Muv-Luv IGLOO [M.L.I] 記録無き戦人達への鎮魂歌 (再投稿)   作:osias

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第十二話「ツイマッドの系譜は静かに」

西暦1998年初頭

 

日本は朝鮮半島撤退支援作戦、『光州作戦』を発動する。これは国連軍と大東亜連合軍の朝鮮半島撤退支援を目的とした作戦であった。この時、脱出を拒む現地住民の避難救助を優先する大東亜連合軍に彩峰中将が協力。当初、国連軍の指揮系統は混乱したが、大泉純志郎少将(現大佐)とその部下は作戦決行以前から、脱出を拒否する原住民の可能性を指摘し、それに対し現地の兵士と将校の行動を予測していた。そのため国連軍の損害を最小に抑える。結果、国連軍司令部は損害を被るも陥落は免れる。

 

しかし、それでも国連は日本政府に抗議し、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求。国連の要求に従えば軍部の反発は必至、逆らえばオルタネイティヴ4が失速すると考えた内閣総理大臣榊是親は、最前線を預かる国家の政情安定を人質に、国内法による厳重な処罰という線で国連を納得させた。それに先立ち榊首相が彩峰中将を密かに訪ねた際、日本の未来を説き土下座する榊に対し彩峰は笑顔で人身御供を快諾。話しを聞いた大泉少将は軍内での立場を省みず軍事法廷で彩峰中将の正当性を主張。この時、大泉少将は「俺の信念だ!殺されてもいい」と咆え、法廷内の人間を怯ませた。彼の主張により彩峰中将は軍内より追放、封鎖されていた網走監獄にて保護と言う名の流刑に会う。大泉少将は1階級降格になり准将となった。同じく大泉少将の部下で光州作戦の危険性をとい、彩峰中将を支持していた少佐も大尉へと降格させられた。彼らの働きと志に榊は心打たれ、静かに涙したという。

 

与えられた選択肢の中、最高の選択をし、信念を見せた戦士達が受けた処罰。皮肉をこめ後にこれは『光州作戦の喜劇』と呼ばれる。

 

1998年、夏

重慶ハイヴから東進したBETAが日本上陸に上陸する。北九州を初めとする日本海沿岸に上陸する。大泉准将は独断で部隊を展開。しかし、僅か2週間で九州、中国、四国地方にBETAは侵攻。大泉准将率いる陸軍師団の活躍も空しく、犠牲者2400万人、日本人口の20%が犠牲になる。しかし、彼らが早期に行動を起さなかった場合、予想された被害は3600万人 日本人口の30%であった。

 

しばらくして、近畿・東海地方に避難命令。3000万人が大移動を開始する。オーストラリア、オシアニア諸国にも避難する。

 

一ヶ月半に及ぶ防衛戦の末・・・京都は陥落。首都は京都から東京に移される

それと同じくし、無断で陸軍師団を動かした大泉准将は謹慎及び降格を受け、大佐となる。中核となっていた部下数名も同じく階級を落とされる。

 

暫くして、佐渡島ハイヴの建設に伴い長野県付近でBETAの侵攻が停滞。その間に米国は日米安保条約を一方的に破棄し在日米国軍を撤退させた。

 

仙台第二帝都への首都機能移設準備が始まる、それに伴いオルタネイティヴ4本拠地の移設を開始、共に仙台への移設を開始。白陵基地の衛士訓練学校も同様の措置が採られた。

 

元大泉陸軍師団の面々は機械化歩兵部隊として前線に送られる。

 

BETA、東進再開、首都圏まで侵攻し、西関東が制圧下に し、帝国軍白陵基地は壊滅。

BETA群は帝都直前で謎の転進。伊豆半島を南下した後に進撃が停滞、以降は多摩川を挟んでの膠着状態となり、24時間体制の間引き作戦が続く。

 

BETA、横浜にハイヴを建設開始、偵察衛星の情報により横浜ハイヴ(H22:甲22号目標)確認される。

 

国連軍総司令部は、カムチャツカ、日本、台湾、フィリピンからアフリカ、イギリスに至る防衛線による、ユーラシア大陸へのBETA封じ込めを基本戦略として決定

 

香月夕呼博士、国連に横浜ハイヴ攻略作戦を提案、国連司令部はこれを即時承認し

大東亜連合に参戦を打診する。

 

大泉大佐は謹慎を解かれ、日本帝国陸軍技術廠・第壱開発局に編入される。これに伴い元大泉陸軍師団も同じく技術廠に送られる。大泉指揮の下、開発局は低迷する新型戦術機の製作を一時中断し、新型OS、新兵装、現存の戦術機の改修に着目する。新型OSはコード『知恵の実』の名で開発、開発者の一人は『南極の飛べない鳥』を勧めるが名の不気味さから却下される。

 

1999年

国連は本州奪還作戦、明星作戦を決行。

国連軍と大東亜連合によるアジア方面では最大、BETA大戦においてはパレオロゴス作戦(ソ連軍第43戦術機甲師団、「ヴォールク」連隊が人類史上初のハイヴ突入に成功し、3時間半で全滅する作戦)に次ぐ大規模反攻作戦で戦略目的は横浜ハイヴの殲滅と本州島奪還である。作戦前に第壱開発局により改善された新型OSお呼び追加スラスターが帝国軍の戦術機に搭載される。帝国産のOS、OS-A(Accelerated/加速型)はXM3のようなキャンセル、コンボ、先行入力などは無いもののRAMを分ける事で同時処理を行い処理速度を速め、フリーズ間隔(操作受付付加時間)を短縮したものである。これとハイヴ内戦闘を目的とし飛行距離を伸ばした追加スラスターの恩恵により、帝国軍は国連軍と大東亜連合、全体から見て損害を3割低く抑え、これにより予想より1割ほどの国連軍も大東亜連合も助かったと思われる。これを枷に帝国軍は国連軍及び大東亜連合に援助を要請、戦後処理のため訓練生を含む少なくは無い兵士が帝国軍の雑務をする事ととなる。これにより予定していた国連軍の総合技術演習が延期される。

 

1999年8月5日

米軍が二発のG弾を横浜で使用する、これにより人類史上初ハイヴの奪還に成功するも、同時に日本はG爆国となり、その威力にユーラシア各国、アフリカ諸国の一部でも脅威論が噴出し始める。それとは逆に、米国案を元々支持していた国々は、威力の実証によってより強硬にG弾の使用を主張し始める。

 

作戦の終了と共に香月夕呼博士は国連に横浜基地の建設を要請。

オルタネイティヴ4(AL4)の本拠地として、横浜ハイヴ跡地上に国連軍基地の建設を要請。国連は即時承認。横浜基地建設着工と同時に国連軍司令部は米軍に即時撤退命令を下す。

即時承認の主な理由は、米国が強引に推進する第五予備計画に対するG弾脅威派の牽制。

 

帝国軍は未だBETAの支配化にある日本列島の奪還、列島奪還作戦を発表。それに向けて国連軍から発見されていた兵士達の援助期間の引き延ばしを要請。主だった兵士達は国連軍の通常軍務に戻るも訓練兵達及び下仕官達は帝国軍の雑務を続ける事となる。

 

1999年10月28日

香月夕呼博士は更にAL5(G弾+宇宙逃避派)を牽制する意味で、ドイツ人学者オリヴァー=マイ及び日本人と思われる白銀武の研究を支援、発表する。微弱な電気を持ち、密度によりその電力が変わるミノフスキー粒子の発見、それを利用したミノフスキー=イヨネスコ型熱核反応炉。ミノフスキー=イヨネスコなる人物はオリヴァー=マイ曰く「我々(ジオン軍)にとっては恩師のような人」であり故人である。ドイツ人と思われるも、現段階での詳細は不明。続き帝国軍と共同開発でeXtra Maneuver – 3(XM-3)という新型OSが開発される。これは上記で記された通り、キャンセル、コンボ、先行入力という新型概念を含むOSである。これに伴い機動概念習得用のシュミレーターも開発される。

 

1999年11月11日

そして通常兵器(戦車、戦闘車両)の強化、及び統合整備及び核反応炉の使用を視野に入れた新型戦術歩行戦闘機(TSF)、モビルスーツ(MS)タイプ製作計画、

 

 

通称『ツイマッド計画』提案される。名前はイカレていると言う意味なのか怒れるという意味なのか、二つという意味なのか、凄くという意味でTooなのかは謎である。

 

 

香月夕呼博士は完成されている試作機を国連太平洋方面第11軍横浜基地、第6区画03格納庫、技術試験小隊『魔女の鍋』が試験運用するために列島奪還作戦に参加する事を表明、今に至る。

 

・・・・・・・・・

 

綾峰中将の生存、日本列島被害の減少、OS―A、追加スラスター、明星作戦での被害減少

 

『正史』との若干の違い、劇的では無いものの白銀武の知らない歴史がそこにはあった。

 

太陽は、再度浮上しようとしていた

 

しかし雲は未だに太陽を覆う

 

○○○●●

1999年11月13日

武達603技術試験隊が四国に到着した頃・・・

 

川崎、御剣電工・大空寺重工共同兵器工場・会議室

 

「やはり香月博士の方もやられましたか・・・」

 

巌谷中佐は苛立ちを見せる夕呼を見る

 

無言が部屋を包み

 

換気のためのファンがブンブンと音を立てる

 

「国連軍の・・・『あの』計画に関わっている香月博士や帝国軍開発局だけでなく、我々の工場にも間諜が入り込むとはなァ・・・」

 

紫のスーツにピンクのシャツとタイを着、龍の様な金髪の大空寺財閥総帥、大空寺真龍(だいくうじ=まりゅう)は静かに怒りを露にする

 

「中々ワシらも舐められたもんだのう」

 

煌武院雷電の髪型を逆さにしたような、大柄の老人、御剣財閥総帥にして、元日本空軍大将、御剣神鳥(みつるぎ=しんちょう)は黒色の着物を纏い、自分の髭を撫で、鋭い目付きでデスクの上に散ばる書類を見つめる。

 

「言われるまで気づかない程に隠蔽されているなんてね・・・やってくれるわ・・・!!」

 

夕呼は強く唇を噛む

 

「両軍内に裏切り者がいると見て問題ないだろう・・・あたりをつけるなら・・・第5計画派・・・いや・・・それよりも複雑かもしれんな・・・」

 

大泉大佐は腕を組みながら、皆に確認するように言う

 

「取り合えず、盗まれた情報が何か、お互いに確認しておいたほうがいいだろう・・・我々の方は川崎計画の一環として組み込まれた、陽炎改良型の情報と、我が財閥が開発していた合体機構搭載型の『特機』の情報だ。香月博士や大泉大佐達からの技術提供で事が上手く運び油断した・・・物理的に何も取られなかったのが不幸中の幸いかァ・・・」

 

「御剣電工の方では、ミノフスキー=イヨネスコ型核反応炉エンジンの情報じゃが、白銀武殿やオリヴァー=マイ殿の知識なくして複製は難しいじゃろう。他は加熱長刀の設計図と99式超震動短刀(ソニックブレイド)の試作型が倉庫から無くなっているという報告がきているのう」

 

「私達の方は侵入者数名を発見し、交戦後にこの者達は服に付けられた爆薬を起爆させ自決・・・帝国軍兵士と国連軍兵士の制服を着ていたという以外は何も分かりませんでした。その際我々が保有する実験部隊白き牙(ホワイトファング)隊長、公主人(おおやけ=おもひと)大尉が重症、部下数名も負傷、幸い死者は出ませんでした・・・彼らのお陰で何も盗れず、相手のが奪取したデータも破壊でき、今回の件が明るみに出たわけですが・・・」

 

「・・・」

 

大泉の髪は巌谷の報告に反応するように蠢く

 

「大佐」

 

「ああ、俺が怒っても仕方ない事だが、自身の不甲斐無さにどうしても怒りを覚える」

 

「・・・私の方は結構深刻ね、第4計画だけじゃなく独自に集めた第3計画のデータとそれに関連したオリヴァーの報告書もやられたわ。その他にXM-3βのデータと白銀が乗ったシュミレーターのデータにも侵入した形跡があるわ」

 

「AL3とAL4のデータというのは?」

 

大泉が問う

 

「詳しくは流石に言えないけど、AL4は擬似人体関連と・・・AL3はESP能力発現の研究、オリヴァーの言う所の『強化人間』の研究書類を根こそぎね・・・確かにプロテクトは他の物に比べると低いし、一番大事な事は私の頭の中に入っているけど。だからと言ってタダで盗られるのは癪ね・・・それにここ最近、春戸(はるど)とかいう帝国軍の研究者もやたら私達の事嗅ぎまわっているし・・・」

 

イライラと組んだ腕の上で人差し指をタップさせる夕呼

 

「春戸・・・?聞かん名前だな・・・巌谷君知っているか?」

 

「いえ・・・」

 

「・・・ふむ、兎も角、これを教訓にするしかなかろう。他に何かあった場合各々に連絡をいれるということでやいじゃろう」

 

御剣神鳥が苛立ちと怒りを見せる面々を落ち着かせる

 

「・・・そうね~じゃ計画、開発、生産の方がどうなっているか確認しましょう~」

 

頭を少し掻いた後に夕呼は手をヒラヒラさせる

 

「では私の方から始めましょう」

 

巌谷はプロジェクターのスィッチを入れ、前に立つ

 

「現在、民間の大空寺重工と御剣電工、香月博士及び国連軍、そして我々日本帝国陸軍技術廠・第壱開発局共同で行われている戦術機・兵器開発強化プロジェクト、通称『ツイマッド計画』は書類上今日開始されます。この川崎工場は正式に両軍共同兵器開発を行う川崎工廠として認知されました」

 

スクリーンに各団体のシンボルが現れ、次にヅダ改、試作改良型ギャン、ドム・トローペン(先行量産型)の映像が出る

 

「戦術機改良計画は川崎に完全移転し、これより川崎計画となります。『ツィマッド計画』はその下に多数の小プロジェクトを抱えています。そして便意上これらの小プロジェクトはアルファベット表記します。現在進行している計画は統合整備計画―Uプロジェクト、兵器兵装強化計画―Wプロジェクト、OS強化普及作戦―Xオペレーション、試作MS系戦術機生産計画―Yプロジェクトです。先ずは主な情報提供者であり、『ツィマッド』の核となるモビルスーツを保有する香月博士お願いします」

 

夕呼は立ち上がり、巌谷と変わるようにスクリーンの横に立つ

 

「まぁ、詳しい性能は資料をみてね。MSと言われる兵器はオリヴァー=マイ、白銀武と彼らが先人と呼ぶ人々によって作られた兵器よ。実際これらに計画名はないわ・・・付けるとしたら、差し詰め・・・最後の文字は既に発動する予定あるし・・・抜けているアルファベットを取って『V計画』かしらね」

 

「V・・・か・・・」

 

大泉は何かを考えるように呟く、Victory・・・

 

「しかし、何度この資料を読んでも信じられんのう、これらを本当にどう作ったのやら」

 

「残念ながら、白銀とオリヴァー以外は故人よ」

 

「ふむ」

 

神鳥は髭を撫でながら不服そうに資料を眺める

 

「我が見たところ、この『ヅダ』といわれる機体は無重力空間を想定しているようだが・・・」

 

“鋭いわねこのジジイ”と夕呼は頭の中で顔に出さずに言う

 

「技術試験用だからとしか言えないわね、現在地上用に改良している所よ。兎も角、このMSといわれる兵器はワンオフ機で複製が作れない以上、その技術を応用し新型を作ったり、改造したり、兵器兵装を作ろうて事ね。装甲に関しては603の連中がハイヴ内にある物質を使って何か新しい物を作っているみたいね。エンジンに関しても、核反応炉の製作とヘリウム3採取の問題があるから、今はオリヴァー達が提案した新型ハイブリットエンジンに切り替えるしかないわね」

 

「ふむ、わしとしては詳しい事をマイ少尉達に聞きたかった所ではあるが・・・」

 

「残念ね、603技術試験隊は現在四国に送られているわ、MSと新兵装のコンバットプルーフとロールアウトしたホバートラックの試験にね」

 

「話しは彼らが戻ってからとなるか・・・」

 

「白銀達には九州奪還にも参加してもらうから帰ってくるのは早くて12月の頭かしらね~、どちらにせよ、試験報告だけは頻繁に送られてくるでしょうからそれらのデータは回すわ」

 

もうこれ以上話すことはないと表すようにささくさと夕呼は席に戻る

 

「・・・では先ずは我々、第壱開発局の方から・・・現在我々の計画は煌武院殿下の許可と威弟(いで)大将及び国連軍のラダビノット准将の元行われている事になります」

 

巌谷は多少呆れ気味に話し始める

 

「ほう、殿下直々とはなァ、どういう関係で許可を得たのか気になるところだが」

 

「それに『あの』威弟銀河(いで=ぎんが)斯衛軍大将が戦闘、戦争、殲滅以外の事で興味をしめすとはのう・・・」

 

御剣総帥が大空寺総帥に続く

 

「(殿下に関してはモニクが白銀の名前を出したら・・・暫くして許可がでたわね・・・あいつは将軍閣下と何か・・・まだ色々隠し事がありそうね・・・威弟大将は・・・良く分からないわ)」

 

ぶつぶつと夕呼は頭の中での人間関係図を作り上げる

 

「私にはお答え出来ません、交渉人が凄腕だったと考えていいでしょう」

 

「そうかァ」

 

「ふむ」

 

「では、我々が単独で作業をしている試作MS系戦術機生産計画―Yプロジェクトの状況ですが・・・現在YMS-15K試作改良型ギャンを元とした白兵戦型凡用戦術機動兵器YMP-01A 試作型MS01A“エーコンニタム”の開発は終了ロールアウトしました。同じくMS-09F/TROPドム・トローペンを元に開発した重戦型戦術機動兵器、突撃仕様のYMP-02A試作型MS02A“アルボレウム”及びハイヴ攻略仕様のYMP-02B“バラサミフェルム”もロールアウト済みです。元々ホワイトファングから数名がテストする予定でしたが予定外の負傷者が出て復帰も未定のため、エーコンニタムは篁唯依少尉、改めホワイトファング隊長篁中尉が搭乗。残り二機は追加隊員が付き次第テストを行います。どちらにせよ現在調整中なため予定通り事は運べると思われます。そして残りの第三計画、EMS-10ZFbヅダ改を元にした戦術機は12月中旬までには完成する予定です。第四計画に至っては香月博士が最後の機体のデータを渡してくれるまでは何とも言えません」

 

「しょうがないじゃない、“ルピナス”もまだ整備中なのよ」

 

「・・・我々の方は以上です」

 

巌谷が席に付き、御剣総帥が立つ

 

「ふむ、次はワシか・・・機密が多いとは言え、ワシ直々に品物の説明をするとはのう、そもそも「はいはい、年寄りは色々話が長くなるから嫌なのよ」・・・」

 

「・・・ではワシら御剣電工は主に兵器兵装強化計画とOS強化普及作戦を受け持っている。実際は他計画の電気系統全てじゃがのう。99式超震動短刀及び加熱長刀は既にロールアウト済みじゃ。えぐずえむすりー(XM-3)最終調整は完了、普及の方は上手く言っているようじゃ。大泉大佐の所の第三計画で使われる試作簡略型あーす(EARTH)も香月博士の所の技術者が提供してくれたデータで何とか形になったが・・・下からの報告では相当危険なモノのようじゃ・・・良くマイ少尉や白銀少尉が提案したものじゃ・・・」

 

「(実際は白銀もオリヴァーも603の誰も知らないわよ、私の独断だしね)」

 

「光菱重工と大空寺重工の協力の元、戦術機用の大筒や散弾銃も開発完了、新型戦車『戦狼』完成、これは前線に送られる事になっておる。さぶふらいとしすてむ(SFS)と言う戦術機援護用兵器と新型の強化機動歩兵『猟犬』も完成じゃ。殆ど光菱重工と大空寺重工が仕事をしたのでワシら偉そうに言うのも気が引けるがのう・・・」

 

「・・・しかし、御剣殿の支援なしに完成はしなかったであろう。我らの方も報告をいたそう」

 

御剣総帥に変わり今度は大空寺総帥が立つ

 

「我々の管轄は統合整備計画―Uプロジェクトと川崎計画だァ。資料を見れば分かると思うが、両計画共に並行して行っているために似た結果がある。何より統合整備は必須であるからな・・・川崎計画にも組み込まれている。強いて言えば川崎計画は新技術を多く使い、一種を抜いて高級になってしまっている。武御雷の改良型もここに組み込まれる。統合整備は現在日本帝国で使われている機体全てに適応し、元々改良計画が無く大幅な改造が行われなかった機体の表記はJ。これに該当するのが吹雪、瑞鶴、撃震。陽炎改及び不知火弐型は改良計画のあった機体だな。海神(わだつみ)はほぼ別機種となるぐらい改造される。不知火弐型とは別に技術試験型不知火―不知火E型も開発されているなァ」

 

「両社とも張り切りすぎではなくて?」

 

「大泉大佐の所もそうだが、我々の方も陽炎改に手間取っていてなァ。それが問題なく、そして当初よりも大幅に強化されると分かれば力もはいろう」

 

大空寺総帥は笑っているのか睨んでいるのか分かりにくい表情で夕呼の質問に答え、そのまま席に戻った

 

「そう・・・それと元々計画に組み込まれていなかった会社が入っているけどこれは?」

 

「それは仕方ないのう、夕呼君、ワシらの会社は戦術機生産に関しては新参者じゃ、どうしても古参の光菱重工などの助けが必要になる。当然機密は守っておる、詳しい契約内容と交渉結果は資料に纏まっている筈じゃ」

 

「目の前の資料を読まない事には始まらないってこね・・・」

 

テーブルに並ぶ計画書、開発プラン、予算表、契約書、結果報告書などなど各自読み始める。

 

<数時間後>

 

「ふむ、年寄りには堪えるのう、流し読みをするだけでも肩が凝るわい」

 

御剣総帥は肩を揉む

 

「これだけの事をして総費用が2000億(円)以下ってのは驚きね。3兆(円)も玩具(ラプター)に使った『あの』国が阿呆に見えるわね」

 

夕呼は予算表を手にし、ケラケラと笑う

 

「それは単に博士達のお陰でしょう。設計図が完全に出来ており、パーツの流用も考慮されている、しかも技術的に難しい部品は生成され実物のサンプルがあるなら、開発費が抑えられるのは至極当然かと・・・」

 

巌谷は淡々と説明する。

実際、完成品がある実物を見てコピーするだけの作業も含んだ開発計画である。優秀な技術者を持つ日本帝国が短期間低費用でこれらの物を作れない道理はなかった。

 

「モノ、カネは良いとして・・・ヒトが足りないなァ」

 

大空寺総帥が言うように一度に大量の試作機出来てしまい、テストパイロット、技術者、科学者などの需要が一気に増えてしまった。

 

「・・・私の所で使っている教導隊の1個中隊が明星作戦(横浜ハイヴ殲滅作戦)で壊滅的被害を受けて再編成しないと行けないのよ、だからそこから何人かは回せるわ、帝国軍はどうなの?」

 

「それでも間に合わんだろ俺達の方も上に頼んでみるが良い所で新兵を回されるだろうな、人事局の方はキナ臭いからな・・・国連軍の方がキナ臭かった時は俺達が何人か“優秀で有能”な連中を預かっていたが、今度はうち(帝国軍)が預かってもらわないといけなくなりそうだな。実際もう大空寺のお嬢さんも預かってもらってるしな・・・本当に公大尉達をやられたのは痛いな・・・」

 

大泉大佐は溜息を吐きながら答える。

 

「我々の所のテストパイロットを回すが数はそれ程いないぞ?」

 

「白銀達に頼んで徹底的に新兵を鍛えさせようかしら・・・それとも白銀自身に連続でシュミレーターにいれて操作サンプルを・・・70時間アイツをシュミレーターに入れれば何とかなるでしょう・・・」

 

ブツブツと不吉な事を言う夕呼を見て一同は武の事を心から真剣に心配した

 

 

○○○●●

会議終了後

会議室前

 

「副指令!」

 

会議後から未だにブツブツと独り言を言う夕呼を紺色の髪をした青年が呼び止める

 

「・・・何、阿野本にロス?」

 

オレンジ髪を靡かせた女性が青年の後を追う

 

「副指令、セシリア=ロス少尉および、阿野本海(あのもと=かい)少尉、両名試作兵器の授与完了しました」

 

女性は夕呼に向かって敬礼する

 

「・・・何でウチの連中はこう固っ苦しいのかしらね・・・じゃ取り合えず手はず通り、安定性が確立されている機体は伊隅の所に回して、怪しかったり戦術機じゃないのは603に送ってちょうだい」

 

「「は!」」

 

二人は綺麗に敬礼をする。

 

「はい、はい、何回私は敬礼は良いと言わせる気よ・・・」

 

○○○●●

同刻、川崎工廠

 

「すげぇーやぁー本当の戦術機だぁーー」

 

場違いにも思える茶色の髪の少年が大ハシャギに格納庫内を走り回る

 

「お、おい!出(イズル)バレたら俺が大変なんだぞ!」

 

短い金髪に茶色のジャケットを着た幼顔の青年が後を追う

 

「バー兄ぃー!こっちに見てよー!この機体変わってる!」

 

イズルと呼ばれた少年は二体の戦術機を見上げる

 

「その渾名止めてくれよ、先輩も良くその渾名で馬鹿にされてたんだから」

 

「僕の事を渾名で呼んでくれたら止めるよ」

 

「はぁ~・・分かったよア「貴方達ここで何しているの!」」

 

二人は驚き振る向くと長い赤い髪の女性が立っていた

イズルは咄嗟に青年の後ろに隠れる

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止よ・・・」

 

「(イズルの奴・・・)いえ、関係者です」

 

女性は何かに気づくように近づく青年の後ろに隠れる少年に近づく

 

「・・・ねぇ貴方・・・昔私の隣に住んでいたイズル君?」

 

少年は何かを確認するように女性を見る

 

「・・・クリス姉ちゃん?」

 

「やっぱり!その呼び方或赤出(あるせき=いずる)君ね?」

 

「何だ知り合いかよイズル?」

 

「うん」

 

「私は大空寺重工の来栖千夏(くるす=ちなつ)です」

 

咄嗟に手を出され照れながらも手を取る青年

 

「ああ、どうも」

 

そしてスグにイズルに振り返る

 

「イズル君!駄目でしょまたこんな危ない所に!このお兄さんにも迷惑かけ「姉ちゃんバー兄―は兵士なんだよ!」・・・帝国軍の方でしたか」

 

「いえ、もう除隊しました・・・御剣電工技術開発部の花土賢人(ばなど=まさひと)です・・・こちらの機体・・・大空寺と帝国軍の“出来損ない”ですか?」

 

その一言に眉間に皺を寄せる来栖

 

「・・・この子達はもう“出来損ない”何かじゃありません・・・!!」

 

「そうだぜ!それにもっとすげぇ奴が出来上がっているんだぜ」

 

割ってはいるように黒髪短髪の女性が話しかけてくる

「風織菜(ふぉるな)・・・またそんな男っぽい口調を・・・」

 

その後ろに続くように金髪のやたらデコが目立つ女性が現れた

 

「涙守(るいす)は相変わらず細かい事気にしすぎ!禿げるよ!」

 

「禿げないわよ!」

 

「アナタ方は・・・」

 

やり取りに呆れ気味の来栖が聞く

 

「良くぞ聞いてくれた!御剣電工エースパイロットの呂無風織菜(ろむ=ふぉるな)様ってのは俺の事だ!」

 

「はぁ・・・御剣電工テストパイロット勝瀬涙守(かつせ=るいす)です・・・偉そうに言っていますが出来上がっていると指している機体は大空寺重工のものです」

 

親指で自分指す呂無を横に勝瀬は「はぁー」と再び大きい溜息を吐く

 

「大変そうですね、相変わらず・・・」

 

花土は髪の毛のう・・・同僚に同情する

 

「しかし、これだけの新型!しかもモノによっては戦車より安いんだぜ!人類は勝てるぜ!俺がいるんだからな!」

 

そう堂々と言う呂無、誰もが彼女を訂正しようとはしなかった。

 

皆が聳え立つ陽炎改と不知火弐型を見上げる、それはもう“出来損ない”と呼ばれるものではない。

 

少年の目にはその二機はどう映ったのであろうか・・・

 

・・・




1999年11月13日
         -ツイマッド計画発動セリ-

川崎計画[計510億]
1)磁気加工による旧型強化計画[60億]
2)川崎工場整備の欧州産新型戦術機[90億]
3)量産型中遠距離支援機[10億]
4)先進技術実証機[300億円]
5)斯衛軍専用高性能戦術機改良計画[50億]

U―Project(United Maintenance Project)統合整備計画 [計500億円]
1)陽炎改良計画[60億]
2)04式戦術歩行戦闘機開発計画[120億]
3)一般機改良計画、通称“狩人計画”[50億]
4)強襲用新型戦術機開発計画[100億]
5)新型技術試験機[170億]

V-Project V計画[総費用550億]
1)無重力間戦闘試験機
2)近接強化型試験機
3)ホバー試験戦術機
4)観察用小型戦闘機
5)支援型高性能機
6)戦略試験砲
7)整備用艦
8)潜水陸両用艦

W-Project(Weapon Enhancement Project)兵器強化計画[総費用150億]
1)超震動方近接兵器
2)加熱型近接武器
3)超弩級戦車
4)ホバー型戦車
5)補助飛行機
6)ホバー型指揮車両

X-Operation(X作戦)OS強化普及作戦[費用40億]

Y-Project(Y計画)試作戦術機計画[総費用240億]
1)白兵戦型凡用戦術機動兵器
2)重戦型戦術機動兵器
3)超高機動型凡用戦術機動兵器
4)高性能支援型戦術機動兵器

・・・Z-Project・・・(???)

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