魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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マミさんがマミっていないと、どの辺りで活躍させるか、結構難しいです。その辺りの違いもしっかり書いていきたいです。


いつもの俺達

 洲道君が走り去った後、私は暁美さんがおかしな動きをしないように見張っていた。

「馬鹿なことを……彼が行ったところで何も変わらないわ」

「そう思いたければ、そう思うといいわ。今の彼は強いわよ?」

「……洲道裕一が佐倉杏子に敵うはずがないわ」

「っ!? 佐倉さん、ですって……?」

 佐倉杏子。私が以前コンビを組んでいた魔法少女だ。パワーとスピードに優れ、幻惑の魔法を使うことで相手を翻弄する戦術をとっていた。あの時の彼女は正義感にあふれ、私と共に困っている人達のために魔女や使い魔を倒していた。しかし、彼女はある日突然変わってしまった。幻惑の魔法を使わなくなってしまい、その上狙いは魔女だけに絞り、グリーフシードを落とさない使い魔は人を襲わせて魔女にさせようと提案してきたのだ。そんな提案にはのれないことを彼女に告げると、彼女はもう私とは闘えないことを告げて、風見野へ去ってしまった。彼女との別れが私の心に孤独の辛さをより強く刻みこんでしまったのだった。

「あなたなら分かるはずよ。佐倉杏子の実力を。彼だけを行かせたのはあなたの失策よ、巴マミ」

「……それでも、あなたを自由にしていい理由にはならないわ。暁美ほむらさん。あなたは誰の味方なの?」

「私は冷静な人間の味方で、無駄な争いをする馬鹿の敵よ。あなたはどちらなの?」

「さあ、分からないわね。あなたの目にどう写っているかは私には知りようがないわ」

「……私の能力なら、彼女達の争いをすぐに止めることができる。このリボンを外しなさい」

「あなたの能力……それは時間停止かしら?」

「っ!!?」

 彼女の顔が驚愕の色に染まる。どうやら洲道君とキュゥべえのたてた仮説は正しかったようだ。

「あなたは自分の周囲の時間を止めて自分だけが動くことができる。そうでしょう?」

「な、ぜ……」

「そしてその能力にも弱点はある。一つはあなたに接触している人間もまた時間は止まらないこと。そしてもう一つはあなた自身はこの束縛をとく力がないということね」

「なぜ……あなたがそれを知っているの!?」

「その反応を見る限りでは正解だったようね」

「!? ……くっ……!」

 これで彼らの仮説の裏付けがなされた。このまま洲道君と共に鹿目さん達の元へ行くこともできたのだが、この場では彼女の能力の確認を取りたかったのだ。

「それなら確かに彼女達の闘いを止められるでしょうね。……例えば彼女達の無防備な背中を狙う、とかね」

 それならなおさら彼女を自由にするわけにはいかない。彼女が誰の味方かわからない以上、下手をすれば鹿目さん達が襲撃される危険性もあるのだ。

「彼、なの……?」

「え?」

「私の能力を教えたのは……洲道裕一なの!?」

 暁美さんは感情をむき出しにして問い詰めてくる。今までの彼女の姿とそれは、あまりにもかけ離れていた。自分の力の正体を知られたことなど全く予想できなかっただろう。

 確かに彼女の言っていることは大体において正しい。最も、それは教えたというより彼が実際に使った後でその力を検証して判明したというのが真実だ。彼がもともと知っていたというのは違う。

 そして私がこうして生きているのも、彼女の力を彼が使ってくれたからなのだ。だけどだからと言って彼女に感謝するべきというのも違うだろう。助けてくれた要因が彼女であっても、実際に助けてくれたのは彼なのだから。

 

 だから彼女の疑問に答える必要も義務も義理もないし、むしろ下手に彼女に情報を与えるのは危険でしょうね。

 

「さあ? どうして彼の名前が出てくるのか、私には分からないわ。あなたが彼に教えたのかしら?」

「とぼけないで……!」

 私の答えが気に入らなかったのか、彼女は拘束をとこうと暴れ出した。しかし、拘束は外れないままだった。

「一つだけ教えてあげるわ。あなたはさっき彼は彼女に敵わないと言ったけど、私はそうは思わない」

「なんですって……」

 

「私は彼を信じているわ。あなたとは違って、ね」

 洲道君。鹿目さんと美樹さん、それからできれば佐倉さんのことも……お願いね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の光景に俺は未だに混乱していた。俺の目の前には杏子がいる。しかし、今のあいつは魔法少女であることを心臓の鼓動が教えてくれる。なぜ、なぜこんなことになっているのだ。

「……ふん、まさかお前とこんな所で会うとはあたしも思ってなかったよ、裕。けどまあ、手間が省けたってもんだよ」

 その声も俺の呼び方も彼女のそれに間違いない。目の前の少女が俺の好敵手である証が次々と出てくることに俺はさらに混乱してしまった。

「ちょっと待ってな。こいつにちょっと先輩に対しての礼儀ってやつをたたき込んでやるからよ。その次はお前に対してのおしおきだ」

 そう言って杏子は倒れているさやかのほうへ向きなおす。その時になってようやく俺はなぜここに来たのかを思い出した。俺は慌てて杏子とさやかの間に割って入って杏子を止めることにした。

「ま、待てよ、杏子。どうしてさやかを襲うんだ?」

「お前には関係のない話だよ。お前の知らない世界が世の中にはあるんだよ」

「それって……魔法少女と魔女のことだろ?」

「っ!?」

 突如はじかれたように杏子がこちらを向いてきた。

「なんでお前がそれを……まさか!?」

 杏子はまどかが抱いていたキュゥべえの方へ振り返った。

『そうだよ、杏子。彼が洲道裕一。君達魔法少女とは違う力を持った、極めつけのイレギュラーさ』

 そんなことをキュゥべえが言ってきた。どうやらキュゥべえの方は杏子のことを知っているようだ。そして俺のことも杏子に話していた。

 それにしても、極めつけのイレギュラーなんて言って、人を珍獣扱いしやがって……

 すると杏子はその言葉を聞いていきなり笑い出した。

「くっ、あはははは! まさかお前がキュゥべえの言っていたイレギュラーとはな! 全くお前はどこまであたしを楽しませてくれるんだよ、裕!?」

 その笑みも俺が今まで見てきたものと変わらない、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供の見せる無垢なもののそれだった。だけど、相手が杏子とはいえ、さやかを襲った犯人であることに変わりない。とにかくあいつの話を聞かなければ。

「……答えてくれ、杏子。なんでお前はさやかを襲うんだ?」

「ああ、こいつがたまごを生む前の鶏の首を絞めようとしていたからね。それを止めただけだよ」

「……?」

 意味が分からない。杏子は何を言っているのだ?俺はさやかの方に視線を向けて事情の説明を促した。

「ゆ、裕一……こいつのことを知ってるの……?」

「そのことはあとで説明するから今は状況を説明してくれ」

「こ、こいつはさっき見つけた使い魔の結界に入るのを邪魔してきたんだよ! おかげで使い魔を取り逃がしちゃったんだ!」

「なんだって!?」

 その言葉を聞いた俺は杏子に向き直る。彼女の真意を問いたださねばならない。

 対する杏子はまるでおかしいのは俺達であるかのように視線を送っていた。

「おかしなことかよ? あいつは使い魔なんだぜ? グリーフシードを持ってるわけないじゃん。あと4,5人食って魔女になるまで待てってーの」

「なっ……」

 その言葉が信じられなかった。彼女は人を襲う使い魔を見逃せと言うのだ。俺が知る佐倉杏子の言葉とは思えなかった。

「なに言ってんだ!? あいつだって魔女と変わらず人を襲う。食われてしまってからじゃ遅いんだぞ!?」

「そうさ、それでいい」

「何を……」

「ふう……同じ説明をするのは嫌いなんだけどねぇ。まあ、いいや。裕、食物連鎖って知ってるだろ?」

 杏子はどんどん近付いてくる。一歩一歩近づくたびに俺はたじろいでしまう。

「弱い人間を魔女が食う。その魔女をあたし達が食う。これが当たり前のルールなんだよ。そういう強さの順番なんだから。……ああ、そういやお前はどこに位置するんだろうな。裕?」

 俺はマミさんの言葉を思い出した。マミさんやさやかのような考えをする魔法少女は珍しく、大抵はグリーフシードが目当てだから使い魔を見逃す魔法少女が多いという。今の杏子の言葉がそれなのだろう。

「……それが、以前お前が言っていた自分のためにしか動かないっていうことなのか?」

「そういうこと。まさかあんたもそこのひよっ子と同じようなことを言わないよね? あたしを失望させないでくれよ、裕」

「…………」

 これが、俺が友達であり、好敵手と認めた佐倉杏子の本性なのだろうか?俺は今まで会った杏子の姿を思い出す。俺とダンスゲームで闘っている姿、俺がおごってやった飯を旨そうに食べる姿、なんだかんだで子供の世話をしていた時の姿、そして自分のためにしか動かないと言っていたときのうつむいていた姿。どちらが本物なのか、俺の中ではほとんど決まっていたが、最後に試しておきたいことがあった。

「……そうか。それなら、杏子。お前の理屈に照らし合わせるとしたらさ、」

「あん?」

 俺の言葉に怪訝な顔を浮かべていたが、かまわず言葉を続けた。

「お前は俺に死ねって言うんだな?」

「なっ……」

 その言葉に杏子は凍りついた。

「お前と最後に会ったときの帰りに、俺は使い魔に襲われたんだ。あの時、魔法少女に助けられなければ、俺は確実に死んでいたよ。だからこそ、使い魔を見逃すことは自分を見殺しにすることと同じになってしまうんだ」

 そんなことが認められるわけがない。

「どうなんだ、杏子? 俺だけじゃない、あの子供にしたってそうだ。あの子が使い魔に食われてそれで魔女に成長したとして、お前はそれを必要な犠牲だった、と胸を張って言えるのか?」

「それ……は……」

 今までの姿が嘘のように目に見えて動揺している。やはり、俺の信じた姿の方が正解だったようだ。こいつはただ偽悪的に振る舞っているだけだ。それなら、もう迷うことはない。

「杏子。俺はその後自分には力があることを知ったよ。自分や、目に写る他人を守るための力をな」

「…………」

「お前に言った言葉を破ったつもりはないよ。今も俺は闘っている。この手を伸ばし続けている」

「……何が、言いたい?」

「お前もかつてはそうだったんじゃないのか?」

「っ!?」

「いや、今はそれはいいか……でも、俺が今まで見てきたお前の姿の方がずっと自然でいたと思っている。今のお前は明らかに無理をしている。今のやりとりでそれがよく分かったよ。俺はお前を信じる」

「…………」

「けど、お前もさやかを襲った手前、後には引けない。こっちも使い魔を見逃すということはできない」

 ――――だから、さ。

 俺は上着を脱ぎ、シャツの上二つのボタンを外す。杏子と闘う時の本気モードだ。さらにさやかの剣を作り出し、両手にそれぞれ持つ。

「勝負しようぜ。あのダンスゲームの続きっていうのはどうだ?お互いの意地の張り合いってやつだ」

「……ふん、思い出したよ。お前は面白いやつだけど、同時に変なやつでもあったな」

「また、失礼なことを言いますね、あなたは」

「けど、勝負っていうのは悪くない提案だねぇ……今まで溜まった鬱憤をここで晴らすいい機会だ。あたしに待ちぼうけをくらわせたおしおきも同時にできるってもんだ」

「その辺りは許してくれないのかよ?」

「駄目だね。あたしの時間は高いんだ。……まあ、どうやらあたし達の闘いに足をつっこんだ期間は短いようだし、あたしから一本とれたらこの場は引いてやるよ。けど、負けたら……」

「ああ、またお前の気のすむまで飯をおごってやるよ」

「忘れんなよ? 今度こそ約束は守ってもらうからな」

 いつものやり取りが戻ってきていた。今は血がたぎってしかたがない。そうだ、俺達はこんな感じだったんだ。俺達はいつも互いの意地を張り合って勝負してきた。そして、今この瞬間俺達は再び対峙している。

 そして、いつしかそれが俺にとってかけがえのない『日常』の一つになっていた。これから命を賭けた闘いが始まるというのに、俺は日常の一つが帰ってきたことに笑みを浮かべていた。今の俺の心にあるのは一つだけだ。それは、今度こそこいつに勝ってやる、という想いだ。

 

 

 

「――――じゃあ、行くぜ、杏子!!」

「ああ、存分に踊ろうぜ、裕!!」

 

 

 

 




この展開は裕一が杏子に会ったときから一応頭にはありました。次はVS杏子です。

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