やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス   作:おーり

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おかしい、葉山回を書こうとしていたのにイツノマニヤラゆきのん救済回に
何が起こったのかよくわからねえが、少なくとも己の知覚できる現実では無かった模様
そもそも俺ゆきのんのこと大して好きでも嫌いでもない程度の興味しか抱いて居なかったはずな(以下略


城廻めぐりの一存!(という名目)

 

 

 「ゆーきーのーんーっっっ!?」

 

 

 ぐわらぁ!と教室の扉を勢いよく開け放ち、私怒ってます!と全身で表しているお団子ヘアーの少女、由比ヶ浜結衣が現れる。

 時刻は放課後。

 場所は特別教棟3階の一室。

 彼女“たち”は部活動をしており、1年の頃から時間がある時は毎日こうしてどちらともなく集まって、騙ったり語ったり語り飽かしたり時に部活動をしたりしながら日々を過ごしていた。

 この部活の名を『奉仕部』という。

 部員は今の所2名。

 それも、部長の蛮行の所為で増える予定も無さそうである。

 

 

 「あら由比ヶ浜さん、教室の戸はそう乱暴に開くものではないわよ?」

 

 

 件の部長、雪ノ下雪乃は飄とした(てい)で由比ヶ浜の行動を咎める。

 どこ吹く風、という奴である。

 

 

 「そんなのはどうでもいいよっ! なんなのあの部活紹介!? わたし聞いてて凄い恥ずかしかったんだけどっ!?」

 

 「貴女が恥ずかしがることでもないでしょうに」

 

 「恥ずかしいよ! 優美子とか姫菜とかにちょっと自慢しちゃったんだよ!? ゆきのんと一緒の部活なんだー、って! 次の瞬間には居た堪れない表情で気を使われたよっ!」

 

 「あら。新しい友達が出来たのね、きちんと気を使える良い子たちのようで良かったわ」

 

 「お母さんっ!?」

 

 

 論点のずれた、まさに由比ヶ浜の言う通りに母親みたいな感想を返され驚愕してしまう。

 友達と一緒にお昼を食べようと楽しみにしていたら煮物を敷き詰められた茶一色の弁当を持たされたかのような、そんな由比ヶ浜の感じていた錯覚が確信に変わった瞬間であった。

 

 

 「どちらにしろ新入部員なんて募集していないわ。うちの部はそういうひとが来ない方がずっと良いのですもの」

 

 

 一通りボケ倒して満足でもしたのか、雪ノ下は手元の書籍を捲り乍ら、しれっと言い放つ。

 しかし、それで納得できないのは由比ヶ浜だ。

 そもそも、あの部活動紹介自体、

 

 

 「……じゃあなんであそこにいたの? 別に強制参加でも無かったんでしょ?」

 

 

 と、何気に知っている内情を語る。

 ページを捲る手が、ぴたりと止まった。

 

 

 「……由比ヶ浜さん、何故それを知っているの?」

 

 「優美子が女テニのエースだから。経験者しか要らないって部長が言ってたから、今年は女テニも参加表明しなかったんだって」

 

 

 盲点だったわ……。と、顔を逸らす。

 更に由比ヶ浜のターンは続く。

 

 

 「ヒッキーにでも会いに行ってたの?」

 

 「にゃぜ、ゴホン。何故私がわざわざそんな真似をしなくてはならないのかしら?返答次第では怒るわよ由比ヶ浜にゃん?」

 

 「最初に噛んでる時点でごまかせてないよゆきのん。あとなんかわたしが猫みたいになってるし」

 

 

 くぅ、と呻き声を上げる。

 この日、ガハマ大勝利が歴史の1ページに刻まれたのであった。

 

 

 「で、そうだったんでしょ? なんでまたわざわざ?」

 

 「……その、由比ヶ浜さんから聞いていたから、そのうち此処にも顔を出すと思っていたのよ。なんだかんだで、縁はあるのだし。転校早々、生徒会に入ったとは聞いていたのだし。城廻会長ともそれなりの顔なじみでもあるし」

 

 「……来なかったから会いに行ったの?」

 

 「だって部活紹介の通達をしに来たのだって名も知らぬ副会長よ!? なんであの男は頑なに会おうとしないのか問い質したくもなるわ。なのに会いに行ってみれば転校生の子と仲良く喋っているし」

 

 「……会いに行ったんだ……転校生?」

 

 「国際教養科に編入して来た金髪の外国の女の子だったわ。運動神経も良くてクラスでの人当たりも良くて、早々に人気者になっていたわ。俗に言うリア充と言う奴よ。はっきり言って敵ね。私の……、あの、由比ヶ浜、さん……?」

 

 「………………………………」

 

 

 どこぞの残念系ラノベヒロインみたいな怨嗟を吐き出していた雪ノ下が気付けば、ジト目で睥睨している由比ヶ浜に声も尻すぼみとなる。

 一見、八幡の事に沈黙しているかと思いそうだが、この1年付き合って由比ヶ浜検定1級を取れそうなくらいに彼女の言いたいことを目で判るようになった雪ノ下は確信する。

 これは、自分の何かを責めている目である。と。

 理由までは至れないが、脂汗が止まらないゆきのんである。

 

 

 「……ゆきのんさ、」

 

 「ひゃいっ?」

 

 

 思わず、声が裏返った。

 

 

 「なんでそんなヒッキーに関わろうとしてるの? おかしくない? 前の時も変に突っかかっていたけど、そもそもゆきのんのおうちが色々手を出したから今のヒッキーの立場になっちゃっているってこと忘れたわけじゃないよね? そんなわけないよね。去年はゆきのんのおうちの事情が絡んだから、ゆきのんもクラスで今の立ち位置にいるのを自覚しているんだもんね? それなのにわざわざ会いに行って何がしたかったの? まさかまたお父さんからヒッキーに取り入って欲しいとかって命令された? でもゆきのんはお父さんのこと、ていうか家族のことをあんまり好きじゃないもんね。そんなことに従うなんて言うのは前提が間違っているってやつだよ。ていうことは会いに行ったのはゆきのん自身の意思であって、そこに他の人の思惑は関係してない。じゃあ理由は何? 逆恨み? それも違うよね。ゆきのん自身がいつも言っていることだもんね。他の人の足を引っ張るくらいなら自分を高めるべきだ、ってトラウマ交えた自虐ネタを話してくれてるもんね。――まさかとは思うけど、」

 

 

 言葉を、区切る。

 そんな由比ヶ浜の表情はほぼ“無”に近く、目からはハイライトが消えていた。

 そんな貌のまま、ずいずいと近づかれ、イツノマニヤラ彼女らの距離は僅か10センチ。

 小刻みにカタカタと震える雪ノ下は、彼女から目線を逸らすしか逃げ道は無かったのだが、

 

 

 「あ、あの、病みヶ浜さん……?」

 

 

 気づけば、じーーーっ、と見つめられていたことに怪訝を抱いた雪ノ下が、不覚ながらも心中で呼んでいた呼称で呼びかけ、目を合わせる。

 その貌からは、既に“無”は消え失せて、

 

 

 「――ひょっとして、恋!?」

 

 

 喜色満面の微笑みで見つめられていることに、雪乃は別種の動揺を隠せそうになかった。

 その顔は、彼女の姉が「実に良い玩具を見つけた。コイツは壊れるまで弄り倒そう」、そう思った時に見せるようなものによく似ていたと、雪ノ下雪乃は後に語る。

 

 

 「あの、」

 

 「そっかー、ゆきのんも人並みの恋心を持つんだねっ! 相手がヒッキーなのはちょっと不安だけど、負けないからねっ」

 

 「いえ、その、」

 

 「というか初恋じゃないよねー。いくら今の世の中が女尊男卑だったとしても、良いって思える男の子の1人や2人、出会えていなかったって言う程酷いとは思えないし」

 

 「あのぅ、由比ヶ浜さn」

 

 「ていうかこれでようやくゆきのんも一般女子高生の仲間入りだよ! 裏掲示板で喪女扱いされてた氷の女王の解凍記念! ありのままの姿を見せるときが遂に来たよ! 1年遅れのアナユキやったー!ってスレ立てるね! みんなも喜ぶよっ!」

 

 「待ちなさい」

 

 

 散々酷い言葉が放り出されたが、それらの中でも特に手酷い部分が気にかかり、ケータイを取り出す由比ヶ浜の手をがしりと掴む。

 非力なはずの彼女からは出ない筈の、万力で締め付けているような感触を覚えたのは由比ヶ浜の錯覚であろうか。

 

 

 「色々言いたいことはあるけれど、特に最後。ちょっと詳しく話を聞いておきたい事がポロリと漏れた気がしたのだけれど……?」

 

 「あはは、ゆきのん手が痛いよ~」

 

 「笑っていられるのも今の内よ……?」

 

 「や、ちょっとマジ痛い。ゆきのんお願い放してへるぷ」

 

 

 ギシ、ギシっ、と人体から出ては不穏過ぎる軋みに由比ヶ浜の笑顔がやや曇る。

 自業自得が多分に在るが。

 

 

 「ほむ。ひょっとして学校掲示版によくあった【ゆきのん王国特設スレ】とはお主の手勢であったか? 今確かPart65まで更新されておったが」

 

 

 予想外の所から答えが出てきた。

 その声に由比ヶ浜が振り向けば、教室の入口には眼鏡で太めの指ぬきグローブを手に嵌めて額にバンダナを巻いた黒いマントの男子高校生の姿が。

 

 

 「ってチューニいつからいたのっ!? 今の今まで居なかったよね!?」

 

 「相変わらず無礼なおなごでおじゃる。ノックをしたのに返事が無かったのだから仕方あるまい」

 

 「返事が無かったら勝手に入ってこないでよっ!」

 

 

 年頃の娘から逆ギレされた父親みたいな顔で、件の男子・材木座義輝は許可もされていないのに教室へと入ってくる。

 勝手知ったる我が家の如く。

 一見メンタルは鋼にも思えてくるが、

 

 

 「モハハハ、失礼するぞ雪ノ下女史。それにしても今朝の入学式は実に爽快であったな、まるでS○S団のような挨拶を決めてくれるとは愉快痛快」

 

 「別に貴方の為にやったというわけでもないのだけれど。というか、伏字にもなっていないわ。怪物ラ●ドに帰りなさい財津君」

 

 「材木座でおじゃる。いや、その前に今日も小説を書いて来たのだが、せめて受け取ってから、」

 

 「いい加減拒否してもいいかしら在来線君。そんなことよりも気になる話を口にしていたわよね? そちらから教えてもらえないかしら?」

 

 「材木座です。……ふっ、ならば交換条件だ! 吾輩の情報を教える代わりに、この小説を読むのだ! そして感想をください出来れば優しく!」

 

 「いいわよ。より多くの意見が聞けるように全校生徒に配布する勢いでコピーしてばら撒いてきてあげるから」

 

 「やめてください、われがしにます」

 

 

 遣り取りの果てに、精神的に滅多打ちにされた彼が土下座で遜る(へりくだる)姿がそこにあった。

 恥ずかしいのならそもそも書かなければ良いのでは、と人のことを言えない誰かさんもそっとツイート(他人事)。

 そんな第二の壁を壊すようなことはさて置いて。

 

 

 「小説なんかはどうでもいいのよ。さっき言ってた、ゆ、ゆきのんおうこく?とかいう奇抜な単語の詳細を詳しく教えてもらえないかしら? ――由比ヶ浜さんも交えて」

 

 

 ビクン! と、口撃の間、一切手を放されなかった由比ヶ浜の腕が、恐怖で震えた。

 そして、どうでもいい扱いされた材木座は土下座姿勢のままに、教室の床で撃沈していたという。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 「お疲れ様ぁ、火鉢くん~。エリカさんもどうぞぉ~」

 

 「あ。どもっす」

 「いただきます」

 

 

 所変わって此処は生徒会室。

 生徒会業務に勤しんでいた庶務・火鉢(比企谷)槇也(八幡)と会計のエリカ=ブランデッリは、生徒会長・城廻めぐりよりの差し入れにほぼ同時に返事を返した。

 片方はおざなりに、もう片方は飽く迄も優雅に。

 差し入れは部屋に備え付けのコーヒーメイカーより淹れられた、それぞれ一杯のブラックコーヒーだ。

 そういえばブラックをそのまま呑むのは初めてだな、と厚意に泥を塗る気の無い八幡はそのままに口をつける。

 コーヒーと言えば久方ぶりに千葉に帰ってきて早々、練乳入りの脳味噌が蕩けるようなものばかりを呑んでいた彼からしてみれば、自分で自分を褒めたくなる快挙であった。

 

 

 「……ニガ」

 

 

 八幡、ではなく、隣のエリカから声が漏れた。

 ちらりと見れば、可愛らしく小さく舌を出している彼女の姿が目に入る。

 その様子に、コイツ紅茶党かな、と八幡は大して思考も使わずに連想を合わせる。

 そういえば紅茶大国だもんな。いやそれはイギリスじゃなかったっけ。というかどっちの国の人間だかいい加減確認した方がいいのだろうか。

 そんな連想の果てに、とりあえず、

 

 

 「よかったら使うか?」

 

 

 と、懐からコーヒーミルクとスティックシュガーをゴロゴロ手渡した。

 とりあえず合わせて7~8個ほど。

 そんな四次元なポケット系の収納率を垣間見せた八幡に、やや口の端を引き攣らせエリカは問う。

 

 

 「……なんでこんなに持ってるの?」

 

 「ん、まあそんな日もあるんだよ」

 

 

 超絶甘党であるから、とは云わない。

 飽く迄も、城廻会長の厚意を無下にはしたくない、と格好つけて自分はブラックを啜った。

 やはり、やや苦い。

 

 

 「あ、私ももらってい~い?」

 

 「え。はい、どうぞ……」

 

 

 格好つけたの何だったんだよ……。

 そう項垂れたくなる台詞が、めぐりから発せられた。

 台無し感を感じつつ、要求された幾つかを手の平へ乗せると、ひょいひょいと摘まれてゆく。

 

 

 「ありがと~、お砂糖もミルクも切らしちゃってたんだよねぇ」

 

 「はぁ、そうだったんですか」

 

 「わたしって子供舌だから~、ブラックじゃ飲めないんだぁ」

 

 「いえ、良いと思います、よ……?」

 

 

 その発言を格好つけて出来なかった八幡は、以降ブラック一択である。

 やや引き攣った貌の魔王がなんだか可笑しくて、エリカは笑いを堪えるのに精いっぱいであった。

 

 

 「んんっ、それはそうと会長。予算配分はこんな感じでいいでしょうか?」

 

 

 計算を終えたらしいエリカが、呼吸を整えつつ自身のタブレットをめぐりへと見せる。

 こちらをジト目で見るでもなく、煤けた顔の八幡に更に笑いが込み上げてくるのも必死で抑えつつ。

 

 

 「ん~、うん! 良い感じだねぇ! ありがとうねエリカさん~、ふたりが来てくれてほんと助かったよぉ~」

 

 「いえ、私は彼の付き添いですし。……ンフッ」

 

 

 我慢しきれなかった。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 【ゆきのん王国民は全身全霊を以てゆきのんを見守る所存である!

  ゆーきのん! ゆーきのん! ゆきゆきゆきゆきゆーきのん!

  冷静ぶってるゆきのんマジらぶりぃ! 友達いないゆきのんマジごっです!

  ぼっちのした? 誰だ今言ったのおい出て来いよ。差しで勝負しようぜ久々にキレちまったよ…

  ゆきのんはぼっちじゃねえよ! 孤 高 な ん だ よ ! それが判らねえ奴らは総武に居られなくしてやるぜ屋上こいやぁ!】

 

 

 「これイジメじゃないかしら?」

 

 

 由比ヶ浜を正座させ尋問して聞き出したページを開き冒頭の一文を目の当たりにしたところで、雪ノ下は口の端をひくつかせながらドン引きであった。

 自分を貶めているのだか信仰しているのだかよくわからない、そんな文句が其処からつらつらと連綿と延々と続いてゆく。

 それは材なんとか君の言う通りに65という驚異のスレッド数まで進んでも一向に勢いを衰えさせることは無い、とりあえず適度に摘まみ覗いた何処の過去スレ(要するに書き込みが不可のいち電脳掲示板)でもそれは過剰且つ寡聞な毎日がカーニバル。

 以下、とりあえず最新の、その内容である。

 

 

 -おいおい、今日のゆきのんすげぇはっちゃけてんな

 -あれな。ドヤ顔するゆきのん可愛いから、とりあえず今日からダンチョーって呼ぼうぜ

 ->可愛い。現在進行形ってことですよね言わなくてもわかるよねわかりますよね

 -異論無し

 -…俺、見損ねた…丁度金獅子ファンの女子が背後で五月蝿かったから…振り返ったら終わってた…orz

 -常人では目視すら危ういスピードの演説…。俺でなきゃ見逃しちゃうね(ドヤァ

 -今↑が良いこと言った!

 -そっちのダンチョーかよwww

 -やだ…俺の能力盗まれちゃう…!(バッ

 -なんで今脱いだ無能力者が。あとゆきのんは操作系。俺の意思とは別に信奉することを強いられているのだから操作系の筈。これだけは譲れない

 -強いられてるのかよお前異端かよ(憤慨

 -だからゆきのんをhshsしたかったりprprしたかったりするのは強いられてるからであって仕方のないことなんだからねっ!

 -大丈夫。ゆきのん王国民にとっては平常運転ですから。それ(ニッコリ

 -そうだなへいじょううんてんだな(白目

 -なにももんだいないね(震え声

 -ばっかお前、ゆきのんは放出系なんだからな!その冷気だけで孤高になる『こおるせかい(エターナルオブコキュートス)』を使える数少ないお人なんだからな!

 -何それ新しいwww

 -新開発された魔法かな(曲解

 -エターナルオブコキュートス→ぼっちになる。ですよね(確信

 -異端者が来たぞ!特定しろ!

 -此処は俺の『48の試練(クラスカースト)』の出番だな。貴様を血祭り(ボッチ)にしてやるぜ!

 -くくく、俺の能力『お悔やみ申し上げます(シンギングジャイアンボイス)』の前には赤子同然よ…

 -あれ、いつから此処はハンタースレに…?

 

 

 これは酷い。

 祭りの方向性があるのかないのか、それすらも把握しきれないのに、熱が留まる事を知らないのが尚酷い。

 

 更に、いくつか見た中では、【ゆきのん】ゆきのんを弄んで泣き顔をhshsしたい【涙目計画】というモノすら見つける始末。

 スレッドの内容は『雪ノ下にベンジョメシ疑惑を植え付けてそれを見兼ねたリア充王転校生のイタリア娘とお友達にさせてあげよう計画』という、親切なんだか大きなお世話なんだか判断のつかないモノで。

 どうやら『ゆきのん王国民』の中には、冒頭の名義の通りに雪ノ下を『見守りたい派』と『弄りたい派』更に『両方美味しく戴けます派』の3派に分かれているようだが、突き詰めてゆくと中身としてはほぼ似たり寄ったりのようであった。

 分析しても酷いことに変わりはないが。

 

 読み進んでも頭痛が酷くなる一方だった雪ノ下は、そっとスレを閉じた……。

 

 

 「……で、一体どういう経緯でこんな羽目になったのかしら?」

 

 

 冷凍庫も画やという微笑みで、“にっこり”と由比ヶ浜に語り掛ける雪ノ下。

 まさにエターナルオブコキュートスの面目躍如である。

 

 

 「い、いやあ、それがあたしにもぜんぜんさっぱりで、」

 

 「その割には由比ヶ浜さんもやたらとノリノリで書き込もうとか、スレを立てようとか、そんなことを口にしていた気がしたのだけれども気の所為だったのかしらね?」

 

 「あ、あはははー」

 

 

 ネタ晴らしをしてしまえば、そもそもは由比ヶ浜のツイッターが原因であったりする。

 1年の頃にこの『奉仕部』へと入部してきた由比ヶ浜だが、その内情は実際“暇”の一言で集約できた。

 依頼者を待つ、というスタンスである奉仕部なのだが、やってくる依頼者の問題解決は雪ノ下の一手で大概が即座に終わってしまうものばかりであったからだ。

 結果としてやることが無くなった由比ヶ浜は、まさか依頼者の問題をそのまま話題にすることも出来ず、仕方がないから雪ノ下の一挙手一投足を(つぶさ)に呟いてみたりしたのである。

 その結果はご覧の通り。

 

 

 「っで、でもほら! さすがゆきのんみんなの人気者! ゆきのんの時代がついに来たよ!」

 

 「本人がそれを今更知り得たって言うのが一番問題だと思うのだけれど!? あとこんな時代なら来ない方がずっと良かったわよ!?」

 

 

 言い訳の仕様も無くなった由比ヶ浜がサムズアップで応えてみれば、普段しないような焦ったツッコミが雪ノ下から返された。

 少年ではないが「運が悪いね」と嘲笑われているようで、語調も自然と激しくなる。

 しかし敢えて言うならば、このふざけた時代へようこそ。

 トゲ付き肩パッドを装備したモヒカンヘアが跋扈する日も、恐らく近い。

 

 

 「ううむ、しかしそれならば雪ノ下女史にも原因があるのではないか? 女史の解決の仕方は、正直一点突破に拘り過ぎてある種の信仰を集めても可笑しくないくらいに正々堂々なのである。それは一種流麗であるにしても、もう一度此処へ来る必要性が無いような完全無欠な解決法でおじゃるからして」

 

 「それの何がいけないのかしら」

 

 「いや……、十全に言われたことを熟せる程、人というものは絶対ではない……の、ですが……」

 

 

 打って変わって冷淡な目で見下され、正座姿勢から土下座へ移行しつつある材木座は語尾も消沈していた。

 

 そもそも、この部の理念とは部長である雪ノ下曰く『飢えた者へ魚そのものではなく、魚の取り方を教える』だそうで、要するに問題を抱えてやってくる依頼者に対しては解決の方向性を示すことこそが主体となる。

 依頼者としてやってくる者は、顧問であり生活指導担当の平塚静教諭のさじ加減らしいのだが、その間口はどうにも指導すべき生徒らをそのまま送り込んでいるようにも思えなくもない。

 其処は立派に職務怠慢と成り得るのであろうが、(たらい)回しにされた生徒らはそんなことは把握できる筈も無いが、まあ其処はそれとして。

 

 ともあれ、やって来た依頼者の中には、解決を提示してくれるのが雪ノ下という美少女であるために、下心(即ち恋心)も抱いた男子も少なくは無かった。

 が、そういった者らは一般の高校生らしく彼女に見合った相手として規定値は凌駕しようとでもしているのか、せめて提示された内容程度はクリアしようと今も努力の真っ最中。

 それが全てでは当然なく、己を弁えないで彼女を口説こうという剛の者も混じっていたこともあったが、そういう男子は雪ノ下の論破と人物図解析、そして『こんなこともあろうかと!』習っておいた小匙程度の暴力(合気道)で撃沈の下に“墜ち”着いている。

 ちなみにそういった男子は同席していた由比ヶ浜にもその魔手を伸ばそうという気配もあったのだが、それもまた雪ノ下の以下略。

 

 要するにそう言った『今も努力中の男子ら』は、真っ正面から提示された完全無欠な解決方法を解消し、それから彼女の前に再び現れようと苦悩の日々を続行中なのだ。

 そして、それを遂行しようと我武者羅に身体を酷使する姿は、まさにランナーズハイの真っ最中。

 苦痛を快楽へと変換しようとする脳の処理能力は、雪ノ下への淡い恋心を信仰心へと昇華させていた。

 

 女子?

 女尊男卑の社会の中で己の恥部を晒すことは、女性観では死を著す。

 イコール、そもそも生活指導へ引っ張られたり、己から出頭するような間抜けを犯すことは無いのだ。

 故に、女子の相談者は此れまで来客した覚えが無い。

 が、そんな彼女らも雪ノ下の(腕力的な)『強かさ』に憧れを抱き、彼女を信奉する者も少なくは無い。

 当然、これも由比ヶ浜のツイッター効果であるが、その背景にはどこぞの『独神』が社会背景に一手噛んでいる節が無くも無く云々諤振。

 

 そして、全てを理解した雪ノ下は、深々と溜め息をはいた。

 

 

 「……どうして、こうなってしまったのかしらね」

 

 「なるべくしてなったという体にも思えるのでおじゃる」

 

 

 ああ゛? ひぃっ!? と、余韻に浸りたかった雪ノ下が睨みを利かせ、材木座はそれに怯え震えていた。

 この二者の遣り取りでは、とてもではないが依頼者と解決者の関係性を連想させるには至れなかっ以下略。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 さて、入学式より三日後のこと。

 予算会議は滞りなく収束した。

 そもそも、部費というものは学生にとっての“上の方”である学校そのものから纏めて下げられる。

 それを適切に配分するというのが、『生徒全体の活動』を支援する『生徒会』の主な仕事である。

 生徒の自治組織だと思われがちなのだが、実情は学校の下部組織。

 支援する側が存在しなくては、自分たちで稼ぐだけでは追いつけない金の問題はどうしたって解決しきれないのだ。

 学校によっては自分らで稼いで使う自転車操業を執り行う生徒会もあるらしいが、少なくとも俺はそれに遭遇した覚えは無い。

 

 『配分する予定』である全体金額は過度してはいけないし、逆に余らせても問題が残る。

 少ない金額でやり繰りすれば、それはそれでエコというか節約というか、いい印象を与えそうではあるけれど、そうなると『その次』に必要な金額を「少ない方で出来るだろう」と全体予算が削られてゆく恐れも残るのだ。

 これは政治の世界でもある話で、年末に工事が多いのは『残った金』を“使い切る”ための苦肉の策である、という噂。

 その苦肉の策を何年やり続けてるんだよ、と言いたくなるが。

 まあ、今でも中継で野次を飛ばすような人たちが舵取りしているって自負してるんだから、そうなるべくしてなるのも渋々納得ではあるけれど。

 某魔法少女漫画でも言っていたけど、会議って、議論って、そもそもが『協力作業』の筈なんだよな。

 ……なんで野次が飛び交うんだろうね? あの日本で一番有名な『会議』はさ?

 

 取りも直さず、施される予算は使い切るのが適切だ。

 其れが各部で足りなくなる、というのはやり繰りが下手糞な証明であり、だからウチには多く欲しい、と言い募られるのは話が違う問題のすり替えでしかない。

 シビアな話になってしまうかもしれないが、『生徒全体の活動を支援する』生徒会としては、各個人のやるべき問題までもに一々取り組むような暇も必要性も正直無い。

 『支援』とは教育では無く補助であるのだから、こちらは全体の動きを把握しなくてはならないのだから、個人でやるべきことを放棄している奴を支えてやる道理も無いわけである。

 

 だから彼らの『上位』に位置するこちらとしては、正しく『部費の必要性』を問う為に『実績』を要求する。

 足りなければ、施そう。

 理由があれば、援助もする。

 但し『餌』の取り方くらいは弁えているモノだ、という前提で、だ。

 こちらは教育をしているのではなく、既にそれらを『ある程度(義務教育で)』熟してきた相手に対峙して言うのだ。

 其処にはなんら可笑しなことはない筈だろう?と。

 

 

 

 ――……時に、話は変わるが。

 烏丸イソラが勝てなかったと云う実情は、要するに『生徒会(若しくは、という概念)そのもの』が学校にとっての下部組織であり、学校と生徒間の間に挟まって折り合いを取り成す中間管理職である。という部分を、後付けながらに理解した所為であるとも言える。

 1科生と2科生の軋轢を解消しよう、という七草真由美の目的が学校の意向に沿わないからこそのリコール成功が下地に在ったのはさて置いても、『劣等生であるはずなのに優等生に勝った』という『珍しいモルモットが台頭してきた』。魔法科校上層部からしてみれば(“それ”が『教師か』それより『さらに上か』はともかく)件の事実を援助する需要の方が、比率としては『旨み』が多かったわけである。

 彼の提唱したスローガンにこそ、学校に踊らされている、という壺中の毒虫を思わせる『潰し合い』を、前提として掌握している。そんな心中を八幡にも想起させる。

 頭が良いということは必ずしも人生を有意義に過ごせるものでは無い、ということをむざむざと見せつけているような、そんな刹那的な生き方をする烏丸イソラに、八幡が敬意を抱かない日は何気に無い。

 だからこそ彼には『そういう思考が確立した』のだ、と言えなくもない――。

 

 

 

 冒頭に言った通り、予算会議は滞りなく収束した。

 其処に俺らが配した策と言えば、精々が『語らないこと』程度だ。

 議論とは共同作業であるが、今回の会議は一種の討論会。

 その中で実際にやるべきことは会議の名を借りた騙し合い、若しくは詐欺師同士の腹の探り合いである。

 互いの目的がそもそも違い、相手にこちらの要求を呑ませるのが本題なのだから、情報戦に形骸化するのは必至なのである。

 

 そもそも、生徒らは総予算がいくらあるのかを把握していない。

 だから、こちらの出せる部費の上限を知らず、自分たちの『旨み』を求めてつけ上がるわけだ。

 だからこその、無提唱戦術。

 前年度との比較を敢えて廃して、しっかりと実績を報告してくれた部を中心に前年比より比較的多めに部費の配分を済ませ、部員数をしっかりと確保した同好会は部へと昇格、逆に幽霊部員ばかりであった部や問題行為が発覚した部は同好会へと格下げし、会議が始まる前に大体の事情を各部に通達してからの予算会議を実行。

 戦いとは、始める前に終わらせていなければならない。

 決定事項、として大体の事情を通達しておいての、会議本番。

 会議の場に現れたのは、ほとんどが同好会に格下げされた部や、格下げこそされなかったものの部費に文句のある部だけである。

 そうなると、実はかなりやりやすい。

 なんせその場に居るのは生徒会へヘイトを隠そうともしない敵役ばかり。

 味方が居ないのなら、全体攻撃で一撃死すればいいんだよ(ゲス笑)。

 

 とは言うものの、何もガトリングガンで鏖殺する、というわけではない。

 判りやすい負い目がある部活とかは、とっくに事前通告で部費の大幅カットを受諾しているのである。

 例えば、以前に校内で女子に暴行を加えたらしいラグビー部、とか。

 いや、全員では無くて部員の1人だけどね。

 ついでに言うと返り討ちに遭ったっぽいし。

 その時はお互いに示談で済ませて貰えたらしいけど、暴行(未遂)事件が発覚すれば学校もダメージを負うだろうなぁ(沈痛)。

 そうなったらラグビー部そのものが学校中から目の敵にされるだろうなぁ。

 それを把握していなかった顧問の先生にも、色々とスポットを当てられるだろうなぁ。

 この女尊男卑の世の中じゃ、中年且つ角刈り体育教師の再就職先は絶望的だろうなぁ。

 ていうか、示談で済ませたお相手の女子がすげぇな。

 そんな未来予想図を交えた現実を、つらつらと連ねてみたのが決定打。

 脳筋と噂される彼らにも、相応の想像力は働いたようである。

 実に快く、部費の削減は受諾してくれた。

 

 話を戻すが、そういう問題行為をしているところは予め参加しておらず、文句があるのは実績と部員が無いからこその()部活動組。

 幽霊部員で構成されているところは、普段の参加率や実績の有無で削られるのは当然のことで。

 例えば茶道部。

 名簿を見るに10人ほどいるらしいのだが、報告されている活動日に茶室へ赴いたところ、がらんとした空虚な空間だけがそこに広がっていた(詩的表現)。

 失礼ながら茶道具を色々と拝見させてもらえば、どれもこれも埃を被った状態で……。

 これは活動していないな、と確信に至る。

 活動してますー、喫茶店でお茶しに行ってたんですー。と言い訳されるも、部費で飲み食いすることを許可した覚えは当然ない。つうかそれで言い訳になると思ってんのかお前ら何処の放課後ティータイムだよぉ! と茶道具代お茶の葉代と年間費50000も取っていた部費を2000まで大幅カットに。

 茶道部員の悲鳴が響く。嬉しい悲鳴ってやつですね! 違うか。違うな。

 

 そんな茶道部の尊い犠牲も相俟って、生徒会へ文句を言いたかった他の“訳あり”な方々はこちらの言い分をしっかりと受諾してくださったご様子であった。

 これには城廻会長も苦笑い。

 苦笑い?

 そうだね。八幡、会長に何も伝えてないもんね。

 それなのに策に乗ってくれた会長サイコー! 超愛してるー!

 ……この会議、取り仕切ってるのが会長だから、所々で俺が発言してもヘイトが集まるのが筆頭の城廻会長なんだよなぁ。

 ご本人、俺のやったこと気づいてないっぽいけど。

 え?最低? いやいや、能ある鷹が爪隠しているだけだぜ? この世の中で男子が目立つのはお互いに不幸しか生まないからね。

 ほら、俺がまかり間違って会長の(今の)立場に付いちゃったりしたら、会長本人からのヘイトが来ちゃうじゃん!

 『3年』の『女子』をしっかりと立てなくっちゃ!(使命感)

 べっ、別にコーヒーの砂糖やミルクを補充してくれないからって嫌がらせしているわけじゃないんだからねっ!

 

 

 

 俺とエリカの用意した会議進行の下書きの効果も相俟って、会長の弾丸論破で意気消沈した面子が出てゆく中、最後に残っていたのは何故か意気揚々としていた、これまでの実績が無いにもかかわらず予算を多目に保持していたサッカー部。

 やる気にあふれている金髪ライオンが、星を廻せ!と云わんばかりに乗りこんで来た。

 まるで世界の真ん中に自分が要るかのような振る舞いは、傲慢の一言に尽きる。

 何をもってして自分たちは大丈夫だと思っていたのか。

 当然、こちらも弾丸で論破な会長の(生徒会総意の)ツッコミがさく裂したのは言うまでも無い。

 

 やはり備品管理をしっかりと出来ていなかったことがマイナス点を付ける良い理由になってくれた。

 部員はマネージャー(女子)ばかりを多目に確保したらしいが、それを部費向上の加算にするには色々と無理がある。

 男子が入らなかった理由は、少林サ●カーもどきが逆に新一年生のやる気を萎えさせた、らしい。

 本末転倒なことやってるなあ、となんとなく結果が見えていた身としては、呆れる他にリアクションがにい。

 

 人情で訴えても無駄無駄ぁ! その場合は書面通りに進行してください、と予め教えてあるもんねぇ!

 つか、金髪が泣き落としみたいな真似をしたが、我らが城廻会長にはそういう情緒面での男女の機微は一切無い。

 ここ三日ほど、生徒会で顔を突き合わせていたのだが、俺にはプラチナムなコンシェルジュに匹敵する観察眼がある。

 この人間観察力の前に丸裸となった彼女の本心は、……ぶっちゃけ敢えて曝け出す必要性が無い程に裏表が無かった。

 ついでに言うと男女の差異で存在するはずの距離感も微妙に無かった。

 そこから導き出された結果として、この人は無自覚エrゲフンゲフン!なタイプの超近距離型。

 その上でこちらの内側にいつの間にか踏み込んで来ているのだから、コレが暗殺者だったと思うとぞっとする程だ。

 ナイススタイルの桂木弥子というか、完成された潮田渚(♀)というか。

 ……あえてキャラに例えるとマジで怖いな。いつまでも生徒会に所属するのも危ないのかもしれん。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 時に、世間の認識は実はかなり過剰評価が蔓延っていたりする。

 岡目八目を働かせろよ、冷静な目って奴をどうにか動かせよ。

 そんな風に愚痴りたいほど、世間の、特に日本で蔓延っている力関係の相関図は、かーなーり酷い。

 

 

 カンピオーネ>IS>魔法>>>>魔術>一般人

 

 

 と、これが世間での力関係なのだが、実際はこう。

 

 

 カンピオーネ>まつろわぬ神>>>>(越えられない壁)>>IS>>魔術>>>魔法>>一般人

 

 

 あれ、間になんか入ったな。まあそれはともかく。

 カンピオーネとまつろわぬ神が、所詮人の手の『兵器』でしかないISをはるかに凌駕しているのは当然として、学術として先立って確立している魔術が魔法の上位に位置するのもこれまた当然のことではある。

 どうにも世間一般の人らは、自分たちが開発して押し進めている『魔法』という新技術が名称通りに優位であると“思いたい”らしい。

 まあ女尊男卑って言う普通に間違った社会風潮が出来上がっている時点で、その勘違いを正さないままに蔓延らせちまったのも、ある意味当然のことかも知れない。

 

 さて、そんな中で魔術師が名を売っていたとして、周囲の者らはこう言いたいのだろう。

 「で、それ何が出来るの?」

 と。

 

 ……つーか、問うていたよ、城廻会長がさ。

 悠然と自分の優秀さを語る、葉山何某という金髪ライオンにな。

 

 

 「……てっきり、魔術でなんとかすると思っていたけどな」

 

 

 (つわもの)どもが夢の跡。

 夏草は生えちゃいないが、閑散とした会議室を眺めながら抱いていた懸念をポツリと漏らす。

 結局論破され、次年度の予算までカットされ尽くした金髪ライオンはがっくり肩を落として立ち去って行った。

 ん? 誤字があるって? 別に間違っちゃいないさ。

 ――本年度だけじゃマイナス分に足りないんだよなぁ……。

 

 女マネが参入したところで、プレイヤーでもないのに予算を配分できる筈も無いのは言うまでも無い。

 つーか、増えすぎて逆にこれから大変なんじゃないかな。

 マネージャーをお断り、とするには、今の社会風潮が許してくれないと思うし。

 

 

 「出来ること、と聞けば普通に色々あるはずなんだけどなぁ。結局初心者でしかなかった、っていうことなのか?」

 

 

 勝負には予定通り勝ったというのに、何故か負けたような煤けた気分。

 考えて観れば、世論が普通に酷いIS(兵器)をファッション感覚で弄ぶという風潮。

 危機管理に対する想像力の欠如が著しいですわ……。

 

 

 「なんとかはする、と思うわよ? 彼はそういう男だもの」

 

 「あん?」

 

 

 人は居なかったはずの会議室に、俺以外の声が凛と響く。

 っていうか、深雪の声だった。

 でもその割には随分とふてぶてしく聴こえる不思議。

 

 

 「具体的に言うなら、自分の小遣いを多目に入れるからと部員のカンパで部費を賄うように促すのではないかしら。自分一人が泥をかぶる、というやり方は決して選択しない男よ、彼は」

 

 

 振り返れば、部活紹介でやらかした彼女の姿が其処に在った。

 やらかしたことはともかく、正直どうでもいいので記憶の端っこの方に置いといた女子だ。

 確か名前は……、と思考を巡らせる中、彼女はにこりと微笑んで言葉を続ける。

 

 

 「お久しぶりね、火鉢くん、と呼べばいいのかしら?」

 

 

 ――やだ、馴れ馴れしい……!

 

 

 「――……ああ! あの、はいはいはいはい、久しぶりー!」

 

 「ちょっ、貴方思い出してないわねっ?」

 

 「そ、そんなことねーしぃ?」

 

 

 ホントホント、ハチマンウソツカナイヨ!

 ただ思い出せないだけだからね!

 ……で、誰だっけ?」

 

 「忘れてるんじゃないの……っ!」

 

 

 やべぇ声に出てた。

 つーか、ガチで知り合いっぽいけど、えーと、

 

 

 「ユキノシタサン、だよな。エリカと同じクラスの」

 

 「何処まで忘れているのよ貴方は! 雪ノ下雪乃! 一年前に貴方がその(てい)になった原因を作った雪ノ下議員の下の娘よ!」

 

 

 ………………ああ!

 そういえば居たわ、一年前にもそんな人が。

 

 

 「思い出した思い出した。そっかー、そういえば総武だったっけ。おっさん元気?」

 

 「おっさンウンッ、……お蔭様でね」

 

 

 一瞬変な声出てたけど。

 

 

 「てか予算会議はもう終わったけど? 雪乃さんはどっか部活に所属していたんか?」

 

 「先日名乗ったでしょ、って……っ!」

 

 「……え、何その顔」

 

 

 部活と、それに所属している生徒のリストをパラパラと紐解きながら、言葉の詰まったことに見上げると、妙な顔で驚愕している雪乃さんと目が合った。

 驚いているような、怒っているような、その実、――何かを発見した様な?

 

 

 「そう……、そうね、貴方が居たわね……」

 

 「おい、1人で納得しないでくれない? なんか嫌な予感がビンビンにするのだけど?」

 

 「比企谷八幡、貴方にお願いがあるのだけびゅ」

 

 

 問いかければ、本名で口を開く美少女。

 慌てて、その口を鷲掴みにする。

 

 

 「……おい……! 何処で誰が聴いているかも知れんのだからおいそれと本名呼ぶなよ……!」

 

 「ンー! ムー! ムー!」

 

 

 俗に言うアイアンクローで発言を阻害。

 すると、――会議室のドアがガラリと開け放たれた。

 

 

 「八幡っ、一緒に帰り……何しているのかしら?」

 

 

 エリカだった。

 素性を知っている人物がやって来たことに安堵しつつも、一瞬で機嫌の悪くなったような声へとガラリと変わった彼女に、思わず手が離れる。

 

 

 「おう、いいけど、ちょい待ってくれ。なんか雪乃さんが用事あるとか言うから」

 

 「……“ユキノ”サン?」

 

 

 んうえい? なんか更に機嫌悪くなってないこの人?

 

 

 「けふっ、比企谷くん、いえ、火鉢くんと呼んでほしければ、奉仕部に入部しなさい」

 

 

 そして空気を読まずに口を開くのがユキノシタサンクオリティであるらしい。

 ……で、奉仕部って何?

 

 

 





~残念系ラノベヒロイン
 この世界のゆきのんははいてません!


~愉快痛快
 かーいぶつらんどの剣豪将軍!推参!


~このふざけた時代へようこそ
 Toughboyは無法者的な意味らしいけど、スラングで『運が悪いね』というのもあるとか小耳に挟みユアーショック
 でも俺の英語レベルはグーグル先生にお任せするレベルなので眉唾もいいところだぜヒャッハー!



救済とは何だったのか
あと色々小ネタが多かった気がするけど
見つけたらご報告ヨロ
感想もお待ちしてますわ

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