異世界より”超高校級”が参戦するようですよ! 作:ヤッサイモッサイ
ここ数日、今回のストーリーでメインを張っていただくお方のギフトを考えていたわけですが......何だろうね、チートだよねもう本当に。いや既に発覚させてるカムクラの「既に持ってる」、ペコちゃんの「数の無効化」、罪木の「超医学」......うん、おかしいとは思ってたけどこの世界で敵キャラやらせようと思ったらここまでのチート性能にしなきゃならんのかと驚いたわ。本当に。
一応花村君のものチートですけど登場するまで明かしません。ただどっかの漫画でまたような能力になっちゃいましたけどね彼のは。想像してみてください、割とあってるかもしれません。
さて今回の話をしますね。今回の話は視点が割とコロコロ変わりまして......えぇ、それで作者は視点の変更とか三人称がとくいじゃないです。だから楽しんでもらうために先に書いときます。区切りはいつもの通り◇◆で日向→三人称→春日部です。
なんとかして上手くなりたいのでコツとかアドバイス、変なとこの指摘是非お願いします。では長らくお待たせいたしました本編です
巨人が攻めてきた──────それだけでこの場は一瞬の内に混沌に包まれる。
無論それは当たり前の話でそのために龍角を持つ鷲獅子にと迎撃部隊がいたりもする。一体こいつらが何者で何の為に襲撃をかけてきたのかはわからないがこう行く先々でトラブルに巻き込まれていると涙腺が緩んでくる。
そして困ったことに現状判断が仰げないというのが一番痛い。黒ウサギも迎撃を主導している存在もどこにいるのかわからないのだ。
ただ倒せばいいと言われればそこまでだがあの巨体をあそこで無闇に倒せば被害が出る。そういう訳で今一行動に移しきれない
「……いや、わかるか」
確かにこちら側のことはサラが偉い立場にいるということしかわからないが敵のことは案外そうでもない。明らかに豪奢な飾りをつけ、一回りも体が大きい個体が3体居る。おそらくあれが敵側の主力──────
「──────なんであいつがあそこにいる?」
目を凝らしてようやく視認が出来るという距離でその三体とサラと思われる人影がぶつかり合うのを眺めて居るとその比較的近場に三人の影が見える。
春日部と移動手段を持たないからかそれに連れられるようにしている久遠─────そして異世界では珍しいにもほどがある長い学ランにストール、左腕に巻かれた包帯に左目に走る傷型のタトゥー、灰色と赤色のオッドアイ……田中眼蛇夢。かつての仲間……そして今も尚変わらず仲間であり敵でもあるはずの人物
その彼が二人を巨人から守るようにそこに立っている─────なぜだ?
「─────クッ!!」
そんな風に呆けて突っ立っていたのが災いしいつの間にかこちらへと吹き飛ばされていた数匹の巨人が俺に目をつけ拳を振るってきていた。
咄嗟のことに躱すのは間に合わない。両手を突き出し踏ん張ることでなんとかその一撃を受け止めた……が敵は一体ではない。即座に俺を潰すように放たれた二撃目三撃目が強かに体を打ち鞠かなにかのように吹き飛ばされる。
ダメージそのものはそうでもないがただでさえ遠かった距離がさらに離された
「……こんな所で時間を食ってる余裕は無いんだ」
こうしている間にも巨人の影は増え続けていく……そしてこれは霧か?どこからか聞こえてくる琴の音色に乗ってどこからか運ばれてきた濃霧が視界を邪魔する。一刻も早く久遠達の元へ駆けねばならないというのに─────チクショウ
巨躯立ち向かう彼が仲間の下に駆け付けるにはまだ遠い
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
少し時は遡りトラブルを乗り越え無事に宿舎への帰還を果たしていた春日部は眼前の光景を前に思考を停止していた。
赤い、炎のエンブレムが彫られたヘッドホン……それは彼女の仲間が常に身につけていたもので今回その彼がいないのもこれを探すためだったはずだ。それ故に彼女と日向はこちらに来ており、それ故に彼女は一層頑張らねばと気合を入れて今回の事に臨んでいた。
……だからこそ目の前のこれがとてもまずいことだというのが良く分かる
「……なんで?これじゃまるで私が────」
消えたヘッドホンとそれを持つ自分……思考が最悪の所まで進んでいくのを自覚しながらそれでも打開の策は出てこない。否、些か誠実にすぎる彼女にとって隠蔽という選択肢は無いのだ。ただどうすれば理解してもらえるかを考える程の余裕も経験もない。今の彼女にあるのは今の関係が崩れてしまうという圧倒的恐怖。普段はあらゆる生物の力を有するノーネームの救世主でもその実態はただの友人関係に頭を悩ませる少女である。そんな彼女にしてみれば今回の事は致命的だ
震える手が何をするでもなくそのヘッドホンの輪郭をなぞり床へと垂れる
外から生じる断続的な衝撃が建物ごと床を揺らしていることすら今の彼女は気づけない
「耀さん!緊急事態でございま……す?」
けたたましく開けられた扉から黒ウサギが飛び出してくる。本来ならば気付いたはずのそれにすら彼女は遅れてしか反応することができなかった
「……どうして十六夜さんのヘッドホンが……?」
「ち、ちがっ!これは……ッ!?」
しかし少女の弁明の暇はない。ここはもはや戦地であり、安全地帯など何処にも無いのだから。
故に無慈悲にも人の営みを壊して回る巨人の腕がたまたまノーネームの泊まる宿舎を打ち抜いた事も、そのタイミングが絶妙に悪くヘッドホンが野晒しのまま瓦礫の中に飲まれていくのも彼女にとってはどうすることもできない現実として伸し掛る
「無事でございますか耀さん!?」
「……巨人?」
顔につけられた二つ穴の仮面……その向こうから除く瞳と視線が交錯するのを感じながら宙を蹴って二人は巨人の射程の外へと退避する
「Yes、彼らは人類の幻獣……巨人族にございます」
「 ォ ォ ォォ ─────── ! ! ! 」
各地で上がる雄叫び、金属の音に火の気配、震える空気。間違いなく巨人の仕業。それは眼前の個体も例外ではなく、手に持った身の丈に合った長大な剣が二人めがけて連続で振り下ろされる。その度に地下都市全体が悲鳴を上げ軋むように外壁が溢れていく。あちこちを走る大樹の根がそれらを引っ張り支えてなければここいら一帯に大穴が空いていたであろう惨状に身が震える
先程聞いた話では今この祭りは昔襲撃してきた魔王の残党によって狙われているらしい、それ故に耀はギフトゲームが始まったのかと黒ウサギに問いかけるが帰ってきた言葉は否定……ルール無用で突然襲いかかってきた無法者だと、彼女はそう断定した。
彼女にしては珍しい罵る様な口調には明確な怒気が含まれている。規律を守りゲームの進行役としての誇りがある彼女にしてみればこういった手合いはその行動より一層怒りを煽るものなのだろう
宿舎よりなんとか脱出したのであろう飛鳥も合流し黒ウサギの言葉の通りに飛鳥とディーンが思い切り暴れられる地表を目指して春日部が飛鳥を連れて宙を駆ける。
背後で金剛杵を振るいその怒りを千雷としてぶつける音を背後に昇って昇って昇り続ける。
後ろ髪を引かれるように地表へ飛び出すその直前振り返れば真っ平になった宿舎が春日部の目に止まる。あの有様ではヘッドホンの状態等期待出来ない。より悪化した状況が彼女を追い詰める。冷静な判断ができない
「春日部さん?」
「あ、飛鳥……私どうしよう」
その尋常ならざる様子に飛鳥も緊急事態を察する。とはいえ未だここは戦地、しかも敵は規模からして異なる巨人の群れであり、その上激戦区と言ってもいいほど攻防が激しい位置にいる。一旦落ち着こうにも肝心の機動力たる春日部がこの様子ではどうしようもない。ただ空中で的のようにフワフワ浮いているだけ……そんなことではいけないことはわかっている
「どうしたの!?ねぇ、春日部さん!?」
しかしいくら問いかけてもまともな反応は返ってこない。普段ならば叩いてでも正気に戻す所だが姿勢の関係上出来そうもない。最悪巨人がこの手頃な的に気がついたとしてもディーンで多少の足止めはできるであろうが……守りながらの戦いとなればディーンでも完璧は期待できない
絶体絶命──────脳裏に過る言葉を頭を振ることで消し飛ばし懸命に声をかけ続ける
だが様子は変わらない、むしろ時間が経つにつれ青ざめていくその様子からは悪化しているようにしか見えない
遠くで赤い瞳がこちらを見た気がした
「春日部さん」
巨大な瞳。それだけで自身の身長にも匹敵しそうなほどただただ大きい瞳
「ねぇ、春日部さんったら」
1つ、2つ、3つ……徐々に増えて増えてまるで壁を為すかのごとく燃え盛る炎を踏み分けてその巨躯が迫ってくる。
サブカルチャーに強い二人が見れば声を揃えて巨神兵とでもいいそうな光景にしかし二人はなんの言葉も出せやしない
自分が飛び降りれば自分は助かる。守るのではなく攻めるのであれば自分のディーンは無敵だ……彼女の心に黒い影が過る。だがそんなものは許されない。他ならない前の世界の久遠飛鳥としても、ノーネームの久遠飛鳥としてもそれだけは取るわけには行かない手法だ
とはいえ……このまま行けば囲まれて嬲られるままというのも事実……周囲の戦場も余裕はない、助けはない。黒ウサギは地下で一人奮闘しているし相も変わらず少年日向といえば肝心な時に姿を眩ましている。どうせまともな事になりはしないのだから離れないでいて欲しい。特にこういう時はその思いも一際だ。一番頼みになりそうな十六夜も今回に限っては出張り用もない……となればやはり自分が春日部をなんとかするしかない
張り裂けそうな罪悪感と嫌悪感を無理やり押し込めて言葉に重みを乗せる……後は喉を震わせるのみ。そうするだけで自身の嫌いな力は今この現状を打破してくれるだろう
「“いい加減にしなさい、春日部耀”」
────慣れたことだ。潰れそうな自身の心を無理やり奮い立たせるために嘘をつく……嘘も嫌いなのに生き残るためにその手段を取るしかない自分が彼女は憎い
正確に効いてくれたのか弾かれたモノの衝撃こそは与えられたのかは知らないがただ空中に立ち尽くすのみだった春日部の瞳に確かな光が宿る
「春日部さん!?」
「え……私なにして─────え?」
……だが遅すぎた。正気に戻るとともに巨人による包囲は完成している。こうなればディーンによる一点突破の間にも後ろから攻撃を喰らうだろう。上へ逃げようにも高さが足りない。ここまで距離が詰められていては上がり着る前に叩き落とされかねない
「ッ、とにかく上へ!」
「う、うん!!」
たとえ巨人の眼前という絶好の場所で止まることになろうとも、回避すらおぼつかぬ足下でただ蹂躙されるだけよりは余程ましなはずだ。
刹那の間に下された判断から二人は高度を上げる──────上げて案の定突然伸びてきた巨人の掌に遮られた
そのまま掴むなんて生ぬるいものではなく、潰す勢いで閉じられる五つの指から辛うじて脱出し再び上を目指す……がここに来て春日部は悟ってしまった。
春日部一人ならば問題はなかった。自身の頑丈な体はある程度危険な回避や無理な駆動にも耐えるし何より1人というのは動きやすい
……だがそこに1人を連れながらという条件がつくと途端に動きが制限される。軽いターンですら飛鳥の体は振り回されてしまうし何より的としての大きさが単純に倍だ。動きの切り返しも二倍の遅れが出る。掌から抜け出すこの動きだけでいつもの自分の動きとの違いを理解してしまうくらいにその差は大きすぎた。久遠たちは選択を見誤った。
動きが軽快で単独でも戦闘が可能な春日部が陽動をし、飛鳥がその間にディーンで持って壁を崩せばよかったのだ。だが二人は別れるという選択肢を見逃していた、考える余裕がなかった。お互いに離れることは見捨てることだと答えが直結してしまっていたのだ
故に春日部胸中を占める今の感情は後悔─────まずい、とただひたすらに黒く、暗く埋め尽くすようにその文字だけがただただ羅列されていく。
対して飛鳥といえば高速移動に思考がついていかず未だにそこまで頭が回らない。つまりそれは既にこの速度の段階で限界が来ていることに他ならない。先程この場にいる自分たちで解決しなければならないと出した結論が破綻した瞬間であった
群がるように巨人、巨躯、巨体、巨漢の腕が空に逃げた姿勢のまま切り替えられていない二人へと迫る
こうなってしまった一番の原因は思考の切り替えの鈍さでも身体能力の欠如でも運の悪さでもなんでもなく……ただノーネームに置いてこの二人が抱える一番の問題、死線を越えるという経験の少なさである。
極限状態を経験することなくこの世界に来た二人……十六夜少年や日向にいつも思考という面で半歩以上も遅れるのは知識としてそれらを知っている十六夜のようにも、一つの
それ故に今少女達は四方から伸びてきた手によって暗い世界へと捕らわれようとしている。
だがそれが真に運の悪さによるもので無いのであれば
────────運による救いがあってもおかしくはない。
咄嗟に瞳を閉じた春日部のその網膜に瞼という壁すら崩して膨大光量が届いた
「うわっ!!」
悲鳴と共に思わず仰け反ったその身がボスっと壁へと当る……いや、ボスっという効果音のなる壁とは何だ?
少女が刺激された事でうっすらと雫の乗った瞳を開き背後を伺うとつい先程見た特徴的な姿を捉えることが出来た
「田中……ガンダム?」
戸惑い気味な友人の声に飛鳥も遅れながら反応する。最も彼女にとっては一切面識の無い不審者であり、このピンチを救ってくれた救世主である事しかわからないのだが……
「否!断じて否!我が名は田中眼蛇夢─────いずれ世界を手に入れる男だ!!」
それでもフハハハハッ!と強く笑うその男に何となく女性として警戒を強める事は忘れなかった
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
終わった──────そう思った。自分のせいで飛鳥まで巻き込むことになってしまった、そればかりが後悔として思考をそこから進ませない栓となった。
……でも生きている。手の先からは確かに友人の存在を感じるし背中から伝わる熱は確かに自身の生存を証明していた
だが何故なのだろうか。助けてくれたこの少年はとても彼とは似ても似つかないのに……隠し事が多い、もっと仲良くなりたいとも思う仲間の姿とどこか被る
「フンッ、助けが必要な時は呼べと言ったはずだがな。我と同じ宿命を背負いし者にしては随分とのろまな様だ」
……その失礼かつ大仰な言い方からも違いの数々を感じさせるのに……その実自分が感じているのはどうしようもない安心感なのだから自分の事ながら扱いに困る
「眼蛇夢はなんでここに?」
「愚問だな、借りを返さぬままに死なれては寝覚めが悪かろう。故に目障りな輩を潰すついでに拾い物をしただけの事……何よりも今の奴等からは生への執着が感じられん。そんな存在を許しておくような俺ではない」
回りくどい言い方に少し戸惑うけど……それでもやはり助けてくれたということはわかった。だから
「ありがとう、眼蛇夢」
「……借りを返しただけだ。礼などいらん」
顔を赤らめて顔を逸らしながら言われた言葉はそれでも今までよりは余程分かり易い。
飛鳥を引き上げて支えてもらっていた背を離す。自然下を向く事になった私の視界には巨人が吹き飛んで行ったであろう跡のみが残っている
「……眼蛇夢さん、だったかしら?何をしたの?」
「ほう、俺に問を投げるか女狐──────いや、女よ」
私も密かに気になっていたことなのだが言葉の途中で途端に鋭くなった飛鳥の視線に眼蛇夢は後半を濁してしまう
「飛鳥よ、女でも貴様でも
うん、飛鳥は怖い。でもいきなりそんな言い方をする眼蛇夢も悪いと思う
「別に何をしたわけでもない。生き物の相手が得意というだけの事だ」
「あら、春日部さんと一緒ね。だから同じ宿命を……なんて仰々しい言い方をしたのかしら?」
「フン、なかなか理解が早いな。そうだとも─────この霧はなんだ?」
「これ……ダメ、鼻が働かない」
「これが邪魔してるの?」
飛鳥の問に首を縦に振る。視界も悪いし急に出てくるところもおかしい。多分だけどこれも魔王の残党の仕業……のはず。
「あまり離れるなよ小娘ど「飛鳥よ」──────飛鳥と小娘「春日部耀」─────耀……うん、離れるなよ」
心なしかしょんぼりして顔からも覇気を消した彼はやはり創に似ている気がする。それが気になって仕方がない
「とはいえ……ここまで視界が悪いとなると些か行動に移るのが躊躇われるな。我が悪しき力をこんな形で封じ込めるとは……フン、まだまだ現世も捨てたものではない」
「ごめんなさい、あなたの言っていることがいまいちわからないのだけれど」
「理解しようなどと言う方が烏滸がましい。齢十そこらの人間に我のことが理解できるか」
「じゃあ眼蛇夢は何歳なの?」
周囲の警戒すら一瞬忘れて思わすかけた言葉に眼蛇夢が固まった
「……フ、そんなものはとうに忘却の彼方へとやった。俺は田中眼蛇夢。今はそれだけでいい」
「じゃあ人間じゃないの?」
「春日部さんはなんでそこでテンションが上がっているのかしら?」
む、失礼な。別にテンションなんか上がってない。ちょっと気になっただけだ……本当にテンションなんて上がってない
「……わ、我は田中眼蛇夢、いずれ世界を統べる男」
「────じゃあ性別はあるんだね。てことはやっぱり個で繁殖するんじゃないんだ……やっぱり箱庭世界の種なの?元となった伝承とかある?どこのあたりにいるの?どんな種族?色違いの目は種族の特徴か何か!?」
「……うん、落ち着きましょう春日部さん。眼蛇夢くんも困ってるわ」
……ッ!?─────ちょっと取り乱した、飛鳥に軽く叩かれるまで気がつかなかった
「……眼蛇夢……くん?なんだそれは俺の事か?いや待てだとしてなんだ〝くん〟とは!さっきまでとは呼び方が違う……一瞬で呼称を変えるだと?なんだそれはどんな生き物だ、どこに生息している────いや落ち着け相手のペースに飲まれるな田中眼蛇夢。お前は世界を統べる男……そうだとも、マガGも言っているではないか落ち着くんだ田中眼蛇夢!」
……何故か眼蛇夢まで夢の世界に飛び立っていた
「なんでかわからないけど眼蛇夢君までこんな調子だし……でもちょっとこれ面白いわね」
「飛鳥、趣味悪いよ?」
「わかってるわよ、ちょっとした冗談、本気にしないで」
……絶対本気だった。今のはノーネームのノリだった。
「ところで春日部さんは何かわからないかしら?鼻が利かない他に何かない?」
「なにかって言われても─────あ、何か聞こえる……かも?」
「……聞こえる?」
うん、と頷いて希薄なその存在に意識を集中する。逆に視覚と嗅覚が潰されているおかげで集中しやすいというのは何となく皮肉な感じがする
「……琴かな?多分弦楽器の音だとおもう。余り詳しくないけどなんかそんな感じがする」
「琴……それが原因なのかしら?」
「思い返して見る限りは霧よりも前には聞こえてなかった……と思うんだけど」
「確証はないのね。でもできることもないのだし今やれるとなったらその音を辿っていくしかないと思うのだけれど……」
うん……いや、不思議な霧とはいっても霧は霧。それなら……
「飛鳥をお願い」
「ム……いや、ちょっと待ていきなり何を────」
「何が起きてるのかわからないけど……でもこれが霧なら────吹き飛ばせる!」
……はず!
単独で空中に浮く眼蛇夢に飛鳥を預けて少し上昇したところでグリーから貰った風の力を使って大気をまとめていく。溜めて、溜めて、溜めて……大きな塊にまでなったそれを前方に向けて────
「────えいっ!!」
解き放つ。嵐の夜の様な轟音と共に風は目論見通りに霧を引き裂き吹き飛ばすが……通り過ぎた後から次々と押し寄せてきてすぐに元へ戻ってしまった
「……うん、失敗」
「貴様は馬鹿か!?」
むむ、失礼な
「馬鹿っていった方が馬鹿なんだよ」
「いや……うん、もういい」
一体なんなのだこいつらは、とは眼蛇夢の言。
やはり頭を抑える様まで似ている。
「眼蛇夢はなんかわたし達の仲間に似てるね」
飛鳥からのギョッとした誰に!?という反応を少し愉快に思いながら眼蛇夢からの反応を待つ……うん?なんか急に雰囲気が変わった……?
「なかなか……興味深い事を言う。我に似ているか……そいつの名は何と言う?」
「……創─────日向創だよ」
眼蛇夢が俯かせていた顔を上げたとき、私は思わず飛鳥の手をとって飛び退いた。
その顔があまりにも私の知っている顔とかけ離れていたからだ。その顔だけは彼に似ているとはとても言えないような表情だったからだ。その顔が途轍もなく怖かったからだ。だから飛び退いた。
「そうか……貴様らは奴の仲間か……フン、傑作だな。とんだ茶番を演じたものだ、あの女の悦びそうなことよ」
「……眼蛇夢くん、あなたどうしたの?」
「なに、気にすることはない……と言っても素直に聞くような人間ではなさそうだな」
「創の知り合い?」
私の問いは彼に鼻で笑い飛ばされた。
答えるまでもないと言わんばかりの、愚問だなと切り捨てられたかのような……言葉に出さずとも彼の纏う空気が何よりも如実にそう語ってくる
「我が名は田中眼蛇夢……日向は俺の敵だ。故に貴様らも……俺の敵だ」
眼蛇夢のその言葉と共に背筋が思わず粟立つ様な強烈な嫌な感じが私と飛鳥を包む。
どこか私が私じゃないかのような、途轍もない不安感に包まれながら飛鳥に声をかけようとして……ほぼ同時に飛鳥の牙が私の首筋へと喰らい付いた
「─────飛鳥……?」
優雅───いつもそういった余裕を崩さなかった彼女の顔に何故か今はその色が無い。全く反対の必死さと凶暴性をその顔に浮かべながら私に噛み付いて暴れるその姿は……紛うことなき〝獣〟そのものだった
本当はもう少し短いところで切りたかったんですが......携帯を変えてからどれくらい書いたのか分からなくなっちゃったのでテンポがおかしくなってしまいます。自分的には3000~4000で投稿したいのですが今回は8000......この小説の平均文字数も5000代です。正直文字が多いと最後まで読むのもだるいというのが自分でもあるため何とかしたいですねこれ。
さて今回の補足は展開についてですね。書いてるときはラノベを持ち運んでないので記憶に頼って書いてます。だから霧の出るタイミング、その他の表現等で原作との差異があるかもしれません。さらにいえば原作ならほかの生物と協力して霧を飛ばそうとしているところやノーフェイスさんの登場も奪ってしまってます。
一応ノーフェイスさんは春日部や日向くんとは違うところで原作通り巨人ボコしてます。要は大筋は原作通りに進んでいますということが言いたいです。なので「ノーフェイスがいない、代わりに出てきたのは敵キャラ、ひなた君がいるだけでむしろ難易度激上がりしてるけど大丈夫?」みたいなこと思った方。大丈夫ですなんとかしてみせます頑張って。
あとこれはまぁ特定の人に向けてになりますが......飛鳥ファンの人すいません。でも一応最後のところ詳しくしておくと怪我とか汚れとかがないバイオとかのゾンビ的状態です。別に眼蛇夢の能力はバイオとか関係ないですけど絵面のイメージでね?別に白目でも超目が鋭くなってるでも瞳孔が裂けてても写輪眼が出ててもいいですよ。みなさんの想像にお任せします。ただ飛鳥ちゃんのキャラが少し崩壊する絵面になる事はたぶん必至なのでそこだけ謝らせてください。すんません