Muv-Luv IGLOO [M.L.I] 記録無き戦人達への鎮魂歌 (再投稿) 作:osias
宇宙世紀0080、1月5日
敗戦したジオン公国軍は降伏勧告を呑んだ。しかし、戦場だった場所の所々では白旗を揚げても撃たれ続ける兵士達と降伏に異を唱え戦い続ける兵士達がいた。
死神は未だに現れていた。
地球圏内上空・技術支援艦ヨーツンヘイム
「マイ技術中尉!」
赤髪の女性“中佐相当の大尉”が整備士達に命令を出している男を呼ぶ。
その金髪碧眼の男は終戦から殆ど不眠不休で働いているために目の下にクマを作っていた。
「キャディラック特務大尉!」
オリヴァー=マイは素早く振り返り敬礼をした。『特務』という言葉にモニク=キャディラックは少し反応をした。ギレン=ザビ総統閣下が亡くなり、ジオン公国が事実消滅し『特務』も既に形だけのものになっていた。モニクはそのまま質問を続ける。
「整備状況はどうか?」
「ワシヤ中尉のヅダ2号機は何とか活動できるようになっています。予備機は活動可能ですが片腕の修理は目処が立たなかったので、機動に若干不安は残ります。ヅダと送られてきた機体の地上戦用調整も完了しました。それ以外にもオッゴを自動操作でもある程度戦闘できるように改修はできました。HLVもデブリの後ろ、破棄されたムサイ級の後ろに隠れるように配置、降下準備は何時でも行えます。ムサイ級もまだ生きている箇所もあるみたいです、時間があれば何かに使えたかも知れません」
淡々とオリヴァーは報告書を見ながら答える。
「本当にこの短期間によく『ゴミ』として押し付けられた物にそれだけの使い様を見出せた物ね・・・『リヴァイヴァー』とは良く言ったものです・・・」
小さくそうモニクはそう呟いた。
「真に価値のある技術は、使う者によって無限の可能性があると、私は思います・・・」
「そうね、貴方はそういう人だったわね・・・」
終戦後第603技術試験隊に言い渡された最後の指令は試験兵器及び簡易地上チューンを施した宇宙戦用MSの地上稼動試験及び、味方機援護の実用性という支離滅裂としたものであった。実際の命令内容はアフリカに残り、未だ戦い続ける同胞の説得、又は味方の脱出援助というもある。ア・バオア・クー防衛戦で多くの兵士、技術士、士官を失ったジオン軍、第603技術試験隊もその例外ではなかった。ヘルベルト=フォン=カスペン大佐を始めとした学徒兵、整備士を喪い、更に学徒兵全員を解放したために603技術試験隊は人手不足に悩まされていた。実際MSを操縦できるのはモニク=キャディラック特務大尉、ヒデト=ワシヤ中尉、オリヴァー=マイ技術中尉だけだった。故に大量に残ったオッゴは自動砲台として使うようオリヴァーは打診し、多少の整備知識もある事から彼はア・バウア・クー撤退戦で亡くなった整備班長の代りをしていた。
―――ヨーツンヘイムブリッジ
「・・・今回の作戦の概要は以上の通りです。」
沈黙が部屋の中を包み込む、その雰囲気に耐えられず日系人のヒデト=ワシヤ中尉が声を上げる。
「ヒェェェー、それ本当にいっているんですか?!HLVにヅダ2号機、高機動型ゲルググとオッゴ何機か突っ込んで、地球に突っ込むって?!それにオッゴを本当に地上で使うんですか?!?!?!」
「そうだ」
冷静にモニクはワシヤに返す。
「今作戦、参加するのはヒデト=ワシヤ中尉、オリヴァー=マイ技術中尉、そして私の三名。ワシヤ中尉はヅダ2号機に、私はゲルググに乗る。マイ技術中尉にはHLVの操作及び、現地にあるギャロップの操縦を頼む。」
「それだって、『あるはず』って事じゃないですか!」
「ワシヤ中尉、随分と文句が多いが私の記憶では貴様は自ら今作戦に志願した筈でしたが?」
「うっ・・・・」
言葉を詰まらせる。実際ワシヤはヨーツンヘイムを学徒兵と一緒に降りる事が出来たが、「オリヴァーが降りないなら俺も~」という簡単なノリで降りなかったのである。
「大尉」
「なんだ?マイ中尉?」
「本作戦・・・試験評価なんですよね・・・?」
全員、命令の裏に隠された本当の命令は分かっていた、終戦後に試験評価なんてものがあるはずがない、実際は無謀な救出ミッションである、それでいてもオリヴァーは聞かずにはいられなかった。
「そうだ」
声も荒げず、モニクは冷淡にそう、それが当たり前かのようにオリヴァーの問いに答えた。
「そうですか。ならば私は最終調整に向かいます」
オリヴァーは立ち上がり敬礼をする。
「出発は・・・」
<ビービービービービー>
警報が艦内に鳴り響く。
「何!?」
更に艦内アナウンスが響く
『本艦索敵範囲内で戦闘発生、我が軍の敗残兵が連邦軍との戦闘を行っている模様』
「状況が掴めん、ブリッジにいくわよ!」
ブリッジにつくとそこには複雑な顔をした老紳士プロホノウ艦長と冷静な目をした中年のクリューガー副長がいた。
オリヴァーは二人に声をかける
「艦長どうなってるんですか?」
「どうやら、マナーを知らないお客さんがいるようだね」
プロホノウ艦長はそう重く静かな声で答えた。
「それはどういう・・・」
「我が軍の兵士は既に白旗を出し降伏しているにも関わらず連邦軍は攻撃しているようだ」
「何だと!」
モニクは声を荒げる。
「じゃぁ、出撃して助けなきゃ行けないじゃないですか!」
ワシヤは急いでブリッジを離れようとする。
「待ちたまえ」
「でも、艦長、味方が!」
「今、我々の任務は『地上でのMS試験運用』だ。今出撃して万が一大気圏突入のタイミングを間違えたら、君達は全く別の所に送り込む事になる。その場合・・・任務は失敗だ」
「クッ・・・」
モニクは唇を噛み、悔しそうな顔をする。
「艦長!」
「なんだね、中尉?」
「出撃の許可を。高機道型ゲルググとヅダの推進力ならば、一撃離脱を行い、時間までにHLVに帰還、大気圏突入を行える筈です」
「しかし、それでは君達は・・・」
「俺からもお願いしますよ艦長!」
「私もただ同胞がやられるの見る事はできない」
「・・・では出撃を許可しよう・・・すまんね・・・」
三人は敬礼をする。
そして素早くモニクが命令を出す。
「ワシヤ中尉はヅダ2号機に!私はゲルググで出る!マイ中尉は予備機をHLVに搭載後、降下準備とオッゴの遠隔操作できるか?」
「できます!」
「了解~!」
三人は駆ける。名も知らぬ同胞達を助けるために・・・
―――戦闘領域
ジム一個中隊が負傷した旧ザク一個小隊を追い回す。圧倒的な戦力にも関わらず、仕留めようとせず、旧ザクを嬲り続ける。
それの様子を傍観するように、横切る一隻の調査艇。
「・・・あれが、人間のやる事か!人は・・・人類は・・・!!」
表しようのない嫌悪と苛立ちに声を上げる一人の青年・・・タケル=シロガネ。
艦内アナウンスが流れる。
『タケル君、ノーマルスーツ(宇宙服)に着替えてくれ、戦場が近づいてきている、我々は出来るだけ離れるようにするが、万が一の可能性がある』
タケル達が乗る、ツィマッド社の調査艇は地球上空にあるデブリ、つまり戦後に残った『ゴミ』を回収する目的でマイ達がいる戦域にいた。ツィマッド社にしてみれば、安全にライバル社の機体等を手に入れる機会だった『はず』だ。当然、他の宙域でもこの様な調査が行われている。そんな中、戦闘に巻き込まれたタケル達は不幸である。
『キャプテン!俺はプチモビに乗ります、いざというときは・・・俺が囮になります』
乗りますと言いつつ既にタケルはプチモビに乗っていた。
『・・・本来は止めるべきなのだろうが・・・感謝する我が社の・・・「侍」よ』
戦域は素早くタケル達の所に迫っていた。
○○○●●
レリー=ヴァン伍長はヘルメット内を涙で濡らしながら、
必死に連邦の一個中隊から逃げていた。
元々中隊規模を誇っていた自分達の隊も今や残り4機
<ドゴーーーン>
・・・残り3機にまで減少していた。
「俺達が何をした!俺達が!白旗揚げたろ!もう戦いはないんだろ!」
3機の旧ザクは漆黒の空間を駆ける。後ろには一個中隊規模の連邦軍。援軍の可能性もなし、絶望、恐怖、不安、その思いが彼らを襲う。それでも逃げるしかできない3機は必死にバーニアを吹かす。そんな中、内の1機が突然無線を開く。
「おい!」
「「なんだ!」」
突然の叫びに驚く残りの二人
「民間機と思われる調査艇を発見した!」
「それがどうした!」
「流石に連邦も民間人を巻き込まないだろ!近づいて・・・・!!」
レリーは仲間が言わんとする事が分かった。詰りは民間人を盾に捕虜にして貰うという物だ。実際、人質を取って反撃して勝てる見込み何てものはない、そして捕虜にされても命の保障なんてものは分からない。しかし、今の彼らが置ける状況で一番良いと思える策をとる・・・それがいかに愚策であったとしても・・・
タケルは近づいてくる3機の旧ザクがいることにキャプテンから知らされる。
『タケル君念のために、出撃頼めるかな・・・』
『はい・・・』
タケルはジオン軍ではない、彼らを守る義理も義務もない、しかし彼も又、物資搬送とは言えア・バウア・クー防衛戦を目の当たりにした一人である。悲惨で無益な戦いを見てこれ以上人が死ぬのを止めたいと何処か思っていた。だから、彼らが必死に生き残るためのその僅かな藁に手を伸ばす事に怒る事は出来なかった。俺達を巻き込むなとは言えなかった。
『こ、こちら!ジオン軍レリー=ヴァン伍長!我々は貴殿らに危害を加える気はない!繰り返す!我々は貴殿らに危害を加えない!どうにか・・・どうか!我々が無事に投降できるように手を貸してくれ!』
声の震えた、若い青年の声がコクピット内に響き渡る。
タケルのプチモビはゆっくりと調査艇から離れる。
出撃さえしていれば、何か出来るだろう、そうタケルは思った。
ジオンの旧ザクは調査艇を囲むと、連邦軍に振り返る。
タケルには聞こえなかったがジオン軍が何か無線で連邦軍とやり取りをしていた。
その間は連邦のジムは彼らに近づくが攻撃はしてこなかった。
(・・・ッ・・・!)
タケルは何か叫び声を聞いた気がし、周りを確認する。
その時、物理的には見える筈がないのに、後方のジムが彼らに銃身を向けている事に気づく。
「罠だ!キャプテン!回避を!!!!」
その叫びに調査艇は緊急回避をするも、着弾、宇宙(ソラ)の星となる。
「・・・ッ!キャプテン!」
タケルの叫び声に反応し、旧ザク3機は滅茶苦茶ながらも反撃する。
しかし、最終局面にすら呼ばれなかった、又は間に合わなかった兵士達である。
いとも容易く1機落とされる。
タケルの乗るプチモビは近くに飛んできた、調査艇の一部を掴むと、ジムの集団に投げ込む。そのまま、落とされた旧ザクが持っていたザクマシンガンに向かって飛びこみ、プチモビの全身を使い銃を固定し撃ち始める。
突然飛んできた物体に前方のジムは避けるが後方にいたジム1機は高速で飛ぶ鉄の塊に当り行動不能となる。続けて、今まで狙いが甘かった銃撃がメインカメラ目掛けて飛んで来るようになり2機のメインカメラが大破する。そして優勢を信じきっていた連邦軍は混乱した。
「な、なんだ!」
隊長を務める連邦士官が望遠で状況を確認する。そこには旧ザク2機を援護するプチモビの姿があった。
「何の冗談だ!」
連邦士官は不可解な軌道を描くプチモビを必死でロックオンしようと追いかける。
<ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピーーー>
「消えろ!!」
ロックオンを確認し、トリガーに指をかけた瞬間、味方機が吹き飛ぶ。
「今度は何だ!」
攻撃をかけていた連邦軍中隊の横から、2機のMSと6機のモビルポッドが奇襲をかける。
無線が必死に戦いを続けるタケル達にはいる。
『そこのザク2機とプチモビ!援護するからこれから送る座標に逃げろ!そこに私達の母艦がある!』
そう叫んだゲルググはビームライフルで素早く2機のMSを落とすとそのままタケル達と連邦軍の間に割ってはいるように移動する。
それを援護するように青いMSが銃撃を加える。
それを見たタケルは驚き叫ぶ。
『EMS-04・・・ヅダ!・・・ジャン=リュック=デュバル・・・?』
今や幻となった青いMS、EMS-10(旧EMS-04)に乗るような男をタケルは一人しか知らなかった、ツィマッド社先任テストパイロット『ジャン=リュック=デュバル』である。タケルはデュバルが抜け空いたテストパイロットの席を埋める形でツィマッドに入社した。この時、タケルはデュバル少佐が亡くなった事を知らされていなかった。
タケル達は戦域を離脱し始める。
○○○●●
『・・・ジャン=リュック=デュバル・・・?』
無線から聞こえた声にモニクとワシヤは驚く、それは一度一緒に戦い、散った仲間の名前であった。ワシヤはそこにかつての仲間を知る人がいると思うと普段は見せない真剣な顔で操縦桿を握った。
そこにオリヴァーからの無線がはいる。
『ワシヤ中尉、大尉!これからオッゴをオートで突っ込ませます、その後は直ぐに引き返してください、突入に間に合わなくなります』
二人の機体から送られる情報を元にオリヴァーは戦況を把握していた。ミノフスキー粒子が邪魔をして完璧な情報は手には入らない。だが、無人機になったオッゴは戦闘は出来るものの、回避運動などの高度な事はできず、敵の捕捉、攻撃、突撃くらいしか出来ないため、不明瞭な情報でも戦闘をするには十分であった。
『おぃおぃ、そんな事していいのかょ~!』
『どちらにせよ、オッゴの機動性では大気圏突入には間に合わない、ここで突っ込ませて足止めに使う方が効率的かと・・・』
『了解した、マイ中尉!そちらは任せた我々は、これよりザク2機とプチモビ1機を護衛しながら戻る!』
『は?プチモビ?』
何故プチモビがこんな戦場にいるのかオリヴァーは疑問に思った。
『民間機かもしれんな、戦闘に巻き込まれたらしい』
『民間機なら敵に狙われる事は・・・』
『いや、我々の味方を守ってくれたみたいだ、置いていった場合確実に連邦軍に落とされるわね』
連邦軍1個中隊は母艦を引き連れていない、近くにはいるだろうが、その母艦から出来るだけ離れ、消耗させれば、相手は撤退し、自分達は退避が出来るはずだとオリヴァーは考えていた。足が遅くても普通のMSならばヨーツンヘイムの近くまでいけば、艦砲射撃の援護を受けられる。自分達に関しては大気圏突入ラインに逃げ込むため、追っては来ないだろうという作戦だった。しかし、足の遅いプチモビを連れて離れたヨーツンヘイムまで敵MSに追いつかれずに辿り着くのは不可能である。それは他のMSがプチモビを牽引しても同じ事であった。
『進路変更です。ザク2機とプチモビのパイロット聞こえるか?進路を変更し、我々のHLVまで来てください!』
『中尉!作戦と違うぞ!』
『大尉!このままでは作戦は失敗します、今我々が取れる最善策はこれだと愚考します!』
モニクは一瞬、何故オリヴァーが突然作戦の変更を言い出したのか考え、そしてプチモビという不確定要素を考慮し、素早く答えに行き着く。それがリスクが高いと分かっていても許可しなければならなかった・・・
『了解した・・・』
『何でも良いが奴さん、追いついてくるぜぇ!急ごう!』
『ワシヤ中尉!プチモビを引っ張れ!私が殿を勤める!』
オッゴは次々突撃し、爆散する。6機のオッゴにより全弾一斉発射及び突撃により、数を減らす連邦軍中隊。爆発と硝煙により出来た煙幕は連邦軍の視界を奪った。
「チッ!ジオンの蟲どもめ!悪足掻きを!」
小隊長らしき連邦兵が叫ぶ
「隊長!危険領域です!地球に引っ張られます!」
既に戦域は大気圏突入領域に入っていた。
何機かのジムが引き返す用に反転しバーニアを吹かす。
「てめぇーら!根性無しが、宇宙人共がそんなにこわいか!俺はいくぞ!」
頭に血が上った3人がタケル達の後を追う。
他のジムは付き合ってられないと言いたげそうに、振り向かず帰艦していった。
○○○●●
プチモビはヅダに引っ張られガタガタと機体を軋ませていた。
「もう少し!踏ん張って!」
後方のゲルググに乗ったモニクがそう声をかける。
「見えてきたぜぇ!」
ワシヤは破棄されたムサイ級を確認すると歓喜と安堵を織り交ぜ、そう叫んだ。
「回避しろ!!」
モニクの叫びに散開する各機。ジムが放つビームが宇宙(ソラ)を横切る。
「アイツら正気かよ!もう直ぐ大気圏突入領域だぜ!」
反転し反撃に移る各機
「プチモビのパイロット!貴様はムサイの後方にあるHLVに向え!」
「了解した!」
タケルがムサイに接近した時、オリヴァーから無線が入る。
『プチモビのパイロット聞こえますか?』
『はい!』
『悪いがこちら(HLV)に来るまでに一仕事してくれませんか?』
タケルは沈黙する、既に推進剤もエアーも空に近かった。やれる事には限界がある。
そんな心配をよそにオリヴァーは話し続ける。
『そのムサイのエンジンはまだ生きている、数時間前に機動実験にも成功しています。残念ながら武器各種は使えません。なので、今から君にはエンジンルームに向かい、自動で出力を上げ続けるようにしてほしい』
『・・・!!!詰り、自爆させろって事ですか!?』
『そういう事です』
『・・・了解』
『細かい指示はこちらで出します、時間がありません急いでください』
作業は何の問題もなく行われる。外で迎撃に回っている仲間達が作った数分で作業は終る。
『エンジン点火!』
『では速やかに脱出し、こちらに向かってください180秒前後で臨界点に達します』
『了解した!』
タケルはいち早くHLVに到着する。
○○○●●
タケルがHLVに向かった後、モニク達はムサイを盾に防戦を張っていた。
『カウント120秒を切りました、撤退を開始してください』
オリヴァーの通信がコクピット内に響く
「丁度良かった!弾切れです!撤退します!」
ヴァン伍長は空になったザクマシンガンを敵にの方向に投げ捨て、HLVに向かう。
それを追うように各機後を追う。
―――連邦軍
「形振り構わずだな!足掻けよ!」
ジムは投げられたザクマシンガンを回避する。
「隊長、あいつらムサイの影に隠れみたいですぜ!」
「野郎!逃がすな追え!!」
彼らは弾幕に足をとられながらも、敵影を追いかける。
距離があるため、当る心配はなくともそれでも、モニク達の攻撃は心理的に彼らの進行速度を遅らせていた。
連邦兵はHLVを視認する。
「ハッハー!あれで逃げようってのか!やらせるかよ!おぃ。てめぇーら、攻撃をあのダルマに向けろ!」
モニクのゲルググが攻撃を盾で防ぎながら後退する。
『そろそろ、時間です』
オリヴァーのその声に反応し、一同は後ろを振り返る。
『10』
モニクとワシヤは弾を撃ちつくす勢いで攻撃を続ける。
『5』
ジムはジリジリとモニク達に近づく。
『3・・・2・・・1・・・!!!』
その宙域を核の光が包む。
通信が乱れ、数秒の振動がHLVを襲う。
オリヴァーの作戦は成功した、敵ジムを全部巻き込む事ができたからだ。
だが同時に失敗もしていた。
・・ ・・・・・
威力があり過ぎたのである
衝撃波によりHLVは本来とは違う軌道に入り、重力に引っ張られ始める。
<ビービービービービービー>
警告音がHLV内に木霊する
衝撃から身を戻し、状況を確認する、オリヴァー。
『ワシヤ中尉!大尉!応答願います!応答願います!』
焦り普段は出さない程の大声でオリヴァーは叫んだ
『聞こえている!こちらは大丈夫だ!直ぐにでもそちらに迎える!』
『同じく』
『現在HLVは当初の突入コースより離れています。ワシヤ中尉と大尉は機動力を使い、HLVを本来の位置に押し戻してください』
『全く、お前は無茶ばかりだなぁ!わかったよやればいいんだろ!』
愚痴を垂れながらも一番近くにいたワシヤのヅダがHLVに取り付き押し戻し始める。
『伍長達はどうした!?』
冷静に思えて誰もが混乱していた、モニクは旧ザクの姿が見えないのに驚く。
『大丈夫です、危険領域ですがHLVに着艦できます!』
それはレリー伍長の声であった、もう一体の旧ザクも何とか無事に爆発の衝撃に耐え、レリー伍長の後方にいた。二機の旧ザクが近づいているのを確認するとモニクは素早くHLVに向かった。
全員の機体は既に大気圏突入の熱から赤く染まり始めていた。
HLV下部から押し上げているヅダの装甲は少しずつはがれ始めていた。
「位置固定確認。ワシヤ中尉、大尉。素早く機体を収容してください。大気圏突入絶対領域に入ります。」
右ハッチから入ったヅダとゲルググは後ろに続くレリー伍長の旧ザクを掴み引っ張り、HLVのハッチは閉鎖する。
左ハッチにいるタケルも同じくもう一機の旧ザクにプチモビのマニュピュレーターを伸ばす。
手が届きそうになったその時
<ボゴーーーーーン>
旧ザクのエンジンが限界を超える。
咄嗟にタケルはもう片方のマニュピュレーターをハッチに固定し、距離を稼ぎ、手を伸ばす。
3m
「うぉぉぉぉぉ!」
旧ザクのパイロットが叫ぶ
2m
「踏ん張れ!」
タケルが答えるように声を上げる
1m
「よし!!捕まえ
一瞬の安堵
ほんの一瞬の希望
それを打ち砕くように、
赤い、
赤い、
赤い光が旧ザクの肩を打ち抜く
『ハ・・ハハ・・・宇宙人が・・・星になりやが
そのジムは地球に吸い込まれ、
吹き飛ばされたザクは宇宙(ソラ)に舞い、闇に吸い込まれ、
残されたタケルは残ったザクの腕を見つめ、
HLVのハッチは強制閉鎖した。
宇宙世紀0080、1月5日
駆逐モビルポッド「オッゴ」自動操縦による戦力評価報告書
我が第603技術試験隊はさる1月5日自動操縦に改修せし駆逐モビルポッド「オッゴ」の試験運用を実施せり。救援を要す同胞を救うため敵と遭遇、実戦戦闘へと発展せり。この戦闘において駆逐モビルポッド「オッゴ」6機は無人機ながらも連邦軍MSと奮戦。有人MS5機及び小型MS(プチモビ)と共に戦闘せり、ムサイ級熱核エンジンの暴走による自爆攻撃の支援があるも、ジム一個中隊(16機)を撃退せり、任務を全うす。戦闘は・・・駆逐モビルポッド「オッゴ」を全機損失するも、それ以上の戦果を持って実用性を証明したものと信じる。この戦闘において、救援要請をした我が軍一個中隊は一人を残し殉職す。民間企業であるツィマッド社の調査艇も戦闘に巻き込まれ爆散せし。しかし職員の一人を無事保護せり。
―宇宙世紀0080、1月5日オリヴァー=マイ技術中尉