異世界より”超高校級”が参戦するようですよ! 作:ヤッサイモッサイ
カムクライズルさんの場合は…………髪がとんでもないことに!!?
サヨナラ希望、コンニチハ異世界
カムクラにとって自身の認識の外というのはそうそう存在するものではない。
かつて希望の象徴と呼ばれたその性質は伊達ではないのだ。
ことを起こす前から結果はどうなるのかはだいたいわかるし事物が起こる前にそれが起こることを推理する事だって可能なのである。
かつて自身も崇拝した絶望の象徴ですら完璧にこの推理から逃れることはついぞ出来なかったのだからその凄まじさは語るまでもない。
だがその卓越した推理でも今回のことばかりは理解が追いつかなかった。
手紙に目を通した瞬間、手紙が発光したと思えば突如宙へ投げ出されているのである。
しかも眼下へ広がるのは今ではみることもできないであろう大自然。
そして自身が希望と呼ばれていた時代ですらも見ることの叶わなかった世界の果てまで見える。
「うおおおあぁぁぁーーーっ!!」
「キャーーー!!」
ついでに男一人と女二人、さらには陸上生物も一匹。真下には随分と不思議な装いをした女がまた一人。
流石にこの高さから落下して無事でいる術はないが───
(”幸運”くらいならば自分でも持っている───)
まあきっと何とかなるだろうとカムクラには無いであろう思考をしている事に気付かぬまま五つの影は湖へと沈んだ…………。
そんなカムクラにあるはずのない気の抜けた状態が生んだ変化に本人すら気づかぬまま。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙げ句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ。」
「………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」
「俺は問題ない。」
「そう。身勝手ね。」
そこでは四人の少年少女が湖から這い上がり皆一様に服を絞るというある意味倒錯的な光景が広がっていた。
「此処………どこだろう?」
三毛猫を抱えた少女があたりを見回して皆の気持ちを代弁する。
「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?」
三毛猫を抱えた少女の呟きに目つきの悪い少年が答えた。
どこか馬鹿にした言い回しにもう一人の少年は「濃い」という印象を抱きながらも同じように辺りを見回す。
最も薄ぼんやりとした記憶だが空から落ちている時に確認したのでそれ以上の発見はなかったが。
服をあらかた絞った金髪の少年が濡れた髪を掻き上げながら目の前の三人へ確認する。
「まず間違いないだろうけど、一応確認しておくぞ。お前らにもあの変な手紙が?」
「その通りだけど、そのお前っての訂正して、──私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」
「………春日部耀。以下同文。」
「そう。よろしく春日部さん。次に野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃ったダメ人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから、覚悟しとけ、お嬢様」
「最後に、そこの…………独特な髪型をしている貴方は誰かしら?」
そこでようやくこちらへと視線が向けられる。
独特な髪型というのはおそらく脳天のあたりで真上に逆立った後横へと急激に折れた一部分のことを言ってるのだろうが…………これは別にセットじゃない。
まぁ流れ的にこちらへ来るのは当たり前なのだが目の前で繰り広げられた衝撃的すぎる自己紹介に何とも口を開きづらい
「俺は日向、日向創だ。よろしくな。」
「あら、貴方は十六夜君とは違ってちゃんと挨拶出来るようね。こちらこそよろしく。」
十六夜は何がおかしいのかただひたすらに笑い続け、飛鳥は顔をそむける。耀は依然としてどこか違うところに意識が行っているようで先程から反応が薄い。
俺はといえばなぜこんなところで目が覚めたのかわからずにいた。
覚えているのはジャバウォック島での一幕…………最後の最後で姿を現した悲劇の元凶との正面対決のことまで。
より正確には日向と未来機関の三人の説得によって前を向くことにしたみんなと一緒に脱出をするところまでだ。
それ以降のことは思い出そうとしても痛みが走るばかりで何もわからない。
結局日向は一人「みんなはどうしたのか?無事なのか?」という疑問を抱えて唸っていた。
そんな彼らを茂みに隠れて見ていた黒ウサギは、
(うわぁ………なんか問題児ばっかりみたいですねぇ
………)
自慢の耳で密かに聞いていた自己紹介やその態度から早速彼らの第一印象を決めていた
「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「……。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
「春日部だって十分に落ち着いてると思うぞ?」
呼び出した黒ウサギとしては、もっとこう騒然とするのだろうと思っていたため完璧に出るタイミングを失っていた。
そんな時、ふと十六夜が呟いた。
「──仕方がねえな。こうなったそこにいる奴にでも話を聞くか?」
「あら、貴方も気づいていたの?」
「当然。かくれんぼなら負け無しだぜ?そっちの2人も気づいていたんだろ」
「風上に立たれたら嫌でもわかる。」
「え?…………あぁ、そう言えば何か変なのがいたようないなかったような…………居たような?」
「………へえ?面白いなお前ら」
(なにか一人怪しい方がいらっしゃいますけど!!?)
黒ウサギは驚いて、茂みを揺らしてしまった。これ以上の不満が出てくる前に、と茂みから出た。
「や、やだなあ皆様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「何か頼りにならなさそうという一点でウサミにそっくりだな。」
それ以外の…………主に身体のフォルム的にいえば比べるのがおこがましいほどに整っているが。
もちろん目の前の黒ウサギと名乗った謎の女性の方がだ。
「あっは、取り付く島もない……って最後の方ものすごく失礼でございますね!」
両手を上げ、降参のポーズをとりながら黒ウサギは、四人を値踏みしていた。
簡単に言うならこの状況で自分を見失うわけでもなく、あくまでもマイペースに返答を返す四人の胆力をだ。
そんな風に思考にふけっていたからか音もなく背後に回り込んだ影に黒ウサギは気づくことができない。
「えい」
「フギャ!」
耀に後ろからウサ耳を引っ張られていた。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ?このウサ耳って本物なのか?」
「………。じゃあ私も」
「それでは俺も」とならないのが日向の良いところだが…………だからと言って助けを求める黒ウサギに応えるほどの力を持たないのもまた日向であった。
結局日向の疑問は何一つ解かれることなく時間が無遠慮に過ぎていったのだった。
はいカムクラさん退場、日向くんの入場です。
ちなみにこの日向くんはパンツをもらう予定が………………まって、急に入れたくなってきたその展開