IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~   作:GASHI

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日常回に戻ります。いやぁ、戦闘描写ないと書きやすくて助かるなぁ。


第11話 「明くる日」

「クラス代表は織斑 一夏くんに決定しました~。拍手~。」

 

激闘という名の蹂躙を終えた翌日、教室では山田先生がいつものように教壇に立ってSHRが行われていた。クラス中が拍手喝采するお祭りムードの教室で、ただ1人絶望の表情を浮かべる生徒がいた。・・・うん、勿体ぶる必要性皆無だな。一夏以外にいるわけないじゃん、そんなの。うちのクラスにそんな暗い表情する奴、他にいないし。羨ましいほど明るいからな。

 

「・・・先生、質問です。」

「はい、織斑くん。」

「昨日の試合に負けたのに、なんでクラス代表になってるんでしょうか?」

 

ふむ、実に正論だ。ご褒美に俺がしっかりと理由を教えてやろう。耳の穴かっぽじってよーく聞きたまえ。

 

「そ「それはわたくし達が辞退したからですわ!」・・・おい。」

 

おいコラ、セシリア。せっかく人が親切にも説明してやろうと思ったのに出鼻挫きやがって。珍しいんだぞ、俺が面倒臭がらずに善良な人間に化けるのは。あの束さんがオロオロし出すレベルなんだぞ?

 

「まあ、勝負は貴方の負けでしたが、しかしそれは考えてみれば当然のこと。何せこのわたくし、セシリア・オルコットが相手だったのですから。」

 

おい、何威張ってやがる。斯く言うお前は俺に惨敗だったろうが。一夏の時だってギリギリだったし。まあどちらにしろ、一夏の場合は一次形態移行してても負けてた気がするけど。セシリアがあり得ないくらい油断してただけだし。

 

「それでまあ、わたくしも大人げなく怒ったことを反省しまして・・・。」

 

何だろう、目に見えて態度が変わったような?・・・なるほど、これが束さんが言ってた噂のフラグ建築能力か。あれだけ敵対してた人間を惚れさせるとは、呆れたものだ。

 

「"零さん"と相談しまして、"一夏さん"にクラス代表を譲ることにしましたの。」

 

・・・セシリアに下の名前で呼ばれるのはまだむず痒いな。まあ、せっかく向こうが仲良くしようと歩み寄ってきたんだ、それに応えるべきだろう。まあ、一夏の場合は無意識にそれが出来るのだろうが。羨ましい限りだ。

 

「そうなのか、零?」

「ああ、試合の後に話し合ったんだ。」

 

いやぁ、驚いたぜ。夕食後に部屋で黙々と将棋を指していたら、セシリアが自ら訪ねてくるとは。しかも用件が謝罪とクラス代表についての相談ときたもんだ。アイツが持ってきた紅茶、めっちゃ旨かったなぁ・・・。

 

「でも良いのか?零、俺にもセシリアにも圧勝だっただろ。勿体ないって言うか・・・。」

「良いんだよ。元々クラス代表になんざ興味ないし。それに仮にクラス代表になっても他のクラスもこの程度のレベルじゃ張り合いがない。退屈するだけだ。あと面倒。」

「遠慮ないな、零・・・。」

 

まあ、9割は面倒だからだけど。クラスのまとめ役とかマジ勘弁。お遊びにもならないガキの喧嘩とか更に勘弁。・・・不真面目だって?実に俺らしい素晴らしい理由だと思うんだが。いや、他にもあるぞ?そうだな・・・。

 

「そ「それに、IS操縦には実戦が何よりの糧。クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんもの。」・・・おいおい。」

 

またかよ、セシリア。お前、読心術でも身につけてんの?そんな面倒な人、千冬さんと束さんだけで充分・・・、いや、ごめんなさい。謝りますから無言で出席簿構えるの止めてください。

 

「いやぁ、セシリア分かってるね!」

「そうだよねー。せっかく世にも珍しい男子2人がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとねー。だから副代表は神裂くんで良いよね!」

 

え、ちょっと待て。なんか自然に俺まで巻き込まれてないか?副代表なんて地位あったのかよ。そんな話聞いてないぞ。・・・なんかもう良いや。疲れたし、不毛だし。

 

「そ、それでですね・・・」

 

コホンと咳払いをして、少し頬を染めながら口を開くセシリア。へぇ、お前もそんな乙女な表情できたのか。これ見て何も感づかないとか、一夏の鈍感さにはほとほと呆れ返る。

 

「わたくしのような優秀な人間がIS操縦を教えて差し上げれば、それはもうみるみるうちに・・・」

 

セシリアの言葉を遮るようにバンッと机を叩く音が鋭く響く。出所を確認するまでもない。誰がやったかなんて状況を鑑みれば火を見るよりも明らかだ。

 

「一夏を教えるのは私の役目だ!一夏から頼まれた以上、私がやる!」

 

大声で怒鳴る箒。まあ確かに《白式》や一夏の戦闘スタイルを考えると箒の方が適切なんだが、純粋なIS操縦技能では圧倒的にセシリアに分があるんだよなぁ。この際、分担して教えれば・・・いや、無理だな。絶対に衝突する。

 

「あら、Cランクの箒さん?一体何のご用かしら?」

「ら、ランクは関係ないだろう!」

 

ほう、箒は適性Cランクなのか。束さんの妹だしAランクあってもおかしくないと思ってたんだが、一夏よりも低いとは意外だ。・・・ところでお二人さん、ヒートアップしているとこ悪いんだがそろそろ黙らんと危ないぞ?

 

「黙れ、小娘共。」

 

スパァンッ!スパァンッ!

いつもの千冬さんの出席簿制裁。教室に快音が響く。ほら、言わんこっちゃない。痛そうに頭抱えちゃって、可哀想に。100%自業自得だけど。

 

「お前らなど、私から見たら例外なくひよっこだ。まだ殻も割れていない状態で無駄に優劣をつけようとするな。」

 

流石は天下のブリュンヒルデ。発言のスケールが段違いだ。ただ一つ、俺をこいつらと同類とみなしてることが多少、いや結構気に入らないけど。・・・あ、そうだ。

 

「箒、お前一夏の教官解任な。」

「な、何故だ!?」

 

よほど納得がいかないようで再び勢いよく立ち上がって抗議する箒。お前、また叩かれたいの?出席簿痛いだろうに。

 

「一夏から聞いたぞ。お前、ISの操縦は一切教えずに剣道だけやってたらしいな?」

「た、確かにそうだが・・・。それが何だというのだ?私は一夏を鍛え直そうとだな・・・。」

「確かに剣道の練習も戦闘において必要ではあるが、一辺倒になるのは問題だろう。大会直前に一夏に泣きつかれて大変だったんだぞ?」

「うぐっ・・・。」

 

反論の余地が残されていない箒は何も言うことができない。ってかその泣きそうな表情止めてくれ。俺にだって罪悪心くらいあるんだよ。雀の涙ほどの。

 

「それとセシリア。昨日と話が違うぞ。自分で俺に教えてくれるように頼んどいて何ふざけたこと言ってるんだ?」

「そ、それは、そのぉ・・・。」

 

まったく、どいつもこいつも手間がかかる。山田先生が時間と雰囲気を気にしてアタフタしてるし、そろそろ終わらせよう。

 

「一夏、箒、セシリア。お前ら全員俺がまとめて見てやる。文句は受け付けない。良いな?」

「「「はい・・・。」」」

 

ふぅ・・・。とりあえずこれでOKだな。後はあの人の気が変わる前に可及的速やかに行動を

スパァンッ!!

・・・無理だった。

 

「神裂、今は私の時間だ。自重しろ。」

「・・・猛省します、はい。」

 

そんな殺生な。自分だって俺の発言を遮らずに最後まで静聴してたじゃないですか。わざわざ終わるのを待ってから叩くとか理不尽も良いとこ・・・、だから出席簿構えないでくださいって。貴女が使えばただの鈍器ですよ、それ。

 

「なぁ、ちふ「織斑先生だ。」・・・織斑先生。」

「何だ、織斑。質問か?」

 

唐突に一夏が口を開く。おいコラ一夏、人が脅されてる時なんだから少しは空気読め。出席簿が俺の頭の上で常時落下可能状態のまま千冬さんの意識そらすとか拷問か?出席簿にずっと集中しなきゃだろうが。

 

「えっと、零ってどのくらい強いんだ?ちふ・・・、織斑先生なら知ってるんだ、でしょう?」

 

・・・お前、いくら相手が姉だからって気緩みすぎだろ。呼称どころか敬語まで曖昧じゃねえか。まあ、出席簿が一夏の頭上に移ってくれるなら俺としては有り難いけど。

 

「それはわたくしも気になりますわ!代表候補生であるこのわたくしが手も足も出ないなんて、普通ならあり得ませんわ!」

 

おいセシリア、さりげなく自分強いですよアピールすんの止めろ。さっき千冬さんに一蹴されたばっかだろうが。

 

「ふむ・・・、隠すことでもなかろう。神裂。」

「何すか?」

「入試の成績を言え。」

 

入試の成績?・・・ああ、あれのことか。確かにあれが一番分かりやすいよな。

 

「1分で教官潰して終了。以上。」

 

これ以上ないほど簡潔に結果をまとめる俺。それだけでも十分クラス中が驚くに値するものだったと思うが、千冬さんは満足しなかったようで出席簿で頭を軽く叩かれた。・・・強弱関係なく、事あるごとに他人様の頭叩く癖直した方がいいですよ?

 

「私はその後を聞いている。続きがあるだろう。」

「・・・暇だったからもう一回試合しました。他でもない貴女と。」

 

はぐらかしたら脳震盪じゃ済まないと考えた俺は正直に白状した。俺の言葉を聞いた生徒たちは皆一様に驚愕を露にしている。結果も言ってないのに気の早い奴等だ。

 

「聞いての通り、神裂はこの私と勝負し、私が本気を出して倒しきれなかった男だ。貴様らのようなヒヨッコが到底勝てる相手ではないのさ。」

「えっ!?もしかして零、千冬姉に勝ったのか!?」

 

おい、一夏。いつ千冬さんがそんなこと言ったんだ?盛大な誤解を大声で振り撒くな。騒ぎ出した女子生徒鎮めんの面倒だろうが。

 

「負けだよ、俺の。こんな化け物に勝てるわけないだろ。」

「え?でも千冬姉、さっき倒しきれなかったって・・・。」

 

チラッと千冬さんに目を向けると、どこ吹く風でこちらに視線すら合わせる気もない様子。あくまで俺に説明しろってか?自分が紛らわしい言い方したのが原因だろうに・・・。俺もだけどさ。

 

「正確に言うなら引き分け。俺も織斑先生もシールドエネルギーが最後まで尽きなかった。だが、俺は《武神》をフル稼働、一方の織斑先生は学園に配備された《打鉄》。あのスペック差で引き分けに持ち込まれたんだ。俺の負けも同然だ。」

 

単一仕様能力まで使ったってのにあの始末だ。泣きたくなるほどの実力差だったよ。流石はブリュンヒルデ、あの束さんが自分と互角だと豪語するだけある。

 

「私に本気を出させたのだ。誇っていいぞ、小僧。」

「・・・いつか絶対泣かす。」

 

千冬さんは俺の負け惜しみを勝ち誇ったような笑みを浮かべながら聞き流し、教壇に立って口を開いた。

 

「クラス代表は織斑 一夏。異存はないな。」

 

はーい!とクラス中からの元気な返事が教室に木霊する。ああ、団結って、素晴らしい。元気のない一夏を尻目にそんなことを思う俺であった。




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