魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第56話「麻帆良祭二日目・接触」

Side 明日菜

 

朝の6時半、私とネギは武道会の会場に来ていた。

正直、打ち上げの直後だから、かなりしんどいわね・・・。

配達の後、少し寝たんだけど。

 

 

「はい、明日菜さんの分のジュースです」

「ん、ありがと」

 

 

なんかネギは機嫌が良いみたいで、今にも鼻歌でも歌いそうな感じ。

クウネルさんの所で修行して、超さんに妙な道具を貰って、お父さんが優勝した大会に出て・・・。

 

 

・・・ある意味、今までで一番、充実してるのかもしれないわね。

ネギに貰ったジュースを飲みながら、そんなことを考えた。

超さんのこととか、いろいろ話したかったんだけど、大会の後にした方がいいかな・・・。

 

 

「それで、明日菜さん、あの剣士の人に勝てそうなんですか?」

「そうだぜ姐さん、あいつかなりやべーッスよ」

「う」

 

 

そ、そうなのよね・・・昨日も予選で一緒だった、月詠とか言う女が相手なのよね。

正直、無理。

というか、なんであいつが麻帆良にいんのよ!?

 

 

打ち上げの時に高畑先生に聞いたら、何か、関西の大使(あの眼鏡の女の人!)の補佐だって。

もう木乃香を狙わないらしいけど、それにしたって、あんな危ない奴・・・。

クウネルさんは、「自分を無にすれば大丈夫」とか言ってたけど・・・。

あの人の言うことって、いつも半分もわかんない。

 

 

「あ、あんたこそ、高畑先生に勝・・・ったりなんかしたら、承知しないわよ!?」

「ええ!? そ、それは確かに、無理かもしれないですけど・・・!」

「楽しそうねー」

「え・・・?」

 

 

会場の門の所に着いた所で、知らない声が聞こえた。

選手の控室に続く廊下に近くて、立ち入り禁止ってわけじゃないけど、人通りは少ない。

 

 

そこに、赤い髪の女の子が、腕を組んで仁王立ちしてた。

なんか、こう・・・無駄に胸を張る感じで。頬を痙攣させつつ。

10歳くらいに見えるその女の子の肩には、小さなフェレット・・・じゃなく、白いオコジョ?

あの子、どこかで・・・。

 

 

「ア――――ニャ――――っ!?」

「え、エミリイィィィ――――っ!?」

「えええぇぇっ!? あ、アーニャって確か・・・エミリーはわかんないけど」

 

 

確か・・・前にネギの過去を見た時にいた、おしゃまな幼なじみ!

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

え、なんで!?

なんでアーニャがここにいるの!?

ロンドンで占い師をやってるはずじゃ・・・!

 

 

「え、エミリィ! ど、どうしてここに!?」

「カモミール! 大人しく国に送還されなさい!」

「じょ、冗談じゃねぇや!」

 

 

何か、カモ君が騒いでるけど。

ま、ままま、不味いよ、この後タカミチと戦うのに、ダメージは・・・!

ウェールズにいた頃も、何かにつけて僕を殴って・・・って。

なんとなく身構えていると、アーニャはにっこりと笑って、僕に手を差し伸べてきた。

 

 

「久しぶりね、ネギ。元気にしてた?」

「え・・・」

「え、じゃないわよ。失礼しちゃうわねー」

 

 

ニコニコと、そうあくまでもニコニコと笑って、アーニャは僕を見ていた。

・・・そ、そうだよね。

アーニャだっていつまでも、僕を殴ったりしないよね・・・。

そっと、その手を取ろうとして・・・。

 

 

がしっと、手首を掴まれた。

え。

 

 

「なぁんて、言うわけ無いでしょこのボケネギぃ―――――っ!!」

「え、ちょ、熱っ!? あっつうぅぅあぁっ!?」

「ね、ネギ!?」

 

 

え、何これ!?

アーニャの触ってる所が燃えてるみたいに熱い。

アーニャは火属性が得意なのは知ってたけど・・・でもこれ炎じゃなくて、ただの熱?

なんでアーニャがこんな細かい芸当できるの!?

 

 

アーニャの赤い髪が、前に見た時よりももっと赤くなってる。

しかも、胸元には、赤い、妙な形をしたペンダントがあって・・・。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

まったく、このボケネギ・・・!

朝から女の子と楽しそうにイチャついてるなんて良い度胸ね!

こっちは、朝から仕事してんのよ!?

いつも、ちゃんと仕事してるならともかく・・・。

 

 

「あんたみたいなのが、遊んで良いわけないでしょ!?」

「え、なんの話!?」

「うっさいわね! 出力上げるわよ?」

「ちょ、ちょっと待ってアーニャちゃん!」

 

 

むむっ・・・この馴れ馴れしい女の子は、確かネカネお姉ちゃんの手紙の写真にいた人。

なんだっけ、ネカネお姉ちゃんに似てるとか言う・・・。

 

 

「え、えーと、ほら。なんだかわかんないけど、ネギも反省してるみたいだし?」

「ネギが、反省なんてするわけないでしょ!?」

「ええ!? 酷いよアーニャ・・・って、だから熱いってばあぁぁっ!」

「ちょ、やめなさい! ネギだって反省くらい・・・反省・・・う~ん・・・」

「明日菜さん!?」

 

 

そのまましばらく、炎を纏わない限界ギリギリの熱量でネギをこらしめてあげた。

卒業課題もこなさずに、魔法戦闘の修行ばかりやってたこと、知ってるんだから。

やっぱり、ぜんっぜん、矯正されて無いわこれ・・・。

 

 

「・・・それで? アリアはどこよ」

「え・・・そんなの、知らないけど」

「はぁ?」

 

 

知らないって、あんた。

そんな言い方ないでしょ!?

・・・って言うのも、もう疲れてきたわねぇ。

 

 

「アリアさんも選手だから、そのうち来ると思うけど・・・」

「・・・あんたね。妹をそんな他人みたいに・・・」

「・・・妹?」

「は?」

 

 

私の言葉に、ネギはもの凄く変な顔をした。

隣のツインテールの女の子が、なんだか複雑な表情を浮かべてた。

 

 

・・・何よ。

何か、あったの?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

昨夜の3-Aの打ち上げは、深夜にまで及んだ。

私やこのちゃんは、エヴァンジェリンさんの別荘を借りることができるが・・・。

他のクラスメイト達は、別荘無しであのテンションを維持できているのだからすごい。

いったい、あの元気はどこから来ているのだろうか。

 

 

「良い朝やなぁ、せっちゃん」

「そうですね、このちゃん」

 

 

今、私はエヴァンジェリンさんの家でこのちゃんと朝食をとっている。

茶々丸さんが用意しておいてくれた物だ。

 

 

と、その時、急に二階が騒がしくなった。

何やら、聞き覚えのある声で「なぜ起こさなかった」だの「私としたことが」だのと騒いでいる。

ドタドタドタドタゴロンッドドドドタンッ「のぅわっ!?」と、おそらく階段を転げ落ちる音が。

 

 

「賑やかやねぇ、せっちゃん」

「そ、そうですね、このちゃん」

 

 

にこやかにコーヒーを飲み続けているこのちゃんの手前、私が動じるわけにはいかない。

その直後、食堂の扉が勢いよく開いた。

そこにいたのは、予想通りというか、エヴァンジェリンさんだった。

下着姿で、しかもなぜか少しボロボロだった。

 

 

「木乃香! 茶々丸が用意していたアリアの着替えはどこだか知っているか!?」

「右から2段目のタンスの上から4番目の引き出しの手前から3番目の服やで」

「恩に着る! く、チャチャゼロめぇ・・・!」

 

 

そのまま、エヴァンジェリンさんは姿を消した。

階段を駆け上がる音がしたから、おそらく二階に行ったのだろう。

 

 

「・・・なんだったのでしょう」

「二度寝したあげく、遅刻やて慌ててるんやないかなぁ」

「ああ、茶々丸さんがいないから・・・」

 

 

茶々丸さんは、武道会の解説役をするとかで、すでに出ている。

言動から察するに、チャチャゼロさんはエヴァンジェリンさんを起こさなかったのだろう。

また、眠っているアリア先生のほっぺでもつついていたのだろうか。

まぁ、武道会に出ていない私には、あまり関係のない話だし・・・。

 

 

「今日はうちがクラスの出し物の担当やから、せっちゃん、来てな?」

「・・・はい」

 

 

何より、申し訳ないが、私にはこちらの方が重要だ。

・・・こういうのも、自分に素直になったと言うべきなのだろうか。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ほー、小太郎はんは親がおらんのどすかぁ」

「まぁな、狗族と人間のハーフってやつで、捨て子やったんや」

「ほえ~、そら大変どしたやろなぁ」

 

 

何か、隣で小太郎さんが月詠さんを相手に不幸トークをしていますが、そこはスルーしましょう。

だから千草さん、ハンカチで目元を拭わないでください。密かに何かを決意するのもやめてください。

 

 

「おい、アリア。本当にその格好で出るのか・・・?」

「え・・・どこか変ですか、さよさん?」

「とっても可愛いですよー♪」

 

 

さよさんに聞いてみると、ふむ、可愛いとのこと。

さよさん自身は、未だに半分寝ているスクナさんの手を引いて、非常に上機嫌ですね。

昨日はフリルなワンピースを着ていた私、今日はシックにシスター服です。

白を基調に金の刺繍があしらわれた、特別な修道服です。

 

 

魔法具『歩く教会』。

布地は、ロンギヌスに貫かれた聖人を包んだトリノ聖骸布を正確にコピーした「服の形をした教会」。

完璧に計算し尽くされた刺繍や縫い方は魔術的意味を持ち、その結界の防御力は法王級。

その強度は絶対であり、物理・魔術を問わずダメージを受け流し吸収するとか。

 

 

「いや、しかし・・・今朝は大変でしたね」

「大変だったのは私だ! 朝は寝惚けて役に立たん奴め・・・! 修道服を着せる吸血鬼とか、意味がわからんだろうが!」

「ゴシュジンハ、ウレシソーニキガエサセテタケドナ」

「西洋の鬼の趣味は、良くわからんの」

「チャチャゼロさんにお友達ができて、良かったですねぇ」

 

 

ポヤポヤと言うさよさんの視線の先には、寝惚けたスクナさんの左右の肩に乗る二体の人形。

どうでも良いですが、人目のある所で喋らないでくださいな。

今なら、「腹話術」で通せますけどね。

 

 

今、私達は千草さん達と合流して、武道会の会場に向かっています。

そこには、すでに多数の人が集まっており、大変な賑わいをみせています。

なんでも、チケットはすでにプレミアがついているとか。

流石は、「超包子」のオーナー、超鈴音と言った所ですか。

 

 

ノートパソコンの修理が間に合わなかったので、「ぼかろ」達に次の指示が出せませんでしたが・・・。

まぁ、電子空間で元の命令を遂行してくれさえすれば、最悪逆転の一手になるはず。

・・・余計なことをしていなければ良いのですが。

まぁ、基本的に私のノートパソコンでなければ、茶々丸さんでも接触は不可能。

彼女達の趣味に合う人間が拾わない限り、問題は無いでしょう。

 

 

まぁ、後はその時が来るまで・・・。

 

 

「あ、アリア先生だ、おはよー」

「おはようございます、アリア先生」

「千鶴さんに、村上さん?」

 

 

武道会の観客席へと続く行列の中に、千鶴さんと村上さんを見つけました。

そういえば、小太郎さんが呼んだとか言ってましたね。

まぁ・・・武道会自体で魔法などがバレるわけではありませんし。

各組織の代表が集まるこの祭りで、そうそう・・・。

 

 

「・・・おはようございます。お二人は、観戦に?」

「ええ、夏美ちゃんのボーイフレンドを見に」

「な、何か、その言い方は誤解を招くんだけど!?」

 

 

はぁ・・・どちらかと言うと、小太郎さんに興味があるみたいですね。

 

 

「もう、昨日から大変なのよ? 小太郎君が小太郎君がって」

「そ、そんなこと言ってないでしょー!」

「ああ、つまりフラグが」

「ええ、立っているのね」

「立ってないよ!」

 

 

まぁ、冷静に考えれば、小太郎さんは女性に恵まれた生活をしていますからね、現在。

月詠さんを始め・・・エヴァさん、は殺されるからダメですね。同じ理由で茶々丸さんもダメ。

私はもちろんダメですし、かといってさよさんに手を出せばスクナさんの畑の肥料になりますし。

木乃香さんに手を出せば刹那さんに斬り殺されますし、逆なら呪殺。

 

 

・・・すみません、前言を撤回します。

小太郎さん、明日にも死ぬかもしれません・・・。

ああ、それに小太郎さんは今日・・・。

 

 

「・・・村上さんは、小太郎さんの応援に来たのですよね?」

「う、うん」

「そうですか・・・では、これをどうぞ」

 

 

ポケットの中に手を入れるふりをして、『ケットシーの瞳』の中から文字の描きこまれた小石を二つ取り出し、村上さんに渡します。

魔法具ではなく、小石にオガム文字で字を刻んだだけの物。

オガム文字は古代ケルトの文字で、我が故郷ウェールズにも、長く碑文として遺されています。

 

 

「これは?」

「お守りのような物です。ひとつを、小太郎さんに渡してあげてください。あそこにいますので」

「へ、へぅ?」

 

 

かすかに頬を染めて、アワアワする村上さん。

可愛らしいですね・・・教え子の恋路を応援するのも、先生の務め。

とはいえ、小太郎さんには、いくつかお願いしなければならないこともできましたね。

 

 

「アリア!」

 

 

・・・振り向くと、燃えるような赤色が、そこに立っていました。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「ほな、うちは観客席から見とるからな」

「おぅ!」

「はいな~」

 

 

小太郎は元気に、月詠はんはどこか脱力した返事を返してきた。

まぁ、いつも通りやな。

 

 

うちは、茶々丸さんの所から試合を観戦させてもらう予定や。

小太郎達の様子もよう見えるやろし、アリアはんを目の届く範囲で見とれるやろうしな。

 

 

「・・・や、やぁ、コタロー君」

「おぉっ? 夏美ねーちゃん、いつも突然やな」

 

 

・・・何か突然、知り合いか何か知らんけど、可愛らしい女の子が不自然な動きで声をかけてきた。

夏美って言う名前は、小太郎に聞いたことがある気がするな。

・・・思い出したわ。前に巻き添えで誘拐されとった子やな?

なんで小太郎と仲良さそうなのかまでは、知らへんけどな。

 

 

「恋人さんらしいです~」

「「違う(よ)(わ)っ!」」

 

 

・・・今ので、関係性はわかった。

しっかし、恋人て。5歳くらい差ぁあるけど。

まぁ、何年かすれば気にならへんやろうけど・・・いや、そもそも小太郎に恋愛はまだ早い気がする。

なんでて・・・日曜にライダー見とるような子やで?

女心とか恋愛の機微とか、そんな難しいこと、わかるわけないやろ。

 

 

やっぱりこう言うのは、精神的な段階ってもんがあると思うんや。

それを一つ一つ登って行かんと、上手くいくもんも上手くいかへんからな。

まぁ、とどのつまり、何が言いたいかと言うと。

 

 

「小太郎には、まだ早いえ!」

「そうですわねぇ。夏美ちゃんにも、まだ早いのかもしれませんね」

「・・・あんたは?」

「那波千鶴と申します。いつも夏美ちゃんがお世話になっております」

「こ、こらご丁寧に、こちらこそ小太郎が迷惑かけてへんかと・・・」

 

 

那波はんって言う若い子が、いつのまにか側におった。

気配とか感じひんかったんやけど・・・。

 

 

・・・というか、なんでうちがこんな挨拶を交わさなあかんねんやろ。

まるで母親やないか、こんなん。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「やっと見つけたわよ、アリア!」

「アーニャさん!?」

 

 

その赤い髪の女・・・アーニャは、アリアに駆け寄ると、親しげに両手を合わせてきた。

アリアも、戸惑ってはいるものの、それを受け入れた。

確か、アリアの過去を見た時にいたな、幼なじみだったか。

で、なんでその幼なじみが、ここに?

 

 

「ど、どうしてここに?」

 

 

そうそう、それだ。

大方、今来ているとか言うメルディアナの使節団にまぎれて来たのだろうが。

 

 

「あんたに会いに来たに、決まってんでしょ?」

「え、ええ。そうなんですか? それはまた、ありがとうございます」

「皆、心配してるわよ? ミッチェルなんて、出せもしない手紙を毎月書いては膝抱えてんだから」

「・・・まぁ、ポストまでの道のりは、彼にはハードル高いですからね」

「・・・・・・そういう意味じゃないんだけど(ボソッ)」

 

 

今何か、聞き捨てならないことを聞いたような気がする。

何か、こう・・・殺害対象が増えた感じが。

 

 

「・・・ミッチェルって誰だ?」

「アリア先生の後輩さんらしいですよ」

「なんで知ってる」

「アリア先生が、写真付きで教えてくれました」

「ナカナカイケメンダッタゼ」

「うむ、性根に若干の問題あれど、良い男じゃったな」

 

 

さよとチャチャゼロの言葉に、私は愕然とした気持ちになった。

わ、私は知らんぞ? なのになぜ晴明までが知っている!?

というか、イケメンだと!?

いかんぞ、イケメンはいかん・・・!

 

 

「ごめんなさい、アーニャさん。私達、少し急いでて・・・」

「ああ、あの大会に出るんでしょ? あんたがあんなのに出るなんて、珍しいわねぇ・・・」

 

 

まぁ、普段のアリアを知っていて、かつ超のことを知らなければ、そういう反応になるか。

アーニャは、腕を組むと、にわかに真剣な表情を浮かべて。

 

 

「まぁ、私もエミリー探さなきゃいけないから長居はできないし、単刀直入に聞くわ」

「エミ・・・いえ、どうぞ。なんですか?」

「あんた・・・」

 

 

すっ・・・と、目を細めて、アーニャはアリアを見る。

その細められた瞳の中に、一瞬だけ、炎のような魔力が揺らめいて見えた。

ほぅ・・・?

 

 

「あんた、ネギの妹、辞めたんですって?」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ネギの妹、辞めたんですって?」

 

 

・・・ネギの方に、先に会いましたか。

明日菜さんか、さもなければ宮崎さんが話した可能性が高いですね。

じっと私を見つめてくるアーニャさん。

その視線は魔法学校時代から少しも変わらず、まっすぐで、熱い。

 

 

さりとて、目を逸らすわけにもいきません。

 

 

「ええ、事実です。ネギはもう、私の「兄」としての記憶を失っています」

「ネギ、ね・・・」

 

 

アーニャさんは溜息混じりにそう呟くと、目を閉じて・・・。

すぐに、開きました。

 

 

「言い訳は?」

「しません」

「後悔は?」

「ありません」

「引け目は?」

「感じません」

「話せば?」

「長くなります」

「あ、そ・・・」

 

 

もう一度、深々と溜息を吐かれます。

な、なんですか。その呆れたような視線は。

 

 

「あんたもあんたで、変わらないわねぇ」

「む、何をバカな。私はここに来てかなりの成長をですね」

「全然変わって無いじゃない・・・ま、いいわ。私も仕事あるし、後で時間作れる?」

「・・・ええ、わかりました」

 

 

アーニャさんの「仕事」が何なのかはわかりませんが、時間が無いのも事実。

とりあえず時間などを決めて、後ほど会うことにしました。

ゆっくり話したいこともありますしね。

 

 

「あー、それでさ。私これから、はぐれたパートナー探さなきゃなんだけど、この辺りの地理がわかんなくて・・・」

「ああ、初めての方には厳しいですよね。麻帆良は」

 

 

パートナー・・・? まぁ、それも後で良いでしょう。

でしたら・・・えーと。

 

 

「千草さん、ちょっと良いですか?」

「なんや、うちもう行かなあかんのやけど」

 

 

千鶴さん達と別れて行動しようとしていた千草さんを、呼び止めました。

 

 

「すみません。式神の札、一枚ください」

「ええけど・・・」

 

 

何に使うんや? と訝しむ千草さんから、札を貰います。

ええと、これに書き込んで、周りに見えないようにしゃがみこんでモニョモニョ・・・ポンッ。

 

 

「ちびアリア、です!(キラッ☆)」

 

 

某星間アイドルもびっくりのポーズを決めて出てきたそれは、私の式神です。

私の姿を模したそれは、茶々丸さんにも大好評。

地理についても、完璧に把握しています。

特殊な迷彩魔法がかけられているので、一般人に見られることはありません。

 

 

「か、可愛いじゃないのよ・・・!(ぎゅむっ)」

「く、苦しいです~(じたばた)」

「抱き潰さないでくださいね」

 

 

あんまり強く抱きしめるので、一応注意しておきます。

 

 

「わかってるわよ・・・ところで、さっきからこっちを見てるあの金髪の子、誰?」

「え・・・あ、ああ。エヴァさんですか」

「エヴァさんって、手紙に書いてた?」

「はい」

 

 

さよさんが寝惚けているスクナさんのほっぺをつついて遊んでいる横で、エヴァさんが何か言いたげにこちらを見ていました。

そういえば、名前だけ出して、詳しいことは書いてませんでしたね。

 

 

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんです」

「へー・・・何か、聞いた覚えがある名前ね」

「ええ、通称<闇の福音>の二つ名で有名な大魔法使いですね」

「・・・え」

 

 

びきっ・・・と、アーニャさんが固まりました。

何か、変なこと言いましたか?

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

ネギ君、アリアちゃん、そしてアーニャ君と出会ったのは、ウェールズでのことだった。

たしか、湖が見える丘の上だったと思う。

 

 

『やぁ・・・キミ達が、ネギ君とアリアちゃん・・・だね?』

『・・・どなたですか?』

『・・・兄様、まずは挨拶ですよ』

『アリア、たぶんそれも違うわよ』

 

 

ネギ君は、お父さんの、ナギのことを良く聞きたがる子だった。

ナギみたいになりたいと言われて、戦い方を教えたこともある。

まぁ、そんなに大したことじゃないけどね。滝を割って見せたぐらいで。

 

 

『すごいや、タカミチ!』

 

 

ネギ君の笑顔は、年相応の物で・・・見ていて、こちらまで和んでしまう物だった。

そしてそのネギ君が今や、アルの下で、修業の日々を送っていると言う。

その意味では、今日戦えるのは楽しみだとも思う。

 

 

『・・・あーるぐれい、です』

『ありがとう、アリアちゃん』

『いえ・・・ちゃん付けはやめてください』

 

 

一方でアリアちゃんは、良く分からない子だった。

ネギ君のようにナギのことを聞いてくるわけでもなく、子供とは思えない態度で、僕をお客様としてもてなしていた。

 

 

『お父様のことですか? 特に興味は・・・それより、最近のお野菜の値段が高いことの方が気になりますね』

 

 

アリアちゃんは、大人びていると言うよりも、なんだか・・・。

そしてそのアリアちゃんは、今やエヴァの従者だ。

僕とはもう、関わろうともしないだろう。

 

 

「ようこそ諸君! これから大会の内容について説明するネ!」

 

 

現実に意識を戻せば、要注意生徒の超鈴音が、本選の説明をしていた。

ここには、ネギ君や明日菜君、そしてエヴァや・・・アリアちゃんもいる。

もしかしなくとも、もう僕にできることは無いのかもしれないけれど。

 

 

・・・ナギ。

貴方なら、どうしますか?

 

 

憧れの人に問いかけてみても、答えは返っては来なかった。

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

「な、なんと言うことですの――――っ!?」

 

 

いいんちょが、教室の真ん中で頭を抱えとる。

なんでかと言うと、ネギ君が格闘大会に出るって噂を聞いたから。

で、調べてみたら、本当だったってわけや。

 

 

「か、格闘大会だなんて、そんな危険なっ・・・! いえそれ以前に、すでに退院されていたとは!」

「まぁねぇ。過労にしては長い入院だとは思ってたけどさ」

「学祭の準備で忙しかったから・・・」

「うー、やっぱりお見舞いに行けば良かったかな~?」

 

 

右往左往しとるいいんちょをよそに、ゆーな達がネギ君について話しとった。

まぁ、忙しかったし・・・しょうがない部分もあるんやろうけど。

 

 

でもだからって、うちらに何も言ってくれへんのは、ネギ君、ちょっと寂しいわぁ。

というか、そう言うのってまず上の人に戻りましたって言うて、それから大会に出るのが筋やと思うんやけど。

アリア先生も何も言わへんかったってことは、知らんかったんかなぁ?

 

 

「なぜ誰も、教えてくれなかったんですの!?」

「しょーがないよー。私らだって知ったの今朝だもーん」

「ゆーな! 4番にご指名!」

「お☆ マジで?」

 

 

・・・どうでもええけど、この指名制は、やっぱあかん思うんやけど・・・なんや怖いし。

・・・でも、うちも、昨日アリア先生を連れて行った白い髪の人にやったら・・・。

 

 

「亜子? どうかしたの・・・?」

「ふぇ!? な、なな、何も!?」

 

 

慌てて両手を振ると、アキラは不思議そうな顔をした。

い、いけないいけない・・・。

 

 

それにしても、あの人、誰やろ・・・。

今度、アリア先生に聞いてみようかな・・・。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

じ、じじじ、冗談じゃないわよ!

 

 

アリアと別れた後、私は心の中で、そう叫んだ。

それでも、しっかりとちびアリアを抱えてる。

 

 

「あ、あんたのご主人、なんて奴の所にいるのよ!?」

「えぅ? 良い人ですよぅ?」

「んなわけ無いでしょ――っ!?」

 

 

<闇の福音><人形遣い><悪しき音信><禍音の使徒>・・・他にもたくさん!

ネギとアリアのお父さんがようやくやっつけたって言う、最強の悪の魔法使いじゃない!

あの子、自分がどんな状況にいるのか、わかってるわけ!?

た、食べられちゃったら、どうするのよ!

 

 

「あのぅ、パートナーさん探さないんですかぁ?」

「ぱ、パートナー・・・そうね、パートナー。エミリーにも相談しないと・・・」

 

 

な、なんとかこっそり抜け出させないと。

ああもう、やっぱり私がいないと危なっかしいったら・・・!

 

 

と、とにかく、カモを追いかけて行ったエミリーを探さないと。

探査は向こうの方が得意だから、あんまりこの場から離れない方が良いかもしれないわね。

そうは言っても(ドンッ)。

 

 

「ぶふっ」

「・・・すまない。大丈夫?」

 

 

考え事をしてたから、誰かにぶつかっちゃった。

相手は白い髪の男の子で・・・・・・綺麗な男の子ねー。

 

 

「・・・何か?」

「あ・・・ご、ごめんなさいっ!」

 

 

訝しげな男の子に謝って、そのまま駆け出した。

い、嫌ねー、私ったら、男の子に見惚れるだなんて・・・。

 

 

・・・なんでか、ちびアリアがジト目で私を睨んでた。

 

 

「・・・本体に報告ですー」

「なんでよ!?」

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

私の武道会での役割は、解説・実況です。

選手の面々を見るに、おそらくは魔法や気などが使用されると予想されます。

それを一般人の方にも受け入れていただけるよう、無理無く説明するのが私の役目です。

無論、映像記録も私が。最先端の撮影機能をハカセに付けていただきました。

 

 

「・・・なぁ、茶々丸はん、席をとってもらっといて難癖つける気はないんやけど・・・」

「はい、なんでしょうか」

「この、解説って書いてあるネームプレートはいったい・・・」

「そのままの意味でとっていただいて、結構ですが」

 

 

私の言葉に、千草さんはもの凄く嫌そうな表情を浮かべました。

 

 

「・・・良く見える席で見たいと言ったのは、確か千草さんだったと・・・」

「わかっとる。その通りや、その通りなんやけど、これは何か違うやろ・・・」

 

 

まぁ、そう言わずに、お願いしますよ。

私としても、知人が相手の方が何かとやりやすいかと思いますので。

 

 

「・・・発言に遠慮がいらんからか?」

「そうとも言います」

「ああ、そう・・・・・・はぁ」

 

 

盛大な溜息を吐かれる千草さん。

幸せが逃げますよ?

 

 

そう言えば、こういう時には肩を叩いてあげれば良しと、データベースに記載されています。

さっそく、試してみましょう・・・。

 

 

 

「お邪魔しますよ、お嬢様方」

 

 

 

その時、10名程の黒服の人間が、突然姿を現しました。

転移・・・では、ありませんね。瞬動の類のようです。

そしてその中央に、眼鏡をかけた細身の男性・・・!

 

 

「・・・なんで、あんさんがここにおるどす」

「おや、これは手厳しいですねぇ」

 

 

千草さんの警戒度が、一気に上がったようです。

先ほどまでと違い、鋭く目を細めます。

 

 

・・・黒服の方々の襟元の紋章は、魔法世界メガロメセンブリア軍の物と思われます。

そしてあの眼鏡をかけた男性は、ほぼ間違いなく・・・。

 

 

「・・・クルト・ゲーデル元老院議員」

「いえ、何、恥ずかしながらこれほどのお祭りは初めてな物で・・・年甲斐も無く、はしゃいでしまいましてね」

「・・・それは、知らへんかったわ」

「いや、お恥ずかしいですね」

 

 

クルト議員は、こちらに断りも無く、私と千草さんの間の席に勝手に座りました。

さらに言えば・・・先ほどまでいたはずの周囲の観客がいません。

代わりに、黒服の方々が配置されております。

 

 

これは・・・。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「いや、お恥ずかしいですね」

 

 

何を白々しい。

これでうちらを人質にでもしたつもりか?

うちはどうだか知らんけど、茶々丸はんに手ぇ出したらあんた、死ぬえ?

 

 

・・・うちは、どないしたらええんやろ。

 

 

「・・・しかし、面白い催し物ですね。ここではいつもこんなイベントが?」

「さぁ・・・うちもここに来て短いんで」

「ああ、そう言えばそうでしたねぇ。いえ、失敬。良く知っている物かと・・・」

「ええんどすか? 午前の会談に行かんでも」

「心苦しいのですが、今朝はどうにも体調が悪くて。ちょうどメルディアナが麻帆良と会談したがっていたようですので、順番を変えてもらったのですよ」

「・・・なるほど」

 

 

順番・・・ホストの麻帆良側が決めるはずの会談の順序を知っとるだけでなく、入れ替えも思いのまま。

元老院議員言うんは、皆こんなんなんか?

まぁ、ええわ。

 

 

考えようによっては、こないに早くこの男と話せる言うんやから、悪くない。

 

 

「しかし、関西呪術協会も大変ですね」

「・・・はぁ」

「なんでも、一部の過激派が暴発して、伝説の鬼神を持ち出そうとしたとか・・・なんでしたか」

 

 

クルト議員は、何とも嫌な感じの視線をうちに向けてきた。

 

 

「確か・・・アマガサキチグサとか言う名前の女性が首謀者だとか」

「・・・ただの内輪揉めどす。西洋魔法使いのお偉いさんの気にすることやありまへんよ」

「これは、失礼。もちろん、関西の主権は尊重しますとも。貴女の上司は私の剣の師でもありましてね・・・ご存知でしたか、天崎千草殿?」

 

 

あんたがそんな義理人情で動く人間やとは、とても思えへんけどな。

名前、もう少し変えとくべきやったかな。

茶々丸はんに視線を向けると、うちのことを心配そうな顔で見とった。

・・・大丈夫や、何も言わへんよ。

 

 

「・・・ああ、そうそう。ひとつ気になったのですがね」

「・・・なんどすか」

 

 

よう喋る男やな。

・・・それも、ネチネチと遠回しに。

絶対、友達おらへんやろ、この男。

 

 

「あの天崎月詠と天崎小太郎と言うのは、貴女の親類か何かですか?」

「・・・まぁ、そんなようなもんどす。それが何か?」

「いえ、何・・・仕事柄、細かいことが気になるタチでしてね」

 

 

クルト議員は両手を組んで、その上に顎を乗せながら、続けて。

 

 

「・・・実に面白い経歴だと、思いましてね」

「・・・!」

 

 

表情を動かしたらあかん。

 

 

・・・調べたんか、こんな短時間で。

小太郎と月詠はんの戸籍やら経歴やらは、関西でこさえた偽物や。もちろん、うちのも。

いや、孤児扱いで作成された物やから、完全に偽装とは言えへんけど。

でも、それ以前にうちらがどこで何をしていたかの記録は、完全な偽装や。

 

 

「・・・どうかしましたか?」

「・・・はは、まさか。どうもしまへんよ」

「そうですか、それは良かった」

 

 

・・・何や、その目は。

それで、うちを脅しとるつもりか?

月詠はんや小太郎が、うちの弱点になるとでも思うとるんか。

うちから関西を崩せるとでも、思うとるんか。

 

 

は、はは、笑わせてくれるなぁ。

・・・おかしすぎて、腸が煮え繰り返るわ。

うちを舐めくさるのも、大概にせいよ。

 

 

「おや・・・どうしたのですか、随分と怖い顔をしていますが」

「・・・・・・いやぁ、寝不足でしてなぁ」

「そうですか、それはいけませんね」

「ええ、ほんまに・・・いけまへんなぁ、ソレは」

 

 

・・・これだけは、忘れたらあかんえ、クルト・ゲーデル。

あんたがどこで何を企もうと、うちは知らん。知りたくもないわ。

関西を牛耳りたいんやったら、好きにしたらええ。知ったことか。

 

 

『ご来場の皆様、大変長らくお待たせいたしました! 只今より第一試合を開始いたします!』

「おや、始まるようですねぇ」

「・・・そうどすな」

 

 

けど、けどな・・・。

 

 

『かたや中2の少女、佐倉愛衣選手! そしてかたや、少年忍者・・・』

 

 

けど、あの子らに・・・小太郎と月詠はんに手ぇ出してみぃ・・・。

タダでは、済まさへんからな。

 

 

『天崎小太郎選手!』

 

 

陰陽師の呪詛を、甘く見ぃひんことやな。

西の呪いは、神をも殺すで。

 

 

「おや・・・さっそくのご登場ですねぇ」

「・・・そうどすな」

 

 

 

その時は、覚悟しぃや。

 





アリア:
アリアです。次回から格闘が多くなりそうな感じです。
・・・しかし、なんだか久しぶりに、戦闘以外で身の危険を感じているような気がしますね。
アーニャさんもやってきて、なんだか賑やかさが増してきましたし。
さて、面倒も無く終われば良いのですが。


今回使用した魔法具は、以下の通りです。

歩く教会:元ネタは「とある魔術の禁書目録」。
提案は司書様、ぷるーと♪(笑)様、水上 流霞様、haki様です。
オガム文字:魔法具ではありませんが、伸様の提案です。
ありがとうございます。


アリア:
今気付いたのですが・・・私、次回で長瀬さんと戦うことになるのではないでしょうか。
本当に今さらですが、どうしましょうか。
・・・困りました。
では、またお会いしましょう。

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