魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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色々視点が変わります。


それぞれの動き

「杏子は……いないか」

 俺は風見野に来て最初にゲームセンターへ行ってみたが、そこに杏子はいなかった。その後、ざっと杏子の行きそうな場所にも足を運んだが、それでも会えなかった。やはり怒ってしまって、もう会おうとはしなくなってしまったのだろうか。携帯で連絡できればいいのだが、あいつは携帯を持っていないと言うし、俺も現在なくしているため、その手段はとれない。今回はあきらめるしかないようだ。

「はあ……」

 俺は知らずにため息をついていた。正直ここまでがっかりしたのは久しぶりだった。どうやら俺はいつのまにかあいつに会うのを楽しみにしていたようだ。

『裕一はその子のことが好きなの?』

 その時、恭介の言葉が頭に浮かんできて、俺はそのことについて考えてみた。確かに好きか嫌いかでいえば、間違いなく好きだと断言できる。だが、それが恋愛感情なのかと聞かれると首をかしげてしまう。誰かと付き合ったこともないからだ。

(うん、やっぱりライバルがいないとつまらないとか、そんなところだろ。大体、色恋沙汰で恭介の意見が参考になるとは思えないし。さやかも大変だよな、本当)

 そこまで考えた俺はマミさんの所へ行くために見滝原へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

「さやかちゃんも魔法少女になって、洲道君もマミさん達と一緒に闘う。私は……」

 私は今一人で帰っている所だ。マミさんの所へ行こうとも思ったが、今日はさやかちゃんと洲道君の修行がある。私にできることは何もなかった。

 最初は私も魔法少女になろうと思っていた。自分にはその資格があり、そして素質はマミさんよりもずっと上であるとも言われた。そんな自分が憧れだったマミさんと同じように誰かのために闘うことができる。そのことにやりがいを強く感じていた。

 しかしそれでも私は魔法少女にはならずに、今はここでこうしている。なぜなら、魔法少女になろうかと考える度にあの病院の結界のときの闘い、そして何より彼の言葉を思い出してしまうからだった。

 

『お前はただ、『魔法少女』っていう自分が自慢できるものが欲しいだけなんじゃないか?』

 

 洲道君はあのとき、今まで何かに役立つことのできなかった自分自身が嫌だった、という私の言葉を聞いていた。そしてそんな自分じゃなくなるために魔法少女になりたいんじゃないのか、と指摘されてしまった。私はそのことに否定も肯定もできずにいた。考えれば考えるほど答えが見えてこなくなり、自分の決意がいかに弱かったことをを自覚せざるを得なかった。

 

(私はマミさんの話をただ聞いていただけで、理解はできていなかったんだ……)

 

 そしてさやかちゃんが魔法少女になった今でも、私は魔法少女になることできなかった。自分も闘おうと思ったことは何度もあったが、その度に自分が後悔しないだけの願いについて考えてしまい、なにもできなくなってしまうのだ。

 

「私は、どうしたら……あ」

 どうすればいいのか、思考のループにはまりそうになっていたら、目の前にある人物が立っていた。

「ほむらちゃん……」

「少し話したいことがあるのだけどいいかしら?」

「う、うん……」

 マミさん達はほむらちゃんのことを信用していないのだが、私はそのことについて素直にうなづくことができなかった。できることなら、マミさん達と和解して一緒に闘ってほしい。そのことをお願いしてみようと思って、ついていくことにした。

 

 

 

「それで、話ってなにかな?」

「もう単刀直入に聞くわ。……彼は何者なの?」

「彼?」

「洲道裕一よ」

 洲道裕一。彼と最初に出会ったのは一年の頃だ。彼はよく放課後になるとすぐに帰ってしまっていた。付き合いが悪いということで彼は若干クラスで浮いていた。けれどある日、上条君が班決めで私達だけでなく、彼も加えた。そこから彼との付き合いが始まったが、接してみると彼は誰かに嫌われるような人ではないことがよく分かった。今もさやかちゃんと同じように場を盛り上げてくれるムードメーカー的な存在だ。

 そんなことをほむらちゃんに話した。

「……そう、なの」

 ほむらちゃんはそう言って黙り込んで考え込むようになってしまった。私はほむらちゃんに提案をしてみた。

「あのね、ほむらちゃん。できることなら、マミさん達と協力できないかな?」

「…………」

「マミさんはグリーフシードを独占するような人じゃないよ。さやかちゃんだって、洲道君だって、この町のために頑張ってくれてるんだよ。ほむらちゃんも協力してくれれば、きっといい仲間になると思うの!」

「…………」

「私もできるなら、そのお手伝いができればって思ってたんだけど、私の願いについて言ったら洲道君に怒られちゃって……」

「……なんですって?」

「今のままだと絶対に後悔するから、もう一度よく考えてみろって。ないなら、ないほうがいい、とも言われちゃったんだ。私は今そのことで悩んでいて……」

 

 私は今、洲道君の問いに対して明確な答えを出せていない。そしてそれに答えられない限り、今魔法少女になったとしても私はきっと後悔してしまう、と思っていた。

 

 そこまで話すとほむらちゃんがこちらをにらんできた。

「その点についてだけは同意見よ。あなたは絶対に魔法少女になるべきではない」

「っ……」

「あなたは私に何度同じことを言わせるの? 私の忠告は無駄だったということ?」

「そ、そんなつもりじゃ……」

「なら、なぜ魔法少女になりたいだなんて言うの!!」

 声を張り上げて私を糾弾してくる。その瞳には怒りや苛立ちだけではなく、悲しみも含まれている気がした。私の優柔不断のせいでこんな表情をさせているのかと思ってしまったら、彼女に対して申し訳なく思ってしまう。

「協力についても、今の段階では無理よ。巴マミは私を信用していないし、美樹さやかは実力もなく、魔法少女には致命的に向いていない」

「え……?」

「彼女の甘さや油断もそうだけど、どんな献身にも見返りなんてないということを美樹さやかは分かっていない。そんなことでは彼女は遠からずに命を落とすわ」

「そ、そんな言い方はやめてよ!」

 思わず私も声を張り上げてしまう。さやかちゃんは私と違って、自分が後悔しないだけの願いを見つけて魔法少女になった。その願いは上条君のためという素晴らしいものだ。あのとき後悔しないと言っていたさやかちゃんをけなすような言い方をしてほしくはなかった。

 

「一度魔法少女になってしまえば、もう救いなんてものはない。あの契約とは、たった一つの願いと共に全てを諦めるってことなのだから……」

 そういうほむらちゃんも今は全てを諦めたような瞳をしていた。彼女も魔法少女になってから全てを諦めてしまったというのだろうか?

「それに、私にはもっと信用できない人間がいる」

「その人って……」

「もちろん、洲道裕一よ」

「ど、どうしてなの!? 洲道君はただ巻き込まれただけなのに、それでもマミさん達と一緒に命がけの闘いをするって決めたのに!!」

「……彼はどうやって魔女と闘うというの?」

「え?」

「彼は魔法少女じゃない。闘う力なんてないはずよ。そんな彼がどうやって?」

「それは……」

 どうしよう? ほむらちゃんに彼の力について話すべきなのだろうか? しかし話したとしても、ほむらちゃんの彼に対する態度を変えるとは思えないし、彼やマミさん達を一方的にけなす彼女に対して徐々に反発心も抱いてきていた。

「それは、私にも分からないよ。ほむらちゃんが彼に直接聞いた方がいいんじゃないかな?」

「…………」

 しばらくそのままにらみ合いが続いた。私もできるだけ頑張ってほむらちゃんをにらみ返していると、やがて彼女は諦めたようにため息をついた。

「……とにかく、協力は今の段階ではできないわ。時間を無駄にさせたわね、話を聞いてくれて感謝するわ」

「あ……」

 そう言ってほむらちゃんは席を立って行ってしまった。ほむらちゃんと私達は分かりあうことはできないのだろうか。そんなことを考えると、言い得ぬ寂しさが胸を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしは今恭介のお見舞いに来ている。昨日と違って、恭介は手に包帯を巻いていない。それはあたしの願いが間違いなく叶った証であった。

「恭介、具合はどうかな? もう退院できそう?」

「うーん。足のリハビリがすんでいないからね。ちゃんと歩けるようになってからでないと……」

「そ、そっか……」

「でも、不思議なんだ。手の方はいきなり治ってしまって、お医者さんも原因が分からないって言うから、精密検査も受けないといけないんだよ。僕自身、どうしてこんなベッドに寝ているのかも分からないくらいなんだ。……さやかが言った通り、奇跡だよね、これ」

「うんうん、だから言ったでしょ? 奇跡も魔法もあるんだって」

「そう、だね……あのさ、さやか」

「ん? どうしたの?」

 恭介は俯いてしまっている。何かあったのかな? ま、まさかまだ重大な障害が残って……!?

「昨日は、ううん、今まで八つ当たりしたりして本当にごめん……」

「恭介……」

「本当は今までずっと嬉しくもあったけど、辛くもあったんだ。僕にはこれから先できないであろうことを話してくることも、CDを聞かせてくるのも……」

「っ……」

「それで昨日お医者さんにもう手は動かないことを言われたときに、気持ちが爆発してしまって……さやかや裕一にもひどいことを言ってしまって……」

「いいんだよ、恭介。あたし達も恭介の気持ちをちゃんと考えてあげられなかったんだから、同罪だよ……それに、そのことは裕一にも聞かされてたから、もう気にしてないよ」

「そっか……さやか、ごめ……ううん、ありがとう」

「どういたしまして。ほらほら、そんな顔してちゃ駄目だよ。恭介はもっと大喜びしていいんだから」

「うん、そうだね。早くさやか達の前でヴァイオリンを演奏したいな……って、ヴァイオリンはもう処分してもらったんだっけ。あはは、また買いなおさないと……」

 そう言って恭介は苦笑いを浮かべている。あたしは時計を見て、そろそろ時間であることに気が付いた。

「恭介、ちょっと外の空気を吸いに行こうよ!」

 

 

「屋上なんかに何の用?」

「いいからいいから」

 あたしは恭介の車いすを引いて屋上に出た。そこには……

「皆……」

 恭介のお父さんやお母さん、お医者さんや看護婦さん達が拍手で迎えてくれた。

「本当のお祝いは退院してからなんだけど、足より先に手が治っちゃったしね」

 恭介のお父さんがあるものを持って恭介へと近づく。

「それは……!?」

 恭介が処分してほしいと頼んだバイオリンだった。その時の恭介の辛そうな顔は今でも鮮明に覚えている。

「お前からは処分してくれと言われていたが、どうしても捨てられなかったんだ……」

 恭介はおずおずとそれを受け取る。驚きや嬉しさとか、いろんな感情がないまぜになっていた。あたしは皆の所へ移動する。そこは一人のバイオリニストの演奏を聴く観客の位置だった。

「さあ、試してみなさい……」

 お父さんの言葉を聞いて、恭介は意を決したような顔つきになり、静かにそのバイオリンを奏で始めた……

 

 そこから流れる旋律は、自分がかつて聞き、また聞きたいと焦がれた音色そのもので、今あたしは幸せの中に身をゆだねていた。

 そう、これだ。あたしは恭介のバイオリンを聞きたいために魔法少女になった。魔法少女の闘いが命がけのものであることは、マミさんや裕一がしっかり教えてくれたが、あたしはこの演奏のためならそれでもいいと今この時強く思えた。

(マミさん、まどか、裕一……あたしの願い、叶ったよ。後悔なんて、あるわけない。あたし、今、最高に幸せだよ……!!)

 自分の願いで再び聞くことできるようになったこの音色をあたしはいつまでも聞き続けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん……あれがこの町の新しい魔法少女ねえ……あむっ」

 あたしは菓子を食いながら、自分の魔法で作った双眼鏡で新しく契約したという魔法少女を眺めていた。

『本当に彼女とことをかまえる気かい?』

「だって、ちょろそうじゃん? 瞬殺っしょ、あんなやつ。それとも何? 文句でもあるっていうの?あんた」

『全て君の思い通りにいくとは限らないよ? この町にはマミだけでなく、もう一人魔法少女がいるんだからね』

「分かってるよ。マミは強いからな……で、そのもう一人ってのは?」

『僕にもよく分からないんだ』

「はあ? どういうことさ? そいつだってあんたと契約して魔法少女になったんでしょ?」

『そうとも言えるし、違うとも言える。あの子もイレギュラーの一人さ。どういう行動に出るかは僕にも予想がつかないんだ。それに何より……』

「あんたが言っていた極めつけのイレギュラー……魔法少女とは違う力を持った男、かい?」

『そうさ。彼こそが君にとって最大の脅威になるかもしれないね』

「ふん。上等じゃないのさ。退屈過ぎてもなんだしさぁ。ちったぁ面白みもないとねぇ……さてと」

『どこへ行くんだい?』

「決まってんだろ? 魔女探しだよ。それから人探しさ」

『誰を探しているんだい?』

「あんたには関係ないよ。じゃあね」

 そう言ってあたしは展望台から降りて行った。ポケットに手を突っ込むと、いつもの菓子とあいつの残した携帯がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風見野から帰ってきた俺はマミさんの家にやってきていた。

「こんにちは、マミさん。今日からよろしくお願いします」

「いらっしゃい、洲道君。美樹さんは上条君のお見舞いかしら?」

「はい、もう少しで来ると思いますけど……」

 その時ちょうどインターホンが鳴った。ドアを開くとそこにはさやかがいた。

「こんにちは、マミさん、それから裕一! 魔法少女さやかちゃん、ただいま参上です!」

 ……えらくハイテンションだった。まあ、理由は一つしか考え付かないが。

「上条君の具合はどうだったの?」

「もうバッチリですよ! 今日なんか、あたし達の前でバイオリンを弾いてくれたんですよ!」

 どうやらさやかの願いはしっかり恭介に届いたようだ。こんなことなら俺も行けばよかったな。

「なら、明日にでも退院か」

「ううん、足のリハビリがまだ残ってるからね。もう少し先だよ」

 そうか、六人で登校できるのはもう少し先なのか……ん?

「なあ、さやかよ」

「ん? どったの、裕一?」

「願いでさ、恭介の身体を治してくださいってことにすればよかったんじゃないか?」

「…………」

 沈黙が帰ってきた。さやかもなんだか凍りついている。まさかとは思うが……

「おい、優等生君?」

「あ、あははは……」

「考えなかったのか、そのこと」

「べ、別にいいじゃん! 恭介の手が一番重傷だったから、そこ以外は普通に治るんだし!」

 逆ギレされた。

「ま、まあまあ。美樹さんも落ち着いて。洲道君、あんまり女の子をからかっちゃ駄目よ?」

 マミさんになだめられてようやくさやかが落ち着いた。俺はただ疑問が浮かんだので聞いただけなんだが、何だか俺の旗色が悪そうだったからとりあえず引くことにした。

「えっと、すまんさやか。それじゃあマミさん、揃ったことですしさっそくお願いします」

「そうね。それじゃあ、まず、洲道君の力について考えていきましょう。美樹さんは洲道君がその力を使うときに一緒にね」

 

 

 ついに俺達の修行が始まる時がやってきたのだった。

 

 

 




次回、裕一の力と、マミとさやかの魔法の検証が始まります。

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