不屈の悪魔   作:車道

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目的地はサルディニア! コスタ・ズメラルダ その①

 現在、ブチャラティたちは高度6000m上空を飛ぶ飛行機の中にいた。

 SPW財団が用意していたのは、黄色い外装が特徴的な全長20mほどの大きさの本来なら放水作業に使われるカナダ産の『スーパースクーパー(ボンバルディア CL-415)』という大型水上飛行機だった。

 

 飛行機を操縦できる者がいないという問題も、多種多様な乗り物の免許を持つ()()()()()()()()()が『紙』に入って同行していたため解決した。

 

 なのははSPW財団のエージェントが付いてくるとしか聞かされていなかったため、無表情を崩して驚きながら視線を揺らしていた。

 

「わたしはついてくるなって言ったはずだよ」

「この状況に対応できる一番の適任者が俺だったんだ。本当は一緒に戦いたいが足手まといにはなりたくない。

 なのはたちを送り届けたら、すぐに国外に脱出するつもりだ。だから、これぐらいはさせてくれ」

「おい、オレの分からねえ言葉で会話するんじゃあねえ。もし中央イタリア以外に向かってたら、ただじゃおかねえからな」

 

 コックピットに座って操縦桿を握っている男──高町士郎になのはが日本語で抗議していた。

 映画やテレビで見ただけとはいえ飛行機に関して少しは知識があるということで隣の座席で監視しているアバッキオは、日本語が分からないので密談しているのかと怪しんでいる。

 

 現在、この飛行機はイタリア国内のどこにでも行けるように中央イタリアを目指して飛行している。

 この飛行機はジェット機ではなく両翼に取り付けられた2機のプロペラで飛んでいるため、巡航速度は時速300km程度とあまり速くない。

 

 アバッキオは方角や計器の動きと地図を見比べながら、妙な場所に向かっていないか見張っている。

 非常用にパラシュートなども用意されていたが、完全には信用できないため警戒は怠らないようにアバッキオが自分から申し出て監視しているのだ。

 

「さきほど確認したとおり、俺はスタンド使いではない。君たちと戦う手段なんてないのだから、無謀なことはしないつもりだ」

「そのわりには度胸がありすぎんだよ。スタンド使いを知っていて、こうして平然といられる時点でおかしいってのに……ジャポネーゼ(日本人)はこんなヤツばかりなのか……?」

 

 実際には士郎はスタンド使いと戦えなくはない。

 この至近距離なら思考速度と身体能力を跳ね上げる『神速』という奥義を使えば、士郎の動きはムーディー・ブルースを軽く上回る。

 

 しかし近距離パワー型のスタンド相手となると、御神の剣士といえども分が悪い。

 スタープラチナのような例外を除けば士郎の太刀筋を見切って受け止めるのは非常に難しい。

 だが、それは士郎も同じである。スタンドは目に見えないため、力押しで無理やり突破されてしまう可能性が高いのだ。

 

 アバッキオの日本人のイメージが歪められていく最中、ブチャラティたちは機体後方に左右に1脚ずつ設置された4人がけのベンチシートに腰掛けて話し合っている。

 

 本来は山火事や船上火災を消火するために使われる機体なので、水を溜めるタンクなどにスペースが割かれていて居住性は考慮されていないのだ。

 

 ナランチャとミスタは亀の中でトリッシュが目をさますのを待ちながら、承太郎が『紙』で持ち込んでいたイタリア料理を食べている。

 これらの料理はトニオが用意したものだ。さすがにパール・ジャムまでは入っていないが、非常時の食事として3日分ほど用意してもらっていたのだ。

 

 向かい合って座っている承太郎はジョルノに事情の説明を行っていた。

 DIOとジョースター家の一世紀以上にわたる因縁のあらましを聞かされたジョルノは、少しばかり落胆したかのような反応を示した。

 

 DIOの首から下はジョナサン・ジョースターという男のもので血縁上は承太郎の親戚にあたると言われたときは、真剣な眼差しを向けながら話を聞いていた。

 

 だが今まで顔と名前ぐらいしか知らなかった父親の経歴と性格が判明してからは、感情を見せないように(つと)めていたがDIOが邪悪な男だと知って衝撃を受けていた。

 

 承太郎がDIOを殺したこと自体は気にしていなかったが、大人びていて冷静で理知的なジョルノも、まだ15歳の少年である。

 一度も会ったことのない父親の写真を持ち歩いていたぐらいには思い入れがあった。

 

「ああ、待ってください。詳しい説明はもういいです。

 ぼくの知らなかった過去を教えてくれるのはありがたいのですが……正直、今の状況には何の関係もない()()()()()に時間を割けない。

 ジョータローがぼくの父親を殺したことについては、気に病む必要はありません」

「……きみがそう言うのなら、話の続きはすべてが終わってからにするとしよう」

 

 承太郎は、少しだけ表情を変えたもののすぐさま表情を取り(つくろ)ったジョルノの性格を測りかねていた。

 あまり表情を変えないジョルノは何を考えているのか分かりにくい。

 

 康一はジョルノを手癖は悪いが悪人ではない『さわやかなヤツ』だと報告している。

 ジョルノは生活のために置き引きなどの犯罪行為に手を染めていたが、過剰に金品を盗んだりはしていない。

 

 承太郎も自分の考えを貫くために不良のレッテルを張られていた過去があるため、普段の行いと正しい心を持つかどうかは別の問題だと思っている。

 

 承太郎はジョルノがDIOのような世界に混乱をもたらす野望を持っているか見極めようとしている。

 もしジョルノがDIOの悪い部分を受け継いだ吐き気をもよおす邪悪だった場合は、矢を強奪して始末するつもりでいるのだ。

 

「あんたらはボスの『正体』について何か情報を掴んでいないか? 

 過去にボスが訪れたであろう場所さえ知れれば、アバッキオのスタンド能力で素顔と指紋を調べることができる」

「残念だが、おれたちが把握しているのはパッショーネのボスが『ソリッド・ナーゾ』という偽名を使っていたところまでだ。

 スタンド能力は予知の関係で把握していたが、それ以外はサッパリだな。今からヴェネツィアに戻って、納骨堂を調べてみてもいいが……」

「ボスがアバッキオのスタンド能力を把握していないとは思えない。

 きっと、何らかの対策をとっているでしょう。調べるのなら、確実に素顔を見せている場所でなければならない。

 ボスはトリッシュを消そうとしていた。彼女は、きっと()()()()()()()()()()()()を知っているはずだ」

 

 ブチャラティの提案に承太郎は首を横に振って答える。納骨堂に戻るという案も下策だとジョルノが否定する。

 今から納骨堂にとんぼ返りしても、パッショーネの手の者によって監視されている可能性が高い。

 

 そもそも病的なまでに過去を隠蔽するディアボロが証拠を残している可能性は低い。

 ディアボロの正体を見つけるための手がかりはトリッシュが握っているとジョルノは考えた。

 

 アバッキオのスタンド──ムーディー・ブルースは過去のその場所にいた人物やスタンドに変身して、対象の行動をビデオのようにリプレイ(再生)できる能力を持つ。

 

 本来なら情報分析チームに配属されるべき能力だが、ムーロロが悪用して自分の正体を探る可能性を考えて、ディアボロはアバッキオを移籍させずに放置していた。

 

 当然、ディアボロもムーディー・ブルースについては把握している。

 あの場にいたディアボロは髪型を変え顔を隠すために変装もしていた。

 指紋を残さないように手袋もしていたので、仮にリプレイをしていても体格ぐらいしか把握できなかっただろう。

 

 そもそもディアボロの素顔を知ったとしても、普段は気弱な少年──ヴィネガー・ドッピオの人格と姿で過ごしているため見つけるのは至難の業だ。

 

 承太郎たちはディアボロとドッピオが同じ肉体を共有している事実を知っているが、ポルナレフとブチャラティたちが連絡をとった方法がわからない以上、よほど切羽詰まらない限り情報を開示するつもりはない。

 

「……なあ、ブチャラティ。やっぱり……トリッシュには何も知らせないまま、亡命させたほうがいいと思うんだ。

 目を覚まして実の父親に殺されそうになったと知ったら、きっとものすごいショックを受ける」

 

 亀の中からブチャラティたちの会話を聞いていたナランチャが、食事を終えたのか外に出て自分の考えを述べた。

 合理的ではない感情的な判断だったがトリッシュへの思いやりが感じられる一言だった。

 

 ジョルノの提案はトリッシュの感情を度外視したものだ。

 トリッシュが繊細な心を持った少女なら、確実にショックを受けるだろうとナランチャが思うのもおかしくはない。

 

「トリッシュは父親に裏切られたんだぜ。ブチャラティ! 

 お願いだよ。ボスの正体だとか、そういった話は隠しておいてやってくれよ」

「その必要はないわ、ナランチャ。もうすでに……理解しているもの。さっきから……」

 

 いつの間にか目を覚ましていたトリッシュが、亀の中から身を乗り出してナランチャに声を掛ける。

 切り落とされた左腕を止めているジッパーを見つめているトリッシュの眼差しは、覚悟を決めた者のそれだった。

 

 トリッシュは承太郎の口から出た『ソリッド・ナーゾ』という名前を聞いて思い出した。

 今から4ヶ月ほど前──正月に合わせてドナテラの見舞いに行っていたトリッシュは昔話を聞かされていたのだ。

 

 

 

 サルディニア島に旅行に来ていたドナテラが、カエルを守って車に()かれそうになったソリッドと出会ったところから昔話は始まった。

 ラブロマンスと言うには日常的すぎる内容だったが、ドナテラにとっては忘れられない日々だった。

 少女のような笑みを浮かべながら楽しげに語っていたのをトリッシュはよく覚えている。

 

 感情を読むのがうまかったドナテラは、ソリッドという名前が偽名だとすぐに感づいたが最後まで指摘しなかった。

 偽名を名乗っている理由──愛した相手に本名を知られて嫌われたくないというディアボロの気持ちを察してしまったからだ。

 

 どんな名前だろうとドナテラはソリッドを嫌いはしなかったが、彼は言葉だけで納得できるほど他者を信頼できる性格ではなかった。

 それでも徐々に態度が軟化していたので、いつかは自分から名前を教えてくれるだろうとドナテラは待っていたのだ。

 

 結局、ドナテラはソリッドから本名を聞き出せなかった。

 彼はドナテラを安全な位置に逃がすと、『すぐに戻ってくる』と言い残して『写真』も『本名』も何も残さずに村ごと全てを焼き払ってしまったのだ。

 

 神父が地下に生きたまま埋められていたディアボロの母親の存在に気が付かなければ、彼は悪魔(ディアボロ)にならず平凡な一人の青年として船乗りになって生きていたのか。それは誰にもわからない。

 

 

 

「なぜオレたちに教える!? オレたちはきみの父親を殺すかもしれないッ! いや! 倒そうと決意しているんだぞ」

「倒すとか倒さないとかは、あたしにとっては別問題だわ! あたしはどうしても知りたい! 自分が何者から生まれたのかを! 

 それを知らずに殺されるなんて、まっぴらゴメンだわッ!」

 

 トリッシュの語ったディアボロの過去は正体を探るための助けになるだろう。

 ブチャラティがトリッシュの覚悟を試すために、情報を明かした理由を問いかける。

 

 汗一つ流さず、トリッシュは父親の過去を知りたいと言い返す。

 何も知らないのに命を狙われる理不尽にトリッシュは耐えられなかった。

 父親として興味があるのではない。どうして命を狙うのか、その理由を知りたいのだ。

 

「きみの覚悟は分かった。その上で提案がある。

 トリッシュ、きみには2つの道がある。このままオレたちについて行って父親の謎を探るか、SPW財団のエージェントと共にアメリカに亡命するか。選ぶのは2つに1つだ」

「……あたしは自分の目で真実を知りたい。何も知らずに逃げるだけの弱者のまま、目をそらしているのは嫌なのよッ! 

 だから……あたしはブチャラティたちについて行くわ」

 

 逃げずについて行くと啖呵(たんか)を切ったトリッシュの姿をコックピットと座席の間の通路から、なのはが静かに眺めている。その心境は複雑だった。

 

 ドナテラにトリッシュを守ると約束している以上、連れ歩くのはリスクが上がるだけだ。

 だが、トリッシュの感情を無視して無理やり逃がすのも正しいとは思えない。

 てっきり逃げる手段が無いのでコロッセオまで同行していたとなのはは思っていただけに、トリッシュの今回の選択は想定外だった。

 

 目的地がサルディニアに決まって話は一段落ついた。承太郎が士郎に話を通すために立ち上がってコックピットへ向かう。

 その途中で難しい顔をしているなのはに近寄って日本語で話しかけた。

 

「どうやら彼女の心は、なのはが思っているよりも強く(しな)やかだったようだな。それより……もう少しうまく演技はできないのか?」

「……わたしとしては、うまくやっているつもりなんだけどな」

「威圧感を出すのなら全員に対してやれと言っている。露骨(ろこつ)にジョルノ・ジョバァーナだけ避けているせいで、あからさまに怪しまれてるぞ」

 

 ブチャラティチームのメンバーの中では、もっともとっつきやすい外見をしているのがジョルノだ。

 その次にブチャラティが続くが、他の連中は正直チンピラにしか見えない。

 

 胸ぐらを掴まれたアバッキオにすら真っ向から向き合えるのにジョルノとだけ視線を合わせようとしないなど、言外(げんがい)に何かあると教えているようなものだ。

 

「こうなると思って、おれは無害な子供のフリをして接触しようと提案したんだが……せめてポルナレフの潜伏場所が発覚するまでは、どうにか正体を隠し通してくれ」

「戦闘になったとしても、ブチャラティの前でスタンドを出すのだけは避けるつもりだ。

 時飛ばしもなるべくは使わないつもりだが……危なくなったら出し惜しみはしないぞ」

「ここから先はどうなるか読めないからな。もう少し信用されれば、親衛隊のスタンド能力を予知ということにして伝える予定なんだ。

 無理して親しくなれとまでは言わないが、もう少ししっかりしてくれ」

 

 承太郎の忠告にゆっくりと頷いたなのはだったが、ジョルノと顔を合わせて話をできる自信はなかった。

 そもそも過去(ディアボロ)を乗り越え恐怖(トラウマ)に打ち勝つためになのははこの場にいる。

 

 恐怖に打ち勝つ前に、一足先にトラウマの元凶と直接対峙するなどという状況自体が間違っているのだと、なのはは内心で言い訳している。

 

 コソコソと内緒話をしていては怪しまれるだけだと会話を打ち切って、なのははベンチシートに座る。

 ブチャラティとジョルノが食事するために亀の中に入るのを待っていたようだ。

 

「おーい、アバッキオは飯、食わねーの?」

「そうだな……何か軽くつまめる物があれば持ってきてくれ」

 

 アバッキオは監視の目を緩めたくないようで、その場で食べられる物をナランチャに要求した。

 承太郎から貸し出されている食料品をまとめているファイルをめくり、ナランチャはパニーニ(サンドイッチ)と書かれた『紙』を引き抜いてコックピットに持っていった。

 

「オメーらは食わなくていいのか?」

「……今は食事をしたい気分じゃない」

「前日から、ろくに食事をとれていないおまえたちと違って、おれらは前日も夕食は食べているからな。サルディニアについてからで構わない」

 

 目的地を伝えて帰ってきた承太郎とベンチシートの隅で座って目を閉じているなのはに、拳銃の手入れをしながらミスタが軽い口調で尋ねる。

 そっけなく断ったなのはの言葉を承太郎が補足する。なのはの態度に気分を悪くすることもなく、ミスタは拳銃の整備を続けている。

 

 過剰に警戒しているアバッキオとは真逆で、ミスタはあまり承太郎たちを警戒していない。

 承太郎は飛行機に乗り込んだ直後に、スタープラチナの時間を止める能力をブチャラティたちに伝えてあった。

 

 時間停止などという単純に強力な能力を警戒しても無意味だと悟ったミスタは、誰よりも早く警戒を解き普段どおりに接することにしたのだ。

 入念に下準備しているのは見て取れるので、少なくともボスを倒すまでは敵対しないだろうという楽観的な考えもあった。

 ボスを倒したあとどうするかは、そのときに決めればいいだろうと気楽に考えている。

 

 親衛隊に襲撃されることもなく、飛行機は順調にサルディニア島へ進んでいる。

 親衛隊の内、スクアーロとティッツァーノ、カルネの三人はやり過ごすことができた。

 ディアボロも自身の過去に繋がる何かがある可能性の高いサルディニアに親衛隊を送ったりはしないだろう。

 

 島ごと滅ぼすためにカルネを送り込む可能性はあるが、殺さなければいいだけの話だ。

 順調にいけば、自らの手でサルディニアまで自分たちを始末しに来たディアボロを返り討ちにできるかもしれないと、頭の中でなのはは算段をつけていた。

 

 

 

 ブチャラティ、ジョルノ、トリッシュの三人は亀の中で食事をしながら、承太郎となのはが()()()()信用できるのか話し合っている。

 信用しないという選択肢は、早い段階で排除されていた。

 

 承太郎の時間を止める能力となのはの未来を予知する能力を組み合わせて使えば、ブチャラティたち全員を二人だけで再起不能にすることもできていたはずだ。

 それをしなかったということは、ブチャラティたちに()()()()()()を見出しているということだ。

 

「トリッシュの救出は表向きの理由で、本命はボスの排除だとオレは考えている。

 ボスは麻薬に手を出して手広くやりすぎた。相応の恨みを買っているはずだ。

 ボスの存在を危険視して、SPW財団が重い腰を上げたんじゃあないか?」

「予知でこちらの行動を予測していたのなら、ブチャラティが組織を裏切る前に接触することも可能だった。

 後々(のちのち)のことを考えて、パッショーネの構成員を味方につけるためにタイミングを見計らっていたというのは、ありえる話ですね」

 

 ブチャラティの意見にジョルノが同意する。承太郎たちが現れたタイミングは色々と都合が良すぎるのだ。

 客観的に考えたらブチャラティが組織を裏切ると知っていて隠れていたとしか思えない。

 トリッシュを救出するだけなら、時間を止められる承太郎がいるならいつでも実行できるのだ。

 

 もっとも、裏があるかないか分からない真っ白な人間よりは、明確な理由があると分かる人間のほうが信用はできる。

 そういう意味では、裏社会でも立ち位置がハッキリしている承太郎は信用できる相手だと言える。

 

「……いま思い出したのだけど。あたし、ナノハを写真で見たことがあるわ。

 病室であたしの母と一緒に映っている写真が日記に挟まっていたのよ」

「それはいつ頃の写真か分かりますか?」

「日付は去年の8月だったわ。裏に『新しい友人との再会』とだけ書かれていたのは覚えてる。

 あと、もしものときはナノハを頼れって言っていたけど……名前しか教えてくれなかったから、こんな小さな女の子だとは思わなかったのよね」

 

 トリッシュ自身はなのはと面識はない。『母親の友人(ティオレ)』の『友人の娘(なのは)』など他人なので面識がなくて当然なのだが、ドナテラと知り合いだったという事実は余計に状況を複雑にしてしまった。

 

 ジョルノは面識がないにもかかわらず、異様に自分のことを避けているなのはの考えが読めなかった。

 

「なぜかナノハは、ぼくのことを最初から避けている。

 ぼくの父と彼女の間に何か因縁があって、その関係で苦手意識を持たれている、というわけでもなさそうですし……」

「苦手というよりは、恐れているように見えたな。

 ジョータローが同行を許しているということは、ヴィジョンを見せていないだけでスタンドで自分の身ぐらいは守れるのだろうが……トリッシュ、きみさえ良ければ、彼女の考えをそれとなく探ってみてくれないか」

「二人とも警戒しすぎだと思うけど……あたしには普通の女の子にしか見えないわよ? 

 まあ、ブチャラティがそこまで言うなら、世間話がてら話すぐらいは構わないけど……」

 

 半信半疑ながらも、トリッシュはブチャラティの言うことに従った。

 腹の(うち)で何を考えているか分からないなのはのことを、トリッシュはあまり怪しんでいない。

 

 トリッシュは、なのはの子供らしからぬ姿を一度も見ていないというのもあるが、理由はそれだけではない。

 その理由をトリッシュが自覚するのはもう少し後、サルディニア島に上陸してからになるだろう。




誤字脱字、表記のぶれ、おかしな日本語、展開の矛盾を指摘していただける国語の先生をお待ちしております。

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