運に低迷期が存在するとしたら、彼の状況はまさしくソレだろう。
バイトをクビになり家賃を払う余裕すら残っておらず、インディーズでほそぼそと売り続けているCDの売上も
溜息を吐かずにはいられない状況だ。
どんよりとしたオーラを全身から出しつつ日課の路上ライブを終えて帰路についている途中で、彼はそれを見つけた。
それは青白い輝きを放つ宝石のような物体だった。
なんともないただのガラクタのようにも見えるが、もしかしたら高く売れるかもしれないと思い、彼は青い宝石を懐にしまいこんだ。
それが厄介事の始まりだとは知らずに。
彼が近道をするために人通りの多い表通りから裏道へと入って行くと、珍しく人影があった。
毎晩、同じ道を通っているが、この時間に人とすれ違うのは珍しいことだ。
街頭に照らされ正体があらわとなった人影の正体は少女、それも二人だ。
年齢はそれぞれ小学生と高校生ぐらいだろうか。
外国人らしく調った顔立ちをしており、この辺りでは見かけない顔だ。
一歩も動こうとせずにこちらを見つめてくる少女たちに、彼は言い知れぬ違和感を覚えた。
深夜に差し掛かろうとしている時間帯に、保護者も連れずに出歩いていることにも疑問を感じたが、コンビニにでも行くのだろうと気には止めなかった。
軽く会釈して通り過ぎたそのとき、背後から機械の合成音声が聞こえてきた。
不審に思った彼が振り返ると、金髪の少女が虚空から近未来的な見た目の斧槍をどこからともかく取り出していた。
斧槍の先端部分が金色に発光した後に、少女の周りに三つの光る球体が現れ、そこから光の弾丸が生成される。
間を置かずに撃ちだされた弾丸を前に、彼は身動き一つできなかった。
だが彼の代わりに動くものの姿があった。
パキケファロサウルスのような見た目の電気の塊──レッド・ホット・チリ・ペッパーと名付けられたスタンドが、飛んでくる電気を纏った光弾を彼の代わりに防いだのだ。
彼──
時間は少し遡る。なのはに撃退されたフェイトたちは、二人で固まって広域サーチでジュエルシードを探していた。
数時間に渡るサーチの結果、一つのジュエルシードの
サーチャーに映しだされているのは、ギターケースとアンプを手に持って帰路についているロックミュージシャンのような風体の男だった。
見たところジュエルシードは発動していないようだ。
強力な感情や魔力、衝撃を浴びせられないかぎり、ジュエルシードが発動することはない。
彼の進むであろうルートを先回りしていたフェイトたちは、通りすぎるのを待ってから一撃で気絶させようとしていた。
フェイトには魔力を電気に高効率で変換するレアスキルが備わっている。
その資質により変換された射撃魔法は、直撃すれば強力なスタンガン以上の威力が相手の体を襲うだろう。
後遺症を残さないように極力威力を下げているが、一発でも当たれば成人男性を気絶させるには十分だった。
《Photon Lancer.》
「……ん?」
バルディッシュの音声に不審に思った音石が振り向くも、すでに撃つ準備は整っている。
意識の中でトリガーを引きスフィアから三つの弾丸が射出される。
しかし、間を置かずに放たれた弾丸は、とつぜん現れた電気の塊に防がれてしまった。
それはまるで電気の幽霊のようだった。半透明だが電気特有のスパーク音を出しており、よく見えないが両手と両足があるように見受けられる。
「な、なんだいありゃ!?」
驚きの声をアルフが上げる。
いきなり現れた電気の塊がフォトンランサーを弾き飛ばしたのだ。
軌道が乱された弾丸は、掻き消えるように光を失い自然に消滅した。
その隙に手に持っていたギターケースからギターを取り出し、アンプを道端に置いた音石が、面倒くさそうな表情でため息を吐きながらフェイトたちに刺すような目線を向けた。
「そりゃあこっちのセリフだぜ。なんだてめーら、新手のスタンド使いか!?」
「……スタンド?」
なんのことかわからないフェイトが聞き返すも、音石の目にはとぼけているようにしか映らない。
「あたしたちの目的はアンタの持ってるジュエルシードだよ。さっさとそれを渡せば悪いようにはしないさ」
アルフの言葉に音石は思案した。
いきなりスタンド攻撃を仕掛けてきて、しかもジュエルシードとかいう──恐らく先ほど拾った石だろうが、それをよこせと迫ってくる二人組。
それがなんとなく気に食わなかった。
承太郎たちにはスタンドで悪さはしないと約束しているが、これはあくまで自分の身を守る行為。約束をやぶるわけではない。
「脅してまでほしがるってことは、この石にはそれだけの価値があるってことだよな。なら渡すわけにはいかねーな」
ガキだからといって手を抜くつもりはない。
少し痛い目に遭わせて仗助どもに突き出してやろうと、音石はスタンドでフェイトに殴りかかった。
(とはいえ、全力でガキに攻撃するのはなんつーか大人げねえな。……軽く撫でる程度で済ませてやるか)
音石のスタンドは電気を操る能力を持っている。
電気を吸収すればするほどパワーやスピードが上がっていき、近隣一体の電気を吸い上げれば承太郎のスタープラチナにも迫るスペックまで成長できる。
遠隔操作型のスタンドとしては破格のスペックを持っており、仗助たちに捕まる前はその能力を悪用して盗みを働いていた。
一時期はスタンドをボロボロにされ刑務所に送られていたが、今はその当時のことを反省して真っ当な人間として生活している。
《Round Shield.》
スタンドの拳を受け止めたのはフェイトの体ではなく、地球のどの言語とも異なる文字が描かれた魔法陣のような真円だった。
ラウンドシールドは、フル充電ではないとはいえ並の近距離パワー型スタンドと同等の性能を持つチリ・ペッパーの一撃を防ぎきった。
拳を振りかぶったことで見せた隙をアルフは見逃さなかった。
ギターを構えて余裕な表情を浮かべている音石に殴りかかろうと地面を蹴る。
人間には到底出せない脚力での動きは、たしかに素早かった。
素の状態で反応できるのは、波紋の使い手や御神の剣士である高町家の面々ぐらいだろう。
だが、音石のスタンドはアルフの動きを一切見逃すことなく捉えていた。
「どうやら、我が『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の素早さにはとてもついて来れないようだなあ~~~っ! スローなんだよぉ────ッ!」
目にも留まらぬ早さで回り込んだチリ・ペッパーの拳が、アルフの腹部に突き刺さる。
バリアジャケットで威力は軽減されたが、拳に含まれている電気の衝撃までは防ぎきれなかった。
「かはァ!」
肺から空気が吐出され全身が痺れるような衝撃に襲われたアルフは、たまらずチリ・ペッパーから距離を取った。
フェイトの使い魔であるアルフも電気には多少の耐性があったため、気絶するまではいたらなかったのだ。
「チッ……もっと威力を高めておくべきだったか」
「よくもやってくれたねぇ。これでも喰らいな!」
妙な手応えに不思議がっている音石に噛み付くように吠えたアルフが、フォトンランサーを無数にばら撒く。
直線にしか進まない単純な射撃魔法だが、数で逃げ場を奪っている。
魔導師ではないと高をくくっていた相手に手痛い反撃を貰ったことで、頭に血が登っていたアルフは思うがままにチリ・ペッパーごと音石を射撃魔法の雨に巻き込んだ。
「アルフ!」
フェイトの制止の言葉にアルフがしまったと冷や汗を垂らす。
フェイトの身を案じて過剰気味な攻撃をしてしまったが、非殺傷設定なので命に別条はないだろう。
ここは早い内にジュエルシードを奪って逃げようと、砂煙が漂っている中をアルフが突っ切ろうとした。
「……よくもやってくれやがったな」
「っ!?」
怒りに声を震わせる音石がアルフをスタンドで地面に押さえつけた。
本来なら電線に引きずり込んで感電死させることも容易かったが、音石にはこの二人に聞きたいことがあった。
「てめーら、さっきの攻撃はなんだ。本当にスタンド使いか?」
「あんたのほうこそ、なに訳のわからないことを言ってるんだい。そんなケッタイな魔法で勝ったつもりになるのは早いよ。フェイト、あたしのことはいいからコイツごとやっちまいな!」
「はぁ? おい、そこのガキンチョ。てめーらはスタンド使いじゃあないのか?」
平行線を辿る会話にフェイトは目を白黒させていた。
どう見ても目の前の男は魔法を知らないようだが、レアスキルと思わしき奇妙な力を使っているのはたしかだった。
どちらにせよアルフを拘束されている状態では、下手に動いてはなにをされるかわからない。
ラウンドシールドで防いだときの感覚からして、アルフを押さえつけている電気の塊が首をへし折る程度なら簡単にできる力を持っているのは明らかである。
「……話したらアルフを解放してくれるの?」
「フェイト! コイツの言うことなんて聞かなくていい!」
デバイスの切っ先を地面に向け戦意がないことを示したフェイトに、訴えかけるように叫びかけるアルフ。
フェイトはアルフのことを家族だと思っている。彼女を人質に取られては戦うことはできなかった。
悲しげな表情で訴えかけてくるフェイトの顔を見た音石は、言い知れぬ罪悪感に蝕まれていた。
襲われたのは自分のほうなのだが、大人げなく子供をいじめているような気分になってしまったのだ。
「ついでにこの石が何なのか教えてくれるならいいぜ。てめーらの狙いはこいつなんだろ」
すっかり冷めてしまった音石の頭のなかには、すでに戦おうという気持ちは残っていない。
もとよりフェイトたちに、ジュエルシードを殺してまで奪い取るという気迫がなかったのも相まって、本気で戦おうとしていたのが馬鹿らしくなったのだ。
「フェイトぉ……」
情けなさそうな声でフェイトの名を呼びながら、弱々しくうなだれるアルフ。
その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。
「ま、こいつを買い取ってくれるってんなら、別に渡しても構わないぜ」
音石としてはジュエルシードを金に変えられたらそれでいい。
普通に質屋に持っていったところで金にはなりそうにはないジュエルシードを売るなら、欲しがっている連中に売るほうが得策だろう。
(それにこのままじゃあ、おれのほうが悪いみてえじゃあねえか。おれにはガキを泣かせて喜ぶような趣味はねえってのによぉ)
スタンドを使って人を殺したことがある音石だが、一般人に手を出したことはない。
そもそも過去の行いを悔いて反省した彼には、スタンドを使って誰かを傷つけようなどという気持ちはなかった。
単に音石が小心者で、杜王町に住むスタンド使いを敵に回したくないというのも理由の一つだが、彼にも人並み程度の良心は備わっている。
「……わかった」
「まずは場所を移すとするか。こんな場所にいたらサツに捕まっちまうからな」
先日のニュースで流れていた事件現場に比べたらマシだが、アルフの攻撃の影響で道路は完全に破壊されている。
ただでさえ前科持ちの音石がぶらついていたら、なにかと面倒なことになるだろう。
「私の住んでいる場所なら、落ち着いて話ができるはずです」
「な、なにをする気だ!」
フェイトとアルフ、そして音石の足元に魔法陣が現れる。
突然の展開に焦った音石が説明を求めると、フェイトはさも当然のような口ぶりで答えた。
「歩いて移動すると時間がかかるから、転移魔法で移動します」
「は……?」
呆気にとられている音石をよそ目に、転移魔法が唱え終わったことで転移が始まる。
眩しさに思わず目をつぶった次の瞬間、周囲の景色は一変していた。
音石の視界に映るのは薄暗い路地裏ではなく、真新しい家具が置かれたマンションの一室だった。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなものでは断じてない、とうてい理解できない現象に音石はスタンドの手を緩めてしまった。
それでもギターを手放さなかったのは、ロックミュージシャンとしての意地だろうか。
「は、はは、ははは、おれは夢でも見てんのか?」
乾いた笑いを漏らしながら、音石は窓の外に目をやった。
そこから見えるのはM県の県庁だった。
先ほどの裏路地から軽く10キロメートルは離れている位置に一瞬で移動したことになる。
「ごめんよ、フェイト。あたしのせいで妙なことになっちゃって」
「アルフが無事なら私は満足だよ」
拘束が解かれたことで体の自由が戻ったアルフは、すぐさまフェイトに駆け寄った。
音石はちょうど窓際に立っていて、フェイトとアルフはその反対側、部屋の入口付近で様子をうかがっている。
明らかに警戒されているが致し方がない。
なんとか落ち着きを取り戻し始めた音石は、やれやれと靴を脱ぎフェイトたちの方に歩み寄った。
フェイトがバルディッシュを突きつけるも、歩みを止める気配はない。
「な、なんのつもりだい!」
「玄関に靴を置きに行くだけだっつうの。人の家を土足で歩きまわるわけにはいかねーだろ」
敵意が無いことを表すためにスタンドを消して両手を上げる。
殺し合いの経験のあるスタンド使いからしてみれば馬鹿らしい行動に見えるだろうが、音石の気質はどちらかというと一般人に近い。
スタンドに目覚めた当時はその力に酔っていたが、元来の性格は絶対に勝てるという自信がなければ戦いたがらない小心者な男なのだ。
慎重な性格とも言えるが、なのはならただの小悪党の一言で済ませてしまうだろう。
音石に戦うつもりがないのを理解した二人は、念話で相談した後にバリアジャケットは展開したまま音石にジュエルシードについて話すことにした。
「触れたものの願いを歪んだ形で実現させる石……事実だったらとんでもねえが興味はないな」
音石の夢はロックミュージシャンとして大成することだ。
だが、その願いは自分の力で叶えるべきだと考えている。
その結果として金や名誉は欲しいが、あくまで副次的なものだ。
音石は呆気無くジュエルシードを手放した。
感情の高ぶりに反応して暴走する危険物なんて、誰だって好き好んで持ち歩きたくはない。
「それよりも驚きなのが魔法ってやつだな。スタンド以外にもそんな力があっただなんて、思いもよらなかったぜ」
「あたしからすれば、スタンドのほうが不思議なんだけどねぇ」
「おれのチリ・ペッパーは電気と一体化してるから見えるだけで、普通のスタンドは見えねえからな。スタンド使いってのは、案外身近にいたりするかもしれねえぜ」
ニヤついた表情で受け取った金を数えている音石の口はすっかり軽くなっている。
金額にして十万円ほどだが、降って湧いてきた臨時収入に音石のテンションはまさしく絶好調だ。
極めて危険なロストロギアは管理局が回収して厳重に保管しているため、金銭的な価値を算出することはできない。
しかし、裏のルートに売り払えば、ジュエルシード一個で日本円にして数千万、下手をすれば一億円以上の金が動くのだが、価値を全く知らない音石はこの程度で満足していた。
実に安い男である。
「……もしかして、あの子もスタンド使いだったのかな」
バルディッシュに記録されている映像をフェイトは音石に見せ始める。
その戦闘内容に音石は引きつる顔を隠しきれずにいた。
(こりゃあマトモに戦ってたら負けてたのはオレの方かもな。こんな速度、
高速で飛び回るフェイトの軌道はラジコン飛行機とは比べ物にならない動きだ。
電源になる物さえ近くにあるのなら射程距離はほぼ無限大で、スピードも速いチリ・ペッパーだが、長距離の移動速度はそれほど速くない。
短距離なら電力を消費して高速で動けるが、長距離でそんな真似をすればすぐに電力切れになってしまう。
「見たところ近距離パワー型のスタンドっぽいな。殴られたらただじゃあ済まねえだろう。能力についてだが──さっぱり分からねえ」
キリッとした表情で真剣に解説している音石の話を聞き入っていた二人が、ソファからずり落ちた。
期待していたフェイトの眼差しは、残念なものを見るような目つきに変わっていた。
「ま、まあ待てよ。詳細はわからねえが大雑把なことならわかる。少なくともコイツの能力は時間に関係しているんだろう」
「時間?」
「ああ、そうだ。オレの知ってるスタンド使いの一人に、時間を少しだけ止めれるヤツがいる。コイツはきっとその同類だろうな」
時間を止める。
言葉にするのは簡単だが、物理法則を無視した現象を魔法もなしに引き起こせる人物がいることに驚いた二人は、おもわず息を呑んだ。
「あの……」
「なんだ?」
「ジュエルシードを集めるのを手伝ってくれませんか。謝礼は必ず出します」
フェイトは悩んでいた。
ジュエルシードを集めるのは母からのお願いだったが、このままでは無事に集めきれるかわからない。
昼間に対峙した少女の能力ははっきり言って一対一で勝てるか怪しい。
アルフとともに挑んでも、フェレットの使い魔によって分断されるだろう。
そこに現れたのが音石だ。
彼のチリ・ペッパーとフェイトの魔法の相性はかなり良いだろう。
アルフは難色を示すだろうが、フェイトに残されている道はこれしかなかった。
「別に構わねえが、おまえはどうしてジュエルシードを集めてるんだ?」
「それは──」
詳しい理由はフェイトにもわからない。
愛する母から集めて来いと命令されたから従っているだけだ。
だが母がジュエルシードを良くないことに使おうとしているのは察していた。
「──ごめんなさい、答えられません」
フェイトは開きかけていた口を
フェイトの今やっていることは犯罪行為だ。
それに無関係な人間を巻き込むことを、フェイトは容認できなかった。
「やっぱり、私たちだけでどうにかしてみます。お話を聞かせてくれてありがとうございました」
頭を下げてフェイトは音石を送り返そうとバルディッシュに手を伸ばすも、触れることはできなかった。
音石がチリ・ペッパーでバルディッシュをかすめ取ったからだ。
「おいおい、おれはまだ断るなんて一言も言ってないぜ」
「でも……」
「詳しい理由が話せねえってんならそれでも構わねえ。
金さえ出せるんなら別に手伝ってもいいぜ。
スタンドだけなら面が割れても本体まではバレねえからな」
正直なところ、フェイトがジュエルシードを集める理由など音石からしてみればどうでもよかった。
刺激の無い暇な日々に飽きてきていたのと、手伝えば金が貰えるだろうという魂胆。
そしてほんの少しばかりの良心がフェイトを手伝うことを選んだ。
(それに、やばかったらジュエルシードをこいつらから奪って、敵のスタンド使いに寝返ればいいだけだからな)
そして考えていることは結構下衆だった。
そんな音石の考えはよそに、フェイトは時空管理局が地球に来るまでの間、音石にジュエルシード集めを手伝ってもらうことを決心した。
正体を隠して行動できる音石なら、もし管理局にフェイトが捕まることになっても巻き込まれる心配はない。
「よろしくお願いします、えーと……」
「おれの名前は音石明、23歳。まっ! このギターは気にしないでくれ」
「私はフェイト・テスタロッサ。よろしく、アキラ」
「……あたしの名前はアルフだよ。フェイト、本当にいいのかい? コイツ、なんというか微妙に小物臭がするよ」
チリ・ペッパーの能力を応用して、アンプが繋がっていないはずの音石のエレキギターがけたたましい音を鳴らす。
興味深そうにその様子を眺めているフェイトとは対照的に、苦々しい表情で音石をそこと無く馬鹿にするアルフ。
どうやらアルフと音石の相性はあまりよろしくないようだ。
「ならてめーは負け犬くせえってことだな」
「聞き捨てならないねえ」
青筋を浮かべながら睨み合う音石とアルフ。
どうにか鎮めようとフェイトはオロオロしている。
口下手なフェイトではなかなか会話に割り込めず、口喧嘩の内容はだんだんとヒートアップし始めた。
最終的に30分近く言い合っていた音石だが、肝心なことを最後まで忘れていた。
フェイトに見せてもらったスタンド使いを音石は見たことがなかったが、仗助たちの関係者かどうか深く考えずにフェイトに協力することを約束してしまった。
改めて言うが音石の運は低迷期だ。
だが今が最底辺ではない。
もっとも運が悪くなるのはこれからだということに、音石はまだ気がついていない。