うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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84話 ロケット団繁盛記 復讐鬼達の中で

 

 

なんとかあいつらに囲まれた状態からは逃げる事が出来たものの……逃げの采配として取ったこの手段は

どうしてもドレディアさんの出し入れに手間が掛かり、付かず離れず程度の速度しか出す事が出来ない。

 

「くそっ、さすがにこの限界じゃ逃げ方として限界があるか……!」

 

パシュゥン

 

「ディァ……!」

 

ブゥンッ

 

よし、次はあの枝……──

 

「───ッ!?」

 

しまっ……! 着地箇所と足にズレが……ッ!?

 

 

「うぉぉぁあぁあああーーーーッッ!?」

「ディァー!?」

 

いくら人を支える程度に頑丈な枝とはいえ

幹から飛び出た横っ面が支点である宙ぶらりんな足場では、微妙な反動の誤差が出る。

 

故に、そこまで想定しきれず足を滑らせてしまった。そしてかなりの高さから落下してしまう。

 

ッドスン。

 

 

「ぐ……おぉぉ……ッッ!」

「ディァー!? ドレーディァッ!?」

「……ッ、大丈夫……」

 

 

───こっちだー!! 上から落ちてんぞー!!

 

 

「……痛がってる暇も無いってか、クソッタレ!」

「……!」

 

100m程先にロケット団の一人が見える……あいつらは固まって行動してるはずだから

アイツを始点としてすぐにこちらにドッと押し寄せてくるだろう。

急いで逃げなくちゃ───

 

ッドゴォ!!

 

ギギギシギシギシ、ズーン  ……......

 

「ド、ドレディアさん……?!」

「─────。」

 

ドレディアさんは俺が落下した木を殴って折り、()ぎ取ってそれを持ち抱える。

 

「駄目だッ!! いくら武器を持ってもこれじゃ多勢に───」

「─────ディ……ァァァァァァアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーーーーッッッ!!」

 

俺の説得を無視し、ドレディアさんは折った木をあいつらが居る方向へ槍投げの型でぶん投げた。

 

「なっ……」

「ちょっ……」

『ウァアアアアアァァァァァッッ!?』

 

 

向こうから木が木にぶつかる破砕音が聞こえてくる。

そして悲鳴を聞く限り数人+その手持ち単位には巻き込まれていると思われた。

 

「ドレディアさん……! よくやってくれた、今のうちに─────って、ちょ?!」

「ッディァ!」

 

あちらの阿鼻叫喚を確認した後、ドレディアさんは俺を抱え上げる。

俺の抗議から暇も与えず、投げ───る、と思ったらそのまま走り出した。

 

「ッ! そうか、よし……このまま頼む!」

「ディァッッ!!」

 

完全に動揺してしまっていたらしい。

あいつ等に遭った時点では、周囲が完全に囲まれていた。

故にこの方法も最初こそボツ案だったが……。

 

しかし一度包囲網から抜ければ、敵が居ない方向がある。

俺を抱え上げたとて、ドレディアさんが一人で走った方があいつらより速い。

 

だが後ろのあいつ等も、意外過ぎるほどに建て直しが早く

またこちらに向かってポケモンを繰り出してきた。くっそ、トラブルに手馴れてやがる……!

 

しかも素早さ重視の編成である。

マルマインを先陣に、ペルシアンにブニャットとどんどん獣っぽいポケモンがこちらへ殺到する。

 

 

「ドレディアさん、行けるか?」

「……、ディ、ア!」

「……!?」

 

いけると返答をもらったが、返答がいつも通りではない。

瞬時になんらかの異常を抱えている事がわかった。今までのを思い返すに……どこで何が……、ッ。

 

「そうか、俺が一撃貰ったところで……ドレディアさんも何発か貰ってたのか……!」

「ディッ……!?」

 

【なんで分かった】と返してくるドレディアさん。

 

そんなもん決まってんだろう……。

 

「───『相棒』、だからだよ」

「───。」

「……くそ、最善の策は確かにこれしかない……無理させて悪いけど、行ってくれ……!」

「ディァ……!」

 

俺の返答を聴き、ドレディアさんは俺を抱え上げ自慢の素早さを活かし、走り始めた。

しかし単独での早さとは比較にならないほど遅く、せいぜい俺が走る二倍程度の速さだ。

 

ペルシアンもブニャットも、素早さ的には一般ポケモンで考えてもトップクラスに入るはず。

加えて昔からの素早さ代表格、マルマインまでこちらに迫っている。

俺というお荷物を抱えた上では逃げ切るのはきつすぎるものがある。

 

しかし、俺が一緒に走ったところで速攻で追いつかれるのは目に見えている。

そして普段なら最後の賭けのひとつである、俺の時間稼ぎという案も……今ここでは役に立たないのだ。

 

 

何も出来ない自分が悔しいが……

今はこれしかない、突然の奇襲に備えていなかった自分の愚かさに腹が立つ。

今となっては全てが後の祭り……ここからどうすれば逃げ切れるだろうか。

 

 

 

 

~タマムシシティ~

 

歩行者用の通路を、一見すると何がなんだかわからない面子が歩いて行く。

 

ご存知、細マッチョダグトリオ達と地面から浮いているムウマージである。

 

先程弾頭の人員を名乗る人に

 

『急用が出来た、至急こちらに戻ってくれ。俺は手が離せないからこいつらをよこす』

 

との旨を受け、修行場から街に引き返してきたのだ。

 

本来なら彼等も、トレーナーすら周りにおらず

警察に野良ポケモンとしてしょっぴかれてもおかしくないのだが

さすがに二ヶ月近くも滞在していると、その風変わりな格好も相まって

誰が持ち主か、というのはタマムシシティでも周知の事実となっていた。

 

【しかし、我が主は何用であろうな?】

【うむ……皆目見当も付かぬ。主は構想からして突飛であるからな】

【△▲☆★~?】

【突飛と言うのは、あまりにもぶっ飛んでいる考え方や行動を指す言葉である】

【△▲☆★~……】

【うむ、言い得て妙だが……確かに我等が主を示す言葉としては的確であるな】

 

四人で会話しながら街を練り歩く彼等。

最近街に来た者がこれを見たら、別世界の光景にも見えるかもしれない。

 

しかし幸いな事に、そこらに居るのは元々のタマムシ住人達。

異常と感じられる事も無く、主が居ると思われるタマムシの中心部に位置する

地下施設の入り口へと普通にスタスタと歩いて行く。

 

そして不幸な事に、既に彼等の立ち位置は森の異常が耳に届く距離を越えてしまっていた。

ドレディアが決死の力で折った木の音も、投げた音も、破砕音も聞こえない。

 

【───あら? みんな御揃いでどうしたんですか?

 ムウマージさんはともかく、ダグトリオさん達は郊外で修行しているってお話では……】

【ぬ、ミロカロスの大女将(おおおかみ)か】

 

そろそろ施設の入り口に差し掛かろうとしたところで

今朝ポケモンセンターにて、泳ぎに行きたいという主張を通し

タマムシジムまで遊びに行っていたミロカロスが現れる。

 

【ええ、今朝方ぶりですね。おつかいか何かですか?】

【ああ、なにやら我等の主が、修行組の我等を呼んでいるとの事でな。

 今から主が居るであろうあの組織の地下施設に向かっているのだ】

 

代表して答えるダグONE。しかしそれを聴いたミロカロスは違和感を覚える。

 

【……? 私もタマムシジムから街まで戻った後に

 ご主人様が居ないかと思いまして、一度あの地下施設に行って

 今日はご主人様が地下施設に来ていないのを確認しているのですが】

【む……? ではあの組織の施設ではなく、人用の宿に居るのだろうか】

【でも……今日はドレディアちゃんと一緒に行動しているんですよね?

 あの快活なドレディアちゃんがポケモンセンターでご主人様と引き篭もっているとは思えませんが……】

【確かに、そう言われれば納得せざるを得ない。】

【なんせ、『あの』姐御だからなぁ】

【違いない、ハッハッハッハッハ】

 

ダグトリオが、本人達が聞けば殴り飛ばされない内容で笑い合っている中

ミロカロスは更なる違和感を覚える。

 

【…………貴方達は、呼ばれたのですよね?】

【うむ、そうであるな】

【ご主人様に、ですよね。】

【……? うむ、間違いない】

【誰からそれを伝え聞いたんですか?】

【今世話になっている、あの組織の構成員からだな。

 手が離せないから替わりの使いとして参ったとも言っていた】

【……今、私が施設の中にご主人様が居ないのを確認したのに?】

【【【【…………?】】】】

 

それを聞き、皆で顔を合わせる。言われてみれば話の内容が確かにおかしい。

 

手が離せないのに、施設にいない。

もしも施設以外で手が離せないなら、別の場所に居るわけだが

 

 

呼ばれた上で、その別の場所の指定も無い。

 

 

【……どういう事だ? 確かに矛盾があるぞ】

【△▲☆★~……?】

【何故主は我等を呼び出したのだ?】

【これは……どういう事なのでしょう?】

【わ、わからん。そもそも主は今どこにおるのだ?】

【……む、そういえば……?】

 

そこでダグTWOが何かに気付き、全員に質問を投げかけた。

 

【ぬ、どうした二型よ】

【我等に連絡をくれた組織の構成員達は、最近の組織の格好をしていなかったな?】

【……そう言われれば、確かに我等と船で相対した時の服装であったな】

 

ダグONEが思い返すと、何度か戦った際に着ていた黒ずくめの服だった。

TWOとⅢに比べ、ポケモンタワー外でも二度見ているために

ONEの中ではあの格好こそあの組織という概念が存在していた。

 

故に、構成員の格好をはっきりと覚えていたのである。

 

【しかしあの組織は、元の組織の更正という名目があったはずだが。

 その建前があるのに、何故に前の組織の服に固執したのだ?】

【そうだな、故に再編している地下施設では全員普通の人間が着る服に

 黒い色を混ぜたような服になっていたはず】

【……まさか。】

【ダグONEさん? ……まさか、とは?】

【我等に連絡を伝えた遣いは……[弾頭]という組織ではなく[ロケット団]という組織……!?】

【【【【ッ!!!!!!!】】】】

 

 

ここで漸く全員が気付く。連絡自体が『偽報』だったのだ。

 

 

【あ、主は何処だッッ?!】

【ち、地下施設には間違いなく居ません……!】

【ポケモンセンターはどうだッ!】

【そちらはまだ行っていません……。けど、居ない可能性の方が───】

 

 

                                 .........……──ォォ ーン ─......

 

 

【ッ?! まさか今のは爆発音か!?】

【爆発音かはわからんが……何かの破砕音なのは間違いない!】

【△▲☆★ーーー!! △▲☆★ーーーー!!】

 

そしてムウマージが何かに気付き、その手が指す先には……

 

【……ッ!! 二人共、我等に乗れッ!! 今すぐあそこへ向かうぞッッ!!】

【はいっ!!】

【△▲☆★ッ!】

 

自分達が訓練していた森から、鳥ポケモンが一斉に飛び立つ姿だった。

 

ダグ達は素早く他の面子を頭に乗せ

自分の主が襲われていると思われる、先程の修行場へと走り出した。

 

 

 


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