魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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時間戻ってマミと杏子です。


帰って来た時間

 巴マミは今料理を作っていた。一人暮らしでもなるべく料理を作るように心掛けていた。食費の削減のためでもあったが、いつか誰かに食べさせてあげられるように練習は欠かさずに行っていた。そして最近ではその願いが叶っていた。先週から新しい魔法少女候補二人と出会い、その数日後に魔法少女とは違う力を持った男の子と出会って、最近では彼らに料理を振る舞うことが多くなっているのだ。

 そして今も彼女は他の誰かのために料理を作っていた。

 

「おーい、まだかよマミ? あたしは今めちゃくちゃ腹減ってんだぞー?」

 

「はいはい。もう少しだから待っててね?」

 

 かつてあった日常が帰ってきたことにマミは知らずにほほ笑んでいた。 

 

 

 

 

「いっただっきまーす!」

 

「はい、召し上がれ」

 

 杏子はそう言って目の前の料理にかぶりついた。久々に杏子に食べさせるものだから、少し気合を入れて作ってみたのだ。それゆえ味にも量にも自信があった。

 

「やっぱマミの料理はうめえな! 裕のも悪くはなかったけど、こっちの方があたしは好きだな」

 

「あら、洲道君もあなたに料理を作ってあげていたの?」

 

「まあな。……まあ、考えてみれば他人の作った飯を食うのはあれが久しぶりだったから、少し新鮮ではあったよ」

 

「佐倉さん……そうね、一人だけのご飯は味気ないものよ。たくさん作ったからどんどん食べてね?」

 

「言われるまでもないっての!」

 

 杏子はそれからはただ夢中でマミの料理にかぶりついていた。マミはその姿をただほほ笑ましく眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、食った食った。ごちそうさん」

 

「お粗末さま。食後にケーキと紅茶もあるけどどうかしら?」

 

「もちろん食べるぜ!」

 

 あれだけの量を食べてまだケーキが食べられるのかと、作った本人が驚いてしまった。

 食器を片付けた後、マミはまず紅茶作りに取り掛かった。おいしい紅茶を入れるコツはお湯を沸かし、葉を入れて蒸して注ぐまでの工程のそれぞれの時間配分が決め手だ。これをおろそかにしてはせっかくの紅茶が台無しになってしまうのだ。彼女はいつもこの時間配分には細心の注意を払っていた。

 

「おーい、マミ、とっとと紅茶を入れてくれー」

 

「佐倉さん、いつも言ってるでしょう? 今葉を蒸しているからもうちょっと待ちなさい」

 

 しかし杏子はそんなことは全く気にせずにただ紅茶の催促をしてきた。いつも言っていることなのだが、全然分かってくれない杏子にマミは軽く嘆息してしまった。

 

(でも、とっても懐かしいな……)

 

 いつかと同じやり取りにマミはくすりとほほ笑んでいた。あの時杏子と決別してしまった後、マミはまた一人で戦い続けた。この町のために戦っても誰にも分かってもらえない寂しさを抱えながら。しかし、今はそんなことはない。今の自分にはたくさんの仲間がいるのだ。

 

 自分と同じ志をもって戦ってくれることを約束してくれたさやかに裕一。

 魔法少女じゃなくても自分たちを支えようとしてくれているまどか。

 そして今回裕一の頑張りによって杏子も共に戦ってくれることを約束してくれた。

 

 だからこそマミは絶望はしないのだ。たとえソウルジェムの真実を知ってしまっても崩れそうになっても、自分には支えてくれる友達がいるのだから。

 

(そうか……私はただ自分のことを分かってくれる友達がほしかっただけだったんだ)

 

 その瞬間、身体が軽くなるような感覚におそわれた。きっと、自分が何を求めていたかが分かって、もうそれを手に入れていることを自覚できたからなのだろう、とマミは思っていた。

 

(皆……本当にありがとう……)

 

 マミは自分の願いを叶えてくれて、そして自分を救ってくれた皆にただ感謝し続けていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くマミのやつは相変わらずだな……紅茶が蒸れるまで待て、とかあの時のままだな、ほんと……」

 

 佐倉杏子はマミが紅茶を入れるのをただ待っていることしかできなかった。彼女もまた、以前と同じやり取りに懐かしさを感じていた。正直こんなことになるとは杏子自身は全く予想していなかった。しかし、今はワルプルギスの夜を倒すために一時的に同盟を組んだから今は仲間と言える。

 

(けど、あたしもなに感傷に浸ってんだろうな……ワルプルギスの夜の件が片付いたら、どうせすぐに終わる関係だってのに)

 

 いつもと違う自分に若干戸惑ってしまったが、すぐにその思考を振りはらった。暇になったので、少し部屋の中を物色させてもらおうと思った杏子は、マミの寝室に足を運んでみた。そこにはクマのぬいぐるみが置かれてあり、杏子はそれに見覚えがあったあ。

 

「これ、あたしがゲーセンで取ってやったやつじゃん……あいつ、まだこんなの持ってたのか……」

 

 自分と別れた後でも、マミは捨てずに持っていた。そのことに杏子はなんとも言えない感情が胸に広がった。

 

 

 

 

『今ので確信したわ。私達はきっと分かりあえるってね』

 

 それはかつてコンビを組み、師と仰いでいた少女の言葉だった。

 

『ただ、不幸な事故があっただけで、その気持ちは今も変わっていない。あんたはきっと今の生き方を望んでいないはずだよ』

 

 それはかつての自分と同じ間違いから生まれ、そしてかつての自分と同じであった少女の言葉だった。

 

『予告してやる。俺はお前の今の生き方を変えさせてみせる。嘘をついている、今の生き方をな』

 

 それは魔法少女とは何の関係もないはずなのに、自分に勝負を挑んで何度も踏み込んできた少年の言葉だった。

 

 

 

 

「本当になんなんだよ……なんであたしの考え通りのことが起きないんだ……?」

 

 杏子は今までのことを振りかえっていた。考えてみれば今この場にいること自体が今までの自分ならありえないことだった。あの日、家族を失ったときに自分の間違いに気付かされ、巴マミと袂を分かってしまった。本来なら、たとえワルプルギスの夜が来ることを知っても、割に合わないとして風見野に真っ先に帰ってしまっていたはずだ。

 

(あたしだって、変だぞ? なんでこんなことになってしまったんだよ……)

 

 杏子は今の自分のことがだんだん分からなくなってしまっていた。この町に来て、彼らと会っていくうちに自分もおかしくされてしまったのだろうか?そんな考えに至ったとき、杏子は長い溜息をついてしまい、つい愚痴をこぼしてしまった。

 

「全く、この町には変なやつが多すぎだろ……」

 

「あら、ずいぶんひどいことを言うのね。それともそれは褒め言葉のつもりなのかしら?」

 

「うわあっ!?」

 

 いつの間にかすぐ近くにいたマミの声に驚いて変な声をあげてしまった。すでに紅茶を入れ終えていたことでマミは杏子に声をかけていたが、返事がなかったのでここにやってきていのただった。

 

「そう言えば、前に洲道君が佐倉さんにはよく変なやつ扱いされるって言ってたわね。私達もいつの間にか彼と同じようになっていたとしたら、きっとそれは褒め言葉に違いないわね」

 

「な、なんでそうなるんだよ!?」

 

「だってあなたが彼のことをそんなに嫌うはずがないもの」

 

「な、ななな……」

 

 その言葉に一瞬杏子は戸惑いを見せたが、次の瞬間彼女は真っ赤な顔になって爆発した。

 

「そ、そんなわけあるか!! 変なやつ呼ばわりが褒め言葉なわけないだろ!! あたしはお前らのことをばかにしてんだよ!! だいたいあいつはいっつもいっつもいっつもいっつも、あたしになにかと刃向かってきやがって!! あたしに負け越しているくせに、この前あたしに一本取ったときは下らない手を使いやがって!! 甘ちゃんのくせして、あたしの生き方を変えてみせるなんて宣言しやがって!! そのくせ、何かあったらすぐにあたしから逃げ出して、あたしを嫌な気持ちにさせやがって!! かと思ったら、またすぐにあたしの所に戻ってきて勝負再開だ、なんて都合のいいことを言ってきやがって!! そんなことするくらいなら、最初からあんな気持ちにさせんじゃねーよ!! つーかマミ、お前はなんでそんな可笑しそうな顔してんだよ!!?」

 

「あら、そんな顔してたかしら?」

 

「めちゃくちゃ笑いをかみ殺してただろうが!!?」

 

「だ、だって、すごくほほ笑ましものを見せてくれたんですもの……」

 

「どこがだよ!? お前だって十分おかしなやつじゃねえか!!」

 

「そ、そうかもしれないわね、ふふっ……」

 

「~~~~~~っっ!!! だから笑ってんじゃねーーーーーっっ!!!!」

 

 それでも笑い続けるマミに杏子はさらに激昂した。マミに掴みかかろうとしていたが、彼女はそれを軽くさばいていた。

 

「どー、どー」

 

「ふーっ、ふーっ!!」

 

 杏子を落ち着かせようとしたが、全く落ち着く気配がなかった。自分は間違ったことを言ったつもりはなかったが、こんなに杏子が怒ることはマミも予想していなかった。仕方無しにマミは彼女を落ち着かせるための最後のカードをきった。

 

「それより佐倉さん、もう紅茶も入ったしデザートにしましょう?それともいらないのかしら?」

 

「そんなわけあるか!! あたしが食い物を粗末にするわけがないだろうが!!」

 

 そう言って杏子はどすどすと足音を立ててリビングの方へ歩いて行った。後に残されたマミは杏子が見せる初めての表情にまだ笑いをかみ殺している様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、マミ達はいつも修行をしていた場所に移動していた。久々に二人がどれだけ強くなったかをお互いに見せ合うのが目的だった。ちなみに杏子はデザートを食べたことで先ほどの怒りは多少静まっていた。

 

「またここに佐倉さんと一緒に来られるなんてね……」

 

「なにしみじみと言ってんだよ? そう言えばここであいつらも修行していたんだっけか?」

 

「そうよ。洲道君は主に私達の魔法の制御、美樹さんは主に戦いで生き残るための技術を学んでいるわ。美樹さんの方は主に洲道君がメインで教えているけどね。彼のお父さんが趣味の一環として彼に戦闘技術を教えていたそうなんだけど・・・」

 

「ああ……」

 

 そのマミの言葉に杏子は以前裕一が話していた『あの男』のことを思い出していた。

 

 幼い頃から裕一を育て上げていたという男、桐竹宗厳。あの男は裕一に戦闘技術を教え込ませ、小学校には行かせずに中学校から通わせている。さらに一人暮らしをさせたくせに食費は自分で稼げと言う。なんでそんなことをさせているのかが杏子には分からなかった。そして裕一自身にも自分達魔法少女とは違う力を持っていて、彼自身もなんでそんな力を持っているのかは分からないと言う。

 

(本当にお前はなんなんだよ、裕……?)

 

 彼の謎についていくら考えても、情報が少なすぎるために杏子には答えが出なかった。そんな彼女の様子には気付かずにマミは話を続けていた。

 

「でも、洲道君は最初は銃の扱いはそれなりだったけど、リボンの扱いはひどかったのよ?どうやったのかは分からないけど、リボンを美樹さんの方へ飛ばして彼女をからめ取ってしまって、その、ちょっとあられのない格好にしてしまってたのよ。彼も彼でこれでリボンの制御は完璧だなんて言うし……」

 

「……ほう?」

 

 その話を聞いた途端、杏子の心は一気に冷めてしまった。彼は自分にあんなことをしただけに飽き足らずに、そんなこともしていたというのか。知らずに杏子は自分の指をパキパキと鳴らしていた。もはやさっきまでの彼についての考察は完全に消えてしまい、今の彼女の心の中にあるのは懲りない彼への怒りしかなかった。その尋常ではない様子にマミは慌ててフォローすることにした。

 

「で、でもちゃんと叱っておいたし、彼も男の子なんだから異性に興味を持ってしまうのは仕方のないことだと思うけど……」

 

「甘いんだよ、マミは!! そんなんだとあいつは絶対につけ上がる!! あいつはそれだけじゃなくてあたしのむ、胸を触りやがったんだ!!」

 

 先ほど静まっていた怒りが再び燃え上がってしまった。しかもさっきまでよりさらに怒りが増しているようにマミは感じられていた。

 

「またあいつのことをボコボコにしてやるか……?いや、それとももういっそのこともいでしまおうか……?」

 

「さ、佐倉さん……」

 

 急にぶつぶつ言い出した杏子にマミはたじろいでしまった。今は何を言っても火に油を注ぐ結果になると判断したマミはしばらく放っておくことにして、おそらくこれから被害を受けるであろう裕一に対して心の中で謝罪するのだった。

 

 

 

 

 そのとき、何者かが近づいてくる気配をマミは感じ取った。

 

「あら、洲道君。ようやく来たのかしら……あなたはっ!?」

 

「ん? どうしたマミ……お前はっ!?」

 

 その人物は彼女達が待っていた人物ではなく、自分達の敵か味方かはっきりしない少女だった。

 

「暁美、ほむらさん……」

 

「お前、何をしにきたんだよ……?」

 

 予期せぬ来訪者、暁美ほむらにマミと杏子はとっさに身構えた。今のほむらは魔法少女の姿ではない。それゆえ彼女が魔法少女になって時間を止めようとしても、その前にリボンで縛り上げる用意をマミはしていた。身構える二人を前にしてほむらは一歩も引かずに話し出した。

 

「そう……あなたはそちらについたわけね、佐倉杏子。かつてコンビを組んでいたとはいえ、巴マミと袂を分かっていたあなたがそちらにつくとは私も予想できなかったわ」

 

 淡々と話しているようだが、その瞳には寂しさが混じっていることがマミには分かってしまった。今の彼女には味方がおらず一人ぼっちの状態だ。その辛さが一番よく分かるマミは一瞬彼女に同情してしまったが、すぐに気を持ち直した。

 

「それとも……また彼の仕業なのかしら?」

 

「どういう意味だ、暁美ほむら……?」

 

「あなたと洲道裕一に繋がりがあったことも予想外だったわ……本当に色々引っかき回してくれるわね……」

 

 その声に苛立ちが混じっていたが、それはいくらなんでも筋違いだとマミは思っていた。彼女は以前杏子にワルプルギスの夜が来ることを話して協力を求めたが、信用できないと言われてその話を断られてしまっていた。その時杏子はその話を信じていなかったが、後にその話を聞いた裕一はほむらの能力を知っていたために、その話はでたらめではないかもしれないという結論に達した。そして紆余曲折あったが、今自分達は共に戦う約束を交わすことができた。言うなれば、今の自分達がある一因は彼女にあったと言ってもいい。そのことに感謝してもいいと思ったと同時に、以前まどかが言っていたことをほむらに話してみようとマミは決めた。

 

「暁美さん、私達はワルプルギスの夜を倒すために共闘する約束をしたのよ。あなたの目的もワルプルギスの夜を倒すことなら、あなたとも共に戦うことができるのではなくて?」

 

「……なんですって?」

 

「お、おい、マミ!?」

 

 突然のマミの言葉にほむらも杏子も驚きを隠せなかった。マミは一旦杏子に少し黙っていてほしいという意味をこめて視線を送った後、すぐにほむらの方へ向き直して言葉を続けた。

 

「これは鹿目さんがずっと言い続けていたことよ。あなたのことは信用できるとね。私はそんな彼女の言葉を尊重してあげたいのよ。それに、もともとワルプルギスの夜が来ることはあなたが言いだしたことだから、できるならもっと詳しい情報が欲しい所なのよ。あなたもあの魔女を倒すことが目的なら利害は一致すると思うけど?」

 

 マミとしてもここは分岐点だった。まどかはああ言っていたが、マミ本人は正直に言えばほむらのことはあまり信用できなかった。しかしもし彼女がこのまま肯定してくれれば、少なくともワルプルギスの夜を倒したいと思っていることは真実であることが分かる。それに彼女が味方になればこれほど心強いことはない。ワルプルギスの夜の情報も得られるし、彼女の力があれば戦いもより有利に進められることは間違いない。できるならこの場で頷いてほしいところだった。

 

「……あなた達だけならその提案に乗ることができるのだけれど」

 

「その言い方では洲道君と美樹さんに問題があるように感じられるのだけれど?」

 

「洲道裕一のことはこの際置いておいていいわ。問題は美樹さやかよ」

 

「おい、さやかがどうしたってんだ?」

 

 ほむらの話から突然さやかの話題が出たことで杏子は黙っていられずに聞き返してしまった。 ほむらは一瞬杏子の方に視線を向けた後、すぐにマミの方に向かって言葉を続けた。

 

「このままだと彼女は暴走してしまうわ。できるなら彼女をしばらく魔女との戦いから身を引かせた方がいい。それからソウルジェムの穢れはそのままにしては駄目よ。もしも穢れをため込みすぎたら、取り返しのつかないことになる。……それじゃあ失礼するわね」

 

「どういう意味なの、暁美さん!? 待ちなさい!!」

 

 そのまま去ろうとするほむらに対して反射的にリボンで拘束しようとしたが、ほむらはすばやくスカートのポケットからあるものを取り出して地面に投げ捨てた。その瞬間まばゆい光が突然目の前に広がってしまい、マミと杏子は一瞬目を開けていられなくなってしまった。視力が回復した頃にはすでにほむらの姿はどこにもなかった。

 

「閃光弾かよ……?あいつもむちゃくちゃだな……」

 

「それにしてもさっきの暁美さんの言っていたことは一体……っ!? この反応は!」

 

 いつの間にかソウルジェムが魔女の反応を示していた。しかも近くで誰かが戦っていることが感じ取れた。

 

「佐倉さん、今誰かが魔女と戦っているわ!! もしかしたら洲道君か美樹さんかもしれないわ!!」

 

「ああ、あたしにも感じられる! 速いとこ片づけるぞ、マミ!!」

 

「ええ!!」

 

 今はほむらのことは後回しにして二人は駈け出して行った。それはかつてあったコンビの姿そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マミさんと杏子の姿を見つけた俺達はとにかく声をかけることにした。

 

「マミさん、杏子!!」

 

「っ!? 洲道君、鹿目さん!!」

 

 俺の声に反応した二人はこちらに駆け寄って来た。今の二人は明らかに焦った様子を見せていた。考えられることは一つだけだ。

 

「……魔女か使い魔が近くにいるんですね?」

 

「その通りよ。しかも今は誰かが闘っているようなのよ」

 

「それはもしかして暁美ですか? それとも……」

 

「いや、暁美ほむらじゃねえ。あいつはついさっきまであたし達と会っていたんだよ。あいつが今闘っているはずがない」

 

 代わりに答えてきた杏子の言葉に隣にいるまどかの方は驚きが隠せていない様子だったが、反対に俺はあまり驚きはしなかった。以前杏子に接触したときと同じように、今日学校を休んでいた暁美はマミさんと杏子に接触していたのだ。暁美の話も気になるが、今はそれどころではない。

 

「そ、それじゃあ今闘っているのはさやかちゃんってことですか?」

 

 そう、暁美ではなく俺達も今ここにいるということは、残りは一人しかいない。しかもさやかは俺達と別れて仁美と行動していた。もしかすると仁美も巻き込まれているのかもしれない。

 

「マミさん、俺も行きます! さやかのそばには仁美もいるかもしれないんです! 事態は一刻を争うんです!」

 

「ええ、分かっているわ。洲道君、今あなたの中にある力は大丈夫ね?」

 

「はい、昨日使ったマミさんの魔法の分はちゃんと補給できています!」

 

 その言葉にマミさんは頷き、俺とまどかも二人について行くことにした。魔女の場所探しには魔法少女の協力がないと分からないのだ。さやかのそばには仁美もいるかもしれないことを二人に話してさらに急ぐことにした。

 

 

 

 

 

(さやか、仁美……どこだ!?)

 

 その思いに答えるかのように、路地にさしかかった時、突如俺達は魔女の結界に取り込まれてしまった。

 辺りを見回すと、まず最初に目にしたのは赤い太陽のような形で浮かんでいる太陽のようなオブジェだった。次に周りにいるはずのマミさん達や自分自身が身体を墨で塗ったように黒く染まっていた。言うなれば、俺達は影のような姿をしていた。

 しかし、それらよりも注意を引くものがあった。それは音だ。さっきから何かに刃物を何度も叩きつけているような嫌な音が辺りに響いている。

 

「あははは、本当だぁ……!その気になれば痛みなんて完全に消しちゃえるんだぁ……!!」

 

 嫌な音と共に、さやかの狂気をはらんだような声が聞こえてきた。その先を見ると、さやかの形をした影が別の形をした影に対して剣を振り下ろして叩きつけていた。おそらくあれが魔女なのだろう。俺達が来なくても、さやかは一人で闘うことができていたが、俺はそのことで喜ぶことはできなかった。なぜなら今のさやかは今まで俺達が見てきた姿と明らかに違うのだ。

 

「やめろ、さやか!!」

 

 今のままにしておくことは絶対にまずい気がする。俺は声を張り上げてさやかを止めようとした。すると、魔女から何本もの手のようなものが出てきてそれらがさやかを捉えて絞めつけた。しかしさやかはそれにも構わずに剣を振り下ろす。まるで掴まれていることに気付かないように剣を叩きつける。何度も、何度も、何度も、何度も、何度も・・・・・

 

「やっぱりそうだったんだ! あたしは魔法少女! ただ、魔女を消し去るために作られたゾンビ、化け物だったんだぁ……!!!」

 

 その宣言は俺達の考えの完全否定だった。さやかには俺達の気持ちは届かなかったというのだろうか?

 やがて周囲の世界にひびが入ってきた。魔女がもうすぐ消滅しようとしているのだろう。さやかの言葉がショックだったのか、誰も動こうとしなかった。きっと、魔法少女ではない俺の言葉より、同じ魔法少女であるさやかの言葉の方がやはり心に届くのだろう。

 

 そしてついに結界が消滅し、俺達の世界が元に戻った。後に残されたのは俺達と、先ほどまで存在していた魔女のグリーフシード、そして、

 

「あはははははあはっははははは!!!!!」

 

 今も狂ったように笑い続けるさやかだけだった……

 

 




バーサヤカー爆誕です。

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