魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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ハコの魔女戦です。


奮い立つ記憶

 とりあえず俺はまどか達に近づくことにした。

「まどか、どうしたんだ?」

「あ、洲道君、大変なの! このままだと仁美ちゃんが!!」

「焦っているのは分かるけど落ち着け。とにかく落ち着いてから何があったか話してくれ」

 まどかは相当焦っていたが、なんとかなだめて話を聞くことにした。そして話を聞くかぎりでは、仁美には『魔女のくちづけ』というものがされているらしい。これを受けたものは自殺や交通事故など、自らを滅ぼす行動に出るようになるという。

(確かに仁美の首には何かマークのようなものがあるけど……)

 こんなもので人間を破滅へ引きずり込むなんて、やはり魔女とはとんでもない存在だ。早く倒さなければならない。

「分かった。まどか、お前はマミさんを呼んできてくれ。俺は仁美がおかしなことをしないように見張っているから」

「え!? で、でも……」

「心配なのは分かるけど、役割分担だよ。俺なら少しだけ時間は稼げると思うし、それに俺にはマミさんに連絡をとる手段がないんだ」

「あ……」

 魔法少女同士にはテレパシーというものがあるらしいが、俺にはそれは使えなかった。なら、携帯という手段があるが、あいにくそれは今なくしているのだ。中沢から携帯を借りて俺の携帯にかけてみたが、繋がらなかった。おそらく、バッテリーが切れてしまっているのだろう。つくづく運がない。

「洲道君、ごめん……私、マミさんの連絡先は知らないの……ずっとテレパシーで話していたし、そのテレパシーもキュゥべえがいないと……」

「マジかよ……」

 その言葉に俺はうなだれてしまう。テレパシーという便利なものに目を向けているせいで、文明の利器というものを彼女達は忘れてしまったようである。全く、嘆かわしい。

「……まあ、それならとにかくここから離れてマミさんを探してきてくれ。ここに二人いることに意味はあまりないし、とにかくマミさんがいないとこの状況は改善されないと思うしな」

「う、うん、分かった。でも洲道君、気をつけてね……」

「大丈夫だって。マミさんが来るまであまり無茶なことはしないからさ。とにかく頼む。今はお前が頼りなんだよ」

「わ、分かった! すぐにマミさんを連れて来るから!!」

 そう言ってまどかはマミさんを探しに向かった。本当なら、俺でも一応闘うことはできるのだが、今の俺はマミさんの魔法を入れていないという大ポカをやらかしてしまっていた。だから今は使い魔一匹に勝てないのが現状だった。しかし仮に力があったとしても、俺はマミさんが来るまで待つつもりだった。なぜなら俺がマミさんの魔法を使いきるのがどれくらいなのかがまだ分かっていないのだ。そんな状況で調子に乗って闘って、それで効果が切れてしまったら目も当てられないのだ。

 さて、俺はとにかくマミさんが来るまで時間を稼がなければならない。辺りを見ると仁美と同じように魔女のくちづけがされている人達が同じ方向へ向かっていることに気付いた俺はとりあえず皆について行くことにした。

 

 

 

 

 

 着いた先は廃工場だった。今、俺の周りには何人もの人が魔女のくちづけをほどこされていて夢遊病者のごとくただよっている。

「そうだよ……俺は駄目なんだ……こんな小さな工場一つ満足に切り盛りできなかった……今みたいな時代にさ、俺の居場所なんてあるわけないんだ……」

 おそらくこの工場の工場長なのだろう。もともとここの工場の経営に失敗して落ち込んでいたところを魔女につけこまれた、といったところだろうか。そんなことを考えていると、さっき入った入口の所にシャッターが下りてきた。これで逃げられなくなってしまった。さらに誰かがバケツといくつかの種類の洗剤のビンを持ってきた。

(確かあれらの洗剤を混ぜたら……そうか、集団自殺か!)

「おい、お前ら! 馬鹿な真似はやめろ! ここにいる皆お陀仏になるから……っぐ!?」

 焦って彼らを止めようとしたら、近くにいた仁美によって腹に鋭い一撃をもらってしまい、一瞬呼吸ができなくなる。

「洲道君、邪魔をしてはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ?」

「儀式って……死ぬための儀式だっていうのかよ…?」

「そう! 私達はこれから皆ですばらしい世界へ旅に出ますの! それがどんなに素敵なことか分かりませんか? 生きてる体なんて邪魔なだけですわ……あなたもすぐに分かりますから!」

 仁美はどこか芝居ががった口調で話す。どうやらそれが琴線にでも触れたのか、他の皆から拍手が巻き起こる。俺はこいつらのテンションについていけなかった。

(まずい、このままだと仁美達だけじゃなくて俺までお陀仏だ……とにかくあのバケツをなんとかしないと)

 俺はもう一度辺りを見渡す。彼らは魔女のくちづけで正気を失っていて、それだけではなく正常な思考も失っているようだ。いわば本能のみで動いているといっていいだろう。それなら、この手がいけるかもしれない。俺は声を張り上げた。

「おい、皆! あれを見ろ!」

 俺は適当な方向に指を指した。当然そこには何もない。皆がそこを見ているすきに俺はバケツをつかみ、それを持って走りだす。

「おーっと、体全体がすべったぁ!!」

 そして体がよろけることを装ってバケツを窓ガラスに向けて全力投球したら、見事バケツは窓ガラスを突き破り、外まで吹っ飛んでいった。とりあえず危機は去ったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……沈黙が痛かった。皆の視線が俺の背中にビシビシ突き刺さっていた。しかし、ここで黙ったままでいるわけにもいかない。俺は笑顔で振り返る。

「いやー、ごめんごめん。俺も神聖な儀式の邪魔をするつもりはなかったんだ」

 とりあえず、敵ではないことをアピールすることにした。効果があるかはさっぱり分からないが。

「洗剤だったら俺が用意するからさ。とりあえず儀式はまた明日に「うーー!!」ってやっぱり駄目だったぁぁぁ!!?」

 まずい、完全にこいつらは俺を敵と認識してしまったようだ。とりあえず近くにドアがあったので、そこに逃げ込むことにした。そしてドアを閉じようとしたときに皆がゾンビのごとく押し寄せようと来る姿を見てしまった。

(めちゃくちゃ怖いよ、こいつら!?)

 急いでドアを閉じて鍵をかけた。向こうの人達がドアを開けようとするが、すぐには開けられないだろう。後はマミさんが来るのを待つだけだと思っていたが、それはどうやら甘かったらしい。

 いきなりどこからか黒い煙のようなものが現れ、女の子の小さな声が聞こえた。辺りを見回すと、後ろの壁がテレビの山になっていた。さらにそこから気持ちの悪い笑顔をした人形のような生物が這い出してくる。おそらくこいつらは使い魔なのだろう。そいつらに掴まれた瞬間、俺の身体は大きくたわみ、バラバラに分解されてしまい、辺りが闇に染まってしまった。

 

 

 魔女の結界に俺は捕らわれた。

 

 再び目を開けると、俺は円柱のような形をした空間に浮かんでいた。体に違和感を感じたので、思わず自分の体を見てみると、なんだかどこかの画家が描いたような姿になっていた。ここは間違いなく魔女の結界だ。まだマミさんは来ないのだろうか。しかし、無情にも使い魔に連れられて俺の前に魔女が現れた。

(テレビのような姿に羽根まで生えている。もう魔女ってなんでもありだな……)

 そんなことを考えているとテレビの画面から女の子のシルエットが最初に浮かんだ後、

 

 あの男の姿が映し出された。

 

「な、に……?」

 画面の中の男は相も変わらずその冷たい視線を俺に向けていた。気付けばさらにたくさんのテレビが出現し、同じような画面を見せてきた。なるほど、どうやらこの魔女はその人にとって最も忌まわしい映像を見せつけて絶望させてから喰らうという、かなりえげつない方法をとっているようだ。人間なら誰しも見たくない過去というものがある。普通なら、おそらく抗うことはできないだろう。

 

 そう、普通ならば。

「……ふざけんな」

 腹の底から絞り出すように声を出す。今の俺にあるのは絶望ではなく、純粋な怒りだ。この魔女は俺に対しての攻め方を根本的に間違えてしまったのだ。

「俺の頭の中をのぞいて、この男の姿を写せば俺が絶望すると思ったか? だったら残念だったな。そいつは確かに俺にとって忌まわしい存在でもあるが、同時に俺に怒りを持たせ、奮い立たせる存在でもあるんだよ!」

 怒りを込めた言葉を魔女にたたきつける。それと同時に画面は砂嵐へと変わり、ザーという音だけが響いた。今の映像に屈しなかったということで、この魔女にダメージを負わせることができたのだろうか?もしそうだとしても、これだけで俺の気は治まらなかった。

「ぐぅっ!!?」

 その時、体の四肢に痛みが走った。見ると先ほどの使い魔が俺の手足を引っ張って思いっきり伸ばしていた。その結界の影響なのか、俺の手足はゴムのように伸びていた。

(映像では屈服できなかったから、このまま俺を引きちぎるつもりか? ふざけんな。あんなものをあんなにたくさん見せやがって。この魔女だけは俺が必ずバラバラに引き裂いてぶっ壊してやる……!!)

 

 

 その瞬間、青い閃光が走り、使い魔達を屠った。

 

 

 自由になった俺の右手にそいつの右手が打ちつけられた。その瞬間、心臓が大きくはねて力が全身に広がった。これで、俺はあの魔女と闘う力を得られた。あいつは大量に出現した使い魔達を相手にするようだ。ならば、俺は……

 あいつからもらった力を具現化させる。それは剣だった。俺はそれを持って、先ほどの映像を見せた魔女へと突っ込んでいく。魔女は俺に向かって体当たりをしてきたが、俺は向かってくるその画面に向けてその剣を思いっきり突き刺した。画面に様々な映像が映し出されるが、それはもはや整合性がとれておらず、この世のものとは思えない醜悪な画面が広がるだけだった。

「人の頭を勝手に覗いて怒らせた罰だ……」

 俺は一気に剣を引き抜き、上段に振りかぶって振り下ろし、その魔女を真一文字に両断した。

 

 

 

 

 

「ふう……」

 これで危機は去ったようだ。足もとに転がるグリーフシードがそれを証明している。だが、まだ終わりではなかった。俺は隣に立つ少女に目を向けた。

「さやか……」

「危ないところだったね、裕一。いやー、あたしもナイスなタイミングで駆けつけてきたでしょ?」

 その少女は俺の友達である美樹さやかだった。しかし、その格好は俺が今まで見てきた中であまりにも違いすぎた。なにより、俺の心臓の鼓動が彼女が何者であるかを教えてくれる。

「お前、魔法少女になったのかよ……?」

「え、あー、心境の変化っていうのかなぁ?」

「心境の変化って……」

「いや、それよりさ! 初めてにしては上手くやれてたじゃん、あたし達! いいコンビになるんじゃないかな?」

 いや、それより魔法少女になったってことは、願い事は……

 その時、誰かの足音が聞こえた。俺達が振り返ると、そこには暁美が立っていた。

「あなたは……!」

 暁美のその表情には苛立ちや怒りが込められていた。

「ふん、遅かったじゃない、転校生!」

 さやかも負けじと暁美をにらみ返す。暁美と会うと大体こういう雰囲気になるな、と心の中で嘆息した。その時暁美がこちらの方を向いてきた。

「洲道裕一……あなたはこの状況をどうするというの?」

「……?」

 この状況とは、さやかが魔法少女になったことを言っているのだろうか? これでこの見滝原には魔法少女が三人いることになる。暁美はそのことが気に入らないのだろうか? 分からないが、とりあえず俺はこう返すことにした。

「さあな。お前が俺に対して、どういう返事を返してほしいのか分からないから、返答のしようがないな」

「っ……」

 その答えが気に入らなかったのか、暁美は歯噛みしてその場を立ち去って行った。

「洲道君!!」

 その時、まどかの声が聞こえてきた。見るとまどかがマミさんを連れてこっちに来ていた。

「とりあえず、さやか。お前のこともまどか達に説明しないとな」

「そうだね。いやー、まどかやマミさんの驚く顔が目に浮かぶなあ!」

「…………」

 さやかが魔法少女になったこと。このことが今後の俺達にどう影響されるのか、この時の俺には全く予想がついていなかった。

 

 

 

 

 

「やっぱりこの町はいいね。さっそく一つゲットだ」

 そう彼女は一人つぶやく。彼女はつい先ほど、この町の魔女を狩ってきたばかりだった。

『やあ、まさか君がここに来るとはね』

「……キュゥべえか」

『けれど、この町にはすでに魔法少女が三人いるんだ』

「はあ? この町はマミのテリトリーなんじゃないのかよ?」

『確かにそうなんだけど、一人は彼女と敵対しているんだ。そしてもう一人はついさっき契約してきたばかりなんだよ』

「なんだそりゃ……けど、まあそんなことはいいか」

『まさか、マミと闘うつもりかい?』

「それもいいかもね。どちらにしろ、いつかはこの町に来ていただろうさ。獣は餌が少なくなればよりよい狩り場に移るものだからね」

『仮にマミを倒したとしても、魔法少女は二人もいるんだよ。それにもう一人、とんでもないイレギュラーがいるんだよ』

「イレギュラー?」

『彼は他の魔法少女とは違う力を持っている。油断は禁物だよ』

「ちょっと待て! 彼って、そいつは男なのかよ?」

『そう、僕にも彼が何者なのかさっぱり分からないんだ』

「ふーん。面白そうだね、そいつは。……とにかくこれからはあたしも動く。その先で誰かがあたしの邪魔をするなら」

 

 ――――ぶっ潰すだけさ。

 

 そう言って彼女は獰猛な笑みを浮かべた。

「それに、さ」

『?』

 彼女はおもむろにポケットから携帯を取り出してそれを眺めた。

「約束を破るような悪いやつにはおしおきをしてやらないと、な」

 そう言って、彼女――――佐倉杏子は先ほどとは違う怪しげな笑みをその顔に浮かべるのだった。




というわけでさやか魔法少女になる、でした。さらに杏子も参戦します。うーん、さやかの存在で、杏子だけでなく、マミも一気にいなくなる可能性がありますからね。どうしよう?

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