「好きだ、付き合ってくれ」
その言葉を聞いた瞬間、時が止まった気がした。いや、確実に俺の意識はその言葉を聞いた瞬間時が止まったかのような空白が生まれた。
俺は一度振り返って誰かいないか確認するが、石造りの手摺の間に一瞬栗色を見ただけで誰もいなかった。
「ごめん、もう一回言ってくれ」
時刻は午後十一時過ぎ頃。辺りはすっかり暗くなり、今いる場所、巨大浮遊城アインクラッドのハーフポイントである第五十層の街のとある宿屋の屋上には俺とそいつ以外誰もいないようだが、聞き間違い、空耳という希望を持って目の前にいるそいつに振り返って聞き返す。
「コノハのことが好きだ、結婚してくれ」
俺の希望はあっさりと打ち砕かれた。丁寧に俺の名前を添えて。聞き返さなければよかったという後悔しかない。しかもさっきより内容がグレードアップしてるし。
なんで俺告白されてんの?意味分かんない。誰か状況説明プリーズと叫びたいが時間が時間なだけに自重する。
「え、えーと…」
あまりの処理出来ない事態の所為か、頭の中が真っ白でえーとの後が続かない。
とりあえず現状を把握する事が大事だ。そうすることで次第に現状を認めることが…出来ねぇよ!?え?俺こいつにフラグ建てるような事した!?全く身に覚えがないんですけど!?というか男にフラグ建てようとは思わねぇよ!?
「き、キリトには俺よりお似合いな人がいるよ絶対!ほら、アスナとか!」
俺はキリトと付き合いが長い異性の名前を挙げると「そうそう!」とアスナ似の…というかアスナの声が俺にしか聞こえない程絶妙な声量で背後から賛同する。って周りにここ以上の高さがある建物がないのにどこにいるんだ!?さっき見えたあれアスナか!?そのストーカー技術をキリトにだけじゃなくて攻略にも活かせよ!?
「なんでそこでアスナの名前が出るんだ?あいつはただの攻略仲間だ」
ドサッと人間が落ちたような音が階下から響き、「親方!空から女の子が!」と誰かが叫ぶ。アスナェ…。いや端から見たら確かに脈無しだとアスナ以外気付いてたから今更か。けどまさか同性である俺が好きだとは思わなかった。というか思う訳ないじゃん。
「け、けどさ、俺もお前も男じゃん?」
「ゲームをやってるうちに気付いたんだ」
キリトは悟りを開いたかのような顔で空を見上げる。
「性別とかそんなのただのオプションで、大事なのはその人の心じゃないかって」
「良い事言ってるけども!!性別も考慮してください!!」
「キぃぃぃリトくぅぅぅぅぅんんん!!?!?」
屋上に来る為の唯一の扉が内側から弾けるように開かれる。
そこから現れたのは攻略組の一つ、血盟騎士団のユニフォームを身に纏った美少女、『閃光』のアスナだった。頭から落ちたらしく、額は少し赤く染まっている。流石アスナ、五階もの高さから落ちたのに回復が早い。
落下した痛みからか、それとも好きな人がホモだったからか(恐らく前者1割後者9割)涙目で自身の登場に目を見開くキリトに近づくアスナ。
「どういうことなの!?なんで!?なんでコノハ!?コノハって男よね!?」
「あ、アスナには関係ないだろ!?」
「関係大ありよ!!わたしずーっとキリト君が好きだったんだから!!」
以前アスナは俺に「私ね、夜景が綺麗な場所でロマンチックにキリト君に告白するかされたいなぁ」と純粋な瞳で言っていたのに、今のアスナは充血した瞳でキリトの肩を掴んで今にもキスしそうな近距離で告白している。ロマンチックもへったくれもない。
キリトはそんなアスナから逃れるように目を背ける。
「ごめん、俺、コノハが好きだから」
「こんな振られ方あんまりよぉぉぉぉ!!!!」
本当にあんまりだと思う、と号泣しながら屋上から階下にダイブするアスナを見て同情した。
キリトはふぅ、とアスナが去った事に安堵した表情で溜息を吐いた後、俺に真剣な、ボス攻略の時に見せる顔を向ける。
「それで、答えは?」
「その……やっぱり男とは…な…?」
なるべく傷付けないよう遠回しに無理と伝えると「そっか…」とキリトは顔を伏せる。次に顔を起こしたキリトは笑顔だった。
「なら、まだ友達で我慢しよう」
「そうだな、友達でがま…ん?」
友達でいようじゃなくて我慢しよう?
「まだ時間はあるんだ。これからじっくりと、コノハが俺を好きになるよう頑張るさ」
主人公様、頑張るの方向性を間違っていませんか?と俺はそれじゃあと去って行くキリトの背中を見て思った。
どうしてこうなった?
一言キャラ設定
キリト【ホモ】
アスナ【ストーカー】
アスナはヤンデレとストーカーで悩みましたがストーカーにしました。流石にヤンデレストーカーは属性ありすぎだろと思い自重。え?普通という選択肢?なにそれおいしいの?