魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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キャラが崩壊してないか心配です。


杏子と迷子

 放課後になった。

 今回はまどかとさやかがさっさと帰って行った。おそらく昨日の用事関連なのだろう。仁美も他の女子達と帰って行ってしまった。俺達はというと、

「洲道。今日も風見野へ行くのか?」

「ああ、そのつもりだ」

 暁美のせいで少し気分が沈んだが、だからといって、それであきらめるほど俺は弱くないつもりだ。きっと行けばあいつはいるはずだ。そんな気がする。

「お前はどうするんだ?」

「今日は他のやつとの約束があるんだ。俺の方も上条への見舞いのネタを持ってこないとな」

 なら、今日も一人か。それは正直ありがたい。杏子の姿を見せるのはなんだか恥ずかしいのだ。

「じゃあ、またな」

「おう」

 俺は風見野へ向かった。

 

 

 

 

 

 風見野のゲームセンターに着くとそこでは杏子がすでにプレイしていた。

 俺は杏子の姿を観察してみた。動作の一つ一つに無駄がない。その動きに合わせてその長く赤い髪が揺れる。その姿を美しいと思い、また同時にその姿を越えたいとも思った。俺は全身の血がたぎる思いがした。

 一息ついたところで杏子がこちらを振り返った。

「よう、裕。またあたしに飯をおごりにきたのか?」

「なに言ってんだ。俺はお前の菓子をいただきに来たんだよ。」

「言うねえ、ならさっさと始めようぜ。そろそろ退屈してたんだ」

「ああ、楽しませてやるよ」

 さあ、闘いの時間だ。

 

 

 

 

 

 

「いやー、勝利の果実はいいもんだな!」

「さいですか」

 今までで最高新記録を出せた。杏子との闘いで俺自身のレベルが上がったことが実感できた。しかしそれは杏子も同様だったようだ。結局excellentの数一つの差で俺は負けてしまった。負けてしまうのは、やはり悔しい。だが、悪くはないとも思えてきた。こいつと闘うことで、自分はさらに強くなれると感じられるのだ。

(これが好敵手ってやつなのかな)

 今まで会わなかったタイプの人間との出会いに俺は気分が高揚していた。

 

 

 

 

 

 今回は主に菓子類や果実類を中心に買っていた。昨日と同じようにはぐはぐと旨そうに食べていた。

「しっかし、なんかかたよってんな。お前の飯って」

「そうか?」

「昨日は大量のジャンクフード。今日は大量の菓子や果実。そんなんだと太るぜ?」

「問題ねえよ。あたしは太らねえし」

 すごい自信ですこと。今全国の女子達の大半にケンカ売ったよ、この人。

「やめとけやめとけ。俺の見立てじゃ、あと半年で胸より腹の方がふくらm……ごはぁっ!!!?」

 いきなり腹に強烈な拳が減り込み、最後まで言えなかった。

「何か言ったか?」

「ナンデモアリマセン」

 あなた様は将来理想の体型になるお方です。

 

 

 

 

 

 そうこうして歩いているうちに子供が一人泣いているのを見つけた。

「う……ひっく、ひっく……」

「あん?なんだあいつ……迷子か?」

 杏子も気になったようだ。この風見野ではショッピングモールや娯楽施設など色々そろっているため人通りが多い。だから子供が少し油断するだけで簡単に

迷子になってしまうのだ。

「うるさいなぁ。子供は嫌いなんだよねぇ。親の手がないと生きていけないくせに、すぐ自分一人でどこかに行こうとして迷子になる。親のことも考えずに勝手なことをして、結局皆不幸にする」

 杏子は一人ごちる。それは自分にも言い聞かせているようにも見えた。確かに杏子の言っていることは正しい。けれど、それは大人ぶって分かったふりをして、言いたいことや、したいことを我慢しているようにも見えた。

「誰かが助けてくれるなんて、あるわけ無いのに……」

 何かを諦めるようにつぶやく姿をよそに俺は、

「どうした、坊主? なんで泣いているんだい?」

その子に近づいて声をかけた。

「あ、おい、裕!?」

 どこか慌てた様子で杏子が声をかけてくるが、今は無視して子供に話しかける。

「お母さんと……はぐれちゃった……」

「そっか。それは大変だ。なら一緒に探そうか?」

「お母さん……うわあああん……」

 また泣き出してしまった。どうやって落ち着かせようか考えていたが、そこに杏子が割り込んできた。

「おい、坊主! お前男だろ! 親とはぐれたくらいで泣くんじゃねえ! 人間は一人が当たり前なんだ。他人に頼って生きるな! 甘えるな! いつまでも誰かがそばにいてくれるなんて勘違いしてんじゃねぇ!」

 ……すごい説教だ。けど、その半分も理解してないだろう。子供もびっくりしてるし。きっと彼女も彼女なりにこの子のことを助けてあげたいんだろう。

 確かに人間は何もしなければ、いつかは一人になってしまう。親もいつまでもそばにいてくれるわけではないのだ。杏子はそのことを教えて簡単に泣かないような強い子にしてあげようとしているのだろう。残念なのはその意図がこの子に半分も伝わっていないことなのだが。

「……これ、やるから」

 そう言って持っていた菓子を子供に渡してきた。いきなり目の前に差し出された物を前にして子供は戸惑った表情を杏子に向けていた。

「菓子だ。きらいなのか?」

「ううん、好き……」

「じゃあ、これやるから。もう泣き止め」

「あ……うん!」

 杏子から菓子を受け取り、ようやく子供は泣き止んだ。よし、次は俺の番だな。

「じゃあ、一緒にお母さんを探すか。どの辺りではぐれたか、分かるか?」

「えっと、あっち」

 子供が指指した先は風見野のショッピングモールだ。それなら簡単だ。迷子センターへ行って放送で母親を呼んでもらえばいい。結果、三十分もしないで母親に会わせることができた。俺と杏子はしきりに頭を下げられた。杏子はぶっきらぼうだっだが、小さい子の扱いがなんだか手慣れているような印象を受けた。もしかしたら下の方の家族がいるのかもしれない。それゆえ待っている間は、子供は杏子の方になついていたのが少しさみしかった。

 

 

 

 

 

 俺達は今ショッピングモールの近くにあるベンチに座っていた。

「一件落着だな」

「ふん、時間を無駄にしたよ」

 俺が満足げな表情をしている反面、杏子はなんだか不機嫌そうだ。けど、俺はもう、なんとなくだが分かってきた。この子は基本的に優しい性格なのだ。冷たい人間なら、さっきの子供に何かをしてやるということはしないはずなのだ。過去になにがあったかは知らないけど、その根っこの部分はきっと変わってないと思う。

「なんだかんだで、お前も結構面倒みてたじゃん」

「お前が余計なことしなけりゃ、こんなことにはならなかったっつうの」

「きっかけはなんであれ、お前もあの子を助けてあげたっていう事実は消えないぜ?」

「うるせえよ」

 そっぽを向かれてしまった。けど、俺はまだ言っておきたいことがあった。

「お前の言う通り、いつも誰かがそばにいてくれるわけじゃないさ。でもさ、さっきみたいに手をさしのべようとするのは、きっと間違いじゃないと思う」

「はん、おめでたい上に甘ちゃんなんだな、お前は。あたしの見込み違いだったかな」

 そう言って杏子はベンチを立つ。話はこれで終わりと言いたいようだ。

「じゃあ、またなー杏子」

「もう会うことはねえよ」

 杏子はそのまま行ってしまった。杏子は俺に失望した表情を浮かべていたが、俺はあまり気にはしなかった。

 明日も会いに行くか、と俺は心に決めた。

 




まどか達は薔薇園の魔女と闘ったところです。もう少しで合流です。  

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