異世界より”超高校級”が参戦するようですよ!   作:ヤッサイモッサイ

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さてどうも皆様ひと月ぶりになりましょうか?前回はサボっても1週間的なことを言いながらちゃっかり姿を消したのは1ヶ月以上。舐め腐ってる作者ですすいません。3巻読んだのが今週でした。読む気が起きなかったですはい。てかADSが楽しすぎて受験生おいな感じです。この感じは去年にも記憶がある......そう、浪人する羽目になった去年と同じことを繰り返している!!......どうでもいいですね、はい。今日からまた更新再開していきたいと思いますがいやしかし一週間と断言する自信がなくなってまいりました。無論1週間を目指しますがまぁできなかった時はごめんなさいということでお願いしますね。今回から3巻突入です。新しく出たラストエンブリオとやらのあらすじをみて疑問符を三つほど頭上に投影してしまった私ですがこれからも頑張ります、できれば読者の皆様にもお手伝いいただきたいです。ほんといたらぬ作者ですいません
ではひとまず本編どうぞ。恒例のあとがき補足も入れておきます


chapter5 なぞなぞ『頭は鳥、顔は熊、変身すると巨人になる生き物』
無くしものは隠されもの、帰って来ぬ限りは見つからん


さて端的に結論を述べよう。案の定負けた。

というかほかの三人が異常すぎる。ちょっとバイトしてきたと言った感覚で何をしでかしてくれているのやら。十六夜に至っては神格持ちを隷属させ更には門の所有権まで持ってきた。とことん規格外というべきか……ついでにいうならば十六夜が連れてきたあの蛇神こと白雪が俺に一言感謝を述べてきた。聞く暇もなく白夜叉のところを出て来たので理由がわからず凄くモヤモヤする。

 

「それはそうとして何をしてるんだ?」

 

俺の眼前でニャッ!?とやたら人間らしい反応を見せてくれる三毛猫……普段ならば春日部の元を離れることもなく、また猫が嫌う風呂場にも近づかぬ彼が珍しく一匹で必要以上に足音を潜めながら浴場から廊下を伺っていた。一応言っておくが今は十六夜がレティシア、そしてジンと共に子供の中でも年長に当たる狐の獣人の少女と一緒に風呂に入っていたりする。これだけを聞くと十六夜がロリコンのようにも聞こえるが白夜叉の扱いや黒ウサギの胸に対する執着から分かる通りアイツにその手の趣味はない。そうなると今度は大人の姿になれるレティシアが危険だがまぁそこは子供もいる手前何かが起きるということもない。何よりレティシアの凛とした空気に自身を従者と割り切った考えとなんだかんだ言って行動には移さない変態のエリート十六夜がお互いにその手の話題を本気にするとは思えない

……まぁ長々と考えていると元の話を忘れそうになるが要は三毛猫がここでその存在を潜めるかのようにコソコソと行動する理由がないわけだ。

 

『な、あんちゃんこそなんでここにおんねん!?』

「黒ウサギにタオルを届けるように頼まれてな」

 

さもなければ俺だってここまで来たりしない。あらぬ疑いをかけられるのはゴメンだ……そう、島の中で左右田とやったことはなにかの間違いに違いないのだから。

 

『そ、それはええな、さぞかし爪の立てがいがありそうな……』

「それでなんでここにいるんだ?」

『ニャワッ!?』

 

……怪しすぎる。様子を見るに目的があってここに来たのは間違いがない。誤魔化しにタオルの事を使ったということから本当に爪を砥に来たわけでもないだろうしいくらオスとはいえ浴場の中に興味があるわけでもないだろう

思わず疑いの眼差しを向けてしまい三毛猫が焦ったように後ずさる

……ん?三毛猫の後ろに何かあるような?

 

見えづらいが何やら三毛猫は体を使って何かを隠しているようだ。入口の向こう側に大部分があることもあいまってかそれが何なのかまではわからない

気になって一歩を踏み出したところで三毛猫は意を決した様に飛び上がり入口の横に積んであった籠の山を崩し自身もまた籠を被りながら一目散に何処かへと駆けていく

 

『堪忍やぁ〜!!』

 

どこか気の抜ける悲鳴のような言葉を残してその七不思議廊下を爆走する逆さの籠は一瞬で視界から消えていった。さっきまで何かが隠れていたように見えた場所にも何も無い……

 

「なんだったんだ……というかこれ俺が片付けるのか?」

 

……災難だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「「「アンダーウッドに行かない!?」」」

 

まさに同音。口調も抑揚もテンションすらも違う三人が思わず全く言葉を被せてしまうほどに驚くべき言葉が十六夜から伝えられた。

考えても見て欲しい。あのお祭り好き、故に全力で今回も勝ちを拾いにきた十六夜が自主的に!それも無くしものと言う理由で!その権利を放棄したのだ

 

「そんなにあのヘッドホン大事だったのか?」

「別にそういうわけじゃねぇけどな、締まらねぇってだけだ。まぁそういう訳で今回は譲ってやるからせいぜい頑張って成果を上げてきてくれ」

 

……まぁそういうのならば俺にとっても嬉しいことだ。メンバーが珍しいにも程がある面子になってしまったが。

 

「それにしてもあんなものを無くすなんて随分器用ね。それも一日探してもないだなんて」

「そうですね、話を聞く限りは浴場にあると思うのですが……」

「ですがジン坊ちゃん、浴場なんてそんなに探すところもないですよ?」

「でもヘッドホンが勝手に歩くなんてこともないよ、黒ウサギ?」

 

取り敢えず行方不明のヘッドホンのために残る十六夜、元から残ることが決まっていたレティシアにジンを除いた年少組が本拠地にて待機。十六夜が合流するのかはわからないが収穫祭へ向かうのがジン、黒ウサギ、久遠に春日部、そして十六夜の代わりに俺だ

というか……

 

「……ヘッドホンが勝手に歩く事はない……ね」

 

無論小声だ。心当たりこそあるがこんなタイミングで打ち上げたって十六夜本人ですら困るだろう。何よりもこの聡い少年がこの可能性に至っていない筈がない。それでいて残るということは……今回はその犯人の考えに乗ってあげるということだ。無論その正体と意図に気がついているかは別として……

 

小声とはいったが思わず向かう視線ばかりは仕方がない。吸い寄せられるように固定されたそこは春日部の腕の中、ぶら下がるように抱かれた三毛猫の元だ。

無論向こうのその視線に気付いているのか執拗に視線を合わせようとしない。

 

「……日向君、あなたどこを見ているのかしら」

 

──────は?

 

「あのねぇ、そんな不躾に女性を眺めるだなんて失礼だと思わないの?そ、それも胸の辺りをジッと」

「誤解だ、久遠。別に胸を見ていたわけじゃなくて──────」

「ほーぉ、そうかそうか。俺と白夜叉の話に入ってこないと思ったら日向はそっち派か」

 

そして壁を意識させるようジェスチャーをして十六夜までもが乗ってくる。

こいつら……!

 

「創……」

「というか十六夜君も十六夜君よ。あなたもだいぶ失礼だわ、デリカシーって物がないのかしら」

 

俺は白昼堂々お空の元であけっぴろげに胸の話に持っていくお前ら全員に聞きたい位だ。

そんな俺の内心とは別にさり気なくこちらを睨んで体を隠すように逸らす春日部の姿に少しショックを受けた

 

「な、なぁご主人達よ。この話は不毛にしかならんと思うのだが……」

「そ、そうでございますよ!日向さんも男性ですからまぁ……た、たまにはそういうこともございます。えぇ、仕方が無いことです!」

 

……フ ォ ロ ー が 辛 い !

 

「じーっ……」

「あ、あのぅ……春日部さん?」

 

……そしてなんとも居た堪れない。春日部の視線があっちへこっちへ見比べる様に飛ぶ様を直視出来ない!

 

「……皆はいいね」

「「ち、ちがっそういうつもりじゃ!」」

「……いや私は乏しい方だろう?」

 

……レティシアは確かに普段は子供の姿をしているが……大人の姿があるからな。

 

「ジン……ごめん」

「……いえ、もう慣れました」

 

またいつものように場が一瞬で混沌とするノーネームのお家芸を前にしていつもいつも割を食うジンに俺はそれしか言えなかった。

 

……とはいえ頭を押さえながら、その体の小ささであの状況を抑えるその手腕はまさに見事の一言と言える。

最も今から出発すると言うのに何やらまた俺が白い目で見られ始めた気がするのは懐かしむべきか、はたまた頭を抱えるべきか

 

「「さいてー」」

 

うんだよな。その結論にしかならないのは知ってた!知っていたけどちょっと理不尽じゃないか!?

三毛猫の事を話すわけにもいかず、かと言って無視するにもイマイチ意図が読めない。十中八九犯人は彼で絶対によからぬ事をしたのではあろうが……理由も無く彼はそんなことをしないだろう。話を聞こうにも春日部に悟られればそこまでして三毛猫がしたかったことは達成される前に十六夜の前へと突き出されるに違いない。

春日部は三毛猫が大切ではあるがそのために仲間を蔑ろにする事はしない。理由を聞いて納得はしても間違ったやり方をしている以上は謝らせるだろう。三毛猫だって俺達以上にそのことを知っているのだから後でバレることが前提で動いているに違い無い。

 

……そうなるとあまり手を出す気になれないのだ。これで十六夜がヘッドホンを本当の本当に全力を持って探し続けていたり萎びれていたり話が別だが……いくら見直してもいつもと変わった様子は見られない。

……弱味を見せまいとしているのか盗んだであろう誰かの都合を考えて黙っているのか本当に気にしていないのか……或いはここまで計算づくだったりするのかもしれない。何かまた見越してここに残ることを選んだのかもしれない。だがそれはわからない。十六夜の顔からは驚く程に表情が読み取れるのにそれ故にその顔の裏に隠した真意がわからない。

 

「まぁいいか」

「よくないです!春日部さんがすっかりいじけちゃったじゃないですか!」

「それは確実に黒ウサギが止めをさしたせいだ」

 

格差社会とはひどい物である。まさにそれを体現した世界ではあるもののそれに加えて前の世界でも多発していたそのことを知っているのだから格差まで適応するとは誠に神様は残酷だ。

因みに個人的には大きい方が好み──────あまり考えていると色々なやつに殺されそうなのでやめておこう。いいじゃないか千差万別個性があって大変素晴らしい……と語ったら語ったでただの変態だ。今日も変わらず世間は男性に優しくない。同じように女性にも優しくないのだからまさにこれこそ男女平等だろう。

 

まぁ何も格差は性差のみによって起こるわけではないが。その代表例が眼前の光景とも言える。境界門……今回十六夜の功績として晴れてノーネームの管理下に置かれることとなった周辺領域民にとってなくてはならない交通手段。

元はガルドガスパー率いるフォレスガロの所有物だったこれは今もその名残を残し門柱に巨大な虎の彫像が立っている。

 

「帰ってきたら真っ先にあれを取り除きましょう」

 

久遠が強く、もはや何かの宣誓のように言い切ってしまう程にそれは見事だった。見事ゆえにイラつきも倍増と言ったところなのだろう。俺は結局本人とはあってすらいないわけだがあの久遠をして死者にこの扱いなのだから余程救いようがないある意味での傑物だったのだろう。ゲスや外道と一括りには言っても驚くほど人気が出るようなクズも中に入るものだ。無論それは相対する人間からすればめんどくさいにもほどがあるわけだが見ている分にはその人間のある意味での真っ直ぐさが、あるいは時折のぞかせる人間味やその艱難辛苦乗り越えてきた物語がきっと人目を引くのか……ただし何度もいうが相対する人間からすればそれは何ら美点にはなり得ないのだが

 

「なんで黒ウサギを売りに出すのですかァァァァァっ!!!」

「恥ずかしいからやめてくれるか!?」

 

少し意識が逸れているあいだに何があったのやら……恐るべきことにこいつら衆人環視の下でどんな会話をしてくれているのやら。こんなのがこの境界門の管理者だなんて思われたら……あ、いや今更だなうん。

 

「日向さんも何か言ってください!」

「売るのは構わないがその時は()()()()()()でしか売れないと思うから覚悟の上でな」

「セクハラですかっ!!?」

「なんだ、食用が良かったか?マニアックだな」

 

ついに疲れ果てたか無言のハリセンが飛んでくる。まぁ見えたからと言って洗練されたそれをかわすことはできないわけで再び間抜けな音が広場へと広がった

 

「……今からが旅行だってのにそんなんじゃ持たないぞ、黒ウサギ」

「……そう思うのでしたら素直にこちらの肩を持ってください」

「苦労サイドに回るのは俺も嫌だからな」

 

誰が好き好んでそんな大変な目に合わなくてはならないのか……理解に苦しむとはまさにこのことだ

そんな空気を感じ取ったのか諦めるように頭を振るい流れを切る様に黒ウサギが懐から二枚の招待状を覗かせながら真面目な話を始める。内容は招待主である収穫祭を実行する二つのコミュニティ、主催たる龍角を持つ鷲獅子とその舞台を提供したアンダーウッドへの挨拶回りとやらだ。無論そういった礼節を軽んじる気は他の二人にも無いらしくここは素直な返事を返している。

そんなやりとりをしているとついに門が開く時間なのか広場に集まっていた無数の人影が規則的に動き始めた。

黒ウサギのナンバープレートを確認する声に続き春日部の十六夜を心配する言葉が聞こえる。

 

 

……俺はこの秘密をかかえていていいのだろうか?大事に繋がらないか?十六夜が黙認していたとしても俺がそれを教えない理由にはならないのではないか?……いや、ここまで来ている時点でそれらを考えるのは嘘だ。わかった上で判断を下しここにいる。どうなったから今更考えだけを変えて動かないのは卑怯だろう

 

「それで何か起きたら起きたで今度は問題なんだけどなぁ」

 

ままならないものである。親も世間も神様も困った人には手を差し延べろ等という割に手が足りてない現状はなんなのか。人には手がふたつある。ならば全員が誠にそれができればひとりひとりは二倍ハッピーな筈なのだが……残念ながら今の社会はそういった救いの手を率先して手折りに行く傾向がある。優しいやつが馬鹿を見るというのはそう言う事だ。そういう面でいえば俺たちのコミュニティはきっと……馬鹿しか見ないのだろう

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

今までの浮遊感を伴った移動とは違う、一歩踏み出したらパッと景色が変わったかのような瞬間移動。そのわずか一歩で箱庭世界を渡れるというのだから境界門の便利さは異常だろう

しかし南の景色もまた随分と東や北のそれとは異なる。建造物に溢れた冷たき石と灼熱の炎が見事なまでのコントラストを演出した北と違いこちらは一言で言えば世界樹。超巨大な大木を中心に様々な光景が広がっているのか特徴だ。

空を見上げても春日部が喜びそうな生き物たちがあっちこっちへと忙しそうに移動しているのが見えるので退屈しない

 

「早速挨拶に行くのか?」

「そうですね、その前に荷物を置いてからになりますがそれも道中ですので末すぐ向かうことになります」

 

収穫祭はまだ始まってすらいない。そんな状態ですらこの賑わい……正直俺もこの祭りを楽しみたい欲求がある。黒ウサギの言葉と今回の目的を思い出してなんとか足を止めはしたが視線ばかりは外れそうにない。

そして同じように何時にないテンションで饒舌に口を動かして景色を説明しているのが春日部だ。ヤレ水晶の回廊だ大木だ空を飛ぶあの生き物はとその興味は留まるところを知らない。

 

そんな彼女を見ていると急にあたりが暗くなった……というよりは俺にだけ影が差しているようだ。自然上へ向けられた俺の視界にはいってくるのは巨大な足──────おい。

急いでそこを飛び退くと同時にその巨体は風を使って衝撃を感じさせぬ柔らかな着地を見せた

 

「久しいな我が友よ」

 

そう言ったのは何時ぞやのグリフォン。白夜叉が連れていた奴であることはその同種の中でも立派な姿と言葉の内から把握できた。挨拶に他のノーネームのメンバーもお辞儀で返しているのだが……俺は納得できない

 

「なんで俺の上に降りてきたんだよ」

「たまたまだ気にするな」

「……気にするなって無理だろ」

 

グリフォンと言葉を交わした俺に他のメンバーがお辞儀から直ってギョッと目を剥く

 

「ひ、日向くん言葉がわかるの?」

「まぁな。言っとくけど前の時はわからなかったぞ、ペルセウスの時辺りから三毛猫の言葉がわかるようになった」

「三毛猫とも喋れるの!?」

「……日向さんも大概不思議存在ですよね」

 

……テンションの高い女性二人とは対称にどんよりとした空気を漂わせながらジンが呟いたのが耳に痛い

 

「さて、瑣末事は置いておいて一つ提案なのだが……ここから街までは少し遠い。道中も野生区画と呼ばれるものがあるから危険もある。そこでよければだが私の背で送って行こう」

「……本当か?」

「嘘は言わん」

 

……何だいいやつじゃないか

 

「ぜひ御好意に預からせていただきます!」

「ありがとう、良かったら名前聞いてもいい?」

「無論だとも、私は騎手よりグリーと呼ばれている。友もそう呼んでくれ」

「うん、私は耀で、こっちが飛鳥とジン、そして創だよ」

「なるほど、友は耀。友の友が飛鳥とジン……そしてそこの創か」

 

食い気味の黒ウサギに少し引きながらなんとも微笑ましい友人の様子に頬を緩めるという器用な事をしながら久遠とジンへ話しかける

この二人はグリーの言葉を理解できない故空気からすごく穏やかな感じを感じ取ることこそ出来ても内容がいまいちわからないのだろう

 

「グリフォンの名前がグリー、春日部も初めの目的を徐々に達成できてるみたいで良かったよ」

「……ずるいわ、日向くん達だけでわかったように話すんですもの」

「しかしこればかりは仕方ないですよ。他種族と絆を結ぶのは難しい事ですから……その分言葉を交わすことが出来るというのは本当にすごいことなんです」

 

春日部はグリーに先程から空を飛ぶ生物の事を聞いている。なにやら物騒な言葉が聞こえてくるのは俺の翻訳ミスだと思いたい

 

「なんで日向くんは彼らの言葉がわかるの?話を聞く限りグリフォンだけというわけではないのでしょう?」

「……多分だけどこれも仲間の力だよ。俺の世界にはグリフォンとかはいなかったけど俺の仲間は動物の言葉を理解する事ができるなんて言われてたやつがいたんだ」

 

果たしてあれは真実だったのか……それはさすがにわからないが彼と彼が連れていた破壊神暗黒四天王との絆は確かだった

 

「さて、待たせるのも悪い。御好意に預からせてもらおうぜ」

「そうですね、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……数分後絶叫マシーンもかくやと言った具合の乗り心地に数名が昇天しかけたのは御愛嬌

 

いや本当に身体能力的に難のある2名と一匹は命の危機だった

 

まぁ途中で減速してもらったので何とか全員が生きて地に足をつけられたわけだが。

ひとまず送ってもらえたことは事実なので感謝をして仕事へと戻る彼を見送った。

 

さて、一息置いていざ挨拶へと思ったところでこれまた頭上から声が聞こえる。

テンションの高い、子供の少女の声にそれをたしなめるような個人的に殴り割りたい奴ナンバーワンの声が掛けられたのだ。思わず殺気立つのもしょうがないだろう

 

「アーシャ、君も来てたんだ」

「……世話焼きお化けもな」

「これまた随分な言われようですねぇ」

 

自業自得だということを是非とも教えて差し上げたい。いくら正しい解であろうともそれだけを教えられて過程を間違えればどうなるか……俺らがあの後一体どれだけ苦労したことか

 

「ヤホホー、清々しいまでの責任転嫁!ここまで来ればもはやこのジャック笑うほかありません」

「ニヤニヤとだろ、表情に出ないからって声色からは読み取れるからな」

 

これまた一本と乾いた音をたてて頭を小突く、その愛嬌のある動作は子供には受けるだろう。俺は絶対誤魔化されてやらないが……コイツわかっていてあそこで止めやがったなという答えに行き着いた俺の怒りはこんなものじゃない。いつか目に物を見せてやる

何せ元々俺は我慢強い人間ではない

 

「さて、話は変わりますが御注文の品は収穫祭が終わり次第お届けさせていただきますよ、是非ともこれからも御贔屓にしていただきたいものです」

 

それは素晴らしい、ただ貧乏なうちにそんな余裕は無い。

ノーネームは考えることが同じだ、皆して思わず苦い笑いが浮かぶ

 

「飛鳥嬢もご健勝のようで何よりです、前回のゲームではディーンに不覚を取りましたが────」

「「え?」」

 

前回のゲーム?ディーン?

 

「そ、そんなことよりもジャック!貴方はゲームに参加しないの?」

 

……ほぉ、いやなるほど。そういう手で来たか。

ウィルオウィスプと行ったギフトゲームは春日部の戦果……そこでディーンが出てくるのは随分と不思議な話だ

 

「ゲームの参加者として活動するのは苦手でして……今回も招待状が来たので参加しましたが目的は日用品の卸売りです」

「あら、それじゃ今回参加するのはアーシャだけなの?楽勝じゃない」

「うん」

 

そんな二人に黒ウサギほどの見事さはないもののそれでも漫画チックな怒髪天を見せてくれるアーシャ。

そんな光景をみてまたもや喉を転がしてカボチャの幽鬼は笑っている。子供が好きというのは真実だろうがそれにしてもジャックの笑顔以外の表情が想像つかないほど笑いっぱなしの彼は人間だったら大した表情筋の持ち主だろう

 

雑談もそこそこに宿舎に入り荷物を置いて当初の予定のままに挨拶へと向かう。道中は行動を共にすることになったウィルオウィスプの二人から、というよりもジャックから南側への魔王襲撃とその復興の話を聞きながら地道に歩みを勧めていく。春日部が歩き食いをしたりアーシャをからかったり井戸から水を組み上げるさまを想像させるエレベーターにつく迄に色々愉快な事を量産しながら俺達は本当に旅行気分で再開を楽しんだ。平和というのは素晴らしい。こんな光景がひどく新鮮なのはこちらで生きることの大変さ故かはたまた元の世界の殺伐さ故か……さて、長いエレベーターが終わり受付では連盟についての説明を聞きながら時間を潰してようやく入場かというところで本陣の奥より人影が現れた

どこか艶めかしい褐色の肌に立体的な凹凸の激しい肢体、激しく熱と風を叩きつける様に羽ばたく二翼の炎羽と冠の如く存在の強さを主張する角、流れる赤い髪……その特徴はどこかでみたことがある。幼かったり性別の違いこそあれどその容姿はサラマンドラの二人に瓜二つだ

 

「さ、サラ様!」

 

声を上げたのは面識があるであろうジン、名前を見るにやはりこの人物はサラマンドラの……

 

そのまま俺達は奥へと案内され大樹の中へと進んでいく

それこそ見上げてもその頂点が伺えないほどの大樹の中と言えば入ってしまえばなんてことのない普通の部屋……確かにログハウスに近い見た目ではある、ただもっとファンタジーにまんま木をくりぬいた形であったりするのかと思っていたものだからなんというか失礼な話拍子抜けした。さて、とはいえこちらは招かれる側の人間、状況がいまいち把握出来ていなかったり目の前で飛び交う盗み出した技術だの北側最強のウィラだのといういまいち理解の及ばぬ会話に口を挟むものでもない。部屋を見回しても面白くないのだから暇潰しすら出来ないのは残念だがそれならばそれで意識を彼方へと飛ばしてゆるりとするとしよう。なんとも平和な今だからこそ出来ることだ……なんて風に気を抜けば直後に黒ウサギが身を乗り出してその艶のある髪を仄かに怒気から赤らめながら何かの紙を握りつぶしている。涙を流しながら怒り大河に向かって叫ぶという相変わらず器用な怒り方をする黒ウサギだが毎度毎度ちょっと気を抜いただけでここまで状況が一変するのはなんなのか。幼年期の子供の会話でもあるまいにもう少し段階をおって会話を楽しんで欲しいものだ─────

 

「……え?」

 

突然首元をガシッ!と掴まれたことに驚き零しかけたお茶をなんとかソーっと机に置く、ほぼ同時に黒ウサギが驚くほどの早口で何かをまくしたてた

 

「サラ様、収穫祭への御招待誠に感謝致します。ただ我々は今すぐ向かうところが出来たのでこれで失礼いたします」

「そ、そうか?ラビットイーターなら最下層の展示会に────」

「ありがとうございますわそれではまた後日!!」

 

なーんの話だこれは、と横を見れば反対の手にはジン、久遠、春日部がまとめて同じように首根っこを掴まれているのが見える。講義の声をあげているのを見るにこれは黒ウサギの暴走か……引き気味のサラ様とやらに礼を言うが否や今度は体を急な加速の感覚が包む……ってオイ洒落じゃ済まないぞ

案の定十六夜にも並ぶその健脚で大樹を飛び出した黒ウサギはピョンピョンと跳ねながら言われたとおり最下層へと向かってるようだ……話を聞くにラビットイーターとやらを蹴散らしに行くのだろうがそんな悪事に付き合ってもられない。

 

「後で宿舎で合流でいいよな?」

「お好きになさってください!!」

 

……あ、はい。

なんとも恐ろしい表情だ。思わず食われるかと思った。誰だ黒ウサギをヒナタイーターに改造した奴は……江ノ島か、暇潰し感覚でやりかねんな。

冗談にしても恐ろしい事を考えながら身を捻って黒ウサギの拘束から抜け出すと今度は落下中故の身を叩く風に任せて黒ウサギ達から離れていく……とはいえ特に見たい展示物もない俺はと言えば結局パラシュート無しスカイダイビングを決めた事で悪目立ちし、どちらにせよ恥ずかしい思いをするのであった

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

一方その頃なんて使い古された表現で今度はアンダーウッドの地下都市、最下層の展示保管庫。そこで連続して嘶く稲妻が貫くは狂気の人工植物、ラビットイーター。日向がいればどんなB級映画だと、十六夜がいれば手を叩いて喜んだであろうその全長5メートルの怪植物対ウサギの戦いは名前の割には一方的過ぎる状況で進んでいる。伸ばした触手は尽く独鈷杵に断ち切られ、吹き出た樹液はその怒りをあらわすかのごとく激しく瞬く稲光に蒸散し、大きく開いた花弁はもはや光など受け取りたくないと言わんばかりにその黄金に照らされ苦悶しながら焼かれている

斯くして対ウサギ用植物は他でもないウサギの手によって永遠に葬られた。黒ウサギはまだ見ぬ同族を知らぬ間に守った達成感と自身の貞操を守りきったという安堵に包まれながらその髪から緋色を薄めていく。

その横をスルリと抜けて茶髪の少女、春日部耀がその残骸手にとった

 

「勿体無い」

 

そう、彼女は慈愛に満ちた少女。エコロジー精神の塊とも言えるその彼女にとって眼前で行われる非人道……否、非兎道的行いに自身の体を打たれるよりも強く心を痛めていたのだ

 

「お馬鹿なことを言わないでください!こんな自然の摂理に反した怪植物は燃えて肥やしになってしまえば良いのです!」

 

強く言い切ってもはや残骸すら目に入れたくないと言わんばかりに顔を逸らした黒ウサギにそのすっかり広くなった保管庫で唯一の人格者であるジンは頭を抱えた。

目的は達したと言わんばかりに保管庫を出た一同は今度は収穫祭を見学するために活気溢れる通りに出るため歩き出す。アンダーウッドの地下都市ではバザーや市場が開かれており今回の目的であった農園に植えるための苗や種、他にはない毛皮製の商品に一々大きく反応を残して見て回る。民族衣装などの衣服の方によく目が行くのは男女比率のせいだろうか……しかし先程までの迷惑千万な楽しみ方に比べればとてもましなそれにむしろジンは率先してそれらの方に姦しく騒ぐ仲間を誘導していく。

商品の購入はギフトゲームに出て手に入った賞品を見てからにするとして一先ず幾つかのギフトゲームへの参加登録を終えた一同は日が暮れて茜に染まる大樹を見上げながら頃合いかと宿舎へと引き上げるように歩き始める。

そんな折春日部の足元へ一匹のハムスターが掛け出てきた

 

「わっ!」

 

危うく踏みそうになったのをなんとか踏み止まりそれまでの勢いはなんだったのかというほどにピタッと止まってしまったそれを手のひらに乗せて持ち上げる

 

「春日部さん、その子は?」

「……迷子……かな?」

 

ハムスターはネズミの一種、無論連れの三毛猫は何の理由もなく襲いかかったりしないがそれにしてもネズミが進んで近づいてくる事は滅多にない

 

「うぬ、われのこえきこえるか?」

「……え?」

 

……聞き間違いだろうか?愛くるしく、小さいその体躯からは考えられぬ尊大な口調で話しかけられた気がする

 

「きこえておるな、よしよしこれはひろいものだ」

「貴方名前はなんて言うの?迷子?」

「まいごなどではないわ!いいかよくきけ、われこそはこのよにあんこくをもたらす……えーっと……はかいし?いや、はがいじめだったか?」

 

何やらたどたどしい口調がむしろ愛くるしく見えてきた春日部と黒ウサギであったがこんな所に野生のハムスターがいるはずもない。この人混みのなかはぐれた飼い主は今頃必死になっていることだろう

 

「あ、おもいだした!われこそはこのよにあんこくをもたらすはかいしんがいっチュウ!じゃんぴーだ!!いちどうずがたかーい!」

 

……とはいえこの様子では話を聞くことは叶いそうにない。もう暫く帰ることが出来なさそうという事を悟った久遠やジンも含めて春日部は高笑いを続けるハムスターをただ呆然と眺めるしかなかった

 




一万文字超えは久しぶりですなー。さて今回はまずなんでひなた君動物と会話できるの?ってところです。作中に表現を入れましたがスーダンに出てきたいい声のあの方の逸話に「動物と会話できる」と言ったものがあります。「絶滅危惧種の繁殖に成功」等といろいろ既におかしい彼ですからまぁありえるんでしょう。仲間の力として希望よりの今はその力を使えます。
最後の方で出てきた舌足らずな偉そうハムスターは作者の印象なので「喋らせないで」という方がいたら予定を変更して無口な方向で進めます。既にだいぶ展開が予測できますがまぁしょうがない、作者は彼が好きなんですよ。
という訳で会えましたらまた次週、次の更新でお会いしましょう!ではさようなら!

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