ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第41話  奪われた虚無

 第41話

 奪われた虚無

 

 寄生怪獣 マグニア 登場!

 

 

「ウルトラ・ターッチ!」

 才人とルイズのリングが輝き、二人の手のひらが合わさるとき、二つの光が一つに輝く。

 心と体が一つに交わり、開放された太陽エネルギーに包まれて、光の戦士に姿を変える。

 合体変身! ウルトラ五番目の弟、ウルトラマンA参上!

〔いくぞ怪獣!〕

 二人の心の中から姿を現したエースが、恐るべき巨大怪獣を前に構えをとる。

 対する敵は、白い霧から本性を現した異形の怪獣。全身は大小のボール状の表皮で覆われていて、頭には顔がなく、口と思われる部分からは細い触手が無数に生えている。地球のような惑星の生物では、まずありえない進化をとげた姿の宇宙怪獣。

 寄生怪獣マグニア。こいつは才人の来た地球でも、このハルケギニアにもいるはずのない異世界の怪獣であった。

 生態は、自らを霧に変えて正体を隠す擬態能力。さらに自分自身である霧の中に踏み込んだ生物に、分身体である寄生体を差し向けて取り付かせる。そして取り付かれたものは、意識を消されてマグニアの思うがままに操られるようになってしまうのだ。

 すでにマグニアはウェストウッド村の子供たちを襲い、尋ねてきたルイズたちを襲わせた。

 しかし、寄生体を全滅させられた奴は、とうとう自ら実力行使に出てきた。

 子供たちの遊び場の森を踏み荒らし、実りかけていた果実をつぶしてマグニアはエースに迫る。

 その暴虐を空の上のシルフィードが見下ろして、アイは叫んだ。平穏な生活を崩され、友達を奪われた少女の怒りの叫びが森にこだまする。

「エース! そんな怪獣、やっつけてーっ!」

「シュワッ!」

 彼女の怒りを力に変えて、エースは強くこぶしを握り締める。

 ウェストウッド村の子供たちは、皆家族を戦争などで奪われた孤児たちだ。普段は明るく振舞っていても、その心には消すことのできない深い傷が刻まれている。もう誰の心にも、そんな傷を新たにつけてはいけないのだ。

 村の平和は必ず取り戻してみせると、エースの中で才人とルイズも決意を固める。

 しかし、熱く燃える闘志とは裏腹に、才人は心の中で見たこともない怪獣を興味深げに見ていた。

”怪獣には時々プリズ魔みたいに変なやつがいるけど、こいつはシュガロンを百倍気色悪くしたような感じだな。しかし……まるで地球で見たこともないような、こんな怪獣もいるのか。おもしろいな”

 こんな状況にも関わらず、怪獣の観察に余念がないのはなかば本能のようなものであろうか。とはいえ、才人の根っからのウルトラマンと怪獣好きの知識が、これまでに何度もピンチを救ってきたのも事実だ。才人はたまに、もしもウルトラマンも怪獣もいない世界に生まれたときの自分を想像するけど、今の自分を悪いとは思わない。数多くの異世界があることがわかったのだ。その中には、まったく違う地球で、まったく違う人生を送っている平賀才人もいるかもしれない。でも、この平賀才人は自分だけなのである。第一、この知識があるからCREW GUYSの特別隊員と認められたのだ。地球とハルケギニアを自由に往復できるかもしれない資格に近づける知識、あって悪いわけはない。

 そして、じっと怪獣を観察した才人は、自分の知識と照らし合わせて、こいつが非常に危険な怪獣であると結論づけた。

〔強いて言えば、見た目とか分身を飛ばして人間を襲うところが、こぶ怪獣オコリンボールに似てるな。血を吸うんじゃなくて、人間に寄生して操るところは違うが、どっちにしろこいつをほっておくと大変なことになるぜ〕

 才人とルイズは、この怪獣が人里に下りたときの惨事を想像して背筋を寒くした。単に暴れるだけの怪獣なら逃げればいい。本当に恐ろしいのは、人間を直接のターゲットにしてくる怪獣たちだ。

 今言ったオコリンボールは大群で人間を襲って吸血し、多数の犠牲者を出した。また、サドラがボガールに誘い出されて群れで山から下りてきたときには、市街地で何人もが捕食されてしまっている。吸血怪獣や、人間を食料と考えている怪獣は絶対に人里に下ろしてはいけないのだ。

〔子供たちをひどいめにあわせた落とし前は、つけさせてもらうぜ!〕

 少々かっこうをつけた言い回しで、才人は叫んだ。辺境で、ただ平和に暮らしていただけのティファニアと子供たちを、こんな醜悪な怪物のエサになどされてたまるものか。

「シャッ!」

 突進してくるマグニアの頭上へと、エースは跳んだ。エースの跳躍能力は一足九百メートル、太陽を背にして急降下しながらスピンキックを放った。

「ヘヤッ!」

 マグニアの頭部を削り、ダイヤモンドよりも固いエースのかかとが体にめり込む。エース先制の十八番攻撃の炸裂に、巨体が揺らいで前のめりにふらつく。が、奴の体を形成している球体は、サッカーボールのような頑強さと柔軟さを併せ持ち、スピンキックの威力を吸収してしまった。

〔やっぱ、この程度の攻撃で怪獣を倒せはしないよな〕

 すぐに姿勢を立て直し、反転してくるマグニアにエースは対峙する。エースキックが腹を打って突進を押しとどめ、水平チョップで首筋を打ちのめす。

「ヘッ!」「テヤァ!」

 怒涛の連続技の炸裂。キックやチョップにとどまらず、攻撃の激しさならば兄弟の中でもエースはトップクラスだ。

 しかし、マグニアは強固な体格でエースの攻撃を耐え切ると、思いも寄らぬ反撃に出た。エースのキックを両腕で受け止めると、すくい上げるようにして投げ飛ばし、姿勢が崩れたところにパンチや体当たりを素早く浴びせてくる。

〔この怪獣、速いわ。エース、気をつけて!〕

 ルイズは、思いも寄らない怪獣の素早さに、まるでトロル鬼がコボルドの素早さを身につけたようだと思った。前傾姿勢と長い尾を持つ恐竜・ドラゴン型の体格をしているくせに、動きはまるで武道家のようだ。ルイズの表現はいささか過大に過ぎても、標準からすれば充分に速い。

「デヤッ!?」

 攻撃を受け損なったエースの肩にマグニアの腕が激しく当たった。エースに匹敵するほどでないにしても、見た目からの先入観で実際の速さを錯覚してしまったのである。たとえるなら相撲取りが空手家のように攻めてきたようなものだ。ウルトラマンといえども、心の中の常識という敵にはしばしばやられてしまうのだ。

〔手ごわいな、あなどれない怪獣だ〕

〔宇宙怪獣は奇怪な能力持ったやつが多いですからね。こいつは肉弾戦が得意ってわけか〕

 才人は頭の中で、格闘戦に秀でた怪獣のことを思い出していた。何百という怪獣の中には、人間のような俊敏な動作のできるものもいる。ウルトラマンレオの戦った蠍怪獣アンタレスは宇宙拳法を会得していたし、ウルトラマン80と戦ったマグマ怪獣ゴラは宇宙戦士の異名を持ち、兄弟随一の身軽さを持つ80と互角の格闘戦を演じている。

 人は見かけによらないというが、怪獣にも見かけによらないやつがいる。

 だが、このくらいの敵ならば過去の戦いにいくらでもあった。また、光の国で兄弟たちと何百回と繰り返した組み手の激しさは、下手な実戦を軽く超えるほどである。なかでも、セブンとの訓練は特に容赦がなく、何度ウルトラ念力で投げ飛ばされ、アイスラッガーで切られかけたか知れない。

「我々宇宙警備隊員は広大な宇宙の平和を守るため、ほとんどの場合を一人で戦い続けなければならん。だが、その孤独に耐えるのは大変なことだ。ならば、いかなる敵にも屈せぬように自らを鍛えて鍛えて鍛えぬくのだ!」

 自他共に厳しいセブンの叱咤は、今でも耳の奥に深く根付いている。それを思い出せば、警戒しても恐れる理由にはならない。

「デヤッ!」

 さあこい、勝負はこれからだ。エースはマグニアと、さらに激しい攻防を繰り広げる。

 

 一方、戦いを空の上からずっと見守っていたキュルケとタバサも、動き始めようとしていた。

「怪獣はエースにまかせておいて大丈夫そうね。じゃあわたしたちは、あいつが現れたっていう空から落ちてきた石を調べましょう」

「……アイ、案内お願い」

「うん、あっちだよ!」

 シルフィードは翼を翻し、エースの戦いを後ろに飛び去っていく。

 目的の隕石は、ウェストウッド村からわずか一リーグほどしか離れていない森の中に落ちていた。

「あれね」

「うん、間違いない」

 森の木々をなぎ倒してできた、直径三十メイルほどのクレーターに隕石は半分埋まっていた。大きさは、目測で二十メイル強。しかし表面は岩ではなく、マグニアと同じ白色の球体が寄せ集まってできた気味の悪い外見をしている。キュルケとタバサは、これが怪獣の卵あるいは乗り物であろうと判断した。

 高度を落としてみると、隕石の周りにはあの寄生体がうじゃうじゃ飛び回っている。霧がなくなったことではっきりわかるが、数は百を下るまい。あまり高くまでは飛べないようでシルフィードを襲ってはこないけれど、これではうかつに近寄れない。

「あの気色悪いのをほっとくと後々面倒ね。タバサ、今度はわたしもやるから、一気にふっとばしましょう」

 無言でうなずいたタバサとともに、キュルケは呪文を唱え始めた。タバサが唱えているのは先程と同じ『アイス・ストーム』、これに彼女に匹敵するトライアングルメイジであるキュルケの魔法が加われば、その威力は先の比ではなく増大するだろう。だが、魔法を放とうとした瞬間、固唾を呑んで見守っていたアイが地上を指差して叫んだ。

「おねえちゃんたち待って! あそこ、エマやサマンサたち、みんながいる!」

「えっ!?」

 驚いた二人は、振り下ろしかけていた杖をぎりぎりのところで引き戻した。よく見ると、クレーターのふちにウェストウッド村の子供たちが集められているではないか。

「なんてこと! これじゃ攻撃できないじゃないのよ」

 もしさっき魔法を放っていたら、間違いなく彼らも巻き添えにしてしまっていた。そうなっていたときのことを思うとぞっとするのを抑え、様子を見ると、全員さっき見たとおりに操られたままで立ち尽くしている。しかし、うかつに近寄ったら返り討ちにされてしまう危険が大きいために、簡単に助けにはいけなかった。

「おねえちゃん、みんなを助けて!」

「うーん、そうは言ってもね。タバサ、なんかいい手はない?」

「人質にとられてるも同然だから、下手に手を出さないほうがいい。もう少し、様子を……」

「おねえちゃん、みんなが!」

「どうしたの……なにあれ!?」

 タバサとキュルケは子供たちを見て愕然とした。寄生体に取り付かれた子供たちから、白いもやのようなものが抜け出して隕石に吸い込まれていくではないか。しかも、その奇怪なもやが抜け出された子供たちは、糸の切れたマリオネットのように次々と倒れていく。

「もしかして……命を吸い取ってるの?」

 先日、ゾンバイユによって仮死状態にされた人々を見てきたキュルケは、この寄生体もあの怪獣と似た特質を持っているのではないかと推測して、それは見事に的中していた。寄生体は取り付いた子供たちから生命エネルギーを吸収し、それを隕石へと次々と供給していたのだ。

 さらに、隕石から吸収した生命エネルギーがどこかへ向けて放出されはじめたのを見て、タバサはシルフィードの高度を上げさせた。見通しのよくなったところで、その行く先を確認すると、生命エネルギーは案の定怪獣に向かっていくではないか。

 

 そのころ、ウルトラマンAはマグニアを相手に優勢に戦いを進めていた。だが、隕石から放出された生命エネルギーがマグニアの体に吸い込まれると、追い込まれていたマグニアは一転して反撃に出てきた。

「ヌワアッ!」

 エースは、マグニアの放ったパンチの一発を受けてのけぞった。

(なんだこいつ、急にパワーアップしやがったぞ!?)

 才人は、いきなり攻撃力を上げたマグニアの一撃に驚愕の叫びをあげた。さっきまで、この怪獣はエースの攻撃を受けてフラフラになっていたというのに、まるでそんなふうを感じさせない反撃をしてきた。おかしい、手ごたえはあったから確実にダメージは与えられていたはずだ。にもかかわらず、まるでそれをリセットしたかのようにやつは反撃してきた。死に際の一撃とかいうのではない証拠に、やつはさらに腕を振り上げて襲ってくる。

(ぬっ! どうなっているんだ)

 振り下ろされてきた腕を受け止め、蹴り上げてきた足をさばきながらエースは思った。やはり、攻撃の威力がまったく違う。

 エースも、突然元気になった怪獣に違和感を覚えていた。もう少しでとどめを刺しきれる状態だったのに、この不自然な回復ぶりはなんだ? 一瞬、アボラスやバニラのように無限の体力を持っているのではと思ったけれど、途中まで弱らせられていたのだからその線は薄い。いや、こんな状況の戦いを、前にもしたことがあるような気がする。

 激しく攻めてくる怪獣の攻撃をさばきつつ、エースは既視感の正体をさぐった。そして、怪獣の体にどこからか飛んできたエネルギーが流れ込んでいくのを見ると、かつてのヤプールとの戦いのひとつを思い出した。

(あれは……そうか、そういうことだったのか!)

(えっ? 北斗さん、いったいどういうことですか)

(やつは外部からエネルギー補給を受けているんだ。君も聞いたことがないか? 超獣ブラックサタンと同じだ)

(あっ! そ、そうか)

 才人も、その超獣の名前を聞くことで、マグニアの突然の回復の理由に思い当たった。

 暗黒超獣ブラックサタン……かつて異次元人ヤプールが、配下である宇宙仮面を通じて送り込んできた超獣である。

 その実力は高く、両手からのミサイル弾に単眼からの破壊光線、尻尾の先からの大型ミサイルなどの多彩な武器によってエースを苦しめた。

 しかし、本当に脅威だったのはブラックサタン本体ではなく操っている宇宙仮面であった。奴は一度エースに倒されたブラックサタンにエネルギーを与えて回復させ、消耗したエースを再度襲わせたのだ。

 今の状況はそのときとよく似ている。もし、やつが外部からエネルギーを与えられ続けているとしたら、いくら攻めても倒せないということになってしまう。

(なんてことよ! それじゃ時間制限があるこっちが圧倒的に不利じゃない。サイト、どうしたらいいのよ)

(やつにエネルギーを与えてる、なにかを破壊できればいいんだけど)

 苦渋を噛みながら才人が言った解決方法は、実際には怪獣の猛攻を食い止めながらではかなり難しそうである。

 そのとき、空の上からキュルケの声が響いてきた。

「エース! そいつは空から落ちてきた岩から、子供たちの命を吸い取ってるのよ!」

(なんだって、やはりそうだったか!)

 予想は当たっていた。このままではやつには勝てない。しかし、怪獣と戦うので手一杯のエースはテレパシーを使ってキュルケとタバサに要請した。

(なんとかして、その岩を破壊してくれ。そうしなければ、こいつは倒せない)

「えっ、今の声って……」

「ウルトラマンが、わたしたちの心に呼びかけてきた」

「す、すごいわね。そんなこともできるんだ……と、ともかくわかったわ。まかせて!」

 キュルケとタバサは、心に直接呼びかけてきたエースの声に困惑しつつも、再び隕石へと向かった。

 隕石では、マグニアに供給するために、とめどなくエネルギーが放出されている。子供たちも、それに合わせて生命エネルギーを吸われ続けており、未熟な子供の生命力の限度などはたかが知れている。さっき見たときよりはるかに衰弱している様子に、さしものタバサも焦った声をだした。

「いけない! このまま命を吸われ続けたら、みんなすぐに死んでしまう」

「なんですって! ええもう、なりふりをかまってる場合じゃないみたいね!」

 事態が最悪になりかけていることを悟った二人は、寄生体の群れに飛び込むことを覚悟で子供たちを助けに向かった。

 高度を下げると、当たり前に寄生体はいっせいに襲い掛かってくる。こいつらに食いつかれたら、意識を消されて怪獣のエサへと直行させられる。二人は魔法で弾幕をはって、全力で振り払う。

「このこの! もてるのはけっこうだけど、こういうのは勘弁してもらいたいものね」

「邪魔……するな」 

 妨害を蹴散らして、二人は子供たちの元に降り立った。シルフィードは取り付かれないように、頭を翼で覆ってうずくまる。

 しかし、彼らを助け出そうとしたとたん、子供たちはまたキュルケとタバサに襲い掛かってきた。

「しまった。まだ動けるだけの力があったの」

 子供たちは、すでに身動きする力は残っていないだろうと思っていたキュルケとタバサは完全にふいをつかれた。

 いくら子供とはいえ、数人がかりで飛び掛れば大人を押さえつけることもできる。魔法を使えなくてはタバサもキュルケも普通の女の子に過ぎない。力ずくで振りほどくことはできず、かといって弱っている子供たちに魔法をぶっつけては、それだけで殺してしまうかもしれない。

「やめて、離しなさい! タバサ、魔法でこの子たちの動きを止められない?」

「だめ! この子たちは人質として価値があるから生かされてるようなもの。使えなくなったら、即座に残った生命力も吸い尽くされる」

「なんですって!? 卑怯な……でもだったら、どうすればいいの!?」

 子供たちを助けるどころか、このままでは逆に子供たちにやられてしまう。そして身動きを封じられたが最後、頭の上でチャンスが来るのをいまかいまかと待っている寄生体に取り付かれて、枯れはてるまで命を吸われてしまうだろう。

 だめだ、やっぱり子供たちを傷つけることはできない。絶体絶命のピンチに、タバサは危険を承知で『蜘蛛の糸』で子供たちを縛り上げようとした、そのときだった。シルフィードの影に隠れていたアイが飛び出して、キュルケを襲っていたエマたちに飛び掛ったのだ。

「みんなやめてよ! 目を覚まして」

「アイちゃん!? だめよ逃げなさい! みんなは操られてるの、あなたもやられるわ」

「や! エマもサマンサも、みんなみんなアイの家族だもの! 今度は絶対わたしが助けるんだもの」

「アイちゃん……」

 キュルケは、必死な様相のアイに、以前にミラクル星人を助けてくれと裸足で駆け込んできたときの彼女を思い出した。あのときも、今も彼女は目の前で大切な人を失おうとしている。失う悲しみを知っているからこそ、自分を受け入れて愛してくれたこの村の皆を同じように愛しているからこそ、無茶と知りつつ黙ってはいられないのだ。

 アイはキュルケの右腕に取り付いていたサマンサを押し倒すと、必死に呼びかける。

「ねえサマンサ! わたしがわかんないの! ねえ」

 血を吐くような叫びも、首筋から脳を完全に支配している寄生体のコントロールを解くことはできなかった。サマンサは、胸の上にのしかかって叫び続けているアイの首に手を伸ばして、加減なく締め上げた。

「か、や、やめ、て」

「アイちゃん!」

 子供の握力というものは実はかなり強い。やせっぽちの子供でも、鉄棒で自分の体重を支えるくらいのことは大抵ができる。ましてや自然児のウェストウッドの子供たちとなればなおさらで、首の骨をへし折るくらいのことはできてしまう。

 キュルケとタバサはアイを助けたくても、自分たちが寄生体に取り付かれないようにするだけでやっとだ。窒息させられるのが早いか、首の骨を折られるのが早いか、だがどうすることもできない。

 しかし、苦しみと悲しみの中でアイが流した一滴の涙が寄生体にこぼれ落ちた瞬間だった。ブクブクと不気味にうごめいていた寄生体が涙の触れた部分から急速にしぼみ、サマンサの首筋から剥がれ落ちると、針を刺された風船のように小さくつぶれてしまったのだ。

「あ、あれ。あたし?」

「サマンサ! 気がついたのね!」

 寄生体がはがれたサマンサは正気を取り戻した。慌ててアイの首から手を離し、訳がわからないまま抱きついてきたアイに目を白黒させる。そして、今の光景を見逃していなかったキュルケとタバサは、寄生体の弱点を見抜いた。

「タバサ、水よ! こいつらは水に弱いんだわ!」

 すでに呪文を唱え始めていたタバサの頭上に、大きな水の塊ができていく。空気中の水分を水に戻すのは水系統の基本中の基本である。タバサの一番の得意は風の系統だけれど、氷の矢を加工するのに比べれば、水を集めるだけなど簡単なものだ。作り出した水球を頭上で破裂させたタバサとキュルケ、それと彼女たちに張り付いていた子供たちにどっと水が振りそそぐ。すると思ったとおり、子供たちに取り付いていた寄生体はすべて塩をかけられたナメクジ同然に溶けてつぶれ、全員が正気に戻った。

「あれ? おれたち」

「はっくしょん! へぅ……タバサおねえちゃん?」

 子供たちはずぶ濡れで、なにが起こったのかさっぱりわからないという様子だが、幸いにして命に別状ある者はいないようだ。タバサはシルフィードを呼んで子供たちを守らせる。キュルケはこの最大の功労者の頭を、少々乱暴になであげた。

「アイちゃんやったわね! 大手柄じゃないの」

「あわわ! いたた、痛いよおねえちゃん」

 力を入れすぎて髪がぐしゃぐしゃになっているけど、アイはそんなことはかまわずに泣きながら笑っていた。偶然とはいえ、アイの行動がなければ寄生体の弱点を知ることはできなかった。いや、絶対に家族を失いたくないというアイの強い思いが、奇跡を呼び起こしたのに違いない。その奇跡を、無駄にしてはならなかった。

「よっし、あとは周りの雑魚とでかいのだけね。タバサ、そろそろ精神力全部使い切るつもりで派手にいきましょうか!」

 タバサがこくりとうなづくと、二人は背をつき合わせて呪文を唱え始めた。同時に子供たちに、シルフィードの翼の下に隠れて動かないようにとも言い含める。

 残る寄生体はざっと五十体、それらがいっせいに襲い掛かってくるのは身の毛もよだつ光景だ。

 しかし、すでに勝利を確信している二人には恐れはない。戦乙女の歌声のように呪文のデュエットをかなで、掲げた杖を指揮棒のように振って、無粋な観客のアンコールに応える。

 タバサが生み出した水の球は、今度は直径十メートルほどもある巨大なものだ。それを空中高く打ち上げると、次にキュルケが水球に向かって小さな火の玉を投げつけた。

「まさかわたしがルイズの真似をすることになるとは夢にも思わなかったわ。でも、どうせやるならきらびやかなほうがいいものね。さっ、はじけなさい。ボンッ!」

 キュルケが優美に手を上げて、指を鳴らした瞬間、水球が爆発した。一トン以上はある水量がぶちまけられ、寄生体は一匹残らず水を浴びせられてつぶれて落ちる。醜い風船の群れが全滅した後に残ったのは、優雅にポーズを決める二人の女神だけだった。

「さっすがタバサ、言わなくてもちょうどいい大きさの水球を作ってくれたわね」

「キュルケこそ、炎を操る腕前が上がってる。火球を水球の中心に打ち込んで、水蒸気爆発で吹き飛ばせる加減ができるのはあなたくらいのもの。下手な使い手では、水球を蒸発させて台無しにしてしまう」

「あらあら、タバサにほめられるとその気になっちゃうわね。じゃ、時間もないことだし最後の仕上げをしちゃおうか」 

 二人はうなづきあうと、杖をクレーターに埋まっている隕石に向けた。だが、相手はマグニアと同じ外見をした巨大な隕石である。もろい寄生体と違って簡単にはいかないはずだ。さっきキュルケが言ったように、精神力全部を使い切る覚悟が必要だろう。数万トンはある巨岩を、二人の力だけで破壊するにはどうすればよいか。

「危ないものは、燃やしてしまうのが一番ってことよね」

 タバサは風の魔法で周辺の木を切り倒してくると、それを隕石の上に乗せた。さらに、その木に『錬金』の魔法をかけて油に変えてしまう。土系統のメイジではない二人は、『錬金』はさほど強力ではないけれど、樹木には元々油が大量に含まれているため変質させることは比較的簡単だ。

 やがて、『錬金』を使うための精神力もなくなり、クレーターの中の隕石がひたるほどに油がたまった。

 そして、子供たちを安全な場所まで避難させたのを確認すると、キュルケは軽く杖を振って『発火』の呪文を唱えた。

「ひゅう……」

 軽く口笛を吹いたキュルケと、手で顔を覆ったタバサの前で恐るべき光景が広がった。巨大なクレーターは一瞬にして活火山の噴火口と化し、天まで届く業火を巻き上げる。炎系統の使い手であるキュルケでさえ、ここまでの炎は生まれてから一度も見たことはなかった。

 恐らく内部は数千度の超高温に達していることだろう。炎は燃えることによって自らの熱量をさらに高め、許される限りの限界をめざして急上昇していく。隕石は、頑強な表皮でその高温に耐えようとしていたが、最後には耐性の限界を超えて、内部に詰まっていたエネルギーごと自爆した。

「やった! 木っ端微塵よ」

「これで、もう怪獣は力を回復することはできない」

 キュルケとタバサは、降りかかってくる火の粉を払いながら手を組んだ。

 そう、もはや無限のエネルギーを誇っていたマグニアの補給は完全に絶たれた。

 いくら攻撃を受けてもこたえなかったマグニアが急にぐったりとなり、攻撃に耐え続けてきたウルトラマンAは反撃に打って出る。

(やってくれたか二人とも。ようし、今がチャンスだ!)

 このときのためにエネルギーを節約して戦っていたエースには、まだ余力が充分にあった。懐に飛び込んでのストレートパンチがマグニアの腹にめり込み、思わず身を縮めたマグニアの頭にひざ打ちを当てる。いずれも手ごたえ充分、頑強だったマグニアの体表も打って変わってやわらかく感じられるようになり、面白いように攻撃が効きだした。

「ヘヤッ!」

 水平チョップがきれいにきまり、続いて腹の下からかちあげるように放ったアッパーがマグニアの首を打つ。

 むろん、マグニアも危機を感じて防戦につとめてくる。しかし、その動きは油の切れた歯車のように鈍く、エースの動体視力と反射神経をもってすればかわすのは容易だった。そうなると、これまでずっと受身で痛みに耐え続けてきた分、ルイズや才人も調子に乗ってきた。

(いけるわよ! よーっし、さっきまでのお礼は存分にしてあげるわよ。覚悟なさいダンゴ虫のお化け!)

(おーこわ、ルイズを怒らせると怪獣でも容赦ないな)

 昔から怖いもの知らずではあるけれど、ルイズの無鉄砲さは悪いことばかりではない。ちょっとやそっとのことでは心が折れないので、はるかに強力な敵が相手でも戦意を保ち、周りを鼓舞できる。仲間がうまくサポートすれば、ムードメーカーとして中核になれる素質を持っている。そこはさすが『烈風』に育てられたというべきか。

 ルイズの有り余る戦意に後押しされて、エースもさらに攻勢を強める。マグニアの肩を掴むと、後ろに倒れこみながら、その勢いで巴投げに似た大技を打ち込んだ。

「テェーイ!」

 宙を舞い、引力に引き戻されて地面に叩きつけられたマグニアが高々と土煙をあげる。

 本来、奴は霧で姿を隠して周辺の生き物を寄生体で操り、必要な生命力を集めて隕石に蓄積する。そしていざ外敵がやってきたときは、溜め込んだ生命力を使って敵を倒すのが戦術だったのだろう。だが、生命力の補給を絶たれると、それに頼り切っている分もろかった。

 フラフラになりながらも起き上がり、金切り声を上げて、口から白煙とともに雷状の光線を撃ってくる。それも、今となっては見切るのはたやすい。エースは体の前で両腕をクロスさせて光線を迎え撃った。

『エースバリヤー!』

 マグニアの光線は、すべてエースのバリヤーにはじき返されてエースにダメージはない。反面、マグニアは今の光線で残っていたエネルギーをほとんど使い切ってしまったらしく、続いて攻撃をしてくる気配はない。

 決めるならば今だ! 才人とルイズが、舞い戻ってきたキュルケとタバサが、駆けつけてきた子供たちがいっせいに叫ぶ。

「いっけぇぇーっ!」

 願いはひとつ、勝利のみ。期待に応え、エースは「ムゥン!」と気合を溜めると両腕を胸の前で交差させ、続いて突き出した両手のあいだから星型のエネルギー手裏剣を連続発射した。

『スター光線!』

 星型手裏剣に命中されたマグニアの体がフラッシュのようにきらめき、感電したように震えて動きが止まる。この光線は威力は小さいけれども、敵の体にショックを与えて動きを封じる、いわばつなぎ技だ。そして今度こそ、完全に動きの止まったマグニアにエースの大技が炸裂する。

 両腕をクロスさせてエネルギーを溜め、一気に上下に開いたエースの両手のあいだから、巨大な三日月のカッターが放たれた!

 

『バーチカルギロチン!』

 

 宇宙のあらゆる刃より鋭い白刃がマグニアをすり抜けたとき、次の瞬間巨体は左右に切り分けられて崩れ落ちた。

 いくら生命エネルギーを吸収する限り、無敵に近い力を発揮できる怪獣といえども、こうなってしまってはどうにもならない。切り裂かれた半身は、わずかに抵抗しようとするように腕を上げようとして力尽きた。

「エースが勝った! ばんざーい、ばんざーい!」

 子供たちから、勝利を祝福するシンプルだが温かいエールが送られる。

 人間の生命エネルギーを狙ってやってきた宇宙怪獣は、その目的を果たすことなくあえない最期をとげたのであった。 

 マグニアが完全に絶命したことを確認したエースは、ゆっくりとうなづくと空を見上げる。マグニアの張った霧が消滅し、本来の気候に戻ったウェストウッド村の空は美しく、エースは子供たちの声援を背に受けて飛び立った。

「ショワッチ!」

 あっというまに雲のかなたにエースは見えなくなっていく。子供たちはその後姿に向けて、ずっと手を振っていた。

 

 

 平和が戻ったウェストウッド村、幸い建物の損壊はなく、子供たちの健康状態も心配したほどではなかった。

 だが、戦闘の興奮と勝利の美酒に酔いしれて、彼らは重大なことを忘れていた。それを思い出させたのは、少年の一人のジムがふと尋ねた一言。疲労がひどかった子供たちを休ませて、ようやく人心地つこうとしたときになってからだった。

「ねえ、テファおねえちゃんはどこにいるの?」

 はっとして、一同はティファニアがどこにもいないことにようやく気がついた。そういえば、戦っている最中も一切見かけていない。まさか、すでにあの怪獣の餌食になってしまったのではと、才人が不吉なことを口にしてルイズに殴られた。

「バカ! 縁起でもないこと言うんじゃないわよ。あの子がそう簡単にやられるわけないじゃないの」

「あいてて、悪い口がすべった」

「ともかく捜しましょう。日が暮れたらやっかいよ、タバサ、あなたたちは空からお願い!」

 ティファニアも、おそらくはあの寄生体にやられたであろうから、霧の張っていた範囲のどこかにいるはずだ。怪獣は倒れ、きっと寄生体からは解放されているだろうけど、衰弱していて動けないなら助けにいかなくては。ところが、ルイズが人一倍よく通る声で言ったというのに、タバサはじっとうつむいたままで答えようとしなかった。

「……」

「タバサ? どうかしたの」

「……なんでもない、シルフィードで捜してくる」

 なぜか妙に元気のない様子のタバサに、ルイズは怪訝な顔をした。疲れているのか? まあ元々表情からあまり心中をうかがえない子だし、あんな大魔法を使った後だから仕方ないかもしれない。

 タバサはキュルケとともに、シルフィードに乗って森の空に飛び立っていった。残ったものたちは、空からは見えない場所を手分けして捜し始める。才人とルイズはもちろん、子供たちも動ける気力があるものはほうぼうに散っていった。

「ティファニアー!」

「テファねえちゃーん」

 もしかしたら、どこかに倒れているのではないか? 近場は畑のみぞから、クレーターのはしまであらゆる場所を捜し尽くした。しかし、日が暮れるまで探し回ってもティファニアの姿はどこにもなかった。結局、すべて無駄骨に終わった一行がティファニアの家に戻ってきたとき、怪獣と戦った後よりも憔悴していた。

「これだけ探しても見つからないなんて……」

 疲れ果てた様子で才人が壁に背を預けてつぶやいた。ほかの面々も多かれ少なかれそんな顔をしている。だが、ティファニアがいなくなったことで一番ショックを受けているのは子供たちだ。実の母親にも等しい彼女がいなくなった彼らのことを考えれば、無責任なことを言うわけにはいかなかった。

「ねえおにいちゃん、テファおねえちゃんは?」

「心配するな、おれたちが必ず見つけてきてやる。ちょっと休んだら、また捜しに行ってくるからお前たちは休んでろ」

 才人も小さいころ、両親の帰りがたまたま遅かったときに、一人で家にいて不安な思いをしたことがあるから子供たちの気持ちはよくわかる。才人もまだ大人の庇護が必要な年齢だけど、より年長のものは年下に対して責任を負わなければいけないことに変わりはない。

 しかし、村の近隣は草の根わけて捜しつくしたのに、手がかり一つつかめなかったことに、ルイズはすでに楽観できなくなっていた。

「ここまで捜したのに見つからないなんて、もうテファは村の外にいると考えるしかないんじゃない?」

「外って……でも、あの気色悪い風船に取り付かれてるあいだは霧から離れられないし、テファはこのへんの地理には精通してるから外に出ることはないだろう」

 才人たちは、ティファニアが世間から身を隠さなければならない立場だということを知っている。ティファニア自身も、おっとりとしているように見えて聡明な子であるから、間違っても一人で村の外に出て行ったりはしないはずだ。しかし、ルイズの頭の中には最悪としか言いようのない答えが、もはや確立しつつあった。

「ええ、テファは村から出たりはしないでしょう。でも、誰かに連れ出されたりしたら別よ」

「誰かって、このへんは元々人通りが少ないし、近頃は野盗もほとんど出なくなったってスカボローで聞いたろ……って、おいまさか!」

 才人の顔から血の気が引き、ルイズはそれを肯定するかのようにうなづく。

「そのまさかよ。考えてみたら、わたしたちが来るのに合わせたような怪獣の出現。しかも霧でまわりを隠したり、子供たちを操ったりと、まるで時間を稼いでいたみたいじゃない。こんな真似ができるのは……」

「ってことは、まさかあの怪獣は最初から囮だったっていうのか!」

 愕然とする才人。キュルケも口元を押さえて、まさかとつぶやく。

 だが、彼らがその答えにたどり着くのを見計らっていたように、森の闇の奥から愉快そうな女の声が響いてきたのだ。

「あっはっはっはっ! 今ごろ気がついてももう遅いよ」

「シェフィールド!」

 抜刀し、杖を抜いた先に黒いローブの人影が現れた。全身を覆い、顔は見えなくても声には確かな聞き覚えがある。間違いなく、あのときの蝶のガーゴイルから聞こえてきた、シェフィールドの声だ。

「シェフィールド、てめえがテファをさらったのか!?」

「ふふふ、お馬鹿なぼうやだねえ。ほかに誰がいるというのさ。そうよ、あなたたちの大事なお友達は、わたしが預かってるわ。二人目の虚無の担い手……随分とかわいいお嬢ちゃんだったのね」

 その瞬間、才人たちの血液が煮えたぎったように熱くなった。

「てめえ! テファを返しやがれ!」

「やれやれ、本当にお馬鹿な子ねえ。せっかくさらったものを、わかりましたと返すやつがどこにいるの? 少しは考えてものを言いなさい」

 怒りを軽くあしらわれ、才人の顔がさらに赤くなる。

 けれど、純粋に怒る才人と違って、ルイズはよりいっそうの危険をシェフィールドの言葉から察していた。

”こいつ、わたしたちがテファに会いに来るってことも、テファが虚無の担い手だってことも知っている。でもいったいどうやって?”

 完全に先を越され、こうしておそらくは分身で勝利宣言までしてくるということは、こっちの情報が漏れていたということになる。しかし、虚無に関することは盗み聞きされないよう注意していたし、ティファニアがウェストウッド村に住んでいるということを知らなくては先回りはできないはずなのに。

「サイト待って、わざわざさらったってことはテファを殺す気はないってことよ。あんた、いったいどうやってテファのことを知ったのよ?」

「ふふ、我が主はすべてを見通しているだけのことよ」

「しゃべる気はないってことね。なら、テファをさらってどうする気?」

「それは前にも言ったとおり、我が主に虚無の力を献上するの。記憶を操れる魔法、使い道はいくらでもあるわ。ただ、素直に言うことを聞いてくれなかったら、お友達になってもらうために、ちょっと素直になれるお薬を飲んでもらったりするかもね」

 その瞬間、才人の怒りは限界を超えた。

「こんのクソ野郎!」

 渾身の力で、才人はデルフリンガーを投げた。

 しかし、回転しながら飛んだデルフリンガーはシェフィールドをそのまま突きぬけ、後ろの木に虚しくめり込んだ。

「幻影か……」

「おっほっほっほ、怖い怖い。それじゃあそろそろお別れさせてもらうことにしましょうか。次に会うときには、かわいいかわいいお人形さんをお土産にしてあげるわ。ハーフエルフのお人形なんて、珍しいからきっと気に入ってくれるわよねえ」

「てめえ!」

 シェフィールドの笑い声はだんだん細くなり、黒いローブの幻影も消えていく。

 才人たちは歯噛みをし、見送ることしかできない。

 闇に閉ざされた森に、子供たちの「おねえちゃんを返せ」という泣き声が、悲しく響き続けていた。

 

 

 続く


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