魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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今回はこの小説の登場人物が多く出てきます。


拒絶と宣言

 朝がやってきた。昨日の杏子との闘いのせいか、少し疲れが残っていた。

(昨日はああ言ったけど……どうすればいいかな?)

 杏子のことを信じて欲しいとは言ったが、俺はじつのところ、あいつの過去に関しては何も知らないのだ。今までは聞く必要はなかったのだが、これからあいつと関わる以上、必ず踏み込むときがくるような気がしていた。

(でも知る必要があったとして、あいつがそれを話すとは思えないしな……)

 知らないということに関しては暁美も同じだが、あいつは能力以外に分かってることは何もないのだ。あいつに何か聞けるとしたら、まどか以外に思いつかないのだが、まどか自身も暁美のことを夢で見たことしか心当たりがないようだし、まどかが聞くというのも難しいだろう。

(やっぱり今は杏子の方かな……というよりあいつは今どこに住んでいるんだ?)

 あいつは風見野から見滝原に移って来たと言っていたが、そもそもそんなに簡単に居住区を変えられるものだろうか? 家族で引っ越してきたというのは考えにくいし、友達の家で過ごすにしても限度がある。

(あいつもあいつで暁美と別の意味で謎だな…放課後になったらあいつを探してみるかな……)

 とりあえず当面の行動方針を立てたところで携帯にメールが来ていたことに気付いた。差出人は、あの男だった。

「こんなときになんだっていうんだ……?」

 メールを開くと、そこには四桁の番号、六桁の番号、そして四桁の番号が書かれていた。

「ふーん、了解……」

 メールの内容を確認した俺は支度をした後学校へ出かけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は休み時間に五人で集まっていた。ちなみに暁美は今日は休んでいた。風邪とのことらしいが、絶対に違うだろう。

(暁美は何をしに行っているんだ……?)

 そこは考えても判断材料がないので、思考を一旦打ち切ることにした。

「なあ、皆。今日はちょっと時間空けられるか?」

 俺は皆に聞いてみる。

「え? うん、大丈夫だけど……」

「どうしたのさ、裕一?」

「まあ、問題ないぞ」

「私も大丈夫ですけど……」

 まどか達も大丈夫のようだ。これでようやく全員で行ける。思えば暁美が転校してきたときから、機会がなかったように思える。

「恭介の手も治ったことだしさ。久々に皆で見舞いに行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裕一達が学校にいる間、ここ見滝原のゲームセンターでダンスゲームを終えた少女の姿があった。その少女に近づく人物がいた。

「佐倉杏子ね」

「そうだけど、あんたは……」

 杏子は自分に声をかけたその人物を観察してみた。今まで見たことがなかったが、その人物の特徴に杏子は頭に閃くものがあった。

「黒髪ロングに発育不全……なるほど、あんたがこの町にいる三人目の魔法少女か」

「……その情報は誰から聞いたの?」

「まあ、その辺は気にすんな。それで? あたしに何の用?」

 目の前の少女から発せられる殺気を受け流しながら杏子は尋ねる。

「……まあ、いいわ。私は暁美ほむら。あなたに話があって来たの」

「つーか、あんた見滝原の生徒でしょ? こんな時間にこんな場所にいていいわけ?」

「そこは気にしなくていいわ」

「まあ、いいけどね……こんな時間に出歩いているってことはさ、普通の生活を捨てちゃってるってことだろ? あんたは魔法少女の生き方を少しは分かってそうじゃん」

「…………」

「あたし達はもう普通じゃない。そんなあたし達が普通の生活なんておくれるはずがないんだ」

「普通じゃない……確かにそうかもしれないわね」

「それを分かってないマミや、あのさやかってやつも家だの学校だのと普通の生活にしがみつこうとする」

「…………」

「他にも誰が助けてくれるわけでもないことを知っているくせに他人に手をさしのべる変なやつもいたりする」

 その時杏子が思い浮かべていたのは、昨日自分を打ち負かした少年の姿だった。あの時自分は負けたが、不思議とそこまで怒りは湧かなかった。それは自分が好敵手と認めた相手があそこまでの存在だったということに対しての愉快感によるものだったのか、あるいはあの場で自分を止めてくれたおかげだったのかは彼女には判断がつかなかった。もっとも、後者に対しては彼女が認めることは絶対にないだろうが。

「……佐倉杏子。私は巴マミ達の話をしにきたんじゃない。私は私の話をしにきたのよ」

「おっと、悪かったね。つい愚痴ってしまった。それで、あんたの用事ってのは?」

「……あなたに仲間になってほしいのよ」

「なんだそりゃ? 同盟組んでマミ達と闘おうって言うのか?」

「そうじゃないわ。私達の相手は魔法少女じゃない、魔女よ」

「ふーん? そんなに手強い魔女がいるのかよ?」

 

 どうやらこの魔法少女はこの町を縄張りにするために自分にもちかけたのではないらしい。さらにそこまで強い魔女ということにも杏子は興味を持った。それゆえ、杏子は続きを促すことにした。

 

 

「もう少ししたら、この町にワルプルギスの夜がやってくる」

 

 

「……なぜ分かる?」

 その言葉に杏子は一瞬驚いたが、すぐに冷静になって聞き返した。その名前は杏子も知っていたが、なぜそれが目の前の魔法少女がそこまで詳しい情報を持っているのかが気になっていた。

「それは秘密よ。でも、ワルプルギスの夜を倒すために、あなたの力が欲しい。私に力を貸して」

「それをなぜあたしに言うんだ? マミ達に協力を仰げばいい話だろうが」

「巴マミは私を信用していないのよ。美樹さやかも魔法少女としては致命的に向いていないし、実力もない」

「それであたしってわけかい……」

「あなたは魔法少女としての実力もあるし、考え方も魔法少女として適しているわ。私はあなたなら信用できる」

「はっ、おだてるつもりかい? まあ、いいけどね。あんたも魔法少女の生き方ってやつを少しは分かってそうだし、マミ達よりは好感を持てそうだよ」

 この時杏子は嘘をついていなかった。ようやく自分の知っている魔法少女の姿を見られたような気がしていた。むしろ、他人のために使い魔も倒そうとしているマミ達の方が杏子にとっては異常であると言えた。

 少しだけ考えてもいいか、と考えていたときにほむらはさらに言葉を重ねてきた。

 

「それに巴マミ達の側にもっと信用できない人間もいるのよ」

「ふーん、誰だい、そいつは?」

「あなたも昨日闘ったはずよ。魔法少女とは違う存在である彼と」

「…………」

 そこで杏子は押し黙ってしまった。ほむらの彼への考えを読み取ろうとしたためである。

「彼の持つ力は得体の知れないものだわ。それに考えも読み取れないのよ。味方にするにはあまりに危険すぎる」

「……ふーん」

 知らずに杏子は目を細めてほむらを見つめていた。

「……まあ、気持ちは分からないでもない。得体の知れないやつと組んで背後から襲撃でもされたら目も当てられない」

「理解が早くて助かるわ」

 ほむらも杏子が自分の考えに同意してくれて内心喜んでいた。それゆえ、彼女の次の言葉に対応ができなかった。

 

「――――悪いけど断らせてもらうよ、この話」

 

「……え?」

「話はこれで終わりかい? なら、とっとと行きな」

 そう言って杏子は後ろを振り向く。もう話すことはないという意志表示だ。

「……なぜなの? あなたもワルプルギスの夜にこの町を破壊されるのは、狩り場を荒らされて困るはずよ」

「確かにそうだけど、そいつが本当に来る保証もないし、それに……」

「それに?」

「あんたはさっきそいつが得体の知れないやつだから信用できないって言ってたけどさ……」

「それがどうしたの?」

 杏子はため息をついてからほむらの話の盲点を指摘した。

「自分もそれに当てはまることに気付かないのか?」

「っ!?」

「あんたもさ、一緒に闘うとか言っておきながら、あたしの背後をねらいそうじゃん? あたしに似た考えを持った魔法少女ならなおさらだ」

「……私はそんなことはしないわ」

「それを証明できんのかよ?」

「…………」

 ほむらは答えることができなかった。人の考えを証明する証拠など、そうそう出せるものではない。

「ま、そういうことだ。不安要素を入れるくらいなら最初から一人の方がいい。……あたしは、これからもそうやって生きて行くんだ」

 そう言って杏子はほむらの横を通り過ぎてゲームセンターを出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーっす、恭介。俺がいなくて寂しかったか?」

「こんにちは、上条君。元気そうでよかった」

「やっほー、恭介。今日は全員集合だよ!」

「よう、上条。リハビリは順調か?」

「上条君の手が治ってよかったですわ。クラスの皆も喜んでいますわよ」

 俺達は今恭介の病院に足を運んでいた。恭介は手が治ったおかげなのか、以前よりも明るく見えた。

「やあ、皆。来てくれてありがとう。リハビリは順調だから、もうすぐ退院できると思うよ」

「そっかそっか。後は足だけか。足も手と一緒に治ればよかったのにな」

「うぐっ!?」

「さ、さやかちゃん!?」

 俺の言葉にさやかはよろめいてしまった。少しからかったつもりだったが、わりとダメージが大きかったようだ。後で謝っておくか。

「それでバイオリンの方はどうなんだ? この前さやかや両親の前で弾いたんだろ? 俺達にも聞かせてくれよ」

「えーと、もう少し待ってくれないかな? まだ練習したいし、今考えているフレーズがあるんだ。退院してそれが形になったら皆に聞いてほしいんだ」

「なーんだ、お預けか。さやかばっかりずるいぞー」

「あっはっは。君達とは恭介と過ごしてきた年月が違うのだよ、裕一」

 俺の愚痴にさやかは愉快そうに返す。さっきの仕返しか?

 

 

 

 しばらく俺達は雑談にふけっていたが、ある時恭介がこんなことを聞いてきた。

「そういえば裕一。風見野にいるライバルとはその後どうなの?」

「ああ、あいつとは昨日勝負してなんとか勝ったぜ。これで一勝二敗だな」

「へえ、なら今日も会いに行くのかい?」

「う~ん、一応そのつもりなんだけど……」

 なんせ、今杏子は見滝原のどこにいるか分からないし、会ったとしても、どう会話すればいいかも分からない状態なのだ。

「あれ? ひょっとして彼女と喧嘩でもしたの?」

「まあ、そんな感じなのかな……」

 そんなことを考えていたせいで、俺は恭介の問いの中に出てはいけない単語が出てきたことに一瞬気付かなかった。

「ちょっと待て、洲道。『彼女』だって?」

「もしかして、風見野で会っていた方は女性なんですの?」

 気付いた時には遅かった。中沢と仁美は耳ざとくその単語を聞き取ってしまったのだ。その瞬間中沢はにやけだして、仁美は目を輝かせていた。

「なんだよ、洲道。ついにお前にも春が来たってことか」

「まあ! 今まで好敵手だった関係がいつしか恋仲になっていく……素敵なことですわ、洲道君!」

「いや、違うって。俺とあいつは、よき戦友って感じなんだよ。恋じゃないって」

「なら、なんで隠してたんだよ?」

「……こういうからかいをされると思ったからだよ」

 まどか達には話しているが、それは魔法少女という事情があったからだ。しかし中沢と仁美には話せないため、杏子のことを話してもからかわれるだけだと思ったのだが……

(しまった……恭介の口止めを忘れてた……!!)

 自分の後悔をよそに向こうはさらに聞いてくる。

「でも、どうして喧嘩なんてしているんですの?」

「えっと、それは……」

「ああ、裕一が散々セクハラしていたから怒っちゃったんだよ」

「おい、さやか!?」

 さやかの言葉を聞いた瞬間、部屋の温度が一気に下がった。

「裕一……」

「洲道……」

「洲道君……」

 恭介達の視線が冷たかった。俺はその温度に耐えきれずに声を荒げてしまった。

「だから、あれは違うって言ってんじゃん!?」

 いくら魔法少女の事情が言えないからって、わざわざそれをチョイスするなんて……!!

「「「「「…………」」」」」

 皆の視線が突き刺さる。まどかとさやかは事情を知っているのにその視線に参加していた。

「見るな……そんな目で俺を見るなぁぁぁ!!?」

 ここが病院であることも忘れて俺は絶叫した。

(……うん、さやか、後で拷問してから死刑)

 こうして俺はさやかへの復讐を誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恭介への見舞いを終えた俺達は一旦解散することになった。さやかにはマミさんに少し遅れることを伝えてもらい、俺は駅へ向かった。電車に乗るわけではなく、そこにあるコインロッカーに用があった。今朝のメールはあの男に以前言われていたことで、最初の四桁の数字はロッカーナンバー、次の六桁の数字は暗証番号となっている。俺に何か渡したいものがあった場合、そのロッカーに入れておく、という仕組みになっているのだ。コインロッカーを開けるとそこには通帳があった。最後の四桁はおそらくこの通帳の暗証番号だろう。とりあえずその額を確かめてみた。

「っ!? なんだ、これ……」

 俺は迷わず電話をかけた。その相手は言うまでもない。そいつは数コールで出た。

「受け取ったようだな」

「なんだよ、この額は!? 今時の中学生の小遣いにしては多すぎるぞ!?」

 

 通帳に記載された額は俺が働かなくても数年は十分に食べていけるほどだった。単純に受け取るには多すぎて萎縮してしまう。

「報酬の前払いといったところだ」

「報酬、だと……?」

「お前は魔女を倒していくのだろう? その報酬と思えばいい」

「…………」

 その言葉に俺は凍りつく。今の会話を誰かが聞けば、頭がおかしいとしか思われない。しかし、現実としてこの通帳があり、その額は冗談とは言えないものなのだ。それはつまり……

「……あんたは知ってたのか。魔女の存在も、それに対抗する存在も、俺が今まで夢で見てきたヤツの正体も」

「…………」

「教えてくれよ……あんたは、それに俺は一体何者なんだ?」

 ……それはずっと聞きたかったことだった。自分の生い立ちは普通とは言えない。生きている間は、なぜこんなことになったのかをずっと知りたかったのだ。しかし、

「それは今は知る必要はない。いずれ分かることだ」

「……そう、かよ」

 それが答えだった。それに落胆する自分がいたが、それと同時に安心してしまう自分もいたことに俺は気が付いていた。

(俺がそれを知ったら、もう皆と会うことはできなくなると思っているのか?)

 それは自己に向けての問いだった。しかし、それを知る方法は今の俺にはなかった。気がつくと俺は心臓の所を強く押さえていた。

「不服ならば命令が望みか?その金を使って生きていけと?」

「……いいや。ありがたく使わせてもらうよ。これは正当な報酬だからな。……けどな」

「?」

「いつまでも人を命令で縛れると思うな。あんたの思い通りにならないことなんて、世の中にはいくらでもあるんだよ」

 それは宣言だった。俺はいつか自分の願いを守るためにこの男と対立するときがくるだろう。

「お前にはあるのか? 私に刃向ってまで貫き通したい願いがあるというのか?」

「おぼろげにだけど、な。そして掴んだら、もう二度と離しはしない」

「……そうか。ならば、いつかそれを見せてもらうとしよう」

 それだけ言うと電話は切れてしまった。俺は通帳をかばんにしまった。

「……ああ、楽しみにしてろよ」

 そう言って俺は歩きだして行った。

 




今回のタイトルは前半は杏子のことで、後半は裕一のことです。裕一がいることで、ほむらにはまたイレギュラーな事態が発生してしまいました。しばらく彼女は一人になってもらいますw

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