【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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辰姫 零 修学旅行を終える

 9月9日。夜。自由行動となっていたこの日、半ば強制的に悠達のグループに着いて行く事になってしまった零。最初出掛ける時に自分の意思を伝えようとしていた零。だが修学旅行と言う行事に全員は少し浮かれている様で、昨日同様に見せる暇も無く零は着いていく事になってしまったのだ。

 

 辰巳ポートアイランドを見て周る間、雪子とりせは久しぶりに零と一緒に行動出来たことが嬉しかったのだろう。非常に近い距離で行動をしていた。主に5,6cmほどの距離で。今回の修学旅行は1年生も一緒のため、りせと完二もこの場には居るのだ。そして雪子とりせは同じ様に零の近くに居るお互いを見て火花を散らし合っていたのを悠達は見ていたため、楽しい筈の修学旅行をこの日心のそこから楽しめた者は恐らく誰1人居ない。

 

 そんなこんなで夜になり、一同は【クラブ】へと足を運んでいた。稲羽市は田舎のため、都会にしかない場所に行きたいと一同は感じたのだ。中に入ればそこは非常に賑やかな場所。完二は感動し、千枝はどうやらテンションが上がっている様だ。

 

「こんな所に高校生が来て良いんですか?」

 

 突然の声に全員が振り向けばそこには直斗が立っていた。修学旅行は1年生も一緒。それはつまり転入してきた直斗も同じ様にこの場に来ていると言う事になる。全員はそれに気づくと直斗を見て「お前の方が先に居ただろ」と陽介が返した。

 

 直斗は周りを見て客層を観察する。おかしな人間などは居ない様で、それを見て「問題は起きなさそうですね」と言うとその場を去ろうとする。が、そこで雪子が一緒にどうかと直斗を誘った。『一緒』と言う言葉に直斗は驚き、「良いんですか?」と質問すれば雪子が頷いた。零以外の全員も同じ様に頷いた。因みに朝から今現在まで、零は本にずっと集中している。なので今日一緒に居た悠達でさえも一切紙での意思さえ伝えられていなかった。雪子もりせも会話は無しで零を見て微笑みながらお互いを見て睨み合っていたのだ。

 

 結果的に直斗も参加することとなった。そして乾杯をする場所に関してはりせのアイドルの力で2階を『貸切る』と言う高校生では到底ありえない事をやったため、全員が2階の1つのテーブルを囲んで飲むことになった。因みに御代に関してもりせのアイドルの時にあったとある事情によってまさかの『無料』である。りせがアイドルと言う凄さを全員は改めて認識し、少し呆れもしてしまう。そして

 

「王様ゲーム!」

 

 非常に大変な事態となってしまう。最初はクマの言動が可笑しいことから始まった。それを完二が指摘し、クマが非常に寒いギャグを言えば何時もよりツボが緩くなった雪子が笑い始める。そしてその可笑しさに陽介が気づいたときには既に手遅れ。りせはちゃんとノンアルコールを頼んだと言った後に誰に責められた訳でも無いのに子供の様に泣き始める。それを見て全員が酔っているのだと確信する。

 

 完二は匂いを嗅いで確認しようとするが、そこで先程のりせに寄る突然のゲーム開始を言う。そしてぶつぶつと自分が子供扱いされていることをカミングアウトし始めた。どうやらりせ、番組などの打ち入りや打ち上げでは居なくなった後の方が盛り上がっていると言う事実を知っている様で、それについての文句を言い始める。そして

 

「いっくらアタックしても姫は見てくんないし、こうなったら王様ゲームで既成事実でも作ってやるんだから! カァーンジ! 割り箸用意!」

 

「既成事実……姫ちゃんと、ふ、ふふ、ふふふ、ふふふふ、ふふふふふ」

 

 りせが大声で言うと感じに命令をする。当然された完二は文句を言うも、りせは「王様の言うことは絶対!」と大声で言うと無理矢理完二を行動させる。そしてりせの話を聞いていた雪子は何を思ったのか、突然笑い始めた。ツボに入ったときの笑いではない。まるで何か悪巧みをしている時や想像が現実になった時に出てしまう笑いの様に。その姿を見てまともな悠・陽介・千枝・直斗が一斉に零の身に危険が迫っている事を感じるとどうにかして零を逃がそうと考える。が、当の本人は本に夢中で特に気にしては居ない様だ。

 

 しばらくすると完二が8本の割り箸を持って戻ってくる。恐らく店の人にでももらったのだろう。りせはそれを受け取ると持っていた筆記用具で1本の先を赤く塗り、他の7本にそれぞれ数字を書く。それを隠す様にして手の平全部を一斉に握る。そしてグルグルと両手で場所を混ぜ合わせ、何処に赤く塗られた割り箸があるのか分からなくする。千枝がどうにかしようとでも思ったのか王様ゲームのルールを知らない感じに言えば、雪子が何処で知ったのかルールを説明する。千枝はそれに「何で知ってんだ!?」と驚いてしまった。

 

 そして始まる王様ゲーム。零は一切関心が無い様で、最後に引く事になった。悠は3本の割り箸のうち1本を取り、りせが一本を取って残ったのを零の場所に置く。番号は見えない様に机側に向けてだ。最初の王様は……クマ。自分にキスをすると言う命令の内容。

 

「女子を、女子を、3番!」

 

「うげぇ!」

 

「やっぱ2番」

 

 クマが番号を言うと嫌そうに悲鳴に近い声を上げたのは完二。それを見てクマはすぐに番号を変えるが当然そんな物は無効である。陽介が「番号を変えんな!」とクマに言い、クマは完二を見ながら目を輝かせる。そして「純情あげちゃうクマ!」と言って完二に勢い良く飛び掛った。完二は抵抗し、そしてこの場から2人は退場することとなった。

 

「1回戦で早くも脱落者2人よ!」

 

 りせの言葉に千枝と陽介が初めて新しいルールを知り、「そういうゲームかよ!」と突っ込みを入れる。悠は今の状況に首を選ぶという行為が今後さえも左右するのだと感じると気の抜けない選択だと心に言い聞かせて2回戦目のくじを引く。次に王様になったのは……。

 

「来ました! 姫にあんなことやこんなことをする時がついに来ました!」

 

 りせである。その事実にまともな4人は零に心のそこから逃げる様に願うが、零はやはり本を読んだまま動かない。りせは絶対に零に命令をしたい様で、すぐには内容を言わずに零の割り箸を見つめ続ける。そしてしばらくの沈黙の後、りせの目がきらりと光った。

 

「王様が2番を好きに出来る!」

 

「ちょ! お前そんな危ない命令するか普通!?」

 

「2、2番って誰!?」

 

 命令の内容に陽介は驚き、千枝は心のそこから零では無い事祈りながら番号の持ち主を探す。悠は首を横に振り、直斗も首を横に振る。クマと完二は退場し、陽介と千枝は既に違うことを自分で確認している。となると残るは雪子と零。千枝は恐る恐る雪子に番号を聞いた。と、完全に酔っているため伸びる口調で雪子は「私は~4番~」と答える。場が一気に凍りついた。りせが笑顔で零の割り箸を確認すればそこには『2番』と言う数字。りせはすぐに零に近づこうとする。が、

 

『反則、無効』

 

 行動を起こそうとした瞬間、零によってその行動は遮られる。りせは逃げるための言い訳だとでも思ったのか零に手を伸ばすが、その手は零の読んで居た本によって遮られる。そして手を遮ると再びメモに書いてりせに見せた。

 

『私、最後。りせ、番号見た』

 

 書いてある内容をりせが読んだ瞬間、まるで『図星です』とでも言う様に固まった。全員はそれを見てすぐに納得する。りせは最後まで割り箸を持ち、参加する気が無いため引かない零に最後の1本を置いていた。そしてその時にりせは零の割り箸の番号を見ていたのだ。先程の考える仕草も恐らく演技だろう。零には見抜かれていた様だが。

 

 突然零が自分の荷物を持って立ち上がる。そして『先、帰る』と書いたメモを机に残してクラブから外に出て行ってしまう。最高のチャンスを逃してしまったりせは『零が帰った』と言う現実を受け入れられずに固まっていた。が、突然座り込むと「姫~!」と行って泣き始めてしまう。そんな光景を見て悠達はある意味自業自得だとも考え、同情はしなかった。が、勝手に帰ってしまった零は大丈夫なのかと心配にはなる。

 

「もう夜中です。ここは都会ですから彼女だけでは危ないかも知れません」

 

「陽介、ここは頼む」

 

「了解。さて、どうすっかなこれ」

 

 直斗の言葉に悠は立ち上がると陽介にこの場を任せる。陽介はすぐに悠がしようとしていることが分かり、了承すると酔っ払っている雪子と泣いているりせを見て頭を抱えた。悠はそれを見て零を追いかけるためにクラブを出る。そこはまだ暗い場所。片方は運が良い事に現在通行止めとなっていたため、もう片方の道を少し走って進む。そして少しすれば見慣れた後姿が悠の目に止まった。本を読みながら歩くその姿はやはり分かり易く、悠は急いで近づく。

 

「辰姫。1人は危ない」

 

 近づいて話しかければ零が少し顔を上げて悠の姿を見る。そしてすぐに本にまた視線を向けてしまった。どうやら話す気は一切無いらしい。悠もそれを感じると黙って零の横を歩くことにする。

 

 周りには夜とは言えかなりの人がおり、非常に色々な音が響いていた。だが悠と零の間には非常に静かな空間が出来ており、悠は自分が無音の中に居る様な雰囲気を感じる。

 

「何かあったのか?」

 

 悠の質問に零は答えない。しかしそれさえも悠には少しおかしく思えた。普段の零ならば確実に止まって首を横に振るか縦に振るかの行動をするだろう。しかし今現在目の前に居る零は悠の質問に答えない。まるで誰かと対話するのを拒否している様にだ。

 

 結局はまぐりに辿りつくまでの間、悠と零が対話をすることは1度も無かった。だが今回の出来事により、悠は夏祭りの日から2学期の始まった日の間に零に何かがあった事。そしてそれによって自分達との対話を拒否しており、自分達を避けても居ることを確信したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月10日。午後。悠達はりせがアイドルの仕事をしていた時に好きだったと言うラーメン屋に足を運んでいた。どうやら雪子とりせは昨日の出来事を覚えていないらしく、頭を悩ませている。が、全員は思い出させない様に話を変えることにする。

 

「辰姫さんは何処行ったんだ?」

 

「分かんない。あぁ~姫先輩も連れてきたかったな~」

 

「朝起きたら居なかったもんね。何処に行っちゃったんだろ?」

 

 陽介の質問にりせは答えると上を見上げながら呟く。そしてその言葉に雪子が朝の出来事を言い、陽介と同じ様に何処に行ったのかと呟いた。2年生の部屋割りは林間学校の時とほぼ同じ組となっていた。はまぐりと言うホテル、どうやら余りお客さんが来ていなかった様で部屋がガラガラだったのだ。

 

 部屋割りの男子は陽介・悠・完二の3人+クマで直斗はその場に居なかった。恐らく違う部屋だったのだろう。そして女子は千枝・雪子・りせ・零の4人であった。因みに零の布団に2人程入り込むと言う出来事があったのだが、その2人は朝起きた時にお互いで抱き合っていた。そしてその場に寝ていた本人は既に全員が起きた頃には部屋の何処にも居なかったのだ。

 

 零の存在が余り感じられなかった修学旅行。雪子とりせはその事に非常に落ち込んでいた。その間にクマが雪子のどんぶりの中身を食べるという事件があったりしたが、その辺は良いだろう。

 

 しばらくその場で話しながら食べていると集合時間が近づいてきていることに直斗が気づき、話かける。全員は雪子の分のラーメンまで食べた為に食べ過ぎで動けなくなっているクマを置いてお会計を済ませると駅に向かい、お土産を買うことにする。悠も菜々子用に『巌戸台ちょうちん』を買う。そして集合場所に着いた全員は他のクラスメイトが揃うまで話すことにする。現在この場に零の姿は無い。

 

「姫ちゃんは戻ってきてないね?」

 

「あんま姫先輩が行きそうなところって想像つかねぇんすけど……」

 

 雪子の言葉に完二が頭を掻きながら答える。全員が零の行きそうな場所を考え始める。しばらく考えていると悠は思い当たる場所を思いつく。【本屋】だ。都会にしかない本などはきっと今回を機に買う可能性もある。零の場合、1人暮らしで家族にお土産を買うことも無いため自分の物を買う可能性は高いだろう。悠が思った場所を言うと全員が一様に納得した。

 

「実は1つ、気になることがあるのですが聞いて宜しいですか?」

 

「? 何だよ?」

 

「僕は一度、辰姫さんに会っています。そして学校でも。その時は特に違和感を感じなかったのですが、昨日のクラブでの事。どうも彼女は皆さんを避けていませんか? 少なくとも僕にはそう感じました」

 

 直斗の質問。その内容に全員がそれぞれ視線を合わせながら黙ると、静かに直斗に向かって頷いた。そしてここ最近の零について、全員は話し始める。避けられている可能性があること。夏祭りの時には何時も通りだった事。最初に感じたのは2学期の始まった日の事。それぞれ考えを出しながら零について考える。だが結論が出る前に大体の生徒が揃ったため、柏木が話し始める。雪子達は零の姿を探す。と、かなり遠くから袋を持った零の姿が全員の視界に移った。どうやら悠の考えどおり本を買いに行った様だ。

 

 全員の名前と居ることを確認すると稲羽市に向かって1,2年生の全員は移動を始める。零の居る場所で零の話をするわけにも行かない為、悠達は違う話をしながら時間を潰す。零は買ったばかりの本を静かに読み続けていた。そして数時間を掛け、全員は稲羽市へと帰るのだった。


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