やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス   作:おーり

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お久しぶりです更新です
番外含めて34話目となります
前に活動報告で述べた通り、そろそろ終わりに向けて纏めて行こうかと思います


八幡の冷徹

 

 

 「あっ、火鉢くぅーん、おっはよぉ~♪」

 「え、お、おう」

 

 

 え、なに、コイツ誰。

 

 姉崎のバイト先の店長とのお話の果てに高校生を深夜枠で働かせていた事実は何故か時給400円アルバイターの責任となって大いなる鷹によく似たルチャ技を件の店長が彼に噛ませてご破算となったり、昼休憩時に三浦&海老名に巻き込まれたバドミントン勝負で1対2の変則マッチの果てに戸塚に仕込まれたテニヌ技を披露したり、と色々なことが過ぎて行った翌週後の月曜日。

 いつものように義妹を八王子へ送り届けて、幼馴染や部下の営む珈琲店にてブレイクタイムを堪能し、無駄に蔓延るIS学園や魔法科校なんかでの情報を、今回はいつもより多めに届けられたために精査に時間がかかり遅刻の(てい)

 スクールアイドル目指すとか、マドカちゃん巻き込まれてんなぁ、としか言いようがねぇのは兎も角として、もし万が一曲を出すような事態へと発展するのであればD!V!D!というかイメージ系のアレらが出るくらいにまでは貢献を推奨しよう。と心に決めるくらいである。無論、推しメンはマドカちゃん一択だ。モッピー?知らない子ですね。

 

 弐限目過ぎに教室に入り突然クラスの女子に声を掛けられたが、アイツは今まで会話もしたことが無かった奴だったはず。

 お蔭で名前も知らん相手に話しかけられたストレスで朝から『かつての俺』がリバイブしてきた。魔法科校で友人を得る前の、特に某生徒会長によって現実の認識を書き換えられる前の、ボッチ至上主義を隠そうともしなかった俺の対応パターンだ。

 尚も話しかけて来そうな雰囲気、特にその背後に控えているっぽい彼女の仲間らの視線がやたらと気持ち悪く、若干引き気味に教室を後にしたくなった。

 

 

 「おうだってぇ、超クールぅ♪」

 「それな」

 「なかなかできることじゃないよな」

 「やっぱバチくんでしょ~! 流石! っパネェな~!」

 

 

 本当に誰だお前ら。

 妙によいしょしてくる見知らぬクラスメイト(意味深)にどう対処していいのかわからず、思わず助けを求めるようにクラスへと視線が彷徨う。

 先に来ていていつものメンバーと談笑していたガハマさんと目が合った。

 気づいて無いような自然な仕草のまま、すいーと逸らされる。

 おい。

 

 

 「……入り口で屯されてると邪魔なんだけど」

 「はぁ? ――って、かわ、さきさん……」

 

 

 背後から響いた声に目の前の女子がメンチを切らすような声を出したかと思ったら、直後に怯えた表情へと変わってゆく。

 うわ、小物くせぇ。

 

 

 「火鉢、ちょっと相談したいことあるんだけどいい?」

 「お、おぅ。じゃあ、」

 

 

 何か言いたげだった、特に最初の女子がだが、そいつらに返事とも取れないような声で別れて川なんとかさんに手を引かれてゆく。

 カバンを持ったまま教室の外へと近づくその様を、若干苦虫を噛み潰したような気に入らなさげな顔で睨むように見ていたその女子は特に怖くは無いが、どちらかというと今強引に動かされている自分の立場が変動していることの方が怖かった。

 

 

 

   ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 教室に入って早々、火鉢の奴が相模に絡まれてた。

 何処かわざとらしく媚を売る相模の態度もそうだけど、本当は色々と自分に降りかかる不都合を一切合財振り払える立場の癖して成すがままになっている火鉢の様にも腹が立つ。

 ――というか、今日になって突然降って湧いた話題次第では、アレがああいう態度で絡んできたのは察するに前哨戦だ。

 察しの悪い恩人に細やかな恩を返すべく、未だ何も理解していないそいつを連れて、私は生徒の通りが少ない職員室前へと足を運んだ。

 その道中に、比企谷(・・・)が堪えきれなくなったのか、口を開く。

 

 

 「で、相談って何だ?」

 「……はぁ、もう少し待てないの、アンタは……?」

 「って言われても、すぐに授業も始まるだろ」

 「行かない方が良いかもよ。なんか、今日は空気が変だし」

 「……あん?」

 

 

 察しが悪いのは元からなのか、はたまた『こうなった』所為なのか。

 コイツも人を見る目はあったと思ったのに、やはり神殺しという(てい)になった時点で人の社会からは乖離してゆくのが常なのかもしれない。

 三塚井という人外と同居しているからか、そういう世界の『何某』に一般人ながらに通じるようになってしまっている(・・・・・・)私の視点では、神秘に通じる奴らは一貫して社会の差異に疎くなる傾向にある。

 まあ、一振り腕を払うだけで何十何百と命を軽く奪える存在からすれば、その程度のカーストなど塵に等しいのだろうけど。

 ……要するにその話からすれば、むしろ私が守ったのは火鉢では無く教室内のアイツらになるけど、それこそ恩を着せる気も無い。無駄ないざこざに巻き込まれることこそが御免だ。

 

 

 「とりあえず、アンタは恩人でもあるからね。今日になって妙に囁かれている話題を、ちょいと掻い摘んで教えておくよ」

 「……? なんだ? 何か起こってるのか、此処で?」

 「葉山隼人が今日停学から明けたのは把握してる?」

 

 

 まずはジャブ。

 軽く、互いの情報把握度を釣り合わせる。

 

 

 「ハヤマ……、ああ、あのエリカと会長にどうこうってことで連行された金髪ライオン」

 「何か色々齟齬というか抜けてる部分があるけど……、まあ概ねそれでいいや。で、そいつに関することで、変な話になって来てる」

 

 

 まだ詳しく話していない所為でもあるけど、要領を得ていない火鉢へ、私は続ける。

 

 

 「朝からのこの弐限目までで、アイツへ向けられていた噂の主体が変わって来てるんだよ。なんでだか知らないけど、暴行を働いたのも停学を喰らっていたのも、アレじゃなくてアンタだってことになってんだ」

 「……あ?」

 

 

 流石に不快なのか、比企谷(・・・)が眉を顰める。

 おい、怒るなよ? と一瞬身構えた私だが、すぐに彼は合点が入ったように、

 

 

 「……ああ、なるほど。そういうことか」

 

 

 と、独り言ちる。

 え、どういうこと、と口走る前に、其処へ駆けてくる足音があった。

 その気配に気を掛ける暇も無く、

 

 

 「――魔王様っ! 申し訳ございませんでしたっ!!」

 

 

 金髪を翻していきなり土下座をしたのはエリカ・ブランデッリだ。

 人気(ひとけ)が無いからまだ良いが、こんな状況でいきなりそういう行いをするとか何考えてんだこの女!? と思う間もなく、火鉢は、

 

 

 「座り込むな、立て」

 「はっ、はいっ!」

 

 

 実に堂に入ったように、ごく自然に命令を下す。

 その間隙はほんの数瞬で、目の前で見せられていたのに幻覚かと思う程のスピードである。

 目を擦る私に、ブランデッリは何か目にしましたか?といった表情で澄ましている。

 今起こった出来事を、完全に私の幻覚扱いでスルーさせる腹積もりなのは容易かった。

 

 

 「取り繕う必要もねぇ、姉ヶ崎はどうやら『マシ』な方だ。場所を移すぞ、何処が使える」

 「はい。生徒会室に人払いを仕掛けます」

 

 

 まだ取り残されたままの私を放り、話を進める2人。

 いや、話を振った私の方が付いていけないんだけど?

 きちんと説明してくれるんだよね?

 

 あと姉ヶ崎じゃないから。川崎だから。

 

 

 

   ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 「ハヤマハヤトが魔術師なのは知ってるか? 少し前に自分で口走っていたらしいから割と周知の事実だけど、アイツ自身に関する話題そのものがこの2週間でタブー扱いだからもう忘れてるか」

 「決めつけんなよ……。いや、確かに知らないけど。ていうか、魔術って何が出来る訳?」

 「色々できるさ。今回のは、多分『催眠』系統じゃないか?」

 

 

 と、説明するも、俺としてもブランデッリに以前貰った情報からの推測でしかない。

 停学を明けてすぐに自分の評価をすり替える術で自己の立場を確保した、とそういうことなのだろう。

 そして、それを阻止しきれなかったからこそのブランデッリの先ほどの態度。

 此れで総てが合点が逝く。

 この2人に魔術が通用していないのは、ブランデッリは元々プロだし、姉ヶ崎の方は家族に神秘受給者が2人もいる。

 

 姉ヶ崎も口走ったかが、魔術に出来ることは魔法に比べると実に拙い。

 系統的に魔術でも神殺しとして全部に君臨出来得る俺ら(カンピオーネ)は格別としても、周知となった文化基盤としての魔術の裁量は結局のところ詐術に重点が置かれているのだ。

 魔法で事象を改変できることと比べれば、改変した事象も単調単純な破壊系を除いて大体が元の形へと回帰しようとする。

 それをどうにかして誤魔化すのが、魔術の本領であると言えよう。

 故に、魔術は儀式的な側面が強い。

 永続的な魔力による補填で、それこそ半永久的に効力を持続させることを目的とし、その学術は研鑽されて来たのである。

 

 が、それは圧倒的な神秘の前では、基本的に無意味。

 コップの水の色を変えたところで、川の激流には呑み込まれて終わる。

 要するに、熟練された魔法に魔術は通用しにくいのである。

 その傍に居る者もまた、その影響を僅か乍らに受ける。

 特に想念や思念なんか(想子、というのであったか)で事象を左右する魔法師のそれの奔流の前では、魔術師の魔力の影響は極端に低下するのだ。

 以上、これまでのおさらいでした。

 

 

 「――ちょっと待て。そうなると、アンタの傍に居るクラスのみんなは、普通に影響受けているってことにならないか?」

 「なるはずがねぇ」

 

 

 俺のおさらい講座に待ったをかける姉ヶ崎に、即答で否定を入れる俺。

 ところで彼女の言葉遣いに関して、ブランデッリが微妙に眉根を寄せているけど、俺がちらりと流し見ると何も言わない。

 この辺の調教は既に万全なのであった。調教かよ。

 

 

 「なんで?」

 「普段から魔法やら魔術やらを常時行使してるわけでもないのに、そんなホイホイ影響受けてたら魔術はそれこそ廃れるしかねぇよ。こんな世の中でも途絶えることなく遺っているんだから、アレは技術足り得る学術として色んな分野に枝別けされてんだ。それにそういう奴ら(魔術師共)が筆頭に魔王の取り巻きだぜ? すぐ傍で生活している状況で、そこまで一息に使えなくなるほど脆弱じゃねぇだろ」

 

 

 なるほどー、と納得の姉ヶ崎。

 

 

 「話を戻すけど、今回のは復学上の自分の扱いに危機感でも覚えたライオンくんが、『催眠』の魔術でもって学校全体へ影響を及ぼしたってところだろうな。催眠術は漫画的には万能だけど、実際のところ本当に本人が遣りたくないことをやらせることは不可能だ、って聞いた覚えもあるんだが……。まあ、暗示系を複合させたら可能っぽいみたいな説も推されてるから、ほんとのところどうなのかは知らんけど。――というか、本職が居るんだし聞けばいいのか。どうなんだ、そこんところ?」

 「『催眠』自体は、確かに認識を逸らしたり暗示を挟ませたり、あとは記憶にブロックを掛ける程度でしょうか。完全に記憶を消去するような術式は今の魔術では成功例は無いかと、私の知る限りですけど」

 「その稀有な例を彼が完成させたとか、そういうオチがある可能性は?」

 「記憶破壊、となると、やはり掛けられた被術者の何処をどう変貌させるかも測り知れませんし、自己保身に走った彼がそういうリスクを考慮せずに記憶の組み換えを自在に出来ているとは思えませんね。大方、魔王様の功績を自分のモノにする、程度の認識の入れ替えを差し込んだ程度でしょうね」

 

 

 月島さんかよ。

 

 

 「正直、私の手を出せる範囲外にまで影響を及ぼしている以上、此処で(個人)が騒いだところで数に呑まれる、とでも判断を付けて手を広げたようにも思えます。実際、この数を『正常な状態』へと戻すのにはあの小僧をとっちめるのが手っ取り早いのですが……」

 

 

 小僧て。

 とっちめるて。

 ブランデッリの日本語チョイスにややドン引きしつつも、奥歯にモノの挟まったような切り方に、口を挟む気はない。

 そもそもの問題点がある、と俺でさえ理解できた為でもある。

 

 

 「この学校での魔王様への取り巻きを根こそぎ奪い取っている以上、下手に手を出せば誰へ被害が及ぶのかも測り知れません。人質として扱われる可能性もある以上は、私がちまちまと処置を施していては後手に回るかと……っ」

 「……つくづくゲス野郎だね、葉山は……」

 

 

 憤慨已む無し!な歯軋りブランデッリの言い分に同調したのか、姉ヶ崎の言にも中々に棘が出張る。

 ライオンくんへのヘイトが、この部屋だけで臨界を突破していた。

 其処で、同意した姉ヶ崎がこっちを見て呟く。

 

 

 「――でも、アンタならなんとかできるんだろ?」

 「っ、アナタね……! ――口を慎みなさい。魔王様に始末をつけさせるなどと、思い上がりも甚だしいわよ……!」

 「でもさ、それが一番手っ取り早いんじゃないの? ブランデッリじゃ手が足りないんでしょ?」

 「そ、そうだけど……っ!」

 

 

 自分にこそ直接の関与が無いからこそ彼女らは、まだ何とかできるとお思いのようだが、それを『なんとかする』のは2人の言う通りに間違いなく俺の役割となる。

 実際、神秘の塊である『まつろわぬ神』の顕現やそれらを凌駕した魔王の腕一振りが出張れば、不完全に才能だけがあって、確かな師なんかが居るようでもない小僧1人の『魔術儀式(小賢しい真似)』なんて一蹴にも満たないのだろう。

 それこそIS学園でケトゥスの眷属が顕現しただけで、その『余波』で襲撃に来ていた魔術師や魔法師が軒並み魔力波で呑まれたのと同じように。

 

 ブランデッリはというと、そんな『手間』を俺にやらせることに、色々と不甲斐無さを抱いているのだろう。

 そういう世界での一般論を想定するが、『忠臣』として『盟主』に後始末をさせるということは、実に彼女自身の尊厳若しくは忠誠心を踏み躙る行為でしかない。

 俺がなんとかすればなんとかなる。しかし、その先を要求するには、ブランデッリには口に出せるはずがない。

 そもそもが不敬であると、そう思っていそうだ。

 

 そう判断したからこそ、俺は此処で口を挟む。

 

 

 「そうだなぁ――、」

 

 

 その上で、俺が提示した答えはというと――、

 

 

 

   ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 ――上手く行った。

 停学中に必死で構成を組み立てた甲斐があった。俺は、俺が手にするはずだったものをようやく取り戻すことが出来たのだ。

 

 まず、学校での正しい立場。

 先生からの覚えも良く、勉学に良く励み、学校活動も自発的に取り組む、模範的な優等生としての立場。

 火鉢ではとても其処までは出来得るような生徒には見えないし、俺という本来あるべき存在が表立ってこそ価値がある。

 先生方へ掛けた『催眠』は『俺の停学理由への認識阻害』。

 (おこな)ってしまったことは無かったことには出来ないし、内申にも残っているからまだ先は長いが、この先勤勉な学生として生活していればその程度の『小さなこと』、すぐに埋没させられるだけの結果を残せるさ。

 

 次に、クラスでの正しい立場。

 これには若干梃子摺った。何せ、最初に話を聞いてくれる大人とは違って、子供という奴らは『気分』で自分の行動を選択する。俺の言い分を聞かず、下手な手を打てば無邪気にそして残酷に潰されることは、容易に想像できたからだ。

 先ずは、生徒間で取り交わされる情報媒体、要するにケータイやスマホなんかの各自連絡先は、新学期に先立って手に入れている。

 変更していれば通じることなく返って来るだけなので、大方には届いたらしい。俺の製作した、電子系魔術式付属メールが、

な。

 術式を組み込んだ電子(儀)式が到達したら、その端末を見るたびに自動的に更新される意識改革を促せる、という寸法だ。

 ちなみに、一応はこっちのメアドも変更してあるから、開かずに棄てられるような事にもなっていない筈。

 ともかく、それを見るたびに、アイツらの中では俺の悪評と火鉢の評判が入れ替わるようになっている。

 アイツが何をどう上手く熟したのかは詳しく知らないが、生徒会へ美少女を取り込んでハーレムなんかを作っている奴が正しい行為をしている筈がない。

 雪乃ちゃんだって、きっと何か弱みでも握られて連れ込まれているに違いないんだ。

 流石にメアドも教えて貰っていない彼女を筆頭にした生徒会ハーレムの人たちには直接会うことでし掛けざるを得なかったけど、その他の生徒対策として学校の公式サイトにも当然裏サイトにも、同じタイプの魔術式を組み込んでいる。

 俺の勝利は、既に揺るぎがない!

 

 策を張り巡らせ、俺の魔術の網目は初日で全校へと行き渡った。

 魔術師は電子系統には疎いって何処かで訊いたから、ブランデッリさんにも気づかれないように、こうして成功させることも出来た。

 彼女に此れが通じているかはよく判らないが、通じなかったとしても問題は無い。

 このままゆけば、火鉢に代わって俺が生徒会へ功績を残す役員として取沙汰されるのも時間の問題だ。

 そうした上で、ゆっくりと俺が全てを手にしてやる――!

 

 

 

   ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 「――別に、何もしなくてもいいんじゃないか?」

 「「えっ?」」

 

 

 色々と対抗策を考えたようだが、俺の出す結論は此れである。

 そうさらっと告げると、2人は虚を突かれたように言葉に詰まっていた。

 

 

 「要するに、俺に代わって学校の中を色々とより良くしてくれる、ってことだろ?」

 「……え、そういうこと、なの?」

 「……いえ、違うと、……は言い切れない、わね」

 

 

 結果として何を得ようとしているのか、何がしたくて、その先はどうするのか。

 何はともあれ、何かを変えようという意思とは熱意そのものであり、そのエネルギーは空回りしなければ、相応の形へと結実するものでもある。

 寝取られ主人公みたいな立場に俺を追い遣ったのか、はたまた自分が負けていたから寝取られたとでも思っていたのかは知らないが、ライオンくんは兎に角俺を目の敵にして勝とうとしてこうした策を張ったわけだ。

 頑張ったね。

 

 

 「対鳴海清隆でも火澄は言っていたが、1回勝った後にあと何回勝つべきか。要するに、勝利は只のゴールじゃない。勝利した奴は負けるまでは勝者として立ち続けなくてはならず、立場とは絶対的にあって然るべきモノでもない。勝ったには勝ったなりの、代償を以降支払い続ける必要性だって出てくるんだ。アイツが俺に勝ったと思っているんなら、その立場は実に甘美だろうさ。……その後の始末も、な」

 

 

 道は長いかと思われる。

 

 

 「ナルミなんちゃらとかが誰かは知りませんが……、勝利云々の件、魔王様は負けを認める、と?」

 「だって、わざわざ勝つ必要性も無くないか? めんどくさい」

 「め、めんどくさいって……」

 

 

 鳴海清隆を知らんと申すか。

 まあそれはいいとして、俺のあっけらかんとした言い分には流石のブランデッリも唖然である。

 しかし、正直興味も無いのだ。

 

 

 「そもそも、俺がこうしてこの学校に通っていることには学内の状況改善と意識改善を出来るかどうかの実験でもあるからなぁ、それを代わりにやってくれるって言うんならやりたい奴が遣ればいい。あとは、実績とデータが在れば俺としては文句も無い」

 

 

 唖然とする2人へ、言い放ち鞄を持ちなおす。

 それに慌てたように駆け、俺の袖を掴んだのは姉ヶ崎だった。

 

 

 「ま、待って! どこ行く気っ!?」

 「何処って、帰るんだよ」

 「えぇっ!?」

 「学校がブランデッリや姉ヶ崎の言った通りの状況なら、俺が通う必要性も無くなるからな」

 

 

 言いたい奴には言わせとけばいい。

 つうか、通学の必要が無くなっても、先を見越してやるべきことは割と山積みだ。

 学校だけで学べることにも限界があるし。

 

 

 「……雪ノ下や由比ヶ浜は放置するのですか?」

 「? だって、下手に手を出すと誰を人質に取られるかわかったモノじゃないって、言ったのはお前じゃないか」

 「そうですが……。てっきり、魔王様は此処での生活を気に入っているのかと思いました」

 

 

 ふむん?

 生活が気に入っているからといって、そこに集る者らを全部気に入るという道理にはならない筈だが。

 

 

 「まあ、そう見せていたからな。偽善も欺瞞も勉強中だ、いつまでも青臭く本物ばかり追っかけてるガキでもいられない」

 

 

 期待を抱かせる気も無いので、この際だからさらりとぶっちゃける。

 何処かの魔法科校の生徒会長曰く、『偽物結構。そもそも“それっぽい”だけで有り難がるのが人間て奴なんだし、潔癖になるだけ損だぜ』だそうだ。

 鶴喰梟かよ、とも思ったが、割ともっともでもある。

 まあ、言い方は悪いが世の中には『妥協』という言葉もあるし、カテゴリ的に分類をすれば現実に根を張る以上は何処まで行っても同類項だ。

 粗悪だろうが不出来だろうが正しくなかろうが善くなかろうが、誤りでさえなければ、結果として問題はない。

 

 

 「そんなわけで、俺は今からは別のことに注視する。ブランデッリ、お前暇になるなら、というか、俺との繋がりを断ち切りたくないのなら、1年ほどでいいから報告役と監督役をやれるか?」

 「そ、れは、私には、この学校に残れ、と……?」

 「『友人』が気がかりなんだろ?」

 

 

 別に、此処で切れたとしても気に留める気も無いのだが。

 つうか、なんか俺、誰かに似てきたなぁ。

 まあ、俺的に守りたいモノなんて此処には無いからな。仕方のないことだ。

 

 

 

 




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