「一人一人の魔法の使い方は分かった。だけどこれで終わりじゃない。むしろここからが本番なんだ」
一通りの練習を終えて今の俺の中身は空っぽだった。感覚でそれがよく分かる。
「そうね。今の洲道君は二つの魔法をその身に宿すことができるものね。次はそれぞれの魔法を組み合わせた合成魔法について考えるわよ」
「魔法少女達の力を全て使えるだけでなく、さらに組み合わせることもできるなんて……あなたは本当に規格外の存在なのね、裕一……」
感心したようにほむらは言う。だけどこの力は結局何なのかは謎のままだ。そのことで褒められても、俺としては複雑な気分だった。
「魔法が使える回数が他の魔法少女より極端に少ないっていうデメリットがあるけどな。今まではさやかとマミさんの一通りだったけど、今は杏子とほむらが加わったから合成魔法のバリエーションが大幅に増えた。一人一人を列挙して考えられる組み合わせを検証してみようぜ」
「まずはさやかの魔法だな。何よりこれが汎用性が高い。剣を使った闘い方は慣れてるし、怪我の治癒には何度もお世話になった。二つの内の一つは基本的にこれを入れて闘うだろうな」
「そうね。洲道君は魔法少女にある、魔力を使っての治療はできないからそれを常に入れておくべきだわ」
俺の言葉にマミさんも同意した。俺はテレパシーなど、魔法少女なら誰でもできることができない。だから怪我の治療ができるさやかの魔法は必要不可欠だ。
「じゃあまず最初に俺がよく使っていた合成魔法の例を見せるよ。マミさん、さやか」
「ええ、どうぞ」
「うん、じゃあはい」
二人の手を取る。その際に自分に流れ込む魔法の量を少しだけにしておいた。
『使い切らないと次の魔法を入れられない』というルールがある以上、それぞれの魔法を検証するなら自分に入れる量は少ない方がいい。
そうして入れた二人の魔法を具現化する。さやかの剣を三本出し、それをマミさんのリボンを球状にしてまとめることで完成する。杏子との闘いで作った爪だった。
「マミさんのリボンや、さやかちゃんの剣をそんな風に使って武器を作るんだね……!!」
その様子にまどかは心底感心したような声を出した。
ふふふ、この程度で驚いてはいけないぜ、まどか。
「こんな風にさやかの剣をマミさんのリボンでまとめることで一つの爪にすることもできるんだ。これで質量は三倍になってパワーも段違いだ」
「あたしも装備してみようとしたんだけど、重くて扱い辛かったんだよね……」
「つまりそれも裕の専用武器ってことか」
きっかけはさやかの剣が軽いな、と思ったことだった。俺は単純にさやかより力があるからもっと重い武器でも扱えたのだ。だけどさやかの剣はそれしか出せなかったから、代わりに何本も剣を指の間に挟んで闘ったらどうかと思ったが、しっかり固定できないことが問題になってしまった。
そこで強力な接着材料としてマミさんのリボンが採用された。彼女のリボンは自分の意志で球として物質化させたり、いくらでも伸ばしたり、弾力性を持たせたりなど、色々と使い道を変えることができる。
そうしてできたのがこの爪というわけだ。そしてこの武器はこれだけでは終わらない。
「これは近接用の武器だけじゃないんだ。見てろよ……」
そして俺は川の方に向かってその爪を投擲した。次の瞬間、球を構成していたリボンがはじけ飛び、その勢いで剣が三本飛散した。さらに次の瞬間それらの剣が爆発した。
「私のリボンは自分の意志でその状態を自由に変えられるのよ。だからああいう風に爪をまた剣に戻すことができるというわけよ」
「それからあたしは、自分の剣を爆発させることもできるみたいなんだよ。まあ、それが分かったのは裕一とマミさんだけの修行の時だったみたいで、あたしはそれを聞いただけだったんだけどね。それから大量に剣を飛ばすこともできるから、それらを爆発させれば、マミさんのように大量の敵を倒すこともできるんだよ」
自分の魔法について二人はそれぞれ説明してくれた。二人の魔法の特性を利用してできたのが、この投擲による二段攻撃だ。この攻撃の怖さを知っているのは、他でもない杏子だろう。
他にもマミさんのリボンを弾力性のあるものに変えて、弓型にして、さやかの剣を弓矢にした簡単な罠も作ってみた。俺自身でも剣を飛ばすことができるが、その場合は一方向にしか飛ばせない。しかしこれなら至る方向から剣を飛ばすことができるのだ。
そして杏子の槍を使った近接戦でもさやかの治癒の魔法は必須だ。この二つを使えば近接戦のスペシャリストになれるのだ。
さらにほむらの倍速魔法を使うのなら、振り戻しのダメージを無くすためにもやはり治癒によるバックアップがほしくなる。
まさしく全ての魔法に適した万能型の魔法と言えるのだ。
「次に汎用性があるのはマミさんの魔法だ。銃による遠距離攻撃、リボンによる拘束術、攻撃にもサポートにも適している、これまたお世話になったものだ」
最初はリボンの制御が困難だったが、今ではようやくまともに操ることができるようになった。
大変だったなぁ……いや、ほんとに……
「マミさんは基本的に遠距離タイプだけど、近接用の魔法もセットにすれば、さらに遠近両方に適した闘い方もできるようになる。例えばマミさんのリボンで縛った相手をさやかの剣でボコったりすることもできる」
「例えがどうかと思うけど……リボンの性質は色々変えられるから随所で使える場面がきっとあるはずよ。さっきの爪や罠なんかがその例ね」
長いロープというものは、周りには案外ないものである。だからいざという時のための救助活動も可能となるのだ。俺は見ていなかったが、以前マミさんはそのリボンを船のような形にすることでビルから飛び降りたOLを救ったこともあるそうだ。
「さっきも言ったように他の魔法少女の武器をまとめたりして新たな武器を作ることもできる。爪なんかもそうだし、他にはな……」
俺は杏子の槍を二本出して、マミさんのリボンでそれらを十字型に固定する。
それによってできあがったのは……
「こうしてはさみができる。あいてっ」
それを見せると杏子に槍の棒の部分で叩かれてしまった。
「あたしの槍で遊ぶな」
「違う違う。実際こうやって槍の刃の部分を使うことで、はさみみたいに切断することもできるだろ。ちゃんと武器にだってなる。他にも色々と使えるかもしれない武器があるかもしれないな」
それを使う時が来るかは今は分からないが。
「それから、そのリボンを変形して作ったマミさんの武器がこのマスケット銃だ。装填できるのは一回だけだけど、自分の周りに何丁も出して面制圧も可能になることが最大の強みだ」
病院の結界の時の闘いや修行で見せてもらったが、マミさんはマスケット銃と体術のコンビネーションが抜群に上手い。複数のマスケット銃を周囲に出し、回転しながら周りから襲ってくる敵を両手に持った銃を鈍器代わりにして殴り倒したり、蹴ったりして距離を離し、そこから銃の弾を発射してとどめをさす。それらの判断を彼女は一瞬で行ってそして実行してしまうのだ。
俺も自分なりの体術を編み出そうとしているが、中々思ったようにはいかないのが現状だった。
「実際本気になったマミはこの中で一番強いと思う。時間停止なんかも使われる前に相手を縛り上げちまえばいい話だからな」
まあ、ほむらもマミさんに二回も縛られてしまったからな。相手の対応策さえ分かってしまえば、莫大な経験を持つマミさんなら負けることはまずないだろう。最も、経験を積んでいるのはほむらも同じだから、三回目になってからは縛られる前に逃げていったようだが。
「あんたもマミさんにやられそうになってたもんねー杏子」
「う、うるさい!! さやかなんかあたしの足もとにも及ばねえだろうが!!」
「なんだとー!?」
いつの間にか杏子とさやかが喧嘩する事態になってしまった。その光景はほほ笑ましくもあるけど、ちょっと大人げないようにも見える。なるほど、周りからは俺とさやかもこんな風に見えてたんだな。俺もちょっと反省しないと駄目かな。
俺は即座にマミさんのリボンで二人を縛り上げた。
「と、まあ、今ではこんな感じで相手を縛ることも容易になりましたよ、マミさん」
「ええ、今までよく頑張ったわね。今度は他の魔法とのコンビネーションも頑張っていってね」
「はいっ!!」
「ううーーーっっ!!! むうーーーっっ!!! (裕ーーーっっ!!! てめーーーっっ!!!)」
「ううむうーーーっっ!!! うむううむーーーっっ!!! (裕一ーーーっっ!!! ほどいてよーーーっっ!!!)」
両手両足を縛られ、さらに猿轡をされた二人を背にして俺はさらなる修行を決意したのだった。
「次は杏子の魔法だ。一応槍の連結解除で遠くから攻撃もできるけど、やっぱりメインは近接戦闘だな。幻影の魔法も不意打ちに使うものだしな」
二人を解放した後、彼女達は当然文句を言ってきたが、マミさんに助けてもらった。彼女の極上の笑みには誰も逆らうことはできないようだ。
「けどあたしの魔法と別のやつとの魔法のコンビネーションか……そんなこと考えたこともなかったから、すぐには思いつかねえなぁ……」
「まあ、選択肢は実は限られているんだよな……まずほむらとの魔法の組み合わせは今の段階ではない。槍と楯の組み合わせは思いつかないし、幻影と時間操作の魔法の組み合わせも今の所、時間を止めた後に分身を置いておくくらいしか思い浮かばないんだよな。杏子の魔法は近接タイプだからさやかの魔法をセットに闘うのが基本だよ」
近接戦をメインにするのなら、自分がダメージを受けることも覚悟しないといけない。そう言ったダメージをなくすためにもさやかの魔法はやはりあった方がいい。
「もしもマミさんの魔法をセットにするのなら……今の所はこんなコンビネーションがあるかもな」
とりあえず実戦でやってみせよう。俺は杏子とマミさんの魔法を宿してリボンで頑丈な的を作った。
それを上空に飛ばし、さらに上の所に銃を出現させた。そこから銃の弾幕が降り注ぎ、それらが全て的にぶち当たる。それによって落下してくる的に、俺は手に持つ槍に力をこめて思いっきり突き刺した。
その瞬間銃の弾幕と槍の魔力がぶつかり合い、その間にあった的は一瞬にして消滅した。
「こんな感じで二つの力のサンドイッチだ。これは多分今までの合成魔法の中で最強の威力を持つな」
「へえ……また変わった攻撃方法を考え付くな、お前は」
杏子の槍は一撃の威力が高いから、最後のとどめ用に使うことが多いだろう。他の魔法はそのためのサポートとして運用するために使うべきだな。
「最後はほむらの魔法だけど……これはあまり組み合わせが存在しない。というより、倍速魔法を使うなら、さやかの魔法を一緒にしないと駄目だからな」
「暁美さんの魔法は洲道君のデメリットの影響を一番受けるものだものね……」
もう少し……俺が三つ以上の魔法を使うことができればまた活用方法があるんだけどな……
まあ、ないものねだりしてもしょうがない。それは今後の修行に期待するか。
「でも、暁美さんの魔法を使うことでできることがあることも事実よ。さっきも言った、物資の受け渡しとかもそうね。それに倍速魔法はこれからの闘いにおいてかなり有効に使えるはずよ」
「そうですね。後は有効な攻撃手段を学ぶだけですね」
一応ほむらの近代兵器の扱い方も学んでおこう。もっと有効な攻撃手段はいくらでもあるのだが、攻撃手段は多いほどいい。手札の多さが俺の武器なのだから。
「後、ほむらの武器とさやかの武器でこんなものも作れますよ」
今度はさやかとほむらの魔法を身体に宿して、さやかの剣六本と、ほむらの楯を取り出した。そしてほむらの楯の収納空間にさやかの剣の柄の部分だけを入れた。それを等間隔に刺し込むことで完成だ。
「私の楯に美樹さんの剣を刺し込んでどうするというの?」
「まあ、ちょっと見てろよ。……ふんっ!!」
俺はそうしてできた楯を川に向けて投げた。そして遠くまで飛んだ時に、楯から全ての剣が射出された。そしてそれらの剣が全て爆発した。
俺はそこからほむらの楯を呼び戻して左手に装着した。
「こんなところだな。ほむらも収納空間に入れた武器をこんな風に狙った所に落とせるんじゃないか?」
「なるほど……そんな使い方をする人なんて今まで見たことがなかったわ」
「褒め言葉と受け取っておくよ」
とりあえず今の所は二つの魔法しか使えないから、ほむらの魔法を使うのならタイミングを間違えないようにしないといけない。大事な所の前に使い切ってしまったら目も当てられない。
ちなみにマミさんの魔法とセットにしてみると、思った通り時間停止中は銃の弾は発射された瞬間に止まってしまっていた。やはり遠距離攻撃は不可能であるようだ。
しかしもう一つ面白いことが分かった。それは時間停止中に遠くからマミさんのリボンで触れると、触れられた相手の時間が動きだしたことだ。
「へえ……ほむらの魔法を使った人間と何かで繋がっていたら、時間が止まることがないのか。これなら遠くからでも時間停止の援護ができるわけだよな」
おそらく時間停止の魔法を使った人からリボンを通して電気のようにその波長が伝わっていったんじゃないだろうか?
詳しい原理は分からないけど、これも使える武器の一つだ。留意しておこう。
とりあえず今の所考えられるのはこんな所だ。
彼女達は一応全ての攻撃ができるが、四人の魔法少女で分類を分けるとするのなら、マミさんとほむらは遠距離タイプ、さやかと杏子が近接タイプだ。そして俺はどちらかと言えば近接タイプの方が合っていると思う。
アイツとの闘いにおいて、俺達が常に固まって闘うということは考え辛い。おそらくバラバラになって闘う場面も出てくるはずだ。その時はきっとこの二組に分かれることが多くなるはずだ。それはつまり、さやかと杏子の魔法を多く使う場面が多いということと同義だ。
それから俺は主にさやかと杏子の魔法を使った闘い方をメインにして修行を始めた。
さやかは戦闘技術のさらなる向上、杏子はそれに付き合う形だ。
マミさんとほむらはアイツと闘うための作戦を考えている。
まどかは疲れた時に飲み物やタオルをくれたりしてサポートに回っている。時折、新しい武器についての案をくれたりもする。
「それにしても、こうして見ると皆の武器はバラバラだよな。さやかの武器は剣、マミさんの武器はリボンに銃、杏子の武器は槍、そしてほむらは近代兵器か……」
「なんか転校生……ううん、ほむらの武器だけが浮いている感じだよね」
「……仕方ないじゃない。私の魔法には攻撃用の手段がなかったんだから」
俺とさやかがそう感想を漏らすと、ほむらはちょっとすねたような声を出した。だけど考えてみると歴代の魔法少女だって攻撃用の魔法を持たない人もいたはずだ。そういう人はきっとその時代にあった武器を手に取って闘っていたんだろう。そう考えれば、今のほむらはまさしく現代を表わした魔法少女と言えるのかもしれないな。
「そ、そんなことないよ、ほむらちゃん! ほむらちゃんの武器だって格好いいと思うよ!」
「ありがとう、まどか……あなたがそう言ってくれるなら、私はもう何も気にしないわ」
あらら、まどかの言葉でほむらは完全復活しちゃったよ。こいつは本当にまどかが好きなんだろうな。友達だと言ってくれたことがそれに拍車をかけているのかもしれないな。
「そうだ、ほむらちゃん。以前の世界にいた『私』って魔法少女だとどんな武器を使っていたの?」
「『まどか』は……弓を武器に使っていたわ」
「へえ、まどかは弓か。またどれもかぶらない武器が出てきたな」
それにしても魔法少女であるまどかの衣装って一体どんなものなんだろうな? もう見ることはできないから、想像してみるしかないか。見てろよ、俺のイマジネーションの力を……!!
(どんなものかな……まどかの衣装だったら、やっぱり桃色をメインにした可愛らしいものかな?)
「まどかは主に遠距離タイプだったけど、一つだけ近接の技があったわ。それは自分の服に大量の空気を集めて風船のように膨らませて、そしてスカートから噴出された空気によって推進力を得て相手に体当たりしていく技だったのよ。その技名が『パニエロケット』だったわ……」
「わ、『私』ってそんな一昔前のコントでありそうな技を使ってたの!?」
(けど待てよ……今まで見た魔法少女って皆どこか開放的と言うか、スカートとかが結構短かったりするよな。うちの学校の制服のスカートも短いし、あそこでは何故か一昔前にあったブルマを体操着に使っていたりするしな……)
「あっははははは!!! いやー、さすがまどかだね!! マミさんとの魔女退治見学ツアーの時に持ってきたものが魔法少女の衣装を書いたノートだったり、本当にあんたはあたし達の予想を遥かに超えているよ!!」
「ひ、ひどいよ~さやかちゃん……それを考えたのは私じゃないのに……」
(そんな学校の生徒だから、まどかも性に対して開放的な所があるんじゃないかな? 純情そうなまどかだけど、実は結構耳年増だったりするからな。そんなまどかの心を表わした魔法少女の衣装……うおおおおっっ!!? やばい、なんかみなぎってきたぞ!?)
「でも鹿目さんの技のネーミングセンスもまだまだねぇ……パニエロケットなんてそのままじゃない」
「お前の突っ込む所はそこかよ、マミ……まったく、マミの名付け癖には困ったものだよな、裕? ……おい裕、聞いてんのか?」
「ふふ、ふふふ……何やってんだよ、まどか。なんてあられもない格好しているんだよ? そんな格好をしても俺が喜ぶだけじゃないかよ……」
「………………………………………………おい、裕」
「なんだよ、今俺は忙しい……はっ!!!!?」
素晴らしき思考の海に漂っていた所で突如現実に引き戻されたことで、若干不機嫌な声を出して俺は振り向いた。その先には……可愛らしい少女の姿をした悪魔がいた。
「随分愉快な妄想に浸っているじゃないか、え?」
「も、妄想だなんてそんなことは……」
やめて、槍を持ったままでこっちに来ないで。すでにちょっと俺の身体に当たってるから。
「ほんっとうに、お前はどこまでもあたしをイラつかせる天才だよ……楽しいのか? あたしを怒らせてお前は楽しいのか? あん?」
「そ、そんなことはないから!! お前は笑っている方がずっと可愛いから!! 俺はそっちの方がずっとずっと好きだからさ!?」
「か、かわっ!?」
とっさにそう言うと杏子は顔を真っ赤にして一瞬放っていた殺気がなくなった。おお、これはもしかしておしおきを回避するチャンスなんじゃないのか!?
「か、可愛いってそんな……そんな調子のいいこと言ったって……う、嬉しくなんてないんだからな!」
真っ赤な顔のままで杏子は反論してくる。なんか可愛いけど、槍を持ったまま手をあたふたさせるのはやめてほしい。
怖いけど負けるな、洲道裕一!! 『口撃』の手を緩めるな!!
「今のは紛れもない俺の本心だ!! お前は今まで会った女子の中で文句なしの美少女だ!! お前のその性格とか、身体つきとかもすごく魅力的だと思っているんだ!! 俺はこういう所で嘘を吐いたことはないんだよ!!!」
「はうっ!!?」
妙に可愛らしい悲鳴を上げた杏子はそのまま胸を押さえて後ろに下がってしまった。
や、やった……!! 俺はおしおきを回避できたんだ!!
「お、お前ってあたしをそんな風に見ていたのか……」
そう声を漏らすと杏子は口元に手を当てて、もう片方の手でスカートの裾を押さえていた。そうやっているとどうしても視線がその手の位置にある、短いスカートとオーバーニーソックスと、その間にある太ももとかに行ってしまう。さらにそうやってもじもじと恥じらう姿がなんだかものすごく可愛く見えて、心臓がどくどくと鳴っていた。
ま、まあ、これで万事解決だな。よかったよかった。
「ああ、そうだよ。お前もマミさん達と同じように魅力的なやつなんだから、もう怒ったりはしちゃ駄目だからな?」
「……………………………………………………………………ふーん、そういう意味か」
……ありゃ? 今まで真っ赤な顔をしていた杏子がいきなり素に戻っているぞ? そしてさっきの怒りもまた戻って……ってさらに増大している!? 1000……5000……バカな、まだ上がるだと!?
「あ、あのー杏子さん? どうしてまた怒っているでしょうか……?」
「愚かなお前に教えてやるよ……あたしが怒っていたのはな、お前がすけべってだけじゃなかったんだよ。……今はむしろ、こっちが主な理由だ」
「そ、それは一体……?」
もう回避することはできない。最後に俺はその理由だけでも教えてほしかった。
「あたしが怒っていたのはな……
お前のその節操のなさだああぁぁぁーーーーーっっっ!!!!!!」
「ひぎゃああああぁぁぁぁーーーーーーっっっ!!!!!?」
つまり、最後の一言が余計だったってことか……
俺って……ほんとバカ。
「うわー、また念入りにおしおきされてるね。杏子がいれば裕一のストッパーになると思ってたけど、これってどうなんだろ?」
「もう、洲道君ったら……女の子の気持ちをちゃんと理解してあげないと駄目じゃない」
「だ、大丈夫かな、洲道君……ピクリとも動いていないんだけど……」
「まどか、近づいては駄目よ。あなたが近くにいると裕一は獣のごとくあなたを襲うに決まっているわ」
ぼろ雑巾のように倒れている裕一と仁王立ちしている杏子の姿を見た四人の感想がそれだった。しかし様々な感情があれど、四人には共通した思いがあった。
『自業自得』、と……
「佐倉さん、次は魔女探しに出かけるわよ。終わったらまた皆で私の家でご飯にしましょう?」
「……ああ、そうするよ。……裕の、ばか」
マミの言葉に杏子は頷き、マミとまどかはその旨を裕一の携帯にメールで打っておいた。
そして五人の少女は修行場を後にした。
一人の少年を残したまま――――
おしおきフラグからはにげられない!! どう頑張ってもフラグを回収してしまう裕一でした。
さて、裕一の力とは魔法少女の力のコピー。ジョブで言うのなら、『ものまね士』です。
色々と魔法少女の力の組み合わせを列挙してみましたが、もしも他に案があるという方がおりましたら、感想かなにかで教えていただけるとありがたいです。できるならそういった案もワルプルギスの夜戦で使ってみようと思っています。
それでは。