聞こえる……アイツの笑い声が……
辺りを見回す。
そこには誰もいなく、荒れ果てた世界が広がっているだけだった。
いつもの光景だ。
上を見上げる。アイツが逆さまで浮かび、世界を破壊していた。
ここまではいつもの光景だった。
今までと違うのはソイツが逆さまの状態から元に戻ったことだ。
その瞬間、周りの世界の崩壊が加速した。ソイツの周りのありとあらゆる世界は拒絶され、蹂躙されていく。俺も例外ではなかった。
それでも俺の中にある別の何かは手を伸ばす。アイツに向けてこの手を伸ばそうとする。心臓の鼓動が変わっている。
『……らせ……から……ちゃん……戯曲を……』
そのとき頭の中で声が聞こえたが、ノイズが強すぎてその内容はよく聞き取れなかった。
けれど、なぜだか俺はその声をずっと前から知っているような気がした……
「ワルプルギスの、夜……」
気がつくと俺は目覚めていた。今まで見たことのない夢の内容だったが、あれはなんだったんだろうか……?
「近づいて来ているってことなのか……?」
思わず心臓のところをおさえる。暁美が言っていたから不安になっているのもあるかもしれないが、俺自身にも分かるような気がする。夢の中で聞こえた声を思い出す。
「戯曲、か……」
アイツと一体何の関係があるというのだろうか? あの声はアイツから聞こえてきたものなのだろうか? それとも……
「……いや、それより今は他にやらなくちゃいけないことがあるんだ」
どんな関係があろうとアイツが敵であることに違いはない。アイツからこの町を守るために俺達はまず共に立ち上がらないといけないのだ。俺は支度をして家を出た。
「さあ、行くぞ」
アイツは必ず倒す。それ以外に道はないんだ。
その、はずなんだ……
もうすぐ八時になろうとしていた頃にマミさんの家の前に着いた。
「遅い」
そこで待っていた杏子は不機嫌さを隠そうとはしなかった。
「ちゃんと八時に着いてるだろ?」
「普通こういうのは五分前に集合するもんだろうが。またあたしを待たせやがって……」
「おやおや、杏子からそんな真面目な態度を説かれるとはな」
「……うるせーよ。それは人の最低限のマナーだろうが」
そう言ってそっぽを向かれてしまった。それにしても少し杏子が待っていたからといって、ここまで不機嫌になることあるのだろうか? なんとなくだが、杏子が不機嫌な理由は俺が遅れただけではないような気がした。それは見当がつかなかったが。
「昨日俺と別れた後で何かあったのか?」
「っ!?」
気になって尋ねてみたら杏子は一瞬で真っ赤になってしまった。さらに聞いてみようとしたら、杏子の方から口を開いてきた。
「な、なんにもねーよ!! 変な勘ぐりすんな!!」
「そ、そっか? 悪かったよ……」
そう言って否定するが、それは明らかに嘘であることは分かった。しかしこれ以上聞いたらまた腹パンチが飛んでくるかもしれない。藪蛇になる前に方向転換するか……
「ちょっとアイツの夢を見てな……寝覚めが悪かったんだよ」
「え……? それってワルプルギスの夜のことか?」
「ああ」
昨夜の夢の話をしたら杏子が心配そうな顔をこちらに向けてきた。
「大丈夫なのか、裕……?」
「まあ、不安じゃないと言えば嘘になるけどさ、俺がどうしたって、アイツがこの町を壊すのを待ってくれるわけでもないからな……」
だからこそ、俺は沈んでいる場合ではないのだ。
「この町には俺にとって大切な場所だからな。だから逃げるわけにはいかない。逃げられないのならどうする? 後は闘うしかないだろ?」
「お前は……後悔はしないんだな……」
「それが俺の意志で決めたことだからな。それに……」
「それに……?」
俺が逃げたくないと思う理由はもう一つあった。それは目の前にいる少女にあった。
「簡単に逃げるような根性だったら、お前との勝負にも勝てないだろうからな」
「……!」
「俺はもう逃げないと決めたんだ。ワルプルギスの夜からも、お前からもな」
俺はこの『日常』を守る。きっとその中にあの男に逆らってでも守りたいものがあると信じているからだ。あるいはその『日常』こそが俺だけの願いなのかもしれない。
杏子はうしろを向いてしまった。また変なやつだとか言われてしまうのだろうか?
「……なら、とっととマミ達の目を覚ましに行くぞ。早いとこワルプルギスの夜との対策を練らないとな」
「杏子……」
「それでこの闘いが終わったら勝負再開だ。……今のお前なら倒しがいがありそうだしな」
「俺は諦めないからな。だから絶対に勝つさ」
「言ってろ」
いつものやり取りを俺達は交わす。これも俺の『日常』の一つだった。
「――――じゃあ、行くぜ、裕」
「ああ、まずはここから始めようぜ、杏子」
俺はマミさんのいる部屋のインターホンを押した。間違いなくマミさんはここにいるはずだ。一人にしてほしいと考えているかもしれないが、それならそれでマミさんの今の考えを聞いておきたかった。もしも居留守をされたら、申し訳ないが杏子にテレパシーで呼んでもらうことにしよう。
しばらくするとドアの鍵が外されてマミさんが出てきた。
「洲道君……それに、佐倉さん!?」
「おはようございます、マミさん」
「おはよう、マミ」
マミさんは杏子がここに来ることは予想していなかったんだろう。杏子の姿を見てマミさんは驚いていた。しかし俺の姿を一緒に見て、どこか納得したような顔をした。
「とりあえずあがって? わざわざ来てくれてありがとう、二人とも」
「それで洲道君。あなたは学校はいいの?服が制服じゃないみたいなんだけど……」
「えっと、まあ、自主休校です」
俺も最初は制服と私服のどちらを着ようか迷ったが、最初から学校へ行こうとは考えていなかったから、授業時間中に外に出ていたらどの服でも同じように目立ってしまう。むしろ制服の方が目立ってしまうだろうし、私服のほうが何かと動きやすいのだ。
「まどかもここに来たがっていましたが、学校に行ってもらいました。あいつには暁美のことをお願いしたんです」
「暁美さんの?」
「暁美は前からまどかのことを知っているようですからね。あいつのことはまどかに任せるのがいいと思ったんです」
一番はまどかが暁美の説得をして俺達の仲間になってくれることだが、そんなに上手くは行かないだろう。ならばせめて余計なことをしないでもらいたいというのが正直な感想だった。
(やっぱり俺はまどかみたいにはなれないなぁ……)
俺はまどかみたいに暁美を信じきることができなかった。彼女のことは何も知らないし、向こうは向こうで俺のことを疑惑の目で見てくるのだ。向こうが信じてくれないからこっちも信じないというのはあまりにも幼稚な考えだと分かっているが、それでも信じられない自分に内心ため息をついた。
(……とにかく今はマミさん達だ。まどかも自分にできることをしようとしてくれてるんだ。俺も頑張らないと)
俺は話を始めることにした。
「マミさん。昨日のことはまどかから聞きました。ソウルジェムが魔法少女の本体であるということを……」
「……そう、洲道君も知っちゃったのね」
マミさんは観念したような様子で俺の話を聞いていた。その表情を見て俺は昨日の杏子と同じように諦めてしまっているのではないかと思った。だから俺はさらに言葉を重ねる。
「マミさん、俺は魔法少女じゃないから、あなたの気持ちが分かるとは言いません。だけど俺はそれでもあなた達魔法少女はゾンビじゃないと思っているんです」
「洲道君……」
「俺は短い間でしたがあなたの姿を見てきました。その全ての姿が『生きている』と俺は胸を張って言えるんですよ」
今まで魔法少女としてこの町を守ってきていたが、それと同時に誰からも分かってもらえないという孤独を抱えていた。俺やさやかを優しくもあったが、ときには厳しく接して鍛えてくれていた。どれも巴マミという生きている人間が俺達に見せてくれた姿なんだ。
「……正直に言うとね、迷っているの」
「マミさん……」
「私はね、魔法少女にならなければあの事故で死んでいた。そのときには生きていることに何か意味があると思っていた。……でも今は何も分からなくなった。こんな身体で生きていることに果たして何の意味があるの?」
マミさんは今の身体で生きていくことの価値が見出せないようだ。俺が言葉を探しているときに隣にいた杏子が口を開いてきた。
「……生きていけばいいだろ」
「佐倉さん……?」
「マミ、確かにあたし達はキュゥべえにおかしな身体にされちまった。それでショックを受けちまうのは無理もないさ。あたしもそうだったからな」
昨日の杏子がまさにそうだった。最初は自分はゾンビであることを受け入れようとしていたのだから。
「……けどさ、それを知る前はあたし達は普通に生きてきただろ? そして知った後でもそれは変わりはしないんだ」
「でも……ソウルジェムを無くしたらこの身体は死んでしまうのよ? それでも、今までと変わりないと言えるの?」
「ああ。いいか、マミ……」
そう言って杏子はマミさんの手を取って自分の胸の所に当てて、自分の手もマミさんの胸の所に当てた。
「感じるか? 今のお前の手にはあたしの心臓の鼓動や体温が伝わってきているはずだ。そしてあたしの手からもお前の心臓の鼓動や体温が伝わってきている」
「あたた、かい……」
「覚えてるか? 前にあたしはお前をあたしの家族の食卓に呼んだことがあったよな。そのときのあたしの母さんの料理の味は覚えているか?」
「ええ……覚えているわ……」
「あたし達は食べ物の味を感じられる。嬉しいことがあれば喜ぶし、辛いことがあったら嫌な気持ちになる。身体だって成長するんだ。それは人間と変わりないはずだ」
「…………」
「さっき言っていたソウルジェムを無くしたときだってさ、たとえそうなったとしても……」
そこまで言って杏子は言葉を少し切ってうつむいてから、やがて再び顔を上げてマミさんの目を見る。
「お前にはそれを取り戻してくれる仲間がもういるんだろ?」
「あ……」
マミさんはその言葉にハッとした表情を見せた。そして俺の方を見てきたから、俺はそれを頷きで返した。
「だったら後はもうお前次第だよ。生きている意味なんてのは自分で納得する答えを見つけるしかないんだ。……まあ、一つ言えるとしたらそうやってふさぎこんでいる間は見つからないだろうね」
そこまで聞いてマミさんはうつむいてしまった。しかしそれは杏子の言葉に打ちのめされたからではないと俺は確信していた。確かにマミさんは精神的に脆い所がある。ずっと友達だと思っていたキュゥべえには裏切られた気分だろうし、自分の身体がおかしなことになっていることも知ってふさぎこんでしまうのも、きっと無理はないのだろう。しかし、マミさんは普段は俺達を導いてくれるような強さを持った人なのだ。きっかけさえあれば彼女はまた立ち上がれることができると思っていた。
「……佐倉さん、洲道君……」
やがてマミさんは顔を上げて俺達の顔をじっと見据えた。その瞳には以前見た強さがはっきりと伝わってきた。
「本当にありがとう……二人の言葉でやっと分かったわ。そうよね、私は今もこの手で佐倉さんの生きている証を感じることができる。それに私にはたとえソウルジェムを無くしてもそれを取り戻してくれる人がいるのよね」
そしてマミさんは俺達に輝くような笑みを見せてくれた。その美しさに俺は心臓の鼓動が速くなったことは内緒だった。
「私は……もう、一人ぼっちじゃないんだから」
その姿はまぎれもなく俺の知っている巴マミという尊敬できる人物のそれだった。
「でも、かっこ悪い所見せちゃったな……まだまだあなた達のお姉さんでいたかったんだけど……」
「あたしは知ってたから別に問題はねえよ」
「もう、そんなことを言って……」
杏子の言葉にマミさんが苦笑を浮かべる。二人はコンビを組んでいたのだから、そういう姿を見ることもあるのだろう。俺からも言っておこう。
「いいじゃないですか。完璧な人間なんてこの世にはいないんです。そういう所がある方が俺は好きですよ」
「もう、洲道君まで……でも、そう言ってくれるのは嬉しいな……」
俺の言葉でマミさんは笑ってくれた。そのことに満足していたが、同時に杏子が目を細めてこっちを見ていることに気付いた。
「どうした、杏子? 俺の顔になんかついてるのか?」
「……別に、なんでもねえよ」
そう言ってそっぽを向かれてしまった。なんだか不機嫌のようだが、何かあったのだろうか? しかし分からなかったので、俺は思考を一旦打ち切りマミさんに話しかけた。
「ところでマミさん」
「なあに?」
「生きている証なんですが、よければ俺の証も感じてみて下さいよ。それで俺も……べっふぅぅっっ!?」
最後まで言う前に杏子がこちらを振りむいてその勢いで拳を俺の腹に叩き込んだ。マミさんはいきなりの事態に驚いていた。
「裕、お前は反省って言葉を知らないみたいだなぁ……?」
「な、なんのことでしょうか……?」
「なら、あの後なんて言うつもりだったんだ……?」
「そ、それは……俺もマミさんの生きている証を感じさせて下さいって言おうとして……」
「ほう……?」
「も、もちろん杏子さんのやったように胸に手を置くなんてことはしませんよ!? 俺は……そう! 首筋に手を当てようとしたんだ!」
首には頭部に血液を送るための重要な血管が多く存在する。そこに手をあてれば血液の流れや体温を感じ取ることができるのだ。
「へえ……?」
だが肝心の杏子さんは全然信じていないご様子。やはり前科者には厳しいようです。そういえば表向きの理由は俺の監視とのことですしね。
だけど諦めるわけにはいかない。このままでは待っているのは鉄拳制裁だ。だからこそ俺は抗わねばならないのだ。
俺自身を守るために、生き抜くために。
「だ、だからさ、そんなに怒ることないだろ? 俺にやましい気持ちなんてないからさ、その拳を下せって。なっ?」
「ふーん……」
そこまで言うと杏子はあっさりと拳を下ろしてくれた。かと思ったら、いきなり杏子は何気ない風を装ってこんなことを言ってきた。
「マミの胸って大きいよなー? あたしから見ても羨ましいくらいだよ」
「あ、やっぱ杏子もそう思うか? 男なら誰でも興味くらいは持っちゃうよ……はっ!?」
その話し方に油断してしまい、俺は迂闊なことを言ったことに気付いたが、もう遅かった。あのときの路地での闘いのように杏子の表情は見えず、目だけが赤く光っている姿になっていた。
「裕の……ばかやろーーーーーーっっ!!!!!」
「ごめんなさあぶぅぅっっ!!!?」
謝ろうとしたところで続く第二撃が俺の腹に炸裂した。もう言葉は届かない。俺に残された道は存在していなかった。
「ひいいいぃぃぃっっ!!?」
「はあああぁぁぁっっ!!!」
その後数分間杏子の拳がぶつかる音が部屋に響いていた……
「さ、佐倉さん……洲道君は大丈夫なの……?」
マミさんはひきつった顔でぼろ雑巾のようになっていた俺を見ていた。あんなことをしようとした俺を心配してくれるとは、本当にこの人は天使だな……
「いいんだよ。反省って言葉をあいつの身体に叩き込んだだけだからな」
杏子はにべもなく答える。あの、杏子さん。それならどうして俺を殴っているときに「そんなに巨乳がいいのか!?」とか、「お前はあたしの胸を触ったくせに、まだ満足しないのか!?」とか言ったんですか? それを言うとただの胸の大きさへのやっかみにしか聞こえませんよ?
……けどまあ、あいつは昨日実際俺にやられた被害者だからな。俺が再び過ちを犯さないように彼女は動いてくれたのだろう。こいつも一応天使……なのかな?
とりあえずさっきの台詞のことは忘れることにしよう。
「それよりマミ。これから大事な話があるからよく聞いてくれ」
「な、何かしら……?」
「この見滝原には……もうすぐワルプルギスの夜がやって来るんだ」
「っ!? ど、どうしてそんなことが分かるの?」
「情報源は暁美ほむらだ。闘うための戦力がほしいということであたしに協力を求めてきたんだよ」
「暁美さんが……」
「そのときは信用できないから断ったんだけどな。あいつの持つ能力を使えば知ることは可能なんじゃないかっていうのが裕の考えなんだ」
話がワルプルギスの夜になった以上、俺も話に参加しないといけない。俺は痛む身体を起こして二人の方へ向き合う。
「マミさん。俺達は今まで暁美の魔法は時間を止めるだけだと思っていましたが、俺は少し解釈を広げて時間そのものを操ることができるんじゃないかって思ったんです。例えば、今の時間より先の未来を知ることができたりとか……」
「……それがもし本当にできるとしたなら、暁美さんの言っていることは全くのでたらめじゃなくなるわね……」
「意味もなく暁美が杏子に話を持ちかけるとは思えません。それに暁美はまどかにもワルプルギスの夜が来ることをマミさん達に伝えてほしいと言っていたそうなんです。けど、その後すぐにソウルジェムのことが判明してしまって話すタイミングをなくしてしまったそうなんですが……」
「そうだったのね……」
マミさんはそこから考え込んでしまった。無理もないだろう。今まで話に聞いていた最強の魔女がこの見滝原に来るというのだから。マミさんほどのベテランだからこそ、その恐怖はしっかりと感じることができるのだろう。
「それでマミさん。アイツと闘うために杏子が協力してくれることを約束してくれたんです」
「えっ!? ほ、本当なの、佐倉さん!?」
その言葉に驚いた様子で杏子の方を向く。杏子の方は少し気まずそうにしながらそれに答えた。
「……まあ、そういうことだ。あたしとしてもワルプルギスの夜にこの町を壊されるのは困るんだ。かと言って一人で勝てるわけでもない。けど数人でかかれば勝てない相手じゃないはずだ」
昨日と同じ理由を杏子は口にした。確かにそういう理由もあると思うが、俺はあの教会がアイツに壊されるのが許せないというのもあるような気がしていた。あの時は風見野へ逃げるみたいなことを言っていたが、なんだかんだで見滝原を守ろうとしていたんじゃないだろうか、と思った。本当にあのときあいつのことを信じられなかった自分には嫌気がさしてしまった。
「あたしはお前らのやり方に賛同したわけじゃないけど……お前らなら背後から襲うなんてことはしないって信用できるんだ」
「佐倉さん……」
「だから今だけは力を合わせようぜ、マミ。とっととワルプルギスの夜を倒しちまおうぜ」
「マミさん、俺からもお願いします。杏子は少なくともこの闘いが終わるまでは一緒に闘ってくれると約束してくれました。絶対に裏切らないことは俺が保証します」
「洲道君……」
マミさんは以前考え方の違いで杏子と仲違いしたことがある。いきなり信じてもらうことは難しいかもしれないが、そこは分かってもらうしか方法はなかった。やがてマミさんの思考が終了したところで口を開いてきた。
「……分かったわ。佐倉さん、私達と一緒に闘いましょう。それから、これから先も一緒に闘える日が来ることを私は信じているわ」
マミさんは杏子を信じる道をとってくれたようだ。そのことに俺は安堵した。
「……そこまでは期待しすぎだ。あたしはまだ認めたわけじゃないからな」
「でも、洲道君の言葉はあなたに届いたのでしょう?」
「さあね。あたしは利害が一致したからこうなっただけだ。それ以外にはねえよ」
「……ふふっ」
杏子の言葉にマミさんは愉快そうに微笑んでいた。
「な、なに笑っているんだよ、マミ!!」
「なんでもないわ。でも、今ので確信したわ。私達はきっと分かりあえるってね」
「ねーよ! そんなこと!」
そう言って杏子はマミさんに突っかかって行って、マミさんはそれを楽しそうに受け流していた。その微笑ましい光景に俺は自然と笑みが浮かんでいた。
そんな時に腹の虫が鳴ってきた。その音に二人が振り返った。
「あら、もうこんな時間ね……二人とも、ご飯を食べていかない? 今なら食後にケーキも出せるわよ?」
「是非!!」
「もう腹ペコなんだ!! 頼むぜ、マミ!!」
もう昼ご飯を食べてもいい時間だ。ブランチといきますか。
(学校はもうすぐ昼休みだな……あとでまどかに電話するか)
そう考えて俺達はマミさんの料理が出るのを楽しみにして待っていた。
マミさんはメンタルは弱いですけど、落ち着いて事情を話して一人じゃないことを自覚できていれば、しっかりと受け止められる強さを持っていると僕は思うんです。まあ、魔女化についてはまだ分かりませんが・・・