げながら何かを考えているが、少年の疑問も尤もである。

元々ミュウツーは人間によって創られた世界に一匹しか存在しないポケモン。

そしてミュウツーが生み出されたのはカントー地方であり、その中でもミュウツーの存在を知る者自体が極少数である。

ここシンオウ地方でミュウツーの存在を知る者など皆無と言っても差し支えは無い。

一瞬ミュウの事も含めているのかと思ったが、姿が消えている事でそれも直ぐに違うと断定出来た。

 

 

『――縁があればまた会う事になるかもしれん』

 

 

「へっ!? 何だコレ? おいっ、今のお前が喋ったのか? 凄えなオイ!!」

 

 

訳が分からなかった。

目の前のポケモンは言葉一つ発していないのにも拘わらず、少年の頭の中に聞き覚えのない声が直接響いてくる。

 

 

現象としては極シンプルだ。

一部のエスパーポケモンが使う能力の一つであるテレパシー。

ミュウツーはテレパシーを使い、少年に念話で直接語りかけただけに過ぎない。

だが、少年にとってテレパシーを送られる事は完全な未知の体験だった様で、今起きた出来事に目を輝かせている。

そしてそんな一喜一憂している少年に一言残すと同時にミュウツーは消えるようにしてこの場を後にしていった。

 

 

「消えちまった……」

 

 

度重なる異例の出来事に思考が追いつかない。

不思議な力を使い自分を助けてくれたポケモンに一言礼を言いたかったが、それは叶わぬ事となってしまい少年は小さな溜息を漏らしていた。

 

 

 

 

 

 

ここ、フタバタウンから目と鼻の先に位置するシンジ湖。

201番道路の分かれ道にある道案内の看板前でどちらに進むか悩み、熟考の結果このシンジ湖に足を運んでいた。

 

 

「この湖はとても澄んでいるな。」

 

 

「ミュウ~♪」

 

 

何処までも透き通る綺麗な湖だった。

先程まで姿を消したり現わしたりのミュウ。

今は湖の水を手でパシャパシャと掻き出したり、湖に潜って泳いだりとこれ以上なく楽しそうに満喫している。

 

 

そんな微笑ましい一時を楽しんでいる時だった。

 

 

「ミュウ?」

 

 

急に湖の中心と思わしき場所から舞う様なそよ風が吹き始めたのは。

 

 

「アレは―――」

 

 

普通なら距離が離れているこの場所ではハッキリとは見えない。

だが、ミュウツーはその視界に明確に収めていた。

湖から次第に湧き上がる様に表れた一つの影を。

 

 

『……………』

 

 

ポケモンを模ったように見える湖のど真ん中に浮かぶ謎の影。

ポケモンという根拠は一切無い。

ただ何となくそう思ったというだけの話。

 

 

(確かめてみるか――)

 

 

そう考えるとミュウツーは瞬時に体を浮かせ影の元へと飛んでいった。

 

 

「ミュウッ」

 

 

ミュウツーに続く様にミュウも影の元へと駆け寄っていく。

 

 

『…………』

 

 

近付いて見ると益々ポケモンとしか思えない浮遊する透明の影。

浮遊する影はまるでカメレオンの様に周囲の環境と同化している。

自然現象でこのような形が出来るとは考えにくい。

となるとシンオウ地方のポケモンなのか。

 

 

「――お前は誰だ?」

 

 

『…………』

 

 

予想はしていたが一切の返事が無い。

実体が存在しないので言語を喋る事が出来ないのだろうか。

 

 

「ミュウ~?」

 

 

影の周りを旋回しながらミュウは様子を窺っている。

にも拘わらず、目の前の影は一向に微動だにしようとしない。

 

 

『……――』

 

 

そう考えている矢先。

宙に浮く影は次第に湖へと姿を沈めて消えて行ってしまった。

一体今のは何だったのだろうか。

 

 

「――――ポケモン…か」

 

 

ミュウツーも今まで数多くのポケモンを見てきている。

故に初対面でも辛うじて理解は可能であった。

今まで目の前にいた影は紛れもなくポケモンであると――。

 

 

「そんな所で何をしている」

 

 

正体不明の影に対して考えを巡らせていたミュウツーがふと我に返る。

声の方向に顔を向けるとそこには助手と思われる研究員を引き連れていた老人がいた。

自らも白衣を纏っている所を見ると恐らく近隣にある研究所の博士だろう。

 

 

(声を掛けられた以上何も話さないままこの場を去る訳にもいかんか)

 

 

一瞬何事も無かった様にこの場を立ち去ろうとも考えたが、見た処悪人とも思えない。

何よりミュウが姿を現したままというのが何よりの証拠である。

伝説ではミュウは清らかな心を持つ者の前にしか姿を現さない。

それに此処はシンオウ地方、ミュウツー達にとっては未知の大陸である以上この人間達からある程度の情報を収集しておいた方が得策と言えるだろう。

 

 

考えが頭の中で纏まるとミュウツーは声の主の元へと素早く駆け寄っていった。

 

 

「この湖の関係者か?」

 

 

「いや、私はマサゴタウンにある研究所のナナカマド博士だ。君は見た処ポケモンの様だが……」

 

 

ミュウツーを凝視しながらナナカマド博士は何かを考え込んでいる。

先程の少年はともかく、ナナカマド博士にさえミュウツーの存在は知られていないのか。

 

 

「分からないのも無理は無い。私は元々カントーで生み出されたポケモンだ。…まだ名前を言っていなかった。私はミュウツー」

 

 

「―――ミュウツーだとっ!?」

 

 

「博士、このポケモンの事を知っているんですか?」

 

 

「…いや、私も詳しくは知らん。随分前に資料で名前を目にした程度だ。」

 

 

「資料――ですか?」

 

 

「ウム、カントー地方の孤島と化しているニューアイランドでの謎の研究所爆発事故でな」

 

 

そう、ミュウツーはニューアイランドに建つ研究所でミュウを元に造られたポケモン。

研究所はミュウツーによって大爆発を起こし跡形も無くなっている。

当時の調査の結果では現場からは爆発の原因が何一つ掴めない為、この一連の騒動は研究中の事故として処理されていた。

しかし噂に戸は立てられず、既に一部の研究員達の間では専らの噂になっていたのだ。

 

 

――姿を消したポケモンの仕業なのではないか――

 

 

元々ミュウツーの情報については出来る限りの隠蔽を研究所でも行っていた為に調査でもミュウツーの名を表に出す事は無かった。

だが、研究所が爆発した際に残った一枚の石版から後にミュウツーの情報が僅かずつだが漏れ始めていたのだ。

 

 

決定的な証拠となった一枚の石版には、ミュウツーの元となった『ミュウ』の姿。

そして姿の横には爆発した研究所で働いていた研究員の筆跡が見つかり、古代文字である名前が記されていた。

 

 

後に各地の研究員達の調査によって石版の文字は『ミュウツー』と解明されたが、その事実も公には公表されずに一部の研究資料にのみ記載される。

ナナカマド博士が目にした資料もその一部であった。

 

 

「……まさか、キミがそのポケモンだったとは。――それはともかく、君は何故このシンオウ地方に?」

 

 

研究所の博士ともなればこのシンオウ地方にも詳しいだろう。

その上事情が複雑なのでここは話しておいた方が良いと考えたミュウツーは自分の全てをナナカマド博士に話す事にした。

 

 

自分が永遠の生命力を持つ幻のポケモン『ミュウ』を元に造られたという事。

研究所の爆発の真相の全て。

嘗て最強のポケモンマスター、そして最強のポケモンとして人間に復讐を行った事。

最強のポケモン『ミュウツー』を手に入れる為にミュウツーと共に暮らすピュアーズロックを襲撃した『ロケット団』とその最高幹部サカキの存在。

そしてその果てに得た答えから未知の世界へと旅立ち、このシンオウ地方に訪れた事。

 

 

「――そうだったのか」

 

 

全てを聞き終えたナナカマド博士は何かを考え込みながらポツリとそう呟いた。

その眼はどこか懐かしい者を見る様にも見える。

 

 

「――やはり、あの事件はキミが発端だったのか」

 

 

資料に目を通した時点でナナカマド博士にもある程度の予測がついていたのだろう。

特別に驚く事も無く、ただ此方の話に聞き入っていた。

 

 

「一つだけ聞かせて欲しい。君は今でも自分を創りだした人間を憎んでいるのか?」

 

 

質問に一度だけ首を横に振るミュウツー。

ナナカマド博士も全てを理解する。

資料に掛かれていた事が全て真実であったという事を。

 

 

「そうか、それで君はこれからどうするのだ?」

 

 

「………」

 

 

明確な答えを持っていない為に質問に窮するミュウツー。

この世界を見て回るという漠然な目的は有るもののナナカマド博士が望んでいる答えはもっと別の何かであろう事ではミュウツーも薄々は感づいている。

だからこその沈黙でもあった。

 

 

「―――ならばポケモントレーナーとしてこのシンオウ地方を回ってみてはどうかね。

君が再びトレーナーの道を歩みたいというのであれば…だが」

 

 

「!?」

 

 

驚愕の提案にさしものミュウツーを驚きを隠せない。

それは彼の助手一同も同様だった様でナナカマド博士の提案に狼狽していた。

 

 

「博士っ!本気ですかッ!?ポケモンがポケモントレーナーなど――」

 

 

「確かに通常ならば有り得ない事だ。しかし君ならば可能であると私は思う。人間の言葉を話す知性とトレーナーとしての才を併せ持つ君であればな」

 

 

「し…しかし……」

 

 

助手達が納得が出来ないのも無理は無い。

何しろナナカマド博士が行おうとしている事は前例の無い試みなのだから。

ましてポケモンがポケモントレーナーになるなど聞いた事がある筈も無い。

 

 

 

「責任は私が持つ。君達は今すぐ研究所に戻り必要な手続きを頼む」

 

 

「わっ…わかりました」

 

 

異例の事態に疑問を感じつつも助手達はナナカマド博士の一言で足早とこの場から去って行った。

 

 

「何故初対面である私にそこまで肩入れする?」

 

 

この場に二人が残された事に最早遠慮をする必要は無い。

そう判断したミュウツーは核心に迫る問いをナナカマド博士へと投げかけた。

 

 

「君の話を聞いた時からずっと気になっていた。君は後悔しているのだろう。人間やポケモンに復讐した事を」

 

 

「それは――」

 

 

口には出さないが間違いない。

彼も伊達に長年ポケモン博士をやってきた訳ではない。

長年培われたトレーナーとポケモンを観るその観察眼は少なくとも並み大抵ではないのだ。

ミュウツーが嘗ての過ちに対して後悔している事はナナカマド博士も話を聞いた時点で理解していた。

だからこそ彼はこの提案を持ち出した。

 

 

「もし――君が過去の過ちに少しでも負い目を感じているのなら、私は君にもっと知って欲しいのじゃ。君と同じポケモンの素晴らしさを。そしてポケモントレーナーの素晴らしさを」

 

差し伸べられる彼の手。

決して目を逸らさずに淡々と語るその眼は何処までも真剣な色で満ちている。

本気で彼は私にポケモントレーナーの道を歩ませる気だ。

 

 

ここまでの覚悟を見せられては無碍にする訳にはいかない。

ならば彼の言う通りもう一度ポケモントレーナーの道を歩むのも悪くない。

 

 

「――確かに。お前の言う通りだ。私は嘗ての過ちを後悔していたのかもしれない」

 

 

差し伸べられた手を取る。

その手は老人である筈なのにこの瞬間に限って妙に力強く感じられた。

 

 

「いいだろう。私はこれからポケモントレーナーとしてこのシンオウ地方を回る」

 

 

「君の様なポケモンと出会えた事は私にとっても僥倖だ。君の旅の健闘を心から祈っている」

 

 

ミュウツーがポケモンである事を知りつつも、現在のその実態はポケモントレーナーである。

ナナカマド博士はミュウツーを一人のポケモントレーナーとして送り出す事を決意する。

 

 

「それと君に渡す物があるから後でマサゴタウンにある私の研究所に寄って欲しい。では私はこれで失礼する」

 

 

 

そう言い残し、ナナカマド博士も静かにこの場を去って行った。

 

 

「ミュウ~?」

 

 

「ミュウ、どうやら私はもう一度だけポケモントレーナーとしての道を歩む事になりそうだ」

 

 

「ミュウミュウ!! ミュウ~♪」

 

 

「私がポケモンマスターの道を行く事が嬉しいというのか」

 

 

(コクコク)

 

 

「そうか…。どうやらお前とも長い旅になりそうだ」

 

 

これより誕生するのは前代未聞の最強のポケモンにして最強のポケモンマスター。

未知の可能性を秘める2匹のポケモンによる壮大な旅が今――――始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 




基本的にミュウツーとミュウは大好きです。
特にアニメでは声優の名演技が光っていたと思います。

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