咲-Saki-消えゆく京-   作:神狼K

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最近、もしも京太郎が野球部に所属していたらという妄想をしている神狼です。
今回は短いですが、一応これにて第三章完結です。

活動報告もあります。

ではどうぞ。



絶望へのカウントダウン

side菫

 

私と照、それから白糸台メンバーに天江は、バスで白糸台総合病院へと向かっていた。

 

「………」

 

照は黙ったまま私に寄りかかりながら、呆けている。

目元は薄く涙の跡がある………というより、現在進行形で泣いている。

 

「ねぇ…スミレ…、京太郎は大丈夫なんだよね…?」

淡は不安そうに私のほうを見つめてくる。

 

他のメンバーも私の方を見てくる。

 

「それは……、着いてみないと分からない」

 

私自身、まだ心の整理が出来ていない。

 

照がこんな状態だからこそ、冷静でいられるのかもしれない。

 

 

「(京太郎……)」

 

私は心配な気持ちで一杯になりながら、私の唯一の男性の友達の名前を内心で呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白糸台総合病院に着いた、私達は電話の女の指定した病室へ向かった。

 

「…ここか」

 

私は“須賀京太郎様”と書かれている札を見つけた。

病院内の独特な消毒液のような臭いが、私達を更に不安にさせる。

 

「……行くぞ」

 

私はコンコンとノックをして病室に入った。

 

「‐‐‐‐‐‐」

 

中には一人の制服を着ている女と、白衣を着ている大人の男性と女性が京太郎を見守っていた。

 

「京君!」

 

照は直ぐに京太郎の元へ駆け寄る。

 

「こんにちは。君たちは須賀京太郎君の友人?」

 

「はい。あの…」

 

「おっと、すまん。名乗るのを忘れてたな。俺の名前は医龍ハサン。医龍と呼んでくれ」

 

男性の方は医龍という名前らしい。茶髪の少しヤンチャそうな雰囲気をした人物だ。

 

「…私は日下部遥」

 

女性の方は落ち着いた、静かそうな雰囲気だ。髪の色は青。

 

「早速で悪いのだけれど、場所を診察室に移して説明をします」

 

日下部先生はそう言うと、立ち上がって、直ぐ様病室から出ていった。

 

「俺が案内する。…ところで、そこのお嬢さんは大丈夫か?」

 

医龍先生は照の方を心配そうに見つめる。

 

照は京太郎の胸元で抱きついたまま固まっている。

 

きっと、離れたくないんだろう。一度だけ離れただけで、このような状態になったのだから、無理もない。

「尭深、誠子。照を頼んだ」

 

「…分かりました」

 

尭深は静かに頷く。

 

「任せてください」

 

誠子も異論は無いようだ。

「それじゃあ…「待って」…ん?」

 

私が行こうとした時、淡の静止の声に、私は反応して歩むのを止める。

 

「どうしたんだ?」

 

私の問いかけに、淡は黙って京太郎の方へ向かって近くにある椅子に座る。

 

「私は行かない。京太郎が心配だから……。それに、私が行ってもさっぱり理解出来なさそうだしね」

 

淡には何時の様な自信は影も形も無く、むしろ自虐的な発言をする。

 

「ふん、独立不羈なお前がまさか京太郎に縛られているとはな」

 

 

天江が皮肉気味にそんな事を言う。

 

「まぁ…なんだ。衣も、アホなほど天真爛漫なお前じゃないと張り合いがないからな。意気消沈してないで元気を出せ」

 

そう言うと、天江は優しく、ポンッと淡の頭を短く撫でた後、病室から出ていった。

 

「あ、ちょっと!?。一人で行っても診察室の場所分からないでしょ、子供なんだから…」

 

医龍先生がそんな事を言いながら、病室を出た。

 

外から「衣は子供じゃない!」という怒号が聞こえてきたが、あえてスルーしておこう。

 

「では、頼んだぞ」

 

私はそう言って、病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医龍先生の案内で、私と天江は、診察室にたどり着いた。

 

ガチャっとドアを開けると、日下部先生がレントゲン写真を壁に貼っていた。

 

「医龍、案内が遅い…」

 

「ス、スマン…」

 

日下部先生の注意に、医龍は両手を合わせて謝るポーズをしながら、日下部先生の隣の椅子に座る。

 

この二人は夫婦か!、とツッコミたくなる衝動を抑える。

 

だが、ハッキリしてる事は……コイツらは、リア充という事だけだ。

 

「さ、そこに掛けて」

 

「はい」

 

私と天江は二つの椅子に、それぞれ座った。

 

「まず、簡単な検査だけをしました」

 

「本当は一週間かけて、じっくりやりたかったんだが…………」

 

医龍先生は、言い難そうに渋っている。一体どうしたんだろうか。

 

「…もしかして余命が短いのではないですか?」

 

天江は言い慣れてない敬語を使いながら言う。

 

その表情は、自分の言葉を否定して欲しそうな顔だった。

 

「正解。もう病状は悪化を辿る一方。…だけど、もう1つ分かった事があるわ」

「それは一体…?」

 

「…ここ」

 

日下部先生は、カルテのレントゲンの脳の部分を指した。そこには僅かに小さく黒くなっていた。

 

「これはガンみたいな類ではないの…」

 

「古傷みたいな部分だな。…頭を強く打ったような跡だ」

 

「ふむ…」

 

天江は難しそうな顔で、考え込んでいる。

 

一方私も考えていた。

 

「(…心臓‐‐‐頭の古傷。共通点がない)」

 

「どんな些細な事でも良いから、話してくれない?」

日下部先生がそう言う。

 

だが、私は照みたいに京太郎とはまだ知り会って間もないからな。

 

「……そういえば、きょうたろうには違和感がある」

「…違和感?」

 

「まるで、大事なものがすっぽりと抜けているような……」

 

その時の私には、よく分からない事だった。

 


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