Muv-Luv IGLOO [M.L.I] 記録無き戦人達への鎮魂歌 (再投稿)   作:osias

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第0章「別の世界(ソラ)で」
プロローグ「あいとゆうきときぼうのおとぎばなしのはじまり」


高貴な装飾物で彩られた赤色と金色の配色が目立つ、応接間。

 

二人の男性が初老の男に頭を垂れるように跪いていた。

初老の男性は気品に溢れ、清楚な髭を伸ばし、何か満足げに二人を見つめる。

 

男性の一人は若く、日系で幼い顔立ちをした中肉中背な若き兵士、どこか“ガキ臭さ”が残る。もう一人は金髪碧眼の20代後半の男性、見た目からして技術仕官ぽく、軍人というより、運動をする一般人的な体系である。

 

「そんなに畏まるな、頭を上げよ」

 

「「ハッ」」

 

二人は同時に頭を勢い良く上げ、立ち上がり敬礼をする。

 

「君達の話は聞いている、今まで我らジオンのため、アクシズで良く働いてくれた」

 

二人の男の内、年上の金髪の男性が答える

 

「勿体無いお言葉です、マハラジャ=カーン閣下」

 

マハラジャ=カーン、小惑星アクシズを預かる、穏健・ダイクン派の将官である。アクシズは一年戦争で敗れたジオン兵の寄り代となっていた。

 

「そう謙遜するでない、両名共に一年戦争を生き延びた猛者ではないか」

 

「いえ、私はただ試験運用部隊で解析をしていただけですから」

 

「俺・・・いや、私に至ってはジオン軍に入ったのは一年戦争後ですし。今頂いている中尉の階級も不相応だと思っているくらいです」

 

日系人の兵士が敬礼したまま、答えた。

 

マハラジャ=カーンは自分の髭を触り、若い方の男性に向く

 

「“リヴァイヴァー(再生者)”と“ツィマッドの侍”とも言われる者達がこれ程にまで謙虚だとはね、気をつけたまえ、余りに謙虚である事は時に嫌味に成りかねない。先日シャア大佐を模擬戦で倒した事、このマハラジャ=カーン耳にしていないと思ってか?」

 

「いえ、あれは・・・「彼がザクIIを駆り、君が彼より高性能なケンプファーを駆っていたとしてもだよ」・・・」

 

若い男性は黙り込む。実際、一年戦争、ジオンの英雄、シャア=アズナブルを模擬戦とはいえ倒した。だが、お互い駆ったMS(モビルスーツ)の性能差は段違いである。負けた本人はMSの性能の差が戦力の決定的差ではないと豪語していた人物であるため、潔く負けを認め、若き兵士を賛美している。しかし、若き兵士も“勝たせてもらった”様な気がして、勝った本人の方が納得がいかないという不思議な状況になっている。

 

「それらは誇って良い事だと私は信じる、それにそういう経歴、実力、技術を持っている君達だから今回の任務を任せられると私は思っている。」

 

優しく、マハラジャ=カーンは彼らに語り掛けた。

 

「ありがとうございます」

 

二人は今一度頭を垂れる

 

「では今回はデラーズ中将以下、デラーズ・フリートが潜伏している『茨の園』に向かい、試験兵器の試験運用及び評価、結果が良好の場合そのまま配備ができるよう手助けしてやってくれ。先ず、月のツィマッド・・・いや今はアナハイムだったな、彼らは試験兵器はほぼ完成していると入っている、君達は今から月に向かい、それらを回収してくれ。月では更に二名今作戦に参加する者がいる、彼らとも合流してくれ。武運を祈る!ジーク!ジオン!」

 

「「ジーク!ジオン!」」

 

二人は綺麗な敬礼を同時に決め。渡された作戦命令書を受け取り、素早く応接間を退室した。

 

「どれだけ彼らの行動が無謀であっても同胞は見捨てられまい・・・」

 

マハラジャ=カーンは深いため息をつく。そこには穏健派としての考え、そして一ジオン将官としての苦悩が垣間見れた。

 

 

 

二人は出向デッキに向かう廊下を歩いていた。

 

「ははは、何処に行っても人気だね、流石“ツィマッドの侍”だ」

 

そう笑いながら年上の男性は若い男性をからかい、小さく彼の肩を小突く。

 

「止めて下さい、大尉だって“リヴァイヴァー”なんて言われているじゃないですか・・・昔は二つ名はカッコイイと思ってましたけど、実際つけられて呼ばれると何かむず痒いです。それに「赤い彗星」、「青い巨星」、「真紅の稲妻」、「白狼」と・・・」

 

そう言いきる前に前から二人の男女が歩いてきた。

 

一人は赤服を纏った金髪の男性、サングラスを着けているため、表情は完全には読めない。もう一人はピンク色の髪をした若い女の子だった。

 

「噂をすればだね」

 

男女は男性達に気づいたようで向かってくる。

 

「やぁ。先日はやられたよ」

 

赤服の男性が若い男性にまるで友達に語るかのよに話しかけた。

 

「恐縮ですシャア大佐!」

 

二人は敬礼をする。その三人の間に割るように女の子が若い兵士の顔を覗き込んだ。

 

「本当にこんな、ヘタレそうな男の子が大佐を倒したの?」

と突然女の子は若い男性の顔を覗き込む、それに驚いた男性は一歩後ろに下る。

 

「恐れながら本当ですよ、ハマーン様。」

 

年上の男性が答える

 

「いえ・・・あれは何せ、性能の差がありますよ、それに俺のは大尉が完璧に整備したものですから」

 

そう、若い男性は苦笑いをしながら答える

 

「私を見くびらないで欲しい物だな。性能の差、整備状態、全てひっくるめて、私は君のケンプファーにザクで勝てると思ったのだよ。実戦経験が数えるくらいしかない、戦闘から遠ざかった者にやられたのだからな。“ツィマッドの侍”という名に偽りなしと言った所か?」

 

シャアは一瞬刺す様な視線を若い男性に向けた

 

「“ツィマッドの侍”?」

 

ハマーンはシャアを見上げながら問う。

 

「ああ、悪かったなハマーン、彼らの紹介を忘れていた。」

 

そして年上の男性を指すシャア

 

「彼は元第603技術試験隊、“リヴァイヴァー”ことオリヴァー=マイ技術大尉だ。パーフェクトジオングやゼロ・ジ・アールの整備、試験、評価も彼が参加した事で大幅に進んだと整備士達は言っている。」

 

「オリヴァー=マイ技術大尉です、以後お見知りおきを!」

 

オリヴァーはハマーンに敬礼をする。シャアは今度は若い男性に手を向ける。

 

「そして彼が・・・“ツィマッドの侍”・・・時に『白銀(ハクギン)の武士(モノノフ)』と呼ばれた、タケル=シロガネ中尉だ」

 

ハマーンは再びタケル=シロガネを視る。そして彼女は彼の目を見て、一歩下がり、自問する、“何故一度目に気づかなかったんだろう?”彼の目は何人もの人々の死を目の当りにしたようなベテラン兵士の目をしていた。

 

時に宇宙世紀0081、10月20日。一年戦争が終わり2年の月日が流れようとしていた。


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