やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス 作:おーり
新学期早々何しているんだよ、と言いたい川崎なんとかさんの行方はまあともかくとして、そこを家族に心配されて相談にまで来られる始末。
俺もこの間の一週間日本を留守にしたのは流石に心配かけたのかなー、とやや同族嫌悪にも似た感傷を抱くと共に、むしろ新学期だからこそはっちゃけたかったのかもしれない、と川崎なんとかさん(姉)の遅咲き高校デビューを微笑ましく見守りたい今日この頃。
居ても立っても居られない家族の介入により、彼女の実態が白日の下に晒される流れとなってしまって申し訳なくも思う。
まあ、本当にこの依頼を受けるか否かは今回の会談次第だが。
「お忙しいところ恐縮ですが、私の悩みを聞いていただけるでしょうか。そして出来れば解決の手段などを施していただけると……」
「まあまあ、そんなにかしこまらなくてもいいからさ~。とりあえず、私たちのことはお姉さんからでも聞いたのかなぁ?」
「? いえ、兄から、相談をするなら姉と同学年の方に話を聞いたらどうか、と。幸い、そちらの御二方は姉と同じクラスと聞いておりましたので、足を運びました」
妙に
とりあえず、平塚先生が盥回しにした様子ではなさそうだ、ということに得心し、話を振られた筈であろうガハマさんが身を乗り出す。
俺も出張るべきかもしれないが、聴き体勢にならずとも話なんて聞けるよな。
だからボッチなんだよ、という幻聴は聞き流すこととし、台詞の中でふと気になったことを問いかけたいオレガイタ。
この衝動は決して、平塚先生へ振り下ろすつもりだった先の無くなった大鉈を何処かへ……という感情とは無縁の筈だ。多分。
「なあ川崎さんや、」
「どうぞ、京華と呼んでください。できればけーちゃんと」
「……けーちゃんさん」
「はい、なんでしょうか?」
まじかよ。
確かに、話題に上がるのはご兄妹の話だから全員が『川崎』性となるのは確実なので、誤認の意図を失くすためには最適解かも知れまいが。
だとしても、初対面の男子にニックネーム呼びを許すって相当だぞ。これが中学時代の俺とクラス内の女子ならば気安く声を掛けた時点で嫌な顔をされて舌打ちされるのもあり得るレベル。まあ小学生時代にハブにされる経験則を持つ俺(中学時代)だったからこそ、そんな事案に発展すること自体そもそもなかったけれど。
それにしたって自ずからニックネーム呼びを要求してきて、しかも人間解析力上位ランカーを誇る俺に嫌な顔を微塵も匂わせないのだから完全に天使レベル。俺の中で彩加とラウラに続く第3の天使がたった今ご光臨あそばされた。恐らく先ほどから彼女の頭上で覗える天使の輪も幻覚では無いのだろう。小町? 最近堕天気味だから彼女が実質3番目ということで。
まあそんな葛藤はさて置き、気になることを問うてみる。
「えーと、お姉さんは双子か何かなのか? 見たところキミは1年っぽいし、それで兄がいると言うとお姉さんと同学年になるよな? それとも更に上にいる兄、っていう意味か?」
と、まあ姉弟関係若しくは兄妹関係が若干不明瞭に思えてしまった故の純粋な疑問である。
しかし、更に上だというのならばむしろそっちが面倒を見ても良い筈。兄妹間の出来事ならば、生徒会が干渉しても良い気分にもなるまいて。
「いえ、私は2年になります」
――よし、更に混乱して来たぞー。
頭を抱えたくなるような相関図を脳裏に展開して疑問符が飛び交う。
話を聞きに身を乗り出したガハマさんなんて、理解しようとしてフリーズしちまっているもんな。俺ですら関係性を思考するのを止められないんだもん。
「……京華さん、」
「けーちゃんで構いませんよ?」
「……けーちゃんさん、私、貴女の事を見たことが無いのだけれど……」
同じく疑問符を浮かべていた雪乃さんが、けーちゃんさんに問いかける。
というか、マジかよ。その情報はもっと早くに出してほしかったぜ?
「同じ学校じゃない、ってことか? でも制服……」
「これは、姉の物を拝借したので……。似合いませんか?」
似合うとか似合わないとかそういう話では無く。いえ、確かに似合っていますけどね。
つうか改めて言いたくもなるが、そんな姉妹の兄だというならばそいつが出張れよ。家族の問題を外部に頼るなよ。
「えーと、お兄さんは頼れないんですか? 家庭内でのいざこざを学校にまで持ち出すのは、ちょっとどうかと思うんですが……」
思っても言えなかったことを平然と言ってのける一色が其処に居た。
痺れも憧れもしないが、俺と同じようなことを思っていたらしい。
まあ、2年の兄という立場なら順当に考えて3年、又は大学生の可能性もあるしな。むしろこれで社会人ならば人間性すら疑うレベル。恐らくだけど、この生徒会室内でのけーちゃんさんの兄へのヘイトがもはや時を刻むごとに溜まってるよね。
「兄も受験生ですから、姉の事に口出しするとそんな暇があれば勉強しろ、と返されるだけで終わっているんです……」
3年か。
しかし、妹に正論で返されてぐうの音も出なくなるとは。件の川崎家兄の尊厳は既に地に堕ち陥没するレベルだと見た。ソースは俺。
一色の言に返すと、けーちゃんさんは改めて身体を折る。
伏せて表情は覗えないが、それは随分と沈痛な面持ちであると判るだけの仕草であった。
「お願いします。角違いな言い分だとは分かっていますが、どうか私たちを助けてください。このままでは、前にも後ろにも進めないのです」
……まあ、こうまでされて断る様なら、普通に人間性疑うもんな。
請け負うつもりで嘆息すると、決定権は俺に在るのか、室内の全員が俺を見ていた。
……これ、俺が返事を返さなくちゃならないの?
× × × × ×
「えーと、川崎 桜です。このたびはけーちゃんがご迷惑を……」
「いや、迷惑とかは今更どうでもいいんだが、けーちゃんのお兄さん……マジでキミ中学生なのか?」
「はい、そうです……」
邂逅から二時間半。
サイゼにて川崎家弟、俺、小町、アテナという謎すぎる顔ぶれでの集合が成功していたが、そんなことを吹き飛ばす衝撃が俺に起こっていた。
キンクリしたのはまあ、学校内には既に川崎姉略して姉崎が居なかったからで、けーちゃんさんにはご帰宅願い翌日に姉妹共々会合でも開かせる腹積もりだったのだけれども。
けーちゃんさんを帰らせ本日の業務終了宣言後に、小町から連絡が来たのが混乱の序章であったのかもしれない。
生徒会の面子と別れ呼び出され、久々に入店したサイゼで待っていたのは見知らぬ少年と、それに付き添う妹と妹系女神。
すわ彼氏か、と期待半分不安半分面白半分で問い詰めれば、既に彼女のいる身でそんなことをしようものならば釘バットで撲殺される未来しかない、というドメスティックな返事をもらう。
お、おう、なんだか苦労している少年だな……。と引き気味に詳細を問うたところ――、
――なんでも、川崎なんとかという少年に家族間での相談を持ち掛けられ、帰るに帰れないから何とかしてほしい、という小町からの願いである。
異論挟む気はねぇですけど、なんで小町に相談した?
つうか、先に気づいて問い詰めれば姉崎さんのご家族だよ。世間が狭いというよりは、意図して狭まった世間の重箱の隅を突かれているような閉塞感。
しかしなるほど、3年で受験生か。けーちゃんさんの言い分とは合ってる。
「……おい、妹さん、でいいんだよな?」
「あ、けーちゃんはアレで8歳です」
――8歳。
再度問いかけて出てきた返事に、ある意味納得もするが絶句もする。
……ああ、小学2年、ってところか。なるほど、確かに間違っちゃいない。
「あ ん な 小 2 が 居るかッッッ!!!」
俺の絶叫がサイゼにコダマした。
~
「スマン、取り乱した」
「もー、恥ずかしいよお兄ちゃん?」
色々諸々と言いたいことがあるのだが此処が公共の場だという時点で騒いだ奴がDQN認定食らうのは周知の事実。呆れたように窘める妹様に言を呑みつつ、お詫び代わりに季節のデザートを注文したところで話を戻す。
「つうか、なんで小町に相談してるんだ? 言っちゃなんだが、下級生にするような相談じゃねえだろ」
「あれ、お兄ちゃん知らなかったっけ? 小町こう見えて生徒会長してるんだよ? 去年から」
え、何それ初耳。
「去年生徒会長だった五反田さんちの妹さんから直々に任命されちゃったからさぁー、いっそ今のうちに小町のシンパを作ろうかなって」
「なんだかんだでハイスペックな生徒会長なので、思わず色々相談とかしちゃうんですよ。小町ちゃん、ウチの中学じゃ凄い人気ですよ?」
思わず絶句していたところ、川崎弟くんのフォローが飛ぶ。が、
よく聞けよ、最後にスゲェ暴露ったこと口走ってるぞうちの妹。
「明るくって可愛くて、成績や仕事っぷりはまあまだ2年生ですし色々拙いんですけど、そこが保護欲をそそるーって、男子からの人気だけじゃなくって女子からも凄いんですよ! かく言う僕もファンクラブに入ってます!」
「彼女にばれたら撲殺されるね♪」
「はい! なので内緒です!」
都合のいいことは聴こえていないらしい。命まで賭けんでも良かろうに……。
勉強以外は兄を凌駕するスペックとコミュ能力の高さには戦慄のような怖気が背筋を走る。ついでに命がけのファン宣言までする川崎弟君に対しても薄ら寒いモノが走るが。
……ところで普通に下の名前でちゃん付けして呼ばれているが本当に妹とは何もないのか?
「あっ、ちなみに下の名前呼びは小町が自分からお願いしただけだから、いまのところお兄ちゃん以上の人なんていないからね? 大丈夫だからね?」
それ、逆に大丈夫に聴こえません……。
「いや、“ヒキガヤ”って珍しい苗字じゃないですか? 下手に呼んで小町ちゃんの素性が学外にばれたら、お兄さんでも面倒ですよね? 僕ら徹底してますから!」
声を潜めているのに胸を張ったような宣言で、無駄に凛々しく覗える川崎弟君。
凄いよね。Maxまでレベルアップさせられたファンって、多分こんな感じだと思うわ。
――神殺しの妹が
つうか要人保護プログラム仕事してねぇのかよ!?
素で中学内じゃ『小町の兄』=『神殺し』の等式が浸透している時点でどうなんだよ!
「というか、少年、キミもよくカンピオーネ前にして平然と胸張っていられるな……」
「普通にお兄さん有名ですけど……」
は?
「は?」
色々な情報が一偏に出揃った所為でそろそろパンクしそう。
というか、一瞬思考が停止したんですが?
え? それも小町の何かの成果?
「むしろお兄ちゃんの自爆かなぁ。送り迎えで一緒に登下校しているところ、けっこう見られてたけど?」
「……言えよ」
本当に己の自爆だったので言葉も無い。
テーブルに突っ伏して頭を抱えてしまう俺である。
自身に向けられる視線を気にしなさすぎワロタwww。ワロタ……。
「でもそのお蔭で小町ちゃんの女子人気凄いんですから、カッコイイお兄さんが総武校の制服着ていて送り迎えまでしてくれている、ってことで今年の総武の入学倍率が凄いことになりそうだって、既に偏差値が追い付きません!」
「そんなことまで知るか」
川崎弟君のフォローを軽く聞き流して切り捨てる。
アレだろ? どうせ、「妹の登下校にまで顔出ししてくるお兄さんとかシスコン過ぎてきもーいwww」みたいなことを女子らが囁いて
しかし、逆にそこまで小町が人気だと普通に心配になってくるな。
アルソ●クもびっくりな女神の護衛程度で本当に賄えているのか?
「心配するな。小町の登下校に併せて、学内へ邪な心象を抱いた人物は寄せ付けられなくなるような認識阻害が働いている。妾を誰だと思っている?」
不安に思っていた部分を的確に保証され、隣でDSを弄っていた女神へと視線が向く。
……。ドヤ顔だったので本当に大丈夫なのだろう。
最近表情の変化が著しいですよね、この女神様。という感謝を込めて頭をうりうりしてあげる。
うりゅー、と顔をふにゃらせた美少女に荒んだ心も癒される……!
サイゼ内男子のほんわか度も20上がった!
って覗いてたのかよオマエラ。
「……で、何の話だったっけ?」
ひと段落したのはいいが、そもそもの話題が行方不明であった件について詳しく語りたい。
俺に言われて最初の相談事を思い出したのか、川崎弟君があっ、と声を上げた。
「そうでした。姉さんを説得して欲しいんです。新学期が始まってすぐに朝帰りとか、家族に心配かけるんじゃない、って。俺が、じゃなかった僕が言っても勉強しろ、で片づけられちゃうのでお兄さんに頼みたいんです」
「同じ学校でも同じクラス、とは限らんだろ。顔見知りじゃない可能性の方が高かったろうし、そんな相手に云われても堪えやしないだろうに。……なんでそういう意図で相談しようとしたんだ?」
「だってお兄さんなら神殺しの力、とかで姉ちゃんじゃなくて姉さんを説得できますよね? 確か、IS搭乗者をひれ伏させた時とかもそういう理屈が働いた、って当時ニュースとか予測サイトとかで言ってましたし」
川崎弟が思いの外下種かったッ!
いや、ゲスい権能持っている奴に云われたくはないだろうけど、その手段を真っ先に思いつくのはどうなんだよ。
声こそ潜めているものの、何と答えたらいいのか普通に困惑する。
「お願いします! 変なところで働かされている姉を、救い出してください!」
と、土下座みたいに頭まで下げられても……って、ん?
「おい。その話は初耳なんだが、」
「川崎先輩、小町もそれ初めて聞いたよ?」
問い詰める前に妹様がずいっと身を乗り出していた。
口挟むタイミング、可笑しくね?
「お姉さんがお兄ちゃんの毒牙にかかるのはまあいいとして」
良くない。
「変なところで働いているって何? 相談するならキチンと話を通してほしいんだけど?」
それ、小町にそのまま言いたいのだけど……なんでもないです。
1週間留守にしていた実績を持つ兄に口出しする権利は無かったご様子で、ひと睨みされて押し黙る。
というか、小町は小町で別な思惑で仲介したらしい。
――で、それはともかく。
「なあお二方、窓の外に貼りついている女の子は知り合いか?」
「えっ」「あっ」
問い詰めた小町の姿勢は川崎弟へと縋る様な体勢となっており、見る者に依れば男女のそういうものだ、と誤解されても可笑しくないのであろう。
そんな体勢を目撃して表情を固めた窓ガラスの向こうの少女は、にっこりと、俺でも判る凄惨な笑みを浮かべていた。
振り返り、その彼女の姿を確認してカタカタと小刻みに震える川崎弟にかける言葉なんて、一つしかない――生きろ。
× × × × ×
さて、サイゼで小町らと別れて、川崎弟から聞いた姉崎さんの勤務先。
は、教えてもらっていないらしいのだが、彼女が向かった先程度ならば判るというのが彼の弁。
一身上の都合上ぞろぞろと大人数で出張るわけにもいかないので、俺単独で彼女の姿を最後に見た、という辺りまで来てみたわけであるが。
「で、此処かぁ」
飲み屋とかホストクラブとかピンクな看板とか客を捕まえようと飛び交う呼び込みの声とか、要するに完全に歓楽街な街並みに圧倒されている神殺しが其処に居た。
学校で噂されているのも此処だとしたら、見回りとして先生方が来るには学生にはどう考えても金銭面で無理があるし見回る理由も通りやしないし、学生がそれを見たのだとしたら逆にお前何でそこにいたの?という質問が出てくること請け負いな場所である。つまり、どっちに転んでもout。目撃証言が此処じゃないことだけでも祈っておこう。
着替えだけでも済ませて来ておいて良かったぜ、制服のままだと浮くどころの騒ぎじゃないだろうしな。
具体的な地名だけでも行き先が判明したというのは、なんとかに活って奴だろう。
視界の端で客引きのホスト風が巨乳のおねーさんに投げ飛ばされている様を横目に、この魔都へと潜り込める片道切符を預けてくれた彼の犠牲に報いる為にも、相応の結果を出すのが筋と言うモノだ。
と、尊い犠牲となった少年を想い、先程までの遣り取りを思い起こす。
――あの後、少々青みがかった銀髪という最近よく見かける気がする髪色の少女がサイゼに乱入してきてトゲ付きバットを振り回し川崎弟を撲殺する、という傷ましく凄惨な事件が引き起こされた。
早業だった。
店内に散り咲かされた血と肉の花を目撃し、2度とナポリタンを注文できない客も出たことだろう。それくらい、トラウマになる様な光景が店内にて引き起こされたのである。
流れるように慣れた手つきで、少女は泣き喚きながら川崎弟を撲殺したのだ。
曰く、「桜くんの浮気者ーッ!!」。
ヤンデレって怖い。
騒然となる店内。
上へ下への大騒ぎ。
そんな中、少女は『やっちゃったぜ☆』みたいにテヘペロすると、トゲ付きバットをくるりと振り回した。
―― ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ~
謎の文言と共に、魔法のステッキみたいに軽々振り回されるソレから光の粒子が降り注ぎ、ビデオの逆再生みたいに肉片は川崎弟へと巻き戻って行った。
何を言っているかわからないだろうが自分でも何を見たのかわからない、神殺しの権能だとか魔法だとかじゃ計り知れない、もっと恐ろしいモノの片鱗を見たぜ……!
――というか、撲殺って比喩じゃなかったのか……ッ!
そして、その時彼女の頭上に覗えた天使の輪は、流石に幻覚で済ませていいことでは無い気がしてきた。
差し詰め撲殺天使か。何それウケるーw。……いやいや笑えねぇよ。
アレが天使に見えたのだとしたら己の感性を疑うレベルだ。
故に、流石にアレはアクセサリーの一種なのだろう、と思考を逸らす。
というか4人目がアレは流石に無いだろう、と自意識とは別の所が恐慌を訴えていたのは、多分己に残された人間としての本能が鳴らした警鐘の一種であったのだとも思えてくるのだが如何に。
そもそも
とんでもロリ巨乳系彼女と思った以上に色気が漂わないご関係を巡らせている川崎弟はさておき、こういう処へと唐突に働き口を探しに来たという姉崎さんの思惑ならばなんとか追想できる。
ヒントは此れまでにも幾つもあった。
一つ、弟が受験生になってから朝帰りが増えた。
二つ、ここいらでの収益金は一般のバイトよりも割高に得られるように思える。少なくとも学生の目には、だが。
そして三つ、話を聞いた限り、姉崎さんは一番上の姉だという。要するに家庭環境だ。
――つまり、彼女を現在悩ませている原因は弟妹が多いために後々に浮かぶであろう筈の『学費の問題』、となるわけである。
しかし其処を解決する手段なら、むしろ個人で賄うよりは学校側へと相談する方が明確な答えを得られるだろう。
その為には、こんなところで躓いていて良い筈はないし、金銭よりも優先すべきモノがきっとあるはずだ。
何より、同じ千葉の
――で、何処にいるんだろうな……。
既にうろうろとここらを一周してきてしまっているが、一向に居場所を判別する方法が浮かんでこない。
あ、さっきの巨乳のおねーさんがまたホスト風のを投げ飛ばした。
……え?
デジャヴみたいな光景に普通にやる気が削がれる。駄目だ、一旦コンビニにでも避難して心を落ち着けよう。
と、赤っぽい看板の日本一有名で最近プレミアムな処へと足を運んだ。
「いらっしゃいませー」
鬱蒼とした気分だが、同年代っぽい女性の声に幾許かの清涼剤みたいな効果を授かったらしい。
そんな気分で声の主へと目を向けると、何処かで見たような銀髪をポニーテールにしたお姉さんが、レジで打ち子をしていた。
ほんと最近銀髪をよく見かけるなー……イヤマジで。ってなんとなしにそう思いながら、お姉さんと目と目が合うー。
一瞬の出来事だったが、――驚愕の表情で2度見された。
……。ん?
「っ、火鉢っ? ……アンタ、なんで此処に、」
ん?
「え、誰」
「え」
……。んん?
目が合った彼女がこっちを見て口走ったのだが、思わず口走り何故か空気が凍っただけでその先が見えない。
あれ、ひょっとして、
「……姉崎か」
「川崎だよ」
……。あれ?
× × × × ×
「なんか、すまんね」
「うるさいよ、もう帰れよ……」
川崎なんとかさん、同じクラスの、だと判明したのだが、まさかコンビニのバイトだとはお釈迦様でも思うめぇ。
というか、せめて彼女の写真なりなんなりを得ておくべきであったのだろう。顔を知らない相手を探そうとしていた自分にようやく思い至り、ほとほと間抜けさ加減に嘲笑が漏れる。
そしてこちらは知らないのに向こうが知っていたという、まさに川崎なんとかさんにとっては『自意識過剰なんじゃないのー? ぷふぅーwww』な状態で。
……さっきから真っ赤になって目を合わせてくれないんだ。どうすればいいと思う?
まあご本人に直接尋ねても、帰れ、と一言のツッコミで終わる恐れが大なわけであるし。
彼女の気分が治まるまでしばし待つこと10数分。
袖をまくった八重歯のあんちゃんと交替して、棚卸を手伝いながら会話を始める流れになっていた。
……どうしてこうなった。というか、このコンビニは客に店の仕事任せるのかよ……。
「……で、大志に言われて来たわけか」
「え、誰」
気を取り直したであろう彼女に、知らぬ名を出される。
ひょっとしてまだ弟さんが居ったりするの?
「……アンタに相談でも持ちかけたんだと思うけど、違うの?」
まあ、直に云われているご本人だし、自意識過剰気味でも連想はするのか。
敢えてそこには触れないのも優しさ。だが、別口がしっかりと動いていることも匂わせ、大体の周囲の状況を暴露しておこう。
「最初に相談し掛けたのは平塚先生だな」
「は? なんで平塚先生が?」
「いや、あの人生活指導だし? あとお前の目撃情報が出ていて、バイトしてるかも、って噂になってるっぽいぞ?」
「マジか……」
まあ学校に話が行っていたら普通に嫌そうな顔はするよな。
でもそれだけじゃない。
「で、生徒会へ相談しに来たのはけーちゃんな」
「は?」
「姉崎さん顔怖い……。だって呼んで良いって言ったからぁ! 女の子にあだ名で呼んで良いなんて呼ばれたの初めてだからぁ!」
「……ロリコン」
嬉しかったんですぅー! と茶化した気も込めて睨まれた恐怖を払拭する。
人類越えてもヤンキーはやっぱ怖ぇーわ。特に女子がね。
……コレは一生付き合って逝く感性なのかもしれんなぁ。
「アレを見て8歳児だと判別する奴は居ないと思う」
「それは、まあそうだけど……。あと川崎だから、川崎だから」
自覚はしていたらしい。そして2回云われた。大事な事なんですね、わかりました。
まあ、自分の家族の問題だもんな。
あと視界の隅で細目の店員さんが顔を上げた。なんだ? なんか気になる発言でも拾ったか?
「で、最後に川崎弟君。小町、あ妹な、妹経由で相談が来て、俺に仲介又は説得してくれって頼まれた」
「やっぱ大志なんじゃん」
其処が判らん。
「桜って名乗っていたぞ」
「あー……、それ、今の彼女の影響。なんか、事あるごとに呼ばれていて人格矯正されている節があるというか……」
何それ怖い。
「アンタに判るか? 同居している彼女に弟が問答無用で改造されたり撲殺されたり木工ボンドで(略)されたりしていることを眺めていることしか出来ない姉の気持ちが……。妹までいつの間にか一気に成長しちゃって……、もうウチの家族は跡形も無いよ……。まあ、弟のロリコン気味な性癖が払拭されてるんなら言うことは無いんだけど」
愚痴に見せかけて最後に本音が漏れたぞ。
色々と溜まっているのかと思いきや、常識人には理解し辛い女子の気持ちを問われて絶賛困惑中の俺である。
あと木工ボンドでなんだって? よく聞き取れなかったのだけど?
そして弟さんロリコンだったのか……。姉に性癖ばれてるって相当だな。多分払拭され切っていないと思うけど。ソースは小町のファンクラブに所属していること。
えへ顔ダブルピースで島村宜しくきゃぴるんとポーズ決めてる小町が脳裏に浮かんだが、大体間違っていない気がする。
「ご家族は口を挟まないのかよ……」
俺だったら小町が人格矯正されていたら口挟むけどな。
俺がされていたら口挟まれなかっただろうけど。
他所様のお家まで男子に辛い居心地では無いと信じたい。無理か。無理だな。
「同居に能って、と銀色のアタッシュケースからどさどさと札束積まれてみな。弟の
予想通りに無理だった。
弟君の未来に、幸あれ。
「ん? ってことは、別に朝帰りするほどの問題も無いんじゃないか?」
金銭面と言う名の実弾が装填されていたということは、事実上『学費の問題』なんて吹いて飛ばせる程度の話に思えてくる。
更に、弟の人格矯正に思う処あれど、性癖の払拭まで視野に入れられているらしいので姉としては最終的に問題無し。
数分前までの俺の予測を覆す、問題点なんて微塵も見当たらないような包囲網である。俺の同情心を返せ。とは黒歴史にしかならないので云わないが。
「ん、まあ大体この店の所為」
「軽いな。しかも原因判ってるんなら店長にしっかり抗議しろよ」
あっけらかんと、事情を語られたわけであるが、其処を何とかしないから俺が出張ってるんじゃないですかやだー!
いや、出て来いと本人に云われたわけじゃないけれど、本気で俺要らない子なんじゃね? っていう葛藤がね?
「アレ」
「は?」
と、暗い笑みが漏れ出始めていたダークサイドな俺の肩を叩き、棚卸中の視線を窓から店の外へと向けさせる姉崎さん。
――……店の外で呑んだくれて騒いでいた兄ちゃんらに、ローリングソバットを決める美人さんが。
え? 女子プロレスラーか何か?
「……さっき見た人と違ーう……」
改めて思う。
この世界線の女子強すぎねぇ?
「さっき?」
「いや、此処に来る前にホスト風を投げ飛ばしていた美人さんが……」
「ああ、スパロウズホテルの佐藤さんかな」
名前までは知らんけど。
え? 有名人なの?
「で、今のアレがウチの店長の午後乃みるくさん。アンタ、説得できる……?」
「嘘だろマジか」
驚愕に2度見すると、悠々と店内へと舞い戻ってくるにこやかな美人さんが其処に居た。
~ジェニュイン
空気を操ることに長けた魔女。一般的なシャツinルックの兄ちゃんらを一糸乱れぬオタ芸が出来得るレベルにまで調教可能な才能を持った女怪
半世紀生きているのに異常とも呼べる色気を醸していることこそが若さの秘訣だったとか
~ぴぴるぴry
人類が総ロリ化した未来の世界より派遣された魔法式で『斯く在るべし』と構成された美少女型屹立具現式魔法生命体、この時代での名前は三塚井ドクロ
発する魔法は『炫殺式エスカリボルグ』。バットそのものは実体があるように見えるだけの魔法式の塊であり、其れで殴られた者は死を実感するし周囲もそう認識する。だがあくまでも一時的なモノであり、彼女本人のセーフティが働き即座に再生を促すように意識下へと設定されているので『そのまま本当に死亡する』という事態には至らない。筈である(尚、彼女の個人的な都合により時たま数十分から数時間ほど放置される恐れも在る。全ては彼女の采配次第)
そんな彼女の目的は、漢もおっさんも老婆も熟女も筋肉も不細工も総て等しく幼女に変える魔法式を将来的に生み出した未だ生まれぬ『天災・川崎大志』の趣味嗜好を矯正することである
しかし、未来の天才魔法師・司波深雪が烏丸イソラの魔法式を解析し改造し搭載しそう遣わした本当の目的は全て『兄の為』
魔法式の影響を受けない為にロリハーレムという、ロリコンでは無い兄・比企谷八幡に本当の幸せを享受させるための妹心こそが全ての発端である
その為に現状の川崎弟がどのように変容されようが知ったことではないのである
ちなみに構成されたドクロ本人には人として異常性はあるが自我が備わっており、川崎弟に対しての好意ならばしっかりあるので問題は無い
~川崎弟
原作宜しく受験生。小町と同じ学校なのは修正点が入った結果
去年時の五反田蘭生徒会長が次期生徒会長を指名した際、指名された当時中学1年の後輩小町を壇上にて見上げた際ロリコンに目覚めた
その1週間後には何故か彼女が出来ていたことでクラス中から顰蹙を買っていたが、ドメスティックな有様に美少女だけどアレはねぇ…と若干の同情も添えられる
人格矯正は順調らしく、時折かつての己が出てくるのを自ら修正しつつ『川崎 桜』を確立させる
「俺、高校に進学したら彼女とエロいことするんだ…!」
尚、同居しているのに未だにラッキースケベ一つ起こっていないらしい。合掌
~川崎京華
原作では幼女(幼稚園児又は保育園児)。この世界線では2歳ほど年を喰っているが僅差と思え
礼儀正しく『おねえさぁん』な色気と雰囲気を醸し出すボンキュッボン系ステキ幼女。身長は姉と同程度ほどで、服装によっては体型もエロく目立つ銀髪美少女
その正体はロリ化魔法式の構成を修正された未来の日本から司波深雪が送り込んだ美少女型以下略と完全なる融合を果たした魔法式内包型魔法師である。本来ならば『姉』とは三塚井ドクロとなるはずなのであったが、融合の影響か彼女が姉と認めるのは血の繋がりもある川崎沙希のみであるらしい。頭の輪っかはその名残だ
ロリコンでは無いのにロリな兄の嫁を認められず、その嫁がもしもISに乗って居なかったら?というIFから想定して外見が約束された所謂『完全体ラウラ』。銀髪でナイスバディで眼帯つけたら言うことなしなんじゃね?という、要約するととんでもない策略の末に『兄の理想』を勝手に解釈して当時の近域へと送り込んだのがそもそもの始まり。構成した魔法式と最も周期の合う人物に憑依し融合を果たすことで、そのまま新しい嫁に為れ!というのが深雪の目論見であった
融合の際、自我は変化した肉体に準拠した落ち着きのあるモノへと変容したが好意までは思う通りにならず(そもそも憑依当時は会っていないのもあるが)、恋愛感情は人よりも若干沸点も興味も低い位置へと変動した。これより先、好意こそ示せどもはっきりモーションを掛けることは皆無に等しいので、やっぱりラウラちゃんが№1!と言うことか
保持する魔法は『束縛式エッケルザクス』。男性限定の某宝具のような拘束効果を持つ濡れタオル。それで巻かれた者は抵抗する意志すらも消失する、という最強の護身具系魔法式。拘束して一時間も放置すれば人格も穏やかに且つ服従心すらも芽生えさせる
~スパロウズホテル
歓楽街にひっそりと在るビジネスホテル
用心棒の巨乳美人さんが外周の治安維持も務めている
~午後乃みるく
立地条件が色々アレだが某有名コンビニエンスストアに何処か似ているコンビニ店『BUNBUN』の店長
美人でスタイルが良いのだが、笑顔で500円玉を片手でへし曲げることが出来るスーパー店長(スーパーの店長では無い
某ホテルと双璧を為す『絶対に怒らせちゃダメな人たち』と周囲からは認識されている
やっちまったぜ…
3話くらいに分けられたかもしれないけど、色々ツッコまれる前に一律で
全てはsv=mykって奴の所為なんだ
ネーム頭の並びがなんだかインドの鬼神を彷彿とさせるけど全て納得の鬼畜仕様なんだ
カンピオーネではタイムトラベルとかしていたって聞いたし、設定を擦り合わせるなら妥当な展開だと思うんだ
決してカンピもISも設定忘れられてるよね、って言われたからじゃないんだ
ちょっとタイミングを見計らっていただけなんだ
でも死に設定にして置かなかったからまだマシだよね
オラ、カンピネタ持ってきてやったぞ(やっつけ
お気に入り登録数が気付いたら2000突破していたみたいだし、記念に次回は番外編でも書こうかなって思ってる