魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

40 / 90
第35話「東西・会談」

Side 学園長

 

麻帆良学園は多くの生徒が通う学園都市であると同時に、関東魔法協会の本部でもある。

当然、「それなり」の設備は整っておる。

 

 

上座のわしの席を頂点に、左右に長テーブルと十数個ずつの椅子が並んでおる。

そのそれぞれに、麻帆良に勤務しておる魔法先生が座る。

タカミチ君だけは座らずに、わしの背後に控えておる。

全員ではないが、主要なメンバーはほぼ揃っていると言っても過言ではあるまい。

彼らの手元には、瀬流彦君が上げてきた報告書がある。

 

 

そこには京都で何が起こったか、その一部始終が書かれておる。

瀬流彦君も全ての現場を見ていたわけではないので、不明瞭な点もあるが大まかな流れはわかる。

特筆すべきは・・・。

 

 

「アリア君か・・・」

「はい。彼女がいなければ、どうにもなりませんでしたよ」

 

 

僕は戦いは苦手ですから。

瀬流彦君は笑ってそう言うが、これは・・・。

 

 

「しかし学園長、彼女は超鈴音と並ぶ要注意人物だったはずでは?」

「むぅ、そうなのじゃが・・・」

 

 

刀子君の疑念も最もじゃが、しかし瀬流彦君が虚偽の報告をするはずもない。

そしてこの報告書を見る限り、アリア君のおかげで一般生徒への被害を防げたと言うことになる。

 

 

「・・・ネギ君に関する報告が少なくないかね? 特に、肝心の三日目の部分で」

「ああ、ネギ君はその日、関西呪術協会の本部に泊まり込んでいましたから。細部はちょっと・・・」

「親書の受け渡しが終わったことと、その後の関西の問題に手を貸したことは、直接報告を受けておる」

「なるほど・・・」

 

 

ただアリア君が瀬流彦君の目の届く範囲外で何をしていたかの部分は、書かれておらん。

本人からの報告が無い分、辛いの・・・。

こちらの依頼で動いていない以上、報告の義務は無いが、情報が少ない。

 

 

「だが、アリア君はあの<闇の福音>の下にいるんだ。油断は・・・」

「私が・・・なんだって?」

 

 

場が、静まり返った。

扉の枠に身体を預けるようにしてこちらを見ているのは、金髪の悪魔。

・・・エヴァンジェリン。

 

 

「ふん・・・てっきり、もう始まっているのかと思ったがな」

「・・・向こうが設置に手間取ってるようでの」

「ま、そんなところだろうさ」

 

 

そのまま周囲には話しかけることなく、ずかずかと入室してくる彼女の後ろには絡繰君と、もう一人。

先ほどまで話題に上っていた白い髪の少女、アリア君が続いておった。

 

 

アリア君は末席の椅子に座ろうとしたようじゃが、エヴァンジェリンはアリア君の首根っこを掴むと、ずるずると引きずっていった。

それを見て大半の先生が顔を顰めたのじゃが、瀬流彦君だけは苦笑しながらアリア君に手を振っておった。

ガンドルフィーニ君に睨まれて、すぐに引っ込めたが。

 

 

エヴァンジェリンはそのまま、勝手に予備の椅子をわしの隣に置くと断りもなく腰かけた。

・・・相変わらず、強引じゃのぅ。

わしは構わんが、もう少し周りとの軋轢とか―――今さらじゃったな、うん。

 

 

絡繰君とアリア君は、自分の両脇に控えさせておる。

まるで、「私のモノだ」と誇示しておるようにも見える。

と言うか、そう言いたいんじゃろうの・・・。

後で苦情を受けるのはわしなのじゃが。

 

 

「それで・・・これは、どういうことかの」

「何の話だ? 私が関西の政治に口を出すはずがないだろう?」

 

 

にやにやとしながら、何を言うか。

本来ならば、ここは関東の魔法先生間の会議のはずじゃったのじゃが・・・。

今朝になって、関西の婿殿から「首脳会談」の申し入れがあった。

もちろん、直接会うわけではない。

魔法を使った遠距離間会談。しかも、東と西でじゃ。こんなことは史上初じゃろうて。

 

 

「繋がりました」

 

 

その報告と共に、室内が薄暗くなる。

そして同時に、わしらの目の前に設置された通信用の水晶から、立体映像(ホログラフ)が浮かび上がる。

そこに映し出されたのは・・・婿殿じゃ。

 

 

婿殿は、縮尺の関係で多少ズレてはおるが、しきたりに則って礼をしてきた。

わしも、礼を返す。

 

 

『関西呪術協会の長、近衛詠春です』

「関東魔法協会理事、近衛近右衛門じゃ」

 

 

今日は婿と舅ではなく、東西の代表として会う。

・・・これも、初めてのことじゃな。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

『・・・この度は、関西の問題解決にそちらの人員が協力してくださり、感謝しています』

「まだ報告は受けておらんが、そういうことらしいの」

 

 

はん、さっきまでその話題で持ちきりだったくせに、良く言う。

もちろん、近衛詠春もじじぃが知らんはずがないことを知っている。

向こうが何人参加しているかは知らんが、こちらの情報伝達の速度を知りたがっている奴がいるのだろう。

 

 

「残念なことじゃが、東西の和平には、まだ届かんようじゃの」

『悲しいことです』

「その通り。じゃがわしらがこの場で何かの妥協を見出せれば、状況は変わる」

『それも双方が受け入れられる妥協、ですね』

「そうじゃのぅ」

 

 

・・・始まったか。

まだるっこしいことこの上ないが、会談というか、交渉という物はこんなものだろう。

腹黒さと忍耐力と冷静さと姑息さを混ぜ合わせたようなものが、交渉だ。

 

 

近衛詠春もじじぃも、そこで一旦会話を止めた。

関西の方から持ち掛けてきた会談なのだから、近衛詠春の側が本題を持ちだすべきだが・・・。

「すぐに本題に入りたがる態度」から、何かを読み取られるのを嫌っている。

じじぃも、「本題を急かす態度」から、やはり言外の何かを読み取られたくないと考えている。

 

 

この沈黙の間に、2人は考えているはずだ。

じじぃは近衛詠春が今、どの程度の影響力を残しているかを。

近衛詠春はじじぃが今、どの程度部下を統率できているかを。

この交渉の効果を、探っている。

 

 

『・・・親書にもありましたが、東西和平の意思に変わりはないと?』

「もちろんじゃとも」

 

 

次の会話が始まったのは、ゆうに5分は経った後だった。

忍耐力の無い奴は、すでに身体を揺すり始めた頃だ。

 

 

『ならば我々は、より和平路線を進めることができるはず』

「そうじゃの、それには、具体的かつ漸進的なアプローチが欠かせんと思うがの?」

『同感です・・・では、まず一つ』

「何か、あるのかの」

 

 

近衛詠春は、言った。

 

 

『今後、近衛木乃香への不当な関与を差し控えていただきたいのです』

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

『不当な関与というと・・・どういうことかの?』

「こちらで得た情報によると、現在近衛木乃香は西洋魔法使いの方と同居させられているとか」

 

 

ここからだ、ここからが難しい。

今、私の目の前には関西各地から集まった協会の幹部がいる。

右と左に列をなして座っているが、強硬派と穏健派に綺麗に別れているのが何とも言えないな。

 

 

「しかもその方は教師で・・・もう一人のルームメイトとは、パートナー契約までされているとか」

『そ、それは・・・』

「近衛木乃香は、私の一人娘です。この意味が、おわかりかと思いますが・・・」

 

 

とは言え、木乃香は関西での地位を拒否する姿勢を見せている。

だがそれは、まだ他の者に知られるわけにはいかない。

少なくとも公式の場で、表立っては。

 

 

「それでなくとも教師と同居というのは、公的にも、私的にも、認めるわけにはいきません」

『・・・しかし、こちらもご息女の身の安全を確保するために』

「その件で、もう一つ」

 

 

まだ早い。

ここで、アリア君の庇護下だと宣言するわけにはいかない。

西洋魔法使いの意思で西洋魔法使いの庇護下にいると言えば、即座にアウトだ。

焦るな・・・。

 

 

「こちらから近衛木乃香の護衛役を派遣し、常に守らせましょう。これで、そちらに気を遣わせずに済みます」

『・・・それはいい考えじゃと思うが、して、その者は?』

「それは、教えられません。明かしてしまえば、いろいろと問題が出ますから」

『そうは言っても、こちらも学園全体の警備を考える必要があるでの。流石に正体のわからぬ者を受け入れることはできん』

 

 

一瞬、強硬派の若手が騒ぎかけたが、手を上げて抑えさせる。

ここで、こちらが一枚岩でないことを相手に教えるわけにはいかない。

結構、気を遣うな・・・秘密会談にもできないから。

 

 

「なるほど・・・では、どうでしょう。こちらがそちらの人員の中から、選ぶと言うのは」

『こちらの・・・つまり、西洋魔法使いの中から、かね?』

「ええ、そうなります。それならば、双方にとって公平ではありませんか?」

『そうじゃのう・・・しかし、失礼を承知で申し上げるが、そちらは、こちらの人員について詳しい者がおるかの?』

 

 

そう、普通ならそうですね。お義父さん。

ただ一人だけ、双方が納得する、させることのできる人選がある。

 

 

そちらが納得する人選で、かつ、「関西が選んだ」人材に木乃香を保護させる。

この件に関する関西側の意思統一は、なんとか間に合った。

陰陽師側の意思で、西洋魔法使いに保護を「要求」する。

これが、ギリギリの妥協点だった。

 

 

「アリア・スプリングフィールドを、指定させていただきたい」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

なるほど、やってくれるではありませんか。

まさかこんな形で4つ目の条件を無視されるとは思いませんでしたよ、近衛詠春さん。

 

 

エヴァさんが見せた条件項目の中に、木乃香さんを公式に私の庇護下に置くというものがあり、どうするのかと思っていましたが・・・。

隠すのではなく公開することで、庇護下にあることを合法化するわけですか。

それも「東の意思」を強調すると言う、えげつなさ。

守っているだけでは状況は好転しないと、エヴァさんは言っていましたが・・・。

 

 

『もちろん、アリア・スプリングフィールドに求めるのは近衛木乃香の身の安全のみであり、近衛木乃香を西洋魔法に触れさせることは許可できません』

「ふむ、アリア君を、か・・・」

 

 

皆の視線が私に注がれますが、そこで見られても困ります。

なぜなら、私自身が困っているからです。

 

 

『近衛木乃香と比較的年も近く、女性です。さらに言えば先の事件でこちらとも顔合わせをし、信頼も置けます。現状よりはよほど健全で常識的かと思いますが』

「それは、アリア君と木乃香君を同居させる、というわけですかの?」

 

 

罠ですね。

ここで素直にイエスと言えば、結局は西洋魔法使いとの同居を許可するとの言質を取られたことになります。

 

 

『そうは言いません』

「ほ、というと?」

『どのような形で保護するかは、そちらの人員ですから、そちらで決めていただいて結構』

 

 

その言い方も不味い。

それだと、東にフリーハンドを与えることになります。

 

 

『ただし、そちらで決定した方針について、必ずこちらと協議していただきたい』

 

 

ナイスです。

お父さん、頑張ると言う奴ですか。

やはり木乃香さんの一言が効いたのでしょうか。

・・・エヴァさんの可能性もありますが。

 

 

「協議というと?」

『近く近衛木乃香の教育のために、こちらから新たに陰陽師を派遣する予定でした。彼女を通じて、こちら側の意思を確認していただければ』

「その者については・・・」

『もちろん、一両日中に書類を送り、到着次第挨拶に伺わせます。護衛が目的ではないので』

 

 

これは、刹那さんが麻帆良にいるのと同じ原理でしょうね。

名目上は「入学」であって「護衛」ではないので。

・・・それにしても、彼女?

 

 

どういうわけか、激しく心当たりがあります。

いったいいつ、コンタクトを・・・?

 

 

「ふむ、なるほどのぅ・・・」

『無論、近衛木乃香が今後、裏の何事かに接触する場合にはアリア・スプリングフィールドを通してもらいます。でなければ、保護の意味がない』

「それはまぁ、そうじゃろうがのぉ」

 

 

学園長も、負けてはいませんね。

相手に喋らせるだけ喋らせて、のらりくらりと、反撃の機会を窺っています。

腹黒さでは、こっちの方が上かもしれませんね。

 

 

『・・・なお、誤解の無いように、申し上げておきますが・・・』

 

 

む、詠春さんの声のトーンが変わりましたね。

勝負の時間、というわけでしょうか。

 

 

『これは最低限の条件です。もしこれが通らない場合東側には和平の意思なしと見なし、相応の対応を取らざるを得ません』

「相応の対応、のう・・・」

『近衛木乃香をこちらへ戻し、残念ですが、我々関西呪術協会は今後、東側との一切の関係を絶たせていただきます』

「む・・・」

 

 

事実上の、断交通告ですね。最後通牒と言っても良いでしょう。

もちろん、それができないことは学園長も詠春さんも気付いているでしょう。

 

 

東側は、近衛木乃香を始めとする人質を抱えています。それを盾に西側を脅迫できる。

西側は、全戦力で持って東側に呪詛をかけることができると、脅すことができる。

そして、お互いに相手がそうできることを知っている。

だから、あえてそれは口にしない。

 

 

むしろ西側がそう言わなければならないという、この状況こそが深刻だと学園長に伝えたいのでしょう。

もちろんその気になれば、実行もできるでしょうが。

 

 

『・・・・・・ところで、こんな噂を耳にしたのですが』

「・・・噂?」

『ええ、噂です』

 

 

映像の詠春さんはいきなりトーンを戻して、世間話の調子で。

 

 

『お見合いをさせているそうですね』

 

 

終わった・・・。

たぶんこの場にいる誰もが、そう思いました。

致命的な弱点を突かれた・・・そんな空気。

交渉の主導権がどちらにあるのか、はっきりと全員が理解しました。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

相坂さんの持ってきてくれた『遠見の鏡』というそれは、東西の遠距離会談の様子を鮮明に映し出していた。

あまり見ていて、気持ちの良いものではない。

 

 

特にこのちゃんの意思とは関係なく、このちゃんの今後を話し合っているあたりが。

仕方がないこととはいえ、納得はできない。

できれば今すぐにでも乱入したいところだが、しない。

 

 

なぜならこの会談がまとまれば、おそらくこのちゃんの安全性がかなり増すからだ。

アリア先生以外の西洋魔法使いは、このちゃんに接触しずらくなる。

その上ネギ先生との同居という、不可思議な状況からも脱することができる。

私自身の手で何もできていないのは、悔しいが・・・。

 

 

その時、不意に左手に温かい感触。

このちゃんの右手が、私の左手を包み込んでいた。

ふ・・・以前の私なら取り乱したろうが、今の私は一味違う。

 

 

「こ、ここ、こここここのちゃん!?」

「せっちゃん」

 

 

極めて、そう極めて冷静に名前を呼んだ私に、このちゃんは、穏やかに微笑んで。

 

 

「がんばろな」

 

 

と、言った。

何を頑張るのかは、聞かずともわかる。

わかる、気がした。

 

 

私達を心配してくれる、全ての人のために。

私は・・・。

 

 

「・・・うん」

 

 

とだけ、答えた。

私と同じように、このちゃんにも伝わると、いいな・・・。

 

 

「ケケケ・・・マトモナノッテ、オレダケナノカ・・・?」

 

 

鏡の横に座っているチャチャゼロさんが、そんなことを言っていた。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「どう? すーちゃん」

 

 

屋根の上に座りながら、学校のある方角を難しそうな顔で睨んでるすーちゃんに窓から声をかける。

今エヴァさんの家の周りは、私が張った結界で覆われてます。

人間の気配とか、魔力とか、そういうものを隠すための結界。

 

 

アリア先生によると、私はそういう何かを隠したりするのが上手みたいです。

幽霊時代もなかなか気付いてもらえなかったし・・・ま、まぁ、それはいいよね!

 

 

「・・・嫌な感じだぞ」

「嫌な感じって?」

「見られてる」

 

 

見られてる? 監視・・・ってこと?

でもアーティファクト『探索の羊皮紙』によると、半径20m以内には、私達以外いないし・・・。

これ以上探索範囲を広げると、知らない人は表示されない。

 

 

「近くじゃないぞ。ものすごく遠い・・・・・・潰すか?」

 

 

そう言うとすーちゃんの目が金色になりかけて、屋根が重みでミシミシと音を立て始めた。

あわわわ・・・。

 

 

「だ、ダメだよすーちゃん! 家が壊れちゃうから!」

「んぉ? おお~それは不味いな、吸血鬼に氷漬けにされちゃうぞ・・・」

 

 

たまにそれ言うけど、されたことあるの?

 

 

「それに、あんまり麻帆良ですーちゃんの力を解放しちゃいけないってエヴァさんも言ってたし。何もしてこないなら、そのままにしておいて大丈夫だと思う」

「ん~。まぁ、殺気とかはないし・・・お?」

 

 

いつもの調子に戻って、すーちゃんが言った。

・・・あ。

 

 

「雨だぞ」

「雨だね・・・すーちゃん、中入ろ?」

「ダメだぞ。恩人と吸血鬼が戻るまでは、スクナはここにいないといけない」

「そっか・・・う~ん。じゃあ、傘持ってくるね」

 

 

雨が降ってきて、私は傘を取りに中に戻りました。

そういえば、エヴァさんとアリア先生、傘持って行ってたっけ・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

学園長が、燃え尽きていました。

まぁ、関西側の要求をほぼ全て飲まざるを得なくなりましたからね。

 

 

というか普通に考えて、関東のトップが関西のトップの一人娘にお見合い強要って、もうそれだけで致命的ですよね。

しかも相手に無断で、当事者の了解もなく。

どう考えてもアウトですよね・・・。

どうせ「相手は婿殿じゃし大丈夫じゃ」とか考えていたのでしょうけど。

 

 

ちなみに、会談はすでに終わっています。

木乃香さんについては、私、木乃香さん自身が信任した者、そして新たに関西から送られてくる陰陽師の方の三者で保護することになりました。

さすがに私一人に一元化されるのは負担なので、エヴァさんが口を出しました。

 

 

ただ東西で定められたこのルール以外で、関係者が木乃香さんと接触を図ることはできません。

その排除される関係者の中には、ネギ兄様も含まれています。

木乃香さんが望み、私が認めない限りは。

 

 

後は関西ばかりが人員を派遣できるというのは問題なので、関東からも人を派遣、相互に代表部を置くことになりました。

大使の交換みたいなものですね、イメージとしては。

 

 

今日のところは意見交換のみで、詳しいことは実務者協議で決定されることになっていますが・・・。

事実上の大筋合意がなされた以上、この交渉は関西のペースで進められるでしょう。

 

 

・・・いや、それにしても学園長が完全アウェーなこの空気。

ヤバいです、面白過ぎます。

 

 

「・・・学園長」

「・・・ほ?」

 

 

空気を変えようとしたのか、それまで沈黙していたタカミチさんが学園長に声をかけました。

 

 

「今日のところは、解散にしますか?」

「そ、そうじゃの・・・もう時間も遅い。皆、明日は休暇とし、来週中にまた今日の会談についてまた会議をするでの。それまでに意見をまとめておくように・・・では、解散じゃ」

 

 

意見をまとめる時間が必要なのは、いったい誰なのでしょうね。

少なくとも、ここにいる人間の意思は結構統一されてると思うのですけど。

 

 

「学園長」

「な、何かね?」

「・・・自重してください」

 

 

ガンドルフィーニ先生の声音には、切実な物がありました。

まぁ、組織人としてはそうなりますよね・・・。

 

 

「なんだなんだ、それだけか? もっと言ってやればいいじゃないか」

 

 

うわぁ、エヴァさん楽しそうですねぇ。

学園長がいじめられるの、そんなに好きですか。

なんとなく、ガンドルフィーニ先生達がエヴァさんを睨む目にも、力がありません。

 

 

睨みはするものの・・・言葉は出ない。

 

 

「・・・ふん、つまらん。終わったのなら帰るぞ、茶々丸、アリア」

「はい、マスター」

 

 

結局私、一言も発言していません。

まぁ、魔法関係者ではなく、エヴァさんの従者として来ているのですから仕方ありませんが。

従者は、主人の許可なく公式の場で発言しないものです。

 

 

「待ってほしい。アリア君にはまだ話を・・・」

「なんだ、ぼーやからアリアに乗り換えるのか?」

 

 

冷やかな目で、そんなことを言うエヴァさん。

なかなか、直截的な表現ですね。

 

 

「アリアは私の従者だ。私の許可なく詰問するなど許さん。スペア扱いされてはかなわんからな」

「それは・・・どういう意味かな?」

「そのままの意味だよ、タカミチ」

 

 

ガンドルフィーニ先生に代わって前に出たのは、タカミチさん。

なんとなく、痩せたようにも見えますね。出張のしすぎでは?

 

 

「英雄の子供が2人いると、便利だとは思わないか? 片方いれば事足りるのだから」

「・・・そんな風に思ったことはないよ」

「だが、父親のように生きてほしいとは思っていただろ?」

 

 

まぁ、多くの方は兄様の方に期待していましたけど。

魔法が使えない、というのが致命的でしたね。

あの失望と同情と嘲笑と侮蔑のこもった目を、私は忘れないでしょう。

 

 

「だいたい、誰のおかげで京都から生徒が無事に帰れたと思っている? まずそのことに礼を言うのが、礼儀と言うものではないのか?」

「それは」

「あの場で命を懸けたのはアリアであって、ぼーやでも、そこの馬の骨でもない」

 

 

まぁ、京都で何があったのかの最重要部分は知らないはずですから。

関西から教えられれば、別でしょうけど。

そしてそれは、エヴァさんに馬の骨呼ばわりされた瀬流彦先生の報告書が不完全だったから。

・・・意図的に。

 

 

案外、あくどいこともできるのですね。

・・・訳知り顔でウインクしないでください、茶々丸さんが見てますよ?

後でエヴァさんに殺されそうになっても、知りませんからね。

 

 

「考えたことはあるか? なぜ私がぼーやを名前で呼ばず、妹のアリアを名前で呼ぶのかを」

 

 

それがこの場での、エヴァさんの最後の言葉でした。

・・・光栄の極みだと、言っておきましょうか。

名前を呼ばれることが、こんなにも喜ばしいことだとは。

嬉しいことです。シンシア姉様。

 

 

 

 

 

 

アリアには、名を呼んでくれる人がいます。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回は私、ほぼ喋ってないです。
これまでは自分で頑張っていましたが、今回は詠春さんとかの方が頑張ってましたね。
次話は喋れると思いますけど・・・どうなることやら。



アリア:
今作の魔法具は以下の通りです。

遠見の鏡:元ネタは「ゼロの使い魔」。提供はゾハル様です。
ありがとうございました。


アリア:
次話は、原作で言う弟子入り編になるのでしょうか。
弟子入り・・・するのでしょうか。
原作と違い、エヴァさんも結構いろいろ抱えておりますから。
では、またお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。