ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第65話  激突! 東方号vs戦艦大和 (後編)

 第65話

 激突! 東方号vs戦艦大和 (後編)

 

 宇宙海底人 ミミー星人

 軍艦ロボット アイアンロックス 登場!

 

 

「海の女王」

 かつて、そう称されて全世界から畏怖とあこがれの眼差しを向けられた艦種がある。

『戦艦』

 圧倒的な火力と鉄壁の防御力を備え、比類ない巨体から生み出される威圧感は他の追随を許さない、動く鋼鉄の城。

 水の惑星と呼ばれ、海洋が表面の七十パーセントを占める星・地球。その覇権を争うためには、強大な海軍力を持つことが絶対条件であり、人間同士が植民地というせせこましい土地をめぐって争っていた頃、列強は海軍力の増強に狂奔した。

 そして、海軍力とはすなわちより優れた艦を揃えられるかということで決定する。

 より大きく、より強力な大砲を装備した艦をと、今からおよそ百年ほど昔、各国の技術者たちは寝食を忘れて新造艦の開発に没頭した。その結果、はじめは全長百メートル強がせいぜいで、装甲巡洋艦などとの区別もあいまいであった主力艦は見る見るうちに巨大化し、『戦艦』という誰が聞いてもその役割を間違えることのない、絶対的な海の支配者が君臨することになる。

 強力な戦艦をそろえた国は国際的にも重く見られ、逆に揃えられなかった国は国民が身銭を切った募金を持ってしても建艦費用を集めようとした。

 まさしく、二十世紀前期の世界において、戦艦は国家の実力を示すバロメーターであった。

 

 しかし……戦艦の世紀は第二次世界大戦を契機に最後を迎える。

 それまで海洋の女王として、いかなる敵からも冒されることのなかった彼女たちを、その地位から引き落としたのは、空飛ぶ荒鷲・航空機と空母の出現であった。

 強力な爆弾を抱え、戦艦の大砲よりもはるか遠くの目標を攻撃できる航空機。その利便性において戦艦にはるかに勝り、なによりも一方的な攻撃を可能とする機動性は戦争の形態を一変させた。

 対して戦艦は維持費と使いどころが限定され、瞬く間に主力兵器の座から転落。威容を誇った不沈艦たちも、航空機の前に次々と撃沈され、戦艦の時代は白昼夢のように終わった。

 それから七十年。現在、戦艦を配備している国はない。海軍の主力は護衛艦、空母、潜水艦に移り、無機質で機械的なものに変わってしまった。

 

 だが、戦艦はその終焉において数々の伝説を人々の心に残していった。ミサイルの発射台に成り下がった護衛艦や、航空機を入れる箱にすぎない空母などには絶対に出せない、戦う艦の勇ましさを表現した迫力は、今なお数多くの少年たちの心に息づいている。

 そして、時代はその終焉において、奇跡ともいうべき最高傑作を生み出していた。

 

 日本海軍が威信に懸けて建造したその艦は、全長二百六十三メートル、排水量六万七千トンの巨体。

 主砲口径は四十六センチ三連装三基九門。艦載砲としては地上最大の大きさであり、そこから放たれる重さ一四六十キロの砲弾は、四十一キロメートルもの射程を誇る。

 むろん、ただ巨砲を積んだだけではない。戦艦の目的は敵戦艦をその主砲で持って撃沈し、艦隊決戦に勝利をもたらすことなのだ。そのためには破壊力を存分に活かすために、船自体にも敵の戦艦の砲撃に耐えられる防御力が要求されるのはもちろん、敵艦を正確に狙える高性能な照準機や多数の僚艦を指揮できる通信機能をはじめとして、必要な機能はいくらでもある。

 それらをクリアするために、この艦には当時の日本の最先端技術が惜しげもなく投入された結果、その容姿はそれまでの日本戦艦とは明らかに次元を異にするものとなった。

 艦首からなだらかに傾斜し、曲線美を表す前甲板。その上にそびえる二基の主砲塔と一基の副砲。

 艦中央部には、艦の頭脳というべき前艦橋が立ち、頂上部から左右に伸びる主砲測距儀は兜の角を思わせる。

 一本にまとめられ、霊峰富士のような絶妙な傾斜角度を持つ煙突。スピード感を増させる傾斜した三本マスト。

 後艦橋に続いて、後部副砲、さらに第三主砲が無駄のない壇上として続き、それら艦上構造物を守るために、二十四門の高角砲と一五二丁もの三連装対空機銃が空を睨む。

 まさに贅肉などどこを探しても見当たらない、戦国の豪傑にも似た、鍛え抜かれた破壊の化身。

 だが、そうした鬼神のごとき戦闘力を秘めていながら、この艦はそれら全てが絶妙の均整を持って一つに調和し、これが兵器だというのに芸術品とも呼べる造形美をかもしだしていた。

 鬼神の強さと女神の美しさを併せ持つ戦艦。最後の奇跡は、この艦に与えられた名にあるだろう。世界最大最強、そして最後の戦舟に与えられた名は、破壊を象徴する戦艦という艦種からかけ離れた『大いなる和』という名。

 永遠不滅の伝説とともに、人はその船をこう呼ぶ。戦艦『大和』と。

 

 太平洋戦争末期、大和は沖縄を救援するための途上で無念にも撃沈され、東シナ海に眠りに着いた。

 しかし、それから二十三年後に、大和の眠りを無粋にも妨げる輩が現れた。

 宇宙海底人ミミー星人、地球侵略を企む彼らは地球の海の底に眠る地球人が利用していない資源、すなわち沈没した戦艦などを改造し、侵略兵器に作り変えた。

 それが軍艦ロボット・アイアンロックス。戦艦の絶対的な破壊力に、ミミー星人によって潜行能力を付加された、潜水戦艦ともいうべき恐るべき怪物は、神出鬼没に船舶を襲い、世界中の地球防衛軍を大いに翻弄した。

 日本には大和を改造したものが出現し、ウルトラ警備隊の攻撃をものともせず下田港を蹂躙した。

 だが、駆けつけたウルトラセブンはアイアンロックスの大和譲りの砲火に苦しめられながらも、かろうじてエメリウム光線で撃破に成功する。こうして、大和は場所は変われど再び安らかな眠りについたはずであった。

 

 そのアイアンロックスが今、次元を超えてラグドリアン湖に巨体を浮かべて、ウルトラマンAと対峙することになろうとは誰が想像したであろうか。才人は、宇宙人の手にかかりながらもなお優美さを失わない大和の偉容を前にして、まるで妖精に微笑まれたかのように本能的に見惚れてしまった。世界中を通して、軍艦はその勇ましい姿に反して女性格で表されるのが通例となっている。姉妹艦と呼んでも、兄弟艦とは決して呼ばないのがその証左だ。

 また、船にはそれ自体に魂が宿るとも船乗りたちには言い伝えられている。あらゆる自然物に魂が宿るという八百万の神々の信仰を持つ日本人は、船に宿るという魂魄をさらに神聖に船魂と称し神格化して敬った。そして軍艦が女性格を持つ以上、その魂は絶世の美貌を持つ女神と形容して否定する者はおるまい。今この場において才人を、さらに七十年の長きに渡って日本人を虜にし続けている鋼鉄のフェロモン。

 だが、美の女神の祝福を受けた戦神はいまや悪魔に操られる巨竜でもあるのだ。禍々しいオーラを発するアイアンロックスに、戦う意思を奮い起こす才人。さらにルイズも、大和の名も知らないものの、才人の戦慄から相手がこれまでのくず鉄とはわけが違う、正真正銘の最強戦艦であると悟った。

 

 艦首に一基、両舷に移設された二基の四十六センチ三連装砲塔が砲身を上下させてエースに照準を定める。対するエースは先のバラックシップとの戦いで、光線技の連射によってエネルギーの残量が乏しい。カラータイマーは赤く点滅し、さらに両手両足を錠で拘束されているために身動きがきかない。

〔くそっ! この鎖さえ切れれば〕

 エースの体の自由を奪った鎖は、アイアンロックスの艦体と直結していて逃げることができない。しかも、宇宙金属製であるために、単純な力ではビクともしない。

 再び放たれた九発の砲弾がウルトラマンAの周囲に水柱を上げた。上がった本数は六本、すなわち三発がエースに命中したということになる。

「ウオォッ!」

 エースの体を直撃した三発の四十六センチ砲弾は、皮膚を貫通することはできなかったが槍で突かれたような痛みをもたらした。宇宙人の手によって改造されていた上に、大和の砲撃能力が元々懸絶していたことが相乗した当然の結果であった。

 アイアンロックス……いや、大和の砲弾の威力はベロクロンのミサイルをしのぐ!

 撃たれた箇所を手で押さえながらエースは思った。さすが、ウルトラセブンを苦しめただけのことはある。

 アイアンロックスの主砲が仰角を下げ、おじぎをするように垂れ下がった。砲撃をやめたのではない。大和級戦艦の主砲はその構造上、次弾装填には砲身を俯角三度にまで落とす必要があるのだ。装填時間はおよそ四十秒、改造によって短縮されているとして二十秒というところか。あんな砲撃を二十秒ごとに受けたら、実体のないヘビーパンチャーに殴られ続けるようなものだ。

 しかもアイアンロックスには、確かさらに恐るべき機能があった。万一、その機能までもが受け継がれていたとしたら……

 そのときだった。アイアンロックスの艦橋中央部に赤いランプが点り、宇宙人の声が大音響で流れてきた。

 

「ウワッハッハッハ! 罠にはまったな、ウルトラマンA!」

「貴様は、ミミー星人か!」

「そのとおり、貴様とは初にお目にかかるな。とはいっても、私はこの場所にはおらんがな。よくも我々が心血をそそいで、地球の海底の資源を総ざらいして作り上げたバラックシップを沈めてくれたな。しかし貴様も、切り札として隠しておいたこのアイアンロックスの存在までは見抜けなかったようだなあ」

 勝ち誇った声でミミー星人は高らかに笑った。悔しいが、奴のいうとおりにまんまと罠にはめられてしまったようだ。バラックシップの巨大さに幻惑されて、その中にまだ奥の手を隠してたとはうかつだった。恐らく大和のスピーカーを利用しているのだろう、音割れの混じったミミー星人の声は音量以上に耳障りに響き、エースはたまらず怒鳴り返した。

「貴様の目的はなんだ! ミミー星人」

「知れたこと、地球とこの星のあらゆる資源をいただくのよ。そのために目障りなこの星の人間には消えてもらわねばならんが、この星の人間たちが不穏な動きをし始めているのをキャッチしたのでな。小ざかしい真似は始める前につぶさせてもらうことにしたのだ」

「くっ! やはり目的はオストラント号か」

 悪い想像はものの見事に的中していたことに、エースだけでなく才人とルイズも舌打ちをした。しかし、ミミー星人と、恐らくは奴の背後で糸を引いているヤプールはどうやって東方号のことを掴んだのだ?

「どうやってオストラント号の出航目的を知った?」

「ふふ、私はヤプールから情報を受けただけだ。しかし、貴様が助けにやってくることを予測して網をはっていたかいはあったぞ。この機会を利用して、ウルトラセブンに倒された同胞の恨みを晴らしてくれる!」

「くっ!」

「おっと、メタリウム光線はやめておいたほうがいいぞ。このアイアンロックスには自爆装置が仕込まれているのだ」

「っ!」

 光線技の発射態勢に入ろうとしていたエースは、とっさのところで踏みとどまった。

 やはり、自爆機能もそのまま受け継がれていたか。かつてのアイアンロックスにも、強力な時限自爆装置が組み込まれており、ミミー星人はそれを利用して地球防衛軍基地の破壊をもくろんだ。

「以前の起爆装置は甘かったが、今度このアイアンロックスに光線を浴びせてみるがいい。その瞬間、水爆の何十倍という爆発が引き起こるのだ!」

「水爆の何十倍だと! そんなものが炸裂したら、ラグドリアン湖だけでなく……」

 恐らく、トリステインとガリアの大半も消し飛んでしまうことだろう。死者は数千万は下らず、広大な土地が草も生えない荒野に変わってしまう。いや、ハルケギニアの資源の強奪を目的とするミミー星人にはそのほうが都合がいいのだろう。

「フハハハ! ヤプールはマイナスエネルギーの収集ができなくなるだろうが、貴様を巻き添えにできるのであれば文句は言うまい。その宇宙金属製の鎖は以前のように簡単には切れんぞ。今、時限装置のタイマーが入った。起爆まであと十五分だ。それまでせいぜい恐怖を味わうがいい!」

 哄笑の余韻を残してミミー星人の声は消えていった。アイアンロックスからは、カチカチと時計のような音が聞こえ始める。ミミー星人の言ったことは本当だ。このままでは、十五分後にはアイアンロックスは水爆の何十倍という爆発を起こす。そうなったらハルケギニアはおしまいだ。

 エースはなんとか鎖を切ろうともがいた。しかし、鎖はビクともしない上に水中ではさらに身動きがとれない。エースは地上や宇宙、異次元空間での戦いには長けているが、唯一水中での戦いは不得手なのだ。それを見越して、罠を張られていたとしたら脱出の可能性はかなり低い。才人とルイズも、焦りを隠せずにエースに言う。

〔北斗さん! なんとか脱出できないんですか〕

〔そうよ! 力が足りないっていうなら、わたしの命を削ってもいいから〕

〔だめだ、この鎖は少しくらいエネルギーを加算した程度では切れない〕

 そんな簡単に切れるようなら、ミミー星人はあそこまで自信たっぷりにはするまい。鎖がつながっているアイアンロックスのほうをどうにかしようにも、下手に手を出したら爆発するようセットされているだろう。

〔止められるとしたら、起爆装置をコントロールしているミミー星人を倒すしかないが、だからこそ奴はこの錠を用意していたんだ〕

 捕まったままでは飛べない。まして、変身を解除して再変身するにはエネルギーが足りない。第一、現状では変身していられる時間はせいぜいあと数十秒。才人とルイズの体力をエネルギーに変換するとしても、ウルトラマンの状態でいる時間を延長するだけで精一杯だ。

 つまり、ウルトラマンAはどうあがいてもアイアンロックスの自爆を止められないということになる。時間はあと十四分と三十秒……それまでに、大和の船体の奥深くに仕掛けられた起爆装置を解体するか、恐らくこの湖のどこかに潜んでいるであろうミミー星人を見つけて倒す。どちらもとても間に合わない!

 さしものウルトマンAも時間という絶対的な力には敵わず、あきらめかけたときだった。湖に影をかけながら、東方号がエースに向けて降下してきたのだ。

「ウルトラマンA! 今助けるからなーっ!」

 ギーシュの叫ぶ声に見上げると、甲板上には彼をはじめ土のメイジが集まっていた。

〔もしかして、錬金でこの鎖を切るつもりなの!〕

〔むちゃくちゃだ! よせ、来るな!〕

 エースは「来るな、離れろ」と、身振りで伝えようとするが東方号は降下をやめない。そこへ、アイアンロックスが主砲の照準を東方号に変えてきた。まずい、二隻の距離は千メートルもない。この至近距離では絶対に外れない。

 しかし、アイアンロックスの主砲が放たれようとした瞬間、ブリッジのコルベールはニヤリと笑った。

「私の作品をそんな簡単に落とせると思ってくれるなよ。秘密兵器その一、緊急加速用ヘビくん一号、点火!」

 なにやら怪しげなレバーをコルベールがぐいと引くと、船尾にタル状の物体が四つほどせり出してきた。すると、それから一気にジェット噴射のように炎が吹き上がり、噴射の反動で東方号は瞬間的に信じられない加速をした。

〔んなっ! ロケットブースターかよ!?〕

 アイアンロックスの砲弾は船尾を掠めて外れ、東方号は呆然としているウルトラマンAの前で窮地を脱してしまった。

「わっははは! 私は自分の才能が怖い。こんなこともあろうかと、メカギラスの”みさいる”を参考にして作った緊急脱出装置、見たかねエレオノールくん!」

「み、見たかねじゃないわよ。こんなアホな加速するなんて聞いてないわよ! おかげで背中打っちゃったじゃない」

 得意満面のコルベールに、加速の衝撃に備える間もなく吹っ飛ばされて転んだエレオノールが抗議の声を上げた。ほかにも甲板上ではギーシュたちが折り重なって倒れているし、船内のあちこちもめちゃくちゃで、厨房ではティファニアが転がってきた缶からミルクを浴びせられて半泣きになっている。コルベール特製の加速装置は、事前の連絡がなかったので乗員に多大な被害を出していた。

 いや、それだけならまだいい。両舷の機関室からエレオノールの顔色をなくさせるような報告が入ってきた。

「ブリッジ! 左主翼の接合部に亀裂が入っています。さっきの急加速の影響だと思われます」

「右翼もです。鋲も半分以上はじけ飛んでます! いつへしおれてもおかしくないですよ」

「なんですって! くっ、やっぱり改造した船体じゃ強度が足りなかったようね。ミスタ・コルベール、どうするの?」

「もう加速装置は使えないようだね。だが、通常航行するならばしばらくは問題はあるまい……我々に、友人を見捨てて逃げ延びるという選択肢は最初からないのだからね」

 冷静に戻ったコルベールの横顔に、エレオノールもうなづいた。誇り高いトリステインの貴族は、敵に背を向けることはしない。それは昔ルイズが誤解していた蛮勇ではなく、戦うべきときと戦わないときを見極め、戦うべきときには臆さないことをいう。今この東方号を失うわけにはいかないのは事実だが、トリステインの大恩人に背を向けたら人間としての誇りが死ぬ。第一、これから敵地のど真ん中に乗り込もうというのに、初手から逃げていてどうなるか。

 ウルトラマンAを救出し、ヤプールの野望も砕く。後のことはそれから考えればいい。

 アイアンロックスは船体を旋回させ、全砲門を再び東方号に向けてきた。緊急加速装置はもう使えない。だが、コルベールの奥の手はまだあった。

「まだまだ、秘密兵器その二! 空飛ぶヘビくん発射!」

 別のレバーを押し下げると、今度は翼の下から小型の円筒状の物体が連続して投下された。それは尾部から先ほどのものと同じように炎を吹き上げると、数十の火の矢となってアイアンロックスに突進して爆発した。一瞬にしてアイアンロックスの船体は炎に包まれて燃え上がる。

「はっはっは、今度も大成功だな。先端に『ディテクトマジック』を発信する魔法装置を取り付け、火薬で推進する鉄の火矢だ。名づけて『空飛ぶヘビくん』! 発射されると半径一リーグ以内にある中でもっとも大きい目標に向かって飛ぶ、対怪獣用兵器なのさ」

 再び調子に乗るコルベール。しかしエレオノールやベアトリスは驚嘆していた。こそこそ隠れて東方号に妙な仕掛けをしていたのは知っていたが、こんなものを取り付けていたとは。自衛のために装備した大砲などより、よっぽどすごいではないか。

 アイアンロックスは炎上し、照準できなくなったらしく砲撃してくる気配はない。ウルトラマンAは起爆装置が作動しないかと冷やりとしたが、さすがにこの程度のダメージでは起爆しないようでほっとした。

 しかしそれよりも、アイアンロックスを相手に二度も窮地を切り抜けた東方号の隠された実力には驚いていた。あんなとんでもない切り札を隠していたとは、コルベールの頭脳は天才的だ。もしかしたらあの船なら……東方号は再び鎖を切ろうと接近してくるが、どうせ自分は自由になれたところでやれることはない。ならば、可能性は彼らに託す。

「デュワッ!」

 エースは腕を胸の前でクロスさせると一気に振り下ろした。とたんに、エースの体が発光して収縮し、消えてしまった。

 東方号の甲板では、突然消えてしまったエースに、ギーシュたちがオロオロとしている。コルベールも、進路上から突然エースがいなくなってしまって、レイナールにどう舵をとらせていいのかうろたえていた。

 そこへ、ブリッジのドアを蹴破るようにして才人とルイズが駆け込んできたのだ。

「コルベール先生!」

「えっ! サイトくん? ミス・ヴァリエール? ど、どうしてここに!」

 ゼロ戦とともに墜落したと思っていたコルベールはあっけにとられた。だが才人はそんなことには構わずに言う。

「危ないところでルイズの瞬間移動で助かったんです。それよりも、時間がありませんよ!」

 才人は焦りながらも、アイアンロックスがあと十三分程度で自爆することを訴えた。もちろん東方号でもエースとミミー星人の会話は聞こえていたのだが、彼らには水爆がどういったものなのかがわからなかった。コルベールたちは才人から、水爆が国ひとつ消滅させ得る超破壊兵器で、起爆を許したらトリステインが丸ごと消えてなくなってしまうと聞かされて血の気を失った。

「トリステインが消滅する……? そんな、馬鹿な」

「残念ながらマジなんですよ。奴らはそれくらい平気でやりかねないんです。それよりも、多分宇宙人はこの湖のどこかに潜んで様子をうかがってるに違いありません。時間が来る前に見つけてやっつければ、自爆は止められるかもしれません。それができるのは、今このオストラント号しかないんですよ」

「ううむ……わかった、やろう! しかし、ウチュウジンを見つけ出すといっても、この広い湖でどうやって?」

「手はあります。ルイズ、そっちはまかせたぜ!」

「わかってるわよ。モンモランシー! すぐに甲板まで来て、あなたの協力が必要なの」

 ルイズは伝声管に怒鳴るとブリッジを駆け出して行った。コルベールたちは半信半疑ながらも、とにかくアイアンロックスから距離だけはとろうと沖に舵をとる。アイアンロックスは艦橋がまだ炎上しており、測距儀やレーダーが使えないようだ。艦尾方向から距離をとれば砲門の死角になる。

 だが、安全だと思って安心しかけたとき、アイアンロックスの周辺に大量の気泡が湧いた。アイアンロックスは甲板から上だけを水面に浮かべ、船体のほとんどは水中に沈んでいるのだが、その船体が浮かび上がってくる。

「なっ!?」

 浮上してきたアイアンロックスの全容を目の当たりにしたとき、才人は目を疑った。アイアンロックスは大和の第一、第三主砲を艦橋を挟んだ両舷に、上から見たら第二主砲を頂部にしたピラミッド形になるよう設置している。なのに、前甲板にはないはずの第一主砲があり、後部甲板には第三主砲どころか、本来の大和にすらないもう一基の主砲が艦首と同じように存在しているではないか。しかも、延長された後部甲板は大和の元々のものではなく、滑走路のラインが書かれた飛行甲板になっており、航空戦艦のようになっている。

 倍加された主砲の数と、大和に匹敵する広大さを持つ空母の船体。才人は悪夢とさえ言えるアイアンロックスの偉容に、大和の妹たちの名を思い起こした。

「そうか、武蔵と信濃のパーツを使って強化復元しやがったのか!」

 大和級戦艦には二隻の姉妹艦が存在する。一隻は大和とほぼ同じ姿をした戦艦武蔵。もう一隻は、大和級三番艦となる予定であったが、ミッドウェー海戦の大敗北によって空母が失われたために急遽超大型空母に改造された信濃。現在、武蔵はフィリピンの海に、信濃は紀伊半島の沖にそれぞれ沈んでいるが、考えてみれば大和を修復するのにこれほど適した素材はほかにあるまい。

 十八門の主砲を振りたてて、超合体戦艦が東方号に迫る。

「敵戦艦の後部砲塔、本船を指向!」

「レイナールくん! 取り舵いっぱい!」

 見張り員の絶叫を受けてコルベールも叫ぶ。大きく左に旋回した東方号はかろうじて砲弾を避けきった。

 しかし、現在のアイアンロックスに死角はない。速力では東方号が当然ながら勝っているものの、四十六センチ砲の射程は最大四十一キロメートル、必中をきせる有効射程だけでも二十五キロメートルもある。つまり、安全な距離はラグドリアン湖の上のどこにもない。

 右に左に、レイナールは眼鏡に汗が垂れても必死で蛇輪を操る。一発撃ったら再装填に四十秒かかるという四十六センチ砲の弱点も、十八門もあれば間断なく撃ち続けることができた。機関室では、蒸気機関が止まったら終わりなので、ギーシュたちが音と振動だけを頼りに釜をなだめている。

 一方、甲板ではルイズとモンモランシーが、この戦いの行方を左右する手を打とうとしていた。

「やってもらいたいことは今言ったとおり、前にやってもらったのと同じことよ、できる?」

「そりゃ、できることはできるでしょうけど、こんな砲弾がぼんぼん落ちてるところにやったら、わたしのロビンがどうなるか。ああもうっ! やればいいんでしょ、やれば!」

 モンモランシーは、ルイズからの頼みごとに最初は渋ったが結局は折れた。外れた砲弾が上げる水柱が東方号の周りに立ち並び、湖水がシャワーのように降り注いでくる。半信半疑だが、この地獄から抜け出せるならこの際なんでもいい。

 モンモランシーは、肌身離さず身につけている小さな皮袋から黄色いカエルを取り出した。彼女の使い魔のカエルのロビンだ。カエルが嫌いなルイズは思わず目を背けるが、勇気を振り絞って指先を傷つけた血をモンモランシーといっしょにロビンに一滴振りかけた。

「うう、わたしの血がカエルに……夢に見そう」

「あんたね、それが人にものを頼んでる人間の態度なの? 大概にしておかないとあなたも湖に沈めるわよ。まったく、いいロビン? 水の精霊にあなたたちの聖域を荒らすものの居場所を、わたしたちにわかる方法で教えてと伝えて。いいわね?」

 ロビンはうなずいたような仕草をすると、モンモランシーの手から跳んで湖の中に落ちていった。これで、ラグドリアン湖をつかさどる水の精霊への使いは出した。あとはロビンが精霊の元へとたどり着くまでに、砲撃がロビンに命中しないことを祈るしかない。

 ところが、使いに出されたロビンは探すまでもなく、湖に飛び込んだとたんに水の精霊に守られていた。

「よくぞ来たな、単なる者、そして光の戦士の使いよ。我を芯となす水の中にいれば、そなたの身は安全だ」

 ロビンを弾力性のある水のバリアで保護して、水の精霊は空を飛ぶ東方号を目ならぬ目で見上げた。もとより、ウルトラマンAがラグドリアン湖の水に触れたときから、この戦いの様子は感知していた。手を出さなかったのは、出す手段がなかったからなのだが、要請を受けると精霊は喜ぶようにゼリー状の体を水中で揺らした。

「頼みは聞き届けたぞ光の戦士たちよ。月が四回交差する前に、そなたたちから受けた恩を返すときが来たようだな」

 精霊は、自らの体の一部ともいえる湖水を使って東方号にメッセージを送るよう試みた。

 方法は至極単純。東方号の甲板から、水の精霊からの返答を待っていたルイズとモンモランシーの前に、湖面上を這うように進む白い航跡が現れたのだ。

「ルイズ見て! きっとあれよ」

「水の精霊、ありがとう! サイト聞いてる!? あの白い航跡を追って!」

「わかった! 白い航跡だな」

 伝声管でルイズから伝えられた才人からコルベールへと、指示は伝わりレイナールは白い航跡を追って舵を切る。

 しかし、その間にも追撃してくるアイアンロックスからの砲撃は続く。白い航跡を追いながら回避運動をし、疲れきったレイナールの手から才人に操舵が渡され、才人は当たってなるものかと蛇輪を回し続けた。

 だがとうとう、回避し切れなかった砲弾が、東方号の甲板中央へと直撃を許してしまった。

「やられたっ!」

 船体に激震が走り、才人たちはもはやこれまでかと目を瞑った。

 けれども、待てども船体が砕ける感触や空に放り出される感触はない。

 不発弾だったのか……? ブリッジから大穴が開いてしまっている甲板を見て才人やコルベールは思った。が、実はもっと驚くべきことが起きていたことが、船底部からの伝声管で伝えられた。女子生徒の声で、船底から伝えられてきた報告はこうだった。

「こ、こちら船底です。い、今、な、なにかが突き抜けていきましたぁ!」

「なんだって! それで、損害の程度は? 負傷者はいないか」

「て、天井から船底まで大穴が開きました。積み込んであった食料と、あとブタが一匹転げ落ちていきましたが、人間は全員無事です」

 なんと、砲弾は東方号の甲板から船底までをぶち抜き、起爆しないでそのまま素通りしてしまっていたのだ。

 これは、過去にも実例がある。大和はその生涯でただ一度だけ、アメリカ艦隊と砲戦をおこなった事があるのだが、このとき大和から砲撃を受けた米空母は、なんと十三発もの四十六センチ砲弾を受けながらも沈まなかった。実は大和の砲弾は戦艦の分厚い装甲を貫通するよう設計されていたので、装甲など無きに等しい空母の船体は信管が作動せずに爆発しなかったのである。まして、木製の東方号の船体など空気も同然、大和が強すぎ、東方号はもろすぎたがゆえの皮肉な結果だった。

 これ幸いと、東方号は全速力で航跡を追う。距離をとればとっただけ命中率も落ちる。東方号に集中していた水柱が広範囲に散乱するようになり、ジグザグ飛行から次第に直線飛行に変えていく。それでも、数発の砲弾が東方号の錨鎖庫を貫いて錨を水中に落とし、トイレのあった場所が空洞になり、船長室が吹きさらしになる。

 だが、蜂の巣にされようと、穴が開くだけでは東方号の機能にはなんの問題もない。極論すれば、ブリッジと機関部、それから風石庫さえ無事ならば東方号は浮いていられる。また、水精霊騎士隊、銃士隊どちらにも戦死者はいない。クルーがいる限り船は動き続ける。

 そして、永遠に続くかに思われた時間の末、ついに水の精霊の航跡は湖の一点で止まった。

「コルベール先生、あそこです!」

「ようし……秘密兵器その三、と言いたいところだがこれが最後だ。頼むぞ、うまく作動してくれよ」

 祈るような気持ちで、コルベールは三本目のレバーを握り締めた。すでに満身創痍の東方号、頼みの切り札も故障している可能性は十分にある。それでもコルベールは、自分の子供とも言うべき船を信じて、才人の合図とともにレバーを思いっきり引き下げた。

「先生! 今です」

「わかった!」

 東方号の船底の扉が観音開きになり、そこから火薬の詰まった樽がゴロゴロと転がり落ちていく。

 一見、なにもないように見える水面に立ち上る小さな水柱。東方号は二十個搭載していた火薬樽をすべて投下すると、その湖面を通り過ぎていく。火薬樽は、なにか硬いものに当たると爆発するように作られており、目標を求めて沈んでいく。もしも、この下に敵が隠れていたならば爆発するはずだ……しかし、もしいなかったら、もはや東方号に打つ手はない。

 息を呑み、通り過ぎてきた湖面を見つめる才人たち。湖面は何事もなく、アイアンロックスのあげる水柱の波がかき乱しているだけだ。

 失敗かっ! そう思った瞬間だった。湖面が盛り上がり、爆発を起こし、黒い煙が湖の中から立ち上った。さらにその煙の中から、白と黒のヒトデのような円盤が浮き出てきた。

「あれだっ! ミミー星人の宇宙船だっ!」

 間違いはなかった。形状が才人の記憶にあるGUYS試験用の再現図と完全に一致する。内部では、ミミー星人が「なぜだっ! なぜ私のいる場所がわかったのだ」とうろたえている。ずっと宇宙船の中にいた星人は、水の精霊によって位置を暴露されたなどとは計算の範囲外だった。絶対ばれることはないと思い込んでいた過信が仇となり、思わぬ攻撃を受けたことで浮き上がってきてしまった円盤は東方号の射程内にいる。コルベールはためらわずに叫んだ。

「進路反転一八十度! 全砲、浮かんできた敵を撃て!」

 軋み声をあげながら東方号は旋回する。大砲も、とっくに火薬と弾を込めて準備は完了していた。

 狙いすました上で砲弾が放たれ、円盤に命中して爆発する。だが、円盤には傷ひとつない。すかさず、コルベールは残っていた空飛ぶヘビくんを全て放ったが、円盤は燃えたように見えても実際にはかすり傷ひとつなかった。

「だめかっ! やはりあれも、ハルケギニアにはない金属でできているのだな」

 コルベールの無念の声が流れた。超高温と極低温が混在する宇宙空間を進む宇宙船は、当然それなりの強度を身につけている。ハイドランジャーのミサイルならまだしも、残念ながら、東方号の武装では威力が足りない。

「ミスタ・コルベール! アイアンロックスの自爆まで、あと二分を切ったわよ!」

 エレオノールが時計が告げる残酷な現実を伝えると、才人とコルベールは歯軋りした。

 目の前のこの円盤さえ破壊すればアイアンロックスは止められる。だが、そのための手段がない。

 ウルトラマンAには再変身するだけのエネルギーが残されていないし、東方号の武装は通用しない。いや、ひとつだけあるにはあるが、それをやればこの東方号は……苦渋を浮かべるコルベール。さらにそのときだった。アイアンロックスの斉射が東方号の頭上から降り注いできたのだが、それはこれまでの当たっても爆発しなかった徹甲弾ではなかった。東方号の頭上で炸裂した砲弾は、光の傘とでもいうべき巨大な炎の塊になって降り注いできたのだ。

「しまった! この攻撃は最初の!」

「いかん! みんな伏せろぉ!」

 才人が絶叫し、コルベールはとっさにエレオノールと才人を押し倒して、レイナールとともに自分のマントで覆った。

 このときアイアンロックスが放ったのは、対空迎撃用の主砲弾で、三式弾と呼ばれる焼夷弾の一種だ。弾体の中に一千個近い焼夷弾子が仕込まれており、それを花火のように空中で散布することによって、直径五百メートル弱の範囲内にあるものを焼き尽くす。高速で飛ぶ航空機にはツボにはめるのが難しい兵器だが、破壊力は抜群で重爆撃機B24を一発で撃墜したほどの威力がある。

 膨大な熱波が東方号を襲い、コルベールたちは息を止めて喉が焼かれそうな高温の空気が通り過ぎるのを待った。そして顔を上げたとき、東方号はその全体が炎上していた。

 マストの帆はあっという間に真紅に包まれ、見張り台にいた銃士隊員が火達磨になって落ちてくる。間一髪、甲板の物陰に隠れていたモンモランシーが『レビテーション』で掬い、水魔法で消火して治癒をかけ始めたようだが、瀕死の重傷を負ったのは間違いない。甲板上には水魔法の使い手や、バケツを持った者が上がってくるが、とても消火できるような火勢ではない。コルベールは、東方号の命運が尽きたことを悟った。

「コルベール先生、消火の人手をもっとよこしてください!」

「無駄だ、犠牲者が増えるだけだろう」

 消火活動の先頭に立っていた生徒の哀願にも、コルベールは動じなかった。すでに東方号は全体が燃え上がり、船内にもすぐに火が回る。万一消火できたとしても、敵は次々にあの火を吹く砲弾を送り込んでくるだろうから無意味だ。

 残された道はひとつ。覚悟を決めたコルベールは、全船に告げた。

「全クルーに告げる。本船は炎上し、もはや消火は不可能となった。皆よくやってくれた、ただちに全員退艦してくれ。これより私はオストラント号を敵船にぶっつける! もうそれしか手はないのだ。さあ、諸君らは急いで湖に飛び込め! 泳げない者も水の精霊が掬い上げてくれるだろう。そして、新たな船を手に入れて今度こそ東方に向かうんだ!」

 それがコルベールの東方号への決別の証だった。甲板からは、少年たちや銃士隊が次々に湖に飛び込んでいきはじめた。コルベールは舵をミミー円盤へと向ける。そして、ベアトリスたちも含めて全員が離艦したとミシェルから伝えられ、ブリッジに最後に残った才人とエレオノールにコルベールは言った。

「さあ、君たちも早く船から降りたまえ」

「コルベール先生は、どうするんですか?」

「私は仮にも船長だ。船長は最後に船から降りるものと相場が決まっている。心配するな、舵を固定したらすぐに飛び降りる。さあ、早く行きたまえ!」

「……ミスタ・コルベール、死に急ぐんじゃないわよ」

 後ろ髪を引かれる思いで、才人たちは甲板で待っていたミシェルとルイズとともに飛び降りた。

 ざぶんと、プールに飛び込んだときの感触が蘇ってくる。当然すぐに浮かぼうともがくが、意外なほどすんなりと浮かび上がることができた。見ると、全員が水面に顔を出していて、溺れている者はいない。水の精霊が溺れないように浮力をくれたらしい。

 見上げたら、炎の塊のようになった東方号がミミー円盤に突っ込んでいくのが見えた。すでにマストは火柱となり、船体は木材が見える箇所はほとんどない。それでも、水蒸気機関だけは奇跡的に動いて東方号を突っ走らせていく。

「爆発まで、あと三十秒。さて、私も脱出するか」

 舵を固定しようと、コルベールは縄を取り出した。しかし、そのとき宙に静止していたミミー円盤が動き出した。ミミー星人が我に返り、爆発に巻き込まれてはなるまいと退避しようと試みたのだ。

 これでは、東方号は円盤に当たらない。コルベールは縄を放り捨てると、軽く息を吐いて蛇輪とレバーを握った。

「仕方ない……か。まだまだ、やりたいことはあったのだがなあ。だがまあ、世界を守って散るなら、私などにはもったいない死に様だな。サイトくん、すまないな、あとは頼んだぞ!」

 レバーを引くと同時に、東方号の船尾から緊急加速用ヘビくんのジェット噴射がほとばしる。

 急加速を得た東方号は、湖面上からはまるで火の鳥のように見えた。強度の限界に来た翼が根元から折れて舞い散り、それでも止まらない東方号はミミー円盤に正面から激突した。

 刹那……砲弾の火薬に引火して、東方号はミミー円盤を巻き添えにして大爆発を起こした。

「コルベール先生ーっ!」

 彼の教え子たち、そして才人の絶叫が湖上に響き渡った。

 東方号の爆発に巻き込まれたミミー円盤はさすがに耐え切れず、煙を吹きながら湖に墜落して水没した。

 それと同時に、アイアンロックスもネジが切れたように動きを止める。大爆発は、わずか五秒前を持って阻止されたのだった。

 

 ハルケギニアは救われた。だが、その代償はあまりにも大きかった……

 

 

 続く


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