異世界より”超高校級”が参戦するようですよ!   作:ヤッサイモッサイ

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やぁどうも、今年の九月は長かったですねぇ!いやぁ今日は9月35日でしたか?いやはやたまにあるから困りますよねぇ!

......さて、どうもみなさんこんにちは、僕です。最近小論文を書くのが楽しくて仕方ありません。勉強なんて手がつきません死にたいです
まぁ小説に関係ないことはまた別で書くとしてまぁ最近のペースを見てわかっていただけるかと思いますがやはり一話仕上げるのも時間がかかってきてます。まぁこれは純粋に執筆時間が無いというよりも本を読んでストーリーを考える機会が無いってだけなんですがどうせ時間がかかるのならばまた書き方を変えてみようかなと。人称視点や場面の引き、情景描写や名前の呼び方喋り方。ルビの使い方にその他諸々ストーリー以外でこういうとこ直してくださいというのがあったらその書き方で練習しようと思います。
あとがきに原作を知らない人向けにギアスロールの中身を記しておきますので良ければそちらもどうぞ。次の更新はまた10月中ということにしておきます


竜の羽ばたきに人は結束する

竜種────語るまでもない。アレは戦ってはならない類の存在だ。純粋なる脅威でいえば前の世界の江ノ島にも通じるだろう……あれはそれほどの存在だ

 

「───皆さんかわして下さい」

 

カボチャの珍しく真剣な声色に反射的に体が動く。天より撃たれし黄金の鎚、稲妻へいつもの模造刀を打ち出し炸裂させる。金箔と金属の棒を垂直に、しかし高速回転させるように投げることで雷を誘導し炸裂させる……がしかし足りない。分散させたところで単純にあの一撃は大地を砕くに足る威力を秘めている。散ったことによりアンダーウッドに豪雨のように降り注ぐそれは用意にその身を地下まで潜り込ませ炸裂させた

結果として宿舎の近くで地盤の変動に俺達は晒される。

ジャック達はそのままどこかへと飛ばされ春日部と三毛猫は下へ下へと落下していく。

近場にいた久遠を抑え、ジンをペストに任せて怒涛の波を凌ぎ切ると今度は空から雷に続いてもはや見慣れた黒いギアスロールが落ちてきた……となればやはりこれは魔王のゲーム

 

「ここまでくれば魔王との縁が余程だな。箱庭にお祓いってあるのか?」

「無駄口を叩く暇があったらご自慢の頭で何とかしなさい妖怪!」

 

……ツッコもうとは思ってたけど存在的にはペストの方が妖怪に近いよな?まぁ──────コイツほどでは無いのだろうが

見上げた巨竜の存在に身が震える。人の身で届く事の無い頂き……生命としての一つの頂点。

 

「もはや何を呪ったらいいのかわからないな」

 

暴風を耐え切り崩れつつある足場に注意しながら振りまかれたギアスロールを掴み流し見ていく───────ありえないその項目に目を止められるまで

 

「──────ッ!?」

「日向さん、ルールは!?」

 

ペストに抱えられ若干流された位置から帰ってきたジンが声を張り上げて俺にそう問いかける。俺はそれを理解しながらしかし答えられない。ルールの謎さもあるがそれよりも何よりも……これじゃまるであのコロシアイの─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────再現のようで

 

 

 

 

プレイヤー側勝利条件、第二項目。そこに記されているのはこの手のゲームにはよくある単純にして最も困難な条件────『ゲームマスターの殺害』。そしてこのゲームでいうゲームマスターの名もそこに記されている。よく見知った名だ……だって彼女は仲間なのだから。

 

「……レティシア=ドラクレアの殺害が条件?」

「待って日向くんあなた今なんて────?」

 

ジンの驚愕の顔も、ペストの苦々しげな顔も、そして最も近い久遠の色の抜けた顔の理由も俺にはよくわかる。その表情は……俺達がずっとしてきた絶望の顔……悲しみではなく……怒りの表情

 

「このゲームの主催者はレティシアだ。勝利条件はレティシアを殺すこ──────」

「日向くんッ!!」

 

言い切る前に久遠の伸ばした腕が俺の襟首を掴みあげただでさえ近かった距離をさらに消していく

自然とより見えるようになった顔は今まで見てきた久遠の表情の中でも段違いと言えるほどに鋭いもので……そして瞳の奥にはそんな強い外側とは裏腹に弱い懇願の意思が揺らめいている

 

「……仮にそれが真実だったとしても、殺すなんて言わないわよね?」

 

そう、その言葉は疑問では無い。

必要に駆られれば、究極的な選択を突きつけられる場面になれば俺ならば迷わず切り捨てる選択をするであろうと断定しての言葉だ。

……そしてそれは間違えていない。俺は犠牲という存在を許容できるようになってしまっている。

 

「言わねぇよ。意味がいまいちよくわからないがレティシアは助ける」

 

だがだからと言ってそれはその選択を迫られた時のみだ。迫られてない内に見捨てるなんて思考に割くリソースは無い。それに気になるところもある。

このギアスロールにはゲームマスターの殺害が勝利条件として二つ書かれている……片方はそれこそレティシアとそのまま書かれているわけだがなぜもう一つ“魔王ドラキュラ”と別名で書かれているのか……いや、それ以前にレティシアは“元”魔王のはずで今はその力の殆どを失っているはずなのだ。

仮に何かが起きたとしても十六夜と行動を共にしていたはずの彼女が十六夜と離れたこの瞬間にそれらの力を取り戻し、これ程の規模のゲームを果たして展開するだろうか?仲間思いの彼女が?

思えば疑問は募るばかりだ。何故巨人族やこのゲームは収穫祭を狙って行われている?ホストがゲストを守るために力を割くからか?だが外部の実力者も同時に招く事の方が危険なんじゃないのか?

“アンダーウッド”の再建……そういった意志の込められたこの大祭……そしてこれだけのイレギュラーに反応を見せない白夜叉含むサウザンドアイズ……

 

「事はこの狭い範囲のみで起きているわけじゃない……?」

「どういう事ですか?」

「魔王の動きに敏感なサウザンドアイズが動きを見せない。そして明らかに事が起きると分かっていた龍角を持つ鷲獅子の同盟も動きが鈍い……単にイレギュラーが重なっただけならいいんだが─────もし一連の事が誰かが意図して、あるいは徒党を組んで起こした事なのであれば問題はあのでかい龍をどうこうすればハイ解決にはならないってことだ」

 

嫌なのは既に春日部や久遠が田中と接触していること……江ノ島盾子の動きがどんどん全体を巻き込むように大きくなってきているのは感じていたがまさか今度はこの祭り全体を巻き込む気では無いだろうな。

 

「仮にそうだとしても結局あの龍は何とかしなきゃならないんでしょ。それともあんたの妖怪モードなら何とか出来るのかしら?前見た数の無効化は確かに強力だけれど……アレは強力な一個よ?」

「出来るか出来ないかで言えば多分俺よりも対峙したお前の方が詳しいんだろうが……できる可能性はある。でもその手段は死んでもなしだ、もしもう一度カムクラになったら今度は戻れない」

 

こっちに来てから自分の体の変化についてはもうよく実感した。だからこそそろそろ自身の内の希望の限界がよくわかる

前回のように外部からの協力は何度も期待出来ない……チートはもう使えない

 

「……わかりました。おそらくこの祭りの中であの龍に挑むとすればノーネームかあるいはウィルオウィスプ以外は無いでしょう。それでも不利すぎる勝負ですがそれは黒ウサギたちと合流してから話し合いましょう」

「不幸中の幸いね。十六夜君がこちらに来ている以上、ブレインと肉体労働に関する手札は充実してるってことだもの」

 

二人の言う通り俺達の優先すべきは合流だ。とはいえ稲妻にまぎれて龍から吹き出す蠍だのの化物や3度やってきた巨人達を超え、この悪天候の中合流するのは厳しいだろう……だが状況に対しこの後の展開は読みやすい。

突然の魔王の襲来にこの意味不明のギアスロール……これは最近経験した展開だ

 

「……おそらく黒ウサギは審判権限を発動する。受理までの時間は俺にはわからないが合流の心配は必要ないだろう」

 

手に持つ黒いギアスロールをジンへと押し付ける。頭の中がカオスな十六夜やこの世界の法則を知るジンが持っていた方がよほどいい。

 

起こせる行動は基本的に散った各勢力の救出加勢。無尽蔵に湧き出る巨人をこのエリアから取り除いたところで意味は無い。やるのであれば戦力が固まっているところでやるべきだ。とはいえ宿舎からは離れたそこへ向かうのもまた時間の無駄、どうせ十六夜か黒ウサギがいるのだろう。下手に動くよりはここで大人しくしているのが最善だ……

 

 

 

─────実際に数分とかからず休戦の意が黒ウサギの声に乗って届けられることになった

 

 

……それと同時に龍の身じろぎによって多大な被害がもたらされた事を除けば概ね予想通りと言える

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

龍の身じろぎが起こした暴風……それにより多くの魔獣は本体へと還り、また休戦の令に従って今は静かに沈黙している。

被害が甚大なこちら側としては魔獣が根こそぎ消えてくれたのは嬉しいことなのだがその回収作業でさえあれほどの被害を招く最強の存在にもはや呆れてしまう。

地下都市に急造された緊急治療所を少し眺めるだけでも絶望という言葉には十分だ。

……白面の少女の安否がいい加減気になってきたが……それよりも身内の安否が今は一番だろう。

集まったメンバーには見慣れた顔が二つほど足りない。

 

「……駄目だな。これだけ探しても見つからないとなると春日部にも何かあったって事だ」

「初めの雷撃の時点だと下に落ちていったように見えたんだが……どうにもそれ以降はわからない」

 

春日部の能力を持ってして休戦中に合流できないとなるとそれは尋常な事ではない。

毎度毎度分断されている気がするのだが今回は前回以上に嫌な予感がする。一つは絶望の気配を感じないこと。田中がいることは明らかになっているのだから何かアクションがあってもおかしくは無いのに結局未だに接触は春日部と久遠の2人のみ……前回の罪木は俺へのこだわりが見えたから動きやすかったが……田中がどう動くかなんてわからない。殺人が起きても如何して床下の自分のピアスを回収しようか裁判までずっと悩んでいた男だ。結果としてその行動が役に立ったのは……まぁ何とも言えないことだが

 

「探索に人員を割くのも今回は有りだと思う。参加している敵が敵なだけに数だけいればどうにかなるものでも無いし春日部なら生き物の声を辿ってこれる、探索班に生き物の力も使えるだろう」

 

不安からそう口にしたわけだがどうにも十六夜の反応はよろしくない。戦力を削るわけでもなし、どちらにせよ分散するであろう敵勢力を見越して各地でそのまま伝令をして貰ってもいいはずだ。そこまで悩むような提案だとは思えない

 

「いやアイデア自体に文句はねぇ。他所のところも多くはないにしたって行方不明者は出てる。中には要人もいるって言うんだから放置しとくわけには行かねぇんだが……ちょっとだけ気になってな、まぁ深くは気にするな」

 

十六夜がそういうのであればこちらから言うことはないが……十六夜も何か気にしているというのは気になる。そもそも俺の感じているこの嫌な感じはいつもと違うのだ。先ほど言ったとおり絶望のものではない。

絶望が居て、龍もいて、レティシアの問題もあって、そして春日部が行方不明……これはどれに対してのどのような予兆なのだろうか?

修羅場を越えてきた経験かどうにも俺はこういった事には敏感だ。疑いようも無く、絶望とは別の嫌な感じが今回はこの場にある。

前回の北の祭りには無かった何かが……ここで起こる

 

「……何にしてもこの空白期間を無駄に過ごすわけには行かない。情報集めに出てる黒ウサギが戻ってきて、対策の会議が始まるその前までにこっちでもある程度状況は把握しておかなくちゃな」

「まぁ実際うちのコミュニティから敵のゲームマスターが出ちゃってるわけだしな。とはいえ何回読み返したところでしょーもないぜ?これ自体には書かれてること以上のことはねぇよ」

 

……要するに十六夜も“レティシア=ドラクレア”が敵としてこのゲームに参加している事を否定できないという事だ。

だが何もわからないと言ってない以上一応読み取れることはあるらしいのだが……十六夜の言い方はいちいち回りくどい

 

「皆さん!耀さんの行方が判明いたしました!」

「本当に!?」

 

そうして各々が思考をあちこちへ飛ばし、自然と降りてきた沈黙に身を任せる中飛び込んできた黒ウサギとジンが朗報をもたらす。

行方が知れているのなら問題は少し減る。何よりも安心具合が違う────────

 

「yes、ですが……少々まずい事態になっているようです」

 

しかし黒ウサギの声は晴れていない。その様子に表情をを喜色に染めていた俺達はそのまま元へと戻し話を促す。

それに対し黒ウサギは腕を掲げて先程まで抱き抱えていたモノを俺達へと見せた。

元の世界においてほとんど存在が確認出来ない希少種……三毛猫のオス、春日部がいつも連れていたひょうきんな彼がボロボロのままグッタリとしてその中で横たわっている。気を失っているだけのようだがただ事ではないのは言われなくてもわかった

 

「目撃者の話によれば耀さんは魔獣に襲われた子供を助けようとして……」

「そのまま魔獣を追いかけて空へと昇っていったそうです」

 

黒ウサギの言葉を繋ぐように続けたジンの報告は消して明るいものではない。

よりにもよって消えた先が敵の本拠地……そして交戦禁止の今でさえ帰還しないのだ……何か起こったことがうかがえる

 

「一人で乗り込んで行ったわけか……城に囚われるお姫様なんてのはゲームの中だけで十分だぜ」

「ゲームならお姫様を助け出すのに何も考えなくていいんだけどな。そのお姫様は死なないだろ?助けに行く配管工は何十と死ぬのに」

「……日向お前ゲーム下手なんだな」

 

……死ぬほど喧しい。

だがいつもと変わらぬ軽口も表面だけだ。なにせこの中で空中を飛ぶことが出来るものは一人もいない。

何でもできそうな十六夜も、神様の道具を持つ黒ウサギも、ギフトの力を使いこなせる久遠も……ペストやジンも完全なる飛行の力を有していない

 

「……空に囚われた姫様は二人、ついでに要人とやらや子供たちもそこだろ?」

「レティシアは置いておいても要人がいるならすぐにでも救出隊が組まれる……このゲームの動き方は主に地上と上空、二つに分かれて同時攻略……そうなるだろうな」

 

となればノーネームの動き方は微妙なところだ。黒ウサギが参加出来ない以上、現段階の戦力はペスト含め4人……とはいえ十六夜はどうあってもドラゴンに当てなきゃならない。久遠は巨人の相手でいっぱいだろうしディーンが暴れるにはあの城の耐久値が不安だ。

となればペストか俺が上へ行きたいところだが城は確実に敵の本拠地、守らなければいけない対象も多く空にあるが故に合流が困難……

 

「やっかいな話だ」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

一転して此処は件の廃城、宙に悠々と浮いては中に囚われたアンダーウッドの子らを捉えて話さぬ魔城。

中を除けばそこにでは一人の少女が多くの影を連れて何やら水っぽい音を鳴らして闊歩する巨影より逃げ回っていた

動く度に辺りに不快な音を響かせるそれは巨大な肉塊、正式には屍へと寄生し醜い屍鬼(デッドマンウォーキング)へと変質させる菌糸の化物。生理的な嫌悪に思わず目を背けたくなるモンスター達がそれこそまるで映画のように生者を囲んで自らの一部にせんと迫っていく

その様子はわかるものが見ればきっとこう叫ぶに違いない──────かゆ……うまっ!!!

 

「くっ、囲まれてる……!」

 

しかし無情な現実は先程までは先頭を進む少女の尋常ならざる知覚能力にて回避していた状況がここに完成してしまった

映画ならば今後奇跡が起きてきっと無事に危機を脱するのだろう。だがここにそんな奇跡を信じるものなど誰ひとりとしていない。隅にて震える未成熟な子供とてそのことをよく理解していた

だからこそ少女は一人戦わねばならない。休戦中にも関わらず襲ってくる腐肉が今更見逃してくれるわけがないのだから。

 

「ここで隠れてて!!」

 

だからこそ方位を突破せんと飛び出す。月明かりが穴の空いた壁から差し込む中、時に立体的な起動を描いて闇の中を疾駆する。

友人の力を受けられる少女にとって一体一体はさしたる脅威ではない。

でかさ故に反応の鈍い一体を高速で打ち据える硬い菌糸の核を無理やり打ち砕く。

しかしそれは消して安い作業ではない。それらの過程の内に他の3体は自分を射程へと収めてしまった。怒号もなく振り上げられた腕がやはり湿っぽい音を響かせながら振り下ろされる。それを軽いフットワークで横へと避けると勢いのままに瞬く間に背後へと回り込み一撃、核には届かないながらも反対側から迫る敵へと打ち出しさらに振り下ろされた腕に砕かれた石床の欠片と呼ぶにはデカすぎる塊を投げつけて動きを抑える。残った一体は素早い少女を捉えるのを諦めてかその巨体でもって押しつぶすように迫ってきた。対して少女が選択したのは正面衝突、体力があまりあるとはいえ今日は長距離の移動に祭り、数度の交戦を越えてのここだ。高速機動による攻撃は安全ではあるもののジリ貧になりやすい、だからこそ一体一体の破壊の速度を上げるためにこの状況を生み出したのだ

 

……一対一、阻むものは誰も居ない。

轟音を立てて少女へと肉薄する肉塊へ少女は腕を突っ張るように突き立て、足でしっかりと地面を掴んで固定した。数瞬の間もなく衝突……多少の後退と共に肉塊は停止し進まぬ体に痺れを切らすように震えている。

細身で可憐とすら称せるような少女が異形の化け物を力で捩じ伏せる光景に、隠れている多種多様な種族から感嘆の声が溢れた。

 

「────でやぁぁぁああ!!」

 

普段からは想像出来ぬ気合いと共に巨躯の足は地面を離れ今や世界と繋がるのは少女の腕に抑えられた自身の片腕のみ……その行く末を完全に一人の少女へと握られる。さらにその震えを大きくしグチャグチャと怪音を響かせるクズ肉へ少女はその両腕さらに振りかぶり地面へと叩きつける。自然と頭部の核が正面へと投げ出される事になり無論それを見逃すつもりも無い彼女はボールか何かを蹴るようにそれを薙砕く……未だに隅で失った部位を震るわせのたうち回る2体等もはや敵ではなかった。

念のために辺りの匂いと音に意識を巡らせ数秒……今度こそ危機が去ったことを確認してようやく一息

 

「……終わった」

「おいおいすげぇじゃねぇか嬢ちゃん。“冬獣夏草”の核を素手で殴り壊すとか本当に嬢ちゃん人間か?」

「遺伝子的には問題無く人間」

 

……帰ってきた答えに年のいった獣人は思わず閉口する

周りの多くがまだ幼い少年少女なだけに一人生の衰も甘いも経験してきたその男は目立っていた。

……何を隠そう彼こそが地上で噂になっている「攫われた要人」であり、商業を主な活動とする六本傷の長、東の猫娘ウェイトレスのお祖父ちゃんガロロ=ガンダックその人である。

歩き回る肉塊の正体を教え、弱点を伝えたのもこの男だ

しかし1コミュニティの長とはいえその生業は商いであり戦場に立つようなタイプでもなければ年齢でもない。それでも地上では奔走していたのかあちこちに目立つ傷が彼の性格を表していた

 

「……待って、まだ来る!」

 

ボケこそ殺されたものの子供たちを怯えさせまいと口を止めずに喋る彼を止めて無双の少女……春日部耀再び体に力を入れる。

普段よりも身体が軽い、それを知らぬ間に身体強化系の友人でも作っていたのだろうと良い意味で予想に反した現状を春日部はそう判断した

しかしそれにしてもいずれ限界は来る。自分の限界ならばまだいいがそれよりも先にこの場にいる子供たちにそれが来たらどうなるだろう?それはきっとおぞましい惨劇が広がるに違いない。

 

─────自分に現状を打破する力さえあれば……友人に頼った力ではなく……正真正銘自分だけの力があれば

 

 

 

……弱った心へ闇が差し込み、ほの暗い欲望が釜首をもたげる

それを自身で自身の頬を打ち、子気味良い音を響かせることで晴らす。

周りは突然の行動に驚いているが実のところ今の彼女に周りを見ている余裕はないのだ。

以前までなら純粋な正義感で同じ行動を出来ていたであろう少女の今の行動原理はただの自己満足。自身より弱いものを助けることで自身の存在を保つ彼女の仲間の同級生が闇に落ちた考え方そのもの。

彼女はそれを知らないながらもどこか嫌な感情だとは察していた

 

────とはいえそれと現実とは何の関係もない。再びグチャグチャグチョグチョと水っぽく、弾力性を主張しながら肉の塊がなだれ込んでくる

 

「ヨホホホ、それでは私もお邪魔しましょう」

 

再び戦闘体制に入ったところで青い豪火が冬獣夏草の同士の隙間からチロチロと漏れ出ては勢いよく悪魔の腕が辺りを舐めまわし炸裂していく。

その勢いたるや直前で春日部が風の壁を作らなければこちら諸共焼きかねなかったほどである

 

「ジャック!?」

「ジャックさんだけじゃねーぞ、こっちだこっち」

 

声につられて春日部が視線を向けた先には炎から身を守っていたのかアーシャが瓦礫の影から姿を現す

 

「全く、こいつらもジャックさんの前で子供に手をかけようとするとは運がねぇな。ま、自業自得だけどよ」

 

仮にそうだとしても地獄の炎をそのまま召喚するというのはどういう暴挙か、ガロロが怒りを通り越して呆れるほどのことなのだろう。

 

「さて、城に迷い込んでしまったのはこれで全員ですかね?」

 

そう言ってカボチャ頭の幽鬼が揃ったメンバーを見渡していく

六本傷の長、木霊の子、春日部嬢、アーシャ、その他獣人や精霊種の若葉、そして両目の色が異なるアンシンメトリーにも程がある少年────

 

「─────ちょ、ちょっと待って!!?」

「はて?以下がなさいましたか春日部嬢?」

 

思わず反応した春日部にしかしジャックは何に反応しているのかわからずノホホンと問い返す

あまりにも唐突すぎて……というよりはあっさりしすぎた登場に震える指でその異端を指さすと、全員の視線が一人へと集中した

 

田中眼蛇夢(ソレ)は違う……よ?」

 

なぜ疑問形なのか?その場の全員が思う中全員の視線で針のむしろにされた当の本人は恥ずかしそうにストールに顔を埋め、頬を赤らめたのだった

 




ギフトゲーム名“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VANPIRE KING”

・プレイヤー一覧
・獣の帯に巻かれたすべての生命体。※ただし獣の帯が消滅した場合、無期限でゲームを一時中断とする

・プレイヤー側敗北条件
・なし(死亡も敗北と認めず)

・プレイヤー側禁止事項
・なし

・プレイヤー側ペナルティ事項
・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。
・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。
・ペナルティ(オシオキ)は“串刺し刑(残姉)”“磔刑(石丸)”“焚刑(ヤスヒロ)”からランダムに選出。
・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される

・ホストマスター側 勝利条件
・なし

・プレイヤー側 勝利条件
一、ゲームマスター・“魔王ドラキュラ”の殺害。
二、ゲームマスター・“レティシア=ドラクレア”の殺害。
三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。
四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の元、ギフトゲームを開催します。“ ”印




ギフトゲーム名“ ”

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