まんまと逃走を許してしまったなのはだが、先ほどの電気のスタンドに聞き覚えがあったことを思い出し、すぐさま仗助に連絡した。
なのはが仗助たちと出会ったのは、かつて杜王町に隠れ住んでいた連続殺人犯──
なのはの連絡を聞いた仗助は大慌てで音石の自宅に向かったが、そこはもぬけの殻で音石の行方を見つけることはできなかった。
近隣住人に聴きこみをしたところ、ここ一週間は家に戻ってきていないという事実が明らかになった。
『音石の野郎、なに考えてやがるんだ。ジュエルシードが危険物だってこと、わかってんのかよ』
「十中八九、わかってないだろうね。念の為に仗助もこっちに来てくれないかな」
『今からそっちに行けだァ? 仮にも承太郎さんと渡り合ったてめーが負けるとは思えねえッスよ』
杜王町からなのはたちが泊まっている温泉宿まで、バイクで軽く二時間はかかる。
敵が攻めてくる可能性が高いとはいえ、仗助には呼び出す理由が見えてこなかった。
「なに勘違いしてるの」
『あ?』
声のトーンが多少下がった程度だが、その言葉に込められた意思に電話越しだというのに仗助は背筋が寒くなった。
「勢い余って殺しちゃったら話が聞けないからね。念の為っていうのはそういうことだよ」
『てめー……かなりプッツン来てるようだな』
なのははそろそろ我慢の限界だった。
どう考えても舐められているとしか思えない相手を、油断していたとはいえ取り逃がしてしまったなど、パッショーネなら始末されていてもおかしくない失態だ。
性格が昔と比べたら丸くなったとはいえ、なのはは腑抜けたわけではない。
単純に本気を出す必要はないと敵を見くびっていたのだが、度重なる失態になのはは静かに闘志を露わにしていた。
「来られないなら来られないで別にいいよ。期待して待ってるからじゃあね」
『おい! まだ誰も行くだなんて言って──』
仗助からの返事を待たずに通話を切ったなのはが泊まる予定の大部屋に戻ると、女性陣がユーノを取り合っていた。
最終的に桃子の魔の手にかかったユーノがなのはに念話で助けを求めるが、諦めるように首を横に振って遠巻きにその様子を眺め始めた。
(フェイトとその使い魔、そして音石明。どこかで様子を見ているアンジェロにスタンド能力をあまり晒したくはなかったが、おまえたちはわたしを本気にさせた。その償いは、その身で支払ってもらうぞ)
待機状態のレイジングハートを握りしめたなのはは、夜空に浮かんだ月を視界に入れながら漆黒の意思で心を塗り固めた。
予想通り、ジュエルシードの発動を確認したなのはとユーノは士郎と恭也、美由希、無理やり呼び出された仗助と無理やり着いて来た露伴を連れて発動地点に急行した。
露伴が着いて来た理由は、仗助の宿泊料金を払ってやるから代わりになにが起こっているのか教えろと迫られ、なのはとユーノが仕方がなしに真相を伝えたからだ。
どうしてこんな楽しそうなことを黙っていたんだと憤慨していた露伴だったが、ジュエルシードが発動したことを教えられると、嬉々としてカメラ片手に勝手に着いて来た。
戦闘力はともかくヘブンズ・ドアーを使えば尋問の手間を省いて敵の秘密を知れるため同行こそ許可されたが、後方で見ているようにときつく言い聞かされている。
「レイジングハート、セットアップ」
《Stand by ready. set up.》
「これが魔法か! いやあ、これはいいものを見せてもらった。ビデオカメラも持って来るべきだったなぁ」
「あんたはなんつーかブレないっスね」
なのはの変身を生で見た露伴の言葉に卑しい気持ちは一切含まれていないが、口にしている内容は何とも怪しいものだ。
魔法を見て驚きもしない露伴に仗助は思わず呆れてしまった。
それでもめげずに高そうなデジタル一眼レフカメラで写真を撮りまくっている露伴をよそに、なのはたちはジュエルシードが発動したであろう池にかけられた橋へと辿り着いた。
そこには案の定、フェイトとアルフ、そしてチリ・ペッパーの姿があった。
フェイトとアルフは想像以上の大人数が現れたことに、音石は仗助がいることに驚いた。
「じょ、じょじょ、仗助がなんでこんなところにいるんだッ!?」
「それはこっちの台詞だぜ。スタンドを使って悪さはしないって約束、よくも無視してくれやがったな」
「……こうなっちまった以上、てめーら全員まとめてぶっ潰してやる!」
管理外世界では一銭の価値にもならないジュエルシードを集めるのは悪さではないが、本来の持ち主がいるのであれば話は変わってくる。
仗助の脅しに耐え切れなくなって頭に血が上った音石の言葉とともに、戦いの幕が切って落とされた。
「あたしも本気でやらせてもらうよ」
橋の欄干に腰掛けていたアルフの姿が変貌し始めた。
狼のような鋭い牙が生えそろい、髪の毛と同じオレンジ色の体毛が伸び本来の姿へと戻ったアルフの咆哮に大気が震える。
「やっぱり……あいつ、あの子の使い魔だ!」
「そうさ、あたしはこの子に作ってもらった魔法生命。製作者の魔力で生きる代わり、命と力の全てをかけて守ってあげるんだ。頭数は揃えてきたようだけど、魔導師でもないヤツらがあたしに勝てると本当に思ってるのかい!」
目にも留まらぬ速さで迫ってくるアルフの爪と刀が交わり、凄まじい金属音が鳴り響く。
ユーノが防御魔法を使う間もなく、一瞬で間合いを詰めた二人の剣士がアルフの攻撃を受け止めたのだ。
「おまえの言うとおり、俺たちは魔導師でなければスタンド使いでもない」
「だけど御神流をあまり舐めないでほしいわね!」
恭也と美由希がそれぞれの前足の爪を峰打ちでなぎ払った。
弾き飛ばされたアルフはあり得ないものを見るような目で二人を見ていた。
今のアルフの動きは紛れも無く獣のもので、魔法で身体強化もされていない人間が反応できるようなものではなかった。
しかし御神の剣士は、銃口の向きではなく銃弾を見て躱すことができる超人じみた身体能力を持っている。
生半可な吸血鬼なら、一瞬で細切れにできるほどの強さを持っているのだ。
「ではユーノ君、手筈通りに分断するとしようか」
「わかりました、士郎さん。なのはも気をつけて!」
士郎の合図に従ってユーノが準備していた転移魔法を発動させる。
敵が二人組だと把握していたなのはたちは、事前にどう戦うか作戦を練っていた。
逃げ出そうとするアルフの体を、ワイヤーのようなものが縛り付ける。
御神の剣士たちの手に握られた
魔法で強化された獣の力に長時間耐えれるようなシロモノではないが、容易に千切れるようなものでもない。
数秒の後に転移魔法に飲まれたアルフとユーノたち。
その場に残されたのは、なのはと仗助、そして露伴の三人のみだ。
もとよりフェイトとやり合うのは、なのはだけの予定だった。
「……一応、聞いておくけど話し合うつもりはある?」
「私はロストロギアの欠片、ジュエルシードを集めないといけない。そしてあなたも同じ目的なら、私たちはジュエルシードを賭けて戦う敵同士ってことになる」
「あのときみたいに優しく済ませる気はない。理由を話して降参するなら、再起不能にはしないであげる」
それはなのはにとって最大限の譲歩だった。
問答無用で叩きのめして露伴に突き出せば、なにが目的なのかははっきりするにもかかわらず、こうして話だけで済まそうとしているのは、前回の遭遇時の別れの言葉が気になっているからだ。
「話しあうだけじゃ、言葉だけじゃきっとなにも変わらない、伝わらない。アキラ、行くよ」
「仗助、おめーはとりあえず後回しだ」
電気に変換された魔力を体に纏わせたフェイトにチリ・ペッパーが同化して、飛行魔法でなのはの後ろに回り込む。
チリ・ペッパーは電源からあまり離れられないスタンドだが、フェイトの魔力を電源として行動することで以前とは比べ物にならないほどの行動範囲を実現させた。
振りかぶられたバルディッシュの矛先をレイジングハートの魔力刃で受け止める。
それに合わせて繰り出されるチリ・ペッパーの拳はキング・クリムゾンが防いだ。
本体とスタンドが全く異なる動きで戦うのは、かなり難しい技術だ。
それを可能にしたのが空戦魔導士の基本技能の一つ、マルチタスクである。
現在のなのはは完全に二つの思考を独立させて走らせることができる。
それを利用して、片方の思考を完全にスタンドを動かすことに割り振ったのだ。
《Flier Fin.》
上空から一方的に的になるのを避けるため、飛行魔法を使って空に飛び上がる。
追従するように追いかけてくるフェイトがなのはに語りかけた。
「賭けて、それぞれのジュエルシードを一つずつ」
《Photon Lancer. get set.》
使い慣れた射撃魔法を待機状態で構えながら持ちかけてきた提案に、なのはは笑いが漏れそうになった。
(この期に及んであくまで賭けろと言うのか。わたしを倒して全て奪い去ろうとしないとは、おかしな話だ)
一度は敗走したにもかかわらず、まだ相手を気遣っているフェイトの気持ちを、なのははわずかだが察していた。
だからといってスイッチの入ってしまったなのはの戦意がなくなるわけではない。
「生憎だけどそれは約束できないよ。あなたのほうから、全部渡したくなるだろうからね!」
《Divine Shooter.》
日々練習して練度を上げているなのはのディバインシューターにより生み出された五発の桜色の光球が、不規則な動きでフェイトの体に肉薄する。
防御魔法は間に合わないと判断したフェイトが、フォトンランサーを射出して弾丸を撃ち落とす。
降り注ぐ金色の槍に次々とかき消されるが、嵐を抜けたディバインシューターの残りの一発がついにフェイトの体を捉えた。
しかし実体を現したチリ・ペッパーに弾き飛ばされ攻撃は届かなかった。
更に高度をあげたフェイトは、足を止めて砲撃魔法の準備を始めた。
《Thunder Smasher.》
電撃を伴った砲撃がなのはの体を包み込もうと迫り来る。
しかし、行動はすでになのはに予知されていた。
「キング・クリムゾンッ!」
真紅の宮殿が世界を覆い全てを飲み込む。
「宮殿が解除されると同時に、おまえの右腕を切り飛ばさせてもらう──なにッ!?」
なのはが後ろに回り込もうとしたそのとき、フェイトの体が電気に変わりサンダースマッシャーに吸い込まれていった。
急いで宮殿を解除するも、すでにフェイトは砲撃の着弾点に移動し終えていた。
「やはりてめーのスタンド能力は、時間の進みを操る能力だったようだな!」
なのはの軽く倍はあろう飛行速度で迫ってきたフェイトとチリ・ペッパーが、すぐさま近接戦闘に切り替えて襲いかかってきた。
チリ・ペッパーの攻撃は軽くいなせるが、接近戦の練度が高いフェイトと素人のなのはでは、真っ向から斬り合うと勝負にならない。
時を吹き飛ばすにはある程度の間を置く必要があり、連続で使うことはできない。
その時間を稼ぐためなのははプロテクションを展開して、フェイトの斬撃を弾き飛ばした。
「……たしかにわたしのスタンド能力は時を吹き飛ばす。だが、理解したところで意味はない。我がキング・クリムゾンの前では、何者だろうとその『動き』は無意味となる!」
「おれたちの動きに騙されてるくせによく言うぜ。フェイト、一度距離を取らねえとまた能力を使われるぞ!」
音石の助言に頷いたフェイトが、なのはとは反対方向に向けてフォトンランサーを一発だけ放った。
狙いを察したなのはが止めようと動くも、普段のフェイトの数倍の速度で移動する光弾に追いつく手段はなかった。
再び時を吹き飛ばせるようになる頃には、フォトンランサーと同化して距離をとったフェイトは、宮殿の範囲外で魔法を放つ準備を始めていた。
キング・クリムゾンが時を吹き飛ばせる範囲は限られている。
本人を中心としておおよそ数百メートル程度だ。
承太郎のスタープラチナのように全世界の時を止めるような真似は、スタンドパワーと持続力の兼ね合いから不可能なのだ。
「これだけ離れりゃ、さすがに射程距離外だろ。今のうちにファランクスシフトで撃ち抜いちまえ。あいつは映像では必ず攻撃を避けようとしていた。避ける隙間もない攻撃をあいつが防ぐ手立てなんてないはずだ」
「少し卑怯かもしれないけど、ごめんなさい」
魔導師の使う魔法の中は、魔法名をキーワードに発動するものがほとんどだが、大規模な魔法を使うには長い詠唱が必要な場合がある。
フェイトのフォトンランサー・ファランクスシフトも詠唱が必要な魔法だ。
38基のフォトンスフィアを設置して、毎秒7発のペースで4秒間フォトンランサーを発射し続ける一点集中型の高速連射魔法は、正しく射撃魔法の台風と言えるだろう。
避ける隙間なく打ち出される無数の光弾は、防御魔法で防ぐ以外の手立てが存在しないが、チリ・ペッパーが合わさることで効果は更に増大する。
弾丸から弾丸へとチリ・ペッパーが移動することで、全方位からの攻撃が可能となるのだ。
時が吹き飛ばされると予想しているため意味はないが、ダメ押しというやつだ。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ」
詠唱が始まると同時に、フェイトの足元に十メートルを超える大きさの巨大な魔法陣が形成された。
そして周囲に38基のフォトンスフィアが生成され、フェイトのリンカーコアから魔力を吸い上げる。
近寄るのを諦めたのか、なのはもその場で収束砲撃の準備を始めたが、ファランクスシフトの詠唱よりも早く魔力を収束できるはずがない。
初心者が判断を間違えたのかと思ったフェイトは、そのまま詠唱を続行した。
「バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト。撃ち砕け、ファイアー!」
その合図が引き金となり、秒間260発のフォトンランサーとともにチリ・ペッパーがなのはに襲いかかる。
一発一発は大したことのない威力だが、防御魔法も使っていない相手が耐えきれるはずがない。
しかし予想はたやすく覆される。フェイトと音石はなのはのキング・クリムゾンを軽く見すぎていたのだ。
「宮殿内のわたしの動きが映像に残ることを把握していないと思ったのか?」
《見事にあの二人は、マスターが攻撃を避けなくてはならないと勘違いしてましたね》
時を吹き飛ばしながらなのはが口を開く。
裏で収束魔法の演算をしながらレイジングハートが軽口を叩いた。
宮殿の内部ではなのはは何者の攻撃も受け付けない。
干渉できるのは重力と大気、そして光だけだ。
それなのに、あえて魔法を避けていたのは、能力を相手に誤認させるためだ。
宮殿内の動きを生き物は捉えることができないが無機物は正常に動作し続ける。
戦っている姿をビデオカメラで記録されると、宮殿内でなにをやったのか見られてしまうのだ。
それが弱点に繋がるとは思っていないが、念には念を入れて回避できる攻撃は必ず避けるように、なのはは心がけている。
今回はそれが功を奏することとなった。
「スパークエンドッ!」
攻撃が当たらないことに焦ったフェイトが、魔力の残ったフォトンスフィアを集めて、一本の巨大な弾丸を作り出した。
矛先の無い巨大な槍のような姿をした弾丸をオーバースローで投擲するも、なのはの体は貫けない。
そのまま直線に飛んでいき、山の斜面に生い茂っている木々を吹き飛ばすだけだった。
帰還用に打ち出された誘導制御弾に入ったチリ・ペッパーがフェイトの側に帰って行くのを見届けたなのはは、カノンモードに変形しているレイジングハートのトリガーに指をかけた。
「これがわたしの全力全開……食らってくたばれ! スターライトブレイカーッ!」
《Starlight Breaker.》
周囲に漂っている魔力素と飛散したフェイトの魔力を取り込んだ桃色の閃光が、勢いを増しながらフェイトに迫る。
ディバインバスターの比にならない量の魔力が込められた一撃をどうにか防ごうと、フェイトは大慌てで残った魔力を防御に回した。
複数枚の障壁を展開するマルチディフェンサーを使って、どうにか砲撃を防ごうと魔力を注ぎこむも、徐々に押され始めシールドが一枚ずつ破れていく。
拮抗していたのは一瞬で、多量の魔力を余していたなのはの放ったスターライトブレイカーを前に、フェイトの防御魔法は脆くも崩れ去った。
はじけ飛んだ砲撃の一部が周辺環境を破壊しながら降り注ぐ。
ビルを倒壊させるような威力ではないが、無数の弾痕が木々を根本から吹き飛ばしている。
「くっ……」
見るも無残な姿を晒しているが、フェイトは意識を保っていた。
チリ・ペッパーも半壊して錆色になっているが死ぬほどのダメージは受けていない。
スタンドは干渉する気がないなら魔法でダメージをうけることはないが、チリ・ペッパーは魔力を含む電気を取り込んでいる。
その電力が軒並みスターライトブレイカーで吹き飛ばされたため、ほとんど電力切れに近い状態に陥っている。
「む、無理だ、勝ち目がねえよ。諦めて降参しようぜ」
「私はジュエルシードを持って帰らないと駄目なんだ」
電力がすっかり消え失せ錆色に変色してしまったチリ・ペッパーは、すでに戦う気をなくしていた。
フェイトもどこからどう見ても限界そのものだった。
空を飛んでいるのでやっとの状態で、とても攻撃に魔力を回す余裕は残されていない。
「どうして持って帰らないと駄目なのかな」
肉声が届くほどの距離まで近寄ったなのはが、魔力刃をフェイトに突きつけながら話しかける。
口調こそ優しいが、答えなければ有無をいわさず魔力刃がフェイトを突き刺すだろう。
しばらく俯いた後、フェイトは口を開いた。
「母さんがジュエルシードを欲しがってるから……詳しい理由までは私も知りません」
「……わかった。使い魔はユーノが捕縛してる。あなたが降参してくれるなら悪いようにはしないよ」
「本当、ですか……?」
「わたし以外は善人ばかりだからね。管理局に突き出すかどうかは、話を聞いたあとになるかな」
フェイトはどうするべきか分からなくなってしまっていた。
大切な家族のアルフが人質になっているが、ここで降参したら母親を裏切ることになる。
どちらの選択も選ぶことのできないため、答えを出せなくなってしまった。
「とりあえず地上に降りて話そうか。空を飛びっぱなしってのも辛いでしょ?」
魔力刃を解除してなのはがフェイトの横に並んだ。
妙な動きをしたらキング・クリムゾンで攻撃する準備はできているため、無防備というわけではない。
「……はい」
かなり悩んだ後にフェイトは頷いた。
そして徐々に高度を下げて仗助と露伴が立っている場所に降りている最中に、エピタフが未来を予知した。
予知を見たなのはは、焦った表情を浮かべつつ上空に向けて防御魔法を展開する。
残った魔力をすべて注ぎ込まれたラウンドシールドが発動した数秒後、上空の空間が歪み紫色の雷が飛来した。
シールド越しに伝わってくる電気に苦痛を感じながら、攻撃が終わるまで耐えしのぐために魔力を込める。
しかし雷の威力は増していくばかりで、弱まる気配は一向に来ない。
「か、母さん!?」
フェイトの叫びになのはが顔をしかめた。
この攻撃はフェイトを守るために撃たれたものではない。
なのはや地上にいる仗助と露伴を、フェイトを囮にして巻き込むために放たれた一撃だ。
娘を平然と攻撃する母親に、なのはは怒りをあらわにしていた。
「っ!」
シールドに亀裂が走る。魔力で補強するが壊れる速度に補強が追いつかない。
膠着状態が続くも着実になのはは押されていた。
「ここはオレが一肌脱ぐっきゃねえな。感謝しろよな」
フェイトの肩に乗っていたチリ・ペッパーが唐突に呟いた。
今まで注意を逸らしていたなのはが目だけ動かして様子を見ると、チリ・ペッパーは戦い始めたときの輝き以上の光を放ちながら、シールドを乗り越えて紫電を吸収し始めた。
吸収できる電力量の限界が存在しないチリ・ペッパーは、余すところなく電力を吸収する。
攻撃の全てが電気ではないが威力が軽減された攻撃は、なんとかなのはが防げるレベルまで弱まっていた。
「攻撃が止んだ……?」
なのはの魔力切れまで続くかと思われた電撃は、チリ・ペッパーが介入したことで拮抗状態に持ち込まれ、相手が諦めたのか徐々に攻撃は弱まっていった。
どうにか攻撃を防ぎきったなのはが地上に降りると、ユーノたちが転移してきた。
気絶しているのか人の姿に戻ってぐったりとしているアルフは、美由希に背負われている。
「なのは、ちょっとこっちに来なさい」
両腕を組んで待っていた士郎が真剣な声色でなのはを呼びつけた。
ひとまずフェイトをユーノに預けて士郎のもとに近づくと、なのはの頭に拳骨が落とされた。
「痛っ!?」
「事前に無茶はするかもしれないと聞いていたが、あれはどう見てもやり過ぎだ」
士郎が指差す先には、台風が去った後のような惨状が顔を見せている。
その大半がなのはの魔法によるものだ。
「おれのスタンドでもこれは直しきれないッスね」
至近距離で戦況を見ていた仗助は、初めこそなのはを応援していたが、最終的にフェイトの心配をしてしまっていた。
なのはが何やら桃色の光を集め始めた時から嫌な予感はしていたのだが、まさかこれほどの一撃を放つとは仗助も思ってなかったのだ。
「ご、ごめんなさい」
若干涙目になりながら頭を下げるなのは。
先ほどまでの悪魔のような戦いぶり目の当たりにしていたフェイトは、あまりの態度の違いに目を白黒させている。
「それで、音石よォ。てめー、殴られる覚悟はできてるんだろうな?」
「ゆ、許してくれよ。今回は不可抗力だったんだ」
「こんな子供から金をセシメといてそんな言い訳、通るわけねえだろ!」
いつの間にかちゃっかり混ざっていた音石に仗助が詰め寄る。
チリ・ペッパーの今の電力量なら仗助と戦うのは簡単だが、さすがに承太郎やSPW財団を敵に回したくはないため、素直に降参している。
「仗助君、説教は後回しだ。今はこの子の話を聞くのが先決だな。ユーノ君、すまないが家まで転移できるかい?」
「はい、大丈夫です」
転移の光りに包まれ、ユーノ含む総勢十名は高町家に併設されている道場に転移した。