久しぶりの休日で、一気に書き上げましたので、拙いと思いますが見てください。
それはそうとFGOを9月の頭に始めました。
その為にスマホに変えましたが、仕事の合間にも出来るので非常にいいですね、アプリゲームって。
なんか凄い評価悪いですが、アプリゲーム自体が初めてなのでそれなりに楽しくできています(微課金から目を逸らしつつ)
徐々に改善しつつありますしね(改善したとは言っていない)
まずは校舎の中を見学させてもらい、そしてそれから外に出た。
やはり魔法学校とも昔の校舎とも違う、陽の良く当たる何とも趣のある校舎が良い感じだ。
それに擦れ違う人達も笑顔に溢れ、見る限りでは陰湿な雰囲気は感じられない。
「う~ん、なんかさ、良いよね」
姉さんもここの雰囲気は気に入ったのか、笑顔でそう言う。
私もそれに賛同して頷く。
「それにしても部活かぁ。向こうでは一般的なクラブ活動さえなかったから新鮮ね」
あったとしても、魔法関連なのでお察しである。
今日は休日なので、偶に見学した部室や、こうして歩いていると見かける部活動の姿がまた新鮮である。
「向こうでは習い事としてしかなかったからね。姉さんはなにか入りたい部活とかってもう決めてあるの?」
「んー。剣術は続けるとして、向こうで出来なかった青春を謳歌したいよねー」
どうやら特に決まっていないみたいだ。
しかし青春と来たか。
仲間内で割とはっちゃけていた記憶があるのだけど、あれでもまだ姉さんの中では抑え気味だったらしい。
きっと両親の目がなくなるこっちではよりパワフルに私を引っ張りまわすのだろう。
…いや、姉さんの事だから多くの友達が出来て、もしかしたら私に構っている暇なんてないかもしれない。
そう考えた瞬間に生じた妹としてのジークルーネのもやもやとした胸の内のざわめきは、いつも通り胸の内に仕舞っておく。
こんな醜い嫉妬は、蓋をして見ないようにしないと。
でないと
「ん、どうしたの?」
けど、私の様子を察した姉さんに顔を覗きこまれるが何でもないと言って首を横に振る。
「ならいいんだけど。そう言えばルーネはどうするの?」
「んー」
実の所、まったく決められていなかったりする。
正確に言うならば決めかねていると言った所か。
麻帆良ならば部活動が豊富なため剣道や剣術の部活動もあるし、様々なボランティアも行っていると聞く。
剣術はやっておきたいし、ボランティア活動もやっておきたい、さらに前世で取れなかった資格なども色々と取っておきたい。
「まだ、考え中かな」
「そっか、楽しみだね」
姉さんは笑顔でそう言って、どこに行こうかと相談を始めた。
麻帆良ははっきり言って広い。
一日二日で回りきれるものじゃないし、楽しく見て回るのなら一週間でも厳しいだろう。
日程の関係上、五日間しか見て回れない以上、行く場所を絞った方が効率的だ。
「剣道場は行っておきたい」
「あ、ここの通りって小物系のお店が沢山並んでるんだって。後で一緒に見に行こうね」
「図書館島、物凄い蔵書数だっていうけど、どんな所なんだろ」
「こっちは有名どころが集まった人気のスイーツ店だって、今から楽しみ!目指せ制覇!」
どちらがどんな台詞を言ったのかはお察しである。
「あ、教会もあるみたいだよ。行ってみようよルーネ」
「うーん」
「大丈夫だって。見に行くだけだから、ね?」
姉さんはそう言ってくれるが、私の趣味と彼等の祈りを一緒にしたら悪いだろう。
神父さんやシスターさんはある意味で仕事で、そしてその信徒達は真剣にお祈りをしているのだ。
祈る神様も違うし、祈りの意味も彼等とはまったく違う。
「ルーネは真面目だねぇ」
ため息を吐かれてしまった。
うーん、こういう区分別けは割と重要だと思うのだけど。
特に宗教関係は。
宗教関係に立ち入るのは非常に面倒なのだ。
特に信仰に身を捧げるような所は非常に厄介だと言えよう。
下手をしたら明日の朝日を拝めないと言う危険が。
まだ体験したことは…あるかもしれないのが前世持ちの怖い所。
テロも宗教関連が絡んでいることが多々ある。
が、それとは別に、見に行ってみたいと言う好奇心もある。
実際の教会って、見に行こうと思わなければ外観はともかく、内装は見ないものである。
「まあ、見に行くだけなら、いいのかな」
そう言うと、姉さんは嬉しそうに頷いたのだった。
さて、こうして教会へと行くことが決まり、教会へと足を運んだわけだけど、特にこれといった変わった事はなかった。
ただ、どうしてか教会の中には誰も居なかったが。
失礼だと思ったが、中を見るだけなのでお邪魔させてもらう事にした。
麻帆良がここまで大きいのだから、内装も派手なのだと思っていたが、教会の内部は質素で、けれどそれぞれ掃除が行き届いており、ステンドグラスから零れるような陽の光が室内を温かく見せている。
教会の一番奥では聖母であるマリア像が静かに建っている。
それを、思わずほうと感嘆に近い気持ちで息を吐いた。
そう言う視覚効果が表れるよう作ってあるのだろうし、もっと荘厳な場所もあるのだろうが、けれども私はいまこの光景に見惚れていた。
確かに、これならば思わずお祈りをしたくなるのも分かると言うものだ。
思わずキョロキョロと見回してしまう。
「ねっ、ねっ、今なら人が居ないからさ。懺悔室とか入っちゃう?お姉ちゃんが何でも聞いてあげるよ」
「だぁめ。そう言うのは神父様のお仕事だよ。それに、どう考えても姉さんは懺悔する側でしょ?」
「あっ、ひっどーい。お姉ちゃん怒っちゃうよ」
姉さんが可愛らしく怒ったふりをするが、事実だから仕方ない。
「去年のチョーク精霊化暴走事件」
「うぐっ」
「その半年後の雪だるま暴走事件」
「そ、それは私だけじゃないしセーフ?」
「夏の肝試しやりすぎ事件」
「…むぅ、はいはーい、はんせいしてまーす」
どれも悪戯が過ぎて怒られたのは記憶に残っている。
特に肝試しは失神する子まで居たのだから。
だからか、その件に関しては姉さんは非常に反省しており、そこを突かれると拗ねて可愛らしい姿を見せる。
ただし、やりすぎると手痛い反撃をいつものようにくらうので注意されたし。
そんなやり取りをしながら、休憩がてら長椅子に座らせてもらう。
そしていつものように益体も無いやり取りをしていると、ここのまだ若い黒人のシスターと思わしき人物が何処か疲れた様に教会へと入ってきた。
「まったくあの娘は、どうしてああも悪戯が過ぎるのでしょうか…」
こちらには気付いていないのか、頭を抑えながら愚痴めいたものを言い、ようやく自分を見つめる視線に気づいた。
「あ、あら、ごめんなさい。お客様がいらしていたなんて」
視線に気づいた途端、愛想笑いを浮かべながら私達に近づき、視線が腕章に行く。
彼女は少し驚いたような顔になり、なるほどと納得したように頷き、嬉しそうに笑い掛けてきた。
「貴女達が見学者であるキルヒアイゼン姉妹ね?」
「え、あっ、はい…」
予想外な反応に、私が目を白黒させていると、その様子がおかしかったのかシスターはクスクスと笑って自己紹介をしてきた。
「ごめんなさい、私はこの麻帆良の教会でシスターをさせてもらっているシャークティと言います。ご免なさい。少し、用事があったからここを離れていたの。よろしくね、可愛い魔法使い見習いさん達」
そう言ってウインクして見せるシャークティさん。
それは失礼ながら、とても可愛らしいものだった。
「私達が魔法使い見習いだって知っていると言う事は、もしかして…」
「そうね。私は魔法使いでもあるの。だからもし貴女達が入学することになって、困ったことがあったら何でも言ってね?」
「はっ、はいっ」
教会の人間が魔法使いやって良いのか?という言葉は飲み込んでおいた。
時代が変われば考え方も変わる。
そういうものだと納得しておくことにした。
「それで、今日は教会を見学に来てくれたのかしら」
「そうなんです!妹は実は信心深くて、だからお祈りできる場所があるならってここに立ち寄らせてもらったんですよ」
「えっ、ちょっ、姉さん?」
「まあ、そうなの?」
姉さんがいきなり妙なことを言いだすと、シャークティさんは嬉しそうに顔を綻ばせ、私へと確認してくる。
「あっ、いえっ、違くて。いや、違わないですけどっ。その、しゅ、趣味みたいなものでして、作法も知りませんし、祈る対象も何というか、大切な人たちの無事を、元気でいてくれたらいいなって、そんな事を何に祈るでもなく祈っているって言うか。…あれっ、祈ってない?けど元気でいて欲しいから…」
いきなりの展開に頭が混乱して、自分でも何を言っているのか解らなくなってきた。
突発的な事に弱いのは前世から変わらない短所だったりする。
「ふふっ、いいんですよ。祈りの意味は人それぞれですし、作法も最近ではかなり緩和されてきて、特にこれといったものも無くなってきていますから、例えば宗教そのものが違ったとしても、気軽にお祈りに来ていいんですよ?」
「あ、そう、なんですか」
ホッと安堵の息を吐いた後、ふと何故か私がこの教会でお祈りをする話になっている事に気が付く。
え、なんでそんなことになってるんだったっけ。
元凶の姉さんを見ると、シャークティさんに見えないようにしてやったりと笑っていた。
さっそく仕返しをされていた。
うーん、別に、一日の終わりに祈るのが習慣になっているだけで、特に場所や時間といった拘りはない。
だけどやはり知らない人に見られると言うのは気恥ずかしい。
なのでやはり断ろうとしたのだが、何故か姉さんも加担してあれよあれというまに、麻帆良に合格して、麻帆良で暮らすようになったら、強制的ではないがお祈りやミサに参加することになってしまった。。
姉さんの口車に乗ってしまったと言うのもあるのだろうが、一番はシャークティさんが嬉しそうだったのが理由だろうか。
なんでも麻帆良では信者の数が他と比べると少ないらしく、週末のミサなどを開いてもガランとしていて困っていたらしい。
「けど、それって割と良い事なのかもしれませんよ?」
何となく、思ったことを口に出した。
私のその言葉にシャークティさんは小首を傾げる。
「だって、それだけ神様に祈らなければならないことが少ないって事なんでしょう?」
だって、それは自分達の力で幸せになろうとすることが出来ると言う事ではないだろうか。
まあ、さっきシャークティさんが言ってたように、祈る理由は千差万別。
だけどまあ、そんな理由の方が私は素敵だと思うのだ。
夢があっていいじゃないか。
「――そうね。そう考えたらとても素敵ね」
シャークティさんはそう言って微かに笑った。
きっと私の詭弁なんか理解していての返事なのだろう。
まったく、やはり自分は不器用だと認識を新たにした。
そしてその後少しだけ話をして、シスターシャークティと再開を約束して別れた。
◆◆◆◆◆
「その方が素敵、か」
双子の姉妹と別れた後、シャークティは一人呟いた。
不思議な感じの姉妹だったと振り返って思う。
姉の方は悪戯好きな自分の教え子に少し似ていたが、妹がミサや礼拝に参加すると言った時には嬉しそうな顔をしていたことから、あの娘も根はやさしい娘だけれど、やっぱり違うと感じさせられた。
そして妹の方も、信心深いのはいいのだが、やはりどこか違う。
自分でも詭弁だと分かっているのに、そうであってほしいと何処か夢見るように、祈るようにそう言っていたのが印象深かった。
もしも本格的に神学校に通うと言うのなら、良いシスターになるだろう。
だが宗教家に在りがちだが、同時に、だからこそもしも彼女の中の確固としたものが崩れた時、彼女が危険な方へと向かわないか心配だ。
狂信者とは、確固としたものを持たぬ者、或いは失った者が現実から目を背け、それを自覚せぬまま信仰にのみ縋った先にある破滅なのだから。
信仰とは縋るものではなく、あくまでも心の支えにするべきもの。
それは履き違えれば、容易く人は破滅へと落ちてしまう。
だからこそ、彼女がそんな道へと進まぬよう、自分が彼女を導きたいとシャークティは考えた。
「私があの娘の担当になれればいいんでしょうけど…」
だがそれは難しいだろう。
将来有望と言う事で彼女達を師事したいと言う魔法教師は多い。
それに、最終的に決めるのは学園長だ。
最初から希望していない彼女に師事のチャンスは巡ってこないだろう。
それに未だに未熟な彼女は自分の悪戯好きな教え子すらまともに師事できていない。
そんな自分が師事できる確率は少ないだろう。
「だからせめて――」
無力な彼女はせめて主に祈りを捧げる。
どうか、彼女達の道が主の慈愛に満ちていますように。
数日後、駄目もとで頼み込んで、学園長から簡単に許諾を貰った時は唖然としたそうだ。
実はシャークティはジークルーネの担当魔法先生候補の筆頭だったのだが、それを知らない彼女は心底驚かされたそうだ。
こうして、思わぬ形でジークルーネの担当が決まったのだった。
◆◆◆◆◆
それから私達は、短い期間ながら様々な場所を廻った。
そこではもちろん魔法使いの人も、見習いの人もいたし、一般の人でも変な人はいた。
だが基本、当初感じた麻帆良の気質通り、明るく輝いたものだった。
世界樹広場を見たし、色んな店を見て回り、着せ替え人形にされたし、姉さんに見合うものを選ぶために無い知識を総動員した。
図書館島ではあまりの蔵書に驚いたし、一緒に廻ったスイーツ店はなんだかんだ言っておいしかった。
剣道場では無闇に参加しないよう姉さんに言い含めていた私が彼、彼女らの熱意に負け、ついついドイツの剣術を披露してしまったのは、まあなんというか恥ずかしいものだったが。
無論、飛びぬけた才能を持つ子がいた訳でもなかったので負けなしだったが。
普段着のまま剣術をしていて、何故か男の子達が騒がしかったのでなんだと不思議に思っていたら、慌てた様子の女子や姉さんに止められた。
なんでも、思いっきりスカートが捲れていたとか。
うーん、その程度の事で大騒ぎか、やっぱりまだまだこの時期は子供だなあ。
という事を言っていたら姉さんから叱られた。
女の子として恥じらいが足りたいと力説された。
そ、そうだろうかと自分に問いかけるが、別にこのぐらいの年頃ならば適正な振る舞いではないだろうか。
確かに淑女の振る舞いではなかったかもしれないが。
私がそう言って反論すると、姉さんは首を振って言葉を続ける。
曰く、貴族の令嬢たるものいついかなる時でも優雅にしなければならない。
自分が出来ていないと言う反論は受け付けなかった。
曰く、ルーネの下着を見た男の子達は、父さんに殺される。
あの優しい父さんがそんな事をするわけがないというと、姉さんは首を振ってそれを否定した。
曰く、母さんが怒る。
…こうかはてきめんだ!
母さんが怒ると凄く怖い。
それは家族全員の共通認識だった。
さらに稽古代わりに続けようとしていたけれど、この一言で気が変わった。
男女ともに惜しまれながらも道場を後にし、今日はそのまま運動部関連を少しだけ回って、今日はお開きとなった。
そして麻帆良滞在最終日、姉さんとはぐれた。
迷子ではなくはぐれたのだ。
割と重要だからもう一度言うが、迷子ではなくてはぐれたのである。
姉さんも私も、最終日だからか、名残惜しげに各所を見て回っていて、気もそぞろだったのが原因だったのだろう。
私がアクセサリーショップのショウウインドウから見えるアクセサリーで姉さんに似合うものを見ていた間に、姉さんが何処かに行ってしまったのだ。
それならそれで、携帯なり念話、パクティオーカードなりを使用して合流すればいいのだろうけど、魔法の杖もパクティオーカードも、携帯も全部ホテルにおいて来てしまった。
だが、心配はいらない。
元々、はぐれた時の合流地点は世界樹広場と決まっているのだ。
それならば目立つし迷うことなく合流できる。
もうそろそろ日が暮れるから、夜になる前に合流したい。
そう思って歩き出した時、ふとある光景が目に付いた。
徐々に日が暮れてきたグラウンドで、ある一人の少年がただ無心に高幅跳びをしていた。
少年には高すぎるのだろう、そのハードルを越えようとしては越えられずバーにぶつかり、それを直してさらにやり直すを繰り返していた。
ただそれだけの光景。
陸上部の少年が頑張っているだけの、それだけの、筈なのに。
目が離せないのは何故だろう。
言葉も無く、ただそれだけを見つめ続ける。
赤髪、いや夕日と同じ色をした赤銅の髪の少年は、諦めることなく数十分、一時間、いや、それ以上の時間をただ駆けて飛び、それと同じだけの数を失敗し、しかし決して諦めることなく次の準備をして、そしてさらに失敗を重ねていく。
何度も失敗して辛いだろう、心は諦めを促し始め、息も上がり、体は徐々に鈍り始める。
だというのに、諦めずにただ飛び続ける少年。
なんでこの人はこんなにも諦めないのだろう、そう思ってずっと見ていて、ふと気づいた。
この人は、きっと諦めない人なのだろう。
結局、数時間たって少年は飛べないと納得したようで、疲弊した体に鞭打ちながらもマットなどの道具類を片付けて満足気な顔で、見ていた私に最後まで気付かず帰って行った。
私は酷く茫洋とした頭でそれを見送り、いつの間にか陽がかなり暮れていることに気付いた。
なので急いで世界樹広場まで走り、心配していた姉さんと合流した。
そして一緒にホテルへと帰っている途中、姉さんは私の顔を見て不思議そうな顔をした。
「ねえルーネ、私とはぐれてる間に何かあった?」
「――別に何もないよ」
「ホントに?」
「ないってば」
「ホントのホントに?」
「ホントのホントに」
「ホントのホントのホントに?」
「…姉さんしつこい」
そんなやり取りを何度も続けながらホテルへの帰り道を行く。
けどそんな道中でも、あの夕焼けの中で諦めずに頑張り続ける少年が頭から離れなかった。
どうしてだろう、本当に別に何もなかったのに、一瞬言葉に詰まったのは。
どうしてだろう、走った後の動悸はもう収まったのに、何故か胸の鼓動がいつもより少しだけ速いのは。
どうしてだろう、さっきの少年の横顔が頭から離れないのは。
トクトクと少し早い鼓動を刻む心臓に手を当て、この感覚の名前を探るが、こんな感情は初めてで、
理由も解らないままホテルに帰り、結局理由は解らないまま学園長へ挨拶をして腕章を返して、ドイツへと帰ったのだった。
その後、帰ったら家族全員に何があったとしつこく聞かれることになるのだが、この時は当然だがまだ知らなかった。
因みに、何故か父と祖父の男性陣は殺意を迸らせ、母と祖母は微笑ましい者でも見るように微笑み、姉さんは数日間拗ねていた。
まるで娘に彼氏が出来たかのような反応に、私は困惑するしかなかった。
そんなまさか、ねえと誰に言うでもなく確認するが、もちろん口には出していないので誰も答えてくれない。
ありえないありえないと首を振ってその考えを掻き消した。
だって私が愛してしまったのは絶対会えないベアトリスで、もうこれ以上誰かを好きになることなんてもうないって、そうわかっていたから。
だから、まだ幼いジークルーネとしての私の想いから、必死に目を背ける。
女性としての愛情を抱いてしまったなんて、気が付きたくなかったから。
◆◆◆◆◆
とある郊外の、人気がない森の中、突如として空間に紫電が走ると、1組の男女が忽然と現れた。
一人はまだ幼い少女と言っても良い年の女の子で、恐らくアジア系なのだろう、黒目黒髪で整った顔立ち、両の髪をお団子状にして、そこから編んだ髪がチャームポイントだが、特殊なボディスーツがそれらを台無しにしていた。
そしてもう一人は180を超える身長に浅黒い肌、そして鋼を思わせる髪に瞳、そしてアジア系の顔立ちで、赤い外套が特徴的な男性が微かに苛立った様子で腕を組み目を閉じている。
「ふむ、どうやら成功ネ。場所も時間軸も予定通りヨ」
「…それは結構な事だ」
「おや、随分と不機嫌ネ。折角世紀の大実験に成功したと言うのに」
「…君には関係ない事だが、誇りも何もない身ではあるが、最低限の守るべき矜持というものがあるのでね」
「ホウ、つまり私はあの噂に聞く英雄殿の矜持に降れてしまったと言う事カネ?」
少女の言葉を聞き、男は呆れた様に溜息を吐いた後、少女を諭すように言葉を続ける。
「まったく、何を聞いていたのだ、君には関係ないと言っただろう。そもそも、今回の君の依頼を、内容を知った上で引き受けたのは私だ。その時点で責任の全ては私にあり、さらに言えば私が勝手に苛立っているだけで、君が気に掛けるほどのものではない。最後に、私は英雄などではないと何度言えば解る」
赤い外套の男の言葉に、少女は呆気にとられたように目を見開くと、徐々に言われた言葉が頭に浸透していき、途端に吹き出すように笑い出した。
その突然笑い出した少女に男は訝しげな視線を送る。
だがそんな視線にも目もくれずひとしきり笑った少女は、笑いすぎで呼吸困難に陥りそうになりながらも、そう言えばこの男には出発前から似たような言葉を言われていたと思い出した。
君のような少女にはこのような大任は務まるまいとか、他の者達は随分と臆病者ばかりらしいとか、私に全てを任せて君は後方支援していればいいなどなど、ここに来るまでに随分と皮肉を言ってくれていたが、どうやら何とも不器用な気遣いをされていたらしい。
少女はその時は嫌味な男だと、この大任の同行者に対して不安に思っていたが、思い返してみればすべて中学生にも満たない年頃の少女の心配をしていたのだ。
能力面で不安を抱かれるのは些か以上に不満だったが、これからの働きで見返してやればいいだけの事。
あまりに笑いすぎた所為か、男は子供っぽくムッとしたような顔で少女を見ていた。
それに謝りながら右手を差し出す。
「いや、スマナイネ。ちょっと笑いのツボにはいってしまってネ」
男は驚いたように差し出された右手を見て少しだけ固まり、観念したように少女と握手を交わす。
それを見て少女は満面の笑みを浮かべ、今後の予定を話し出す。
まずはしばらくの宿と、偽造の履歴も必要だし、現地での協力者も必要だと必須事項を延々と話し出す。
それを、赤い外套の男は複雑そうに見ていた。
なぜならば少女と男の目的は、実の所違うものだからだ。
確かに世界の危機ならばそれを救うために手を貸そう、だが、男の本当の目的は、それらとは一切関係の無いものなのだから。
少女に嘘を吐いている身としては少しだけ罪悪感があるが、それでも譲れない物の為にその心を殺して少女を騙し続ける。
そして目的を遂げたその結果、自身の身になにが起こるか想像もつかない。
良くて平行世界の出来事として扱われ、最悪自身の消滅だろう。
だが、そんなものがどうだというのか。
偽物の自分をあの日救った少女を、あの輝く星のような少女を救えるのならば、例えこの身が露と消えることになったとしても構わない。
それが怨敵の目的を打ち砕くのだと信じてただ動くのみ。
そうして、赤い外套の男は麻帆良の空を睨むように見る。
「見ているがいいカール・クラフト。貴様の姦計を乗り越えるために来たぞ」
例え彼の者に届かなくとも、諦めなければいつかは星に届くのだとかつて教えられたから。
こうして無様を晒したとしても、いつかの少年はこうして青年となり、かつての少女を救いにやってきたのだから。
◆◆◆◆◆
そしてその視線の先に、それら全てを見つめる一つの影法師があった。
影は麻帆良のはるか上空、異なる位相からその光景を
『此度の経験で彼女が得たものは、己が胸を再度焦がす憧憬か、或いは…
だが彼と彼女は未だ出会わず、ならば相応しき出会いの時期は、そう、誰もが等しく新しい出会いを迎える季節である春としようか。
黄昏時に染まる教会の中、そこで彼は目指すべき綺羅星を見つけ、彼女はその鎧を剥がれ、人へと落ちるのだ。
少年は指針を見つけ歩みを止めぬ英雄となり、無自覚なる戦乙女はその情念のままにそれを支えるだろう』
そして影法師はついと視線を動かし、男の方角へと視線を移す。
『それにどうやら、思わぬところからエキストラも来たようだ。英雄の子孫と幾多の戦場を超え英雄となったが、輝ける星を失った青年。この2人の参加がこの歌劇にどう影響するのか』
影法師は
すべては今も昔も変わらず女神の為に。
いつかそれが女神の為になるのならば、この歌劇を何度でも繰り返そう。
その為の舞台装置の一つは、思わぬところからもたらされたのだから。
故に文字通り時を越え、幾多の平行世界を超えて望む歌劇を。
『幾度でも、幾億度でも繰り返そうではないか』
その未来の果てに、影法師は輝ける未来が待っていると信じているから。
筋書きは未定で主演さえも未だに未熟、だが、幾多の試練を乗り越えて、きっと素晴らしいものになると信じている。
それこそ、彼の恐怖劇を乗り越えた彼等のように。
影法師は信じ続け、待ち続ける。
それこそ何年も、何十年、何億年だろうが。
そして繰り返し続けるのだ。
それこそ何度も、何十度も、何億度だろうが。
今度こそ望んだ歌劇を見る為に。
安定の高幅跳びフラグ。
こいつ、メスの顔してやがる(ゲス顔)
そして赤い外套の男、一体何者なんだ…
因みに彼は守護者ではありません。
そもそもそんなシステム自体がないですから。
なのになぜ少女と知り合いなのかというと、それは秘密です。
遅くなるかもしれませんが、いつかは明かされると思います。