ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第52話  『烈風』カリンの知られざる伝説  反撃開始!! ウルトラ作戦・第一号!!

 第52話

 『烈風』カリンの知られざる伝説

 反撃開始!! ウルトラ作戦・第一号!!

 

 吸血怪獣 ギマイラ 登場!

 

 

 霧の中の戦いから一時間、すでに完全に日も暮れ、タルブ村の周りは白を塗りつぶす黒が支配する時刻を迎えていた。

 彼らは村のブドウ畑に面した小屋に集まり、休息をとることにした。ここは、いつもなら道具をしまったり、収穫時に泥棒などから畑を守る見張り小屋となる山小屋だった。ここからなら、村を一望できるので、怪獣が何かをしたら一目でわかるし、食料も貯蔵してある。

 あれから、高台からしばらく見張っているがギマイラは霧の中から動こうとはしていない。だが、こちらのほうも一番の戦力である『烈風』カリンは精神力を使い果たし、その使い魔である古代怪鳥ラルゲユウスのノワールも、ギマイラの毒霧を多量に吸い込んでしまって、操られこそはしていないが、彼女の肩に小さくなってとまったままじっと毒が抜けるのを待っている。

 また、ガンクルセイダーも三十年ぶりに飛ばせはしたものの、飛行機というものは一回飛ばすごとにメンテナンスが必要なものである。一応『固定化』で部品が破損する危険性は少ないものの、元がプロのパイロットであったアスカや佐々木は安心せずに、今はエンジンを止めて休ませている。

 要は、今は動きたくても動けないということであって、元々電気などないハルケギニアの夜。しかもこの日は曇りで月も星も見えず、目が慣れれば歩けないことはないものの、戦うには危険すぎる。ということで、戦いは明日に持ち越して、こちらも回復に力を注ぐ、一時休戦状態となっていた。

「決戦は明日か……それにしてもあの二人、いい加減仲直りすればいいものを」

 いろりに火をおこしながら、佐々木はそっぽを向き合っているカリーヌとアスカを苦笑しながら見た。

 この山小屋の造りは佐々木の設計による日本風なもので、いろりを囲んで座れる、いわゆる昔話でよくある形になっている。そこで、一行は板張りの床に腰を下ろして休んでいたが、アスカは目を覚ましたカリーヌに、魔法こそぶつけられなかったが、したたかに殴られていた。

「おーいてえ……んったく、事故だって言ってるのに、本気で殺しにきやがって……しかし、こんな話間違ってもみんなや、特にリョウには話せねえな」

 笑顔のままパンチを繰り出してくるスーパーGUTSの同僚の顔を思い出して、アスカは背筋を震わせた。そういえば前に知り合ったカメラマン志望の女子高生にも、エッチだの変態だのロリコンだの呼ばわりされたなと、あまり愉快でない記憶を蘇えってくる。

 一方のカリーヌのほうは戦装束がだめになって、倉庫の作業着に無理やりマントをつけたものを着ていた。もっとも、まだ怒っているのかふてくされているのか、壁を向いたまま一言も発しない。

 だがそうしていると、小屋に村の様子を見に行っていたレリアが帰ってきた。

「おじいちゃん、村は、霧の回りは静かだよ。物音ひとつしない」

「そうか、あくまで霧の中に立てこもって出てこないつもりだな。しかし、これで奴に逃げられる心配だけはないか」

 恐れていたことは、奴が捕まえた人々の血を吸い尽くして移動するか、人々を連れたままさらなる獲物を求めて移動するかであった。だが、どうやらギマイラは人質と食料を抱えたまま篭城戦を選んだようだ。

「お父さんとお母さんも、きっと無事だよね……ううん、それじゃ夕食の準備するね」

「あっ、わたしも手伝います」

 この山小屋には泊りがけの仕事や、村が災害にあったときの非常用もかねて保存食がかなり備蓄されている。それらを使えばごちそうとはいかないまでも、けっこういいものが作れるだろう。あとは、男の出る幕ではない。

 佐々木は形だけはあるかまどに向かうレリアとティリーの後姿を見送ると、ガンクルセイダーから外してきたGUYSメモリーディスプレイのギマイラの項を呼び出した。そうして今日の戦いのことを思い出しながら、いったいどうやって奴を倒そうかと、作戦を練り始めた。これは単なるGUYS隊員の身分証明やメカの起動キーだけでなく、過去に出現した怪獣のデータもインプットされているのだ。

「パワーは、ウルトラマン80を上回り、口から吐き出す霧は人間の思考を麻痺させる……アーカイブドキュメントにあったとおりだな。他にも今回の戦いでは見せなかった特殊能力がいくつか、手ごわい怪獣だ」

 すると、佐々木のその台詞を聞きつけたアスカが話しかけてきた。

「そういえばじいさん、あの怪獣のこと知ってるのか?」

「ああ、私の世界で昔暴れていた怪獣だ。まさか、このハルケギニアにも同族がいるとは思わなかったがな」

 彼はアスカに、GUYSメモリーディスプレイのデータを見せ、その概要に大体目を通したアスカは、忌々しげに言った。

「つまり奴は、この村を血を吸う人間を囲っておくための牧場に仕立て上げちまったってわけか。それでいざ外敵が来たら操った人間を戦わせて、自分は安全なところに隠れてる。きたねえ野郎だ」

 とはいっても、霧の中に隠れられたら近づくことさえままならないのだから、このままではこちらに勝機はない。

 普通に考えたら、ここは王宮へ援軍を要請するべきだろう。だが、相手は普通ではない。すでに最強のマンティコア隊が敗れた上に、操られた今では同士討ちになり、最悪トリステイン軍全部が操り人形にされてしまう。

「しかし、ここでなんとかしないと、いずれハルケギニア中が奴のための人間牧場にされてしまう……」

 今、ギマイラと戦えるのは異世界の力と知識を持つ自分達しかいない。たとえ世界は違おうとも、人々を守るために戦う彼らの心に揺らぎは無かった。

 とはいえ、腹が減っては戦はできぬ。火にかけられた中華鍋からいい匂いが漂ってきたとき、二人の腹がいい音を立てて鳴った。

「みなさーん、お夕食ができましたよ」

「いよっし、なにはともあれ飯だメシ!」

「そうだな、そういえば昼から何も食べていなかった」

 食欲だけは天下万民、逆らえる人間はいない。食事係のレリアとティリーが食器を並べると……ちなみに食器といってもスプーンを刺したお茶碗という和洋折衷の奇妙なものであったけれど、腹をすかせた男どもは蟻のようにパッと反応して鍋を囲んで座った。

 けれど、カリーヌだけは壁のほうを向いて体育座りを続けている。こうして見ていると、とても数十騎の魔法衛士を束ねる鬼隊長とは思えないが、今は指揮する部下の一人もいないただのか弱い……こともないが、女性である。いきなり何もかも割り切ってしまうなどということができるほど、彼女がこれまで積み上げてきたものは小さくはなかった。

「おい隊長さん、あんたも食えよ」

「いらん、食欲がない」

 アスカが彼女の分をよそっても、カリーヌは振り向こうとさえしなかった。今、彼女の中では昼間の戦いで自分がした愚行や、平民に助けられたこと、副隊長を犠牲にして逃げるしかなかった屈辱が渦を巻き、逃げ道のない思考の迷路に迷い込んでいた。

 だが、こんなときは無理に考え込んでも自縄自縛になるだけで、建設的な方向にはなりにくい。まして空腹ならなおさらだ。意地を張っている子供に口で言っても聞き分けはしないとわかっている佐々木は、立ち上がってカリーヌの体を後ろから抱え上げると、有無を言わさずに鍋の前に座らせた。

「なっ、なにをするか!?」

「冷めないうちにさっさと食え、平民を守るのが貴族の義務なら、戦いに備えて体調を万全にしておくのも義務だ。それとも、平民の食事など口にもできんか?」

「……わかっている!」

 不愉快そうに茶碗をつかんで、カリーヌは湯気の立つシチューをスプーンで口に運んだ。すると、それまで眉間にしわを寄せていた顔に、一瞬子供のような笑みが浮かんだではないか。

「……うまい」

 それは、カリーヌにとってはじめて味わう味であった。名家の出身である彼女は様々な美食を口にしたことがあるが、見たことのない野菜やハーブが使われており、手が勝手に次を口に運ばせるのは空腹のせいだけではあるまい。山小屋に乾燥させたり燻製にしたりして保存されていた材料を使ったのだから、はっきり言って戦闘懐食に毛が生えた程度のものを想像していた。ところが、今まで味わったことのない食感が舌を通じてもたらしてくる快感には、さしもの『烈風』とて耐えられない。いや、耐える必要などまったくないことであるが、それでも一応貴族の矜持は守ってシチューをかきこむようなことはせず、上品に、しかし熱心にスプーンを動かし続けていた。

 また、カリーヌのように上品にではなくても、アスカも茶碗にかぶりついてシチューを喉に流し込んでいた。

「こりゃあうまいや、スーパーGUTSの忘年会で食ったちゃんこ鍋みたいだな。なんていう料理なんだい?」

「ヨシュナヴェっていうんです。おじいちゃんの、にっぽんって国のお料理なんです」

「ふーん、ヨシュナヴェ……ヨシュ……ナヴェ……もしかして、寄せ鍋のことか?」

「ああ、どうもこっちの人間には発音が難しいみたいでな。まあ、別に名前にこだわりはしないし、うまければいいだろう」

 なるほど、何か懐かしい味だと思ったらそういうことか。けど、いろんな具がごった煮にされて、濃い味付けは疲れた体にはよく染みて、いくらでもおかわりができてしまう。

 そんな幸せそうな彼らを見て、レリアとティリーもうれしそうに自分達も食を進めていた。

「気に入っていただけてうれしいです。あら、そういえばティリーさん、食事のときくらい帽子を脱いだらいかがですか?」

「あ、これは……ちょっと」

「はあ……あ、アスカさんおかわりですね」

 レリアはそれっきりティリーの帽子への興味を失った。鬼の角でもあるのかなと馬鹿なことを思ったりしたが、別に何があろうとこの人は悪い人ではないと、すでに信じていたのだ。

 

 

 そして、腹を満たした後、佐々木はガンクルセイダーの整備をすると言って出かけた。一方でアスカとカリーヌは気まずい雰囲気のままだったものの、やがて二人とも散歩に行くと言って外に出た。

 星すらない夜の闇は、ここが怪獣に襲われているということすら覆い隠すようであった。黒はほかのすべての色を埋めてしまう。それでも、視力のよい二人は特につまずくこともなく歩いていた。

「なんか言ってくれよ」

「……」

 アスカはずっと黙りこくったままのカリーヌに、そろそろ勘弁してくれよと声をかけた。仮面をとり、桃色の髪を下ろしたその素顔ははっきり言ってすごく可愛いのだけど、不機嫌そうな表情が台無しにしている。

「まだ怒ってんのか、ありゃ事故だって」

「……また吹き飛ばされたいか? もうそんなことを気にしてはおらん! 貴様こそ、よくそんなにのんきにしていられるな」

「そりゃあ、明日はあの怪獣にリターンマッチ挑むからな、今から闘志はメラメラだぜ」

 それを聞いてカリーヌは本気で呆れてしまった。

「貴様正気か? 私の力でも揺るがせもしなかった怪物を、あの飛行機械を使えたからといって、どうこうできると思っているのか」

「できるさ、戦うのは俺だけじゃない、佐々木のじいさんもいるし、レリアちゃんもティリーちゃんも、逃げずに見守ってくれてる。勝負はまだ一回の表を取られただけだ。本当の戦いは、これからだぜ!」

「……なぜだ?」

「ん?」

「奴はこの国で最強の私の部隊を全滅させた奴だ。いくら貴様が能天気でも、その意味くらいはわかるだろう。もとより、私はこの命に換えても奴を倒すつもりだが、なぜ貴様の闘志は折れない」

 カリーヌには、なぜ魔法も使えない平民が怪物を前にして戦えるのか分からなかった。彼女の見てきた平民は、常に貴族より下に出て守ってもらおうとしていたのに、彼らはそれらの者達とは明らかに違っていた。

「俺は、国を出るときに、仲間たちに必ず帰ると約束した。もう、随分遠くまで来ちまってるけど、その約束を果たすまで、俺は前に進み続けるのをやめるわけにはいかない。帰ったときに、さらに前に進むためにな」

「貴様は、前に壁があろうが落とし穴があろうが突き進むタイプだな」

「いゃあ、そんなほめるなって」

 必ず充分考えてから行動するタイプのカリーヌは、前向きにも程があるアスカの生き方に、正直に呆れていた。彼女の理想とする軍隊とは、優秀な指揮官と、その命令を忠実に実行する兵士にある。それを信念として生きてきた彼女には、それとは対極に位置するアスカは認められるものではなかった。

「貴様が私の部下なら、即刻部隊から叩き出すな。貴様のように、何も考えずに行動する奴がいては規律も何もあったものではない。真に精強な軍隊とは、鉄の規律に縛られ、無心となって戦うものだ」

「……なるほど、あんたの部隊が全滅するわけだ」

「なに?」

 思いもよらない言葉に、カリーヌの眉がつりあがった。

「あんた、部下が操られてどうしようもなくなったとき、仕方ないから殺そうとしたんだってな」

「だから、どうした。人殺しはだめだとでも言うつもりか? 国のために命を惜しまずに戦う、それが貴族のあるべき姿だ。ただし、指揮官はその生死のすべてに責任を持たねばならん」

 冷然と言い放つカリーヌの顔を横目で見て、アスカは軽く眉をしかめたが、それを表に出しはしなかった。以前ならば、「人を見殺しにして、責任も何もあるもんか!」と怒鳴っただろうが、今は違う。

「いいや、指揮官として、小の虫を殺して大の虫を生かす。その判断は当然だろうな。けど、それだけじゃだめだな」

「どういう意味だ?」

「昔な、俺もあんたみたいに侵略者と戦う組織にいたんだ。隊長は、あんたみたいな厳しい人だった、けど、あるときその隊長が敵に捕まって、隊長ごと撃たなけりゃ基地が全滅するって事態になった。そのとき代わりにコウダ隊員って人が指揮をとってたんだが、その人は、最後の最後まで小の虫を殺せずに、自分が小の虫になろうとまでしてたよ」

「指揮官失格だな。で、そいつはその後どうなった?」

 アスカは、してやったりとばかりに笑った。

「今じゃ、俺たちの誰もが信頼する立派な副隊長さ」

「な、に?」

「理屈に合わないと思うだろ、本人だってそうだったさ。けどな、結局指揮官ってのは一人じゃ戦えないんだよ。あんた、ずっと一人きりで戦ってきた。少なくとも自分だけでなんでもできると思ってたんじゃないか」

 カリーヌは答えずに、わずかに歯軋りをした。

 ササキといい、こいつといい、どうしてこう同じようなことを言う。しかも、何の力もない平民のくせにこの状況で少しもひるんだ様子がない。いったいどれほどの戦いを潜り抜けてきたというのか。

 一方のアスカも、この気難しい隊長殿をどうもほおっておけないように思えていた。腕はそれなりに立つけど、向こう見ずで一人きりで突っ走ろうとして、まるで入隊時の自分みたいだと、柄にもなく保護者意識を芽生えさせていた。これが彼の同僚たちが知ったら、他人にどうこう言える身分かと口を揃えて言われるに違いない。ただし、幸か不幸か今アスカに忠告できる人間はいなかった。

 やがて、歩く先にぼんやりとランタンの灯りと、それに照らされた銀色の機体が見えてきた。

 

「佐々木さん、どうだい機体の調子は?」

「まあまあだ、明日には問題なく飛べるだろう」

 格納庫代わりにしていたボロ小屋が発進で吹き飛んでしまったために、そこから近い平地にガンクルセイダーを停めて、佐々木は面倒なエンジンとの格闘を終えて休んでいた。幸い故障も見当たらず、彼の努力によってすでに万全の状態で飛び立てるようになっている。

 しかし、佐々木とアスカにとっては希望の翼であるガンクルセイダーであったが、カリーヌにとっては、この銀色の鉄の翼はまだ自分の理解を超えたものだった。

「ところで、これはいったい何なんだ?」

 自分の使い魔と軽く平行して飛び、自分の攻撃を跳ね返した怪物に、仕留められないにしても幾分かのダメージを与えた。オーバーテクノロジー、地球人にとって宇宙人の円盤が理解を超えているように、ハルケギニアの人間から見て二十一世紀の地球人の技術は理解の外にあった。

 彼女の見上げる先、ガンクルセイダーは銀色の輝きを身にまとって何も答えない。代わりに佐々木がゆっくりとした言葉でそれに答えた。

「空を飛ぶための道具さ。最初は鳥の羽根をまねた木や布の翼だったけれど、ゆっくりとそれを改良していって、やがて鉄の翼になり、風よりも早く飛べるようになり、そしてこいつを作り上げた」

「これが、鳥のまねだというのか? 馬鹿な、鳥は羽ばたいて空を飛ぶ。しかしこれは羽ばたきもせずにいったいどうやって飛んでいるというんだ」

「そうだな、私たちの国でも、最初はなんとか作り物の羽根を羽ばたかせて飛ぼうとしたらしい。しかし、結局鳥を模倣することは無理だった。けど、可能性ってのは何もひとつだけじゃない」

 そう言うと、佐々木は工具といっしょに置いてあった紙を手に取り、折り紙で紙飛行機を作って投げた。すると、ただの紙切れだったそれは、きれいに空中を滑空して、十メイルばかり飛んで草原に滑り降りた。

「飛んだ……」

「な、空を飛ぶのに、必ずしも羽ばたく必要はない。風の流れに乗り、それを受け止める翼があればいい。それに気づいたとき、私たちの世界の人間は空を手に入れることができた」

 もちろん、そこにいたるまでには数多くの努力と犠牲があった。しかし、飛行機を手に入れられなかったら、地球は今のような発展には絶対いたらなかっただろう。

 地上に縛られ続けてきた人間が、太古から思い描いてきたユートピアこそ空、そして宇宙。自らの力でそこを飛ぶことができないからこそ、人々はそこに夢とロマンを追い求めてきた。佐々木の来た世界では、科学特捜隊の時代からすでに、亜光速試験船イザナミが冥王星まで飛び立ち、ネオフロンティア時代を迎えたアスカの世界でも光を追い求め、ネオマキシマ航法、ゼロ・ドライブ航法などの超光速飛行への挑戦が続けられている。それが、ハルケギニアではありえないと誰が断言できるだろうか。

「君たちメイジは魔法の力で空を飛べる。けど、考えたことはないか? 空気が薄くなり、もう上がることのできなくなるほどの高さの、そのさらに上には何があるのかって」

「それは、天上は神々の世界だ。そこへ人の身で行くことはできないと、教会では教えられている」

「私たちの世界でも、昔は海の果ては滝になっていて、恐ろしい怪物たちがいると恐れられていた時代があった。けれど、どうしても自分の目でそれを確かめたくなった人間が、危険を承知で海を越えてみると、それは昔の人間が考えた妄想で、実際はとてつもない広さの新天地があった。人は生き続ける限り、いつかは揺りかごから出て行く」

 佐々木のその言葉に、アスカもうなづいた。

「おれも、昔親父から聞いたことがある。人間が、まだ猿同然だった大昔、最初の人間たちは深い谷の底に住んでいた。けれど、その猿たちは、谷底でいつも空を見続けていた……そして思った、あの壁の向こうには何があるんだろう。あの空はどこまで続いているんだろう……そうして、彼らは壁を登り始めた。何度も滑り落ち、大勢の仲間を失いながら……俺は不思議に思った。なんで谷の底で大人しくしていなかったんだろう、そのほうが楽なのにってな……でも、親父は言ったよ。それが、人間なんだって……そんな人がいたから、何の変哲もない俺みたいなのが、空を飛べるんだってな」

「人間だから……」

「そうさ。よくも悪くも、そうしていくのが人間だってな。だから、俺はまた空を飛ぶためにあいつを倒す」

 人が前に進むために、それを邪魔しようとするものと戦うのが、スーパーGUTSだ。

 そして、世界は違えども、人々の未来を守る心意気はGUYSもなんら変らない。

「ミサイルは半分は残ってるし、燃料もあと一回戦うくらいなら持つだろう。残念だが、私の老体ではもうこいつを乗りこなせん。しかし君なら、昔の私以上にこれを使いこなせるだろう」

「ありがたいぜ。これで明日はあいつの鼻っ柱の角へし折ってやるぜ!」

「その意気だ、せっかく整備した機体だ。明日は必ずとどめを刺してくれよ……ああそうだ、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだが」

「ん?」

 急に思い出したように佐々木は工具入れをあさり出した。その背中を、アスカとカリーヌは不思議そうに見ていたが、佐々木はやがてペンキ缶とハケを取り出してアスカに手渡した。

「これは?」

「見てわからんか? ペンキとハケだ。今日暴れたせいで少々塗装がはげちゃったんでな、塗りなおすのを手伝ってくれ」

 今やることではない気がするけれど、アスカはとにかく勢いのままにガンクルセイダーの翼の上に押し上げられてしまった。

「GUYSのシンボルは私が塗りなおすから、君は他を頼む」

「いや、他って言ったって……」

 アスカは困ってしまった。なぜならガンクルセイダーはGUYSのシンボルのほかは基本無塗装の銀無垢だからだ。塗れと言われても困ってしまう……が、ならばと思い至ったアスカは、おもむろにハケをふるって赤と青のペンキを塗りたくった。

「じゃーん!」

「これは、G・U・T・S?」

「スーパーGUTSのシンボルさ。いっしょに戦うんだ、俺達の誇りもこいつに背負わせてくれよ」

 もちろん佐々木に否があろうはずはなかった。二つのチームのシンボルを背負った機体を見上げてニヤリと笑い、アスカもガッツポーズでそれに応えた。

 カリーヌは、そんな彼らの後姿をじっと見つめていたが、やがてゆっくりと話しかけた。

「お前たちには、恐れというものがないのか?」

 この二人を見ていると、戦いに際して臆した様子とか恐怖感とかいうものがまるで感じられない。けれど、彼らはけして恐怖心を捨てたわけではない、むしろ逆である。

「怖いさ、けど、怪獣のせいで家族や友人を失うほうがもっと怖いだけだ」

「俺もな、カラ元気を張っちゃいるけど怖いものは怖い。けどな、怖いからこそやれることがあるんだ」

 アスカは少し昔話をした。

 大昔、無敵と呼ばれた兵士たちがいた。彼らは戦いに挑むに際して、自らの恐れの気持ちを石に込めて、自分たちの神に捨てていった。それで、戦いに恐怖しない彼らは無敵となっていたのだが、あるとき彼らは恐れを喰らう神を封じていずこかへ去った。

 なぜなら、彼らは気づいたのだ。恐怖を持たない兵士は自らも他人も省みることはない、ただ破壊と殺戮を撒き散らすだけだと。

「恐怖するのは恥じゃない、その恐怖と向かい合っていくのが大切なんだって、俺の隊長の受け売りだけどな」

「それが、お前たちの戦う信念なのか?」

「信念なんてたいそうなものじゃないな。俺はただ、俺にできることをやる、それだけだ」

 強敵に対して、勝てるかどうかと悩んだことはアスカにも当然ある。しかし結局は自分の戦い方をするしかないとわかったとき、迷いは吹っ切れていた。

 単純だが、自分のやり方を貫き続けることは難しい。ただ、説教はするのも聞くのも好きじゃないアスカは照れくさそうに頭をかくと、コクピットを自分でチェックするために機体に登っていった。

 すると、今度は佐々木がカリーヌに向かって問いかけた。

「君は、どうなんだ? 我々は、どうあれ明日には奴との決着をつける。今、タルブ村を救えるのは我らしかいないからな」

 すでに貴族への敬語などはなくなっていても、カリーヌは怒らなかった。

 王室に連絡すれば、マンティコア隊の敗退を隠すために村ごと焼き尽くすなどといった馬鹿なことを考える将軍や大臣がいかねない。歴史と伝統ある王家は確かに立派でも、その形式だけを重視するやからはどの世界でもごまんといる。

 戦うかどうかと言われれば、カリーヌの中ですでに答えは出ているし、迷いもない。

「考えるまでもない。私の任務はタルブ村の異変を調査し、これを解決すること。そのために戦わなければならないとしたら、是非もない」

 カリーヌは佐々木の言葉に、彼の目を正面から見据えて言い返した。

「上出来だ、しかし奴は強い、ならば君はどう戦う?」

「……」

 カリーヌは返答に窮した。これまでの自分なら、奴と刺し違えてもと言っていただろうが、それでは前の戦いと同じ、目的と手段をプライドという色眼鏡で取り違えた愚者の所業である。捕らわれている人々を無事に救い出せる方法でなければ意味が無い。

 そんな、答えを見つけられないでいるカリーヌに、佐々木はくるりと後ろを向いた。そして腰に手を当てて、空に向かって腹から声を大きく搾り出した。

 

「ひとつ! 天気のいい日にふとんを干すこと。ひとつ! 土の上をはだしで走り回って遊ぶこと。ひとつ! 道を歩くことは車に気をつけること。ひとつ! 他人の力を頼りにしないこと。ひとつ! はらぺこのまま学校に行かぬこと」

 

 唐突に何を言うのかと、目を白黒させているカリーヌと、大声になんだとコクピットから出てきたアスカに見つめられ、佐々木は振り返ると笑いながら言った。

「私の隊長から教えてもらった言葉でな、ウルトラ5つの誓いという。なんでもないことばかりだけど、だからこそ奥が深い……いいや、そんな小難しいものじゃないな、そのとおりの意味だ」

 一見、どれも簡単で当たり前のように思えるけれど、大人になってもこれを全部守れている者はそうはいない。部屋を片付けずにふとんをごみためにしていたり、パチンコに興じていたり、スピード違反をしたり、栄養食でごまかして仕事に行ったりと、言い換えれば心当たりのある人間は多いだろう。

 その中でも、他人の力を頼りにしないというのは、もちろん他人に媚を売ったり、甘えたりしないという意味もあるが、孤独に生きろという意味ではない。本当に、誰の力も借りずに戦わなければならない相手はひとつだけだ。それとの戦いには、誰にも頼れないということを教えているのだ。

「結局、何が言いたい?」

「君はずっと、一人で戦ってきたな。誰も頼らず、頼る必要も無く。けれど困難ってのは、自分で克服しなければならないものと、皆で乗り越えなければならないものの二つがあるんだ」

 前者はいうなれば、強敵に敗退したジャックやレオ、メビウスが特訓の末に新技を編み出して強くなったもの。後者はテンペラー星人やムルロアの来襲に、兄弟全員が力を合わせたもの。自分の限界を打ち破るには、誰の力も頼れない。しかし、この戦いの目的はそれではない。

「共に戦おう。一人では無理でも、我らにも少しは力がある。君の役に立てるはずだ」

「……いや、平民を戦わせては……」

 そう言いかけてカリーヌは口をつぐんだ。彼女にも、もはや単独での任務遂行が困難であることはわかっている。己に課せられた任務を遂行し、人々を救い出すにはアスカの飛行機械と佐々木の知識がいる。しかし、骨の髄まで染み込んだ軍人として守るべき規律、貴族の孤高の誇りがそれを拒んでいた。 

 だが……

"隊長、必ず助けに来てくれるものと、信じております……"

 あのときの副隊長の言葉が、縛り付けられていたカリーヌの心の鎖に亀裂をいれた。

 そして、彼女はその背にまとっていた黒いマントを脱いだ。

「マンティコア隊隊長、『烈風』カリンはこれでいない。これで……お前たちと同じだ」

 守るべきものが複数あり、それをすべて守れないときに、人はどれかを捨てる選択をせねばならない。なにが、真に守るべきものであるのかを、何を失ってはならないのかを。

 最後の最後に、カリーヌは隊長としての責務を守るために、隊長であることを捨てる決意をした。

 だが、それは騎士として、貴族としてのすべての栄光も地位も放り投げるのに等しい。それでも、貴族は平民を守るもの。隊長は部下のすべてに対して責任を持つこと。軍人は規律を厳守し、決してそれに背いてはいけないという義務を果たすためには、己を捨てる以外に方法はなかった。もちろん、だからといってそれを免罪符にするつもりはなく、すべてが終わったら自分自身にけじめをつけるつもりでいた。

「もう私は貴族ではないが、私を信じてくれた部下たちにはせめて責任をとらねばならん。恥を承知で、協力を頼む、このとおりだ」

 それは、カリーヌが親と国王以外に、初めて他人に頭を下げた瞬間だった。

 もちろん、協力を頼まれて佐々木もアスカも断る理由などなにもない。だが、佐々木はカリーヌが脱いだマントを彼女の首に巻きなおしてやって、こう言った。

「まだ、これを脱ぐには早い。戦いが終わって、自分の選択が何を呼んだのかを見届けてから、脱ぐかどうかを決めるといい」

 彼も、かつてガンクルセイダーの訓練中に誤って機体を墜落させて全損させてしまい、辞表を提出したことがあった。しかしセリザワ隊長は、GUYSの制服はそんなことで脱げるほど軽くはないと、残隊を命じてくれた。

 同じ戦士でありながら、これまで自分より数段強い敵と闘い続けてきた者たちと、圧倒的な力ですべてをねじ伏せて、初めて敗北を経験した者。三人はお互いにそれぞれを静かな夜の中で見直し、語り合いながら心を交えていく。

 すべては、タルブ村を、延いては大勢の人々を守るため。

「ところで、具体的な策はあるのか? 私も当然死力を尽くすが、単純な攻撃だけで倒せる奴でもあるまい」

 確かに、ギマイラがあの霧の中に隠れ潜んでいる限り、こちらは及び腰の攻撃しかできない。また、数多くの人質がいる以上、飽和攻撃も論外だ。

「うむ、そのことだが、ひとつだけ有効かもしれん作戦がある。こいつを見てくれ」

 佐々木は二人に、GUYSメモリーディスプレイの、ドキュメントSSSPの最初の項を見せた。

「なるほど、悪くないな。しかし、奴の外皮の強度はドラゴン以上だ、それをどうする?」

「そこは、私に考えがある。奴だって不死身じゃない、アキレス腱は必ずある」

 三人は、それから機体の傍らの丸太に腰を下ろして、夜通し作戦を練りあい、実地段階での打ち合わせをしていった。

 

 曇天の夜空は光をもたらさず、作業のために佐々木がつけたランプだけが、ずっと彼らを照らしている。

「こりゃあ、明日は降るかもな」

 今は夏真っ盛り、雨雲は雷雲へと変わるかもしれない。

 

 

 翌朝、曇天は変らず、朝日は薄ぼんやりと厚い雲越しに日差しを投げかけてくるだけで、夜明けからかなり時間が経っても、周りは薄暗いままだった。

 そんななか、朝食をすませると、一同は暖気運転をしていたガンクルセイダーの周囲に集まり始めていた。

「はぁ、はぁ……村の周りを見てきました。昨日と同じで、特に変ったことはありません」

 見回りに行っていたレリアが息を切らせながら報告してくるのを、カリーヌはうなづきながら聞いていた。話し合った結果、この戦いにおいての指揮はカリーヌがとることになっている。佐々木もアスカも元は一隊員で、他人を指揮することには慣れていないし、二人とも独自にやることがあるからだ。

「機体の調子は万全だ、いつでもいけるぜ!」

 アスカもコクピットから顔を出し、グッと親指を立てたサインを見せた。

 戦う力を持たないティリーは、このあとレリアといっしょにここに残って、誰かが怪我をしたときに備えることになる。

「あの……必ず戻ってきてくださいね。首がちぎれてでもいない限り、絶対に直してあげますから」

 なにげに怖いことを言うが、後ろで強力な治癒を使えるティリーがいてくれるというのは心強い。

 だが、佐々木だけが何か用意があると言って出かけたままなかなかこなかった。作戦開始時刻はもう迫っているというのに……

「遅いな、何をしている」

 規律に人一倍うるさいカリーヌは、当然遅刻も大嫌いなのである。ただ、あの男がまさか逃げ出したとも思えず、いらだちを押し殺しながらじっと待っていた。

「おーい、待たせた!」

「遅いぞ!! 何をしていた」

 やっと現れた佐々木にカリーヌは怒鳴った。ところが、昨日までとは違う見慣れない形のオレンジ色の衣服に身を包んでいる彼の姿を見て口をつぐみ、アスカは思わず喝采をあげた。

「おお! かっこいいぜ、佐々木さん、そいつが」

「ああ、CREW GUYSの制服だ。もう二度と袖を通すことはないと思っていたが……スーパーGUTSと肩を並べるには、これくらいしないとな」

 佐々木はそう言うと、かつての自分の隊長と同じ深みのある笑みをアスカに向け、アスカもそれに応えて笑みを返した。

 ここに、時空を超えてCREW GUYSとスーパーGUTSが初めて手を結んだのだった!!

「ようし、それではこれからタルブ村開放作戦を発動する。あの怪獣に、今度こそ目にものを見せてやるぞ。ただし、全員生きて帰れよ、いいな!」

「ラジャー!!」

「G・I・G!!」

 ガンクルセイダーが発進し、佐々木とカリーヌは作戦開始ポイントまで走る。

 その様子を、残ったレリアとティリーはただ無事を祈って見守っていた。

 

 

 ギマイラは、自らの住処である霧の中に潜んだまま、長い舌を伸ばして村人たちやマンティコア隊の隊員たちの血を吸ってエネルギーを蓄え続けていたが、今こそそれに鉄槌が下されようとしていた。

「私の部下を食い物にしおって……この借りは百倍にして返してやるぞ」

 霧の奥から『サイレント』の魔法で気配を消しつつ、カリーヌが一歩一歩とギマイラに近づいていく。しかし、今回は前回と違って空気の玉を作ってはいない。ギマイラの霧の中だというのになぜ生身の人間が正気を保っていられるのか? それはこのカリーヌが本人ではないからだ。

 まったく同じ頃、霧の外ではトライガーショットを持った佐々木に護衛されつつ、もう一人のカリーヌが呪文を唱え、自分とまったく同じ姿の分身を生み出していた。

「ユビキタス・デル・ウィンデ……」

「まったくすごいものだな、この『偏在』って魔法は」

 目の前にいる"ふたりの"カリーヌを見比べながら、佐々木は感心を通り越して見ほれていた。

「風は偏在する。単なる分身ではない、それぞれが意思を持ち、同様に魔法を使いこなせる」

 ガッツ星人かフリップ星人のようだな……いや、あれは単なる幻影だが、分身も戦闘できるという点ではバルタン星人並だな……さらに、あくまで空気の塊であるから毒は通じない。

 その霧の中で、偏在のカリーヌはまだ自分に気づいていないギマイラにギリギリまで接近し、戦闘開始の号砲となる呪文を唱え始めた。

「さて、貴族のやり方としてはあまり好ましくはないが、今の私には関係ない……『エア・スピアー!』」

 瞬時に鋼鉄のように圧縮され、カミソリのように鋭く整形された空気の刃が偏在のカリーヌの杖の先に発生し、彼女はそれをギマイラの足の甲へと思いっきり突き刺した!

 想像してみるといい、日常でも足の上に棚から本が落ちてくるだけでも相当に痛い。なぜなら、足とは全体重を支えるものなので、それを危険から守るために痛覚神経が密集している。そこにナイフでも突き立てられたらどうなるか? いくらギマイラでも耐えられず、食事を放り出してパニックになり、体を振り回して暴れる。その際に偏在のカリーヌが巻き添えを食って踏み潰されるが、当然本体は痛くも痒くもなく、次の分身を送り込む。

 そして立ち上がってふらついたギマイラにアスカが頭上からミサイルを脳天にお見舞いした。

「喰らええ!」

 直立したところへ、額への正確なピンポイント攻撃。頭も生物にとっては急所、ベッドから起き上がったら天上に頭をぶつけたように、脳を揺さぶられたギマイラは倒れこみかけるが、そこへカリーヌの第二派攻撃が逆の足に命中し、苦痛の咆哮が奴の口から漏れ出す。

「足は、大型生物に共通の急所だよ」

 佐々木は以前一度だけGUYS JAPANに視察にいらしたタケナカ総議長が戦術シミュレーションで教えてくれた、対怪獣用戦法のひとつを思い出して、この作戦に応用したのだった。

「確かに効果的だが、まったくスマートではないな」

 霧の中に六体目の偏在を送り込みながら、カリーヌはやるせなさを感じながら言った。しかし、佐々木に言わせれば平然と分身を作り続けるカリーヌのほうこそ信じられない。

「いったい、その偏在というのはどれくらいまで作れるんだい?」

「……ふむ、単純に数に挑戦してみたときの記録は四十体。今日のコンディションなら、二十体まではなんとかなるだろう」

 フリップ星人でさえ四体が限界だというのに、こともなげにその五倍の数を言ってみせるカリーヌに佐々木は本気で感心した。もし彼女が防衛チームにいたら、少なくとも等身大宇宙人の大半は行動を制限できるだろう。

 が、不可能な過程はともかくとして、今はとにかくギマイラを倒すことだ。

 偏在の攻撃に怒ったギマイラが立ち上がろうとすれば、そこにアスカが脳天にミサイルを撃ち込む。引っ込めばまたカリーヌが奴の足や尻尾に攻撃を加える。

「真上と、真下からの挟み撃ちというわけか」

「図体がでかいぶん、こうなってはもろいものだろう」

 奴の逃げ場を無くす三次元波状攻撃。これこそかつて科学特捜隊が竜ヶ森湖の底に潜んだ宇宙怪獣ベムラーを倒すために、ジェットビートルと特殊潜航艇S-16で挟み撃ちにした戦法、その名もウルトラ作戦第一号だ!

「さあて、いつまで霧の中に隠れていられるかな?」

 これだけで決定打になるとは思えないが、奴もこのままではやられ続けるだけだ。耐え切れなくなって出てくれば、そのときこそ総攻撃する瞬間だ。佐々木は安全装置を解除したトライガーショットを握り締めてその瞬間を待った。

「しゃあ! もう一発」

 上昇から急降下に移りながら、ガンクルセイダーのミサイルがギマイラに炸裂する。本来ミサイルはあまり効果がないけれど、こうも同一箇所に連続して撃ち込まれればダメージも蓄積していく。また、カリーヌもすでに十体以上の偏在を失っているが、奴が立ち上がれなくなるまで下半身を痛めつけられれば、それはそれで好きなように料理できるようになる。

 しかし、怒りが頂点に達したギマイラは、尻尾を振るって偏在を吹き払うと、大きく口を空に向けて開いて、真っ白な霧を噴霧器のように吐き出した。

「うわあっ!?」

 ちょうどそのときに急降下していたアスカは回避しきれずに、翼の一端が吐き出された霧に接触してしまった。触れたのはわずかだったが、翼端が火花を吹いて機体が揺さぶられる。この霧は生物には思考力を奪う毒になるが、戦闘機などには爆発性ガスとして効果する。かつてもこれを食らって、出動したUGM戦闘機隊が全滅させられているのだ。

「アスカ!!」

「アスカくん!!」

 見守っていた二人が、火を吹くガンクルセイダーを見て叫ぶ。

 損傷はわずかでも、もう戦闘ができる機動は無理だ。ガンクルセイダーはなんとか墜落しないように機体をもたせながら戦線を離脱していく。

 しかも、ギマイラの怒りはそれでは静まらず、本能的に霧の外にいた敵を察知して、怒りのままに霧を突き抜けてカリーヌと佐々木に襲い掛かってきた。これでは空中からの援護無しで戦わなければならない。

「くそっ! やるしかないか」

「ふん、どのみちこうするつもりだったのだ。精神力が尽きるまで、相手をしてやる」

 トライガーショットを放ち、威力を高めた『エア・ハンマー』『ウィンドブレイク』がギマイラを襲うが、怒りに燃えたギマイラには通じない。霧の中で奴に与えたダメージは、まだ不十分だったのだ。

 逃げる間もなく、ギマイラの巨体が二人に迫る。

 

 だが、墜落しつつあるガンクルセイダーのコクピットからそれを見たアスカは、ガンクルセイダーを自動で着陸するようにセットすると、ためらうことなくその手に握った光のアイテム、リーフラッシャーを掲げた!!

「俺はまだ、終わっちゃいねえーっ!!」

 光が溢れ出し、アスカの姿がコクピットから消える。

 

 そして、二人に迫ったギマイラの角が光り、そこから青白い光線が二人に向かって放たれた瞬間! ギマイラと二人の間に光が立ち上がり、怪光線を弾き飛ばした!!

 

「この、光は……?」

 まるで太陽のようにまばゆい輝きに、ギマイラは立ちすくみ、二人は呆然としてその光の柱を見詰める。

 やがて、光の柱の中で、まるで光が形となるように巨人の姿を形づくられる。そのとき、佐々木の口から三十年の年月を経ても決して忘れてはいなかった名が零れ落ちた。

 

「ウルトラマン……」

 

 本来、交わるはずのなかった二つの地球、しかし、どちらの世界でも人々の希望の光であった存在。

 平和を守ろうとする意思を人々が捨てない限り、光の化身もまた不死身。

 今、光を受け継ぐ者、ウルトラマンダイナが再び平和のために立ち上がったのだ!!

 

 

 続く


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