魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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ついにアイツの名が判明します。


夢と魔法と魔女と

「マミさんの魔法を……裕一が使ったぁ!?」

 さやかが素っ頓狂な声をあげている。まどかも声には出さないが、相当驚いているようだ。

「俺が闘う前に巴先輩に触れていたのは見ていただろ?」

 このままでは埒が明かないので、とりあえず話を進めることにする。

「あのときに俺の心臓は大きくはねて、得体の知れないなにかが俺の体を満たす感覚に襲われたんだ。多分、あの時巴先輩の魔法を手に入れたんだと思う」

「どうしてそんなことができるの!?」

「俺も分からない。だからキュゥべえに聞いたんだけど、こいつが知らなきゃお手上げだよ」

 自分がなぜこんな力を手に入れたのかを知りたかったが、それは叶いそうにないから、諦めるしかない。キュゥべえが知らないということは、自分の力は魔法少女のものとは異なるということなのだろうか? 確かに俺は少女ではないけど、そういう問題なのだろうか?

 

「ただ、今の俺はもうその力は持っていないんだ」

「ど、どうしてさ?」

 次から次へと新たな事実の登場にさやかは混乱している。だが、いちいち落ち着くのを待っていたら話が進まないので、もう少し我慢してもらおう。

「単純に俺が巴先輩からもらった魔法を使いきったせいだと思う。巴先輩、ちょっとお手を拝借」

「え、ええ……」

 巴先輩がおずおずと手を差し出し、その手を取ってみる。その手はとてもきめ細かく、すべすべとしていた。だが、何も起こらない。巴先輩の方を見ると、彼女は顔を赤くしていた。ひょっとすると彼女は男に触れられたことがないのかもしれない。

(そういや俺も女の子に手にこんなふうに触れたの初めてだっけ……)

 このままだと俺も顔を赤くしそうだったので、次に進むことにしよう。

「次は魔法少女に変身してもらえますか?」

「わ、分かったわ」

 巴先輩もあんまり動揺しないで下さい。俺まで緊張しちゃうんで。

 巴先輩の衣装が魔法少女のそれへと変わる。その状態でもう一度手を触れる。その瞬間心臓が大きくはねる。また巴先輩の魔法が全身を満たす。その状態で巴先輩の銃を思い浮かべてみる。その瞬間、俺の手元に銃が出現した。

「一度効果が切れたらもう一度魔法少女の姿の状態で触れれば、また力が使えるようになるみたいだな」

 おそらくここまでで間違いはないはずだ。

「原理は分からないけど、俺は魔法少女に触れることで、その魔法少女の力をコピーできるんだ。まあ、何でこんな能力があるか分からないけど、あってよかったと思ってるよ。おかげで助かったし」

「「「…………」」」

 俺が結論付けると、突拍子もない話のせいか、だれも口を開かなかった。無理もないだろう。俺だって実際混乱しているのだから。ちなみに巴先輩はすでに変身を解除している。

『裕一。他に何か思い当たることはないのかい?』

 他に判断材料がないか、キュゥべえが探ってくる。俺は今まで見た夢のことを話すことにした。

 いつも聞こえる高笑い。青い衣装を身に纏い、下が歯車になっていて、しかもさかさまになっているアイツの姿を。そして自分ではない何かが自分を動かし、アイツを求めてしまうことも。

 ふと、俺はあの男のことを思い出していた。あの男にいつもこの話をしても、いつもの態度は崩さなかった。それは興味がないのか、それとも知っているからなのかは判断はつかなかった。そして今回、俺自身に特殊な力を持っていることも判明した。

 

(あいつはこのことを知っているのだろうか?)

 

 だがそのことをあの男に尋ねてもおそらく答えてくれないだろう。アイツの夢のことを話したときのようにだ。

『裕一。それはおそらく魔女だ』

 そう、まさに目の前のこいつのように、淡々と事実だけを述べるようにだ。違うのは俺の疑問に答えてくれることだけだった。

 いつも通りの口調で、それがなんだか憎らしく感じられた。

『それは最強にして、最悪の魔女』

 そしてキュゥべえは告げる。長年夢を共にしてきたアイツの名を。

『――――通称、”ワルプルギスの夜”だ』

 

 

 

 

 

「ワルプルギスの、夜……」

『この魔女は結界に入る必要はない。そのままの姿で顕現し、そして周囲を破壊していくんだ。もっとも、普通の人には見えないから、自然現象として処理されるんだけどね』

「間違い……ないのか?」

『君の言う特徴はワルプルギスの夜と酷似している。ほぼ、間違いないと言っていいだろうね』

 キュゥべえの言葉に俺は愕然とする。なんてことだ。俺はすでに、巴先輩達と出会う前から魔女と魔法少女の闘いに関わっていたというのか。

『君がワルプルギスの夜とどういうつながりがあるのか、なぜそれを求めてしまうのか、なぜ君がそんな力を持っているのかは分からない。まったく、とんだイレギュラーだよ、君は』

 そんなことを言われても、俺にどう返せというのだろう。

「あ、あのっ」

 まどかが突然口を開く。

「その夢って予知夢ってことはないかな?」

 予知夢とはその先の未来を夢の中で知ることだ。なるほど、確かにそういう考えもあると思うが……

「……どうだろう? 俺は幼いころからこの夢を見ていたけど、今までアイツは現実で見たことはなかったぞ?」

「あ、そうなんだ……」

 まどかも少しほっとした様子だ。まあ、それが本当だとしたら、近いうちにワルプルギスの夜が来てしまうことになる。まどかの気持ちは分かる。俺だって、そんなことは考えたくもなかった。けれど、そうなると俺もなぜアイツの夢を見るのか、自分ではない何かがアイツを求めるのかはやはり分からないままだ。俺は自分の心臓を思わずおさえる。

(ワルプルギスの夜……お前は一体なんだっていうんだ?)

 頭の中で聞いてみるが、当然答えが出るはずもなかった。

 

 

 

 

 

「あれ? ちょっと待ってよ」

 さやかが手を上げて質問してきた。今までずっと混乱していたけど、話の中で理解できない所があっただろうか?

「マミさんが魔女に襲われそうになった時に裕一が助けてたよね? あれもマミさんの魔法なの?」

 ああ、確かにそのことも残っていた。次は彼女の力について話すべきだろう。

「いいえ、それは違うわ。私は瞬間移動の魔法は持っていない。あの時は私も驚いたわ」

 巴先輩はさやかの説を否定する。そしてその答えはすでに分かっていた。あの場にいなかったさやかには分からないのは無理はないが。

「じゃあ、あれは一体何だったのさ?」

「お前の所に着く前にすでに接触した魔法少女がいたんだよ」

 そう、今にして思えば、あの『ありえないこと』は彼女の力によるものだろう。それは彼女の意図したものではないだろうが、今だけは彼女に感謝することにした。

「それが、暁美ほむらだ」

「ほむらちゃん? ……あ、そうか!!」

 まどかも思い当たったようだ。あの時、俺は暁美の腕をとったときに暁美の力をコピーしていた。だからこそ、あの時暁美の魔法を使って巴先輩を助けられたのだ。

「皆は俺が瞬間移動したように見えたみたいだけど、俺は普通に巴先輩の所へ走っただけだよ。付け加えると、俺からは周囲の皆は止まっているように見えていたけどな」

「「「…………」」」

 皆もあまりのことに唖然としていた。

「全体を金縛りにして、自分だけが動けるっていうのが、暁美の魔法なのかもな」

「それは違うんじゃないかしら? 金縛りなら意識はあるはずだから、あなたが瞬間移動したように見えたことに説明がつかないわ」

 確かに巴先輩の言うとおりだ。ならば、暁美の魔法の正体はなんだというのだろうか?

『時間、だね』

 その時、キュゥべえがあまりにも常識はずれなことを言う。しかし、それがおそらく正解なのだろう、とも納得できた。

『彼女の魔法はおそらく<時間停止>。周囲の時間を止めて自分だけが動ける、というものだろう』

 なるほど、それなら瞬間移動にも説明がつく。つまり、時間を止められた側からすれば、その間に行われた最初と最後の行動しか認識できないのだ。例えるのなら、映画のフィルムの一部を切り取ってまた繋げ直したものを見ていると言ったところか。見せられる側からすれば、一瞬で場面が切り替わって前後の繋がりが理解できずに混乱するだけだろう。

 

 納得はできる。しかし、受け入れがたいことでもあった。

「じゃあ、普通は転校生には敵わない、ってことじゃん……」

 さやかがうなだれてしまう。確かにその通りだ。相手からすれば一瞬でけりがついてしまうのだ。しかも相手の手の内も読めない。本当に規格外の魔法だ。しかし…

「いや、対抗手段がないわけでもない」

「え?」

「時間が止まった時に『カチリ』っていう音が聞こえたんだ。多分あれが魔法が発動したときの音だと思う。そして、巴先輩の肩をつかんで倒したときにまた『カチリ』という音が聞こえて時間が動きだした。そして巴先輩が俺に気付いたのは、『音が聞こえる前』だった。さらに詳しく言うなら、『俺が巴先輩に触れた瞬間』だよ」

 あの瞬間は今でもはっきりと覚えている。間違いない。

「つまり、時間を止めている人間に触れられた人間もまた時間が止まらないんだよ」

 この説明には矛盾はないはずだ。判断材料は俺にしかないため、断言はしにくいが。

「だから対応策としては、暁美に能力を使われる前にあいつに触れておくこと、これしか今の所ないと思う」

 一番いいのは暁美と敵対しないことなのだが、現段階では難しいことだった。相手が胸の内になにを秘めているか、今の段階では分からない。

(俺の力に、暁美の目的、そしてワルプルギスの夜……はあ、分からないことだらけだ)

 次々と判明していく事柄の多さを理解するためだったのか、この場で口を開く者はだれ一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、今の段階で分かるのはこのくらいかな」

 俺はそう締めくくる。他にも煮詰めるべき所はあるかもしれないが、もう少し考える時間が欲しかった。

「それで、巴先輩。あなたにお願いがあるんですけど……」

「なにかしら?」

「俺に、あなたの魔法を教えてくれませんか?」

「「「え?」」」

 俺の言葉に三人が驚いている。巴先輩も驚いたことが少しだけ意外だった。

「さっきも言った通り、俺は魔法少女の力をコピーして闘うことができます。けど逆に言えば、そばに魔法少女がいないと、闘うことができないんです」

 俺個人の力だけじゃ使い魔一匹にも敵わないのだ。それが現実なのである。

「俺はすでに魔法少女と魔女の闘いに足をつっこんでいたんです。あなたたちに出会う前からこの力を持っていて、ワルプルギスの夜も夢に見ていた」

 憶測でしかないが、このまま全てを忘れることにしたとしても、俺はこの闘いから逃げることはできないだろう。この力を捨てることもできないし、アイツもこれから先夢に出続ける。逃げられないなら、どうする? 闘うしかないじゃないか。

「けど、今の状態で巴先輩について行ったとしても、多分足手まといになるだけだと思うんです。さっきの闘いのときもあなたの魔法も完璧には使えなかった」

 これは事実だった。俺がイメージした攻撃と実際の攻撃には若干のずれがあったのだ。なにが起きるか分からない闘いの場で、自分の思い通りの動きができないのは致命的だ。

「ですから、俺を鍛えて欲しいんです。そうすれば、俺は自分の命も、魔女に襲われる人達も、そしてあなたを守ることだってできる」

「私も……?」

「はい」

 俺は巴先輩に命を救われた。今度は俺が守る番だ。それができる力が、今の俺にはあるんだ。

「俺は少なくとも、一般の人よりはこの闘いが命がけのものであることを理解しているつもりです。その上で言います。俺もあなたと一緒に闘います」

 以前杏子に言った言葉を果たす時がきたのだ。俺は自分と目に写る他人も皆助けるためにこの力を使う。この手を伸ばす。

「本当なの? あなたは私と一緒に闘ってくれるの?」

「はい。けど、俺は巴先輩ほど立派な考えは持っていません。やっぱり俺は自分のことは大事なんです。それでもよければ」

「そんなこと……私だって同じよ。言ったでしょ? 私はあの事故のとき、自分が助かることしか考えていなかったって」

「そんなことは……いえ、それなら自分勝手な者同士、気が合うかもしれませんね」

「ふふ、そうかもね」

 おどけた態度に巴先輩も合わせてくれた。俺は巴先輩に手を差し出す。

「それじゃあ、これからよろしくお願いします、マミさん。俺をビシビシ鍛えて下さい」

「こちらこそ、よろしくね。でも、覚悟してね。私は厳しいわよ?」

「上等です」

 

 

 こうして、俺とマミさんは協力関係を築いた。

 

 

 

 

 

「さて、今日はもう遅いし、ここまでにしましょう。鹿目さんと美樹さんは自分の願いについてもう一度よく考えてね。洲道君、明日から修行を始めましょう。私が許可するまで魔女と闘うのは駄目だからね?」

 そう言われて俺達はマミさんの家を出て行った。今日は夕方から起きたが、あの結界の闘いまでで相当濃密な時間を過ごしてきた気がする。いや、実際過ごしてきたのだろう。自分の幼い頃より見てきた夢の中のアイツの正体も分かったし、自分の力や、暁美の力、さらにはマミさんと協力関係まで築いたのだ。

「あの、さ……裕一……」

「どうした?」

 さやかがおずおずと質問してくる。そういえば、今日はさやかとは全然話していなかったような気がする。いや、嫌いとかじゃなくて、単純に話す話題がなかっただけだから、その、勘違いしないでよね! ……何を考えてんだ、俺は。そろそろ真面目にさやかの話を聞こう。

「裕一は怖くないの?」

「怖くないって言えば嘘になるけど、どうやら逃げられそうにないからな、俺の場合。なら、後はやるしかないじゃん?」

 こんなことになったが、不思議と後悔はなかった。今まで見続けていたワルプルギスの夜を克服するチャンスだと思えたからかもしれなかった。さらに自分には力があることも分かったのだ。この力で俺だけではなく、目に写る他人も救える。そのことにやりがいも感じていた。

「だからさ。二人は焦ることはないんだよ。マミさんが言ってたように、命をかけてまで叶えたい願いはあるのかどうかをもう一度考えてみなよ。ないなら、ない方がいいしな」

 そう言ったら二人は俯いてしまった。とりあえず、俺に今日言えるのはここまでかな。

「じゃあ、俺はこっちだから、また明日な」

「あ、うん……」

「それじゃ……」

 まどか達と別れて俺は帰路に着いた。

 

 

 家に帰った俺はすぐにベッドに寝転んだ。薄れゆく意識の中で俺はこう思った。

(ワルプルギスの夜……それがオマエの名前か。例えいつか目の前に現れたとしても、俺はオマエに俺の世界を壊させはしないからな)

 

 

 




というわけで、裕一の力と夢の正体、さらにほむらの力の正体も一部分暴露させていただきました。さらにマミさんと協力関係を築くことになりました。これから先マミさんを加えた状態でアニメに沿って行くわけですが、その辺りも上手く書いていきたいです。

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