魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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時間を見つけて少しずつ書いていったら、いつの間にかかなり長い文章になっていました。


一人じゃない

 歯車が回っている……

 その動きと共にソイツも動く……

 

 毎度のこととはいえ、今日ばかりは会いたくなかった。いや、できるなら一生夢でも現実でも会いたくはなかった。でもアイツはそんなことはお構いなしだ。アイツはその欲望のままに、俺の世界を破壊し続けるのだ。

 

(ワルプルギスの夜……)

 

 逆さまになっている目の前の存在を睨みつける。コイツも、もとはただの少女だった。それは同情できることだけど、それでも俺はコイツだけは受け入れることはできないと悟った。

 

(たとえ俺以外の存在がオマエを求めようとも、やっぱり俺自身はオマエのことは大嫌いだ)

 

 無意識に伸ばそうとする手を、俺は無理矢理握って、指を一本立ててアイツに突きつける。異質な心臓の鼓動を抑えて、自分の鼓動を取り戻そうとする。

 

(待ってろよ、ワルプルギスの夜。俺達は必ず乗り越えてみせる。この最悪の現実を、魔法少女の真実を)

 

 それは宣言だ。俺は諦めることだけはしない。オマエが俺の『日常』を壊すのなら、オマエは俺の敵だ。逃げられないなら、いくらでも闘ってやるよ。

 

(俺達は全てを乗り越えて、そして必ず……)

 

 ――――オマエを、倒す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 目が覚めた。気分は最悪。昨日の疲れは完全に取れてないし、多くの辛い現実を知ってしまった。さらにさっきのアイツの夢という三連コンボだ。気分が良くなるわけがない。

 

 だけど沈んでいるわけにもいかない。これから俺はマミさん達に重大な話をしなければならないのだ。今日は修行をするということで、朝からマミさんの家に集合しなければならない。俺は携帯で皆に大切な話があるから、参加してほしいとまどかにメールを打っておいた。返信はすぐに来て、了解の旨を受け取った。そのことをマミさん達にも連絡しておいた。

 

 さあ、行こう。

 

 

 

 

 

 

 マミさんが住むマンションの前に着いたら、そこには気まずそうにしている杏子の姿があった。どうしたのか気になったが、とりあえず声をかけることにした。

 

「おっす、おはよう、杏子」

 

「うわあっ!?」

 

 その瞬間、杏子はびくりと反応して後ずさってしまった。そこまでの拒絶反応に俺は結構落ち込んでしまった。俺はそんなに杏子に嫌われてしまったのか……

 

「ゆ、裕!! いきなり脅かすな!!」

 

「普通に声をかけただけでそれなら、俺はどうすればいいんだよ?」

 

「うー……あー……そ、それは……」

 

 そう言って杏子は顔を真っ赤にしてしまっていた。な、なんだろうか、今の杏子は……?

 

 

 

 

 

 

 

 昨日裕一と別れた後、杏子はホテルに戻って今日一日のことを思い返していた。やがて憔悴していた気分ももとに戻った頃になったら……

 

「あたしはあの後何言ってたんだああああぁぁぁぁーーーーっっっ!!!!?」

 

 途端に今までの行動が恥ずかしくなってしまったのだった。

 

「うにゃあああああああぁぁぁーーーーーーっっ!!!!」 

 

 そしてしばらくゴロゴロとベッドの上で転がり続けていた。

 

 

 

 

「うー……」

 

 少し時間がたった後、杏子は若干冷静さを取り戻していた。枕を胸に抱いた状態で自分のしたことをもう一度思い返していた。

 

(あたしは何やってんだよ……手をつなぐどころか、まどかにセクハラをかまそうとしていたあいつに、なんでモモみたいに甘えてんだ……そこはあいつの腹に拳を叩き込むところじゃねえか……)

 

 考える度に杏子の顔は真っ赤になり、頭がオーバーヒートしそうだった。その度に杏子は全て裕一が悪いと結論付けて落ち着こうとしていた。

 

 

 

 

 あの時杏子は全てを投げだそうとしていた。自分のたった一つの救いだと思っていたさやかが、最後に自分と決定的な違いを見せつけられてしまって、その違いに耐えきれなくなってしまった。

 その時に自分が全く違う存在に変わっていることに気付いた杏子は、そんな自分が怖くなった。そして自分をそんな風にした彼に対して怒りを覚えた。

 

(だけどあいつは……それでもあたしからいなくなろうとしないで、そして自棄になっていたあたしを負かしちまった)

 

 あの時は冷静ではなかったとはいえ、杏子は本気で闘っていた。それでも裕一は自分の持てる全てを出し尽くして杏子の上を行った。

 

(そして最後にあたしはあいつに『ありがとう』って言った……)

 

 その時の自分はまともな心境ではなかったが、その言葉は自分の偽らざる気持ちだった。

 確かに自分がこうなった原因は裕一にもあるかもしれないが、実際に彼はさやかを救い、そして自棄になっていた自分も止めてくれたのだ。今はどうしても彼に怒りを抱くことはできなかった。

 

 ぽすっと身体をそのままベッドに倒して、最後に一言だけ呟いた。

 もう彼にぶつけるわけにはいかなくなった怒りを自分にぶつけるために。

 あんな情けない姿を曝した自分を戒めるために。

 

「あたしの、ばか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着け……落ち着くんだ、あたし……」

 

「きょ、杏子……?」

 

 なんかぶつぶつと杏子が何かを呟いている。正直見ていて怖いよ。今は杏子を抜きにするべきなのかな……?

 

 そんなことを考えている時だった。

 

「裕っ!!」

 

「は、はいっ!?」

 

 いきなり杏子に大声で呼ばれて驚いてしまった。

 というより、外で俺達はなにをやってるんだろうか……?

 

「忘れろ!!」

 

「へ……?」

 

「き、昨日のことは忘れろ!! 昨日さやかが助かって、その後マミの家で飯を食った!! それで全部だ!! 今はそういうことにしろ!! いいなっ!!?」

 

 こ、こいつ、なかったことにする気か……!! 

 そんなに昨日の自分が嫌だったのか? 俺は別にああいう杏子もいいと思うんだけどなぁ……

 

 だけど今ここでそれを言うのは絶対にまずい。今の杏子を下手に弄るとどうなるか全く分からない。怒って殴りかかるならまだいいけど、泣かれたらどうしたらいいのかものすごく困る。

 

(涙は女の武器だなんて、昔の人は上手いことを言ったものだよなぁ……)

 

「分かった分かった。忘れるから落ち着いてくれ。俺達はさやかを助けて、その後マミさんの家で飯を食いました。そしてその後俺達は何事もなく帰りました。OK?」

 

「お、おう、それでいいんだよ……」

 

 俺の言葉にようやく杏子が落ち着いてくれたようだ。まったく、空気をしっかりと呼んだ俺を誰か褒めてほしいものだ。まあ、この事情を知っている人は他にはいないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの調子を取り戻そうとして、杏子はこほんっと咳払いをして俺に話しかけた。

 

「それで、一体どうしたんだよ、裕? 今日からワルプルギスの夜と闘うための修行をするっていうのに、お前から大事な話があるってマミから連絡が来たんだけど……」

 

「ああ、そうだ。これはこれから先闘うために知っておくべきだと思うからな。不意打ちで知るよりはずっといいって思ったしな……」

 

 暁美から聞いた魔女化の事実。それは今までの闘いで抱いてきた想いを根底から覆してしまうものだ。それをマミさん達に話すのがどれだけ酷なのか、俺には想像もつかない。

 だけど逃げるわけにはいかないんだ。逃げた所で事実が変わるわけでもない。

 逃げられないなら闘うしかない。俺にできることは皆が突発的に何かしようとした時に全力で止めることだ。俺も命がけで彼女達に立ち向かう。それしかないんだ。

 

「おい、裕……お前、震えてるぞ……?」

 

 杏子に言われてようやく気付いた。俺はいつの間にか震えていた。それはきっと、今日の話し合いに失敗したら、下手したら皆を失うことになるからだと自覚しているからなのだろう。

 

「杏子……この後話すことはお前ら魔法少女にとって、すごく辛い話になるんだ。だけど、それでも俺は皆が知っておくべきだと思うんだよ。これから先、俺達が生きていくために」

 

「…………」

 

 暁美の見てきた『巴マミ』達が受け入れられなかったとしても、俺はそれでも今ここにいるマミさん達なら受け入れてくれると信じている。それは今までの彼女の姿を見てきたからこそ言えることだった。魔法少女じゃない俺がそこまで偉そうに言えることか分からないけど……

 

 

 

 その時だった。ふと、杏子がおもむろに俺の手を取ってきた。目をつむり、その手を両手に包みこみ、両手を胸の前に持ってきた。その姿はまるで、十字架を握り、祈りを捧げる聖女のようだった。

 

(そっか……杏子は神父の娘だもんな……)

 

 たとえ辛い過去があったとしても、それでもその想い出を大切にしてきたという証が今の姿に現れているような気がして、それがなんだかすごく嬉しかった。

 

「お前の好きにしたらいいさ、裕」

 

「え……?」

 

 不意に、そんなことを言ってくれた。全てを許されたような、そんな気持ちになった。

 

「お前は確かにばかですけべだけど、それでもお前は自分ができることをしようとして、マミやさやかを助けてきたじゃんか。お前が誰かを助けたいと思う気持ちは本物だって、あたしが一番よく分かってるからさ……」

 

「杏子……」

 

「大丈夫だよ。きっと今回も上手くいくから。あたしもしっかりと受け止めてみせるからさ。だから……」

 

 そして目を開いて、屈託のない笑顔を俺に見せてくれた。

 

「あたしに勝ったやつが、そんな情けない顔してんじゃねーよ」

 

「っ……」

 

 ……ったく、好き勝手言いやがって。あーあ、そんなこと言われたら、もううだうだ言えなくなるじゃないかよ。俺の想いを貫き通すしかなくなっちゃうじゃないか。

 

 本当に……最高だよ、お前はさ。

 

 

 

「言われるまでもないっての。ならとっとと行くぞ、杏子。早いとこ片づけてワルプルギスの夜との闘いへの準備だ」

 

「ああ、分かってるさ。その辛い現実ってやつ、乗り越えてやろうぜ、裕」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マミさんの家に入った時にはすでに皆が集まっていて、俺と杏子待ちだったようだ。

 

「それで洲道君。一体どうしたのかしら? 鹿目さんも呼んで皆に話したことがあるって言っていたけど……」

 

 マミさんが皆を代表して聞いてくる。他の皆も一体何事なのかと戸惑っているようだ。

 俺は一度深呼吸をして話を始めた。

 

「実は、魔法少女と魔女のことについて新しい事実が分かったんです。これは間違いないことだと断言することができます」

 

「新しい事実……?」

 

「はい。マミさん、俺は以前聞きましたね? 魔女は一体どこからやって来るものなのか、と」

 

「ええ……もしかして、それが新しい事実なの?」

 

 俺は頷きで返した。まずは少しずつ話して行くべきだ。いきなり答えを言うよりは、マミさん達に考える時間を与えた方が受け入れやすくなるはずだ。

 まずはマミさんからもらった情報について整理することにした。

 

「マミさんが以前キュゥべえに聞いた時に、あいつはこの世界の言葉で言うならこの呼び名が最もふさわしいと言っていたそうですね。その言葉の意味を考えてみると、それはきっと魔女という存在は、魔法少女とは別のプロセスから生まれた女性であるからだという結論が出たんです。そしてその考えは……完全に当たっていました」

 

「そ、そんな……魔女が、私達と同じ人間だったなんて……」

 

 マミさんはショックを隠せないようだった。まどかとさやかも同様だった。杏子だけは、腕を組んで冷静になろうとしていた。動揺はあるだろうけど、それでも俺との約束を守ろうとしてくれていることがありがたかった。

 次に、さやかを見て分かった事実についてだ。

 

「そしてもう一つ、魔法少女の持つソウルジェムなんですが……皆も知っての通り、それは魔法少女の魂そのものです。これは単に魔力を消費しただけで穢れが発生するわけではないんです。様々な負の感情を胸に抱いたら、それだけで穢れが発生するんです。実際にそんなに魔力を使っていないのに、穢れが急速に溜まっていくのは確認しました。そうだよな、さやか?」

 

「う……うん。確かに今までのペースを考えると、あたしはもっと魔法を使えたはずなんだけど、昨日杏子と会った時にはもうほとんど使えなくなっていたんだよ。あの時は精神的に駄目だったから、間違いないと思う……」

 

 さやかもおずおずと同意した。

 あの時のさやかは一回の魔女との闘いと、数回における魔法の使用しか魔力を消費していない。それなのに急速に穢れが溜まるのはそういう理由しか考えられないんだ。

 というより、実際俺は杏子のソウルジェムが濁っていく所を確認している。最も、そのことは杏子に口止めされているから、この場で言うことはできないけど。

 

 魔女が同じ人間であったこと。ソウルジェムが負の感情で穢れを発生させてしまうこと。

 

 そして、もう一つ。

 

「そのソウルジェムは、早く穢れを取り除かないと取り返しのつかないことになる。暁美はそう言ってたんだよな、杏子?」

 

「……ああ、確かにそう言っていたよ。マミもその場にいたから間違いない」

 

 マミさんの方に視線を向けると、彼女も間違いないという意味で頷いてきた。見てみると、他の誰よりも顔を真っ青にしていた。ひょっとすると、彼女は気付きかけているのかもしれないな……

 

「洲道君は……ほむらちゃんの言っていた、取り返しのつかないことが何か分かったの……?」

 

「ああ、その通りだよ、まどか。……それが、ソウルジェムの持つ最後の秘密だ」

 

 いよいよ言う時が来た。皆がどんな反応をするかは分からない。だけど俺はどんなことがあっても皆を止めてみせる。

 

 全てはここから始めるために。そして、俺を信じてくれた杏子に報いるために。

 

 

 

 

「穢れを溜めこみすぎたソウルジェムは、砕け散ってそこからグリーフシードが生まれるんです。

 そう、魔女の正体は……絶望に堕ちてしまった、魔法少女だったんです……」

 

 

 

 

 ……後には沈黙だけが残った。皆がどんな気持ちなのか、俺には分からなかった。きっと色んな感情がごちゃまぜになって混乱しているとは思うのだが、今はとにかく皆の言葉を待った。

 

 そして、最初に口を開いたのはマミさんだった。

 

「じゃあ、私もいつかはそうなるの? このソウルジェムが黒く濁りきった時に、私も絶望をまき散らす魔女になってしまうの? 皆の敵である、魔女に……」

 

 宝石として取り出したソウルジェムを手に持ってマミさんは俺に問う。嘘だと言ってほしい。そんな想いがその目に宿っていた。

 

 だけど、俺にはそんなことは言ってあげられなかった。

 

「……そう、です。あなた達魔法少女が絶望に負けてしまったら、魔女になってしまうんです。それが、ソウルジェムの最後の秘密、魔女の原点だったんです」

 

「あ、ああああぁぁぁ……」

 

 俺がさらに絶望に堕とす言葉を口にすると、マミさんは全てに裏切られたような顔をした。今まで闘って倒してきた魔女は、もとは希望を信じて闘っていた魔法少女だった。そして下手をすれば、自分もそうなってしまうことを知ってしまった。彼女の想いが、根底から崩れ去ってしまった。

 

「っ……!!」

 

 その時、マミさんがソウルジェムを床に置いた。そしてその手にマミさんがいつも使っていた銃が出現した。その銃が狙いを定めた先は……

 

(っ!!? まずい……!!!)

 

 マミさんが今何をしようとしていたのか、分かってしまった。それは暁美の話を聞いたから、あり得るかもしれないと考えたためなのだろう。駄目だ、それだけは絶対に駄目なんだ……!!!

 

「マミさんっっっ!!!!!」

 

 俺はマミさんに飛びかかった。ほとんど無意識だった。とっさに俺はマミさんの銃口に両手をかぶせた。

 

 

 

 その瞬間、部屋に炸裂音が響き、そして……

 

「あぐっ……!!!!?」

 

 両手に今まで感じたことのない激痛を感じた。今、俺は撃たれたのだ。誰かの悲鳴が聞こえる。両手に感じるということは、片方の手が撃ち抜かれて、もう片方の手の、あとほんの少しのところで弾が止まったのだろう。

 いや、そんなことはどうだっていい。今はとにかく、マミさんを止めるんだ……!!!

 

「ぎっ……ああがあああぁぁぁーーーーーっっっ!!!!!」

 

 獣のように吠えて、発射した銃を投げ捨ててマミさんに取り押さえようとした。そして両手を伸ばしてマミさんを両手を抑え込んで押し倒した。そして俺の中にあるさやかの魔法を発動させた。すると傷がみるみる塞がっていった。

 マミさんの方を見ると、彼女は泣きながら俺を必死にどかそうとしていた。

 

「離して……離してよっ!!」

 

「駄目に決まってるでしょうがっ!!」

 

 この手を離すわけにはいかない。俺は皆を死なせるために話したわけじゃないんだよ……!!!

 

「うっ……ぐすっ……そ、ソウルジェムが魔女を生むのなら……皆死ぬしかないじゃないっ!!!」

 

「っ……馬鹿を言うなっ!!!! 巴マミっっっ!!!!!!」

 

 マミさんが言った言葉に俺は瞬間的に頭が沸騰して、気がついたら自分のものとは思えないくらいの声を出していた。その声にマミさんはまるで怒られた子供のようにビクッと震えていた。

 死ぬしかないなんて、そんなことは絶対にあるわけがないんだよ……!!

 

「俺は皆を絶望に堕とすために言ったんじゃない!! この事実を受け入れてこれから先を生きていくために言ったんだ!!」

 

「生きて、いく……?」

 

「そうだよ!! 俺はあんたが生きるって言うまで、絶対にこの手は離さないからな!! 誰かがいなくなる結末なんて絶対に認めない!! 俺はそんなのは嫌だからな!! だから勝手に死のうとするなっっ!!!」

 

 俺は息を荒くしていた。痛みによる要因もあるが、何より頭を占めているのが怒りだった。

 だけど考えてみると、今の俺はまるで子供のようだ。駄目だ、これだけじゃまだ足りない。俺はマミさんの両手を抑えたまま深呼吸をした。

 

「……マミさん、少し俺の話を聞いて下さい。お願いです……」

 

「え、ええ……」

 

 よかった……少しだけマミさんの方も落ち着いたようだ。今なら俺の言葉がちゃんと届くかもしれない。

 子供のように喚き散らすだけじゃ駄目なんだ。それだけじゃ自分の想いをちゃんと伝えられないことだってあるんだ。

 

 伝えるんだ……俺の考えを、そして想いを――――

 

 

 

 

 

「……魔女は魔法少女が絶望に堕ちた姿です。それならなぜ、魔法少女が絶望に堕ちてしまうのか……色々原因はあると思いますが、俺は主な理由としては魔法少女が基本一人で闘わなければならないという、この現状だと思うんです」

 

「一人で闘う現状……?」

 

「そうです。魔法少女は最初は願いを叶えてもらって幸せな気分でいると思います。最初は誰かのために闘おうとすることを目標とするでしょう。……だけど、やがて今の現状に気が付きます。グリーフシードのために闘う者がほとんどで、そのために使い魔を見逃して、人を襲わせて魔女に成長させようとする魔法少女が多くいることを。さらに縄張りという概念があって、互いに競い合い、信頼関係なんて生まれるわけがないということを」

 

「…………」

 

 その言葉にマミさんは顔を曇らせた。それはきっとマミさんも通ってきた道のはずだ。そして実際にその生き方をしようとした杏子と別れてしまい、マミさんはまた孤独に闘い続けた。

 

「そしてその事情を理解してくれる人もほとんどいません。最初こそ人々のために闘う人もいたとしても、誰にも理解されないと心は摩耗していく。やがては、その目的を見失ってしまう」

 

 自分が闘ったとしても、誰もそれを理解してくれず、ねぎらってくれる人もいないんだ。それに耐えるには、心をすり減らして行くしかない。だけど、その度に心に穢れを溜めこんでしまう。そういう負の連鎖はどこまでも続くんだ。

 

「あなたもかつては一人でした。だけどマミさん、今のあなたはどうなんですか? 今のあなたは一人なんだって、言えるんですか?」

 

「あ……」

 

 マミさんも気付いてくれた。ここは特別なんだってことを。ここでなら、絶望に打ち勝つこともできるかもしれないということを。

 

「あなたにはこんなにも友達が、仲間がいるんですよ。そして恭介もマミさん達の闘いを知っていて、それを応援してくれているんですよ。それを忘れたとは言わせません」

 

「私のことを知ってくれている人がいる……」

 

「そうです。マミさん、あなたは一人じゃありません。そしてそれはつまり、あなたが勝手に死のうとしたら悲しむ人間がいるってことなんですよ。それは一人じゃない人間が負わなければならない責任なんです」

 

「……!!!」

 

 マミさんはハッとしたような顔になった。長く一人で闘っていたために、マミさんは忘れていたようだ。誰かがそばにいる人間は、その人のことを考えずにいなくなろうとすることは許されない。

 

 それは魔法少女としての責任じゃない。人としての責任なんだ。

 

 

 

 

 

 

「マミさん……」

 

 ふと、マミさんのそばに近づく人間がいた。それはさやかだった。

 

「美樹、さん……?」

 

「マミさん、いなくなったりしないで下さい……あたし達と一緒に絶望を乗り越えましょうよ……」

 

 泣きそうな声でさやかは言う。それでも確かな意志を持ってマミさんに手を差し伸べようとしていた。

 

「美樹さんは怖くないの……? 私達は絶望に負けてしまったら、魔女になってしまうのよ? もう、あなたの思い描いていた正義の魔法少女としてはいられないのよ……?」

 

「そう、ですね……あたしはもしかしたら魔女になっていたかもしれなかったんですよね……今ならそれがはっきりと分かります……」

 

 それは確かにさやかの言う通りだった。暁美の見てきた並行世界の『美樹さやか』は絶望に負けてしまって魔女になってしまっていた。それはあり得たかもしれないIFの話だ。

 

「でもあたしはそれでも……それでもこの町を守りたいんです!! 恭介達がいる、この町を!! それは正義でなくてもいい!! たとえ魔法少女が魔女になってしまうことを知っても、それは変わらないんです!! それは紛れもなく、ここに生きている美樹さやかの想いなんですよ!!」

 

「どうして、そんな風に言えるの……?」

 

「だって魔女になってしまうかもしれないからって死んでしまったら……あたし達を信じてくれている恭介になんて言えば分からないじゃないですか……!!」

 

 さやかは何度も俺達や自分自身から逃げようとしていた。だけど恭介はそんなさやかを受け入れた。そんな恭介に答えるためにさやかは強くなろうとしているんだ。

 

「皆で乗り越えましょうよ……あたし達なら、きっとそれができます。あたし達は一人じゃないんですから!!」

 

「美樹さん……」

 

 そしてさやかは今も強くなっているんだ。魔女化の現実を受け入れ、それを乗り越えようとしている。そして今、あの時とは逆に、マミさんに手を差し伸べようとしているんだ。

 

 

 

 

「お願いです、マミさん……」

 

 また一人、マミさんのそばに来る人がいた。まどかだ。まどかに至っては、もうすでに泣いていた。

 

「死ぬしかないなんて言わないで下さい……私はマミさんがいないなんて絶対に耐えられないんです……」

 

「鹿目さん……」

 

 暁美の話を聞いた以上、まどかを魔法少女にするわけにはいかない。だから同じ立場になって支えるということは、もうできない。だけどまどかは魔法少女じゃないとはいえ、今まで必死にマミさん達を支えようとしてきた。それは中沢や仁美達がたとえ事情を知らなくてもできることはあると教えてくれたからだ。

 魔法少女じゃなくても、闘う力がなくても、できることはある。それはまどかや恭介達が示してくれたことなんだ。

 

「勝手な言い方だと、わがままだとは理解しているつもりです……だけど、たとえ同じ立場でなくても、それでもマミさんと一緒に生きていきたいと思うのは駄目ですか……? 皆と一緒にマミさんのお菓子を食べたりして笑い合う日常を過ごしていきたいというのはいけないことなんですか……?」

 

「それ、は……」

 

 確かに魔法少女ではない人間が、辛い現実を知っても、それでも生きていけと言うのはわがままではあるのだろう。だけどそれでも俺達は生きていてほしいと願う。それはやっぱり俺達はマミさんといる、この『日常』が好きだからなんだ。

 

「私達は、マミさんのことが大好きなんです!! それは魔法少女や魔女のことは関係ない!! あなたがあなただからなんです!!!」

 

「あ、ああぁぁ……」

 

 まどかは最初こそ、自分に自信を持てずに自分は何もできないと思い込んでいたけど、今の彼女は自分にできることを探して、必死にそれを乗り越えようとしている。だからこそ、まどかも魔女化の現実に負けずにマミさんを支えようとしているんだ。

 

 

 

 

 

 

「マミ、裕の言いたいことは、もう十分分かっただろ?」

 

「佐倉さん……」

 

 最後にマミさんのそばに来たのは杏子だった。杏子はまどか達とは違って冷静に見えた。まるで、子供に優しく言い聞かせるような声だった。母親というのは、こういう存在なのかもしれない。

 そういう存在を知らない俺にとっては、その姿はひどく新鮮に見えた。

 

「今のお前はもう一人じゃない。たとえソウルジェムを無くしたとしても、それを取り戻してくれるやつらが、そして今もこうしてお前を支えようとしているやつらが目の前にいる。今のお前とは違って、この事実に負けずにお前に手を伸ばしているんだよ」

 

「…………」

 

「お前がこの事実に耐えられずに死ぬんならな……ここにいる三人が、いや……四人が悲しむことを忘れんなよ」

 

「っ……」

 

 ……本当に杏子はすごい。辛いのは杏子だって同じなのに、それをしっかりと受け止めて、今もマミさんを諭してくれている。俺はそんな彼女に敬意を抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

「マミさん、あなたは一人じゃないと俺は何度でも言います。その上で聞きます。本当にこのままでいいんですか?」

 

 これが最後だ。きっとマミさんは受け止めてくれるはずだ。たとえ別の世界にいる、良く似た存在である『巴マミ』がそうであっても、今俺の目の前にいる彼女はその人達とは違う存在なんだ。彼女の姿を見てきた俺だからこそ、受け止められると信じることができるんだ。

 

「洲道、君……私は……」

 

 マミさんはもう暴れようとはしなかった。その代わり身体が震えていることに気付いた。

 その震えが何であるかは、俺は分かってしまった。なぜなら、それは二度目だったからだ。

 

 次の瞬間、マミさんの瞳から大量の涙が溢れてきた。

 

「私は……今も、自分が怖いの……絶望に負けてしまったら、皆を苦しめる魔女になってしまうんだってことが……」

 

 ……それは彼女の偽らざる気持ちなのだろう。だからこそ、そんな存在になる前に彼女は自分のソウルジェムを砕こうとしたんだ。『巴マミ』達もまた、もしかしたらそんな気持ちだったのかもしれない。

 

「でも、今はね……今まで過ごしてきた日々が頭の中に浮かんでいるの……」

 

 そう言ってマミさんは泣きながらほほ笑みを浮かべた。その美しさに、女の子というのは皆悲しみの中でもここまで美しいほほ笑みができるものなのかと、俺は驚いてしまっていた。

 

「鹿目さん達と一緒にお茶会をした時のことや、洲道君達と一緒に修行した時のこと、以前あった佐倉さんと一緒に過ごしていた時間が帰ってきたこと、皆と過ごしたたくさんの時間が……そのことを思い出したらね、こう、思うように、なったの……」

 

 次第に声が涙声になってきていた。俺はただ静かにマミさんの言葉を待った。

 

 

 

「私は……皆と一緒に生きていきたい!!!」

 

 

 

 それがマミさんの答えだった。

 

 

 

「私は今まで一人が嫌だったの!! だから、今のこの時間に私は救われた!! 私のことを知ってくれている人が、一緒に闘ってくれる人がいてくれて嬉しかった!! 私の願いはもう叶っていたことを、あなた達は教えてくれた……!!」

 

「マミさん……」

 

「皆、本当にごめんなさい……!! 皆のことを考えずに死のうとして、本当にごめんなさい……!!」

 

 ……もう押さえておく必要はない。

 そう判断した俺は静かにマミさんから手を離した。

 

「大丈夫ですよ、マミさん。俺達はずっと一緒です。あなたがこの現実に打ち勝てるように、あなたのことを支え続けますから。あなたを一人にはしませんから」

 

「洲道君、皆……本当に、ありがとう……」

 

 そう言ってマミさんはしばらく泣き続けた。そして泣き終わった後、俺達の憧れであるいつものマミさんが戻って来ることを願わずにはいられなかった……

 

 

 

 

 

 

 しばらくして泣き終わった後、マミさんは別室の方へ行って着替えを行っていた。原因は彼女の服に俺の血がべっとりとついてしまっていたからだ。すぐにさやかの魔法で治したが、その間に流れた血までは消すことはできない。まどかとさやかはマミさんの着替えを手伝っていた。

 

 俺はというと……

 

「ここはどうだ、裕? 痛くはないか?」

 

「大丈夫だっての」

 

 杏子に手を握られていた。

 さっきのマミさんの銃に撃ち抜かれた手が大丈夫かどうか確かめると言って、さっきからこんな調子だ。

 いちいち親指の位置を変えて俺の手をぎゅっぎゅっと握っているのだ。

 俺はため息をついて杏子に話しかけた。

 

「だから言ってんだろ? この手はさやかの魔法で治したからもう心配はいらないんだよ。だから手を離してくれ」

 

「本当かよ……? あたし達に心配させないために嘘をついてんじゃないだろうな……?」

 

「違うってーの」

 

 杏子はなかなか信用してくれない。俺はそこまで無茶をする人間に見えてるのかよ? 一応あの男との訓練で、自分がどこまでの行動ができるかくらいは理解しているつもりなんだけどなぁ……

 

「……いてっ」

 

 その時杏子に押された箇所が痛んだ。その声を聞いた杏子はいきなり怒りだしてしまった。

 

「っ!? やっぱり嘘ついてたんじゃねえか!!」

 

「いててててててっ!? ち、違うって!! お前が押してるのはただのツボだ!!」

 

 そこは怪我をしてようがしてまいが、押されると痛いものなんだよ!!

 

「大体わざわざ怪我を中途半端に治してどうすんだよ!? 治すなら最後まで治すに決まってんだろうが!!」

 

「む……」

 

 その言葉にようやく納得した杏子は手のツボを押すことを止めてくれた。

 ……まったく、杏子は前からこんなに心配性なやつだったか?

 

 

 

 

 

「けどさっきは助かったよ、杏子」

 

「あん?」

 

「お前は魔女化のことを知っても冷静になろうと頑張っていた。そしてそれを乗り越えてマミさんに喝を入れてくれた。お前がいたからマミさんを止めることができたんだ。ありがとな、杏子」

 

「…………」

 

 そう言ったら、杏子は俯いてしまった。

 ……しまった、迂闊なことを言ってしまったのかもしれない。杏子が乗り越えたなんて、どうして俺がそんなことを言えるんだよ? 何を分かった気になってるんだよ、俺は……

 

「……お前は、さ」

 

「え?」

 

 さっきの言葉について謝ろうとしたら、杏子の方から話しかけてきた。

 

「あの時、あたしのそばにいるって言った。それは……嘘じゃないんだろ?」

 

 それは昨日の教会での言葉だった。あの時杏子は、自分を弱くした責任を取れと言った。その責任の取り方は今も分からないままだけど、俺はそれでも杏子のそばにいると答えた。

 ついさっき忘れろとは言っていたが、杏子の方から言ってきたということは、俺もそのことについて話していいことなのだろう。

 

「それは昨日の別れの時も嘘じゃないって答えたはずだぜ。お前は俺にとってもう、なくてはならない存在なんだよ」

 

「っ……」

 

 昨日と同じ答えを返したら、杏子は顔を赤くしてまた顔を俯かせてしまった。そんなに恥ずかしいことを言っているつもりはないんだけどなぁ……?

 

「忘れるなよ、杏子。お前だって一人じゃないんだ。お前が絶望に堕ちそうになっても、必ず引き上げてやるよ」

 

「そう、かよ……」

 

「お前も俺にとって、マミさん達と同じ大事な友達で仲間だと思っているんだ。きっと皆だって同じように思っているはずだよ」

 

「…………」

 

 その時だった。杏子が顔を上げて、妙に冷めた視線で俺を見つめてきた。

 ……あれ? なんでこんな冷めた視線を俺に向けるんだ? 俺は今日は一回もセクハラまがいの事はしていないよな? 杏子に怒られることは何もしていない……よな?

 

「いでっ!?」

 

 自分が杏子に怒られることは何もないことを確認していると、急に手に痛みが走った。そこはさっき杏子に押されたツボの位置だった。そこを杏子はさっきより強めに押してきたのだ。

 

「だからツボを押すなよ!? 結構痛いんだからな!?」

 

「……なんか、むかついたんだよ」

 

「なんでだ!?」

 

 意味がさっぱり分からん。だが考えられるとしたら、さっきの俺の言葉以外にはないはずだ。考えるんだ。杏子が怒った原因となる言葉とは……

 

 ああ、そっか。

 

「悪い悪い、杏子。お前と俺は言わば好敵手という間柄だったな。マミさん達と一緒に見るのは駄目だったんだな」

 

「………………………」

 

 それはさながらクイズのようだった。当たれば杏子はそのまま手を離してくれる。ただし外れたら……

 

「いでででででででっっ!!? な、なんか指圧の強さが跳ね上がってるんですけど!? え、今の答えは外れだったのか!? ちょ、無表情でツボを押さないで!? そっちの方がめちゃくちゃ怖いんだけど!? あっ、ちょっ、そこは駄目だって、おい、って、アッーーーーーーー!!!?」

 

 こうして杏子のおしおきを受けるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくしてようやくマミさん達が戻って来てくれた。杏子の方は、一通りのおしおきが済んで留飲が下がったのか、今は手を離してくれていた。最も、機嫌は今も若干悪いが。

 

「洲道君、さっきは本当にごめんなさい……私が弱かったせいで、あなたに怪我をさせてしまった……」

 

「大丈夫ですよ。その怪我はさやかの魔法で完治してますから」

 

 片方の手を見せて何でもないことを示す。ただしもう片方の手は見せることはできない。そこにはさっき杏子に思いっきり強く押された跡が残っているからだ。

 

「だから気にしないで下さいよ。こうして無事にいるならそれで満足ですから」

 

「ううん、それだけじゃないわ……」

 

 ……どういう意味だ? マミさんが他に何か俺にしたことってあったっけ?

 

「あなたが魔女の話をしたのは……私達なら、それを受け入れることができるって信じてくれたからよね?」

 

「それは……」

 

「私はあなたのその信頼を裏切ってしまった……だから、本当にごめんなさい……」

 

 ああ、そういうことか……マミさんは受け入れられずに死のうとしてしまったことが、俺の信頼を裏切ってしまったと思ってしまっているのか。

 だけど、それでも俺はマミさんに怒りを抱くつもりはない。だって……

 

「あなたは俺の信頼にちゃんと答えてくれたじゃないですか」

 

「え……?」

 

「本当に信頼に答えられないやつっていうのは、あの時俺達の言葉に耳を貸さずにそれでも死のうとするやつのことですよ。あなたは今もこうして生きている。それで十分じゃないですか」

 

「で、でも……」

 

「本当に辛いのはマミさん達だってことは理解しているつもりです。それでもあなたは生きていきたいと言ってくれた。これ以上の信頼の答え方はないですよ」

 

 色々あったけど、彼女達は乗り越えてくれたんだ。俺の信頼に、ちゃんと答えてくれたんだよ。

 

「まあ、それでもまた辛いことがあったら、いつでも頼って下さいよ。俺の胸の中で一杯泣いて、身も心も俺に任せて……ぶげほぉっっ!!!!?」

 

 両手を上げてアピールしてみたら、突如無防備なわき腹に拳が突き刺さった。

 な、なんか懐かしいような気がする……

 

「さらっと何セクハラまがいのことを言ってんだ、てめーは……」

 

「そ、そんなことはないですよー? そりゃあ、マミさんのような人を抱きしめられたら男冥利に尽きると思うけどさ……」

 

「やっぱり下心があるんじゃねえかーーーーーーっっっ!!!!!」

 

「ぎゃーーーーーっっっ!!!!?」

 

 そう言って杏子は飛びかかって俺を押し倒した。そして続く第二撃を俺に撃ちこもうとした時だった。

 

「ふふっ、まったくもう……」

 

「「?」」

 

 マミさんが笑っていた。そうして俺達に見せてくれるのは、いつも俺達を安心させてくれる笑顔だった。

 

「佐倉さん、大丈夫よ。私はもう大丈夫だから。辛い時があっても、洲道君の胸を借りたりはしないから」

 

 ……あの、マミさん? それってどういう意味ですか? あなたは俺の胸なんかいらないって言いたいんですか? そりゃあ、前科持ちの俺は信用はできないかもしれないでしょうけど……

 

「だって、そんなことしたら佐倉さんに悪いものね」

 

「なっ!!?」

 

 マミさんの言葉に杏子は顔を真っ赤にした。

 ……おや? それってどういう……

 

「なあ、きょう「裕っっ!!!」な、なんだよ!?」

 

 ……意味か聞こうとしたら遮られてしまった。最近こういうこと多くないか?

 

「話の続きがあるんだろ!? お前が魔女の話を確信した根拠についてだ!!」

 

 おっと、確かにその話をしないといけないな。だけど、その話をするためにはあいつをここに呼ばないといけない。そのためには……

 

 俺はポケットからメモを取り出して、それをまどかに渡した。

 

「まどか、そこの地図に書いてある家に今から行ってきて、そこにいるやつを引っ張り出して来てくれ」

 

「そこにいる人って……あっ、まさか!?」

 

 まどかも分かったようだ。ここに呼ぶべき相手はもう一人しかいない。

 

「ソウルジェムの最後の秘密を知った今、暁美はもう隠すことはしないはずだ。あいつをここに連れて来てくれ。多分あいつがその手を取る相手はお前しかいないと思うんだ」

 

「う、うん、分かった! 今すぐほむらちゃんを連れて来るね!!」

 

 そう言ってまどかは慌ただしくマミさんの家を出て行った。あの様子なら、戻って来るのにそう時間はかからないだろう。

 

「じゃあまどかが帰って来る前に簡単に説明します。昨日、皆と別れた後に暁美の方から俺に接触してきたんですよ」

 

 俺は残った三人に昨日のことを簡単に説明することにした。

 

(暁美……決着をつけよう。お前の長い時間遡行の旅に……)

 

 

 

 

 ついに、全ての魔法少女達が集まる時が来たようだ。

 




死のうとしている人間を思いとどまらせるっていうのは、とても難しいです。そういった説得のプロの方もいらっしゃるそうですが、そのような技術がないのが残念です……

色々ありましたが、彼らは魔女化という事実に打ち勝つことができました。
次はほむらの話に決着をつける時です。今度はまどかに頑張ってもらいます。

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