魔法少女まどか☆マギカ~紡がれる戯曲~   作:saw

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ほとんどアニメと同じ展開です。退屈せずに読んでいただけるか心配です。


呪いと願い

 目を開ける。昨日は疲れていたからか、夢は見なかった。しかし、まだ、若干疲れは残っていた。時計を見ると四時をさしていた。どうやら早く起きてしまったようだ。もう一度寝るか、と思ったが、カーテンから光がさしていた。

(おかしいな、なんでこんなに明るいんだ?)

 カーテンを開けてみる。きれいな赤い夕焼けが見えていた。

「寝過したーーーっっ!!!!?」

 今は夕暮れ時だ。つまり、時計が指しているのは四時ではなく、十六時であったということだ。使い魔に体力を奪われたせいで、十二時間以上眠っていたようだ。

「あんっの使い魔め!!」

 しかし、今は怒ってもしょうがない。俺は簡単な食事として食パンとチョコレートを食べて、私服に着替えて家を出た。

 

 

 

 

 

(まどか達はどこへ行ったんだ?)

 俺は必死にまどか達を探していた。今日もあいつらは魔女退治の見学に出かけているはずだ。それを止めさせないといけない。

(何かあってからじゃ、遅いんだ)

 そのとき、ふと考えが浮かんだ。まどか達なら、途中で恭介の見舞いに立ち寄っているかもしれない。そこで誰かが見ているのかもしれない。俺は病院の方向へ足を向けて全力で走った。

 

 

 

 

(いた!! やったぜ、今日の俺の勘は冴えてる!!)

 病院にたどり着いたとき、まどかと巴先輩が病院の壁に向かい合っているのを見つけた。声をかけようとしたが走り続けていて、さらに使い魔によって消耗した体力が回復していなかったため、声が出なかった。その間にまどか達は結界内に入って行ってしまった。

(まずい!!)

 止めないといけない。このままだと皆危険なんだ。お前らはそれが分かってないんだ。俺も結界内へ向かって走っていった。

(悪い、恭介。見舞いはまた今度な!)

 その思考と同時に俺はまた異質な空間へ身を投じて行った。

 

 

 

 

「はあ、はあっ……! ま、待て、まどか!」

「え……す、洲道君!?」

 まどかもいきなりの俺の侵入にかなり面喰ったようだ。巴先輩も声には出さないが、相当驚いてるようだった。

「洲道君、あなたも来るなんて……」

「学校にはどうして来なかったの?」

「ついさっき起きたから、学校には行けなかったんだ。全部あの使い魔のせい。それより、巴先輩」

「なにかしら?」

「この先は危険です。できるなら、まどかを帰した方がいいと思います」

 俺は二人に昨日の夜での考えを話した。俺の話が終わると巴先輩は罪悪感を顔に滲ませていた。自分がその思考に至れなかったことにショックを受けていたようだった。

「ごめんなさい、洲道君。あなたの言うとおりだわ。守るはずの人をわざわざ危険にさらすなんて、どうかしていたわ……」

「いえ、闘う前に伝えられてよかったです。一旦戻ってから出直しましょう」

「ま、待って、洲道君! グリーフシードのところにはさやかちゃんがいるの!!」

「なんだって!?」

 話を聞くと、まどかとさやかは恭介の見舞いの帰りに孵化寸前のグリーフシードを見つけたそうだ。それでさやかが見張りをして、まどかが巴先輩を呼びに行って今に至るというわけだ。結局俺達はそのままグリーフシードの所へ向かうことにした。一刻を争う状況だし、俺とまどかだけじゃ何かあったときに対処できない。それなら、巴先輩について行ったほうがはるかに安全だからだ。

「すみません、巴先輩……俺まで、守ってもらわなきゃいけなくなっちゃって…」

「ううん、気にしないで。あなたは鹿目さんや美樹さん、それに私のことまで心配して必死にここまで来てくれたじゃない。それを感謝こそすれ、恨みごとを言うわけはないわ。その勇気は本当に立派よ。胸を張りなさい」

 守られるだけではなく、こうしてフォローまでしてくれるなんて、本当にこの人にはかなわないな、と思った。ならば、俺も俺で出来ることをしよう。まどかになるべく危険がないように、自分も動こう。

(せめて、巴先輩が全力で闘えるようにするのが、俺にできることだ)

 

 

 

 

 

 そう考えていたときだ。

 巴先輩が後ろを見ていた。その視線の先には……

「暁美……」

 見たことのない衣装を身にまとった暁美ほむらだった。その姿から発せられる異質さに心臓が変な鼓動を刻む。

(あれが、魔法少女)

 俺はとっさになにかあったときのために、まどかと暁美を注意深く見ていた。

「言ったはずよね、二度と会いたくないって」

 巴先輩が敵意をむき出しにしている。やはり、友好的な相手ではなさそうだ。しかし暁美はその視線に物怖じせずに見返していた。

「今回の獲物は私が狩る。あなたたちは手を引いて」

 いきなりそんなことを言ってきた。まどかを帰らせることには賛成したかったが、今は事情が違う。

「そうもいかないわ。美樹さんとキュゥべえを迎えに行かないと」

 そう、それが問題だ。今は一刻も早くさやか達のところへたどり着かないといけない。これで暁美も分かってくれるといいのだが……

「その二人の安全は保障するわ」

「信用すると思って?」

 二人は一触即発の状態だ。どうすればいいんだ? 今はこんなことをしている場合じゃないのに。仕方ない、無駄かもしれないが俺も暁美に声をかけてみよう。

「暁美。頼む、今回はそっちが引いてくれ。友達の命がかかっているんだ」

「洲道裕一……」

 暁美がこちらを向いてきた。その瞳には苛立ちや焦りがうかがえた。

「言ったはずよ、邪魔をするなら、容赦はしないと」

 そう言って暁美は腕についている楯のようなものに手を突っ込んでくる。……嫌な予感がした。このままだと自分が暁美にやられる気がした。俺は思わず暁美に飛びかかった。

「なっ!?」

 暁美も俺のまさかの行動に面喰ったようだ。そのまま取り押さえようと暁美の腕に触れたときだった。

「うぐっ!!?」

 心臓がひときわ大きくはねた。さらに自分の体に何か得体のしれないもので満たされる感覚に陥った。そのとき、しっかりとつかむことができず、暁美に逃げられそうになってしまいそうになったときだ。

「洲道君、下がって!」

 巴先輩の言葉にとっさに後ろに下がった瞬間、突然現れたリボンで暁美を縛り上げた。

「ば、馬鹿。こんなことやってる場合じゃ……」

「自分の目的のために一般の人にまで手をあげようとする人をどう信用しろというの?」

 結局俺は巴先輩の足を引っ張っただけだった。かつてない心臓の鼓動に気分が悪くなってきた。

「洲道君、無茶は駄目よ?」

「すみません、勝手なまねをしてしまって……」

「あなた達は私が守るから安心して」

 そう言って巴先輩はほほ笑んだ。

「さあ、早く行きましょう。あまり時間がないわ」

「あ、はい……」

 巴先輩とまどかは先に行ってしまった。俺も後を追おうとしたら、

「洲道裕一……!」

 暁美が俺を怒りに満ちた表情で睨んでいた。

「あなたはなんということをしてくれたの……」

 縛られて何もできないがゆえに、その少女は言葉で攻撃をしてくる。

「あなたの愚かな行為が……巴マミを殺すのよ」

 俺を絶望の底へたたき落とさんとするために、暁美ほむらは呪詛を吐き続けていた。

 

 

 

 

 俺達は暁美を振り切ってさやか達のもとまで向かっていたが、俺は暁美の言っていたことが気になっていた。

『あなたの愚かな行為が……巴マミを殺すのよ』

 愚かな行為とは、自分が暁美を邪魔したことだろう。だが、それがなぜ巴先輩を殺すことにつながるのだろうか? 単なる負け惜しみと言ってしまえば、それまでなのだが……どうしても、頭に引っかかってしまっていた。しかし、それを巴先輩に話すことにあまり意味が感じられなかった。単純に不安にさせるだけだし、これ以上彼女の負担になるようなことはしたくなかった。

 そう考えた時だった。

「あの、マミさん……」

 まどかが突然口を開いた。

「なあに?」

「願い事……私なりに色々と考えてみたんですけど」

「決まりそうなの?」

「はい」

「おいおい、まどか。それって、何かあったときのために、って適当に決めたものじゃないだろうな?」

「違うよ、洲道君。私なりに色々考えたみたの」

「……そうなのか?」

「うん。……もしかしたら、マミさんに、また考え方が甘いって、怒られそうで……」

 魔法少女は一度願いを叶えてもらったら、もう魔法少女をやめることはできなくなってしまう。だからこそ願い事はしっかり決めるようにとまどか達は巴先輩に厳命されていた。本当にまどかは後悔しないだけの願い事を見つけたのだろうか?

 とりあえず、まどかの話を聞くことにした。

「それで、どんな夢を叶えてもらうつもり?」

「私って、昔から得意な学科とか、人に自慢できる才能とか、何もなくて……」

 その言葉はまるで、

「きっとこれから先ずっと、誰の役にも立てないまま、迷惑ばかりかけて生きて行くのかな、って……」

 己が罪を告白する懺悔のようで、

「それが、いやでしょうがなかったんです」

 何かに救いを求めるかのように弱々しいものだった。

「でも、マミさんと会って、誰かを助けるために闘ってるのを見せてもらって」

「同じことが私にもできるかもしれないって言われて」

「何よりもうれしかったのはそのことで」

「だから私、魔法少女になれたら、それだけで願い事がかなっちゃうんです!」

「こんな自分でも、誰かの役に立てるんだって、胸を張って生きていけたらって」

「それが一番の夢だから」

 まどかの独白に巴先輩が尋ねる。

「大変だよ? 怪我もするし、恋したり、遊んだりする暇もなくなっちゃうよ?」

 きっと、彼女も通ってきた道なのだろう。誰かを守るために、彼女はそれらを切り捨てたのだろう。

「でも、それでも頑張ってるマミさんに私、憧れてるんです!」

「……憧れるものじゃないわよ、私」

 巴先輩が立ち止まる。

「無理してかっこつけてるだけで、こわくても、つらくても、誰にも相談できないし、一人ぼっちで泣いてばかり……いいものじゃないわよ?魔法少女なんて」

 巴先輩もまた、己の弱さをさらけ出してくる。

「マミさんはもう一人ぼっちなんかじゃないです」

「っ、そうね、そうなんだよね……」

 巴先輩は振り向いてまどかの手を取り、尋ねる。

「本当に、これから私といっしょに闘ってくれるの? そばにいてくれるの?」

「はい、私なんかでよかったら……」

 本当に嬉しかったのだろう、まどかの言葉に巴先輩は涙ぐんでいた。

「まいったな……まだまだ先輩ぶっていないといけないのになぁ…やっぱり私駄目な子だ……」

「マミさん……」

「でもさ、せっかくなんだし、願い事は何か考えておきなさい」

「せっかく、ですかねえ……やっぱり」

「契約は契約なんだから、ものはついでと思っておこうよ。億万長者とか、素敵な彼氏とか、なんだっていいじゃない!」

「いや、その……」

「じゃあ、こうしましょう? この魔女をやっつけるまでに願い事が決まらなかったら、そのときキュゥべえにごちそうとケーキを頼みましょう!」

「ケ、ケーキ!?」

「最高に大きくて、贅沢なケーキ! それで、皆でパーティするの! 私と鹿目さんの魔法少女コンビ結成記念よ!」

「わ、私、ケーキで魔法少女に!?」

「いやなら、ちゃんと自分で考える!」

「はい……」

「…………」

 二人の気分が高揚している反面、俺の心は冷めていた。まどかの想いはとても清らかで高潔に聞こえる。他人を救うために命をかけて闘うという。巴先輩のような人が増えることは、俺のような人を救うことにつながるのだから、諸手を上げて喜びたいところだ。しかし、それは俺が杏子に言った言葉に似ているのに、受け入れることができなかった。

(杏子なら、これを聞いてどう言うかな……ああ、そういうことか)

 ようやく分かった。まどかの言葉と俺の言葉には一つ足りないものがあったのだ。自分は高潔とは言えないが、それでも、今の状態で魔法少女になれば、待っているのはおそらく『絶望』だ。

(この魔女退治が終わったら、俺もまどかと話をしないと)

「ああ、まどか。今は契約なんて考えるなよ? 今魔法少女になっても、巴先輩の足引っ張ると思うし」

「うん、そうだね。魔法少女になるのは、この魔女退治が終わってからだね」

「…………」

 その考えだと、いつかつぶれるだけだよ、まどか。

 

 

 

 

「二人とも、急ぐわよ! 今日という今日は速攻で片づける!」

 そう言って巴先輩は変身した。

 辺りに散らばる使い魔達を彼女は流れるような動作で駆逐していく。心なしか、初めて見たときより動きが軽やかになっていた。

 そして、ようやくさやか達のもとにたどり着いた。

「さやか、大丈夫だったか!?」

「あ、裕一。うん、あたしは平気だよ。むしろ、ナイスタイミングだよ」

 とりあえず、間に合ってなによりだった。

『気をつけて、出てくるよ!』

 そう言ってキュゥべえは闘いの始まりを告げた。

 

 

 

 そこから現れたのは頭があめの袋のような形をした人形だった。見た目はそこまで恐ろしくはない。しかし、その存在からは強いプレッシャーが感じられた。

(あれが、魔女)

 あれには絶対に敵わない、と思った。使い魔すら倒せない俺は無力でしかないのだから。巴先輩に頼ることしかできない自分をふがいないと思ってしまった。

「せっかくの所悪いけど」

 巴先輩がマスケット銃を持って振りかぶる。

「一気に決めさせて、もらうわよ!!」

 あろうことか、銃身で魔女を打ってしまった。吹き飛ばされた魔女にさらに数発撃ちこむ。倒れこむ魔女の頭部にさらに弾丸を打ち込む。弾丸によって開けられた穴から黄色い糸が噴き出て、それらが魔女を縛り上げる。最後に持っていた銃を巨大化させて魔女に照準を合わせる。

「ティロ……フィナーレ!!!」

 巨大な弾丸が魔女の胸を貫き、さらにその穴からリボンが飛び出し、魔女を締め上げる。状況はほとんどチェック(王手)だ。このまま行けば勝てる。そう思った。だというのに、暁美の言葉が頭を離れない。いやな予感がする。根拠はないが、そうとしか言えなかった。

 

 そのとき、更なる絶望が顔を出した。

 

 人形の口から黒い怪物が飛び出した。その動きは一瞬だった。大きな口を開けて巴先輩をとらえる。巴先輩はいきなりの事態に硬直していた。

 絶望の象徴が希望の象徴を飲み込もうとしていた。

 

 頭が混乱している。

 巴先輩が茫然としている。早くよけて下さい。

 まどかとさやかが手を握り合って震えている。早く逃がさないと。

 キュゥべえはそのままだ。なんでお前は平然としているんだ。

『あなたの愚かな行為が……巴マミを殺すのよ』

 暁美ほむらの呪詛が頭を駆け巡る。俺か? 俺のせいなのか? この状況を作ったのは俺なのか? その言葉に恐怖して、動けなくなる。

『失敗するかもしれないぞ? すべてを失うかもしれないぞ?』

 そのとき杏子の言葉が頭をよぎった。そうだ、あのとき俺は杏子になんて言った? 俺は自分と目に写る他人も皆助ける選択をし続けると言った。それはまぎれもなく俺の意志だと。あきらめるのか? 今みたいに暁美の呪いに屈して俺は自分の意志を裏切るのか? そんなのは、いやだ。それは杏子に対しての裏切りにもなってしまう。だったら、立て。お前は今そうやっている場合じゃないだろう――――!!

 俺は飛び出す。巴先輩のもとまでかけつけようとする。だが、俺と怪物じゃ、圧倒的に距離の差がある。この手が届く前に彼女は飲み込まれてしまう。やめろ、やめてくれ。

「やめろーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 俺は怪物に対して言っているのか、この世界全てに対して言ってるのか分からず、ただ獣のように吠えた。

 

 カチリ、と音が響いた気がした。

 


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