魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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恭介登場です。そして裕一と恭介が出会った時の回想もあります。


爆発した感情

 歯車が回っている……

 その動きと共にソイツも動く……

 俺の目の前にソイツがいた。いつも通りの姿で、いつもの笑い声をあげている。今までと違うことは、俺はすでにソイツの名前を知っていることだ。

(オマエが、ワルプルギスの夜)

 キュゥべえの言っていた、最大最悪の魔女。俺がなぜコイツの夢を見るのかは分からない。俺の心臓がなぜおかしな鼓動を刻むのかも、なぜ俺以外のなにかがコイツを求めるのかも分からない。だが、一つだけ言えることがある。

(オマエに、俺の世界は壊させない。俺自身はオマエの存在なんて認めないからな)

 その思考と共に、俺の意識は覚醒された。

 

 

 

 

「ふう……」

 目が覚める。前にこの夢を見たのは暁美が転校してきたあの日だ。暁美と会い、杏子と会い、マミさんと会い、魔女と魔法少女の存在を知った。あのときとは俺自身を取り巻く環境がかなり変化している。

(だけど、それでも変わらない大切な日常だってあるんだ)

 そう思い直し、俺はいつもの朝食を取り、支度をして学校を出た。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、中沢」

「よう、洲道。お前、昨日はどうしたんだ? 学校にも来なかったし、携帯にかけても連絡はなかったし」

「ああ、風邪をひいてしまってな。学校が終わるまでずっと寝ていたんだよ。携帯はどこかでなくしてしまったんだ」

「おいおい、大丈夫なのか、それ?」

「まあな。おっと、まどか達だ。おはよう、皆」

 まどか達三人が登校してきた。昨日あんなことがあったわけだが、まどかとさやかはいつも通り登校できたことが少しだけ意外だった。

「あ、お、おはよう、洲道君、中沢君……」

「おはよう、裕一、中沢」

「おはようございます。洲道君、中沢君。洲道君、昨日は大丈夫だったんですの? 皆心配してましたのよ?」

「ああ、風邪をひいてしまってな。心配かけて悪かったよ」

 心苦しいが、中沢と仁美には今すぐ俺達の事情について話すわけにはいかない。俺達の事情を話すことは少なからず巻き込むことになってしまうのだ。話せない代わりに、俺は心の中で二人に謝った。

 

 

 

 

 

 まどか達が三人で雑談しているときに、中沢に話しかけられた。

「なあ、洲道。お前最近上条の見舞いに行っていないんじゃないか?」

「ああ、確かにな。そういうお前は?」

「俺は昨日行ってきたさ。ちょうどリハビリから帰ってきていてな」

「そっか」

 どうやら中沢は俺達が魔女の結界に行っている間に恭介の見舞いへ行っていたみたいだ。あの時俺達の姿が見られなくて本当によかったと思う。

「今日にでも行くことにするよ」

「それがいいな」

 

 

 

 

 

「よし、掃除終わり、と……」

 今日は放課後の掃除当番だったため、少し遅い時間になってしまった。今日からマミさんとの修行が始まる。とりあえず、恭介の見舞いの後にバイト先にやめることを告げてこないと行けない。今はまだ貯金がそれなりにあるが、食費についてもこれから考えないといけないのだ。

(しかし、暁美がいないのはなんだか不気味だな……)

 今日は暁美が学校を欠席していた。まあ、昨日あんなことがあっては、顔を合わせづらいのは仕方がないが。

「まあ、今はとにかく恭介の見舞いへ行くか……」

 俺は恭介のいる病院へ足を運んだ。その途中、俺は初めて恭介に会った時のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は班決めを行います」

 

 見滝原中学に入って少ししてから担任の先生がそんなことを言い出した。普通なら近い席の人で自動的に決まるものだが、ここでは完全に生徒が自由に決めていいものになっていた。そのため、俺の周りにいた人達は真っ先に仲のいい人達の方へ行ってしまい、俺は誰かと班を作るタイミングを完全に失ってしまった。

すでに入学した時から、小学校の付き合いがあった人も多くいて、ある程度はすでに集団グループができてしまっていた。それに俺はその当時バイト生活のせいで他の皆と生活のリズムを合わせることができなかった。その結果俺はグループに入れず、クラスの中で孤立してしまったのだった。

(あーあ、これじゃあ何のために学校に入ったのか分からないよなぁ……)

 

 将来就職して生活するなら、学歴は重要なデータとなる。だから学校に入るのは無駄ではないが、俺は学校に入ったのはあの男に命令されただけでなく、学校とは友達と楽しく生活できる場だと知っていたことが大きな理由だったのだ。それが現在この状況では泣きたくもなってくる。俺はこの先の灰色の学校生活にため息をつきそうになっていた。

 

 そんな時だった。

 

「あのさ、君はまだどこにも入ってないんだよね? よければ僕達と一緒にならないかい?」

 

 誰かの声が聞こえてきたので振り返ってみると、若干おとなし目の少年がそこに立っていた。一瞬誰に聞いたか分からなかった俺はつい周りの方を見てしまった。しかし、俺の周りはすでにグループができていた。『君』という呼び名である以上、複数ということはありえない。だから『俺のことか?』という意思を込めて、声に出さずに自分のことを指さしてしまった。

そんな俺の行動に彼は苦笑してこう言った。

 

「そうだよ。君は確か……洲道裕一君だったね。ほぼ毎日授業が終わると真っ先に帰ろうとしていたから、なんとなく印象に残ってたんだ。僕は上条恭介っていうんだ。よろしくね」

 

 その言葉に俺は驚いてしまった。自慢ではないが、俺はクラスの皆の印象に残るようなことは何もしていないのだ。そんな中で上条は俺のことを、名前まで覚えてくれていた。そのことに俺は胸の奥があつくなった。そして同時に彼に対して申し訳なく思ってしまった。

 

「えっと……ごめんな、上条。お前は俺の名前を覚えてくれてたのに、俺はお前の名前は覚えてなくてさ……」

 

「気にしなくていいよ。僕もあまり印象に残るような行動をしていなかったし、君もなんだか忙しそうだったしね」

 

 俺の謝罪に対して上条は笑って許してくれた。気がつくと俺は彼と話すことが心地よく感じられていた。俺は皆との生活リズムが合わなかっただけではなく、人との距離感、いわゆるパーソナルスペースの取り方も下手だったのだ。なにせ、ここに来る前はあの男以外にまともに話す人間がほとんどいなかったのだ。あの男とここの皆とでは接し方も当然異なってくる。それゆえ、俺は何回か誰かとの会話で失敗したこともあったのだ。

 

 だからこそ、今の上条の取っている距離感が正しい距離感なのだと学ぶことができた。

 

「それでどうかな、洲道君。僕達と同じ班になってくれないかな?」

 

 そう言って上条は俺に手を差し出し、俺は迷わずその手を取った。

 

「ああ、改めて言うよ。俺は洲道裕一っていうんだ。よろしくな、恭介」

 

「こちらこそ。これからよろしくね、裕一」

 

 こうして俺は、上条恭介という、この学校での初めての友達を得た。

 

 

 

 

 

 

 それから先は簡単だった。同じ班にいたまどか達とも仲良くなり、休日は皆で過ごすことが多くなった。それでもバイトが忙しくて俺が行けないときも多かったが、恭介達とそれで疎遠になることもなかった。それだけではなく、バイトで疎かになりがちだった俺の勉強の面倒まで見てくれたのだ。そしてようやく貯金が貯まって安定した生活リズムを手に入れてからも恭介達との関係は続いた。

 

 いつしか彼らと過ごす日々が、あの男と過ごした日々とはまた違う、新しい『日常』となっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーっす、きょう、す、け……」

 ハイテンションで恭介の病室までやってきたが、なんだか空気がとてつもなく重かった。窓が開けられていて、そこから見える夕陽をただ眺めているだけで、こっちを見ようとしなかった。

「ど、どうした? 最近俺が来なくてさみしかったのか?それで怒ってるのか?」

 しかし、ここで何も言わないわけにはいかない。この空気はどちらにとってもよろしくないので、とりあえずいつもの調子を崩さずに聞いてみた。

「裕一、か……君もさやかと同じように、僕をいじめにきたのかい?」

 いきなりそんなことを聞いてきた。……どうしたというんだろう。様子が明らかにおかしい。今までもナーバスになっていたことはあったが、ここまで暗い雰囲気にはなったことはなかった。

「いじめにきたって、そんなことは……」

「裕一、僕は……僕はね……もう、バイオリンが弾けないんだ……!」

「っ!?」

「お医者さんに言われたんだ。もう、現代の医学では僕の手を治すのは不可能だって……」

 その声はあまりにも弱々しかった。

「なのに、さやかは僕に自分で弾けもしない曲を聴かせるんだ! 嫌がらせのようにずっと! 君だって僕がこれから過ごせないであろうことを自慢げに話してくる! もうたくさんなんだ! もう僕にはなにもないんだよ……」

 恭介の言葉は突然獣の鳴き声のような慟哭へと変わる。自分でも抑さえきれないほど感情を爆発させている。それらをすべて聞き、俺は恭介に言った。

「恭介、すまなかった」

「…………」

「俺はお前が退屈していると勝手に勘違いして、いろんな話をしてきた。お前が本当は何を思っていたのか、どんな気持ちで聞いていたのか、何も理解していなかった。まずはそのことを謝らせてくれ。……それから、もう一つ言わせてくれ」

「…………」

「お前は、自分にはもう何もないって言ってたけど、それは違う」

「……え?」

 ようやく恭介がこっちを振り向いてくれた。俺は恭介の目をしっかりと見据えて言った。

「お前には、俺達がいるんだ」

「っ……」

 俺はバイオリニストの上条恭介と出会ったわけではない。一人のクラスメイトの上条恭介と出会い、そして友達になったのだ。たとえ恭介の手が治らなくても、俺は今までのつきあいを変えたりはしない。

 恭介はあの時俺に向かって手を伸ばしてくれて、支えてくれた。今度は俺の番なんだ。そして恭介を支えてやりたいと願うのは俺だけじゃないんだ。

「俺は待ってるんだぜ? お前が早く退院してくるのをな。中沢も、まどかも、仁美も、それにさやかだってな。また、六人で登校するのを俺達はずっと待っているんだよ」

―――――だから、自分をそんなに追い詰めるな。

 恭介はまた窓の方を向いてしまった。やっぱり、今は無理なのかな、と思っていたら、恭介の肩が震えていることに気付いた。

「分かっていたんだ……君やさやか達が僕をいじめているわけじゃなかったってことも、君達は僕のことをずっと心配してくれていたことも……」

「そっか……」

「でも、今日お医者さんにもうバイオリンは弾けないことを言われて、大好きなものがもう続けられないことを知って、訳がわからなくなって……」

「うん……」

 

「そんな時に来たさやかや、君が急にうらやましくなって、妬ましくなって、それで八つ当たりして、あんな、ひ、ひどいことを言っちゃって……!」

「気にしてないさ……」

「ごめん、裕一……本当にごめん……!!」

 おさえこんでいたものを全て吐き出すように恭介は泣き出してしまった。

 

「大丈夫だよ、恭介。今思うと、俺もさやか達もちょっと無神経だったかもしれないしな。お前が何を思っていたのか、もっとよく考えるべきだったんだ。俺達の方こそ、本当にごめんな」

「違うんだ、裕一。僕が、全部悪いんだよ……」

「なら、せめて痛み分けってことにしてくれないか?」

「そう、だね。うん、ありがとう……裕一、僕、さやかにも謝らないと……」

「そうだな。けど、今は泣きなよ。泣いちゃってさ、心にある辛さを吐き出してから謝まりなよ」

「うん……それなら、もう少しだけ、泣かせてもらうね……」

「ああ……」

 恭介はそのまま泣き続けた。俺は彼の中にたまっていた負の感情がそのまま全て流れ出るのを願い続けていた……

 

 

 

 

 

「ありがとう、裕一。だいぶ楽になったよ……」

「そうか、それはよかったよ」

 どれだけそうしていたかは分からない。けれど、恭介の顔はさっきより穏やかになっていた。

「さやかには俺から伝えておくよ。また明日にでも見舞いに来ると思うから、そのときに謝りなよ」

「うん、頼むよ。……僕、さやかにはずいぶんひどいことを言ってしまったから、早く謝らないと……」

「気持ちは分かるけど、とりあえず明日まで待ってくれないか?」

「そうだね、ごめん……」

 恭介もさやかに言ったことを気にしているようだ。だけど、恭介がこの調子なら大丈夫かな、と思った。

「それでさ、裕一。今日までどんなことがあったのか、聞かせてくれないかな?」

「……ああ、もちろんさ!」

 俺は恭介に今までの話をたっぷりと聞かせた。いつもの朝のひとコマ、うちのクラスに転校生が来たこと、俺が風見野で杏子と出会ったこと、それら全てを話し、恭介は興味津々に聞いていた。最も、暁美のことなどは昨日中沢から聞いていたために、俺から話せる新しいことは杏子のことしかなかったが。

 

 

 

「それで今のところ杏子にはまだ勝ってないんだけどさ。近いうちにあいつの菓子を頂けると思うぜ」

「へえー、女の子のライバルっていうのも珍しいね」

「まあ、確かにな。けど、あいつと闘っているとさ、自分がさらに強くなっていくのが分かるんだ。あいつこそ、俺の最高のライバルさ」

 そういえば、昨日は杏子の所に行っていなかったことを思い出した。まあ、魔女との闘いもあったし、無理もないが。とりあえず一段落してから会いに行くとしよう。

「あいつは自分のためにしか生きない、とか言っているんだが、本心ではそう思っていないはずなんだ。そう思う原因もできるなら取り除いてやりたいんだけどな……」

 あの時のあいつの姿を思い出す。あいつが過去になにがあったかは分からないが、自分にできることならなんとかしてやりたいと思っていた。

「あのさ、裕一。一つ聞いていいかな?」

「うん?」

「裕一ってさ、その子のことが好きなの?」

「…………」

 いきなり何を言い出すのでしょうか、この子は。

「ライバルっていうには、結構親身になっていると思うんだ。そんなに親身になるのは、その人が好き以外にはないって中沢が言ってたよ」

「…………」

 気付け、恭介。それはお前に向けた言葉なんだよ。ほら、いるだろ? もともと興味ないはずのクラシックを勉強して、お前のために珍しいCD持ってくる幼なじみとかさ。

「いや、それはないさ。確かに彼女としてはいいと思うけど、やっぱり俺とあいつはライバルであり、友達だよ」

「えー、本当かい?」

「そうそう、ていうか、俺よりお前だお前。お前をずっと好きでいる子がいるんだから、その子のことを考えてやれ」

「あはは、またそれかい? だからいないって、そんな子」

「……はぁ」

 駄目だ、こりゃ。

 

 

 

 

「……はい、今までお世話になりました。それでは……」

 恭介の見舞いの帰りに俺はバイト先に辞める旨を伝えに行った。シフトの無断欠勤をしていたにも関わらず、俺が辞めることに関しては何も言われなかった。その心遣いが嬉しくもあったが、同時に辛くもあった。

(魔女との闘いがある以上、普段の生活は捨てないといけない……やっぱり、きついな)

 しかし、そうすることに決めたのは自分自身だ。いまさら愚痴をこぼすようなみっともないことはすまい。

 そんなことを考えていると、

「ねえ、仁美ちゃん! お願い、正気に戻って!!」

 まどかの切羽詰まった声が聞こえてくる。見ると、そこには必死に話しかけるまどかと様子がおかしい仁美の姿があった。

 どうやら、今日という日はまだ終わらないようだ。

 

 




恭介のキャラはこんな感じで大丈夫でしょうか?他のキャラもしっかり性格を表せているか心配です…

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