ハイスクール・イマジネーション   作:秋宮 のん

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ちょっと、執筆のリハビリで書いた短編です。
5話くらい出そうと思ってます。


おまけ編 【作者リハビリ短編】1

1.とある町の九曜(お姉)さん

 

 東雲(しののめ)神威(かむい)の能力によって生み出された闇御津羽神(くらみつは)の式神、九曜一片(くようひとひら)は、毎日夕方頃に散歩をする習慣がある。日が沈み始め、夜の時間が訪れる逢魔が時、日本神話が出自の九曜にとって相性がいい時間帯なのかもしれない。

 新しい主である東雲カグヤは、あれで忙しい生活を送っている。義姉である東雲神威の帰ってくる場所である自宅は、神社を改装したお屋敷状態になっていて、義姉弟(きょうだい)二人で暮らすには広すぎる。電気もガスも通っているのに、風呂は薪を焚いて温める仕掛けだ。庭には神威の趣味で作られた畑があり、神威がいない間はカグヤが面倒を見ている。炊事、掃除、洗濯、おまけに家計簿に至るまで、全てがカグヤ一人の手に委ねられている。昔からやって来たことなので、特に苦を漏らすことのない主だが、サボり下手なところがあって、少し心配にもなる。人の目がないと張り切る割に、人の目があると面倒くさがるので、九曜が来てからは、適度に自分が干渉して休ませるようにしていた。

 とは言え、下界に降りられる機会の少ないイマジン体(九曜)は、特別な許可が下りている内に、せめて、主の家の周辺だけでも見ておきたいと思ってしまう。最近は特に、()()()()()()()を見るので、余計に気分転換をしたくなってしまう。今日の散歩も、そんな気分で行われたいつもの光景だった。

 だから、いつものようにぶらりと歩いて、いつものように早めに帰って、いつものように主の笑顔に出迎えてもらうのだ。そう思って踵を返し、帰路に着こうとした。

「ぐすっ……ひっく……」

 ―――着こうとしたのだが……、よもやその辺の道の端、建物の陰で蹲って泣いている子供が目に入ろうとは思わなかった。

「………」

 さてどうしたものだろうと考えてしまう。

 イマジン体、闇御津羽神、固体名:九曜一片として、自分の設定された性格上、主以外の存在には基本冷徹で関心が薄いとされている。しかし、どうにも固体として生活する上で、多少の罪悪感のような物を獲得してしまっているらしい。明らかに迷子ですと主張する三角座りスタイルの幼子に、見て見ぬふりをしたくない。

 下僕としては失格だ。そう溜息を吐きながら、九曜は幼子に近づく。

 金色の髪をした10代未満と思われる幼女は、スカートから盛大に下着が見えてしまっている座り方をまったく気にしていないらしく、羞恥心の目覚めもまだ怪しい年齢のようだった。そんな相手にどう声をかければいいかと少し悩み、瞬時に頭を振った。

 関わるとは決めた。だから速やかに終わらせる。でも、言葉や対応を選んでやる気はない。

「そこな女童(めらわ)、家は近いのかしら?」

「Hi……っ!?」

 短い悲鳴を漏らす幼女に対し、一瞬首を傾げてしまう。気を使っていないので怯えるのは分かるが、どうにも発音が高すぎる気がしたのだ。

 疑問を脇に置きつつ九曜はさらに続ける。

「迷子ならおうちに帰る手伝いをしてあげるわ。それ以外に何か困っているなら速やかに答えなさい」

 泣きだしたらどうするかと言われそうだが、泣いたら泣いたで、その涙を拭って、その水滴からある程度簡単な情報を読み取ることができる水神なので、あまりその辺は気にかけないことにした。主でもない者に、優しくする必要は全くないのだ。

 ところが、泣き出すかと思われた幼女は、以外にも泣き止み、代わりにきょとんとした表情で自分を見上げてくる。おまけに開いた口から飛び出した物は―――、

Who are you(フー ア ユー)?」(アナタは誰?)

 英語だった。

 納得と呆れに額に手を当てて軽く仰ぐ。

 少し妙だとは思っていたのだ。この辺は民家だ。少なからず人はいる。なのに迷子の子供がどうしてこんなところに一人ぼっちで取り残されることになっているのか? つまり言葉が通じず誰も相手できなかったらしい。

 これはもう仕方がない。

 九曜はそう溜息を吐いて、彼女の頭に無造作に手を置くと、半分怯えてびくつくのも構わず優しくなでてやる。

 翡翠色の瞳を見開いて固まっていた幼女も、次第に優しくされていると気づき、安心したのか逆に泣き出してしまう。

 構わずしばらく撫でていると、幼女は泣き止み、その手を掴んしがみついてくる。

I want to go home(アイ ワント トゥ ゴー ホーム)」(家に帰りたい)

 見上げながらそう言ってくる。

 九曜たち、イマジン体に外国語ができるのかと聞かれれば、「できる」っとは断言できない。イマジネーターと同じで、ある程度、言語情報を獲得できなければ言葉を理解するには至らない。そして九曜は英語など習った覚えがない。

 まあ、それでもこんな簡単な単語なら分からないでもない。

 なので速やかにその願いを叶えることにした。

 九曜は彼女の手を取り、自分の懐に抱き上げると、驚く彼女を無視して飛び上がり、近くの家の屋根の上に着地する。

「っで? 何処かしら?」

 目をパチパチさせて驚く幼女に、九曜は軽く揺すって返事を促す。気が付いた幼女が辺りを見回すが、見覚えのある光景が近くにない様だ。

 適当な方角に向けて軽く飛ぶ、神気を纏い、重力を低下させて、ふわふわした跳躍で周囲を跳び回る。まるで空中メリーゴーランドのような乗り心地に、幼女の機嫌はあっという間によくなり大はしゃぎである。

「はしゃいでないで家を探しなさい」

 

 

「クヨウ! クヨウ~~ッ!!」

 幾日後の逢魔が時、またもや日課の散歩をしていたら名前を呼ばれ、腰のあたりに幼女がしがみついてくる。迷子の一件以来すっかり懐いてしまった異国の幼女。未だに名前を覚える気がない相手なのだが、どうにも好かれてしまったらしく、見かける度に懐いてくる。

 英語で話しかけられるうちに、言語を理解できてしまったので、『話せる』っと言う理由もあるのかもしれないが、正直面倒だとは思ってしまう。

 そう、面倒だ。具体的にどう面倒かと言うと……、ただ歩いているだけで、自分の周囲に幼子の集団ができてしまうくらいに面倒だ。

 迷子の一件以来、夕方にだけ現れるレアなお姉さんが、幼子に早く家に帰るように促してくれる。泣いてる子を慰め、怪我した子をおぶさり、速やかかつ迅速に帰宅させ、お礼を聞かずに颯爽と立ち去る。そんな噂ができてしまっているらしく、今や自分は幼子たちの人気者(レアなマスコット的)な存在らしい。

「どうしてこうなってしまったんでしょう……」

 嘆息しつつ、彼女は集まった幼子を家に帰していく。文句を言いつつ、一人一人丁寧に。

 

 後々、このことを知った神威は九曜に対してこんなことを言った。

「好いてくる相手に面倒見が良くなるのは、妹弟(カグヤ)の影響だろうな!」

 可笑しそうに笑う創造主に、九曜はこっそり心の中でだけ付け足した。

 

 それ、アナタも同じよ。

 




ともかく短くするつもりでさっと書き上げました。
思わず情報量モリモリで書きそうになって、必死に削りました。
短編じゃなかったら、もう少し幼女ちゃんに喋らせたかったね。

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