やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス 作:おーり
「うわー、IS学園で集団昏倒事件だって。怖いねー」
「……由比ヶ浜さん、貴女新聞読んでないの? その話題は一昨日からもう噂されていたわ」
総武という千葉の県立高校の旧校舎のとある空き教室にて、そんな会話が交わされた。
片方の、胸部装甲がふくよかなピンクの髪を団子状にまとめた少女が、部屋にある備え付けのモバイルをスクロールさせつつ話題を提供すれば、もう片方の黒髪でスレンダーな美少女と呼んでも差支えの無い少女が呆れたように返事をする。
片方が「ええっ! わたし知らなかったよぉっ!?」と驚愕の表情で振り向き、その勢いで、最近衣替えをしたお蔭でシャツ一枚となっている薄着の膨らみ部分がたゆんとゆれた。
恐らくは世間が賑わっているのに自分だけ何故教えてもらえなかったのか、という抗議に似た反応なのであろう。しかしその抗議も虚ろ空しく聞き届かず、もう片方はゆれた胸部装甲に不快な目を自然と向けていたのみである。
この教室には男の目が無い為か、それとも空調機すら備え付けられていないので環境的な不快指数がこの先うなぎ上りになるのも相俟ってか、着衣の乱れにすっかり頓着が無くなったピンクな彼女に、黒髪の少女は自然と「謹みを覚えろ」と実の親みたいに躾たくなる衝動に最近駆られる。むしろそれはペットを躾ようとする感情の方が適切な気がする、と自身の中で訂正を現在入れているところであるが。
ぶっちゃけてしまえば、巨乳の方が由比ヶ浜結衣。貧乳の方が雪ノ下雪乃といった。
久方振りのご登場である。
「……何故かしら、今物凄く世界に喧嘩を売られたような気がするわ」
「どしたの、ゆきのん。なんか壮大だよ?」
気の所為だ。
「いえ、何でもないわ。きっと気の所為よね。それはそうと由比ヶ浜さん、貴女『相談メール』を開いていた筈なのになんでそういう話になるの?」
被りを振るいながら、由比ヶ浜の手元を覗きこむ。
其処には普通にネットのニュースサイトに繋がった画面が映し出されており、雪ノ下が言ったようなメールらしきものは見当たらなかった。
「いや、全然メール無いから暇になっちゃって。もっと地名度を上げていった方がいいのかなぁー」
「知名度、ね。まあ、相談することが無いというのならそれはそれで平和な証拠なのよ」
2人が言うのは、『千葉県横断お悩み相談メール』という此処『奉仕部』が請け負っている部活の活動内容の一環の話だ。
部活そのものの理念とやらは『飢えた者に魚を与えるのではなく、魚を捕る手段を与える』というもので、自己改革を促すことを目的とした受動的な活動内容となっている。
しかしそれだけでは当然のことながら学校的には活動している、と主張することは出来ず、部の顧問である平塚何某という女教師からの提案で用意されたのがこの『質問メール』というシステムなのである。
現状、由比ヶ浜の言う通りに認知度が低速飛行しているのが常なのではあるが。
「それにしても、IS学園、ね……」
雪ノ下はここ数日世間を賑わせている、件の話題の筆頭を訝しむ様に口にする。
それに何か不穏な気配でも感じたのであろうか、由比ヶ浜はやや怯えたような目で彼女を見上げた。その仕草が怒られることを覚悟した様なペット的な物に見えてしまい、雪ノ下は「この娘空気を読むのが得意って言っていたけれど、単に下っ端気質というだけなんじゃないかしら」等と失礼極まりないことを“親友”に思う。親友、って何だっけ。
「どしたのゆきのん? 其処に中学の同級生とかが行っていたりするの?」
「さぁ。私、同級生とは基本的に連絡手段も手にしていないから、把握できそうにない事項よね、それ」
「ゆきのん……」
悲しいものを見るかのような目を向けられた。
解せぬ。
「そもそも同じ学校だった子達が国際的な専門学校とも言えるあそこへ通えるほど人間的に出来ているとは言い難い子ばかりだったから恐らくは私の事を知っている子なんて一人も其処には居ないと断言できるけれど。というかIS学園ってそもそも嫌いなのよ私。適性値が無かったから言っているわけではなく、単純に現在の女尊男卑社会が蔓延っている象徴的な立ち位置なのが許せないのよ。いえ、女性が優先、というよりは社会に通ずるように出来上がる、という風潮になるのならば文句なんてないのだけれど、正直無能ばかりが蔓延っているのが現状よね? 私はそういう自分に実力が無い癖に威張り散らかすような品の無い彼女たちの態度が一番気に食わないだけだわ。そんな社会の筆頭に誰が行きたがるものですか」
「……うん! そうだね!」
早口で捲し立てられて大体半分くらい聞いていなかったが、なんとなく空気を読んだ由比ヶ浜は元気よく首肯していた。
雪ノ下が解せぬ、と思ったと見受けられた次の瞬間には以上の宣言である。
ゆいゆいはくうきがよめるこ。
「話が逸れたのだけれど、そもそもそういう話ではないわ」
「ん? じゃあ何が言いたかったの?」
気を取り直し、雪ノ下が嘆息すると由比ヶ浜も表情を元の疑問符へと換える。
それに対して、雪ノ下はやや言い辛そうに、
「……あの男よ。彼も、確かISを使えた筈だから……」
ひょっとしたらIS学園に通っていたのかもしれないわね、と推測を語る。
が、
「ゆきのん。男の子はISを使えないんだよ?」
この始末である。
「………………………………由比ヶ浜さん、貴女、世界初の男性IS操縦者が誰だったか、忘れたの……?」
「え、ええっなにゆきのん怖ッ!?」
長い沈黙の後に、絞り出したような声音の方が恐ろしく感じ、由比ヶ浜はテンパり気味に狼狽える。同時に、諭すように言った数秒前の己を本気で恨んでいたりもした。
実際、見下すような視線が絶対零度過ぎて由比ヶ浜がしぬ。命中率30%とかウソだろおい、と某腐った眼球の男子高校生ならばモノローグを入れているところであった。
「はぁ………………。貴女の初恋の君、よ」
「はつこ……? っ!? いやっ、ちがっ、べ、別に恋とかそんなんじゃないしっ! 気になっているだけだしっ!」
答え合わせ的な意味合いで具体例を挙げてみれば、気づいた彼女が必死で否定する姿に、むしろ雪ノ下は目を見開く。
現在進行形なのか。諦めてないのか、おい。といった具合である。
まともな会話もままならない、付き合いだして一ヶ月半のこの部員に溜め息を吐き、雪ノ下は窓の外へと視線を逸らす。
由比ヶ浜はまだ何か言い訳をしているようだったが、そんなことを軽く聞き流し、自分の中にあった推論に、暇を飽かせた思考を巡らせる。
ひょっとしたら今回の世間を賑わせているこの事件、裏側に何かしらの陰謀が隠れており、それにISを扱える彼自身が関わっていたのかもしれない。等と、三流のライトノベルみたいなプロットを妄想しかけて、被りを振るった。
こんな妄想を一々文章に興すほど、彼女の高校生活は暇では無いのである。
「だからヒッキーのことは好きとかそういうのじゃなくって、ゆきのん聞いてるのっ!?」
無論、聞いてない。
× × × × ×
「ケトゥス、ケートスとも言うんだがな。ギリシャ語で、確かアザラシとかの海獣を指す言葉だったが、神話的に言うとそいつは本物の怪物を指す。
古代エチオピアの女王カシオペアの娘・アンドロメダを救うために、英雄ペルセウスがゴーゴンの首で石にしたのがそいつだ。
くじら座の元になった巨大な怪物で、形状は犬みたいな頭に海驢のような胴体らしい。
竜だって説もあるけど、まあどっちだったとしても同じだろ。
巨大な海の怪物で、星辰、星の並びを顕現させて、
ここまで似通っているとラヴクラフトがそいつの資料を把握していて、意図して創ったんじゃないかって思えてくるよ」
「えーと、……えちおぴあ、って何処だっけ?」
「アフリカの東部だって話だぞ。行ったことは無いが」
「だろうね」
お久しぶりです小町です。
つい最近、両親から「八幡は実はうちの子じゃなかったんだ」と教えられてナ、ナンダッテー!と驚いた小町です。
そんなわけで会いに来ても追い返すように云われたわけですが、血が繋がって無くてもお兄ちゃんはお兄ちゃんなので、そんな真似は致しません。むしろ“間違い”推奨です。小町は準備いつでもオッケーだよお兄ちゃん!
でもわざわざ口にしたりはしません。お兄ちゃんの心の拠り所が小町であるのは明白なので、決して突き放すような真似は
幼な妻が既に居るお兄ちゃんですが、お兄ちゃん的には夏川●涼的なフェイク彼女と思って間違いない筈。その仮面恋愛に生まれる空虚な隙を突くのが真に鍛え抜かれた妹の成せる技なのです。あっ、これってチバイモ(千葉の妹、の略。決して千葉産のお芋の事じゃないよっ☆)的にポイント高いかもっ。
でもハーレムルートも捨てがたい。むぅ、なやむ。
ちなみに両親は女性人権団体に襲撃に遭って以降お兄ちゃんと一切関わろうとしない上に、要人保護プログラムに則って苗字まで変更しました。愛がありません。ふぁっくです。助けてくれたのもお兄ちゃんなのに。元お父さんの頭皮が後退するおまじないをこれから毎晩かけようかと思います。
そのことをお兄ちゃんに言ったら、「あー、アレな。本当に在るとは思わなかったよ、てっきり右京さんってフィクションかと思っていたし。小町もやっといた方が良いぞ、苗字同じままじゃやっぱ色々不便だろ」と平然と応えてくれました。
元両親のことはどうでもいいみたいです。なので苗字はこれから変更する予定です。でも小町がお嫁に入る時には『比企谷』に戻そうね、お兄ちゃん?
さてそんなわけで、恒例的に我が家へ舞い戻り、夕飯の支度であるさやえんどうのスジ取りを手伝ってもらいながら、件の事件で一体何が起こったのかを問い質している真っ最中。
べっ、別にお兄ちゃんが何処かでフラグを立てていたことが興味あるんじゃないんだからねっ! ただ事件の裏で起こったことを把握しておけば、この先色々政府の弱みを握れると思っているだけなんだからっ!
……というか、話を聞くに、中国から戻って来たんだね鈴ちゃん。パルパルパルパル……。
「どうした小町、目が虚ろだぞ」
「そんなことないよっ☆」
「……みたいだな。気のせいか。……そういやぁ、結局アイツは誰だったんだろう……」
と、思い出しているみたいなのは学園で遭遇したという、お兄ちゃん曰く『目の腐っている私』らしき気配。
多分だけど、元お父さんらから聞いた四葉産のクローン体かな。小町的にはお姉ちゃんだけど、今はどうでもいいかなっ★
「ところで、なんでえちおぴあ?の怪物くん?が千葉の、というか東京湾に眠ってたの? 流れてくるには無理が無いかな?」
必殺、話題そらしのジツ!
アフリカの東、と聞いていたので多分中東系?辺りの地図を思い浮かべつつ、海図の見通しの悪さを指摘する。
多分だけど、全体的に内陸形だよね?
「流通経路そのものはしっかり“視て”ないけどな、どうやって流れ着いたかって、まあぶっちゃけ買い取ったらしいぜ。遠方から遥々と」
「何考えてるの、その人たち……」
「邪神崇拝してる奴らの思考回路とかわかるか。まあ、少なくとも
宗教って、ほんと『人間』を引き下げるよね。
まあそれを作っているのも人間なんだけど。
「で、そんなのをお兄ちゃんはどうやって倒したの? 力技?」
「目覚めてもいない怪物を倒せる程の霊的な権能は所持してねぇよ。人霊ならまだしも、相手は完全に神話レベルだからね? コズミックホラー系列じゃないだけまだマシだったけどさ。
……まあ、倒したっつうか、再封印だな。……………………アテナが」
お兄ちゃんじゃないんかいっ。
「って、アテナちゃん? あれ? IS学園に一緒に来ていたの?」
「いや、呼んだら来た。アイツ、俺と令呪で繋がっていたりしないよな。Staynightのセイバー宜しく一瞬で背後に控えていたんだけど」
「何それすごい」
「つーか、一応女神だぞアイツ。小町はなんでちゃん付け?」
「だってアテナちゃん見た目わたしより年下だもん。小町的には妹扱いしたいです」
うちの妹様の認識力ハンパネェ……、とツイートするお兄ちゃん。
よけいなお世話です、と返信なう。
ていうか“すていないと”の発音、なんでそんな無駄に流暢なのお兄ちゃん。
「まあともかく、IS委員会に今回の不祥事の損害を請求してこのお話は終了。学園の生徒にも緘口令を強いて、っつーか学園そのものを移送するために長期休校になったみたいだけど、以後は俺の知ったこっちゃないな。
ただこれだけは言っておく。小町、さ来年にはもう受験に入ってるだろうけど、間違ってもIS学園は進学先に選択するなよ? この分だと移転先でも何かしらの問題が控えていそうで気が気じゃない」
心配性だなぁ、お兄ちゃんは。
言われなくても、元より適性値が実はCマイナーな私はあんまり乗り気じゃない。元両親は頑張れって言うけど、多分筆記の方に何かしらの不具合を見出しているからなんだろうねぇ。お兄ちゃんと違って小町はお勉強苦手だし。
さて、そんなことより、
「そんなことはいいとしてお兄ちゃん。もっと他に話すべきことあるよね?」
「……なんかあったか?」
俺のログには何もないな、と嘯きつつ目を逸らす。
分かりやすいなぁ。
「うちに来たのが事件が起こってから翌日じゃなくて、一日間を置いたのはなんで? テロリストさんたちには、何をしてきたのかな?」
「あー……」
ぜーんぶお見通しだよ。まったく、お人好しなんだからお兄ちゃんは。
× × × × ×
「――国を、学校を……、作りたい……!
明日をも生きる力の無い彼らを、守れるだけの国土と武力を!
世界中の子供たちが食べていけるだけの知識と知恵を与える場所を!
そしてその日の命を繋ぐための給食を!
先ずは給食が目当てでもいい!
ただ一方的な施しだけで生きさせるための場所ではなく、教育を『受けられる』という理由が必要なのよ!
そのために必要なのが『学校』という大義名分を掲げられる場所!
食べる為だけの場所では無く、食の得方を教えるという場所であるという意義が!
その為には、お金がいるの!
その為の技術を、その為の力を、その為の人材を!
全て整える為には莫大な資金が必要不可欠なのよ!
産業を作り、水を作り、それに従事できる人間を作る!
国家を、世界を理解し、適切な対策を打てる人間を作り、そして貧困を駆逐する!
その為には資金が要るのよ! 莫大な資金が!!!
私は、―― 金 が 欲 し い の よ ッ ッ ッ ! ! !」
× × × × ×
絞り出すような慟哭は嗚咽にも似ていて、それが紛れもなく本心であり、そして絶望した彼女の懇願だともはっきりとわかった。
というか、俺の権能での強制で暴露させた本心だったので偽り様も無いのは明白なわけだったのだが。
全て終わった後に、顔を両手で覆って悶え転がる彼女は実に滑稽であった(ドS感)。
良い人じゃねーか、スコールたん。と
要するに“そういう目的”の為に、彼女は彼女で『武力』と『資金』の両方にも通じるISそれも専用機を収集していた、という事実が明るみになったわけである。
まあ、機業の目的にもそれなりに沿っていた可能性も無きにしも非ずであったわけだけど、ゆくゆくの目標が其処だとすると、やはり罪悪感がやや半端ない。
困ってしまった俺は、少しだけ手を貸すことにした。
「ん? お兄ちゃん?」
「心配そうな目で見んな。別にテロリストを擁護するわけでも、俺がテロるわけでもねーよ」
本当はきちんと罪を償わせるのが筋だ。
目的はどうあれ、やらかしたことが悪いことならば、それで被害を負った相手も当然存在しているだろう。
現に、下っ端の小悪党な魔術師とか人員なんかは、大概が明るみに出ない“悪人”であることが『透視』出来たから突き出したわけだし。
しかしスコールを筆頭とした一部のIS乗りなんかは、元より彼女の方針を信奉していた者が多かったらしく、更識の人員も借りて世界中に点在していた機業の構成員を片っ端から捕縛&掌握した一日の内には、それなりの機関へと突き出すには値しない『悪党』もそこそこ居たわけである。
そんな彼女らを改めて一纏めにして、
全て曝け出させられてしまったが。
妹には、勝てなかったよ……。
「わーお」
「……なんすか」
「いやぁ、別にいいいけどさぁ。ていうかお嫁さん候補が一日で何人増えたの?」
「そういうんじゃねーし。助けたからって惚れられるとか、そんなことラノベじゃねーんだからありえるわけがねーし」
「まぁまぁ、そういうのいらないから、構成員が何人なのかを言ってくれればいいから」
「………………30人弱?」
「ハーレムだねっ☆」
嬉しそうに言わんで下さい。
ていうか、彼女らが把握して更に下にいる別働隊とかまでは流石に手が回んなかったので、まだもうちょっと人員は居そう。
つーか全員を俺が面倒見るってどういうことだ。更識仕事しろ。いや、仕事はしてくれたけど、もうちょっと。せめて放り出さないで欲しい。最後まで面倒見てください。おねがいします。
別に女性だから助けた、というわけじゃない。
中には極々少数だけど男性も居たし。
しかし、彼女らのような人間は、そのままでは歴史の影というか世界の裏側というか、そういう場所へとひっそりと野垂れ死ぬのが行く末に見えてしまうと、どうにも寝覚めが悪いというか、極まりが悪いというか。
というか、どーにも機業の面子らはコードネームがあった子が特に人権を行使し辛い人種、まあ要するに戸籍の消失している子ばかりである、という事実があったのが一番の問題だ。
その時点で既存の対応機関には回せない以上、人知れず掻き消されてしまうのがオチである。
結局は、そういうのを見過ごせなかった、俺の甘さが招いた結末なのだろう。
にやにやすんな妹様。
「ところでお兄ちゃん、本心を引き出したってさっき言ったけど、そんな能力何時の間に身に着けたの?」
「ん、ああ。いや、アテナで思いついたんだけどな」
「うん?」
令呪みたいなあの反応速度で、
要するに、絶対的な命令権。
サタナキアの権能は元より女性の優位に立てる代物だけど、それをより一層引き立てられる、言うなれば
比企谷八幡が命ずる! お前の本心を曝け出せ!
と、まあ結果はご覧の通り。
「権能は基本的に本人のカスタマイズが結構効くんだよ。本来の形から外れてさえいなければな。
だから、限定的に行使能力にハードルを磨り上げることで念能力みたいに誓約つけて一人一回分だけ。絶対に従わなくてはならない、っていう風にちょいと弄くった。目を合わせなくちゃならないし、夜にしか使えないし、魔力が上回らなくっちゃ効果は無いし、失敗したらそれまでだし、女性にしか効果は無いけど、まあ嘘を吐かせない、っていう風にだけは仕様を調整できたからドンウォーリィ……っておい、その目ヤメロ」
ドン引きじゃないですかやーだー。
仕方ねぇんだよ、女は根本的に嘘を吐く生き物なんだろ?
だったらこういう対処を施すのは間違いじゃないじゃん。
しかし、例え妹だとしてもそれはそれなりに不評であったらしい。
……ゴミ虫を見るかのような目で見上げてくるよ、ふぇぇ……。
「えー……、いや、だって……、お兄ちゃんが鬼畜系エロゲ主人公みたいな能力まで備えていたら普通にドン引くよ……。チバイモでもポイント低い……」
チバイモってなに。ああ、千葉の妹ね。
うちのお兄ちゃんが姫騎士に『くっころせ!』から『んほぉぉ!』って言わせる主人公だったんだけどどう思う?ってスレ立てるね。と追撃の手を緩めず、サンドバッグ並みに心を痛めつける妹様流石です! お願いヤメテ。
「話を戻すけど」
「…………何の話だっけ?」
俺のライフは既に一桁よ。
「目を腐らせないでよ、さっきのは冗談だからさ」
「俺の目が腐ってるのは初期仕様だろうが。最近云われないけど、基本的に根性と並列して腐ってるのはどうしようもねーぞ」
「拗ねないでよぉ」
筋取りの手を止めて、ほっぺをつんつんしてくる小町にむしろんほぉぉ!なわけだが。
「話を戻すけど。部下にしたところでスコールさんの目標には沿えないんじゃないの? 根本的にお金が必要なんでしょ?」
「あー。そこはまあ問題ない」
「何処かからパクったの? 国の使途不明金?」
難しい言葉知ってんな。ていうか、うちの妹様がなんだかブラックなんですがそれは。
「そんな怪しい金じゃねーよ。単純に、俺の七つ目の権能が陽の目を見たってだけだ」
「七つ目……? ……何があったっけ?」
まあ、忘れてるよな。
俺も忘れかけていたけど、IS学園にてセシリア先生が『因果を集束する程度の魔術』を語ったときに、その可能性に思い至ったんだよな。
七つ目の、ルキフグスの権能を。
× × × × ×
ルキフグス。
異本『赤竜』と魔術書『
意味は『光から逃れる者』、要するに『光をもたらす者』ルシファーのパロディの一つだ。
立場的には、副官とか副王とか、魔王的な立場の悪魔らの右腕的立ち位置へと収まっているらしい。実際、某おっぱいドラゴンなラノベじゃルシフェルの
その権能というか、能力は『世界の富と財宝の管理』。
俺はこれを、要するに『流通』の因果に手を加えられる代物だと判断した。
つーか、今時一つ箇所に留まっている金銭だけで『世界に匹敵する財産』を賄えるはずが無い、ってこの権能を得た時に第一に思ったんだよ。
結局のところ、経済を支配出来得るのは流れに“直に”手を出せる存在に限られてくるわけだからな。
「? つまり?」
「要するに、ちょいと資金が上手く巡るように“因果”を結んだだけさ。よっぽどの酷い手腕でない限りは、そこそこの先行投資を考慮できるだけの充足が訪れるのだろうよ」
目立ったことと言えば、『金運上昇』のお守り(実績が伺える程度の)をアイツらが手にしたのと大差ない。
スコールの目標は先行投資にしても超長期的な代物だ。まあ、
世界が平和になる、とまでは云わないし、言えないけど。
ていうか、サイクルさえしていれば世界平和なんて訪れなくっても別に問題なかろうよ。
これも一種の先行投資だ。別に自分の懐が寂しくなるわけでもないし。
テロっていた行為そのものも、個人的には決して好ましくは思っていないけれど。
「好ましくないのに手を貸すの?」
「かといって放置しておけばまたテロるだろ。目的がある人間は根本的に手段を択ばないんだぜ?」
最短距離があればそこへまっすぐ突き進む。それもまた人間の悪癖だ。
「何処かの悪魔が言っていたけどな、人間の根本は怠けることだ、って。俺は結構それは的を得ていると思う」
「それお兄ちゃんが“そうしたいから”じゃないの?」
「ばっか、お前。俺が本気で怠けるなら先ずは先立って準備してからに決まってんだろ? つーか、つまりはそういうことだよ。怠けたいから金を稼ぐ、怠けたいから先ず働く、怠けたいから戦争もする」
「怠けたいのに、戦うの?」
「その先にそれなりの収入がある、と予見するから『そういう戦争』は収まりはしないんだよ。宗教でもなんでも、損害と収益を天秤に賭けてから動くのが『
そして、それだけで済まないから、戦争って奴はずるずると続く。
勝った奴は味を占めるし、負けた奴は辛酸と苦渋を舐める。
建てたい面子があって、しこりが残るから、また戦争を始める。
あーあやだやだ、河原で殴り合って拳闘を褒め称え合える。昭和の香り漂う番長的な解決には、どうにか進めやしないのかね、そういう『集団』ではさ。
「ま、ともあれ暫くは戦闘集団には復帰させねぇ。平和的に日本で仕事を与えて、そうしてゆっくりと生活させていけば、そのうち険の取れる奴も出てくるだろうよ」
幸いにも、どうやら篠ノ之束も『俺に』投資してくれるという話だし。
そんな降って湧いた幸運に嬉しく思いつつ、俺は、全ての事件が恙無く集束した現状に、ホッと胸をなでおろすのであった。
・ゆきのん:ゆきおんなポケモン。かくれとくせいはあまのじゃく
・亡国機業はまあ、うん…いやな、じけんだったね…
・なんか八幡がこの先の自分に全力ブーメラン投げつけている気がする
以上、今回起こった三つの出来事
あと小町の年齢は一話目で進学とか書いちゃったので一歳引き下がってます。どうやってもお兄ちゃんと同じ学校には一緒に通えないという罠
全ては運命石の扉の選択なんだ。そうに違いない(メソラシ
次回より魔法科高校篇へと移行したいと思います
以前に把握できていなかった時分は原作キャラを登場させない、って言っていた気がするけど、まあ要所要所で要点抑えるって腹積もりで動かすので、お楽しみに