Muv-Luv IGLOO [M.L.I] 記録無き戦人達への鎮魂歌 (再投稿)   作:osias

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第十五話「封じられし悪の先に~前編~」

11月17日1200

国連軍管轄下佐世保基地格納庫

 

「久しぶりだな」

 

「元気にしてた?」

 

五十年代後半に入る中年夫婦の二人は人の目を避けるように一人の青年と会っていた

 

「やはり第八旅団にいましたか・・・義槍さん、歩さん・・・」

 

「父と・・・母とは呼んでくれないのだな」

 

男性の方は溜息を吐くようにそう呟いた

 

「・・・この愚息・・・そのような言葉は・・・」

 

「貴方は何時もそうね」

 

「階級を下げ、今度は国連軍か、何時まで道化を演じるつもりだ?」

 

「演じてなど・・・いませんよ。これが自分の本質です」

 

「そうか・・・アイツらには連絡をしているのか?話たがっていたぞ」

 

「・・・愚兄が弟や妹に言うべき言葉など自分には分かりません、元気にやっていると伝えておいてください」

 

「・・・血は繋がって無くても、貴方は私達の息子、我が家の長子よ」

 

「その心遣いだけで結構です。でなければ祖父の名を汚してしまいます。自分は任務がありますので失礼します」

 

「・・・お前は・・・」

 

そう言うと青年は一人格納庫から歩き出した

 

○○●●●

 

同刻

川崎協同兵器開発工場

 

「おじ様!私は反対です!断固反対します!!!」

 

篁唯依の張り上げた声が室内に響く

 

「ユイちゃん・・・君がどれだけ反対しようともこれは決定事項だ」

 

巌谷中佐は宥めるようにそう言う

 

「しかし、だからと言って他国の・・・米軍の衛士に我々の機体を任せるのは!!」

 

XFJ計画・・・撃震の耐用期限が迫り代替機として不知火の強化をする目的で巌谷中佐発案の元進められていた計画。ユーコン基地で行われている先進戦術機技術開発計画、通称『プロミネンス計画』に便乗する予定であった。だが、香月夕呼(白銀達)の技術提供により、その必要がなくなり。計画自体が凍結。逆に日本が新兵器開発をしたという情報を得た米国及び他国は川崎工場で作られている新兵器の情報を得るために手を打ち始める。その一つが米国開発衛士の派遣である。帝国陸軍参謀本部の大伴忠範(おおとも=ただのり)中佐は一方的にそれを許可。

 

「・・・という事だ、相手側からの資源資金ならびに試作機の提供もあり・・・実際一方的に計画を持ちかけ凍結させた我々にも落ち目はある。ここらへんが落とし所だろう」

 

「く・・・!!失礼します!」

 

篁はそう放ち、部屋を飛び出た

 

「ユイちゃん・・・まだまだ若いな・・・」

 

○○●●●

 

同刻

 

太平洋海上、米国軍空母

 

「日本製?そんなダサい物に乗れるか。乗らなきゃいいさ」

 

日系ハーフの青年、ユーヤ=ブリッジスがそう毒吐く

 

「そういうなよユーヤ、先方から届いた資料は読んだか?どうやったか知らないが性能が今までの戦術機と比べてダンチだぜ?」

 

チャラチャラした金髪白人男性のヴィンセント=ローウェルがそうコメントする

 

「だけど、俺達のヴァイパー、コブラ、ブラックウィドウII、アクティブイーグルを手土産にしてまで“乗せてもらう”価値があるのか?」

 

「お前の日本嫌いは相変わらずだな。だが、ここ1ヶ月で日本の技術は確実にトップ・オヴ・ザ・ワールドという噂だ」

 

ヴィンセントはそう言うと鼻歌を歌えはじめる

 

「カーペンターズかよ。俺は信じないぞ・・・日本なんか・・・」

 

ユーヤ=ブリジッスは憎しみを持った瞳で太平洋を見つめた。

 

○○○●●

 

同刻

 

603技術試験隊

 

佐世保国連軍基地、軍港

 

国連軍巡洋艦内ブリーフィングルーム

 

一同席に着きオリヴァーが開いた画面を見つめていた

 

「大空寺重工製作の99式機械化歩兵装甲(MFSA; Mechanization Foot Soldier Armoring)『猟犬』、“ハウンドドッグ”、全高(降着時) 3506mm(1603mm)、乾燥重量 5347kg、装甲厚 12mm、巡航走行速度 45.0km/h、限界走行速度92.5km/h、最大出力250馬力、最大トルク 62kg/m 、標準稼働時間 180時間」

 

画面に機体が表示される

 

「大空寺重工が開発した97式と第壱開発局が試作開発していた次世代機械化歩兵をプチモビから得た技術を統合し作られた機体です。電子器具類は御剣電工が製造。武装は12.7mm及び36mm重機関砲。追加武装は携帯用小型ミサイル、スクエア・クレイモア、マルチディスチャージャー、インプラントナイフ及びリボルビング・ステークと呼ばれるパイルバンカーです。尚、マルチディスチャージャーからはビームかく乱幕の射出が可能。他、追加装備として工作用器具、修理装置、追加装甲などがあります」

 

「パイルバンカーか・・・随分男臭い武器を搭載するんだな」

 

ケニーは書類を皆がらそうコメントする

 

「元々大空寺の方がパイルバンカーを97式の純正装備として開発したのですが、それを第壱開発局に所属していた方が改良したようです。コンセプトがF-4JT(撃震T型)のノーススターに近いですから誰の発案かはご想像にお任せします」

 

オリヴァーは両肩を上げ、ケニーに伝えた。

 

「・・・その件の奴がいないな」

 

ケニーは周りを見渡し、何時ものヒゲがいないのに疑問を抱く

 

「そういえば・・・何処いったんだ?」

 

武も言われるまで気づかなかった

 

「黒藤中尉でしたら、国連軍からお会いしたい人がいたみたいで先ほど私が案内いたしました」

 

ピアティフ中尉はそう答える

 

「黒藤が開発に多少なり関係しているなら、この説明は不要でしょう。オリヴァー続けて」

 

モニクは腕を組みながら急かす

 

「はい、このMFSA-99は従来の機械化歩兵装甲とは異なり、対BETA大型種さえ視野に入れて開発されました。流石に両腕に装着された12.7mmや36mmでは不可能ですが、リボルビング・ステークやスクエア・クレイモアならば大型種さえも撃滅できます」

 

画面にスクエア・クレイモアの構図が現れる

 

「今作戦では指揮官用が2機、通常型が4機が配備されます。指揮官用にはブレードアンテナが装備されそれにより通信範囲、索敵範囲を広めています」

 

「ちょっと待て技術屋、今回お前も機体に搭乗するんだろ?それにA-01の奴らも参加する」

 

部屋にいたウィリアムズ中尉、阿野本少尉、ロス少尉が肯く

 

「だと、俺、ヒゲ、小僧、お前、嬢ちゃん、プラス3人で8人。計算が合わないぞ?」

 

「元々MFSAの正式形式番号00、完成はしましたが量産は来年の頭に行う予定のものでした。それが何故か急かされ・・・ここに。故に6機しか間に合いませんでした」

 

事実来年に生産されるべきこの兵器は夕呼の頼み(脅し)により急造されたものである

 

「不安になる事・・・言ってくれるな」

 

顔に手をやり頭を振るうケニー。整備不良や調整不完全など嫌な言葉だけが脳裏に浮かぶ

 

「そして、数を補うために、第壱開発局の試作MFSAであった90と91が送られてきました」

 

「そこは、97式が送られてくるべきじゃないのか?じゃなければ旧式でも正式生産の89式が来てもおかしくないだろう?」

 

「お言葉ですが、ロンズ隊長」

 

「傭兵、我々の部隊名を忘れたか?」

 

マイ夫妻が何を今更という風に答える

 

「あぁ~そうだったな。そりゃ“技術試験隊”に正式兵器が送られてくるわけが無いわな」

 

「この試作機ですが、その後第壱開発局での改良が続き、“データ上”ではMFSA-97を上回ります」

 

「で、問題は何だ言ってみろ?」

 

疑いの眼差しでケニーはオリヴァーを睨んだ

 

「・・・操作性能が敏感で搭乗者を選びます」

 

「またか・・・」

 

ケニーは何気にこの頭を抱えた手は今日のブリーフィング中ずっと固定されたまま何じゃないかと思い始める

 

「で、適正的にはどうなんだ?もうデータ検証したんだろ」

 

「90には白銀中尉、91には阿野本少尉が適正かと」

 

「そうか」

 

「12.7mmバルカンと送られてきたMFSA用ヒートソードx2は両機とも装備しています。それに加えYMFSA-90は36mmマシンガン、対大型BETA用グレネード。YMFSA-91は胸部36mmマシンキャノン、小型の盾に加え、第壱開発局がここ最近開発したVariable Speed Anti-Material Rifle、通称VSAMR(“ヴィスアマー”:可変速対物ライフル)を装備しています・・・簡単に言えば電磁投射砲の技術応用です。速度調整により高速で貫通能力を上げたり、低速でダムダム弾のような威力を与えることも可能です。要塞級の破壊もできます」

 

スラスラとオリヴァーは武装の説明をする

 

「素晴らしい威力ね・・・でもやはり何かあるんでしょ?」

 

モニクはオリヴァーの説明を疑う

 

「・・・VSAMRに放熱、問題あり、2発目を放てる保障がありません」

 

「使い捨てか・・・」

 

ケニーは画面を睨む

 

「・・・以上です」

 

オリヴァーは席に着き、モニクとピアティフが前に立つ

 

「今回の任務を説明するわ、先ずは・・・「遅れて現れてジャジャジャジャーン☆」・・・黒藤中尉かさっささと席に着け」

 

滑った空気に耐えられず大人しく席に着く文縁

 

「さて、先ずはまだ正式に今作戦のために配属された者達の自己紹介を」

 

衛士三名が前に出る

 

ウィリアムズ中尉が敬礼をする

 

「元A-01第1中隊所属キッド=ウィリアムズ中尉だ!ポジションは制圧支援(ブラスト・ガード)」

 

続いて阿野本

 

「元A-01第2中隊所属阿野本海少尉、突撃前衛(ストーム・バンガード)です」

 

最後にロス少尉

 

「元A-01第3中隊所属セシリア=ロス少尉です強襲前衛(ストライク・バンガード)」

 

「何とも淡白な自己紹介だな、そこの亜麻色の彼女はスリーサイズと初体験談でも」

 

「え?」

 

ケニーの問いに引き阿野本少尉の後ろに隠れるロス少尉

 

「♪優しい彼の元へ~、引いた戸惑いは 恋をしているから~♪青色の引き顔 セクハラ~♪」

 

文縁は突如歌いだす

 

ロスは阿野本に更に近づき、怯えるように腕を掴み、

 

「♪リア充な二人は~ 「「死☆ね♪!」」

 

そして鬼の形相で睨むケニーと文縁

 

<パコン!パコン!>

 

ケニーをピアティフが、文縁をモニクがクリップボードで殴る。

それを見て霞のウサギ耳はピーンと伸びる

 

「新人を脅す真似は止めろ、そして見苦しいぞ黒藤!」

 

「チッ、既婚者は余裕ですな」

 

「何か言った?負け犬?」

 

「クッ・・・おいグラサンお前も何か言えよ」

 

援護を求め振り返る文縁・・・がそこで見た状況は文縁にとって地獄でしかなかった

 

「・・・おぃおぃ、イリーナ痛いぞ、本気で殴ったな」

 

「・・・知りません、ケネスのバカ・・・」

 

怒って顔を赤くするピアティフ

 

唖然とする603の面々

 

「は!?いや、ケネスぅ!?「本名だぞ、知らなかったのか?」いやいや、それより何時そんなフラグ立ったよ!?」

 

あたふたとする文縁

 

「神 は 死 ん だ !」

 

腕を組みながら高らかに宣言する武

 

「お前が言うか!この鈍感ハーレム優柔不断チ●コ!」

 

文縁の拳が武に飛び、席から飛ばされる

 

「痛!何その理不尽!?」

 

地面に倒れ、頬を押さえる武

 

「ブ○リーがトラ○クスを殴るみたいに殴るぞ!」

 

「殴ってから言わないでくださいよ!」

 

そして追撃する霞

 

「何で霞も殴るんだ!?」

 

ボコボコにされる武を横目に文縁は席から崩れ落ちる

 

「・・・もう疲れたよ大吾朗〔見えない大型犬ぽい何かを撫でる〕、あぁ、北島の親父(演歌の)が迎えに来た(*死んでいません)・・・」

 

・・・

 

「あ、あのマイ技術大尉・・・これは・・・」

 

ウィリアムズは比較的冷静な態度を保つオリヴァーに問いかける

 

「ウチ(603)ではこれが平常運転です、貴方がたも一時我々の部隊に編入されるわけですから慣れてください。603は実力さえあれば性格は問いません」

 

「「「はぁ・・・」」」

 

ウィリアムズ達3名の溜息が部屋に広がる

 

「では、続けるぞ、三人は席に着きたまえ、黒藤、今作戦が終ったら女性を紹介してやる」

 

全く根拠の無いでまかせを吐くモニク

 

「マム、イエス、マム!」

 

素早く席に戻り、真直角、背筋を伸ばし、座る文縁

 

「おぃ、武!地面でヘタリこんでないで早く席に戻れ」

 

「何たる理不尽・・・」

 

未だジリジリと痛む頬を撫でる武

 

・・・

 

「では、香月副指令からの指令を伝えます『第603技術試験隊はこれよりMFSAを使い佐世保基地国連管轄区に進軍。基地内に未だいると思われるBETA群を殲滅。そして放棄された731部隊の研究資料及び研究成果を回収せし』との事です」

 

「!!・・・」

 

今までお気楽な雰囲気を出していた文縁は作戦内容を聞き顔色を変える

 

「731部隊・・・?・・・!!731!!」

 

同じく咄嗟に部隊名を連呼してしまう武

 

731部隊の名前を聞き文縁と武が反応する。武は自分の記憶の奥底、学生をやっていた時の記憶が蘇る。そして、それが正しければ「731」の名はけして良いものではない。

 

「黒藤とタケルは知っているようだな」

 

その二人の反応を見てモニクは二人に問いかける

文縁はユックリと口を開く

 

「関東軍防疫給水部本部、通称・・・満州第七三一部隊。大東亜戦争(第二次世界大戦) 時に満州周辺に拠点をおいていた。表面上は防疫給水の名のとおり兵士の感染症予防や、そのための衛生的な給水体制の研究を主任務としていた。だが裏では細菌戦に使用する生物兵器の研究、開発を行う機関・・・非人道的な人体実験も行い・・・戦争後速やかに解散されたとされる部隊」

 

「と、されるか」

 

ケニーはそう返す

 

「・・・噂では何処かで再編成され、生物兵器の開発、人体実験、人体強化などを続けたと聞いたが・・・ここか・・・」

 

「・・・生物兵器に人体強化ですか・・・」

 

武は自分が知る歴史との相違について考えていた・・・彼が覚えている限り、731部隊は第二次世界大戦後全く歴史には現れぬ部隊である。だが、この世界ではそうでは無いらしい。

 

文縁は続けて語る

 

「ああ。これは推測だがな。もしここでその研究が行われて対BETAを目的とした物が作られていたとなると相当ヤバイ生物兵器があると見て間違いないだろ。まぁ、人体強化も大空寺の所で無限力(ナユタ)つう分け分からん研究も行われてるくらいだしな。つまりはそれ以上に意味不明な研究が行われていてもおかしくないつう事だわ」

 

「余りピンと来ないな、実際目に見ていないからその731部隊ってのがどれ程酷いものなのか」

 

ケニーは文縁の説明に頭を傾げる

 

「・・・そうですね、オーガスタ研究所とかEXAM研究所を二乗に悪化させて、“人権何それおいしいの?”みたいにしたと言えば、ロンズ大尉、オリヴァーさん、モニク姉さんには分かるじゃないかと」

 

武の例えに三人は苦い顔をする・・・二つの研究所はNT研究や対抗のためかなり無茶をた(している)研究機関である。

 

「成る程言いたい事は何とか分かりました・・・技術を冒涜する・・・忌むべき物ということですね」

 

そしてオリヴァーは技術者として武が言わんとする事を一番理解していた。それ故に、731部隊がいかなるものか想像しやすく・・・そして嫌悪する。

 

ピアティフとウィリアムズ達は全く知らない機関名を出され首を傾げる

 

「・・・それでは今作戦を説明する前に現状報告だ。TSMT-05ヒルドルブ(戦狼)はこのまま現地配備される。パイロットは国連軍の江戸川少尉という戦車隊の者だ」

 

「ちょっと待ってくれよ奥さん、ヒルドルブはこのまま603に配備されんじゃないのか?てか俺、また乗る機体が無いんですけど!?」

 

武達と違いMSの搭乗機を持っていない文縁は慌てる。

 

「ヒルドルブは元々量産予定機、そして今試験が最終試験だったからな。心配するな、今作戦終了後、川崎で試作戦術機を受け取る事になっている。それと今回の戦闘でF-4JT(撃震T型)は完全にオーバーホールしなければならない。まぁ運が良ければヅダの改修が終っているはずだからタケルの方も問題はないでしょう」

 

「・・・暴走したシステムはに関しては・・・?」

 

「・・・説得しました・・・」

 

武の疑問に霞が答える

 

「・・・と言うことだ、MS(戦力)をこれ以上遊ばせておくわけにはいかないからな。でわ、今作戦について。ピアティフ中尉」

 

「はい」

 

ピアティフは画面に佐世保基地のブルーマップを出し

それを指しながらモニクが説明を始める

 

「佐世保基地国連管轄区。元々の地図には書かれていないがこの基地には地下が存在する。入り口は三ヶ所。北、西と東だ。構造から北には司令部、西に倉庫、東に研究所があると思われる。中央部にもしロックがかかっている場合構造上それら三箇所からロックを外さなければならない。故に我々は部隊を三つに分け各入り口より進入する。通路はバウンドドッグでも移動可能だが場所によってはES(Exoskeleton)を脱ぎFP(Feedback Protector;準等身大の軽装備)で探索しなければならぬ場所もある。ホバートラックの索敵では生体反応や震動音があるため小型のBETAがいる事は確認。そうよね、オリヴァー?」

 

「はい、ただ、それ以外にも波紋が一致しない震動音があるため基地防衛システムが生きているか他に何かいる可能性があります」

 

「他に何かって何だよ?」

 

ケニーが疲れたような声で聞く

 

「調査中だ。関係あるかどうか分からんが先の調べではここ最近何者かがこの基地に潜入した跡が残っている」

 

モニクは報告書をめくりながら答える

 

「BETAがウジャウジャいる所に自ら飛び込む奴がいるとわね~余程素晴らしい宝でも眠っているのか?」

 

「パンドラの箱かも知れないわよ?」

 

「絶望と厄災か?」

 

「最後には希望があるでしょ?」

 

「“一繋ぎの大秘宝”ならまだしも、一握りの希望のために飛び込みたくねぇなぁ」

 

文縁は一人やる気なく答える

 

「・・・危険です・・・」

 

霞は呟く

 

「ほらな~社ちゃんも危ないってさ・・・」

 

「最初は勢いがあったのに、失速しているな黒藤。そんなに昼間(麻雀で)負けたのが悔しいか」

 

モニクはニヤニヤとし、勝ち誇ったように言い放つ

 

「・・・・・・アンタに黒藤の悲しみの何が分かるっていうんだ!こちとら二ヶ月は冷や飯だぞ!!!」

 

「はいはい、ではロンズ大尉殿編成を」

 

「あいよ」

 

モニクに変わりケニーが前に立つ

 

「先ずはホバートラックの索敵結果だ」

 

基地地下の地図が各地点滅する、北が若干多く、次に西、そして東である。そして地下中央下の付近はシグナルが完全に消滅している。

 

「見ても分かる通り。パーティは北が一番盛り上がっている、次に西そして東だ。編成は地上ホバートラックにCP(コマンド・ポスト)としてイリーナ、索敵にはウサっ子、第一分隊がMFSA-99S(指揮官用)俺とMFSA-99ヒゲ。第二分隊がYMFSA-90小僧、MFSA-99嬢ちゃん、MFSA-99技術屋。技術屋のバウンドドッグは工作、修理仕様だ。そして第三分隊がMFSA-99Sギッド「キ、キッドです大尉!」・・・ああ俺は名前覚えるの得意じゃねぇんだよ、MFSA-99姫ちゃん「え、私ですか!?」とYMFSA-91は普通で「ちょっ、まっ」、陣形は各部隊臨機応変に行え」

 

A-01の三名の動揺を無視しマイペースにブリーフィングを進めるケニー

 

「第一は北、第二は東、第三は西から進入。見敵必殺(サーチ&ディストロイ)しながら情報収集。最終目標は中央地下だ」

 

「はい!ケニパチ先生!」

 

右手を勢い良くあげる文縁

 

「誰がケニ八先生だ」

 

「一番敵が多い場所に一番戦力が低い面々(文縁とケニーのみ)が行くのはどうしてですか?」

 

「何だ?嬉しくないのか、手柄は取り放題だぞ?」

 

「・・・僕は死にたくありましぇ~ん!!」

 

「101回異議を唱えようとも決定は変わらんぞ。それに今日の朝、昇進が云々ほざいたのはお前だろ」

 

「余計な 事を 言ったね~♪」

 

武が歌いだす

 

「大量の無茶や無理も~まるで俺を試すような~♪」

 

文縁が繋げる

 

「何度も言うよ~君は確かに~ 選択肢が無い~ 迷わずに~ SAY  YES 迷わずに~♪

 

てか、ヒゲ命令の拒否権がお前にあると思うのか?」

 

ケニーは急に冷めたように言い放つ

 

「ですよねー」

 

「「「(本当に、なん、なんだこの部隊・・・)」」」

 

A-01の三名は言葉を殺し、不安になる

 

「実際歩兵戦闘経験が豊富な俺達二人で北は対処した方が得策だろ。お前以外は機械化歩兵装甲の訓練時間はそこそこ150時間だからな。それに、喜べ!MFSAは漢装備にしてやる」

 

「漢装備って・・・てかMFSA!!!・・・人型だけどさ・・・また戦術機じゃないのかよ・・・」

 

「いくら基地地下が広くても戦術機が使えるわけないだろう黒藤、お前の脳はそんな事も考えられんのか?」

 

モニクの毒が文縁に止めを刺す

 

「では、総指揮は俺、第二は小僧、第三はギッドが指揮。ギッドやれるな?」

 

「はい!任せてください!」

 

ウィリアムズ中尉がそう答える

 

「よし!1300時までには出れぞ!各自解散」

 

<バッ>

 

各員敬礼をしブリーフィングルームを後にする

 

 

 

 

○○●●●

 

同日12:30

 

佐世保基地、地下

 

???

 

包帯姿の男がガラス越しに気味の悪い、植物とも動物とも言えぬような生物を前にニヤニヤと笑う。

 

「これが真実か!素晴らしい・・・フフフ村井博士・・・貴方の研究は私が日の当たる所へと導こうではないか・・・」

 

<ビービービー>

 

警告音が鳴り響き、それに反応するように生物のツタが動き真ん中の花びらが少し開く・・・

 

「・・・まだ完全に目覚めていないようだな・・・さてとオーディエンス(観客)を盛大に持て成そうではありませんか」

 

男は優雅にオルガンを弾くかの如く目の前のキーを叩き始める

 

「・・・(た・・・け・・・て)・・・」

 

生物は再び寝るように蕾を閉じる

 

 

○○●●●

 

同日12:45

 

横浜基地、香月研究室

 

春戸醜通(はるど=しゅうつ)年齢不明、推定40歳、男性

第731部隊所属。技術者として雇われ、正規の方法で入隊していないため階級はない。主に731部隊が作った技術を試験的に運用し評価、記録する仕事を行っていた。去年[1998年]の北九州BETA襲撃時に行方不明となる。

 

「何よ、これ殆ど分からないって事じゃない」

 

夕呼はその他の資料を見るが全く有用な情報がないのを確認すると、資料をテーブルに投げ捨てる。

 

「ふぅ~、これはこれは手厳しいですな香月博士、私が汗を垂れ流しやっとの思いで突き詰めた情報なのですが」

 

一昔前の探偵の様な格好をした胡散臭そう男はそう呟くと

茶色いロングコートを直し、パナマ帽子の位置を直す

 

「帝国のほうでも掴めない相手ってことね」

 

帝国情報省外務二課、課長鎧衣左近(よろい=さこん)は肩を上げ降参のポーズを取る

 

「他には・・・春戸は731部隊の村井博士の研究に多大な興味と関心をもっていたとのことです」

 

「村井・・・脳神経学者・・・元々は生物学者だったからしら・・・相当の異端者と聞いたわ(00ユニットも彼の研究を参考にしている箇所がある)・・・興味ないから余りしらないけど」

 

「そうですか・・・では、私も手ぶらでは帰れないので」

 

「何よ?こんな曖昧な情報で報酬を強請る気?」

 

「いやはや本当に手厳しい・・・」

 

鎧衣課長は研究所を出る素振りをし、

振り返る

 

「では、一つだけ・・・シロガネタケルは白銀武なのですかな?」

 

「!・・・アンタ何言ってんのよ?」

 

不可思議な質問に夕呼は眉をピクリと動かす

 

「いやはや、失礼、間違えました、噂のシロガネタケルは今何をしているのかと聞きたかったのですよ」

 

「・・・白銀なら、九州よ」

 

「・・・ふむ、佐世保と言った所ですか、成程、故に731部隊・・・では私は失礼させて貰います」

 

ふむふむと唸りながら、立ち去ろうとする鎧衣

 

「おおっと行けない、博士これを」

 

何処からともなく茶色い布に巻かれた長物を取り出し夕呼に渡す

 

「先日アフリカに行きまして、その時のお土産です、シロガネタケルにでも渡してください」

 

「何よこれ?」

 

「コテカと呼ばれる物です、では私はこれで」

 

そして、足音も立てず鎧衣は去った

 

「・・・後で白銀の部屋に送らせておきましょう・・・(春戸・・・村井に・・・731部隊・・・まだパズルのピースが足りない感じね)・・・」

 

○○●●●

 

同日13:00

 

第二分隊東口研究所前

 

『エインヘル・・・フェリア2(武)準備完了何時でも突入できます』

 

『3(モニク)、同じく行けるわ』

 

『4(オリヴァー)もです』

 

『こちらエインフェリア1(ケニー)了解した。おいヒゲ準備は良いか!?』

 

『・・・機関砲にリボルビング・ステーク、スクエア・クレイモア・・・そしてバウンドドッグ・・・俺は“むせる”と言うべきなのか“分の悪い賭けは嫌いじゃない”と言うべきなのか』

 

『ヒゲバカ[エインフェリア5(文縁)]も大丈夫そうだ、ギッド!』

 

『アーク1(ウィリアムズ)行けるぞ!』

 

『アーク2(阿野本)大丈夫です』

 

『アーク3(ロス)オールグリーン』

 

『・・・エインフェリア6(霞)準備できました・・・』

 

『こちら・・・「ヴァルキュリアでFA」・・・ヴァルキュリア(CP:イリーナ)より各機へ。映像記録器具はエインフェリア4(オリヴァー),5(文縁)、及びアーク3(ロス)が所持。破壊されないように気をつけてください。再度確認します。今作戦第一目標が731部隊の記録回収、第二目標が基地地下制圧です。これよりミッション開始します』

 

文縁は勝手にイリーナのコールネームを決める。

一応その部分では麻雀に勝った特権なのであろう。

 

『・・・エインフェリア1(ケニー)より。ここは嫌な雰囲気がする決して油断するなよ』

 

「武も感じるか?」

 

モニクが武に問いかける

 

「ああ・・・ザラついた感じがする・・・シャア大佐ともハマーン様とも違う何かが・・・」

 

『・・・皆さん・・・気をつけてください・・・』

 

『よし!603出撃(で)るぞ!』

 

ケニーの声を皮切りに武は扉を撃ち蹴り破る

そして開いた扉に向かいモニクがグレネードを一発打ち込む

その爆発の後に別の場所で爆発音がする

 

「あちらも、始めたみたいですね」

 

武は先に内部に入り12.7mmを撃ち始める

 

「ああ、邪が出るか蛇がでるか」

 

それをモニクが追い

 

「何か危険な臭いがしますね・・・」

 

オリヴァーは記録カメラのスイッチを入れ

ピントを合わせるモーター音が静かに鳴る

 

「・・・MFSA-99“猟犬”の実戦試験の記録開始します」

 

3人は基地の中に消えていく

 

○○●●●

 

同日1305(突入より5分経過)

 

第一分隊北側大広間

 

 

「ただ打ち貫くのみ!」

 

文縁はリボルビング・ステークを近くのBETAに打ち込み振り払うように吹っ飛ばすと肩部のスクエア・クレイモアを解放する

 

「遠慮すんな、全弾持ってけ!」

 

弾は縦横無尽に部屋を駆け巡る、べアリング弾はその性質上跳弾し部屋内をくまなく覆いつくす。

 

そして、静まった部屋には動くものは無くBETAの死骸が横たわっていた

 

「・・・エリアクリア」

 

文縁はそう言うと機関砲を地面へ向ける

 

「ヒュー、凄い威力だねぇー。切り札みたいだが早速使って良かったのか」

 

ケニーは周囲を探索する

 

「ああ、どうせコイツ(スクエア・クレイモア)の使える所なんて限られてくるしな、こういう室内での殲滅戦くらいでしか使い道ないからな。奥にいって重要機材やPCがある所じゃ絶対使えねぇし、合流したらフレンドリーファイアー(誤射)の危険性があって使えたもんじゃねぇよ」

 

「また欠陥兵器か・・・・それにしても、お前が人型兵器で戦う所を見た事ないが・・・中々の実力だな軍での評価以上じゃないのか?」

 

「・・・面制圧と接近戦は比較的得意なほうだけどなぁ・・・でも、買い被り過ぎだ。今回はコイツの機体性能と戦闘状況のお陰・・・そういうならアンタだってベアリング弾に当たらなかったBETAだけ狙って撃っていたじゃないか・・・どんな神業だよ・・・」

 

「年季が違うんだよ年季がよ」

 

「流石最年長者。その毒牙でピアティフちゃんを・・・許せん!」

 

「なんだ狙っていたのか?て、本気でロックオンするな!<パン>て撃つな!!!」

 

ケニーは咄嗟に避け36mmは宙を切る

 

「いや、俺はまりもん一筋だ!」

 

「まりもん?・・・ああ、教官ちゃんか・・・なら良いじゃないか」

 

「それと、これとは話は別だ!我は全国の一人身を代表しお前を討つ!覚悟「おい!ヒゲこれを見ろ!」往生際が悪いぞケニー・・・いやケネス=ロンズ!「良いから、来い」・・・ノリ悪いな、何だよ」

 

ケニーの銃が死骸を指している

 

「・・・人・・・か?」

 

それは辛うじて人のような形をした死骸。

その腕と足は異形であり、人には到底見えない

 

「ああ、そして、サーモ(グラフィ)で見れば分かると思うがまだ温かい。つまり先まで生きていたという事だ」

 

「BETA群に人間・・・有り得ない」

 

「・・・やはりこの世界の人間としてはそういう反応か・・・データをイリーナに送り解析させ・・・」

 

<――――^v―――――>

 

何かを感じ一瞬息を止めるケニー

 

「どうした?」

 

「いや、入る前から嫌な雰囲気はしていたが。中々素晴らしい殺気と狂気がこの先に広がっている、俺達はテリトリーに入ったみたいだな・・・行くぞ!」

 

「応!」

 

二人は次の部屋を目指す

 

○○●●●

 

同日13:11

 

第三分隊

 

倉庫

 

ケニーと文縁のギャーギャーと叫ぶやり取りが通信の先から聞こえてくる

 

[・・・キッドさん・・・どう思いますか彼ら?]

 

阿野本は秘密(プライベート)回線を開きウィリアムズに問いかける

 

[・・・正直副指令のパラノイヤ(被害妄想)だな・・・監視しろと言われたが、何か策謀している気配なんぞ微塵もないぞ]

 

[中尉・・・それ自体が演技ではなくて?]

 

ロスがそう疑うが

 

『<パン>!オイ!mす、ヒゲ、ふざけんなきいてんのか?』

 

『ヒュ~、何の事ですかな、どうやって俺が撃ったって証拠だよ!?』

 

『良い度胸してんな?喧嘩売ってんだな?そうなんだな?買うぞ?ああ!?』

 

『いい加減にしないか!傭兵!道化!』

 

モニクの一括と共にガミガミと説教が始まり、ケニー達の声は次第に小さくなって行く

 

[・・・あれが演技だと思うか・・・]

 

ウィリアムズは呆れ顔でロスに問いかける

 

[・・・]

 

ロスは言葉を失う

 

[・・・二人共BETAが来ます!!!]

 

「俺はあいつらを信じる事にするぜ!この地獄(セカイ)をどうにかしてくれそうな気がする!」

 

そう叫びウィリアムズは飛び出す

 

阿野本とロスの二機は後を追い、

 

三機はBETAに突撃する

 

 

 

603は薄暗い闇の奥へと潜る

 

731部隊

 

人型の化け物

 

村井博士の研究

 

そして狂気の男・・・

 

 

彼らは先に待つ本当の悪意に

 

 

まだ気づいていない

 




99式機械化歩兵装甲(MFSA)『猟犬』、“ハウンドドッグ”及びMFSA-99S指揮官機
――技術評価報告書

我が第603技術試験小隊はさる11月17日、四国九州長崎県佐世保市にて99式機械化歩兵装甲及び90式、91式試作機械化歩兵装甲を授与。我々は指令通り、佐世保基地国連管轄区の地下へと侵入す。12.7mm及び36mm機関砲は小型BETA種に抜群の威力を発揮。リボルビング・ステークもデータ上大型種をも撃滅できる威力があると推測される。スクエア・クレイモアは室内でその面制圧能力を大いに発揮す。しかし、当初の疑惑通り、誤射の危険性は拭えない。我々は引き続き機械化歩兵装甲、新武装の試験評価及び佐世保基地地下の探索を続行す。
               ―西暦1999年、11月17日オリヴァー=マイ技術大尉

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