暁美ほむらはただ、美人というだけではなかった。うちの学校は他より少しレベルが高いが、その問題をなんなく解いてしまい、運動においてもハイレベルだったらしい。らしい、というのは体育は男女別なので、まどか達に聞いたからだ。
とにかく才色兼備を体現したような存在である暁美ほむらの噂はクラスのみならず学年全体にまで広まったのだった。
そして、放課後になり、俺達は近くのファーストフード店でまどかの話を聞いた。しかしまどか自身には心当たりがなく、保健室へ連れていくときも何か謎めいたことを言われたとのこと。正直意味が分からなかった。
「なんだそりゃ?」
「訳分かんないよね……」
「文武両道で才色兼備かと思いきや、実はサイコな電波さん。くーっ、どこまでキャラ立てすれば気が済むんだぁあの転校生は! 萌か? そこが萌なのかぁ!?」
さやかがよく分からんことを言ってるが無視しとこう。
「まどかさん、本当に暁美さんとは初対面ですの?」
「うーん、常識的にはそうなんだけど……」
「なにそれ、非常識なところでは心当たりがあると?」
「あ、あのね。昨夜あの子と夢の中で会った、ような……」
それを聞いたとき、俺達は爆笑した。
「あははは! まどか、お前も暁美の真似かよ? お前にそれは合わないからやめとけって!」
「ひ、ひどいよ~私、真面目に悩んでるのに~」
あまりにも非現実的だから、俺もこんな対応しかできないんだよ。
しかし夢か……まどかもまどかで奇妙な夢を見ているんだな。俺も悪夢を見ているだが、まどかのそれは悪夢と言えるのだろうか? 俺としてはかわいい女の子が出る夢というのは大歓迎なのだが。
「夢って、どんな夢でしたの?」
しかし、それでも真面目に対応しようとする仁美の姿勢には感心する。俺も見習おう。
「それが、なんだかよく思い出せないんだけど、とにかく変な夢だったってだけで……」
「もしかしたら、本当は暁美さんと会ったことがあるのかもしれませんわ」
「ん? そうなのか?」
「ええ。まどかさん自身は覚えていないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません」
「ああ、それは俺も聞いたことがある。自分では思い出せない情報がレム睡眠のときに無秩序に流れ込んで、それが夢になるんだとさ」
仁美の説明に中沢が補足する。
「つまり、実際に見たものが基本的に夢の構成情報になるってことか?」
「まあ、そういうことだ」
そう聞いたとき、俺は昨夜の夢を思い出して少し気が滅入った。今の話でいうなら、俺は実際にアイツを見た、ということになる。冗談じゃない。アイツが実際にいてたまるか。世界を壊されてたまるか。俺は必死にあの存在を頭から消そうとした。
「あら、もうこんな時間。ごめんなさい、お先に失礼しますわ」
そう言って仁美は席を立つ。仁美はその家柄もあるのか、たくさんのお稽古事をしている。そこまでの数の稽古が必要になるという家庭は一体どんなものなのかは俺には想像もつかなかった。
「今日はピアノ? 日本舞踊?」
「お茶のお稽古ですの。もうすぐ受験だっていうのに、いつまで続けさせるのか」
俺も以前はバイト三昧だったが、今では数を減らしている。今でもそれらをこなしているのには素直に尊敬する。
「うはー、小市民に生まれてよかったわー」
さやかはため息をついている。俺は小市民といえるのかな?
「けど、仁美。いやならいやだって、ちゃんと言わなきゃ駄目だぜ? 言葉にしないと、行動しないと何も変わらないからな」
少し真剣になってそう仁美に言った。少し環境は違うが、そのルールは変わらないと思う。強制でやらなければいけないときもあるが、それでも何もしなければ変化はしない。俺もあの男には従ってきたが、唯々諾々と従ったわけじゃない。声を張り上げたり、襲おうともした。全てペシャンコにされたが。いつか、あの男に反抗して貫き通す俺だけの願いができるのだろうか?
(やらなきゃ、駄目なんだよな……)
今は無理でもいつか必ずやりぬいてみせる。だからこそ、自分でも、友達でも、ただ流されるだけの姿は見たくないのだった。
仁美は一瞬ぽかんとした顔を見せたが、すぐに笑顔を見せた。
「ええ、分かっております。私も、ただ流されているわけじゃありません。それに私、これで結構頑固なんですのよ?」
そう言ってほほ笑む仁美を見て、いらない心配だったな、と心の中で苦笑した。
「私達も行こっか」
「あ、まどか。帰りにCD屋に寄ってもいい?」
「いいよ。また上条君の?」
「へへ、まあね」
さやか達はCD屋に寄るようだ。さやかはよくめずらしいCDを見つけて恭介へ持って行く。それもまた、恭介への見舞いの品の一つだ。それについてはさやかに一任している。
「中沢はどうすんだ?」
「俺は今日は留守番だ」
どうやら、中沢は早く家に帰らなければならないようだ。さて、どうするかな? 今日はバイトは何もない。さやか達について行くべきだろうか?
そのとき、俺は今朝の女子達の会話を思い出した。
(遠出をすれば、熱い出会いが待っている、か……)
恭介達のような友達が得られるのなら、俺としてはとても嬉しい。そういう友達は何人いてもいいものだ。
どのみち、さやか達について行っても俺には珍しいCDに関する知識や、それを見つける眼力もない。俺は基本ネタ担当なのだ。無駄足かもしれないが、行ってみることにするか。
「じゃあ、ここで解散だな」
「うん、またね。洲道君」
そう言って俺はまどか達と別れた。
(さて、どこに行こうかな?)
遠出といっても色々候補がある。しかし、時間的に行けるのは一ヶ所だけだろう。
とりあえず、隣にある風見野まで行くことにした。
三十分くらいで風見野に着き、俺は色々歩き回った。ショッピングモール、喫茶店、etc……
しかし、出会いらしい出会いは何もなかった。
(やっぱり、占いは占いか……)
こうなる確率が高いのは承知していたが、やはり、実際起こると少しへこむ。ふと見上げると、そこにはゲームセンターがあった。最後にここに寄ることにした。
ゲーセンでは体を動かすタイプが得意だが、その中で俺はダンスゲームが一番得意だ。あの男に仕込まれた技術がこんなところで役に立つのは、何かくやしいが、実際得意で好きなのだから、仕方がない。
俺はレベルを高目に設定してプレイした。中々の高得点だと思う。ランキングにも上位に食い込んでいる。俺はそこにyuuといつものように名前をつけた。こうして自分の記録を何かに残すのは中々気分がいいものだ。
そのときだった。
「あーあ、見てらんないねぇ。その程度で調子に乗るなんてさ」
ここでは裕一はマミやQBには接触しません。まどか達はアニメの第1話と同じ展開です。