魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第44話「誓約」

Side エヴァンジェリン

 

「む・・・」

 

 

珍しく、早くに目が覚めた。

普段なら早起きなどせんのだが、昨日のアリアの話が関係しているのかもしれん。

 

 

「転生か・・・」

 

 

正直、そのこと自体に思うことはなかった。

むしろ、もったいぶって話す割には・・・とすら思った。

物語の中の世界という概念には驚いたものの、アリア自身も認めるように、必ずその通りに動くわけではない。現状でも大分違ってきているらいしからな

言ってしまえば、参考程度の情報でしかない。それもかなり不確かな部類の。

 

 

だいたい・・・。

 

 

「600年前に吸血鬼に変化した私も、それほど差はない」

 

 

あの時、人間としての私は死んだ。その意味で転生とやらと大して変わらん。

・・・細かくは、変わらんと思う。

まぁ、別にそのことについてとやかくは言わん。ただ。

ただ、聞く所の「神」とやらが私を吸血鬼にした下種と同様、アリアの意思に関係なく転生者に仕立て上げた節があるということだけが、気に入らない。

 

 

もし見つけたら・・・間違いなく殺してやるのに。

 

 

「ん、ぅ・・・」

「・・・ふん」

 

 

隣で眠るアリアが何かを求めるように伸ばした手を、何気なく掴んでやる。

すると、どこか安心したように力を抜いた。

・・・自惚れでなければ、私の存在でこいつは安心してくれているのだろうか。

自分が誰かを安心させられる存在になるなどと、数年前までは考えたこともなかった。

 

 

「・・・甘えん坊め」

 

 

仕方のない奴だな。

寝乱れたアリアの髪を、なるべく優しく手で梳いてやる。

起きてからだと、茶々丸が独占するからな。今しかできん。

 

 

白い髪。昨日の映画の中では、鮮やかな金色だった。

聞く所によれば力が強くなるにつれて、つまりは魔法学校にいる間に徐々に色素が抜けていったらしい。

今では、光に透かせば透き通りそうなほど、白くなっている。

 

 

「・・・シンシアとか言ったか」

 

 

アリアを救った女。

そしてアリアに、呪いとも言える言葉を遺した女だ。

アリアにとっての、最初の理解者でもある。

だが・・・アレは、何だ? 

 

 

あまりにも情報が少なくて、判断が付かない。

あの女は、いったい何が目的でアリアに近付いた?

嫌がらせとは、なんのことだ?

アリアが、転生者が生きていることで、あの女はどんな利益を得る?

そもそも・・・。

 

 

「・・・エヴァ、さん?」

 

 

考え込んでいると、アリアが目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

頭に優しい何かを感じて、目を覚ましました。

最初に目を開けて視界に入ってきたのは、難しそうな顔のエヴァさん。

 

 

「・・・エヴァ、さん?」

 

 

どうしようもなく不安になって、声をかけます。

するとエヴァさんは私の方を見て、優しげに微笑んでくれました。

 

 

「起きたか、甘えん坊め」

「甘えん坊って・・・」

 

 

ふと、エヴァさんの手を握っていることに気付いて、慌てて引っ込めました。

・・・何か、最近子供っぽくなってる気がします。

まぁ、エヴァさん達は実年齢も精神年齢も私よりずっと上なわけですけど。

 

 

「おはようございます。マスター、アリア先生」

 

 

ノックの後、茶々丸さんが入ってきました。

そのままこちらに来るかと思えば、なぜかベッドの端の方に目をやり。

 

 

「おはようございます。さよさん」

「は? さよさんって・・・」

「んぁ~ぃ・・・」

「そんな所にいたのかお前・・・」

 

 

ベッドの下からのそのそと、さよさんが身を起してきます。

眠たげに目を細めて、顎をベッドの上に。

・・・ベッドから落ちていたんですね。

 

 

「こんな広いベッドでなんで落ちるんだ?」

「えへへへ~・・・」

 

 

エヴァさんの言葉に、はにかむさよさん。

それを見ている茶々丸さんも、どこか楽しそうに見えます。

 

 

「ではアリア先生、御髪をお梳きいたします」

「茶々丸。いつも思うんだがそこは私を先にやるべきではないのか?」

「じゃあ、エヴァさんは私が~・・・」

「半分夢の中にいるくせに何言ってるんだお前は・・・ええい、貸せ、私がやってやる」

 

 

・・・なんというか、あまりに普通です。

いつもと変わらない朝過ぎて、実は何も話していないのではないかと思ってしまうくらいに。

 

 

「えっと・・・あの、茶々丸さん」

「はい」

「私、その・・・ちゃんと、話しましたよね?」

 

 

話したと言うか、見せたと言うか・・・。

 

 

「お前の過去の話か? それとも転生者についての話か?」

 

 

櫛を片手にフラフラするさよさんの頭を押さえ付けながら、エヴァさんが言いました。

どちらというか、両方なのですが。

 

 

「どちらでもいいが、それがこれからの私達の関係に何か影響するのか?」

「えっと・・・」

「影響、してほしいのか?」

「いえ、そんな、そんなことは」

 

 

ただ昨日の夜、話し終えた後、エヴァさん達が何も言わなかったのが不安でした。

そのまま、普通にいつものように接してくれていたのが、嬉しかったけど、不安だった。

変わらないことが、むしろ怖かった。

 

 

「その・・・」

 

 

嫌われたかったわけでも、気持ち悪がられたかったわけでもない。

罵られたかったわけでも、距離を取られたかったわけでもない。

ただ・・・。

 

 

「・・・昔の話だ」

「え・・・」

「私は中世のヨーロッパに生まれた。その頃の私はまだ正真正銘の人間だった。600年前のことだ」

 

 

さよさんの髪を梳きながら、エヴァさんが自分の過去を話し出しました。

この話は、確か。

 

 

「10歳の誕生日。目が覚めると私は吸血鬼になっていた。神を呪ったよ・・・そして私をこんな姿にした男を殺して、逃げた。その後は苦難の逃亡生活さ。魔女狩りの時代なんかには、一回ミスって焼かれたしな(笑)」

「いや、そこで(笑)は何か違うような・・・」

「さすがマスター。度量が大きい」

「はっはっはっ、いいぞもっと褒めろ。まぁ、ともかくだ。私はもう結構な数の人間を殺してきたし、長く生きてきた。中には子供に言えんような残酷なことをした時期もある」

 

 

そこでエヴァさんは、くるりと振り向いて、私を見ました。

優しい微笑みと、少しばかりの怯え。

 

 

「それで、どうだアリア。お前は私との関係を見直したいのか?」

「・・・いいえ、何ひとつ」

「なら、私からお前への返答も同じことだ。何も変わらん。だいたいだな、前世の記憶があるくらい、大したことないだろうが。さよを見てみろ」

「ほえ? 私ですかぁ?」

「こいつは60年前に死んでるんだぞ? 元幽霊だぞ? ある意味私達の中で一番摩訶不思議な存在だろうが」

「ちょ、それひどくないですか!?」

「その通りです。マスター!」

 

 

なぜかここでズズイッと前に出る茶々丸さん。

 

 

「ここはやはり、ガイノイドである私が一番ではないかと・・・」

「いえ、茶々丸さん。論点がズレてきている気がします」

「一番はスクナだろおぉ―――――っ!!」

「イヤ、オレダゼェ――――――ッ!!」

 

 

どがんっ、と扉を蹴破る勢いで、チャチャゼロさんを頭に乗せたスクナさんが部屋に突入してきました。

いつものオーバーオール姿。両手には、苺がいっぱい入った籠を持っています。

実は農作業する分、スクナさんが一番早起きなんですよね。

 

 

「泥だらけで寝室に入ってくるなあぁ――――っ!」

「うおぉあ―――――っ!?」

「すーちゃん!?」

 

 

放たれる無詠唱の『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』。

あれって無詠唱で撃っていい魔法だったかな・・・。

 

 

「今日の朝食に苺を追加しましょう」

「ダナ」

「いつの間に・・・」

 

 

いつの間にか、籠を持って茶々丸さんの頭に移動していたチャチャゼロさん。

その後何度かスクナさんに氷結魔法を叩きこんだエヴァさんは、「まったくバカ鬼が」とか言いながら、氷像と化したスクナさんを放置して。

 

 

「このメンバーで前世の記憶があるとか無いとか、些細な問題だと思わんかアリア」

 

 

真祖の吸血鬼であるエヴァさん。1600年を生きるスクナさん。ガイノイドの茶々丸さんに、数百年前から動いているチャチャゼロさん。60年間幽霊をやっていたさよさん。

・・・たしかに転生者とか、ランク低そうです。

茶々丸さん以外、私より年上ですし。

 

 

「・・・だが良く、話してくれたな。怖かっただろう」

「あ・・・」

 

 

近付いてきたエヴァさんが、クシャクシャと私の頭を撫でてくれました。

 

 

「・・・だがな。別にそんなに気を張る必要はない。私は・・・」

「・・・エヴァさん」

「私達は、家族だろう?」

 

 

自分の身体が、強張るのを感じました。

自分の顔が、歪んでいくのを感じました。

私の、顔に。

 

 

頬に、涙が溢れてくるのを、感じました。

 

 

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「いったいこれは、どういうことなんかなぁお祖父ちゃん」

「い、いや、なんというかの・・・」

 

 

あの後、朝早く(別荘の中での話だが)に私とこのちゃんは別荘を出た。

式神の報告によれば、ネギ先生達はまだ目を覚ましていないらしい。

古菲さんだけが、眠ることなくじっとしているらしいが。

 

 

とにかく外に出てみると、まだ午後だった。

相も変わらず、この時間の差には慣れない。

その足で、学園長室に向かった。一応、エヴァンジェリンさんの遣いという形で。

 

 

「なぁんでネギ君らがエヴァちゃんちに来るんかなぁ?」

「そ、それはじゃのぅ・・・」

「うちなぁ、とっても大事なことせなあかんかったのに、できひんかったんやえ?」

 

 

どないしてくれるん? と、瀟洒なゲートボールスティックでコツコツとテーブルを叩くこのちゃん。

私は知っている。

あれは一見ただのゲートボールスティックだが、その実『崩壊の鐘を打ち鳴らすもの』と言う名の魔法具だ。

あれで叩かれるとかなり痛い。具体的には悶絶する。

 

 

「うふふふ・・・」

 

 

最近、エヴァンジェリンさんの影響なのかどうなのか、たまにこのちゃんが凄く黒い笑顔を浮かべる。

ああ・・・昨夜の優しいこのちゃんも良かったが、あのように凛々しいこのちゃんも・・・。

 

 

カコーンッ!

 

 

「せっちゃん?」

「は・・・はい!」

 

 

ぽいっと投げ渡された『崩壊の鐘を打ち鳴らすもの』を両手で受け取る。

見れば、なぜか学園長が後頭部を押さえてテーブルに突っ伏している。

ああ、叩かれたんだ・・・そういえばさっきカコーンって打撃音がしたな。

 

 

私がそれをさらに横に放ると、空間に沈むように消えた。

私は、いくつかの道具や武器を身体の周囲に纏っている小規模な結界内に収納している。

これも、『月衣(カグヤ)』と言う名の魔法具だ。

便利なので、常に展開している。

 

 

「まぁ、そんなわけで・・・ちゃんとネギ君に伝えとかへんお祖父ちゃんが悪いんやで?」

「な、なんのことじゃあ・・・?」

「簡単な話や、お祖父ちゃん」

 

 

ニコニコと笑いながら、このちゃんが言った。

 

 

「ネギ君はもう、うちらに関われへんようになるだけや」

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

朝になって、エヴァンジェリンさん達に呼ばれた。

なんだろう、昨日の夜の記憶があんまりないや。

何か、もの凄い衝撃が頭に・・・あ、コブができてる。

 

 

「申し訳なかったアル」

 

 

開口一番、古老師がエヴァンジェリンさん達に頭を下げた。

皆が驚いた顔をする中、エヴァンジェリンさんだけが、少し面白そうな物を見たみたいな顔をした。

 

 

「何が、申し訳ないんだ? 古菲」

「客でもないのに勝手に敷地に入ってしまったアル。あまつさえ家の物に手を触れてしまったアル」

「ふぅん・・・それで? 謝っただけで許されるとは思っていないよな?」

「なっ・・・」

「・・・もちろんネ。拳を割られても文句は言わないヨ」

 

 

こ、拳を割るって、そんな!

 

 

「だ、ダメですよそんなの!」

「そ、そーよ! ダメよ! というかなんでエヴァちゃんが椅子で私達は床なのよ!」

「立場を弁えていないようだな神楽坂明日菜」

 

 

エヴァンジェリンさんはこの場でただ一人、大きな椅子に座って僕達を見下ろしている。

向かって左側に茶々丸さんが。右側に、アリアが立っている。

アリアは何かの本を持っていて、茶々丸さんはお盆に何かを乗せている。

エヴァンジェリンさんは左手に付けたブレスレットをいじりながら、僕達を見て。

 

 

「しかし、なんというか・・・見れば見るほど苛々させられるよ。貴様には」

「ど、どういう意味よ」

「貴様が大嫌いだという意味さ。神楽坂明日菜」

「んなっ!?」

「私は貴様のような人格には、なんの興味も持てんよ。明るく屈託なく考えなしにモノを言い行動する。どこにでもいるアホな女子中学生だ」

「そっ・・・!」

「それの何が問題なのです?」

 

 

立ちあがろうとした明日菜さんを押さえて、夕映さんが割って入った。

 

 

「確かに私達は普通の女子中学生です。それの何が問題なのです?」

「いいや? 問題などないさ」

「それなら」

「だがここは普通の女子中学生が来て良い場所じゃないし、関わって良い場所でもないんだよ。それに」

 

 

ニィ・・・と、エヴァさんは笑みを浮かべた。

かすかな魔力と、確かな殺気に、身体が強張る。

 

 

「別に貴様らを外に出すつもりもないしな」

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ど、どういう意味よ!」

「どういう意味も何も、そのままの意味さ。お前達をここから出すつもりはない」

 

 

『千の魔法』を片手に持ちながら、エヴァさん達の話を聞いています。

出さないね・・・本当は今すぐにでも叩き出したいくせに。

 

 

「幸いここは私のテリトリーだ・・・外からの干渉も監視もない。目障りな貴様らを消すのにはちょうど良いチャンスだとは思わないか?」

「け、消すって」

「そんな非人道的なことが、許されるはずがないです!」

 

 

というか、朝倉さんが恐ろしく大人しいですね。

さっきから明日菜さんの背中に隠れて、私と目を合わせようともしないんですけど。

彼女の魔法の恐怖対象は、私限定と言うことなのでしょうか。

 

 

「非人道的ときたか綾瀬夕映。では聞くが、家人に許可なく家に入ることは人道的な行為なのか? いわゆる、プライバシーの侵害とか言う物ではないのか?」

「それは・・・そうですが」

「で、でも・・・その、命がどうとかって話にはならないと思うんですけどー・・・」

 

 

おそるおそるといった感じで、会話に混ざる宮崎さん。

でも、不法侵入で死刑になる国って意外と多いですよ?

 

 

「ふむ、そうか。なるほど、生死に関わるほどの罪ではないと、そう言いたいわけだ」

「あ、当たり前じゃないですか!」

「当たり前ねぇ・・・ならぼーや、こういうのはどうだ?」

 

 

エヴァさんが左手の収納アイテム『妖精の腕輪』から、黒と白の二丁拳銃をプットアウトします。

二丁拳銃、『七つの大罪』。効果は・・・。

 

 

「これは一見拳銃だが、これで撃たれても死なないんだ。その代わりに便利な機能があってな?」

「き、機能・・・?」

「五感を消せる」

「なっ・・・!」

 

 

正確に言うのなら、平衡感覚などを含めた七つの感覚を消すことができます。

それぞれを司る七色の弾丸が、ランダムに撃ち出されていずれかの感覚を破壊します。

消された感覚は、原則として戻すことができません。

 

 

「だ、ダメに決まってるじゃないですか!」

「私は構わないアル」

「古老師!?」

「くーふぇ!? な、何言ってんのよ!」

 

 

古菲さんだけは、他の方とは考え方が異なる様子です。

流石は、礼節を重んじる拳法家と言った所でしょうか?

まぁ、別荘に入ってしまったこと自体が事故みたいな物ですからね・・・。

問題なのは、その前の不法侵入その他であって。

 

 

「悪いのはこちらネ。償いの方法を提示されているだけまだ良いアルよ」

「じ、自己弁護とかそういうのはないですか貴女は!?」

「夕映。私はただ己を恥じないですむ生き方をしたいだけアル」

「だ、ダメですよ古老師! 僕の生徒をそんな酷い目に合わせられないです!」

 

 

そこだけ聞くとかなり良い台詞なのですが、全体で見るとそれほどでもないのですよね。

 

 

「なんでもいいが・・・それでどうするんだぼーや。とにかく私はタダで返すつもりは毛頭ないぞ」

「そ、それは・・・」

「ち、ちょっとエヴァちゃん。子供がこんなに謝ってるんだし・・・」

 

 

いえ、謝ってないですよ明日菜さん。

特に貴女が。

 

 

「謝ったから許せ? また随分と身勝手なことを言う。まぁ、そう言うだろうとは思っていたからな。そんなぼーや達に最大譲歩のB案を用意してある」

「B案・・・?」

「誓え、二度と私達に関わらないと」

 

 

エヴァさんの要求は、簡単に言えば以下のようになります。

今後ネギ先生とその(魔法)関係者は、エヴァさんとその(魔法)関係者と魔法関連で関わらない。

少なくとも、ネギ先生側でのイニシアティブで関わることを禁止します。

もちろん、私達はなんの制約にも縛られることはありません。

 

 

そしてそれを、魔法と魔法具で強制的に遵守していただきます。

 

 

「それをこの場で誓約するのなら・・・今、この場でだけは見逃してやっても良い」

 

 

ことり。

茶々丸さんがネギ先生達の前に置いたのは、『鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)』。

翼に天秤を付けた鷲を象った印璽です。

 

 

効果は、誓約した者の言葉を絶対遵守させる封印級の魔法具。

これはこの世界に元々ある魔法具で、先日エヴァさんの蔵の中から発掘してきました。

忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』と言い、エヴァさんの蔵は一度本格的に整理しないといけませんね・・・。

 

 

「お前もだぞ、そこの小動物」

「お、俺っちもっスか・・・?」

「煮て食われたくなければな」

 

 

ネギ先生の服の中で「いないフリ」を続けていた下等生物が、よじよじとネギ先生の肩の上に出てきました。

というか、貴方が主目的と言っても過言ではないのですが。

 

 

さらに。

『千の魔法』№67・・・『ギアス』。

本来は対個人用の魔法ですが、私の『ギアス』は誓いに参加する者全てを対象とすることができます。

誓いに反する者に苦痛を与える魔法。

 

 

私の持っていた本が急に輝いたので、ネギ先生達はかなり驚いた顔をしています。

一見すると、魔法具を扱っているように見えるでしょうか。

・・・発動。ここより先、「誓う」と言う言葉を発した人間に効果を発揮します。

 

 

「・・・さて、どうする? 私は別にどちらでも構わんが」

「そ、そんなの納得できるわけが・・・」

「誓うネ」

「くーふぇ!?」

「古老師・・・」

 

 

認証。

古菲さんは今後、魔法関係で自分から私達に関わることができなくなりました。

なんという信念。そこにだけは、敬服しますよ。

 

 

「ククク・・・いいだろう。今回は許そう、古菲。だが次はない」

「・・・感謝ネ」

「ふん・・・さて、他の連中はどうするんだ? 言っておくが・・・」

 

 

とんでもなく黒い笑顔で、エヴァさんは続けました。

 

 

「これはお願いでもなければ交渉でもない。命令だ。「はい」か「イエス」以外を受け入れるつもりはない。さもなくば・・・」

 

 

じゃきっ。

『七つの大罪』を構えて。

 

 

「代償を払ってもらう」

 

 

 

 

 

 

Side 明石教授

 

『本当にもー、ちゃんとご飯食べなきゃダメだよー?』

「あははは、ちゃんと食べてるよゆーな」

 

 

今日だってちゃんと、レトルトのチンしない奴とかを食べたよ。

心配性だな~ゆーなは。

 

 

「そういえば、ネギ君とアリア君はどんな感じだい?」

『えー? ネギ君は上手くやってると思うよ? 教え方も他の先生よりも上手いくらいだし』

「ほほお、それは良かった」

『アリア先生はねー。うん、先生って感じ。上手く言えないけど』

「ふ~ん・・・?」

 

 

ゆーなにしては珍しく、要領を得ない言い方だなぁ。

まぁ、アリア君については良くわからない部分が多いからね。

ネギ君はわかりやす過ぎるくらいにわかりやすいからなぁ。

 

 

と言っても、最近の学園長の采配には真面目な刀子さんとかが不満を言っていたし・・・。

瀬流彦君は、ちょくちょくアリア君と一緒にいるのを見かける。

でも、ネギ君の魔法の指導役もやっているんだよね・・・。

 

 

「・・・お?」

『何々? どうしたの、おとーさん?』

 

 

ゆーなと繋がっている携帯が、別の着信を知らせた。

 

 

「ごめん、ゆーな。着信だ」

『え!? 何!? もしかして女!?』

「あははは、まさか・・・じゃ、おやすみ」

『もー、しょうがないなぁ。お休みなさい!』

 

 

ゆーなとの通話を切って、キープされていた着信に出る。

相手は・・・あ、ごめんゆーな。女性だったよ。

 

 

『明石教授?』

「あ、ああごめん。久しぶりだねドネット」

『ええ・・・そちらはもう夕方かしら』

 

 

彼女がいるのはウェールズだから・・・あっちは朝かな?

ドネットはネギ君達の故郷でもあるウェールズ、それもメルディアナ魔法学校の校長の部下だ。

ゆーなの母親、つまりは僕の妻の友人で、仕事仲間でもある。

 

 

「それで・・・急にどうしたの? 珍しいね」

『珍しいも何も・・・私は明石教授の方から連絡があると思っていたのだけど?』

「どういうことだい?」

『ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマンの件よ』

 

 

ヴィル・・・何だって?

 

 

『・・・そちらの学園長から聞いていないの? 校長から警告文が送られたはずよ』

「警告文? ・・・いや、すまない。何の話かわからない」

『・・・・・・仕方ない。飛行機を一本、いえ二本遅らせるから、状況を説明する』

 

 

ドネットの声が固い。

こういう時、嫌な予感しかしないのは仕方が無いだろう。

飛行機って言うのも気になるけれど。

 

 

これから、何かが起ころうとしているのか・・・?

 

 

 

 

 

 

Side ヘルマン

 

やれやれ、しがない雇われの身というのも、辛い物だ。

麻帆良に侵入するのも、結構手間取った。没落貴族の悲しい所か。

 

 

「ターゲット、見つけたゼ」

「ここから西に約2300メートルの位置デス」

「・・・別れるのを待ちマス」

 

 

・・・ふむ。反応が無いからどうなるかと思ったが。

これなら、クライアントの依頼も遂行できるという物だ。

 

 

「よろしい。では君達は作戦通りに行動を開始したまえ」

「ラジャ」

「くれぐれも、アリア・スプリングフィールドとその縁者に手を出さないように。あくまでもネギ・スプリングフィールドとカグラザカアスナ。両名の調査が目的だ」

「ラジャラジャ」

「ネギ君とその仲間らしき人間以外は避けたまえよ、くれぐれもね。クライアントの意向だ」

「ラジャラジャラジャ」

 

 

連れてきたスライム3体に命令を徹底させて、行かせる。

しかし、今回のクライアントも不思議な依頼を出す物だ。

 

 

サウザンドマスターの息子の方は好きにしろと言う一方で、娘には殺されても手を出すなと言う。

・・・というか、もし娘の方に遭遇したら一方的に殴られろというのは、流石に無理がある。

 

 

「・・・良い月だ」

 

 

雲ひとつない。

今夜は月が良く見える。

 

 

「良い夜だ・・・」

 

 

こんな良い夜に、こんなに大変な仕事をさせられるとはね。

やれやれ・・・。

 

 

「では、始めようか」

 





アリア:
アリアです。
今回は過去編直後の朝からヘルマン編の導入までの話でした。
徐々に、話の展開が進んでいくようです。

今回使用された魔法具は、以下の通りです。
月衣(カグヤ):元ネタは「ナイトウィザード」。提供は星海の来訪者様です。
七つの大罪:提供者は水色様。
崩壊の鐘を打ち鳴らすもの:元ネタは「お・り・が・み」です。
提供はざぶざぶ様です。
妖精の腕輪:提供はkusari様です。
ありがとうございます。

千の魔法は以下の通りです。
ギアス:元ネタはソードワールド。提供はマルコシアス様。
ありがとうございます。

アリア:
次話は、おそらくヘルマン卿が派手に動いてくれることでしょう。
さて、ようやく悪魔編も佳境。
伯爵閣下を、静かに出迎えるとしましょうか。
では、またお会いしましょう。

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